日英同盟召喚   作:東海鯰

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本話は日本側の登場人物の一人、アキコの夫、シンの深掘り話です。ストーリーの大筋にはあまり関係のない話なので、スルーして頂いても結構です。では、どうぞ。


闇から光へ導く真の道

在りし日の神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス

駐神聖ミリシアル帝国日本領事館

 

「・・・・・じゃあ、この書類を処理しておいてくれる?」

「任せておけ! この僕を誰だと思っているんだ!! 僕は根布シン!! 美人有能外交官アキコの夫だぞ!!」

「どうも、美形無能元外交官の妻です」

「おい!!」

「半分は冗談よ」

「どっちが冗談なんだよ!?」

 

今日も相変わらず平常運転なアキコとシンの2人を廊下で見た領事館の職員達。各々思ったことを口にする。

 

「今日も相変わらず夫婦愛が凄いな」

「本当にな。羨ましい限りだぜ。それに比べてオレは・・・」

「鬼みたいな嫁に虐げられてるもんなwww」

「俺も根布領事みたいな嫁が欲しかったなあ・・・」

「それ本国にいる嫁に聞かれたらお前確実に死んでるなwww」

「でも、元駐メスマン帝国大使で夫で秘書官の大川(旧姓)さんもかなりの美形よね! あんたらみたいな残念な男と違って!!」

「確かに!! 大川さんみたいな美形の男、欲しいな~」

「でも、大川さん性格が終わってるからなあ・・・・」

「根布領事がいないと狂犬と化すからな」

「逆になんで領事はアレを扱えるんだ?」

「言われてみたらそうね・・・」

「確かに・・・考えたことなかったわ・・・」

 

領事館の職員達は、アキコが何故シンを夫に選んだのか。改めて考えてみるとさっぱり分からなかった。

 

「幼馴染みだから?」

「いや、それなら栄彰駐在武官の方が付き合い長いだろ」

「話によれば、海上自衛隊に幼稚園時代からの幼馴染みがいて、昔はお嫁さんになるとまで言ってたらしい」

「それなのに乗り換えたのか・・・・何故?」

 

職員達はあーでもない、こーでもない、と仕事をしながら議論を交わす。結局結論は出ず、アキコとシンの関係性は分からず仕舞いであった。

 

 

領事執務室

 

「・・・・シン、ちゃんと食べてる? 相変わらず細すぎよ」

「た、食べてるよ!! ただ、胃袋がちょっとばかり小さいだけだ!! 省エネ設計だ!!」

「そんなんじゃ私の秘書官は務まらないわよ。少しは食べる量を増やして、ちょっとは太くしなさい。というか、本当に細いのよシンは!!」

「・・・アキコは分かるだろう!! 僕は・・・・1日1食でも食べられれば御の字だったんだから・・・・」

 

アキコとシンは小学生時代のことを振り返る。

 

 

小学生時代のとある日の夜

 

「・・・・・はあ、今日はお茶漬けだけか・・・・」

 

小さな部屋のペラペラの布団でシンは非常に腹を空かせていた。元々はかなりの資産を両親はお爺さんから引き継いでいたらしい。しかし、パチンコや酒にタバコ、競輪に競馬に使いまくる父親とブランド物好きの母親は自分たちの子供であるシンには全く興味がなかった。

 

「・・・・・おまけに給食費すら払ってくれないから、給食も食べれやしないし・・・」

 

お爺さんが生きていた時は、お爺さんが代わりに世話をしてくれたが、小学生2年生になる直前にお爺さんが亡くなり、シンの唯一の味方がいなくなってしまう。唯一の救いは、両親がシンに全く興味がなかった為に暴力を振るわれることはなかったことだけである。毎日水道水で飢えを凌ぎ、1日一回出てくることがある残飯から食えそうな物をかき集めて何とか生きていた。一回市役所に駆け込んだことがあるが、行政は暴力の跡がないから、として何も対応をしてはくれなかった。他の家庭なら、逆上して虐待に至るのだろうが、シンの両親はそんな暇があるのなら自分たちの欲望を満たしたいと、放置。しかし、そんな両親の資金繰りは長くは続かない。やがて遺産を食い潰し、パチンコや競馬、競輪には大負け。何とかして取返そうと、禁断のミカドアイHD(当時は帝○グループ)から多額の借金をした。無論返済等出来るわけがない。両親は借金を返すために働くのかと思えば、数ヶ月毎に引っ越しをし、夜逃げに夜逃げを重ねる日々を選択した。無論学校も転校に転校を重ねた。

 

「明日からはこの羽田小学校か・・・友達なんて、夢のまた夢だろうな・・・・」

 

幼き日のシンは憂鬱と空腹の中眠りにつく。翌朝、たまたま残っていたバナナを1本食べた後にシンは羽田小学校へ向かった。

 

「・・・・仮に僕に接近する子がいたとしても、はね除けよう。僕と関われば不幸になる。不幸になるのは僕だけで良いんだ・・・」

 

ボロボロの服を纏い、ボロボロの黒いランドセルを背負いながらシンは小学校の中へと入っていった。風呂に関しては両親が制限したりすることはなかった為(むしろ最後に入れて、風呂掃除をさせていた)、服装の割には身体は綺麗だったのである。

 

「・・・・・初めまして・・・・大川真です・・・・」

 

簡単な自己紹介の後に、シンは座席に着く。その隣に座っていたのが後に妻となり、彼の人生の救世主となる根布昭子ことアキコである。

 

「・・・・・・・・陰口か・・・」

 

(最近転校して来たシンって子知ってる?)

(知ってる知ってる! 親が給食費払ってないんでしょ?)

(それだけじゃなくて、教科書とかノートも買って貰えないんでしょ?)

(裁縫が無駄に上手なのも、服を買って貰えないかららしいよ?)

(うわ~、汚な~い)

 

クラスの中でも完全に浮いていたシン。教室の後ろでは女子達がギリギリ聞こえるか聞こえないくらいの声量で陰口を叩く。

 

「仕方ないさ・・・むしろ、僕にすり寄らない方が良いんだ・・・」

 

図書館で借りた本を読み、自学自習に取り組むシン。まともな勉強道具のない彼にとって、図書館の本貸し出しは神のようなシステムだったのである。

 

「ま~た本ばかり読んでるの? シン」

「・・・・・」

 

隣の席であるアキコがシンの目の前に現れる。シンから見てアキコは不思議な存在だった。転校して来て以来、彼女は常に自分に寄り添う姿勢を示していた。その度にシンは激しく反発し、時には暴力まで使った。それでも彼女はシンに寄り添う姿勢を崩さなかった。一週間も経つと、彼女以外にシンに寄り添ってきた者達が皆彼を見放す中、アキコだけは変わらなかった。それどころか、彼女の友人を連れてきて引き込もうとさえしてくる。

 

「・・・・こんな僕に構う程君は友達がいないのか?」

「私は馬鹿に構う程暇ではないわよ」

「・・・・それは褒めているのか?」

「意味を理解出来てるじゃない。他の男子には無理だけどね」

「・・・・つくづく思うが、お前は変な女だ」

「それはどうも。ほら、ノートがないんでしょ?」

 

アキコは新品のノートをシンに差し出す。

 

「買ってきたから、これを使いなさい」

「・・・・・僕に構うな・・・・不幸になるのは僕だけで良いんだ・・・」

「そうやって意固地になるのは止しなさい。未来は自分の手で切り開くもの。決して生まれた時の待遇だけが全てじゃないわ」

 

最近のアキコはシンに対して露骨にすり寄る。様々な物品を融通してくれるようになった。放課後には彼女の男友達2人と共に遊ぼうと、無理やりにでも連れ出してくる。

 

「何故アキコ、お前はそんなに僕に寄り添うんだ・・・君程の人間なら、僕に構わない方が幸せになれるだろう・・・・君は国の将来を担う原石になり得ると思う。そんな君が・・・」

「可能性の原石を腐らせる方がもったいないわ。今日は私の家にいらっしゃい。今日は久々にお父様が帰って来たのよ」

「・・・・・分かった。分かったよ・・・・」

「素直でよろしい」

 

 

放課後

 

「なあアキコ」

「何? シン」

「その・・・・どうして手を繋ぐんだ? 正直恥ずかしい・・・」

 

授業が終わり、アキコとシンは彼女の家に行くことになったが、アキコはシンの手をがっちり握って離さないでいたのである。シンの力ではアキコの手を振りほどくことは出来ず、されるがままであった。

 

「こうでもしないと、逃げちゃうでしょ?」

「・・・・・恥ずかしいよ、アキコ・・・」

 

年頃の女の子と手を繋いだことなんてなかったシンは恥ずかしさのあまりに赤面する。

 

(アキコちゃんって変わってるよね? あんな男と最近付き合ってるし)

(まあ、アキコちゃんは学級委員長だから、職務に忠実ってことなのかな?)

(流石は昆虫研究の権威、根布博士をお父さんに持つ存在!! 頭だけじゃなくて、中身も一流!!)

(でも、シンってなんであんなに細いんだろ? 心配になるレベルじゃね?)

(確かに・・・でも、殴られた跡はないんだよな)

 

様々な言葉がシンの耳に入る。ほとんどの内容はシンに関する内容。皆の視線や考えな頭が痛くなる。

 

「着いたわ。さあ、上がって上がって!!」

「あ、いや、僕は・・・」

 

無理やり中に連れていかれるシン。やがて彼はアキコの私室に案内され、しばらく待ちとなる。

 

アキコの家

父親の研究室

 

「久々に帰って来たわね、お父様。今度はどこの国に行ってたの?」

「お! アキコ!! しばらく見ない間に大きくなったね!! お父様は昨日までボリビアにいたんだ!」

「じゃあ、サタンオオカブトの研究? ネプチューンオオカブトと同一の祖先を持つとされる」

「よく分かったじゃん!! 実際に現地で調べてみると新たな発見も多くて楽しいよ!! 生きてるホンモノのサタンオオカブトはカッコよかったよ!!」

「その裏でお母様は寂しがってたけどね」

「それは本当に申し訳ないと思ってるよ・・・でも、お父様世界各国から引っ張りだこだからさ・・・ところで、今日はどうしたの?」

「あ、話題変えやがった。でも、好都合ね」

 

アキコは父親に真剣な眼差しを向ける。これを見た父親も、何かあるな、と笑みが消える。

 

「一週間前に転校して来た子なんだけどね、明らかにおかしいの」

「おかしい? 何がおかしいのかい?」

「見れば分かるわ。ちょっと着いてきて」

 

アキコは父親を連れて自身の私室へと連れていく。

 

「何とか私には心を開いてくれつつあるんだけど、他の人には全く心を開かず、むしろ拒絶しているの」

「それは大変だね。アキコは学級委員長だったっけ? 学級委員長も大変だね」

「そんな悠長な話じゃないわ。これは人の生死に関わる話よ」

 

アキコは扉を開け、父親を中へと招き入れる。中ではシンが正座して待機しており、アキコとその父親のことをじっと見つめていた。

 

「・・・・・な、なんなんだこれは!!」

 

シンの異様な姿を見たアキコの父親はそう叫んだ。同時にシンの傍に寄り、あちこちを調べ始める。

 

「・・・・こ、こんな・・・・こんなことが許されて良いのか!!」

「・・・・アキコ、このおじさんは?」

「私のお父様よ。安心して、決して悪い人じゃないから」

「き、君!! 何が・・・ 何があったんだ!!」

 

アキコの同い年にも関われば、痩せ細った身体、つぎはぎだらけの衣服、教科書が一冊も入っていないランドセル、ボサボサの髪、ボロボロの手先・・・研究で全世界を飛び回り、中々自身の娘と一緒にいれる時間が作れない反動で、過剰と言えるくらい娘を溺愛している根布博士にとって、シンの姿は明らかに異常と写った。

 

「・・・・な、何も・・・」

「何もない訳がない!! 何もないならこんな身体にはならない!!」

「・・・・・・・・」

「どうしたのお父さん? そんなに叫んで・・・・え?!」

 

父親の叫び声を聞いたアキコの母親が駆け付ける。そしてシンの姿を見ると、父親と全く同じ反応をする。

 

「な、何があったのよ!?」

「いや、だから何も・・・」

「何もない訳ないじゃない!! お父さん、買い物よ!! これとアレとソレを買ってきて!!」

「じゃあお母さんは食事と風呂を!! クソ行政は何をやっているんだ!!」

 

アキコの両親は爆速で部屋を出ていく。あっという間の出来事にシンは理解が追い付かない。

 

「・・・・どういうわけだアキコ?」

「人間として扱われる日が来るのよ」

「はあ・・・・」

 

数時間後

 

「・・・・慣れないな・・・」

 

アキコの両親が急いで買ってきた服に着替えたシン。風呂にも入り、身体を綺麗にし、久々に温かい湯船にも浸かった。

 

「こうして見ると、シンってやっぱり美形よね」

「馬鹿にしているのか?」

「そう見える?」

「・・・・・・見えない・・・・」

「でしょ? 自分の顔に自信を持ってよいのよ」

「・・・・うん・・・」

 

その後、シンはアキコの母親が作った料理をご馳走になった。炊きたてのご飯とニラとソーセージの野菜炒め(醤油で味付け)、豆腐とワカメの味噌汁にミニトマトが出された。直ぐに作れる料理とアキコの母親は言っていたが、どれもシンにとっては見たことのない料理だった。

 

「・・・・・良いんですか? こんなご馳走を頂いて・・・」

「遠慮しないで!! むしろ痩せすぎだから!!」

「そうそう!! カロリーメイトしか食べれないくらい忙しい時期のお父様も真っ青なくらい痩せてるわよ! あんた!!」

「わ、分かりました・・・」

 

シンは炊きたてのご飯を一口口に頬張る。全員が固唾を飲んでシンの次の動作を見守る。

 

「・・・・美味しい・・・」

 

涙を流すシン。続けてニラとソーセージの醤油炒めを食べ、味噌汁を飲む。

 

「・・・美味しい、美味しいよ・・・」

 

お爺さんが亡くなって以降、温かいご飯なんて食べた日がなかったシン。涙が止まらないまま箸を進めていく。見ているアキコの両親も涙を流す。やがてシンは出された食事を完食し、アキコに連れられて彼女の部屋へ移動した。

 

「・・・・シン」

 

アキコはシンの隣に座る。

 

「確かに貴方は恵まれていないし、不幸かもしれない。そして、それを周りに漏らしたくない、弱みを見せたくない、自分と関われば不幸になるし、させたくない。そう思って、あんな他者を遠ざけるような態度に出た。違う?」

「・・・・・一言もお前に本音を話したことはないのに、何でわかる?」

「昔からさ、分かっちゃうのよ。相手の態度とか、仕草とか、行動でさ。口では強気でも、本当は助けを求めてたり、またはその逆とか」

「・・・・・相手の心が読み取れると?」

「完璧ではないし、それに分かりすぎることは必ずしも幸せではないわ。仲良しかと思ってた子の本音を知って傷付く時もあるしね。でも、そのお陰で私はシンの本音を理解することが出来た。同時に貴方を助けられるのは私しかいない、ってね」

「・・・・・この後どうする気だ? ボチボチ時間だから、帰らないといけないし・・・」

「それもそうね。じゃあ、貴方の家まで一緒に行くわ」

「・・・・・友達・・・だからか?」

「・・・・・貴方が望むのなら、私は貴方の傍に寄り添い続けるわ。友達としてね」

「!!」

 

こうしてシンは人生で初めて心を許せる存在が出来た。暗く、冷たく閉ざされていたシンの心が溶かされた瞬間でもあった。

 

 

「・・・・もうすぐ僕の家だ」

「そんなに遠くはないの・・・・ん?」

 

シンを家まで送り届ける為に同行していたアキコは異変に気付く。

 

「・・・・シン、つまらないことを聞くのだけど」

「なんだ?」

「・・・・シンの両親、○愛から借金してる?」

「何の会社かは知らないが、多額の金を借りてるとは聞いてる」

「じゃあ、アレはその筋の人達ね」

 

アキコが指差した先には、白服の連中がシンの家まで押し掛けてきていた。

 

「借りた金は返せ!!」

「いるのは分かってんだよ!!」

「出てきやがれ!!」

「・・・・能登川さん、駄目です。クズ共は出てこようとはしません」

 

現在の能登川はミカドアイHDのナンバー1幹部であるが、この時代はまだ現場で白服達を統率して借金の取り立てを行う立場にあった。

 

「そうか・・・だがいるのは確実なんだな?」

「それは間違いありません。我々の接近に気付いて照明を落としたのを確認しています」

「そうか・・・・ん?」

 

能登川は後方からの視線に気付く。

 

「子供?」

「お嬢ちゃんにボク? 今おじさん達はお仕事中だからさ、ちょっとどっかに行っててくれる?」

 

白服の一人が膝を屈めてアキコとシンに話し掛けてくる。

 

「・・・・アキコ、この人達って・・・」

「帝○の取り立て担当ね。シンの両親が借金を返さないから、実力行使に出たのね」

「ん? 両親?」

 

アキコの言葉が耳に入った能登川は部下の白服達を下げさせる。

 

「お嬢ちゃんの両親か? 借金を返さないのは?」

「私の両親はそんなことはしないわ。だけど、彼の両親はそんなことをしているみたいね」

(シン、あんたの家の鍵を私に渡して!)

(な、なんで?!)

(死にたくないなら早く!!)

 

アキコはシンに家の鍵を渡すように指示を出す。

 

「これがあの家の鍵よ。これを使えば借金を返さないクズを確保出来るわ」

「ほう! 見たところ、お嬢ちゃんは小学生かな? 小学生なのに物分かりが良いじゃないか。じゃあその鍵を」

「条件があるわ」

「は? 何を言っているんだクソガキ!!」

「良いから鍵を渡せ!!」

「一般白服は黙っていろ!! お嬢ちゃんは今、ワシと話をしている!! お前らとは話をしていない!! 下がれ!!」

 

能登川は部下達を黙らせる。

 

「部下が失礼をした。して、お嬢ちゃんの条件を聞かせて貰おうか」

「・・・・・・能登川さん、で良いわね? この後、シンの両親を連れていくつもりでしょ?」

「当たり前だ。借金を返さないクズ共に慈悲はない」

「・・・・・・その子であるシンはどうするつもり?」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

暫し沈黙。一方のシンは、自分の命運がアキコに懸かっていることを察して彼女に抱き着く。

 

「・・・・・・こんな小学生にも、親の借金を背負わせるつもり? 彼が借りた訳でもない金を?」

「・・・・・・そのつもりだ。下手に情をかけて逃がせば、資産隠しに使われかねんからな」

「その資産とやらがあるなら、とっくに逃げてるんじゃない?」

「・・・・・・何が言いたい」

「貴方は競争の激しい帝○グループの出世競争に勝ち、幹部になれる一歩手前まで来ている。この借金回収は絶対に実現させたい。しかし、シンの両親には何度も逃げられていて、失敗はもう許されない。今日失敗したら、僻地に左遷されるかもしれない・・・違う?」

「・・・・・・・(何故ワシの本音を!? このお嬢ちゃん、出来る!!)」

「取引をしましょう。この鍵を貴方にあげるわ。代わりにシンの身柄には一切手を出さない。それだけで良いわ。それ以上は何も望まないわ」

 

ちなみにこの時シンの両親は裏口から逃げるために準備中であり、直ぐにでも突入しないと不味い状況であった。そしてそのまま取り逃がせば、能登川の出世はかなり厳しくなる。

 

「・・・・良いだろう。何なら、シンとやらの私物にもワシらは手を出さん。それで良いか?」

「交渉成立ね」

 

アキコは能登川に鍵を渡した。

 

「本宮、この鍵で直ちに突入しろ!」

「ははっ!!」

 

白服達は鍵を使い、ドアを開けると一斉に突入していく。10分後には夜逃げ完遂一歩手前だったシンの両親をいれた楽器ケースが二つ持ち出され、トラックの荷台へと積まれていく。怯えるシンをアキコが優しく抱き締める。能登川は部下にジュースを買いに行かせ、2人に与えた。

 

「君は確か、シンと言ったかな?」

「は、はい・・・・」

「君は良き友人を持った。彼女がいなければ君は今頃あの楽器ケースの中だっただろう。救われた命を大切にすることだ」

「能登川さん! 準備完了しました!!」

「よし、連れていけ!! 残りは資産を確認の為に残れ!!」

「ははっ!」

 

その後、シンの両親の資産を現金化する為に残る白服らと共にアキコとシンは家に入る。

 

「男には資産という資産がねえなおい!!」

「まあ、女の方はブランド品を沢山持ってるみたいだし、全く資産がない訳ではないみたいだな」

 

白服達は資産を物色し、次々に段ボールへと詰め込んでいく。

 

「ん? あの子達は?」

「能登川さん相手に一歩も退かなかったお嬢ちゃんと、クズの両親の子か」

「しかし、能登川さん相手に一歩も退かずに交渉するとか、本当に小学生か? 俺ですら能登川さんに睨まれたら黙りしちまうのに」

「あのお嬢ちゃん、外交官に向いてるよな」

「何なら白服にスカウトしたいぐらいだわ」

 

 

「これで全部かい? シン君」

「はい」

「ランドセル1個に収まりきる程しか私物がなかったのね」

「能登川さん、これはどうしましょうか?」

 

白服が古ぼけた箱を持って入ってくる。

 

「中身は?」

「よく分かりませんが、乾燥しています」

「どれどれ・・・・・」

 

能登川は箱を開けると、それを直ぐにシンに手渡した。

 

「これは君と母さんの身体を繋いでいたへその緒だ。これは現金化出来ないし、取り上げるべき物ではない。これは君だけの物だ」

 

白服が見つけたのは、シンと母親を繋いでいたへその緒だった。全く育児をしなかったクセに、メモリアルな物だけは大切にしていたようだ。

 

「・・・・・」

 

シンは無言でそれをランドセルにしまった。確かに母親はクズかもしれない。だが、間違いなく彼女はシンの母親であり、シンのアイデンティティーの一つである。

 

「さて、これで本当に全部だな。お嬢ちゃん、君と彼を家まで送ろう。本宮、車を出せ」

「了解しました!」

 

その後、アキコとシンは黒塗りの高級車に乗り、能登川はアキコの家まで丁重に送った。初めて乗る高級車にシンは興奮し、アキコは冷静に能登川を見つめていた。

 

「アキコと言ったかな?」

「ええ」

「お嬢ちゃん、彼のことを幸せにしてやってくれよ。如何に○愛と言えど、本当は彼のような小学生を不幸にしたくはないのだ。救えるのであれば、救ってやりたい。ワシはそう思う」

「如何に白服と言えど、人間。約束しますよ、能登川さん。私、根布昭子はシンを幸せにするわ」

「うむ。クズの両親に関してはワシに任せておけ。それが仕事だからな。さて、着いたぞ」

 

車を降り、2人は能登川に感謝の意を伝える。能登川は2人に手を振り、車は何処かへと走り出す。

 

「能登川さん、本当によろしかったのですか?」

「構わんのだ本宮。元々ワシは幼子に手を出したいとは思っておらん。むしろ体裁よく幼子を処理できて助かったぐらいだ」

「しかし、あの少女、かなり手強いと感じましたが・・・」

「ああ。流石は昆虫研究の権威、根布博士の一人娘だ。博士譲りの頭脳を有している。それだけではない。彼女は相手の考えを、心の裏を先読み出来る。ワシの本音を当ててきた時は驚いた。あれは優秀な外交官になれるな。彼女が望めばな」

「そうですか・・・しかし、これで能登川さんの出世は確実です。部下として、誇りに思いますよ!!」

 

 

「さあ、入ろう? シン!」

「・・・・うん!」

 

帰宅後、今まであったことを包み隠さずアキコが両親に伝えると、両親は再び泣いた。が、すぐに泣き止むとシンを根布家に迎え入れることを約束。養子縁組が当初考えられたものの、将来的にシンをアキコの婿養子とすることが、この時に決定。将来アキコと結婚することが確定していたことをシンは知らなかったものの、異世界転移後にそれが実現し、本当の家族になるのである。

 

「シン、これからはずっと貴方と一緒よ」

「うう・・・・アキコ・・・・」

 

ちなみにシンが根布家に迎え入れられ、アキコの両親に最初にして欲しかったことは、頭を撫でて貰うことだった。今まで本当の両親から全く愛を注いで貰ったことはなく、公園で他の子が親から頭を撫でて貰っているのを見て、憧れがあったのである。

 

「よしよし、いい子いい子。よしよしよし」

「・・・・・・・もっと・・・・」

「こんなに可愛い子を放置するなんて・・・しかもこんなに痩せ細って・・・逆によく死ななかったものだ・・・」

 

アキコの両親はシンを実の子であるかのように可愛がった。相変わらず他者には攻撃的な一面はあるが、アキコとその家族、友人らには心を開いた。基本的にシンはアキコと行動を共にしており、アキコのストーカーではないか?と、ヒロシが本気で心配した程である。

 

 

体育館裏

 

「なあ、アキコ」

「何よヒロシ」

「お前ストーカーされてんのか? シンってヤツに」

「ストーカー? されてないけど?」

「いや、明らかにシンはお前に執着してんじゃん。異常なくらい」

「だってシンは(結婚するまでは)私の家に居候の身なのよ。行動を共にくらいするわよ」

「いや、なら施設にいれろよ。何で引き取ってんだよ」

「いろいろ事情(将来婿養子として迎え入れる)があるのよ。貴方も私以外の女を探したら? 初恋は実らないのよ?」

「幼稚園の時約束したじゃん」

「本気にする馬鹿いる?」

「ここにいる」

「・・・・・・呆れた(まあ、成長したら私以外の女を見つけるでしょ)」

 

ちなみにこの婚約により、アキコの幼馴染みヒロシは小学生の時点で静かに失恋していたのだが、アキコはヒロシに婚約の事実を伝えることはなかった為、ヒロシは涙目になるのである。

 

 

神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス

駐神聖ミリシアル帝国日本領事館

 

「伝えない方が面白いってもンだからな!!」

「まあ、小学生時代に実は婚約してますだなんて言っても理解されないし・・・そもそも幼稚園時代の話を本気にしてるとは思わなかったし・・・」

「全くなンだよな!!」

「という訳でアキコは僕のモノだ!! 従妹なら僕のことを少しは敬え!!」

「お姉様に拾われなければ地下強制労働施設で死んでたクセに!! 貴方がいるから私はお姉様を独占出来ないのよ!!」

「・・・・あの2人はどうにかならないかな・・・・アイをヒロシかケント辺りに引き取って欲しいんだけど・・・・」

「まあ、無理だな!!」

「はあ・・・・アイに相応しい旦那を私が探さなきゃいけないのかしら・・・・」

 

ちなみにアキコのスマホの待ち受け画面は、小学生時代、自宅前で撮ったアキコとシンのツーショット写真である。

 

「お? 昔のシンじゃン」

「この頃のシンは私には従順で可愛かったのよね~。次第に反抗したり、わざと困らせるような行動を取るようになったけど」

「好きな子の気を引くために嫌がらせをするってヤツか」

「私はそれが分かるから良いけど、他の子からは縁を切ったら?って言われてたのよね~」

「分かりすぎることが幸せだとは思わないで欲しいってお前はよく言うもンな」

「他の子からはニュー○イプとか言われたわね」

「そいつは初代好きかな?」

「いい加減アイは姉離れしろよ!! というか、あくまで親類関係なだけで半分くらい他人だろうが!!」

「完全な他人に言われたくないわよ!!」

「喧嘩する程仲が良いって言うけど、本当にアイツらはそうだから困るのよね」

「問題児ばかりで困るな、流石は猛獣使い」

「やれやれ・・・・」

 

 

イギリス領ニュー・ホンコン

歓楽街のとある日本料理店

 

「ヒロシ先輩、今でもアキコ先輩が好きなんですか?!」

「だって幼馴染みだし、可愛いし、頭も良くて、中学校時代は三年連続合唱コンクールで指揮者だぞケント? ビールおかわり!!」

「いや、確かにアキコ先輩は文武両道の素晴らしい方ですけど、シン先輩と明らかに出来ていたのは誰の目から見ても分かりましたけどね。ああ店員さん? 僕のもお願いします」

 

新しいジョッキが運ばれてくる。既にヒロシはビールを4杯飲んでおり、顔は真っ赤だ。ちなみにケントは今から2杯目である。

 

「いい加減諦めてくださいよ~。初恋は実らないって、アキコ先輩も言ってたじゃないですか~。素直にアキコ先輩とシン先輩の幸せを願いましょうよ!!」

「嫌だ!! あの女神を、小学生時代男か女か分からない見た目のあんな男に渡したくない!!」

「でも、シン先輩は将来根布家の婿養子になることを前提に引き取られた訳ですし、アキコ先輩は納得してた訳で、ヒロシ先輩がどうこう言う権利はないんじゃないんですか?」

「理屈では分かってる! 分かってるけども!! シンに負けたことになるじゃん!!」

「勝ちも負けもないですよ。というか、そんなにアキコ先輩と親類になりたいなら、従妹のアイでも嫁に貰ったら良いじゃないですか!!」

「ああ?! 俺はアキコが良いんだよ!!」

「・・・・これは重傷だなあ・・・流石の軍医の僕でも特効薬はないなあ・・・・」

「とにかく今日は飲む!! 金は出すから、小中の先輩に付き合えよ!!」

「先輩の金で飲む酒は旨いので歓迎ですよ!! 吐きそうになったら任せてくださいね~。すみませ~ん! 餃子とチャーシュー2つずつ!!」

「アキコ・・・・! アキコ・・・・!!」

「失恋するって、こんな感じなんだなあ・・・(しみじみ)」

 

この日ビールを10杯飲んでべろんべろんに酔っ払ったヒロシは、軍医にして小中の後輩のケントに担がれる形で滞在先のホテルに帰ることになる。なお、今回ヒロシは有休消化と気晴らしを兼ねてわざわざオラパ諸島ロコール島からニュー・ホンコンに旅行に来ていた(オラパ諸島では娯楽がなく、定期便がイギリス領ニュー・ホンコン行しかない)のだが、翌日にはロコール島に帰り、その次の日からはまた長官としての業務が再開されるのである。

 

「・・・・・失恋した男の気持ちなんて、アキラにも分からないさ・・・」

「アキラ先輩はアキコ先輩の近くにいれるのに、ヒロシ先輩は離ればなれですからね」

「何で俺は常に貧乏くじを引かされるんだよ!!」

「ピアノを弾けないから?」

「お前も弾けないじゃん!!」

「でもシン先輩は弾けたんで。しかも中学校三年生の時は、アキコ先輩は指揮者賞、シン先輩が伴奏者賞、そして2人のいる3年4組が最優秀賞を授賞してましたからね。まあ、僕のクラス2年1組はアイが伴奏者賞の二枠目をなんとか抑えましたけど、ヒロシ先輩は指揮者賞の二枠目すら取れませんでしたからね! ちなみに獲得したのは、アイの親友のリョータ君だったなあ・・・今、彼は何してるんだろ?」

「古傷を抉るな!!」

「しかもあのシン先輩がクラス全員から胴上げされるって言う感動的なシーン、その後涙ぐむシン先輩をアキコ先輩が優しく抱き寄せる・・・今でも覚えてますよ!! 確か、卒業DVDに収録されてたはずですよ!! 僕、アキラ先輩のDVD見たことあるんで!!」

「可愛くない後輩だー!!」

「そろそろ未来を見据えて、前に進みましょうよ!! ちなみに僕の名字は未来ですよ!!」

「だからなんなんだよー(泣)!!」

「未練タラタラで逆にヒロシ先輩も可愛いっすね~」

 

失恋したヒロシの未練はまだまだ続く。

 

「ちなみにヒロシ先輩のクラス、3年2組の点数はギリギリ3年4組に勝てなかったらしいっすよ!! あと指揮者賞も、ヒロシ先輩はギリギリでリョータ君に負けてたらしいし」

「何で裏事情知ってるんだよお前・・・」

「教師と仲良くしてると、いろいろ聞けちゃうんですよ。テストの傾向も分かるようになるし。まあ、医師免許だけは実力以外無理だけど」

「ところで頭痛いんだけど・・・」

「酒の飲み過ぎっすね。薬出しときますわ」

 

(続く)

 




ニラとソーセージの醤油炒め、昔よく母親が作ってた料理なんですが、馬鹿旨いんですわ。
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