神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス
日英が転移するまでは世界で最も栄えし都市、帝都ルーンポリス。その中心部にある六角形の星形をした建物、世界の中枢とも言えるこの国防省のとある一室で、国のプライドを掛けた作戦会議が行われようとしていた。本件作戦目標は、第2文明圏旧レイフォル国の首都レイフォリア沖合に展開するグラ・バルカス帝国艦隊の撃滅である。
グラ・バルカス帝国
第2文明圏の西側の文明圏外に突如として現れ、周辺の力なき国家を武力で併合。その後、第2文明圏の列強国レイフォルの保護国であったパガンダ王国を強襲制圧し、列強レイフォルの主力艦隊をたったの1隻の超巨大戦艦だけで撃滅したうえ、レイフォルを降伏に追いやる。その後はレイフォルを植民地化し、先進11ヵ国会議に出席を要求。参加させたところ、小娘が歴史ある世界の会議とも言える先進11ヵ国会議の場で、世界を相手に宣戦を布告。さらに奇襲的攻撃で我が国の最新鋭魔導艦隊である、第零式魔導艦隊を壊滅させた。そのうえ各国の代表が集まる港町カルトアルパスを攻撃し、多くの各国の船が撃沈された。この事実に皇帝ミリシアルは激高し、早期のグラ・バルカス帝国船排除を命ぜられ、本件会議に至る。世界の中心とも言われた神聖ミリシアル帝国にとって、本作戦は決して失敗が許されないものであり、会議にも熱が入る。
「第1・2・3艦隊の派遣を予定しているが、本当に3艦隊だけで戦力は足りるのだろうな? 失敗は本当に許されないのだぞ!」
国防総省長官アグラが西部方面艦隊司令長官のクリングに尋ねる。
「我が軍の算出によれば、1.2艦隊だけでも事足ります。第3艦隊も加われば、必ず撃滅できます」
クリングは言い切った。
「しかし、もしも相手の戦力が想定を上回っていたら? 我々が認知している範囲外にも敵がいるのかもしれない」
「それも含めて、3艦隊の派遣で十分対応可能です。ついでに申し上げるならば、あまり役にはたたないでしょうが、各国の連合艦隊の数も多いのです。各国の艦隊には地方隊の魔導戦艦3、魔導巡洋艦6と、小型艦が4、計13隻がおもりをします。これには、第2文明圏やムーが加わるため、相当な大艦隊となる予定です」
「そうか・・・」
「ではまとめます。地方隊を含む各国連合艦隊を先行させ、レイフォリアに向かわせます。おそらくではありますが、第2文明圏の北側、バルチスタ海域で、敵は迎撃して来るでしょう。この時点で相当な被害が出ると思いますが、敵が使用する飛行機械による第1次攻撃隊が帰る時を狙い、敵艦隊の位置を割り出し、第1から第3艦隊により敵空母を滅します。その後レイフォリア沖合へ行き、商船を含む敵を攻撃し、滅します。もちろん、戦場では状況が良く変わるため、現場に指揮権をゆだねます」
「ちなみに、こういった場合はどうする?」
会議は深夜にまで及んだ。
神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
港湾管理者のブロンズは、港の光景を見て息を吐く。
「トルキア王国、戦列艦21隻到着!」
「アガルタ法国、魔法船団17隻到着!」
続々と港に到着する中央世界という、文明圏の中でも最高レベルを誇る国々の主力艦隊。彼らはこの港に集結後、第2文明圏の艦隊と合流し、北上する予定である。今回の艦隊は外務大臣を護衛する艦隊ではなく、憎きグラ・バルカス帝国を滅するために主力艦……1国あたりの数も多く、港を埋め尽くさん限りの艦隊にブロンズのみならず、港の者達は圧倒されるのであった。
「凄い光景ですね……。奴らに神罰を下す時が来たのですね。中央世界各国でこれだけの艦隊。しかも第2文明圏まで加わるのですから、グラ・バルカス帝国も鎧袖一触、相手にならぬでしょう」
入社5年目の若手社員がブロンズに話しかける。
「そうだな・・・第3文明圏を除いているとはいえ、世界連合ともいえる今回の艦数は、第2文明圏も合わせると相当な数となろう。圧倒的な数はそれだけで力となる。それに・・・・」
ブロンズは視線を港に向けた。
「この艦隊には地方隊。戦艦を含む地方隊が13隻付き、さらには別動隊として西部方面艦隊が付く。主力艦隊のうち、3艦隊もグラ・バルカス帝国討伐に加わるらしいぞ」
「なんと!! 皇帝陛下が本気になられたのですね。」
「ああ。それにしても、このような大艦隊は古の魔法帝国戦・・・ラヴァーナル帝国戦でしか発生しないと思っていたが…」
軍部で戦闘に参加した者であれば、グラ・バルカス帝国の強さを身に染みて理解している者も多いのだが、一般的には奇襲されたから被害が広がったと認識されている。港湾管理者のブロンズは、特別な感情をもって、今なお集結し続ける雄々しい艦たちを見つめるのであった。
グラ・バルカス帝国 レイフォル自治区
情報局技術部レイフォル出張所
情報技官ナグアノは、今後の戦いのため、異世界軍の分析と考察を行っていた。グラ・バルカス帝国情報局の中の技術部、敵国の技術レベルや取りうる戦術に関する研究を行う機関であるが、国家の大転移により、前世界の宿敵たるケイン神王国無き後、異世界の他国との連戦連勝が重なった事もあり、軍部にはあまり重要視されていなかった。本来ならば異世界に転移した事により、増加するはずの権限や人員は減少し続けている状態であった。情報局事態は決して軽く見られている訳ではないのだが。情報技官ナグアノは、いつものように仕事をする。彼の前には文明圏外国家、ロウリア王国で撮影された写真があった。
「フフフ・・・・」
カラーで撮影されたロウリア王国の軍船の写真、そのあまりのレトロさと、船上に整然と並べられた矢除けの盾を見て、思わず笑ってしまう。
「どうした? ナグアノ」
不気味に笑うナグアノを見ていた同僚が話しかけて来た。
「いや、見てくれよこれ。帆船に矢除けの盾だぜ! どこの時代劇なのかって、見ているとおかしくなって。まだこんなのが現役の国が多いから、この世界は本当に面白いぜ。研究考察というより、もはや趣味に出来る面白さだ」
「こらこら、そんな事言ったら所長に怒られるぞ! 一応こんなのでも、万が一の事を考えて、相手の取りうる戦術を研究するのが仕事なんだからな」
「ああ、すまんすまん。これは脅威度が低すぎるから後回しにしよう」
彼は次の写真を取り出す。ロウリア王国の軍船よりも遥かに大きく、帆を主体としているが側面に大量の砲が搭載されている。
「戦列艦か」
第3文明圏列強国、パーパルディア皇国の誇る100門級魔導戦列艦の写真がそこにあった。それはもはや骨董品であり、格好は良いので彼は胸が熱くなる。大砲はたったの2kmしか飛翔しないらしいため、これも全く脅威とはならないのだが……。
「面白い推進方法だな」
風神の涙と呼ばれる風を起こす魔法具で、帆に風を吹き付けて推進力を得るらしい。もちろん、吹き付ける角度を考えなければ進まないのだろうが、この道具があれば無風でも進めるため、実に面白いとナグアノは感じていた。
「これ、空母に使用したら離陸滑走距離が短くならないかな?」
もうちょっと風神の涙に関しては研究してみようと思い、『要研究』の印を押す。
「ちょっといい?」
彼は同僚に話しかける。
「なんだ?」
「こんな装備で列強国だぜ?本当、我が帝国はこの世界で広大な範囲を支配する事になるだろうな……。」
同僚は写真をのぞき込む。
「前時代的な艦、戦列艦か・・・回転砲塔が登場する前の艦だな。固定式の砲なので、大口径砲を搭載できず、数で勝負したため、これだけ無駄な作りとなる。まあ、カッコイイけどな」
「対空能力は低そうだ」
彼らはパーパルディア皇国の艦にも興味を失う。次に、この世界で第2位の国力を誇る第2文明圏列強国、ムーの写真を取り出した。
「これが次に衝突する相手の主力戦艦だが・・・・」
回転砲塔が搭載されており、その大きさは先の写真、パーパルディア皇国の主力艦よりも大きい。神聖ミリシアル帝国を強襲した際の情報では18ノット程度の速度が出ていたとの事であった。
「この艦はこの世界では珍しく、すべて機械式らしいぞ」
「何で国によってこんなに文明レベルや発達の方式までもが異なるのだろうな?」
「いや、しかし前世界のアルフリー地区等、何十年経っても恵まれない子供達が量産され続けるような原始的な地域もあったので、それは強国の考え方なのだろうな」
ナグアノはムーの戦艦を考察する。砲の射程、戦艦の速度、そして随伴空母からの艦載機の性能を見るに、船に関しては約50年の開きがあり、飛行機にしても20~30年以上の開きがあるように思われた。
「飛行機の技術レベルがたったの数十年しか開きがない。航空機の発達が文明レベルからすると高いように思えるが…少し脅威だな」
「しかし、我が軍の戦法を考えるに、流れ弾でも当たらないかぎり、落ちる事は無い。この世界には飛竜がいるからな。仮想敵よりも有利に戦えるよう、飛行技術の進化が早かったと考えれば納得がいく」
「確かに・・・・戦艦も、空母機動部隊が襲いかかればすぐに沈むだろうし、さしたる脅威ではないが・・・・ただ、陸軍がどのような装備を持っているのかの情報が少ないな。もっと集めて来るように指示を出しておこう」
ナグアノは、次に書類の束を取り出した。自分達が最も重きを置く存在、軍部が最も重要視しているこの世界最強の国家、神聖ミリシアル帝国である。魔法という良く解らない方式を極め、体系化して国家システムに取り込む。敵国艦隊と交戦した我が国の艦隊も、数隻が最終的に使い物にならなくなったと聞く。この国は間違いなく我が国の艦隊に被害を与える『力』を持ち、一番の脅威だ。しかし、逆にこの国さえ攻略してしまえば、世界は手に入る。幸いにして敵の航空戦力は大した事はなく、艦の対空兵器の命中率はかなり悪いようだった。前回の交戦記録から分析するに、おそらく対空兵装に近接信管が無い。そして、航空機の加速と旋回能力は我が方が上のようだった。グアノは同僚に話しかける。
「ムーの対空兵器は戦艦のレベルから考えると突出して高いのに、なんで神聖ミリシアル帝国の対空兵装は戦艦の能力からすると弱いんだ? それでもムーよりは上だが」
「世界がワイバーンとかいう、低速の航空機で溢れているから必要性を感じなかったのではないか?」
「まあ確かに、ミリシアルの兵装はムーの兵装よりは上であり、我が国がいなければ間違いなく世界一ではあるだろうな」
「しかし、戦艦の構造が全く解らんな。材質も何なのか良く解らないし、砲撃も青白い尾を引く」
一体どんな原理なのか理解が出来ない。
「構造や原理は解らないが、前回の戦闘から強さの想定は出来る。やるべき事をやろう!」
彼らは仕事に取り掛かるのだった。
夕刻
ナグアノはその日の仕事が終わり、家に帰る準備を行っていた。
「部内郵便が届きました」
郵便配達員の声がかかり、1つの袋が彼の前に置かれた。レイフォルの現地人を雇い、一般人のフリをしてムーに向かわせ、様々な情報を集めさせる。そのうちの1つが、彼の元に送られてきた。ナグアノの部署に分析させた方が良いとの判断があったのだろうが、ナグアノはうんざりした気持ちになった。ほとんどの場合、この手の情報はゴミである場合が多い。一般人が集めて来る情報など、たかが知れているのだ。明日開けても良いが・・・・郵便は、メモで小さく「日本国並びによって英連邦王国に関する情報」と記載してあった。帰ろうとしていたナグアノは何故か封を開けたい衝動に駆られ、郵便物を見つめていた。
「開けないのか?」
同僚が話しかけて来る。
「ん? 日本国並びに英連邦王国に関する情報? ああ、あの国か」
「港町カルトアルパスの戦闘記録から、日本国や英連邦王国の艦艇は既に待避しており、基本的なデータはなし。グラ・ルークス諸島では我が国に勝利したこと、当たれば一撃で輸送船を轟沈させるロケットを有する国だったな」
「ああ。確かに、ロケット技術は我が国より高いようだ。この前外務省の出張所がイギリス海軍の攻撃を受け、我軍は撃墜することが出来なかったからな。しかし、そこまでの技術力がありながら、艦艇の主砲はせいぜい高角砲クラスなのはなんでなんだろうな?」
「あるいは大型砲が作れず、ロケット技術に注力せざるを得なかったのかも」
「まあ良い、明日出来る仕事は明日すれば? 俺はもう帰るな。お疲れ様」
同僚は帰宅していった。残されたナグアノは胸騒ぎが止まらず、袋に手を伸ばす。これほど本能が早く開けろと訴えかけてきた案件は、過去に無い。ビリビリと音をたて、封筒が破かれた。中には1冊の本、そしてメモのような紙が添えられていた。
『ムーにある日本国の本屋で手に入れました』
本の題名はムーの言語に翻訳されて書かれているため、情報分析部のナグアノには読む事が出来た。本にはこうある。
「緊急特番号!! 日本国・大英帝国とグラ・バルカス帝国が戦えばこうなる!! ~天気は晴れ時々核弾頭~」
題名からして興味を引く内容ではあるが、彼は読み進める事とした。カラーの写真が印字してあり、雑誌にしては紙の質が異常に高い事に僅かな驚きを感じる。彼はページを開いた。
「バ・・・バカな!!!」
あまりの内容に、彼の手は震え始め、背中に冷や汗が流れる。本には我が国の艦艇の性能や、戦い方、そして戦闘機の性能が予想として記載されており、そのどれもが詳細の数値は違えどほぼ正しい。さらに驚いたのが、極秘とされていた我が国最強の戦艦グレードアトラスターについての記事があり、
『第二次大戦中の大和型に酷似!!』
と記載され、性能や断面図、どの部分が重要区画装甲になっているのかまでもが記載、そのどれもがほぼ正しい。しかい、最高速度と高射砲の性能、そして主砲の射撃管制方法には間違いが見受けられた。特に驚いたのが、グレードアトラスターの砲の口径は極秘中の極秘であり、軍部でさえも40センチメートル砲と思っている者が多い。しかし、この本にははっきりと46センチメートル砲と記載してあった。
「な、何故だ!!」
彼はムー語の辞書を片手に読み進める。
「し・・・・し・・・信じられん!!」
空母機動部隊の運用方法、戦闘機の最高速度と航続距離、そして弱点、対空火砲に近接信管が使用されている可能性や、極秘中の極秘であるレーダー技術の原理と想定される性能の幅についても記載されており、詳しく書かれている。さらに、陸戦兵器についての記載もあり、まだこの世界で他国に対して使用していないはずの戦車についても図面、運用方法、砲の口径、装甲等が予想として書かれていた。戦車の予想については数台あり、弱いものからかなり強力なものまで想定されており、当たっているとは言えないかもしれないが、我が国の戦車がその幅の中に含まれてはいた。それほどまでに詳細に予測し、我が国の強き装備等を余すことなく記載しておきながら、それでも日本国並びに大英帝国が圧勝するとの記載に彼は目を疑う。
「これほどまでに予想しておきながら、圧勝だと? なめおって!!」
何故言い切れる! その根拠は何だ!? と思いながら彼はページを進める。そこには、日本国並びに大英帝国に実在すると言われる兵器群が写真入りで紹介されていた。その中に脅威的な兵器の記載があった。
「大陸間弾道ミサイルだと!?」
本誌は大英帝国ニュー・ホンコン総督府が監修しており、最近配備が開始されたばかりの核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル「マサカド」についての情報が一部を秘匿しながら詳細に記載されていた。そしてミサイルに搭載される新型の核弾頭をグラメウス大陸にて核実験した様子や、開発途中の様子等も詳細に記載されている。
「既に配備が完了し、量産化に移っているだと!?」
本誌には日英による核攻撃を受ける可能性がある候補として、グラ・バルカス帝国の詳細な位置や国内の都市や基地の位置や規模についても画像付きで纏められている。そして攻撃を受けた港町ケンタウリの被害の様子や被害推定、そして帝都ラグナに対する攻撃の結果までもが記されていた。
「確かに最近ラグナは攻撃を受けたが、ここまでの情報は我々のもとには来ていない!! 我々が知っているのはラグナがテロ攻撃を受け、火災が発生したという情報だけだ!! 何故日本国と大英帝国は我々ですら知らぬことまで把握しているのだ!?」
疑問に答えるかのように脇には、ハルト大使の顔写真付きでこう書かれていた。
「なんで分かるのかって? 宇宙に人工衛星を浮かべれば見放題だよね~」
「人工衛星?! 宇宙に浮かべる!? そんなことが出来てたまるか!! しかし、そうでもしなければここまでの情報を把握することは出来ないだろう・・・我が国のロケット技術は日本国と大英帝国から見れば赤子同然ということか・・・・」
ナグアノの頭は大混乱していた。次のページには、日英による宇宙からの監視体制として、様々な人工衛星を運用していることが記されている。
「更には潜水艦から発射する大陸間弾道ミサイルSLBMだと?! しかもケンタウリ攻撃に使用した!? そして日英は新型の潜水艦とSLBMを開発中!?」
もしこれが事実であるのなら、日英は本土上陸することなくグラ・バルカス帝国を滅ぼすことが出来てしまう。むしろ、犠牲が大きくなる本土上陸作戦を神聖ミリシアル帝国に丸投げし、自分たちは安全なところから大陸間弾道ミサイルを撃ちまくる。そうすれば、神聖ミリシアル帝国とグラ・バルカス帝国を同時に疲弊させ、戦後の国際秩序は日英の思うがままとなる・・・・そして戦いが長引けば長引く程、日英のロケット技術は進歩する。それだけではなく、本誌には日英の今後の軍備拡張政策の内容も記されている。正規空母の建造から始まり、新型のジェット戦闘機の開発、やまと型原子力潜水艦の配備開始、モビルスーツの開発(誰だ悪ふざけを財務省に要求した馬鹿は?)、新型イージス艦の建造等多岐に渡っている。一部明らかに悪ふざけの情報も含まれていたが、もしこれらが実現可能であるとしたら・・・しかもカルトアルパスで沈んだ戦艦アポロノームの海中写真と攻撃方法まで記載がなされており、敵は潜水艦や魚雷装備でも先を行く。そして最後にはグラ・バルカス帝国が辿る末路の予想として、度重なる核攻撃により大地は汚染され、日英により領土は割譲させられ、放射性廃棄物のゴミ捨て場や犯罪者の流刑先として活用されると記されている。無論、皇族は全員処刑ともなっている。
「こ、これは上申しなければ!」
ナグアノは国家の戦略を揺るがしかねない、いや、このまま突き進めば、この本の情報が本当であれば国家の存亡すらも揺るがしかねない現実に戦慄が走った。しかし彼の脳裏に不安がよぎる。
「信じてもらえるだろうか? いや、信じさせなければならない!!」
彼は上申のための書類を作り始めた。
翌日
ナグアノが仕事場に来ると、仕事場がざわついていた。
「どうしました?」
彼は側にいた先輩に尋ねる。
「いや、東部、この世界では第3文明圏と言われている付近の沖合に偵察に出ていた東部方面潜水艦隊所属の潜水艦が1隻、消息を絶ったらしい。帰還予定からすでに1カ月が経過し、軍部は何らかの事故にあったのではと判断したらしい。東部方面潜水艦隊は過去にも2隻の潜水艦が未帰還だからちょっとしたニュースになっているぞ」
東部方面潜水艦隊といえば・・・日本国の近海!! ナグアノは戦慄を覚えるのだった。その日の夜、ムーで発刊された夕刊が情報局にもたらされ、記事にはこう記されていた。
海上自衛隊、国籍不明の潜水艦を撃沈
グラ・バルカス帝国海軍所属か
防衛省は朝、日本国沖縄県尖閣諸島魚釣島の領海内にて、護衛艦「たかなみ」が国籍不明の潜水艦から魚雷攻撃を受けたことを明らかにした。警告の為、イギリス空軍のP1哨戒機による爆雷攻撃を実施するも、浮上を拒否し急速潜航した為、短魚雷にて撃沈したという。同潜水艦は5日前に哨戒活動中のニュージーランド空軍のP1哨戒機が発見。海上自衛隊は護衛艦2隻を派遣し、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが艦艇や航空機を派遣、その外側を海上保安庁の巡視船4隻が展開し、警戒監視活動に当たっていた。現在防衛省と海上保安庁は浮遊物の回収作業を進めており、数日以内にイギリスから無人潜水艇が派遣され詳細な調査が行われる見通しだ。
「なんだって!?」
「偽情報じゃないのか?」
「でも、この情報通りなら未帰還の理由は納得出来る・・・」
新聞記事を読んだ情報局の職員達の混乱は暫く続く。
神聖ミリシアル帝国
港町カルトアルパス
世界流通の要たる港町カルトアルパス、住人たちは岸壁に集まり、港の光景に息をのむ。眼前には世界の中心たる中央世界の強国達が集い、大艦隊を形成していた。その数は見える範囲だけでも250隻を超えている。この艦隊はムーの東方沖で第2文明圏の艦隊を交え、世界史上最強とも言える布陣でレイフォル沖へ向かう事となる。連合艦隊出陣の日、町はお祭り騒ぎとなった。グラ・バルカス帝国もこれで大打撃を被るだろう。港中に音楽が響き渡る。聞いていると、何か力を与えてくれそうな音だった。
「出港!!!」
魔力によって増幅された声が響く。中央世界の連合艦隊は西方に展開する異界の軍、グラ・バルカス帝国を滅するために出港していった。
駐神聖ミリシアル帝国日本領事館
「まあ、全滅するでしょうけどね」
「だろうな」
「zzzzzz」
日本領事館では、テレビにて艦隊出撃のニュースを見ていたアキコとアキラがそう呟いた。シンはソファーで寝ており、アキコが着ていた上着が掛けられている。
「まだ寝てるな」
「幸せそうで良いじゃない」
「しかし、改めて見てみるとコイツ本当に男とは思えンな。やたら身体は細いし、無駄に美形だし」
「両親が夜逃げしたぐらいだから、栄養が足りなかったんでしょうね。成長期に栄養が取れなくて、結果として胃袋が小さいままここまで来てしまった。だからこそ余計に野放しにはしておきたくないのよね。私が見捨てたら、本当に死んでしまいそうで」
アキコはシンの隣に座ると、優しく頭を撫でる。
「流石は猛獣使い。狂犬すら手玉にとりやがる」
「あんたも大概狂犬だけどね」
「よく言われるンだよなあ」
「そういえば今日はアイを見てないわね」
「そういえばいないな。寝坊じゃないか? 今日は食堂行ったらなぜか営業してなかったし」
「はあ・・・始末書書かせるか・・・女だから個室を与えたら寝坊とか・・・・」
グラ・バルカス帝国帝都ラグナ
国家の異界への転移という大事件の後、その版図を拡大し続けている大帝国、グラ・バルカス帝国。強大な帝国を維持するため、必要な物資は現地人に機械の操作方法を教え、強制労働をさせるという形で補われていた。しかし、そんなグラ・バルカス帝国の中枢ラグナはイギリスによる核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイルの攻撃を受け、壊滅的被害を受けていた。皇族が住まう皇居や軍本部、首相官邸や国会議事堂が消滅しており、国の中枢を担う政治家、軍人、官僚が根こそぎやられてしまっていたのである。帝国の3将とも言われる帝都防衛隊長イジス、帝国海軍東方艦隊司令長官カイザル、帝国監査軍司令ミレケネスもイギリスによる核攻撃により塵と化しており、軍の指揮系統は崩壊。幸いにも皇帝グラ・ルークスを始めとする皇帝一家は御用邸で静養していた為に無事であったが、留守居を任され、公務を代行していた皇太弟一家や先代皇帝の妻やその弟妹、その子息らは全滅。首相以下政府の閣僚も全員核攻撃により内閣総辞職しており、国会議員らも欠席していた極一部を除き、国会議事堂もろとも蒸発。現在のグラ・バルカス帝国は無政府状態であった。道端では死体の山が積み重なり、被爆者が後遺症で苦しみ、一人また一人と力尽きていく。運良く地下鉄駅構内にいて無事だった者は線路を歩いて郊外に脱出するか、未だに駅構内にいた。また核に関する知識がなかったことから、周辺から救援の為に駆け付けた軍や警察消防、民間人にも多数の犠牲者が出ており、帝都の繁栄が永久に喪われたのは明らかであった。一方で、前線の士官や将兵らには本当の被害の内容は一切伝えてはおらず、卑劣なテロ攻撃があったとだけ伝えている。
グラ・バルカス帝国臨時首都ルナ
ルナ御用邸
「お手元の資料のとおり、スパイからの情報ですが、異界の連合軍が本日、出港いたしました。カルトアルパスから旧式艦約250隻、そして神聖ミリシアル帝国の首都から空母を含む艦艇多数の出港を確認しています。敵軍はレイフォル沖を目指している模様です」
概要説明が終わる。
「ついに奴らが本気を出して来たか・・・・」
自分達を倒すために向けられた異世界の主力とも言える大艦隊。軍部に僅かな緊張が走る。尤も、ここにいるのは経験不足どころか、つい昨日までは兵学校で学習していた若い軍人やまだ入局したばかりの新人官僚であるのだが。
「まだまだ兵学校で鍛練が必要なそなたらを駆り出さなくてはならなくなったか・・・・」
運良く生き残った皇帝グラ・ルークスは若い軍人や官僚たちにそう呟いた。
「本来ならば帝国監査軍が対応すべき事案ではありますが、敵の量は多く、神聖ミリシアル帝国の艦隊も向かってきています。監査軍だけでは荷が重いかと・・・・」
「確かにな・・・・では、帝都の防衛は帝都防衛隊と西部方面艦隊に任せ、帝国海軍東部方面艦隊主力の力をもって一気に叩き潰す事とするのはどうか? ここで敵を叩き潰せば、講和の道もあるのではないか?」
皇帝から講和の言葉が出るとは・・・・軍部や官僚らは言葉を失う。
「敵に日英艦隊はいないのだろう? それならまだ勝ち目はある。神聖ミリシアル帝国やムーと先に講和してしまえば、日英は我が国と戦う理由はなくなる。むしろ、距離がありすぎる我が国の本土まで陸軍を上陸させるは困難であり、先のラグナ攻撃に使われた兵器も大量生産は出来ぬであろう」
あまりにも勝手が過ぎる上に都合のよい解釈。先に宣戦布告したのはどこの誰だよと言いたくなる内容であるが、今のグラ・バルカス帝国はそれに縋るしかない。
「陛下、東部方面隊主力が出るのであれば、ムーも神聖ミリシアル帝国の主力も、本戦いで消滅してしまうでしょうな。東方艦隊の全力出撃、前世界以来であります」
「そうか。では、直ちに出撃を命じよ。帝国の興廃この一戦にあり、各人奮励努力せよ!!」
「「ははっ!!」」
その後皇帝グラ・ルークスは、核攻撃により亡くなった親族を弔う為、数日間喪に服すことにし、帝国全土に勅命を出すのである。レイフォルの死守により、世界連合艦隊を全滅させ、日英の本格的参戦を阻止する。目標達成の為に帝国は動き出す。滅亡の道へと向かって。
「それと、日英には報復の為に暗殺部隊も送り込んだ。作戦が成功すれば、日英も講和の席につくだろう」
パーパルディア皇国皇都エストシラント
駐パーパルディア皇国英国大使館
「・・・・・・ほう・・・・奴らも中々やるねえ・・・」
男女カップルの部下からの報告に悪い笑みを浮かべるハルト。
「大使、笑い事では・・・・」
「分かってるよ。でもこれは、我が国に潜入しているスパイや協力者を炙り出すチャンスでもある」
「ですが、報告書では我が国の大使館にも奴らの協力者が潜んでいるのです。炙り出そうとして火傷するのでは・・・」
「だが、同盟国に対してここまでのことをしたんだ。スパイの炙り出しくらいはやるべきだろう」
「しかし、ベルファストでグラ・バルカス帝国の協力者は逮捕されました。素直に逮捕すれば良いのでは?」
「逮捕するのは簡単さ。だけど、あちこちにネットワークを巡らせているはずだ。それらの全容は解明されていない。解明するまでは彼らは生かしておいた方が良い・・・・ん?」
何か悪いことを思い付いたハルト。
「君達、一度死んでくれるかな?」
「「え?」」
(続く)