日英同盟召喚   作:東海鯰

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今回は、ヒロシの後輩にして遊び相手の医官、ケントの深掘り話です。ちなみに中の人のお気に入りは、

1位:アキコ
2位:シン
3位:ケント

だったりします。


戦場の天使

日本国神奈川県横須賀市

海上自衛隊横須賀基地医務室

 

「はあ~、そうやって医務室でおさぼりですか? ヒロシ先輩?」

「さぼりじゃねえよ! 今日は頭がいてぇんだよ!!」

「まあ、ここ最近酷使されてましたからね、無理はないですね」

 

ケントは過労と判断し、ヒロシをベッドに寝かせる。

 

「そう言えば思ったんだけどさ」

「どうしたんですか? ヒロシ先輩」

「お前の階級って、1佐じゃん?」

「そうですね、羽田1等海佐」

「・・・・・ヒロシ先輩で良いよ・・・」

「その方が僕も楽です」

「機を取り直してだけどさ、何でケントは1佐なんだ? 俺より後に入って来ただろ? いくら医官とは言え、出世早くない?」

「ああー、それですか? 生きて帰ってこれたからですね」

「生きて帰ってこれたから?」

「あまり公には出来ないんですけど、僕1年間ウクライナに行ってたんですよ・・・それで2階級特進したんですよ。正確には3階級ですけど」

「・・・・・え?」

 

嘘だろ・・・?という顔をするヒロシ。

 

「本当ですよ。まあ、そこで知り合った友人は僕の手の中で死んでしまうんですけどね」

「さらっと怖いこと言うなよ!!」

「事実ですから・・・それが戦場です」

 

ケントはあの日を振り返り、それをヒロシに語り始めた。

 

 

2022年2月24日

日本国神奈川県横須賀市

海上自衛隊横須賀基地隊員向け宿舎

 

「・・・・遂にやりやがったか・・・」

 

非番の為宿舎で休息をとっていた未来ケント。この時の彼の階級は1尉。そろそろ3佐に昇格出来るかなという状況だった。

 

「まあ、俺がやることは変わらないのだろうけど」

 

次の瞬間、ケントの部屋に隊員がやって来る。ドアをノックし、ケントを呼び出す。

 

「未来1尉、司令部より呼び出しです」

「わかった。着替えるから暫し待ってくれ」

 

数分後、着替えたケントは呼び出しに来た隊員に連れられ、横須賀基地司令部に出向く。

 

「未来1尉をお連れ致しました」

「うむ、ご苦労。下がってくれ」

「ははっ!」

 

司令部は司令官とケントの二人きりとなる。ケントは直立不動で死を見つめる。

 

「緊張しているか?」

「はい」

「まあ、そうだろうな。なに、君が何かやらかしたとかではない」

「では、何故でありましょうか?」

「うむ。君は、ロシアによるウクライナ侵略が始まったことは知っているな?」

「はい。先ほどニュースで見ました」

「そうか。ならば話が早い」

 

司令官は辞令を直接ケントに手渡す。そこには書かれていたのは・・・

 

「一年間休職し、ウクライナにて義勇兵として医療支援を行え・・・・砲弾の飛び交う最前線に派遣すると?」

「ああそうだ。未来1尉、君はこの横須賀基地で一番優秀な医官だ。故に、本当の戦場を経験して来て欲しいのだ」

「・・・・それは、来るべき中国との軍事衝突に備えてのことですね?」

「察しが良いじゃないか」

「そういうことでしたら、拒否する理由はございません。未来1尉、ウクライナに行って参ります」

「うむ。だが、念のために言っておく。形式上、我が国は義勇兵をウクライナには派遣していない。故に君は休職中に独断でウクライナに渡航した、という扱いになる。殉職ならまだしも、捕虜になることだけは避けるように」

「・・・・かなりの無茶振りですね」

「・・・・出来るか?」

「出来ます」

「そうか・・・・既に手配は完了している。一年後、横須賀に帰って来れたら君を2階級特進させ、1佐にすることを約束しよう。形式上は3階級だが、そもそも間も無く3佐になる予定だったしな」

「では、準備の後に言って参ります」

「うむ、頼んだぞ」

 

こうして僕はウクライナに行くことになった。まず、羽田空港からドイツのフランクフルト国際空港へ。そこから鉄道でポーランドに向かい一泊。翌日、ポーランドとウクライナの国境を他の義勇兵達と共に鉄道で越えた。

 

 

ウクライナへ向かう列車の車内

 

「ヘイ! ジャパニーズ!!」

 

ケントは陽気な黒人男性に話し掛けられる。ケントは英語が話せる為、難なく返す。

 

「こんにちわ。貴方はどこ出身ですか?」

「俺はボブ! アメリカ出身さ!! これからロシアの糞ヤロウをしばいてやるのさ!!」

 

如何にもアメリカ人らしいボブ。見たところ、退役軍人のようだった。

 

「僕はケント。医者だよ。ウクライナでは医者として戦うのさ」

「おお! これは凄い!! お医者様に出会えるとはな!! もし俺が怪我したら治療してくれよ!!」

「お前が生きていればな。戦場を舐めない方が良い。NATOと違い、ウクライナでは常識は通用しないだろうからな」

 

こいつ遊び感覚で来てるな?そう感じたケントはキツく忠告する。

 

「ジャパニーズは心配性だな!」

「ふん・・・・」

 

やがて列車はウクライナ西部の街、リヴィウに到着。そこで義勇兵らはウクライナ軍当局に義勇兵としての登録手続きを行う。

 

「・・・・最前線に行かされるとは思っていたが、行き先はキーウか」

 

ケントが派遣されることになったのはウクライナの首都キーウ。この頃、ロシア軍はウクライナの首都キーウを陥落させるべく侵攻中であった。

 

「当に最前線。死にもの狂いで戦う兵士らが僕のところに送られてくる・・・」

 

 

2月27日ウクライナ首都キーウ

 

「・・・・・せ、先生・・・・俺は・・・・助かるん・・・ですか?」

 

ウクライナの首都キーウに到着したケントはその日の内から負傷者の治療に当たっていた。ミサイルが飛び交い、着弾して大きな揺れが起き、パラパラ天井から塗装が落ちてくる。何時天井が崩れるのか・・・という恐怖と戦いながら負傷者の治療、そしてトリアージを行っていく。

 

「そんなに元気に喋れているんだ。貴様は大丈夫だ」

 

ケントは日本語、英語、ドイツ語、ロシア語を話せるバイリンガルである為、負傷者達には英語、またはロシア語で答えていく。

 

「・・・・少々我慢しろよ!」

 

傷口に消毒薬をつけ、適切な治療を行っていく。

 

「次だ次!!」

 

日に日に増える負傷者。中には運ばれてきた段階で助からないと分かってしまい、治療をしないという判断をせざるを得ない場面もあった。医官として、医者として助けられない、見棄てるしかないことは非常に辛いものがあった。中には、

 

「ニホンのお医者様! お願いいたします!! 私の息子を助けてください!!」

 

まだ小さな子供がそれに該当し、今のように助けて欲しいとその子の母親から懇願されたこともあった。

 

「・・・・・申し訳ない・・・貴方の息子はもう助かりません・・・」

「お願いいたします!! どうか、どうか!!」

 

ケントの白衣を掴み、必死に懇願する女性。ケントは後ろ髪を引かれる思いだったが、医官として、物資が限られている戦場において最善の策を打たざるを得ない。

 

「・・・・・次の患者を」

「先生! 先生!!」

 

泣き崩れる女性を他の医師に任せ、ケントは他の患者の治療に当たる。

 

「先生、ボクは助かりますか?」

 

この日、ケントが最後に治療した若い兵士。容姿端麗で、髪は肩まであり、一見男か女か分からないぐらいの美形の男性だった。

 

「大丈夫ですよ。脚を撃ち抜かれていますが、歩けなくなる程ではありません」

 

適切な治療を手際よくこなしていくケント。

 

「・・・・しかし、アンタ日本人だろ? 何でこんな遠く離れたウクライナまで来たのかい?」

「・・・・祖国の為だよ」

「・・・・なら、ボクと同じだね。共に祖国の為に戦う。ボクは兵士、君は医官」

「まあ、そうなるな。君、名前は?」

 

ウクライナでは基本的に患者に名前を聞いたりしなかったケントだったが、不思議とこの患者には強い関心を寄せた。

 

「ボクはハルーシャ。本当の名前はグルーシャなんだけど、ウクライナ語読みでハルーシャさ」

「・・・・聞いていて、どうもロシア語訛りの英語だと思った。自分、ロシア語も話せるが、そっちの方が良いか?」

「いや、このままにしてくれないか? ボクはロシアを強く憎んでる。ロシアのせいで、家族はバラバラになったんだ・・・夢も諦めなきゃいけなくなったんだ!!」

 

怒気を強めるハルーシャ。この日はそこでお開きとし、後日また会う約束をした。中々互いの都合が付かず、会えない日々が続き、ようやく会うことが出来たのは3月31日のことだった。

 

 

2022年3月31日ウクライナ首都キーウ近郊ブチャ

 

「あれだけ攻め込んでいたロシア軍を撃退。もう露助はキーウに攻め込めないだろうな」

「ああ。ボクらウクライナ人の強さを、クレムリンは思い知っただろう」

 

ロシア軍が撤退し、ウクライナ軍はそれまで占領されていたブチャに進軍。医官であるケントは、怪我から驚異的な早さで回復し、友人関係となったハルーシャと共に装甲車でブチャの道路を進んでいた。長期に渡りロシア軍に占領されていた為、負傷者が多数いると思われることから、医官を派遣することになったのである。

 

「・・・・しかし、気になるので聞くが」

「何がだ未来1尉」

「ハルーシャ軍曹、君は確かロシアのせいで家族がバラバラになったと言っていたが、何があった?」

「・・・・・胸糞悪くなるが、誰かに聞いて欲しい内容でもある」

 

ハルーシャはわなわなと震えながらハンドルを握っている。

 

「ボクは元々ロシア語話者なんだ。ソ連時代にウクライナに移り住んだロシア系ウクライナ人で、実家はサンクトペテルブルクにあり、かつてのボクの家はルガンスクにあった」

「やはりか。明らかにロシア語訛りだったしな」

「それだけならまだ良いんだ。問題は!! クソババアもクソジジイも、ウクライナ人でありながらロシアのクソハゲを信奉しているんだ!!」

 

ロシア系ウクライナ人であるハルーシャ。その両親も当然ロシアと密接な繋がりがある。しかし、あまりにもロシアと密接な関係過ぎた。彼らはウクライナ人でありながら、ロシアへの併合を強く望み、ウクライナ語を家で話すことは当然禁止。それどころか、ハルーシャに対してウクライナ人と交流することを制限しようとした(お前もウクライナ人なのに)のである。当然、ハルーシャはこれに強く反発。西側の価値観に触れ、親欧州派のハルーシャとソ連時代を懐かしむ親ロシア派の両親は激しく対立した。また、ハルーシャは昔からスノーボーダーとして活躍しており、海外に行くことも多々あったが両親は、

 

「お前はロシア人なんだ。優勝したら必ずロシア国旗を掲げろ」

 

と要求。しかし、ハルーシャはこれに従わない。

 

「ロシアの血が流れていても、ボクはれっきとしたウクライナ人だ!! ロシア人ではない!!」

 

ロシア語でまくし立てる両親に対して、ハルーシャはウクライナ語で返答。親子の対立は修復不能なレベルにまで達した。そんな中、ロシアはクリミア半島併合、ドンバス地域にロシア軍を進出させ、ウクライナの主権侵害を繰り返すようになる。憤るハルーシャは、スペインで開催されていたスノーボードの大会で金メダルを獲得すると、

 

「ロシアの侵略者共はウクライナの大地から出ていけ!!」

 

とカメラの前で激怒。それもロシア人に意味が伝わるようにロシア語で発言した。これを見た両親は激怒。そもそも親ロシア派の両親は、ドンバス紛争ではロシア側に味方していた。更にハルーシャの兄はドンバス紛争ではドネツク人民共和国の兵士として参戦しており、家族の中ではハルーシャは異端扱いであった。この時、ハルーシャは元々の名前であるグルーシャを捨て、ウクライナ語読みのハルーシャに変えている。

 

「そしてクソハゲはウクライナに侵略しに来た。ボクは祖国を守る為に夢を捨て、今こうして兵士として戦っている。未来1尉、こんなボクをどう思うかい?」

「・・・・・・何て答えて欲しい?」

「・・・・・・ふっ、サムい質問だったね」

「そんなことより、車を停めてくれ。死体が見える」

「何?!」

 

二人は装甲車を停め、車外に出る。銃で完全武装した隊員もぞろぞろと後部ハッチから降りてくる。

 

「・・・・・駄目だな。既に死んでる・・・死後3週間程経過しているな」

 

各地に放置された死体を見てケントは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「・・・・ロシアめ! 民間人を虐殺とは・・・・卑劣な真似を!!」

 

現場にいる隊員全員の気持ちを表現するかのように叫ぶハルーシャ。その間にケントは黙々と発見された遺体の状態を確認していく。

 

「・・・・生存者はいない。しかし、常任理事国がこんなことに手を染めるか・・・」

 

生存者はいたかを聞きに来たウクライナ軍兵士に首をふるケント。他の部隊もロシア軍により虐殺された民間人の遺体を多数発見。ケントは表向きは冷静を装っているが、内心激怒していた。

 

(これだから露助は信用出来ないんだ・・・しかし、中国が沖縄や台湾を攻撃すれば、この程度では済まないだろう。日本にいる他の医官達は、こんな生き地獄に耐えられるだろうか・・・)

 

 

「マジかよ・・・あの虐殺現場に立ち会ったんだ・・・・お前・・・」

「あれは酷いものでしたよ。はっきり言って、地獄です」

「でも、よくノイローゼにならずに帰って来たよなお前」

「不思議と何も感じなかったんです。恐らくは、キーウ攻防戦で助からない兵士や民間人の魂の叫びを聞きすぎて、感覚が麻痺していたんだと思います。同時に、ここまでは助かる、ここからは助からないも分かるようになりましたが」

「正直嫌じゃない? 怪我人の選別、謂わばお前が生殺与奪を握ってた訳で」

「別に。それが仕事、それが日常だったので。同時に日本は平和でよい国だと実感しましたよ。病院に行けば当たり前に治してくれる。ちょっと調子が悪ければ休めばいい。ウクライナではそうは行きません。僕自身、体調の悪い日もありましたが、休んでる暇なんてありませんでした。それこそ、ロシアは民間人をわざと狙い撃ちにしますから、休暇中にその場で救急対応もザラでした。クソみてえな国ですよ、ロシアは」

「・・・・・・それで、ハルーシャってヤツとはどうなったんだ? 死んだのか?」

「少なくとも僕が帰国するまでは生きていましたよ。切り離された今は分かりませんが・・・・」

 

 

2023年3月24日ウクライナ西部リヴィウ

 

「ケント・・・君と今日でお別れか」

 

1年間の休職期間が終了し、本国に帰国するケントを見送ろうと、ハルーシャはウクライナ西部の街リヴィウまで出向いていた。

 

「ハルーシャ、わざわざリヴィウまで来てくれてありがとう」

「礼を言うのは此方だ。君がいてくれたからボクは地獄のような戦場を生き抜くことが出来た。怪我をしても治療してくれる親友がいる。それだけでかなり違うものさ」

「ハルキウ奪還戦に僕を無理やり連れていった男だ。覚悟が違う」

 

ハルーシャは陸上部隊の一員として参戦。この時引き続きキーウで医療現場に従事していたケントを、無理やり連行。部隊の医療班の一員として参戦させたのである。

 

「ガチの最前線、毎日が死と隣合わせなのに不思議と恐怖は感じなかったな」

「そこがケントの凄いところだ。自分の使命を全くする為なら恐怖を打ち消せる。流石はボクの親友だよ」

「でもお前が怪我して運ばれてきたことはなかったけどな」

「おいおい、親友が怪我して喜ぶヤツなのかケントは?」

「んな訳あるか、馬鹿が」

「そんなこんなで、お前とは一年間一緒にいたわけだが、心強かったぞ!!」

「・・・・なんだかんだでハルーシャ、君と共に過ごした日々は濃密だった。生涯忘れることはないだろうな」

「最後にこれを」

 

ハルーシャはケントに一枚の写真を手渡した。それは、奪還したハルキウ市内で撮られた、ケントとハルーシャのツーショットである。

 

「・・・・ありがとうハルーシャ。この写真、生涯の宝になるだろう」

 

ケントとハルーシャはその後抱き合い、最後の別れを惜しんだ。この日の午後、ケントはポーランドに向け出国。ドイツを経由し、東京の羽田空港に降り立つことになる。

 

 

「それで医務室にお前と見知らぬ男のツーショット写真が大切に飾られているのか・・・それに話を聞くまではお前の彼女かと思ったし・・・」

「まあ、無理はないですね」

 

その後、疲れが出たヒロシは医務室のベッドで暫し眠りについた。その間、ケントはハルーシャとのツーショット写真が入った額縁を手に取る。

 

「・・・・今、ウクライナはどうなっているのか・・・ハルーシャはどうなっているのか・・・・神はなんて残酷なのだろうか・・・そして僕は、なんて無力なのだろうか・・・」

 

窓から横須賀基地を見つめるケント。基地には灰色に塗られた美しい軍艦が鎮座している。ウクライナで経験した戦場と比べれば、圧倒的に平和。平和過ぎて欠伸が出るレベルだ。異世界転移後も、日本本土が攻撃されたことはなく、攻撃されたのは本土から遠く離れたオラパ諸島のみである。

 

「・・・・・あんな胸糞もあったな・・・」

 

 

ウクライナ軍が奪還して間もないハルキウ市街

 

「酷いもんだ・・・」

「ロシアは相変わらずロシアだ・・・あんなクソハゲを熱烈信奉するボクのクソジジイとクソババアは、これを見て何を思うのか・・・」

「正義のロシア軍は、卑劣なるネオナチウクライナの拠点を破壊した、としか思わないだろうな」

「・・・・・・悔しいが、そうだろうな」

「・・・・・・死んでるな」

 

ケントとハルーシャは他の兵士らと共に慎重に進む。何処にロシアの敗残兵が潜んでいるかも分からない為、ケントでさえ拳銃で武装している。

 

「拳銃なんて、久々に握ったな。全く、握るのはメスにさせてくれよ」

「ケントは我が隊のブラックジ○ックだからな」

「ブラックジャ○クは医師免許ないから僕は○ラックジャックにはなれないけどな」

「ハルーシャ隊長、生存者を発見!」

「・・・・・・」

 

ケントの視線が別のところに注がれる。

 

「Не двигайся!(動くな!)」

 

ケントは腰に下げていた拳銃を抜き、ロシア語で叫ぶ。ハルーシャも異変に気付き、小銃を構える。

 

「Мы знаем, что ты там! Сдавайся!!(そこにいるのは分かっている! 投降しろ!)」

 

すると、建物の瓦礫の中からロシア兵が姿を現す。

 

「Бросайте оружие!!(武器を捨てろ!)」

「Сложите оружие и сдавайтесь!!(武器を捨てて投降しろ!!)」

 

ケントとハルーシャはロシア兵に銃口を向けると共に、降伏を勧告する。騒ぎを聞き付けたハルーシャの隊員も続々と駆け付ける。

 

「・・・Все кончено!!(もうおしまいだ!!)」

「愚か者めが!!」

「馬鹿やろうが!!」

 

自爆する気だと気付いたケントとハルーシャは即座に発砲。手榴弾を使われる寸前でロシア兵を撃ち殺した。

 

「・・・・・・逃げ送れたんだろうな」

「しかも見たところ、かなり若い兵士だ。訓練そこそこに戦地に送られたんだろうな」

「・・・・・・辛いな」

「・・・・・・ああ、辛い」

「戦争を起こすのは偉い人と、それを煽る、または煽られた国民。しかし、犠牲になるのはこうやって力のない者達。この兵士は、地方の貧しい町の出身なのだろうな」

 

倒したロシア兵の遺留品から、彼の境遇について考えるケントとハルーシャ。彼の遺体を適切に処理する為に記録を取る。

 

「さて、生存者はどこにいる?」

 

ハルーシャは隊員に中断してしまった生存者発見について確認する。

 

「・・・・・・赤ん坊・・・・?」

「隊長、私が救出に」

 

破壊された民間車両。中には殺された男女の遺体と、泣き叫ぶ赤ん坊の姿がある。ハルーシャの配下達は急いで赤ん坊を助けたくて仕方ない様子だが、それをハルーシャは止める。

 

「・・・・これはロシアの罠だ。救出はボクとケントがやる。お前達は周囲を警戒しろ。いつまた敗残兵が自爆して来るか分からない」

「了解!!」

「ケント、お前なら分かると思うが・・・」

「ああ、あれは罠だ。だが、赤ん坊は助けねばならない。慎重にやるぞ」

 

ケントとハルーシャは破壊された民間車両に近付く。幸い、周囲にロシア兵はいない。二人は慎重に赤ん坊の周囲を調べる。赤ん坊は大きな声で泣き叫んでいる。今にも抱っこしてあげたくなる、その気持ちを抑えながら二人は調べていく。

 

「・・・・やはりな」

「クソロシアめ・・・こんな赤ん坊まで利用するとは・・・!!」

 

調べてみると、やはりと言うか、巧妙に手榴弾が隠されていた。それも赤ん坊を抱き上げるとレバーが外れ、細工した信管が起爆するようにセットされている。知らずに本能で抱き抱えていたら間違いなく死んでいただろう。

 

「戦争犯罪を平気でする。まあ、これが戦争なんだけどね」

「平和を愛する日本人ですら麻痺しているな」

「そりゃあ、こんな地獄を毎日見せられたらねえ。しかも、将来的には日本人が巻き込まれるんだ。嫌になるね」

 

二人はそんなことを言いながら慎重に爆弾を外していく。

 

「・・・・・よし、行ける!! ハルーシャ!!」

「おうよ!!」

 

無事爆弾の解除が完了し、ハルーシャが赤ん坊を抱き上げる。元気に泣く赤ん坊の救出に成功したことを知った彼の配下の兵士達は皆、歓喜の声を挙げる。

 

「・・・・・健康状態には問題ない。あとは速やかに後方に送るだけだ」

「しかし、この子も可哀想だな。両親はおそらく・・・・・」

「ああ・・・・」

「あそこで爆死させて、両親の元に送るべきだったのか・・・・考えてしまうな・・・・」

「分かるよ、その気持ち・・・」

 

後日、ケントとハルーシャはウクライナの首都キーウに呼び出された。ハルキウ奪還作戦に従事し、赤ん坊の救出に成功した功績をウクライナ大統領自らから讃えられたのである。義勇兵として、医官として参戦しているケントも同じく大統領から勲章を授与される。ただし、日本政府は建前上義勇兵を派遣していない為、公になることはなかった。

 

 

「この勲章は今でも大切にしている・・・僕とハルーシャの二人で勝ち取った勲章だ」

 

ケントは机の引き出しから、ウクライナ大統領自らから与えられた3等功労勲章を取り出す。

 

「・・・・ハルーシャ、君は今でも戦場にいるのかな?」

 

ケントは永遠に切り離されてしまったウクライナの盟友のことを想う。

 

「・・・・何もないと良いんだけどね」

 

後に東京でグラ・バルカス帝国による卑劣な攻撃が起きることをこの時ケントはまだ知らない・・・・

 

「ウクライナに栄光あれ。Слава Україні!」

 

 

ウクライナ首都キーウの病院

 

「・・・・・聞こえる・・・盟友の・・・僕のことを想う・・・声が・・・」

 

激戦地バフムトの戦いで負傷し、後方に送られたハルーシャは病院のベッドで聞こえるはずのないケントの声が聞こえた。

 

「・・・・・聞こえるなら、今のウクライナについて聞いて欲しい。日本とイギリスが消えたことで、ロシアはウクライナへの侵略を強化。黙ってみていられなくなったフィンランド、スウェーデン、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、ドイツは、止めるフランス、イタリアを無視してウクライナに進駐。NATOの主力であるドイツ軍とポーランド軍がウクライナの味方として参戦した。アメリカは日本がいなくなり増長した中国を叩き潰すために、強いアメリカを見せつける為に空母打撃群を編成。中国が台湾に侵攻したことで、太平洋でも戦闘が開始。まさに地球は第三次世界大戦だ。幸いにも、核兵器は使用されず、互いに核をちらつかせるに留まっている。近々、アメリカと中国は和平交渉を始め、戦争終結に向けて話し合うらしい。一方のロシアはウクライナを消し去るつもりだ。だが、ドイツ軍とポーランド軍が参戦したことで、ロシアは追い詰められている。へルソンは完全に取り返し、ザポリージャも間も無く取り返せる。だが、戦争は終わりそうにない。そしてボクは右足を喪った。だが、それでもボクは戦うつもりだ。祖国の為に、ウクライナの栄光の為に! Слава Україні!」

 

 

地球世界の雑な流れ

 

 

ロシア「え? 日本とイギリスと愉快な仲間たち(カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)が消えた? ウクライナを攻め落とすチャンス到来や!! そしてウクライナを消した後はバルト三国にフィンランドに、モルドバ、ルーマニアや!!」

 

ドイツ・ポーランド「「もう許せねえからな!!」」

 

ロシア「ファッ!?」

 

ドイツ・ポーランド連合軍、ウクライナ国境を超えてウクライナ進駐を開始。フィンランド、スウェーデン、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ブルガリアが支持を表明。ウクライナは歓迎。

 

フランス「オーノー! アルマーニュが暴走してしまったざんす!!」

 

イタリア「ぱすたあ」

 

道路三国「「「ええ・・・・」」」

 

ドイツ・ポーランド「「死にさらせクソロシア!!」」

 

アメリカ「武器をドイツに売り付けたろwww」

 

中国「台湾攻め込むわ」

 

アメリカ「は? 空母打撃群送りつけるわ」

 

台湾海峡で軍事衝突発生。双方に甚大な被害。

 

アメリカ「和平しないか?」

 

中国「和平しよう」

 

米中和平交渉成立。なお、ロシアは損切り出来ずに戦争中。

 

 

 

「・・・・・なんか、ハルーシャからそんな感じの話が聞こえてきた気がする・・・・地獄としか言いようがないけど・・・」

 

ケントは勲章を机の中にしまう。そして、もう一枚の写真を取り出す。そこには、ウクライナ大統領をセンターに、左はケント、右はハルーシャが立っている写真があった。

 

「・・・・・ハルーシャ、未来はきっと美しいよな・・・」

 

ケントは続けてハーモニカを取り出し、帝都高速度交通営団(営団地下鉄)のイメージソング「未来よ君は美しい」を演奏する。地獄のようなハルキウの戦闘中、何度もケントはハーモニカでこの曲を演奏しており、二人のイメージソングにもなっていた。

 

(未来よ君が見えてくる 嬉しい手招きしてるから 未来よ君は美しい 陽射しの微笑み 弾かせて)

 

「・・・・・ケント~、何の曲?」

「お目覚めですか? ヒロシ先輩。帝都高速度交通営団もとい、営団地下鉄のイメージソング、未来よ君は美しい、ですよ」

「帝都高速度交通営団? 営団地下鉄?」

「今の東京メトロですよ。僕は帝都高速度交通営団の方がカッコよくて好きですけどね」

「へえ~」

「ちなみに違うバージョンもありますよ」

「というか、お前ハーモニカ弾けたんだな」

「医者になる為の試験でストレスマッハだったので、息抜きで始めたら、何かはまってしまったんですよ」

「・・・・ケントも大変だったんだな」

「さて、元気になったなら、サボりは止めて、現場に帰ってください。後でまたお話なら聞きますから」

「へいへい」

 

後日、未来1佐のハーモニカ演奏会が開かれ、彼の意外な趣味に皆は驚いたそうです。

 

(続く)




他に深掘り話を読みたいキャラがいましたら、感想をお願いします。あまり設定を深く考えてないキャラもいたりしますので。

タクマ「僕達出番なくない?」
ケイ「出しにくいから仕方ないじゃない・・・」
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