日英同盟召喚   作:東海鯰

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苦渋の転進

神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

 

外務省統括官リアージュは、困惑していた。港街カルトアルパスで開かれていた先進11ヵ国会議、数日にもわたるこの会議は、初日で実務的権限を有している外務官同士で話が行われ、そして最後の2日で外務大臣級会合が行われて正式決定となる。初日でグラ・バルカス帝国の外務担当官があまりのも傲慢な態度を示し、外務大臣級会合前に自分たちの一方的な要求のみ伝え、退席している。しかし、明日も明後日も、重要な会議が控えており、外務大臣の相手も必要なこの時期に緊急会議があるため、帝都ルーンポリスに戻るように司令を受ける。このような重要案件のある時期での緊急会議とは、よほどの事があったのだろう。彼は緊張して、指定された会議室の扉を開ける。

 

「・・・・何故アグラ長官まで?!」

 

扉を開けると、外務省の幹部と軍の幹部、そして国防省のアグラ長官までもが着席していた。根回しも何もないこの状態でこれだけのメンツがそろうのは、よほどの事があったのだろう。やがて会議が始まる。

 

「それでは、これより緊急会議を開催いたします」

 

軍の担当が話し始める。各人にレジュメが配られ、プロジェクターのようなものを起動し、担当者が話を始める。配られたレジュメに、目を配るリアージュ、その中には信じられない記載がされていた。

 

「概要を説明いたします。本日早朝、本国の西方にあるカルアリス地方の群島付近で訓練中の第零式魔導艦隊が正体不明の艦隊と航空機による攻撃を受けつつあるとの連絡を最後に、音信不通となっております。また、同群島にある地方空軍基地も攻撃を受けつつあるとの連絡を最後に、音信不通となりました。陸軍離島防衛隊のみ、通信が出来る状態であり、同所からの報告によると、信じられませんが、敵艦隊及び航空攻撃により第零式魔導艦隊は全滅。空軍基地も敵航空攻撃により全滅したとの連絡が入りました。敵の国旗を確認したところ、グラ・バルカス帝国と断定いたしました」

 

全員に、衝撃が走る。

 

「ちょっと待ってくれ、第零式魔導艦隊が全滅しただと? 彼らは、数は少ないが、新鋭のみで構成された艦隊だったはず。その力も、同数であれば、世界一だ。いくらグラ・バルカス帝国が強かろうが、どれだけ数で押してこようが、損傷ならともかく、全滅は・・・・本当なのかね?」

 

外務省統括官のリアージュは、あまりの情報に説明途中で質問をする。日頃は必ず人の話を最後まで聞く彼にとって、説明途中で言葉を遮って質問に出るほどに同事象は信じられない情報だった。

 

「これはおそらく事実です。今回の敗北は敵艦隊に対し、我が方が少数だった事、また、地方の群島であり、エアカバーが不十分だった事などが可能性として考えられますが、今回の議題はそこではありません」

 

彼は続ける。

 

「陸軍離島防衛隊の報告によりますと、艦隊を破った敵は、離島空軍基地に艦砲射撃を行い、空軍基地を破壊、その後、東へ向かったとの報告があります」

「東!! 東だと!? ま・・・・まさか!!!」

「はい、想定されるのは、我が国の首都ルーンポリスもしくは、先進11ヵ国会合中の港町カルトアルパスです」

 

全員に衝撃が走る。

 

「防衛体制はどうなっている?」

「離島防衛に向かわせていた第4、第5艦隊を、帝都防衛のため、呼び戻しています。帝都は第4,5,6,7艦隊で防衛を行うため、万全といえるでしょう。問題は、港町カルトアルパスですが、現在東方展開中の第1,2,3艦隊をカルトアルパス周辺に展開させるように手配を行っていますが・・・・離島からの距離を考慮すると、敵の方が速くカルトアルパスに到着する可能性があります。今カルトアルパスを守れる艦隊は、地方隊の巡洋艦クラス8隻のみとなります。戦闘型天の浮舟は迅速にカルトアルパス空軍飛行場に移動させますが、艦隊が間に合わない可能性が高い。現在カルトアルパスでは、先進11ヵ国会議が行われているため、外務省統括官の意見も伺いたいと思い、今回の会議にお呼びしました」

 

一瞬の沈黙。

 

「じょ!冗談じゃない!!! 世界最強であり、世界に敵なしと謳われる神聖ミリシアル帝国が、その国の威信をかけて警備を行っている先進11ヵ国会議の開催期間中に、蛮族に攻められ、守り切れないかもしれないので、避難してくださいなどと、言えるものか!!! そんな事を言ったら、文明圏外属国が大量に離反し始めるし、列強や文明圏外国も、我が国を軽く見始める!! 国体や繁栄の維持のためには、強さを見せる必要があるのだ!!! そんな事を各国に伝えるくらいならば、まだ大艦隊に奇襲を受けたと、被害が出てから発表する方がましだ。奇襲を受けて被害が出るならば、まだ各国も対グラ・バルカス帝国でまとまるだろう。攻めてくる事を知っていて被害が出たのならば、各国は我が国をグラ・バルカス帝国よりも弱い国と見るだろう」

 

国防省長官が手をあげる。

 

「外務統括官様、たしかにおっしゃるとおり。今回の第零式魔導艦隊が敗れた事は、想定外であり、恥ずべき事です。ただ、奴らは強い。蛮族と、侮ってはいけない相手だと私は認識いたしました。このままでは、最悪先進11ヵ国会議がめちゃくちゃにされる可能性が高い。各国の外務大臣級がすべて殺されでもしようものなら、何故接近を探知できなかったのか、その方が我が国の能力を疑われます。我が国の能力で、探知できないはずはないと、各国は思うでしょう。わざと攻撃させたとまで考えられるかもしれません。ここは、正直に話し、会議の延期を申し入れ、各国に一時避難を促すべきかと思います」

「国防省長官は、気楽だな。そんな事をすれば、本当に我が国の能力を疑われかねない。艦隊が間に合わないのならば、古代兵器、海上要塞パルカオンを使用する事は出来ないのか? あれを使用すれば、グラ・バルカス帝国がどのような大艦隊で来ようが、全滅出来るだろう?」

 

国防担当幹部は、額に汗を浮かべ、沈黙する。

 

「古代兵器パルカオンは、我が帝国に、たったの1隻だけ残っている、国家存続の危機がある場合のみ使用可能な古の魔法帝国の超兵器です。ただ、まだ50パーセント程度しか解明できていないため、良く分からない兵器が多数あり、本来の力がほとんど出せていない。それでも、グラ・バルカス帝国の艦隊程度なら殲滅できるでしょうが、皇帝陛下の決裁が必要であるし、この程度の事象で投入する事は出来ないでしょう。これは、来るべき古の魔法帝国に唯一通用する我が国の切り札となる兵器であるため、この程度の事象で出す事は出来ないし、万が一損傷でもしたら、直せない」

 

会議は深夜にまで及び、明日の夕方までに、各国の代表に対し、

 

○ グラ・バルカス帝国の大艦隊が迫っている。

○ これは奇襲的に行われる攻撃であり、我が国の現在の展開している戦力では、討ち漏らしが起こる可能性がある。

○ 万が一の被害防止のため、各国は港町カルトアルパスから東方都市カン・ブラウンに一時移動をお願いしたい。

 

と言った旨を伝える事を決定した。一方、日英両政府は別の問題にも直面していた。

 

 

神聖ミリシアル帝国カルトアルパス

駐神聖ミリシアル帝国日本領事館

 

「シン! 私の公用車を出して!! 大臣に伝えないと!!」

「言われなくてもやっている!!」

「おい! 資料を忘れてるぞ!!」

 

本国からの緊急通報を受報した日本領事館では、アキコ領事以下関係職員が対応に追われていた。

 

「しかし、グラ・バルカス帝国め!! 本気で世界征服する気なンかよ!!」

 

関係者が全員乗ると、公用車は帝国文化館に向けて全速力で走り出す。同じようにイギリスとカナダの領事館も自国の外務大臣に急報を伝えるべく動き出す。

 

「・・・・なんだと!? 急ぎイギリスとカナダの外相を呼んでくれ!! 至急会談を行う!!」

 

全速力で飛ばしてきたアキコ以下日本領事館職員の情報を聞いた岩谷外相は目を丸くして驚く。同時にイギリスのデービット・ミラー外相、カナダのメラニー・ジョーリ外相との外相会談を開催することに決定した。

 

 

帝国文化館の一室

 

「ミラー外相大変なことになりましたなあ・・・・」

「全くです、ミスター・イワヤ。更には奴らは我々の領土を掠め取ろうと・・・いや、既に掠め取っています。本国からは、空母打撃群を撤収させ、速やかに我々の領土を掠め取る不届き者を成敗するようにとのことです。大変申し訳ないのですが、空母打撃群はチャールズ諸島方面に転進します」

「そんな! 空母打撃群を下げるですって!? 我々の安全はどうなるのですか?」

 

空母打撃群をカルトアルパスから下げるという、イギリスの判断にカナダの外相が抗議する。しかし、イギリスの外相は申し訳なさそうに言葉を続ける。

 

「ですがミス・ジョーリ、チャールズ諸島やオラパ諸島に一番近い部隊はカルトアルパスに展開している空母打撃群のみなのです。本国からは空母打撃群に付随してきた原子力潜水艦アガメムノンを引き続きカルトアルパス周辺海域に展開させると言っています。仮にヤマトクラスが向かってきたとしても、襲撃前に離脱は可能です」

「今必要なのは喧嘩ではなく、日英加の3か国が緊密に連携して対応することでしょう。おそらくは神聖ミリシアル帝国側から我々に対して避難するようにとの申し入れがあるでしょう。まずは、領事館に対して、機密書類の焼却と邦人の退避を指示するべきかと」

「・・・・た、確かに・・・・」

 

外相会談では、日英加3か国が緊密に連携して対応することを確認。また各国政府は、外相護衛の為に派遣されている空母打撃群に対して、緊急出港を命令。グラ・バルカス帝国に掠め取られた領土を取り返すべく動き始めた。また同時に神聖ミリシアル帝国外相ぺクラスと会談した。

 

「・・・・・やはり貴殿方は知っていましたか・・・(一体彼らはどのようにして我が国の精鋭、第零式魔導艦隊全滅を知ったのだ!?)」

「大変申し訳ありません。ですが、背に腹はかえられません。我々の艦艇は説明の通り、カルトアルパスから引き上げさせて頂きます」

「本国からの情報では、グラ・バルカス帝国は我が国の領土であるチャールズ諸島周辺に出現。今頃島は奴らの手に落ちているでしょう。現在、我々の本国と第一文明圏を結ぶ海上交通路が遮断されています。制海権や制空権、海上交通路を取り戻す為にも、ご理解頂きたい」

「大変心苦しいのですが、オーストラリア、ニュージーランドも含め5カ国の領事館職員は先に空母打撃群にて退避させて頂きます。我々外相と補佐役の官僚は引き続き会議に参加致します。どうかご理解下さい!! ソーリー!!」

 

日英加の動きに神聖ミリシアル帝国は不快感を示したものの、自国領にグラ・バルカス帝国による侵略が起きており、本国と神聖ミリシアル帝国を結ぶ海上交通路が遮断されていることを説明。第零式魔導艦隊全滅の情報を他国には漏らさないことを条件に、ぺクラスは日英加空母打撃群の撤収を認めた。

 

 

「なんだあ? 日本の領事館で煙が出てるぞ?」

「中庭で紙を焼いてるみたいだぞ?」

「まるで今から逃げる支度をしているようだな・・・」

「グラ・バルカス帝国がここに攻めてくる・・・とか?」

「まさか!! 我が国は世界最強だぞ!?」

 

日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの領事館で機密書類の焼却が行われているのを確認した市民や各国の領事らは日英の行動に疑問を覚える。

 

「一体何が起ころうとしているんだ?」

 

日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの領事館を見つめる各国の領事は一抹の不安を感じながら業務を続ける。

 

 

海上自衛隊護衛艦「いずも」艦橋

 

「暫くの間世話になるわよ、ヒロシ?」

「暫くって・・・この艦隊はチャールズ諸島に向かうし、そのままオラパ諸島にも向かうだろうから数ヶ月は帰れねえぞ?」

「仕方ないじゃない。まあ、大臣達はギリギリまで会議に残って、原子力潜水艦でニュー・ホンコンに直行らしいけどね」

「困ったら俺が指揮を代わってやっても良いンだぞ?」

「おいヒロシ! 何で僕の部屋が独房なんだ!!」

 

この日の深夜、機密書類の焼却を完了し、領事以下領事館職員を収容した(ニュージーランドの領事館職員はオーストラリア海軍の艦艇に便乗した)空母打撃群はカルトアルパスを出港。チャールズ諸島方面に向け転進した。グラ・バルカス帝国側はこの動きを掴んでおらず、後に皇帝グラルークスが、

 

「空母はどうした? 日英艦隊はどうなったのだ?」

 

と、日英艦隊を完全に討ち漏らしたことを問題視したという。

 

 

第一文明圏イギリス領チャールズ諸島

プリンセスカミラ島観測基地

 

「海鳥が休む、平和な島だなあ・・・・」

 

島の生態系について研究している研究者らは、長閑な風景を見て日々の研究の疲れを癒していた。

 

「ん? なんだ? あの煙は?」

 

彼らの視線の先には無数の黒煙が登っていた。

 

「・・・・あれは・・・・我が国の艦隊ではないぞ!!」

 

やがてはっきりと無数の艦艇が見えてくる。戦艦や巡洋艦、駆逐艦に護衛された揚陸艦が多数此方に向かってくる。

 

「て、敵襲!!」

「急ぎニュー・ホンコン総督府と日本のロコール島に通報しろ!!」

 

数時間後、グラ・バルカス帝国の揚陸艦がチャールズ諸島の一つ、プリンセスカミラ島に接近。戦車を含めた陸軍や陸戦隊の兵士が次々と上陸。戦闘要員のいないチャールズ諸島は瞬く間にグラ・バルカス帝国により占領され、研究者ら20名のイギリス人は捕虜となってしまった。一方、情報を受け取ったニュー・ホンコン総督府では・・・・

 

 

イギリス領ニュー・ホンコン

ニュー・ホンコン総督府

 

「・・・・チッ! やりやがったな!!」

 

アオイは部下から渡された報告書を見て怒りを露にする。

 

「グラ・バルカス帝国はチャールズ諸島全島を占領。現在要塞化及び実効支配を開始しているだと!? 国王陛下の名を冠した島に土足で乗り込む不届き者め!!」

 

アオイは怒りの余り、報告書を真っ二つに破る。

 

「本国からは何か指示はないのか?!」

「現在、カルトアルパスに展開しているクイーン・エリザベス以下空母打撃群を至急向かわせると共に、輸送艦と護衛のフリゲート艦を英連邦各地から五月雨式に集結させており、民間の輸送船も徴用する方針です。また日本側からはリペリュー島がまもなくグラ・バルカス帝国による攻撃を受けるとみられ、至急ロコール島に部隊を集結させ、ロコール島防衛とリペリュー島救援の支援を要請してきています!」

「そうか。確かにロコール島まで落ちてしまうのは不味い。ロコール島はオラパ諸島各地やチャールズ諸島とニュー・ホンコンを結ぶ一大拠点。まずはここを守らねばならぬか・・・・だが、一番近い拠点であるロコール島でさえ、増援の艦隊を送るには、ニュー・ホンコンから最低2ヶ月はかかる。そうなれば、航空機しかない。ロコール島の制空権は死んでも確保しなくてはならない! 至急、タイフーンと空中給油機、輸送機をロコール島に派遣出来るよう、部隊の編隊を急がせるように!! また、パーパルディア皇国、アルタラス王国、ポルスカ共和国、バトル三国に対しては自国の沿岸警備の強化を要請!! グラ・バルカス帝国の潜水艦や工作船が潜り込んでいるかもしれない。ニュー・ホンコンも警戒レベルを上げろ!!」

「ははっ!!」

 

この翌日、ニュー・ホンコン総督府の眼前にグラ・バルカス帝国の潜水艦が潜航しているのをイギリス空軍ニュー・ホンコン警備隊のP1哨戒機が発見。哨戒艦スダッグ・ビートルと協力の上で執拗に追跡し、爆雷投下を実施。これを強制浮上させ拿捕に成功。イギリス側は初めてグラ・バルカス帝国の捕虜を獲得することになる。また、準備が完了したイギリス空軍のエアバスA400M輸送機2機がニュー・ホンコン国際空港を離陸。増援の第一陣として、ロコール島に増援の陸軍兵士100名と歩兵が携行可能な装備品を乗せて出発した。ちなみに本輸送機は異世界転移により、製造元であるフランスのエアバス社と切り離された為、日本とカナダの企業によりリバースエンジニアリングを実施の上で維持されている。

 

「第二陣、第三陣も急がせるんだ!! ロコール島の守りを固め、補給物資もどんどん送り込め!!」

 

この日以降、ニュー・ホンコンやアルタラス王国のイギリス空軍基地からは日英の輸送機がひっきりなしに離陸と着陸を繰り返すことになるのである。また制空権奪取の為にイギリス政府は新たな空母打撃群を編成。ドック入り予定であった空母プリンス・オブ・ウェールズを中心とする第二機動部隊を編成。艦載機がイギリス海軍・空軍だけでは足りず、航空自衛隊やオーストラリア空軍のF35Bを駆り出して搭載している。ちなみにオーストラリア空軍は元々F35Bを保有していなかったが、日英との連携強化や国際展開の一環で導入している。リバースエンジニアリングは完了しており、日本とオーストラリアで絶賛生産中である。

 

 

東京都オラパ諸島オラパ村ロコール島

オラパ諸島特別行政区庁舎

 

「何だと?! それは本当なのか!?」

「本国からの情報ですので、間違いはないかと」

 

日本政府から緊急の連絡がロコール島の特別行政区庁舎に届けられる。昨日、グラ・バルカス帝国がオラパ諸島より北のチャールズ諸島に突如として侵攻。同島には守備隊はおらず、1日にして陥落。イギリス人20名が捕虜となり、グラ・バルカス帝国が何処かへ移送したというのである。

 

「原石長官! 東京都知事より緊急命令です!! チャールズ諸島陥落に伴い、グラ・バルカス帝国軍がオラパ諸島最北端のリペリュー島に侵攻する可能性が高いとして、民間人の退避を命令しています!!」

「相分かった。稼働可能な船を総動員し、リペリュー島から全ての民間人をロコール島へ退避させろ!! ロコール島に常駐している海上自衛隊の哨戒艦や陸上自衛隊の輸送艦「にほんばれ」にも出動要請をかけろ!!」

 

 

オラパ諸島最北端リペリュー島

リペリュー小学校

 

「タクマせんせー!! さよならー!!」

「皆気をつけて帰るんだよ~」

 

オラパ諸島最北端の島、リペリュー島。人口500人余り(駐屯する自衛隊員は含まず)のオラパ諸島の中では比較的大きな島である。同島はオラパ諸島では数少ない有人島であり、また天然の良港を有する重要拠点でもある。

 

「お前らあ! 早く乗らねえと置いてくぞ!!」

 

小学校からそれぞれの自宅に児童を送迎するマイクロバスの運転手が児童らに早く乗るように促す。ちなみに運転手は現地人であり、最近大型車の免許を取得したばかりである。

 

「それじゃあ、出発するか!」

 

マイクロバスの運転手は児童らを乗せて各家庭に送り返していく。やがて最後の児童を帰宅させ終わると、バスを小学校へ回送していく。

 

「・・・・日本に支配されるようになってからというもの、島は見違える程変わったなあ・・・」

 

リペリュー島にはパーパルディア皇国時代に税金徴収を目的とした小さな行政区庁舎があったが、特にインフラ整備はされず、長らく貧困の中放置された島(税金を徴収する側のパーパルディア皇国の役人でさえ困窮していた)であった。戦時中に日本により占領された同島の島民らは始め、日本に対してはかなり懐疑的であった。支配者が入れ替わるだけだ、自分たちの暮らしは何一つ良くなることはないのだと。バスの運転手を勤める彼もその一人だった。しかし、この一年間で日本が行ったことは、

 

・小学校の設置と義務教育(無償)の開始

・学校給食の無償提供

・電気、水道、ガス、道路、港、空港、通信等のインフラ整備

・じゃがいも、さつまいも等救荒作物の導入

・ワクチンの接種と病院の開設

・農業及び漁業支援

 

等であった。特に救荒作物の導入とワクチン接種は島民らの生活を劇的に改善させた。珊瑚礁の島であり、農耕に適していないリペリュー島では度々飢餓が発生していた。また、天然痘や日本脳炎にかかればまずは助からなかった。しかし、日本が来てからは痩せた土地でも大量の収穫が見込める作物が自給自足出来るようになった。かつては不治の病とされた病気も、数回のワクチン接種で罹らなくなり、病院に行けば大体の病を治すことが出来る。更に衛生環境に関する指導も行われ、病を未然に防ぐ取り組みも行われた。島の長老らは初めは半信半疑であったが、一度効果を見せるとたちまち島全体に対して日本に協力するよう指示を出した。農業や漁業の支援では農業機械やエンジン付きの漁船が提供され、圧倒的な作業効率性から皆が競うように説明会に参加する。そして、子供を働かせる必要がなくなり、学校に通わせることが可能になった。パーパルディア皇国時代とは全く違う。日本は本気で島民の暮らしを改善しようとしている。島民らはそう感じていた。

 

「日本には感謝しても感謝しきれない!! いつかは俺も日本人になるんだ!!」

 

将来的にはオラパ諸島からも代表者を国会と都議会に送り込めるようにする予定である。日本の領土になったのが最近であることや現地人の権利を保障する為、人口に関わらず、衆議院2(小選挙区1+比例区1)、参議院2(半年毎に改選の1人区)、都議会1(オラパ諸島選挙区)が設定することで与野党が合意。一票の格差の問題については、現地人の権利保障の為特例として法律に明記することになり、既に両院や都議会にて全会一致で可決、成立している。

 

「日本の東京! 何時かは行ってみたいな!!」

 

やがてバスは小学校に到着する。彼は鍵を小学校で待機している男性教師に返すと、荷物をまとめて自宅へと帰る。

 

「・・・・さて、これからが本番だよ? ケイ」

「全くね・・・・明日の授業の準備やら掃除やら・・・・休む間もないわねー」

 

この島唯一の小学校に教師は二人だけ。男性教師は戸田拓真。自他共に認めるイケメン教師であるが、日本時代に先輩教師のパワハラや嫌がらせに耐えかねて殴ってしまい、オラパ諸島へ島流しされた経緯を持つ。

 

「だけど、ボクにはケイがいるから。大丈夫だと思うよ?」

「・・・・・タクマ・・・・」

 

彼の傍らに控える女性教師は戸田惠。タクマの幼なじみであり、長らく彼女だった女性である。順調に出世街道を進んでおり、昇進間違いなしであったが、彼氏であるタクマの左遷を聞いて自ら志願してオラパ諸島へやってきたのである。ちなみに籍を入れたのは島流しされる前日である。

 

「・・・・さて、仕事を始めようか、ケイ。お楽しみは暫く出来なさそうだけど、いつかは出来るよ」

「・・・・そうね、タクマ。今は忙しいけど、いずれは軌道に乗って、余裕も出来るわよね」

 

イチャイチャしながら仕事を片付けていくタクマとケイ。誰からも邪魔されず、楽しそうに仕事をする相思相愛の二人。そんな二人の仕事を邪魔するかのように電話が鳴る。

 

「はい、タクマですが? ・・・・あ、長命隊長! え? え?! ええ!? は、はい・・・・それで、都知事からは・・・・はい・・・はい・・・分かりました・・・・ご連絡ありがとうございます」

「ど、どうしたのタクマ? 顔色が悪いわよ」

「・・・・ケイ、どうやらお楽しみは遥か彼方に消えてしまいそうだよ」

「え?!」

「至急、緊急連絡網を使って児童と家族に連絡を!! グラ・バルカス帝国がリペリュー島に攻めてくる!!」

 

タクマとケイは今までの仕事を中断し、至急児童と家族に連絡を取る。またバスの運転手に対して、大至急児童と家族を乗せて港まで送迎するよう指示を出した。

 

「私達は島を離れられるの? タクマ?」

「・・・・分からない。だけど、まずは未来ある子供達、そしてリペリュー島の島民の避難が最優先だ!! ケイ! 車を出す!! 手分けして港まで避難させるよ!!」

「分かったわ!!」

 

タクマとケイは予備の自動車や作業用のハイラックスを動かし、児童らを迎えに行く。本来であれば荷台に人を乗せることはご法度であるが、日本政府並びに東京都知事からの全民間人島外脱出命令を遂行する為に、警察はパトカーの先導を条件に黙認。続々と民間人が港に集まってきていた。

 

「皆聞いて欲しい!! この島に悪い人達が君たちを狙ってすぐ近くまでやってきてる! 君たちは自衛隊の輸送艦で安全なロコール島まで避難するんだ!!」

「こっちよ! 進んで進んで!!」

 

民間人島外脱出の第一陣として、陸上自衛隊の輸送艦「にほんばれ」が海上自衛隊の哨戒艦の護衛を受けて到着。往路でリペリュー島守備隊向けの武器弾薬や食料を輸送。空になった輸送艦は復路で民間人を収容する。

 

「慌てずに前に進んで下さい! 皆さんを脱出させるだけの船は用意しております!!」

 

続けてオラパ諸島各地を結ぶ「おらぱフェリー」が到着。続々と民間人が乗り込んでいく。そんな中、臨戦態勢を整えつつあるリペリュー島駐屯地では・・・

 

 

リペリュー島守備隊駐屯地

 

「長命隊長! 現地人の若い男性らが俺たちも日本軍と共に戦わせてくれと申し出ています!!」

 

陸上自衛隊リペリュー島守備隊隊長の長命國男は部下からの報告を受けると目を閉じた。

 

「・・・・・彼らは民間人だ。死ぬとわかる戦に巻き込むことは出来ン。直ぐに島から脱出しろと伝えよ!」

「それが、俺たちは日本人だ! 日本人が日本の島を守るために戦って何が悪いと言って聞かないのです!!」

 

駐屯地の入口では現地人かつ若者の男性が数十人程集まり、守備隊隊長に対して戦闘の意志があることを伝えに来ていた。その中には、小学校のバス運転手も含まれていた。

 

「日本には感謝している!! 恩義を返したいんだ!!」

 

やがて、拡声器を持った長命國男隊長が彼らの前に姿を現す。総勢300名から成るリペリュー島守備隊は、島民らと友好関係を築いており、隊長の長命は島民から慕われる存在でもあった。

 

「我々日本国自衛隊は貴様ら土人の力なンぞ必要としていない! さっさと島から出て行けい!!」

「・・・・・・・!!」

 

一見すれば、明らかな差別発言。しかし、長命國男隊長の目には涙が流れていた。島民らは察した。今の差別発言は本音ではない。自分たちを巻き込みたくない。死ぬとわかる戦に赴くのは自分たちだけでよい。長命以下自衛隊員の想いを知った彼らは涙を流しながらその場を去っていく。そして、彼らを乗せた最後の避難船が港を離れる。岸壁には、島を守るために残る自衛隊員が整列し、敬礼で見送る。島民らは彼等を称え君が代を歌い、島から離れた。やがて船が見えなくなると、隊員らは戦闘に備え、配置につく。

 

 

リペリュー島中心部リペリュー山洞窟陣地

リペリュー島守備隊総司令部

 

「民間人は全て退避したな?」

「はい。最後まで島に残る、我々と共に戦うと志願していた男性をこの島唯一の小学校の先生2名が説得し、無事島を離れました」

「戸田夫妻のことか・・・・彼等には苦労をかけてしまったンだな・・・」

 

長命は額縁に入れた写真を手に取る。

 

「隊長は何時もその写真をご覧になりますが、隣に写る若い学生は誰なのですか?」

「・・・・・・・・彼は私の唯一の弟子でな・・・今は駐在武官として、神聖ミリシアル帝国に赴任しているンだ・・・生意気な小僧だったが、そこが教官として指導のしがいがあったってもンだ・・・・」

 

長命は懐かしそうに過去を振り返る。

 

「本当は彼を私の部下にしたかったンだが、海自の方が水があってるように感じてな、そっちに志願させたンだ・・・・本人は渋々だったが・・・」

「そうなの・・・・ですか・・・言われてみればこの学生、アキラと皆から呼ばれる男そのものですな」

「こっちが新しい写真だ。カルトアルパスの日本領事館竣工を記念して、仲間と撮った最新写真だ」

 

別の写真を見せる長命。そこにはできたてホヤホヤの日本領事館をバックに写る、アキラの姿があった。他に写っているのは領事のアキコ、彼女の秘書官のシン、領事館の給仕担当のアイの3人である。アキコのセンターに各々が彼女を囲むように写っており、アキラはビシッ、と敬礼している。なお、シンとアイはアキコを挟んで互いに自分の物だと笑顔で自己主張している。

 

「・・・・果たして私は弟子に再び会えるのやら・・・・」

「必ず会えます。いや、会いましょう!! 長命隊長!!」

「うむ・・・・弱音を吐いている場合ではないな。よし! 総員、装備の点検を開始し、配置につけ!!」

 

そして、陸上自衛隊の輸送艦「にほんばれ」が最後の避難者を脱出させて5日後早朝。

 

 

リペリュー島北部守備隊観測所

 

「・・・・敵の艦隊を視認!! 戦艦や巡洋艦が島に向けて接近中!!」

 

沿岸部に設置した観測所で海を監視していた部隊が上陸前の艦砲射撃の為に接近中のグラ・バルカス帝国の艦隊を双眼鏡で視認。本部に報告すると共に、速やかに観測所から撤収。地下陣地に移動した。いよいよ、地獄の戦いが始まる。

 

「・・・・いよいよか・・・」

 

リペリュー島守備隊隊長の長命は昨日部下に見せた写真を入れた額縁を元の場所に戻すと、幹部と作戦会議を行う。

 

「・・・では、抜かりなく」

「「「了解!!」」」

 

 

日本国東京都オラパ諸島村ロコール島

ロコール小学校職員室

 

「戦争中であったとしても、ボクのやるべきことは変わらない。ケイ、一緒にいてくれるよね?」

「勿論よタクマ! このリペリュー島の女王に任せなさい!!」

 

(続く)

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