神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス
世界の富が集まり、異世界の・・・いや、魔法文明の頂点に立つ国、神聖ミリシアル帝国。その帝都は他国の誰もが驚くほどの高層建築物が立ち並び、初めて帝都を見た者は、その国力に圧倒される。しかし、それは過去の話。もし東京やロンドンを見た後に帝都を見た者には、東京やロンドンには及ばない、横浜や仙台、札幌と同等ぐらいの都会にしか見えないだろう。そんな栄華を極めし都の中心で、世界の行く末を決めるであろう会議が始まろうとしていた、神聖ミリシアル帝国皇前会議が。国の要人がひれ伏し、世界一の国力を持つ皇帝が姿を現す会議が開催されようとしていた。
「これより皇前会議を開催いたします」
司会が会議の開始を宣言し、皇帝がゆっくりと話し始める。
「余は・・・・許せない事がある」
ゆっくりとしたその口調に、明らかな怒りがにじみ出る。
「我が民を・・・愛すべき神聖ミリシアル帝国の臣民を無差別に殺した・・・そしてカルトアルパスを攻撃し、世界の長たる神聖ミリシアル帝国の顔に泥を塗り、世界会議でさえ踏みにじったあの国・・・・奴らは異世界より出現したらしいが・・・この世界を舐めきっている!!! 余はこの世界の長として、この世界を多大に侮辱したグラ・バルカス帝国に神罰を下す!!」
静かな会議室に、皇帝の怒りが響き渡る。ちなみに当のグラ・バルカス帝国は、イギリスによる核攻撃で帝都ラグナと港町ケンタウリが大きな被害を受けている。
「我が国を長として、中央世界及び第2文明圏で世界連合軍を組織し、旧レイフォル沖合に展開するグラ・バルカス帝国の艦隊を滅し、ムーに援軍を送り、第2文明圏から奴らを叩きだす!!! その後体制を立て直し、奴らの本土・・・帝都を焼き払え!!! ・・・・・・・では、会議を始めよう」
すでに皇帝の意志は決まっている。グラ・バルカス帝国への攻撃は、この皇帝の言葉で決定したようなものであるが、会議は始まる。参加者は国家運営の幹部たちが顔を揃え、その中には
外務大臣 ぺクラス
外務省統括官 リアージュ
国務大臣 シュミールパオ
国防省長官 アグラ
が含まれていた。国防省長官のアグラが手をあげ、話し始める。
「陛下、すでに軍は第1、2、3艦隊の派遣準備が完了しており、陛下のお言葉1つで出撃可能です。第4~7艦隊については、現在準備中ではありますが、1~3艦隊の出撃後、本土防衛用に残しておきたいと考えます」
外務省統括官リアージュが手を挙げ、アグラに尋ねる。
「アグラ殿、第零式魔導艦隊及び各国の外務省護衛艦隊はグラ・バルカス帝国の空母機動部隊に敗れている。3つの艦隊で戦力は足りるのでしょうか? 各国の戦力は実質的に形だけのものであり、あてにしない方が良い。次に敗れた場合、我が国の信用失墜につながります。そしてそこを突くようにグレートブリテン及び北アイルランド連合王国が我が国の覇権を脅かしに来るはずです。かの国は、明らかに我が国のことを下に見ており、現時点では敵対関係にはないものの、中立国であったムーに中立政策を放棄させ軍事同盟を締結。更には他の第二文明圏国家に対して、我が国に対して何の断りもなく、連合王国国王の名においてグラ・バルカス帝国に味方するなと警告する等、この機に乗じ、我が国が築き上げた国際秩序を破壊し、世界の覇者たる地位を奪い取ろうとしているのは明白!! 今はグラ・バルカス帝国対策として、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国とムーの同盟は我が国にプラスとなるが、事が片付けば同盟は我が国に対する包囲網として大きなマイナスとなる!! 戦後にグレートブリテン及び北アイルランド連合王国を第二文明圏から排除し、少なくともムーとの同盟を破棄させる為にも敗けは許されませんぞ!!」
日英とムーの軍事同盟締結。第二文明圏各国は日英の安全保障関与を歓迎し、ニグラート連合やマギカライヒ共同体も近々日英と同盟を締結する見込みとなっていた。日英陣営に挟み撃ちされる格好、かつてのアメリカ合衆国となりつつある状況に、神聖ミリシアル帝国外務省は強い不快感を示しており、戦後処理においては同国主導で行い、更には日英と第二文明圏の同盟破棄、そして日英同盟の解消も求めるつもりであった。続けて外務大臣ぺクラスが発言する。
「警戒するべきはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国だけではありません。日本国も同様に警戒しなくてはなりません。グレートブリテン及び北アイルランド連合王国とは違い、日本国は非常に温厚かつ親切なお人好し国家ではありますが、その笑顔の裏では経済的侵略を行っている。既にカルトアルパスでは日本製品で溢れかえり、戦後復興に乗じて日本方式の設備が続々と立ち並ぶようになっている。フリードリッヒ市長は完全に日本国に籠絡されており、我々の忠告を聞こうとはしない。まるでカルトアルパスは日本の領土にでもなったのかと疑うような光景だ。分かりやすく軍事力を振りかざすグレートブリテン及び北アイルランド連合王国より、笑顔で毒を仕込む日本国はかなりたちが悪い国です。むしろ、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国を利用し、影から世界の覇者になろうとしているのではないか? そう危惧せざるを得ません。日英同盟を解消させ、仲違いさせたいところですが、我が国が負ければ、敵がいなくなった日英に取り込まれ、従属を強いられる。そういう未来もあり得るのです」
リアージュとぺクラスの懸念にアグラが答える。
「外務省の懸念は承知しております。政治的な話はさておき、第零式魔導艦隊は確かに新鋭艦で編成されていたが、数が少なかった事と、敵の航空戦力に対して上空支援が無かった事が敗因と考える。敵の航空攻撃による被害は甚大であり、航空戦力に関しては今回の戦訓を活かす必要があると感じているが、それらと敵のレイフォル沖の艦隊規模を考慮して、1、2、3艦隊で十分に足りると判断したのだよ。1、2、3、艦隊には、天の浮舟を運用するための空母もあるし、大型魔導戦艦も多数配備されている。また、ムーからは最新鋭の艦載機を搭載した空母を派遣するとも言ってきている」
「ところで、今回の作戦については中央世界と第2文明圏で編成され、第3文明圏は外すという事でよろしいのかな?」
リアージュがアグラに確認する。彼は国益の為にも、日英が参加することはないことを確約して欲しいようであった。
「各文明圏といっても、実質的に我が国が主力となるでしょう。世界の連携という意味合いで連合軍は組織しますが、戦力として数える事は出来ない。今回は早期殲滅という陛下の御意志もあり、早急に敵海上戦力を滅する必要性があることから、来るだけでも時間のかかる第3文明圏を除外しています。ただ・・・」
「ただ?」
ぺクラスがアグラに問う。
「いえ、ニュー・ホンコンに駐在する武官から、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、独自の手段でグラ・バルカス帝国本国に攻撃を仕掛けたのではないか?との情報が入っているのです。現在国防総省で分析中ではありますが、本当であればグレートブリテン及び北アイルランド連合王国はわざと艦隊を派遣しなかったのではないか?とも考えられ・・・」
「この際、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の思惑等よい。喫緊の課題はグラ・バルカス帝国だ。よもや、我が国がグラ・バルカス帝国に負ける事はあるまいな?」
会議のやり取りを聞いていた皇帝が口を開く。彼は続ける。
「本戦いは、単に文明圏や文明圏外国、そして列強とそれに反する国の戦いではない!!! 魔法すら持たぬ者たちの国が、魔導文明の頂点に立つ我が国に仕掛けた戦いなのだ!!! 魔導文明が試されているのだ!!! 軍務大臣!!決して負けは許されぬぞ!!!」
「ははーっ!!!」
軍務大臣シュミールパオと国防長官アグラは皇帝にひれ伏すのだった。皇帝は他の者に聞こえぬようにつぶやく。
「場合によっては古代兵器・・・・海上要塞パルカオンの使用も考慮せねばなるまいな・・・・」
イギリス領ニュー・ホンコン
ニュー・ホンコン総督府
「して、彼らの技術力は解ったの?」
ニュー・ホンコン総督のアオイは、技術解析を行っていた日英のジェットエンジン技術者達から報告を受ける。傍らにはハルトが控え、日本語と英語の通訳もこなす。
「ハル兄は日本語も話せるのね」
「日本人の友人がいたからね。僕の知らない言葉で陰口を叩かれては困るから、勉強したんだよ」
「そう・・・それじゃあ、解析結果をお願いするわ」
「はい、彼らがどうやって技術力を得て来たのかも、何となくですが解ります」
「説明してちょうだい?」
第三国経由で奇跡的に入手出来た神聖ミリシアル帝国の、魔光呪発式空気圧縮放射エンジン、そのうちの1つを解析していた日本の技術者が説明を開始する。
「神聖ミリシアル帝国の魔光呪発式空気圧縮放射エンジンですが、構造上多くの部分でジェットエンジンに似ています。エンジンの燃焼方式と材料は大きく異なりますが・・・ジェットエンジンに使用されているような素材としての耐熱技術は無く、魔法により部材を強化する事により、熱や圧力に耐えうる素材まで昇華させているようです」
技術者である自分が魔法などという言葉を使っている事に、違和感を覚えながら彼は報告した。
「ジェットエンジンに似ているにしては、エンジン性能がかなり悪いようだけど?」
アオイは彼に疑問を呈す。
「そうなのです。実はバイパス比の比率が無茶苦茶なのです。バイパス比、ターボファンエンジンにおいて、エンジン本体の周りに空気を送り込む事により、出力と効率を大幅に向上させます。しかし、ここが全く話にならないレベルの構造です。おそらく発掘した技術に頼りすぎている・・・といった所でしょうか。部分的に構造を理解していても、何故その形になっているかが理解できていないため、神聖ミリシアル帝国の技術力の底が見えます」
「技術の本質を理解していないという事?」
「はい。前世界の中国に、技術としてはある意味似ているのかもしれません。昔、中国のモーターショーに行った事があるのですが、その中に日本車を完全にコピーしている車があり、それの出来は良いのですが、中国独自の車となると、ドアを開く時、途中で止まらない・・・いきなり全開になったり色々と無茶苦茶な所がありました。形は模倣出来るが、何故その形になったのかを理解していないという意味において、同じです」
「なるほどね。仮に神聖ミリシアル帝国のエンジンのバイパス比を適正化したとして、そのエンジンの技術レベルはどう思う?」
「材料が魔法により強化されるので、どの程度強化出来るのかにもよりますが、おそらく少なくとも1970年代に先進国で開発されたジェットエンジンと同程度の技術は持っているものと推定されます。発掘されたものが最新式とも限りませんので、古代文明は、さらに上の可能性も当然ありますが」
「ミリシアルの戦闘機の形についてはどう思う?」
ここでイギリスの技術者が発言する。
「初歩的な航空力学は独学でもっているのだと思います。戦闘機のノーズ部分等、部分的に先進的なのに、翼型だけは古臭かったりするので、自分たちなりに考えつつも遺跡を解析していく、といったところでしょうか?」
「なるほどね・・・そうなると、グラ・バルカス帝国が実効支配するレイフォルへの攻勢は失敗しそうね」
「あの程度の技術力では、第二次大戦中の日米に大きく劣るでしょうから、そうなるでしょうね。ムーが新型の艦載機を搭載した空母艦隊を派遣するそうなので、ボロ敗けはないでしょうが、神聖ミリシアル帝国の威信は失墜するでしょう」
その後、様々な装備や技術に関する報告が行われ、日英の技術者たちの考察は続く。
東ロウリア王国 王都ビーズル
ビーズル城執務室
「では、神聖ミリシアル帝国が惨敗したというのは本当なのか?!」
東ロウリア王国国王ハーク・ビーズル・ロウリアは家臣からの報告を確認する。
「各方面からの情報と照合しましたところ、間違いないようです。更には日英の情報では、壊滅したのは神聖ミリシアル帝国精鋭の第零式魔導艦隊であるとも!!」
「なんと! 世界最強の艦隊を撃破したというのか!! して、その国は!?」
「グラ・バルカス帝国と名乗る国であるそうです。世界に宣戦布告しており、従属を世界に要求して来ております」
「そうか。例え日英と言えど、世界最強の神聖ミリシアル帝国には敵うまい。その神聖ミリシアル帝国が惨敗した。バスに乗り遅れてはならぬ!! 直ちにグラ・バルカス帝国に使者を送れ!! 我が国、ロウリア王国(東ロウリア王国)はグラ・バルカス帝国に従属する!! グラ・バルカス帝国の力を借りて、西ロウリアを名乗る不届き者を成敗し、亜人を絶滅させるのだ!!」
「ははっ!! 直ちに!!」
神聖ミリシアル帝国がグラ・バルカス帝国に惨敗したという報せを受けた東ロウリア王国は、グラ・バルカス帝国への従属を決定。直ちに使者をレイフォルへ派遣した。東ロウリア王国を出た使者は、福岡県に本部を置く暴力団に多額の資金を提供する見返りに偽造パスポートを入手しており、5日後にはレイフォルに到着。使者はシエリアに謁見し、従属と支援を申し入れた。グラ・バルカス帝国は、日英の間近に拠点が作れるのは好都合であるとして歓迎。基地の建設と兵士ら軍属の治外法権を条件に、東ロウリア王国への支援を確約した。こうして東ロウリア王国は世界で初めてグラ・バルカス帝国に従属を表明した国家となったのである。
中央世界文明国 アガルタ法国
魔法研究において、神聖ミリシアル帝国と肩を並べるほどの質を有する国、アガルタ法国。神聖ミリシアル帝国が、古の魔法帝国の遺産解析に重きをおくのに比べ、このアガルタ法国は、人間や亜人達が使える魔法レベルの研究が盛んであり、個人の魔法能力育成にも力を入れているため、同じ魔法研究が盛んな国といっても中央世界の中でも文明形態がかなり他国と異なる。高度な魔導師になると、ホウキで本当に空を飛ぶ。ただし、空を飛ぶ行為は相当に魔力を消費するため、航続距離も短く、もろに風を受け、最高速度も大して出ないため、ワイバーンに乗る方が楽という事で、あまり実用する者はいない。そんなアガルタ法国の首都オシアトスで法王を前に国家の行く末を左右する会議が行われていた。
「では、神聖ミリシアル帝国は世界の主力ともいえる中央世界と第2文明圏の総力を結集し、旧レイフォル沖合に展開するグラ・バルカス帝国の海軍に対し、総攻撃を行う事とし、我が国にも海軍の差出を求めているのだな?」
長く、白い髭を生やした法王が、服の上からでも確認できるほどの筋肉を持ち、黒ひげを生やした猛者、軍王に問う。
「そうでございます。我が軍は外交官護衛の艦隊がグラ・バルカスによって沈められておりますがゆえ、これは良い弔い合戦となりましょう」
世界の主力艦隊といっても差し支えないほどの、連合軍が、世界最強の国の音頭の元に結成される。この軍に中央文明圏の雄として、参加しないわけにはいかない。外交官護衛艦隊は、グラ・バルカス帝国の奇襲によって敗れたが、今回行われたのは奇襲であり、さらに神聖ミリシアル帝国は、地方隊しかいなかったため、惨憺たる戦果となったが、中央世界の強国たちが準備に準備を重ねた主力艦隊で挑めば負けるはずがない。そのような認識が会議場へ広がっていた。そのような雰囲気の中、魔導技術大臣が話し始める。
「しかし、大丈夫なのでしょうか?奇襲とはいえ、グラ・バルカス帝国は我が国を含めた強国の艦隊を殲滅しています。第2文明圏の列強国、ムーでさえ空母機動部隊が敗れています。ムーの艦隊は神聖ミリシアル帝国ほどでは無いにせよ、他の文明圏強国と比べて圧倒的な強さを誇っていたにも関わらずです。我が国の海軍主力ともいえる魔法船団も、ムーやその他の国があまりにもあっさりと沈んだため、やむを得ずに試作段階の艦隊級極大閃光魔法を使用せざるをえなかった。今は亡きパクタール艦隊司令が艦隊級極大閃光魔法の使用に踏み切ったのは、それ以外の対空兵器だとグラ・バルカス帝国の飛行機械を落とす事が出来ないと判断したからかと思います」
魔導技術大臣の言葉を聞いて、外務大臣が手をあげ、話し始める。
「魔導技術大臣殿、確かに彼らは侮れず、強いだろう。しかし、彼らの要求を、戦いもせずに飲む訳にもいかない事も解るだろう。今回の戦いは圧倒的侵略者と世界の戦いなのだ・・・。ここで勝たねば、この程度の敵に勝つ事が出来なければ、来るべき古の魔法帝国が復活した時、我らは家畜となり下がるだろう。相手の強さとは関係ない。今回仮に戦いに参加しなかった場合、世界は我が国を弱小国とみなすだろう」
様々な議論がなされ、中央文明圏アガルタ法国は、神聖ミリシアル帝国と共に戦う事を決定した。
日本国沖縄県尖閣諸島魚釣島近海
グラ・バルカス帝国第2潜水艦隊所属
潜水艦ブラックムーン
キツネ目の男が潜望鏡をあげ、1つの船を見つめていた。付近は昼間であり、周囲は青く晴れ渡っている。
「ふふふ・・・見つけたぞ・・・日本軍の艦船だ。我が国の矢は東の果て・・・・日本まで届くという事を、知らしめてやらねばならぬな」
この世界にある数多の無人島、そこに作られた燃料補給のための秘密基地を数カ所経由して、ようやく日本国近海にたどりついたグラ・バルカス帝国の誇る潜水艦ブラックムーンは、潜望鏡深度まで浮上し、日本国の艦船と思われる船を発見した。彼らは中央世界に対して通商破壊作戦を開始する予定であり、その前段階として、一番遠い日本国近海であってもグラ・バルカス帝国の刃が届く事を世界に知らしめるため、この世界に存在しない船、潜水艦で日本国近海までやって来たのだった。
「艦長・・・・彼らが哀れですね。彼らは何が起こったのかもわからず、いきなり撃沈される事となるのです」
副長が、今から沈むであろう日本の艦船と、その乗組員を憐れむ。尤も、彼らはアルタラス王国で潜水艦を撃沈され、ニュー・ホンコンでは強制浮上を強いられた後に拿捕されていること、そして第三文明圏における秘密基地は既にイギリスを中心とした国々により制圧されていることを知らない。
「皇帝の御意志だ、仕方あるまい。我々は帝国の力を世界に知らしめる先鋒となる。同じ転移国家である日本国に対しても圧倒的に強く、そして帝国にとってはこれほどの距離でさえ無意味なものという事を世界に知らしめる・・・さあ、攻撃を行うぞ」
艦長が手を挙げる。潜望鏡の先の日本の艦船はゆっくりと移動し、こちらには気づいていないだろう。いや、潜水艦という概念の無い国において、潜水艦に気付けという方が酷なのかもしれない。
「前部魚雷発射管、注水開始」
音をたて、前部1番、2番の魚雷発射艦に注水が開始される。
「ん?」
潜望鏡を覗いていた艦長が、日本の艦の異変に気付く。加速を開始しているようにも見えた。
「発射準備完了」
「まさか気付いたか? しかし、もう遅い!!!! 魚雷発射ぁ!!!」
魚雷発射管に入った海水を後方へ押し出し、魚雷のスクリューが回転し始める。無誘導の魚雷は雷跡を引きながら、眼前の敵に向かって発射された。
日本国海上自衛隊第2護衛隊群所属
護衛艦たかなみ
「あれは何処の国籍の潜水艦だ?」
艦長の高波は、副長に疑問を呈す。
「解りませんが、あれだけの大音量を発し、しかもこれだけ至近距離で潜望鏡深度まで浮上している所を見ると、隠れるつもりがない・・・・つまり、敵対の意志は無い可能性があります」
2日前に、嘉手納基地を離陸したニュージーランド空軍の哨戒機により探知された大音量を発する潜水艦、それが日本国沖縄県尖閣諸島魚釣島の近海にいる事が判明したため、防衛省は護衛艦「たかなみ」、「はるさめ」の2隻を派遣。護衛艦たかなみが接近し、様子を窺っていた。
「イギリス海軍からの情報では、グラ・バルカス帝国の潜水艦である可能性が高いとのことですが、何しろ情報が不足していますからね・・・」
イギリス海軍はニュー・ホンコンにてグラ・バルカス帝国の潜水艦を鹵獲することに成功しており、技術解析の結果を日本側にも提供していた。この為、この不審船はグラ・バルカス帝国の潜水艦である可能性が非常に高いが、この世界はまだあまりにも解っていない事が多く、まだ日本やイギリスが接触していない他国の潜水艦である可能性も否定出来ず、潜水艦に関する国際的な条約が日英を除き無かったため、日本国政府は国籍の解明を防衛省に指示。敵対行動をとる様であれば撃沈する事も許可し、「たかなみ」と「はるさめ」を現地へ派遣した。同時にイギリス政府に対して、日英同盟に基づき支援を要請。要請を受け、イギリス空軍とニュージーランド空軍が現場海域にP1哨戒機を、カナダ海軍がフリゲート艦「ユーコン」、オーストラリア海軍がフリゲート艦「ダッチェス」(もがみ型のカナダ海軍、オーストラリア海軍仕様)を試運転を兼ねて展開し、海と空から監視を行っていた。当の品人たちが知らないうちにに潜水艦ブラックムーンは日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドに包囲されていたのである。
「既に不審船は日英艦隊が包囲。更に外側には海上保安庁の巡視船も展開中。どうでるか・・・」
護衛艦「たかなみ」が現地へ近づくにつれ、大音量を上げながら潜望鏡深度まで浮上し、どう考えても隠れているようには見えなかったため、彼らは潜水艦の行動が理解出来ずにいた。
「相手は何がしたいのだ? まさかあれで隠れているというつもりでもあるまいに・・・・」
「そのまさかだったりして・・・・」
艦長と副長がそんな会話をしていた時だった。
「!! 注水音を探知!! 魚雷発射管に注水を行ったと思われます!!!」
驚くべき報告が入る。あれは我が方に攻撃をしようとしている!!
「機関全速!!! 周辺艦艇にも通達しろ!!」
総出力6万馬力を発するガスタービンが唸りをあげ、大きな水泡を後方に噴出し、船を一気に加速する。
「不明艦魚雷発射!!!」
潜望鏡深度まで浮上していた国籍不明の潜水艦から雷跡が護衛艦たかなみに向かい伸びて来る。
「くそっ!! ん!?」
魚雷は護衛艦たかなみについてくることなく、真っ直ぐにひたすら前進する。
「魚雷、無誘導と判明、雷跡は我が方の後方を通過!」
「イギリス空軍のP1哨戒機、爆雷を投下します!!」
上空で追跡していたイギリス空軍のP1哨戒機が爆雷を投下する。あくまで浮上させることが目的であり、命中しないが恐怖を与える範囲で爆発させる。
「敵潜水艦、急速潜航!!」
「逃げるつもりか!! 短魚雷を発射せよ!!」
護衛艦たかなみの側面についた魚雷発射管から海へと魚雷が射出された。
グラ・バルカス帝国第2潜水艦隊所属
潜水艦ブラックムーン
「魚雷、外れました!!」
「くそっ!! なんて加速性能だ!!! 帝国の駆逐艦を凌駕しているかもしれない!!」
艦長は率直な感想を述べる。
「敵の哨戒機が接近!! 爆雷を投下する模様です!!」
直後に付近で複数の爆発音が響く。爆雷は命中しなかったものの、潜航しなければ本当に直撃する可能性がある状況に、艦長は急速潜航を決定する。
「クソッタレ!! 哨戒機を展開させていたとは!! 逃げるぞ、急速潜航!!!」
艦がゆっくりと潜行を開始した。直後に護衛艦たかなみから短魚雷が放たれる。僅かな時間を置いて・・・・
ピコーン……ピコーン
「!!!!!!!」
水中音を聞いていた帝国兵は、明らかに聞き覚えのある音が聞こえ、戦慄する。
「て・・・・敵! 探信音を発しています!!!!!」
「探信音だと!? 馬鹿な!! 帝国で開発中のものを、日本ごときがもっているはずが・・・・
ピコーン……ピコーン……
不気味な高い音が、明らかに船内でも聞こえる。日本国が探信音を放ったという事は、かの国にも潜水艦がある可能性が出て来る。これは帝国の今後の戦略に大きく関係する可能性があり、艦長は情報をもって必ず生きて帰ると決意した。
「近づいて来る? これは・・・・魚雷!!? 魚雷です!! 魚雷が探信音を発しながら近づいてきます!!!」
「潜航中だ、どうせ当たらん!!」
「い・・・いえ、敵魚雷は向きを変えながら、我が方に近づいてきます!!! 魚雷がついて来ているのです!!!!」
「ば・・・ばかな!! そんな高性能な兵器があってたまるか!! 機関全速!! 何としてでも回避しろ!!!!」
不気味な探信音はなおも近づく。音は明らかに近づいてきており、船員全員が、恐慌状態に陥った。海中に光がほとばしる。高圧を受けたグラ・バルカス帝国の潜水艦は鉄が砕け、内部を水が覆いつくす。一瞬にして失われた内部の空気、中にいる人間は水圧に耐え切れず、潰れていく。魚雷による爆圧は圧力の弱い上に向かって逃げ場を求めて駆け上がる。やがて、海上に大きな水柱を噴出させた。
護衛艦たかなみ
「国籍不明艦、圧壊。沈んでいきます」
「報告書が大変だな。これより浮遊物の回収作業に移る。周辺の艦船を集結させよ」
同海域での衝突後、海上自衛隊、海上保安庁、カナダ海軍、オーストラリア海軍は周辺海域にて浮遊物の回収作業を実施。数日後には日英で共同開発した新型の無人潜水艇が到着し、水中調査を実施。回収した浮遊物や、海底に沈んだ残骸等から、グラ・バルカス帝国の潜水艦と断定。また調査中に海上保安庁の哨戒ヘリコプターが魚釣島にて人影を発見。グラ・バルカス帝国が魚釣島に補給基地を設置していたことが発覚。補給基地で待機していた基地要員3名を不法入国、銃刀法違反の疑いで海上保安庁・沖縄県警が逮捕した。
中央世界神聖ミリシアル帝国
港街カルトアルパス
グラ・バルカス帝国による奇襲攻撃により、多くの船が沈んだ。しかし、反撃もここから始まる。中央世界の強国からかき集められた艦隊が港に集結していた。その数はあまりにも多く、壮大であり、港の民にも勇気を与える。民衆は考える。この艦隊に、神聖ミリシアル帝国の第1、2、3艦隊までもが加わり、圧倒的戦力をもって礼を知らぬ蛮族、グラ・バルカス帝国の艦隊を滅するのだろう。民衆たちの見守る中、艦隊はさらに集結し続ける。
「シン、貴方は何隻が生きて帰って来ると思う?」
「ここにはいないが、ムーの空母5、フリゲート艦が4、軽巡洋艦が10、駆逐艦が6、巡洋艦が12、戦艦が4、補給艦5ってところじゃないか?」
「ムー以外は全滅ってことね。まあ、そうなりそうだけど」
この日は久々の休日だった日本領事館領事のアキコと彼女の専属秘書官のシンは私服姿で、カルトアルパスの港を見下ろせる灯台に来ていた。端から見れば完全にデートである。ちなみに身長はアキコの方が僅かに高い。
「こうしてシンと二人きりで街を歩くのは、イギリス留学以来じゃないかしら?」
「何時もアキラかヒロシかアイがいたもんな。しかし、久々にアキコのミニスカート姿を見たな」
「昔はよく履いてたんだけど、歳をとった今じゃ流石にキツイからね。でも、シンは此方の私の方が好きでしょ?」
屈託のない笑みを最愛の夫に送るアキコ。シンは恥ずかしくなり、顔を赤くしてうつむく。誰もいない、半ば貸し切り状態の夕方の灯台で青春を思い出す。
「・・・・本当にアキコはズルいよ・・・・僕が欲しいものを全部持っていて、そして全部くれるんだ・・・・僕にだけ・・・・」
シンはアキコに抱き着き、温もりを求める。
「全てを喪った僕には、もうアキコしか残ってないんだ・・・・」
「・・・・シン、貴方は今まで頑張ったじゃない。私の隣に立つに相応しい男は、貴方だけよ」
シンを優しく抱き締め、背中をポンポン叩くアキコ。
「・・・・転校して1ヶ月後、両親が借金取りから逃れる為に夜逃げして、一人取り残された僕をアキコは選んでくれた。ヒロシの方がしっかりしてて、幼馴染みで、魅力的なのに・・・」
「確かにヒロシは凄くしっかりしてるよ。だけど、私は常に傍にいてくれる人が夫に欲しかったの。それが叶うのはシン、貴方だけだから・・・」
二人は近くのベンチに腰を下ろす。眼下には各国の軍艦が並んでおり、出港に向けた準備が進められていく。
「・・・・・明日からはまた激務よ。今のうちに貴方の心に空いた穴を埋めないとね」
アキコはシンを抱き寄せると、手の甲にキスをした。シンは更に赤面し、完全にオーバーヒート状態である。
「・・・・・・あ、ああ・・・・」
「ふふっ・・・・そろそろお迎えね」
灯台の近くに車が停まる。T○Y○TAのミサイルが駐車し、ドアのミラーを開け、アキラが話しかけてくる。
「デートは済ンだか?」
「丁度よいタイミングだったわ。シンったら、私がキスしたらオーバーヒートしちゃって・・・・嬉しさの余りに寝ちゃったわ」
「あははは!! あんな猛獣を手懐けるアキコは流石ってもンだな!! 俺には出来ないな!!」
アキコとシンが後部座席に乗ると、ミサイルは領事館に向けて出発する。
「しかし、ムーは独自に防空駆逐艦を開発していたのね」
アキコはムーの大使館から届いた資料片手にアキラに話題を振る。
「ああ、あのハリネズミか? ミサイルが足りねえから27式を積みまくる改装を実施して防空駆逐艦にしたらしいぜ。参加する他の巡洋艦や戦艦も、戦前日本の資料を読み漁って独自に開発した対空砲弾、4式弾を搭載。フリゲート以外でミサイルを搭載しているのは、戦艦ラ・エルドだけだが、他の艦艇は高射砲やCIWSをハリネズミの如く搭載しているようだぞ。かなり本気だな」
ムーは水上艦艇の近代化に着手していたが、新型の「もがみ」型の調達並びにミサイルの購入、そして乗員の訓練に莫大な時間と銭がかかっていた。一方で駆逐艦自体は数が揃っていた。そこでムー海軍は、既存の駆逐艦の近代化改修を実施し、繋ぎとして運用することを決定。主砲を「もがみ型」と同じ62口径5インチ砲に換装、対空砲を既存の高角砲や機銃から、27式自走対空高射機関砲をベースに水上艦艇用に設計を変更した35mm連装高射砲や高性能20mm機関砲CIWSに換装。魚雷装備は撤去し、代わりに日英から輸入またはライセンス生産した150キロ対潜爆雷を投射する、爆雷投射装置を搭載。ミサイルや魚雷を搭載しない防空駆逐艦として設計された。今回は改装が完了した駆逐艦6隻がムー艦隊の防空部隊として参加する予定である。また、軽巡洋艦以上の艦艇には日英の協力により完成した375mm対潜ロケット発射機を1機搭載。日本から輸入した「もがみ型護衛艦」は購入時からアスロックを搭載しており、潜水艦を絶対に許さない布陣となっている。
ムー海軍防空駆逐艦主要兵装
62口径5インチ砲2~3基
35mm連装高射砲12基
高性能20mm機関砲2基
爆雷投射装置2基
この他、もがみ型と同等のレーダーやソナーを搭載している。
「まあ、零戦擬き相手には過剰能力でしょうね」
「おまけに艦載機は紫電改にフェアリーソードフィッシュだもんな。搭乗員は熟練中の熟練の選抜なンだが、数の少なさだけが気掛かりだな」
そうこうしている間にミサイルは領事館に到着。まだ眠っているシンをアキコは姫抱っこしながら降ろし、そのまま領事館へと入る。
「へえ~、アキコって意外に力持ちなンだな」
「シンが軽すぎるのよ。私より身長低いし」
「小学生時代に栄養が足りてなかったンだろうな」
「シンを置き去りにして夜逃げするような両親よ?」
「そンなコイツを引き取ったお前の両親とは正反対だな」
「お父様は養子にするって言ったんだけど、そうすると結婚出来なくなるから止めておこうってお母様が言ったみたいなのよね。本当に結婚するとはあの時思わなかったけど」
「そうなると、ヒロシはついてねえあ」
その時の様子は通りすがりのイギリス大使館職員により、バッチリ写真に撮られており、後にハルト経由で写真が送られてきたシンは恥ずかしくて暫く表を歩けなかったという。
(続く)