日英同盟召喚   作:東海鯰

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途中退席

神聖ミリシアル帝国港街カルトアルパス 

帝国文化館

 

本日も行われる実務者級の国際会合、神聖ミリシアル帝国から各国に対し、至急連絡があるとの打診があった。内容をなんとなく把握しており、開催よりも少し早く帝国文化館に到着した日本国使節団は、ロビーにおいてアニュンリール皇国の使節団を発見する。

 

「あれが外務省で噂のアニュンリール皇国か・・・」

 

アニュンリール皇国。事前に得た資料によれば、魔法文明を基礎とし、文明圏外の南方世界を治める長として、毎回先進11ヵ国に参加している国とある。文明圏外の島国ではあるものの、南方世界に2つある大陸の多くの国家を実質的に支配していると言われ、本土に上陸した者はいない。外交窓口は本土の北側にある四国の半分ほどの大きさの島、ブシュパカ・ラタンと呼ばれる土地に限定されており、実質的に日本国で言うところの鎖国状態であった。文明圏外に属していると考えられており、本会議において彼らに興味を示す者はいない。広大な土地を支配している「だけ」の蛮族といった位置づけで彼らはこの会議に招かれていた。

しかし日本、イギリス両国政府は、彼らに非常に高い関心を寄せていた。人工衛星の写真によれば、鎖国の窓口ブシュパカ・ラタンには、夜の明かりはほとんど見られない。しかし、本土に関して言えば、神聖ミリシアル帝国や、グラ・バルカス帝国と同じような多くの人工的な明かりがあり、昼間においても、高度に発展した都市が写真に写る。港町カルトアルパスへやってきたアニュンリール皇国の船はあまりにも効率の悪い、帆船の艦隊であり、他国と比べると遥かに性能が落ちる事が一目瞭然であるが、本国の整備された港には、神聖ミリシアル帝国の魔導艦隊と同クラスの戦艦がある事を日英両政府は把握していた。イギリス側は神聖ミリシアル帝国よりも、同国が脅威となり得る可能性が高いと指摘している。

 

「人種は人ではなく、背中から翼が生えている。その翼は片方が白く、そしてもう片方が黒い。カルアミーク王国にて発掘された古の魔法帝国とやらに繋がる何かではないか、そうイギリス側から言われてたな・・・」

 

近藤は機会があれば、同皇国に探りを入れるよう政府から指示を受けていたため、アニュンリール皇国使節団に話しかける。

 

「初めまして、アニュンリール皇国の方ですね?」

「ああ・・・・」

 

感情の無い顔、目の奥底には、人に対しての興味の無さと、蔑みの感情が見て取れる。

 

「私は、日本国の外交官の近藤と申します。日本国政府は、貴国に大変高い関心を有しています。今後は、国交開設も視野に踏まえて、お付き合いしていきたいと考えておりますので、どうかよろしくお願いします」

「そうですか。もう知っているかもしれませんが、我が国は国交を北の島、ブシュパカ・ラタンに限定しております。国交開設の際は、同島にお越し下さい。また、南方世界の我が国配下の国との交易は禁止しておりますので、南方世界との交流も、同島をご利用下さい」

 

言葉は丁寧であるが、彼らは日本国に対して無関心であることが、見てとれる。いや、ここ数日の会議の状況を見るに、この先進11ヵ国会議でさえも、無関心であるように見える。

 

「ところで、貴国はどの国も、国交は北の島に限定しているのですか?」

「はい、本国は規定により、他国の者の侵入を許可しておりません」

「その島でも、貴国の文化を味わう事は出来ますか?」

「はい、ブシュパカ・ラタンは我が国と南方世界の窓口ですが、我が国の一部です。もちろん、文化は変わりませんが、何故そのような事を?」

 

近藤は一呼吸おく。そのやや後ろではイギリス側の代表団がチラチラこっちを見てきている。

 

「いえ・・・貴国は窓口の島よりも、本国のほうが遥かに発展してらっしゃるようなので、ふと疑問に思いまして・・・・」

 

アニュンリール皇国使節団の目の色が変わる。

 

「まもなく、先進11ヵ国会議実務者協議を開催いたします。皆さま、着席をお願いします」

 

帝国文化館に放送が流れ、会話が途切れる。

 

「時間ですね、また、ご挨拶に改めて伺いますので、よろしくお願いします」

 

近藤は、アニュンリール皇国使節団の元を立ち去り、会議室に入場した。残されたアニュンリール皇国使節団はつぶやく。

 

「人種・・・ひとしゅの分際で・・・日本国、奴ら何者だ?」

「貴国はどうやら、随分と偽装工作に勤しんでおられるみたいですねえ?」

「・・・・イギリスの代表か・・・」

 

イギリス側の代表団の一人であるビートが話し掛けてくる。

 

「折角ですから、お見せしましょうか? 貴方の本国の夜景を」

 

ビートはタブレットを取り出し、アニュンリール皇国の夜景を映し出す。アニュンリール皇国からすれば見慣れた夜景に彼等は驚く。

 

「どういうわけですかねえ? 明らかに文化が違うようですが・・・・何か裏でもあるんですか? 例えば・・・・」

 

一呼吸置いた後にビートは核心を突く発言をする。

 

「古の魔法帝国、とか」

「!?」

 

一瞬ではあるものの、明らかに動揺した様子をイギリスは見逃さなかった。むしろ、やはりか・・・・という感じである。

 

「それに貴国には、人権という概念はないみたいですねえ?」

 

続いて彼等に見せたのは、アニュンリール皇国支配下の従属国の風景であった。皇国人が人種を奴隷として働かせ、連行する様子が収められていた。イギリスは原子力潜水艦を南方世界に送り込み、ドローンを飛ばして現地調査を実施していたのだが、そんなことを皇国は知るよしもない。

 

「ああ! そうでした!! 是非ともお伝えしないといけないことが!!」

「・・・・・何だ? 人種風情が!!」

 

アニュンリール皇国代表の一人が明らかに不機嫌になる。周りの職員が彼を宥めている。

 

「南方世界の1国、セイロンとこの度我が国は国交を樹立致しました!! 何でも他国によりセイロン王家が完全に断絶しており、代わりとなる王家を元家臣団から求められましたので、英連邦王国に加わり、我が国の偉大なる国王陛下が国家元首を勤める同君連合と相成りました!!」

 

アニュンリール皇国の代表団は顔面蒼白になる。セイロンは同国が支配下に置く従属国の一国であり、紅茶の栽培が盛んな島である。アニュンリール皇国でも紅茶が飲まれているが、セイロンの紅茶は非常に香りが良く、外交権と防衛力を奪い、従属国とすることで独占していた。イギリスは紅茶と南方世界進出に向けた拠点確保の為にセイロン王家の旧家臣団に接近。彼等に武器を供与してクーデターを起こさせ、アニュンリール皇国の役人を追放。英国国王を国家元首とする、セイロン王国を誕生させたのである。現在はイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの支援により近代化政策を推進中であり、南方世界随一の親英国家に生まれ変わる見込みである。

 

「セイロンは我が国の従属国です!! 勝手に国交を結び、政治に介入しないで頂きたい!! 我が国はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国に対して、直ちにセイロンから手を引くように要求する!!」

「我が国はセイロンは対等な主権国家であると認識しており、貴国の主張を聞き入れる道理はありません。そもそも貴国はセイロンを搾取し、島民を強制労働させる等、人権軽視…いや、人権無視の行動をしていたことは様々な調査により証明済みです。また、先に申し上げましたように、セイロンは我が国と同君連合ですので、セイロンへの侵略は英連邦王国全体に対する宣戦布告となりますので、お気をつけください。では、そろそろ会議らしいので」

 

イギリスの代表団は会議室に入場した。いきなりの展開にアニュンリール皇国側は頭が真っ白になっていた。

 

「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国・・・いつの間に我が国の勢力圏に侵入していたのだ?!」

 

アニュンリール皇国の代表団も会議室に入場した。その後アニュンリール皇国の支配下に置かれている従属国では、セイロンの独立を皮切りに従属解消及び英連邦王国加盟を申請する国が後を絶たず、皇国はイギリスの勢力圏拡大に警戒感を覚えるようになる。

 

「・・・・・あら? この絵画、中々良いわね?」

 

会議室に向かうカナダの代表団は廊下に飾られている絵画に目を奪われる。絵画は神聖ミリシアル帝国初代皇帝の肖像画である。

 

「・・・・・こっそり持っていってもバレないわよね?」

「ついでにこの壺も頂いておきますか」

「イギリス側にも伝えておきましょう」

「大英博物館の収蔵品がまた増えるなあ・・・ソーリーwww」

 

会議中かつ、神聖ミリシアル帝国が混乱している隙をついてイギリスとカナダの関係者はカルトアルパス国際空港からニュー・ホンコン国際空港を結ぶ、ブリティッシュエアウェイズの定期貨物便に文化財を勝手に移送し始める。後にグラ・バルカス帝国の攻撃により、帝国文化館は完全に瓦礫の山と化すことになるが、事前にイギリスとカナダの代表団が文化財の一部を勝手に持ち出したことで難を逃れ、大英博物館に収蔵、展示されることになる。無論、後にイギリス・カナダと神聖ミリシアル帝国の間で重大な外交問題となる。後にイギリスのとあるパーパルディア皇国に駐在している外交官は、

 

「我々の機転がなければ、貴重な文化財は灰と化していた。あれは盗んだのではない。仕方なく保護してやっている。保護するにも金がいる。そのことに少しは感謝して欲しいものだ・・・」

 

と、スコーン片手にアフタヌーンティーを優雅に飲み、英国面全開だったという。

 

 

神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス 

帝国文化館

 

「これより、先進11ヵ国会議実務者協議を開催いたします」

 

司会進行の言葉と共に、本日の会議が始まる。

 

「本日は議長国の神聖ミリシアル帝国から、皆さまへ連絡がございます。先日、現在グラ・バルカス帝国の艦隊が我が国の西の群島に奇襲攻撃を行い、地方隊が被害を受けました」

 

神聖ミリシアル帝国は国益のため、第零式魔導艦隊が壊滅した事を伏せ、奇襲されたといった偽情報を伝える。地方隊とはいえ、神聖ミリシアル帝国の部隊に被害を与えた事に、場が衝撃に包まれる。なお、日本、イギリス、カナダは神聖ミリシアル帝国との密約で事実を秘匿している。議長は続ける。

 

「テロ対策として、本港カルトアルパスには巡洋艦クラスが8隻警備についておりますし、空港から空軍がエアカバーを行いますので問題はありませんが、グラ・バルカス帝国が万が一、我が国本土に攻撃を加えた場合の事も考慮し、万全を期するために、本日の夕方までにカルトアルパスから全艦隊を引き上げていただき、開催地を東のカン・ブラウンに移したいと思います。事前に通告していた場所とは異なりますが、ご理解いただきたい」

 

一瞬の沈黙の後、第一文明圏列強エモール王国(竜人の国)の使者が立腹し、話し始める。

 

「あの新参者であり、かつ無礼者が攻撃してきたからといって、世界の強国会議ともいえる、国々が尻尾を巻いて逃げるというのか? 堂々と会議をすればよい。我が国は陸路だが、ここに来ている者たちは、何処もそれなりの規模の艦隊を連れてきているのだろう? そのための外務大臣級護衛艦隊だろう? 魔力数値の低い人族のみで構成された、しかも文明圏にすら属していない国を相手に、強国が多数、戦わずして逃げるのは、情けないと思うぞ。我が国は、陸路で来ているため、艦隊は無いが、控えの風竜22騎ならば投入してもよいぞ」

「おお・・・・」

 

列強エモール王国の風竜騎士団、空気抵抗を抑えるべく、小さな翼に進化した風竜は速く、その最高速度は時速500kmにも達し、人間では絶対耐えられない空気抵抗も、強靭な肉体を持つ竜人ならば耐える事が出来る。神聖ミリシアル帝国の制空型 天の浮舟 アルファ3型 に匹敵する性能があるとされ、各国が一目置く列強エモールの精鋭部隊の投入表明に、場は静まる。

 

「わ、我が国の戦列艦7隻も、無礼なグラ・バルカス帝国の軍を退治ためならば、喜んで手を貸しますぞ!!奇襲で神聖ミリシアル帝国の艦が被害を受けたとのことですが、正直奇襲以外で文明圏外国家に、中央世界の我が国が遅れをとるとは思えませぬ」

 

中央世界のトルキア王国も、会議の移動を反対する。

 

「我が第2文明圏では、グラ・バルカス帝国が我が物顔で暴れまわっている。中央世界と共に戦えるならば、我が艦隊も参戦いたします」

 

第2文明圏内国家、マギカライヒ共同体も参戦を表明し、第2文明圏はそれに続く。日本国外交使節団の横に座っていた第3文明圏内国家パンドーラ大魔法公国は、目を輝かせながら日本国使節団に聞いてくる。

 

「対パーパルディア皇国での貴国の数々の伝説は伺っています。日本国はどうされるのですか?」

 

回答に窮する日本に代わり、イギリスが回答する。

 

「大変申し上げにくいのですが、我が国に加え、日本、カナダ、オーストラリアの艦隊は既にカルトアルパスを離れています。グラ・バルカス帝国により、第一文明圏における我が国の領土であるチャールズ諸島が侵略を受けており、近々日本のオラパ諸島にも侵略の手を伸ばす可能性が高い。本国からは、空母打撃群はチャールズ諸島に転進し、我々3か国の外交官らは本日中に迎えの船で引き上げるよう、命令が出ております。空母打撃群は既に移動済みで、あとは我々が引き上げるのみです」

 

グラ・バルカス帝国によりイギリスの領土が侵略されている。更に日本の領土にも侵略しようとしている。この事実を知った各国は、日本、イギリス、カナダの対応は致し方なしと判断した。

 

「大変申し訳ないとは思っています。ですが、何れ我が大英帝国は必ずやグラ・バルカス帝国に懲罰を加えます。その時は是非とも力をお貸し(核兵器の使用)させて頂きます」

 

イギリスの発言が終わると、アニュンリール皇国の使者が手をあげ、議長が発言を許可し、発言を行う。

 

「我が国は文明圏外国家です。突然東方都市への移動といっても対応できませんし、もしもこのまま戦うと足手まといになりますので、本年の会議はこれにて失礼します」

 

経済力、技術力、軍事力、すべてが低い南方世界は、慣習的に会議に呼ばれていただけであり、いてもいなくても良いとの認識(日英加は除く)から、全員が認め、アニュンリール皇国は退室した。続けて、日本、イギリス、カナダが退室。各国は別れを惜しみ、互いに健闘を祈った。

 

 

日本国首都東京 

首相官邸

 

首相官邸では緊急会議が行われていた。外務省幹部が報告を行う。

 

「以上、グラ・バルカス帝国が現在先進11ヵ国会議が開催中の神聖ミリシアル帝国、港街カルトアルパスに強襲を行う可能性が極めて高い状態にあります。ミリシアル帝国は安全のために東方都市カン・ブラウンに移動するよう求めていましたが、やはり種族が異なると常識も異なるようで、各国の外交大臣護衛艦隊で迎え撃つ方向で話が進んでいます」

 

場が静まる。

 

「現地の外交官や岩谷大臣はどうなっていますか? 確かイギリスが原子力潜水艦で迎えに来ると聞いていますが?」

 

防衛大臣が外務副大臣に確認を取る。

 

「既にイギリス海軍の原子力潜水艦がカルトアルパスに入港しており、神聖ミリシアル帝国側が手配した小舟にて原子力潜水艦まで移送の上で外交官や大臣を収容を完了しています。あとはニュー・ホンコンへ直行する予定です」

 

外務副大臣がイギリス側からの提供資料を元に説明する。

 

「外交官や大臣は問題ないのかもしれませんが、現地の邦人はどうなるのですか? 自衛隊やイギリス軍の輸送機で救出は出来ないのですか?」

 

女性の環境大臣が、防衛大臣に問う。

 

「距離や時間を考えますと、到底間に合いません。ですので民間機による避難となります。カルトアルパス国際空港に就航しているのは、我が国のANAとJAL、そしてイギリスのブリティッシュエアウェイズの3社ですが、現在カルトアルパス国際空港に駐機している機体を総動員して邦人や空港職員を脱出させるよう、日英両国政府から指示を出しました。既に邦人全員が搭乗しており、まもなくブリティッシュエアウェイズの最後の定期貨物便が3社の空港職員を乗せてニュー・ホンコンに向けて離陸します。この便を以て、邦人の待避は完了します」

 

話はつづく。

 

「現在、防衛省ではイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド及びロデニウス連合各国と協力し、まずはオラパ諸島とチャールズ諸島に対するグラ・バルカス帝国の脅威を排除する予定です。また、イギリス政府からなのですが・・・・」

 

場が静まる。

 

「外務副大臣、言ってもよろしいですか?」

 

防衛大臣が外務副大臣に確認を取る。外務副大臣は無言で頷く。

 

「今回のチャールズ諸島に対するグラ・バルカス帝国の侵略に対する報復として、イギリス政府は核兵器による報復を実施する予定であるということです。グラ・バルカス帝国の首都と思われる都市に投下すると・・・」

 

改めて場が静まり返る。イギリスによる二度目の核兵器使用が現実味を帯びる。全員がイギリスと同盟国であることに安堵すると共に、イギリスとの友好関係の維持と発展に勤めることで一致した。その上でまずは日英合同でオラパ諸島とチャールズ諸島からグラ・バルカス帝国を叩きだし、日英と神聖ミリシアル帝国を繋ぐ航路を回復させることに専念するのである。ちなみにイギリス側は核兵器の使用により、日本との関係が悪くなるのではないか?と本気で危惧しており、日本側からのイギリス側の立場を尊重(核兵器使用には反対しない)し、今後も友好関係の維持と発展を望むという回答に心から安堵したという。なんだかんだで互いに相手に嫌われたくないという感情がある、不思議な関係であった。

 

(もしイギリスと敵対してしまえば、周囲を完全に囲まれてしまう・・・イギリスは元より、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドは同君連合。必ずイギリスに味方する。それに加え、ロデニウス連合やフィルアデス大陸国家に包囲されてしまえば、如何に我が国と言えど二次大戦の二の舞になる・・・・イギリスとは敵対したくない・・・・)

 

(もし日本と敵対してしまえば、我が国は周囲を囲まれるだろう。核兵器を保有し、同君連合であるとは言っても、オーストラリアのように共和制に移行しようという国もある。それに経済力や技術力は圧倒的に日本の方が上。本気になれば明日にも核兵器が完成するだろう。そうなれば、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ロデニウス連合は日本に味方するかもしれない、いやするだろう・・・そうなれば流石の我が国でも餓え殺し不可避だ・・・日本とは敵対したくない・・・・)

 

 

神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス

 

港町カルトアルパスは、神聖ミリシアル帝国南部に位置している。同街の東と西には南北に延びる半島がそれぞれ突き出ており、約60kmの内海、そして幅約14kmの小さな海峡を通過した後に、外海に至る事が出来る。外海と異なり、内海は嵐の日でも比較的穏やかであり、また第2文明圏と第3文明圏交流の拠点として栄え、今に至る。そんな港の一角で開かれている先進11ヵ国会議、同会議は紛糾していた。

 

「と、いう訳で、やはり万が一の安全を考え、早期に移動をお願いしたい!! 仮にカルトアルパスに強襲してきた場合、本当に時間がありません。ここで、のんびりと話をしている場合ではないのです!!」

 

 

(なあアキコ? アニュンリール皇国、日本、イギリス、カナダが退室した後、すでに4時間が経過しているはずだろ?)

(ええ。1回の休憩を挟んだとはいえ、まとまらないにもほどがあるわね・・・)

(危険だから、大規模戦力の無い今、避難を行う。そんな単純な事が何故出来ないのか。馬鹿しかいないンか?)

(うわあ・・・・会議は踊る、されど進まず・・・ね)

 

護衛艦「いずも」にて、4人部屋に割り当てられたアキコ、シン、アキラ、アイの日本領事館組は引き続き隠しカメラから会議の様子を閲覧していた。全くまとまらない国々の対応に対して、理解に苦しむ。しかし、避難を反対する参加国にもそれなりの事情はあった。各国は砲艦外交の意味合いも込め、国内で最新鋭もしくは練度の極めて高い艦隊を送り込んで来ていた。それが揃いも揃って文明圏外の蛮族の脅迫で逃げると、国家の威信が地に落ちるだけではなく、国内の批判にもさらされかねない。様々な事情から会議は空転する。

 

 

(ちなみに岩谷大臣と近藤大使はどうなった?)

(先ほど全員がイギリスの原子力潜水艦アガメムノンに乗艦。無事脱出したみたいよ)

(間に合ったンか・・・・これで一安心だな・・・)

(・・・・・・ん? 議長の顔が何か変じゃない?)

(((え?)))

 

 

不意に、議長の顔が苦渋に包まれる。

 

「皆さま、静粛に!静粛に!! これより重要な伝達事項があります。」

 

場が静まる。

 

「先ほど、我が国の哨戒機がカルトアルパス南方約150km地点を北上するグラ・バルカス帝国の戦艦群を発見いたしました。なお、空母はまだ発見出来ておりません。これより航空戦力で攻撃を行う予定ですが、このままでは、カルトアルパス南方60kmの海峡に至ります。グラ・バルカス帝国の船速と、ここから海峡までの距離を考えると、もう避難は間に合わないでしょう。皆さまの案、急遽連合軍を組織し、迎え撃つ事になってしまいましたが、あなた方外交官と外務大臣の身の安全だけは、我が国の義務として身の安全を確保させていただく。早急に鉄道で北に避難していただきます」

 

会議は、

 

○各国一丸となって、自衛のためグラ・バルカス帝国を迎え撃つ

○外務大臣及び外交官に関しては神聖ミリシアル帝国の避難誘導で避難を行う。

 

事となった。なお、連合軍はグラ・バルカス帝国海軍に惨敗。まともに損害を与えることが出来ないまま、戦艦部隊及び航空部隊による攻撃により、カルトアルパスは灰塵に帰すこととなるのである。なお、この戦いでグラ・バルカス帝国海軍はグレードアトラスター級戦艦二番艦のアポロノームがイギリス海軍の原子力潜水艦アガメムノンの魚雷6発を受け轟沈しているのだが、イギリス海軍による攻撃と判明するのはかなり経ってからの話である。なおアガメムノンの艦長と副艦長は攻撃の理由について、

 

「うちさあ、魚雷あるんだけどさ、沈めてかない?」

「ああ~、いいっすね~、沈めちゃいますか!!」

 

という、軽いノリでグレードアトラスター級戦艦を轟沈せしめて去っていったという。無論、外務大臣や外交官を乗せた状態で、である。イギリス海軍は自国が運用している魚雷が戦艦に対して効果があると分かると、日本に対して魚雷の大量発注を実施。日本の製造業は相変わらず忙しくなるのである。

 

 

パーパルディア皇国皇都エストシラント郊外

エストシラント国際空港/キング・カズタカ・インターナショナル・エアポート

 

「・・・・・来た!! 遂にオレに出番が回って来たんだ!!」

 

航空自衛隊、英連邦王国空軍、パーパルディア皇国空軍、そして民間機が共同使用しているエストシラント国際空港。その一角に設けられている航空自衛隊の戦闘機格納庫で喜びを爆発させる女性がいた。彼女は小栗闘子。皆からオグリと呼ばれ、会話文だけだと男と間違える、男勝りの戦闘機パイロットである。搭乗機はF15J。エストシラント国際空港配属前は沖縄県那覇基地所属であり、中国軍機に対するスクランブルにも対応していた。

 

「やれやれ・・・・オレは折角エストシラント市内で遊べると思ったのになあ・・・・」

 

彼女の同僚である男性の戦闘機パイロットは呆れながらも、準備を進める。彼は内闘也。皆からはウッチーと呼ばれる戦闘機パイロットである。オグリとバディを組んでスクランブルすることが多い。

 

「とにもかくにもロコール島へ出発だ!! 既にイギリス空軍のユーロファイターが向かってる!! オレ達も続くんだ! 歴史を作りに行くんだよ!!」

 

何故彼女がここまで張り切っているのか。それには訳があった。彼女は優秀な戦闘機パイロットではあるが、ことごとく出撃の機会に恵まれなかったのである。まず、日英が異世界転移して初の対外戦争となったロウリア王国戦では、沖縄県那覇基地の防衛戦力として待機。そのまま那覇基地で終戦を迎えた。続いて初の列強との戦争となったパーパルディア皇国戦では、エストシラント爆撃隊の護衛として出撃する予定になっていたが、運の悪いことに生理によるつわりが酷い日にぶつかってしまい、基地司令により交代要員が出撃。本人はそれでも出撃する気満々だったが、叶わず。彼女はアルタラス国際空港内の戦闘機パイロット用宿舎で悔し涙を流しながら寝込むことになった。

 

「あの日のような、ただ指を加えて寝込むのはもうウンザリなんだよ!! 何が何でも出撃してやる!! 休暇申請を偽造してでも!!」

「完全にワーカホリックじゃん・・・」

 

ちなみに、ウッチーはエストシラント爆撃隊任務の際、よりによってオグリの交代要員であった為に出撃している。地味にパーパルディア皇国軍騎をミサイルと機銃で合わせて5騎撃墜している為にエースパイロットでもあったりする、

 

「さて、行くとするか!! 待ってろよグラ公!! このオレが血祭りにあげてやるからよ!!」

 

防衛省はロコール島防衛戦力強化の為に、パーパルディア皇国に配備しているF15J戦闘機4機の派遣を決定。補給用の武器弾薬や整備士を乗せたC-130輸送機1機、C-2輸送機2機と共にロコール島へ出撃した。

 

「オレが新たな歴史を作りに行くんだ!!」

 

管制塔から離陸許可が降りると、ロコール島派遣部隊が順次離陸を開始する。

 

「あの日の再来だけは避ける!! リペリュー島もチャールズ諸島もオレが制空権を取り返してやる!!」

 

オグリの脳裏には、パーパルディア皇国戦の時の悔しい記憶が過る。

 

 

アルタラス国際空港イギリス空軍エリア

戦闘機格納庫

 

「司令! オレはいける・・・いけますから!!」

「ダメだ!! そんな顔色の悪いパイロットを出現させられるか!!」

「大丈夫ですから! ちょっと調子が悪いだけですから!!」

「黙れ!! つわりが酷いお前に死ねとは言えん!! 交代要員のパイロットを出す!! オグリは官舎に戻り、休んでろ!!」

「司令、呼びましたか?」

「よく来たなウッチー! オグリはつわりが酷く、出撃には耐えられない。彼女の代わりに出撃してくれ」

「あー、そういうことねー。分かりましたよ」

 

その後オグリは仲間の整備士や予備のパイロットらに諭されながら官舎に戻る。悔し涙を流し、ひたすら壁を殴り付け、ロッカーを蹴り飛ばす等、明らかに荒れていたという。

 

 

「出撃命令でエンジンが唸り出す度に耳に拳を詰め込みたくなったものだ・・・イーグル隊は、エストシラントで歴史を作った。そう思ってオレは泣いた。泣いて、拳を壁にぶつけ、ロッカーを蹴り飛ばした・・・」

 

後に彼女はグラ・バルカス帝国がムーへ本格侵攻した際にも海外派遣されるのだが、派遣先のムーでなんと、ムー空軍の爆撃機で無断出撃を繰り返し、空の魔女として、グラ・バルカス帝国臣民最大の敵として伝説になるのである。同時に彼女が駆る爆撃機の後部機銃手として何人かがワーカホリックの犠牲になるのだが、それはまた今度である。

 

「どうもその犠牲者(予定)です」

「ウッチーは好きで着いてきているので犠牲者ではない」

「まあ、それも一理あるかな~」

 

(続く)

 

 

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