2文明圏 ムー大陸北方 バルチスタ海域
海を埋め尽くさん限りの大艦隊が西へ向かっていた。この異世界の連合軍と言っても差し支えないほどの強軍、世界連合艦隊。日英の水上艦艇はいないが、彼らは武力によってこの世界の秩序を乱す者、彼らの基準にとっては悪となるグラ・バルカス帝国の艦隊を滅するために西へ向かう。艦隊は様々な国々、技術体系の異なる連合艦隊であるため、さながら船の博物館の様相を呈していた。ある艦は黒き煙を吐き、そしてある艦は帆をいっぱいに張って進行していく。実に異様な光景。パーパルディア皇国に駐在するイギリス大使が見たら爆笑不可避の光景。しかし、その中に神聖ミリシアル帝国主力艦隊の姿は無い。かの国の艦隊であるのは地方隊の8隻のみ。進行速度を合わせると、戦力が低下するというのが主な原因らしかった。
「すごい量だ。見た目も力強く、どんな敵が来ても負けようが無い、そう思えて来るな」
ムー国の機動部隊司令レイダーは、眼前の光景を見て感嘆する。
ムー艦隊旗艦、ラ・カサミ級戦艦『ラ・エルド』の艦橋から彼は眺める。本艦はマイカルにて実施された一連の改装工事を完了しており、日英の水上艦艇と遜色のない電子機器を搭載している。本艦とフリゲート艦のみが対空ミサイルを搭載し、主砲も専用に開発された日英ム共同開発の大型砲用の照準器を搭載し、レーダー照準が可能になっている。
「司令、毒舌ですね。『見た目』とはっきり仰る。私も、前回の戦闘報告が正しければ、眼前の列強艦隊は我が国も含めてグラ・バルカス帝国の攻撃を受けた場合、敗れるかもしれません。もっとも、神聖ミリシアル帝国主力とムー大陸北方に展開する第二文明圏のワイバーンをかき集めた『第二文明圏連合竜騎士団』500騎の力をもってすれば……いかにグラ・バルカス帝国であろうと、数の力で勝てると思っていますが・・・・」
ラ・エルド艦長テナルは司令に返答した。彼は続ける。
「日英の軍需産業と協力し、我々の手で搭載した多数の対空火器に、対潜ロケット、爆雷投射機。そして新型機。果たしてどうなるか・・・」
テナルは戦艦を見る。彼の視界の先にはハリネズミのように上へ向く35mm連装機関砲(27式自走対空高射機関砲の水上艦艇仕様が見える。
「さて、どれだけ効果があるかな」
眼前に広がる大艦隊、そして今回の戦力を考える。
世界連合艦隊
〇 ムー 機動部隊 46隻(第2文明圏 列強)
〇 神聖ミリシアル帝国 地方艦隊 13隻(中央世界 列強)
〇 トルキア王国 戦列艦隊 82隻(中央世界)
〇 アガルタ法国 魔法船団 70隻(中央世界)
〇 ギリスエイラ公国 魔導戦列艦隊 98隻(中央世界)
〇 中央法王国 大魔導艦 2隻(中央世界)
〇 マギカライヒ共同体 機甲戦列艦隊 28隻(第2文明圏)
〇 ニグラート連合 竜母機動艦隊 30隻(第2文明圏)
〇 パミール王国 豪速小型砲艦隊 115隻(第2文明圏)
他
別動隊
第二文明圏連合竜騎士団 500騎
神聖ミリシアル帝国 第1、第2、第3魔導艦隊 各 魔導戦艦2、空母2、重巡洋艦4、巡洋艦8、小型艦20(36隻×3艦隊=108隻)
テナル達ムーの軍人は知らないが、これに
古代兵器(古の魔法帝国~ラヴァーナル帝国製) 空中戦艦 パル・キマイラ 2隻
が加わる。彼は間もなく歴史に刻まれるであろう戦いを前に、気を引き締めた。力と力、物量と物量のぶつかり合いが今、始まろうとしていた。
ムー国海軍旗艦 ラ・カサミ級戦艦 ラ・エルド
「報告します。偵察に向かっていた空母ギカア所属のフェアリーソードフィッシュ2が我が方へ向かってくる敵2機を発見!! 距離108km、まっすぐこちらに向かって来ます! うち1機は空戦の末撃墜するも、残り1機が接近中!!」
艦橋に緊張が走る。
「ついに始まるか。おそらくは偵察機、落としたいな。しかし、複葉機のフェアリーソードフィッシュ2が撃墜するとは・・・流石はイギリスが運用した雷撃機だな・・・艦隊にあっては戦闘配備! 紫電改2を10機ほど迎撃機を上げ、敵を撃墜せよ!! 各国艦隊へ伝えろ!!偵察機が来るとな!!!」
ムーの艦隊司令レイダーは吠えた。
「了解!!」
敵の侵攻であれば、艦隊上空を護衛中の航空機が向かうが、今回は対偵察機のため、練度の特に高い護衛戦闘機よりも、通常の飛行隊で比較的練度の高い者が選出された。ムーの空母が加速を開始する。日英の技術支援により、油圧式カタパルトが搭載されている空母ギカア、ガカからそれぞれ5機の紫電改2が速やかに発艦していく。
「フェアリーソードフィッシュ2は偵察任務に従事し、偵察機を撃墜する戦果を挙げた。紫電改2はどうか・・・」
ちなみにフェアリーソードフィッシュ2が敵機を撃墜出来たのは、フェアリーソードフィッシュ2があまりにも遅すぎたゆえに、空戦を挑もうとした偵察機が失速。そこを突かれてのものであった。
ムー機動部隊第2艦隊所属 メルティマ航空隊紫電改2
機動部隊から飛び立って十数分、敵との相対速度を考慮すると、そろそろ敵が見えて来るはずだった。メルティマ航空隊10機は編隊を組んで飛行する。
「それにしても、この紫電改2の性能・・・未だに信じられないな」
魔法文明がほとんどのこの世界において、唯一と言って良いほどの高度機械文明国ムー。上位列強国まで上り詰めたその「力」は本物であり、旧式機に比べてマリンは加速、旋回性能、そして申し分ない最高速度を誇っている。初めて「マリン」型艦上戦闘機を操った時は、何と恐ろしい兵器を祖国は作り出してしまったのかと驚いたものだった。しかし、突如として現れた敵、グラ・バルカス帝国。かの国の力は先のカルトアルパス奇襲で恐ろしいほどの性能を発揮していたという。そして、それに対抗するかのように本国は、日本、イギリス、カナダの協力で今彼が操る紫電改2を作り出した。
「今思えば、私は自惚れていたのだな・・・」
初めは機種変更に難色を示したメルティマ。メルティマは自分の練度に絶対の自信を持っており、例え神聖ミリシアル帝国相手でも全く負けるとは考えていなかった。しかし、マイカルに駐留を開始した日英の戦闘機を見て考えが180度変わった。
「プロペラがなく、矢じりのような戦闘機。マリンはおろか、紫電改2さえ追い付けない速さで飛ぶ。そしてそれを女性が操縦している・・・」
『機影確認!12時の方向、低空!』
目の良い隊員が報告をしてくる。離陸後の10数分は、上昇し続けてきたため、どうやら上を取れたようだった。空戦は高空をとれるほど、運動エネルギーを味方に付ける事が出来るため、有利に物事を運ぶ事が出来る。紫電改2の最高速度と、急降下の運動エネルギーを加え、10機による一斉攻撃で偵察機を確実に葬る。メルティマは幸先が良いと口元を吊り上げた。敵機との距離は徐々に近づく。
「敵はこちらに気付いていないのか?」
敵航空機との距離はさらに近づいた。彼は無線機を取り、部下に合図を送る。
「攻撃を開始せよ!!」
メルティマ航空隊10機は反転、急降下を開始した。ムー国の誇る新型艦上戦闘機「紫電改2」は急降下を行う。最高速度は元の紫電改は時速594kmであるが、日英加による支援と現代技術による材料の高品質化により最高速度は600kmを遥かに超える。重力加速度という高度を味方につけ、さらに速度を上げる。早すぎる速度に機体はガタガタと震え、風切り音は室内に轟音となって鳴り響いた。
「今更気付いたか!! 既に遅い!!」
メルティマ航空隊に気付いた偵察機は慌てて逃げ出そうとする。しかし、10機の紫電改2からは逃れることは出来ない。
「くたばりやがれ!!」
各機20mmガトリング砲を浴びせる。過剰とも言える暴力が偵察機を襲う。紫電改2が搭載している20mmガトリング砲は、航空自衛隊が運用している物と同じであり、航空自衛隊やムー空軍仕様のユーロファイタータイフーンは、マウザーBK-27ではなく、異世界転移後に日本が国産化したM61バルカン砲を搭載。紫電改2は両翼に1機ずつ搭載している。
「此方メルティマ、敵偵察機を撃墜!! 帰還します!!」
無線機で空母に連絡したメルティマは仲間達と共に空母に帰還する。
グラ・バルカス帝国海軍空母サイバー・ペガスス
「本艦の偵察機2機が敵と接触。1機は複葉機と戦闘すると言った後に消息不明、残り1機は10機に及ぶ敵の新型機と遭遇し、消息不明・・・か」
艦長は報告書を見て顔をしかめる。
「我軍の偵察機を撃ち落としただと・・・・? まさか、日本やイギリスが参戦しているのか?」
「ですが、最後に入った報告ではムーの国籍マークが描かれていたとも・・・」
「・・・・・嫌な予感がするな・・・警戒態勢を強化せよ」
「ははっ!」
艦長は見えない脅威に難儀することになる。
世界連合西方海域 上空
空母ガカ所属のフェアリーソードフィッシュ2に搭乗する熟練搭乗員ハイネは、西方海域周辺を哨戒飛行していた。垂直尾翼を彼のパーソナルカラーであるオレンジに塗装した本機は、大海原を飛び回る。
「・・・・・来たか・・・・此方、空母ガカ所属のフェアリーソードフィッシュ2、ハイネ大尉。2時の方角から艦隊に接近する機影を多数確認!」
哨戒飛行中のハイネ機が敵の機影を発見する。徐々に見えて来る黒い点、青空に現れたシミのような斑点はその数を徐々に増やしていく。その数は1つや2つでは無く、いや、十や二十ですらなく加速度的にその量を増やす。
「推定100機は確実!」
速度差を考えれば、追い付かれてもおかしくはない。しかし、時代錯誤の複葉機に構う暇などないと言わんばかりにハイネ機を無視して飛行する。
「今更母艦に帰還は・・・・無理だな・・・」
今から母艦に向かえば、敵機と混同され、撃墜される可能性がある。しかし、攻撃が終わるのを待てば、燃料切れで飛べなくなるだろう。
「・・・・かくなるうえは、敵と刺し違えてやるか!!」
彼は敵機が来た方角へと機首を向ける。ハイネ機はそのままグラ・バルカス帝国空母艦隊に向けて突き進んでいく。
「すまねえな、お前のところには帰れそうにはないな・・・」
彼は愛する妻の写真が入ったペンダントを見てそう呟くのであった。
イギリス海軍原子力潜水艦「ヴィクトリアス」
「・・・・・頃合いだな」
「魚雷装填完了! 何時でもどうぞ!!」
「それじゃあ・・・狩りを始めようか・・・」
ニヤリと笑うヴィクトリアスの艦長。次の瞬間、スピアフィッシュ魚雷4本が発射。それぞれ別の空母目掛けて進んでいく。
「・・・・・・沈んだか・・・・呆気ないものだな」
まともに魚雷を食らったグラ・バルカス帝国海軍の空母4隻は即座に轟沈。完全に不意を突かれた為か、明らかに混乱している様子が手に取るようにわかった。
「あの慌てぶり、潜水艦を使えるのは自分たちだけの筈だと、高を括っていたようだな。愚かなやつめ」
「まさに、クズ! ですな」
「それじゃあ空母は全滅させてしまうとしよう! 日本から輸入した18式とやらを使え!!」
「アイアイサー!!」
原子力潜水艦ヴィクトリアスは18式魚雷を装填する。
「見せて貰おうか・・・日本の魚雷の性能とやらを!! 魚雷発射!!」
18式魚雷4発がグラ・バルカス帝国海軍の空母4隻に向けて放たれる。若干の時間をおいて・・・・
「・・・・素晴らしい・・・・実に素晴らしい!! 流石はモノづくりの国ニッポン!! これは国防省が惚れ込む訳だ!!」
魚雷攻撃を受けた空母4隻が沈んでいく。グラ・バルカス帝国海軍は大混乱に陥っており、駆逐艦と思わしき水上艦艇が慌ただしく走り回っている。
「さて、我々は補給の為、一旦ムーのマイカル海軍基地に帰還する。補給後は速やかにレイフォル沖に戻るぞ!!」
こうして、グラ・バルカス帝国海軍の空母8隻を撃沈した原子力潜水艦「ヴィクトリアス」は戦場を離脱した。
「・・・・ん? あれはムーの新型機か? 今にも墜落しそうだな」
離脱中、潜望鏡を出して航行中であったヴィクトリアスは、燃料切れ間近のハイネ機を発見。救助してやろうと、浮上した。
「な、なんだ!? せ、潜水艦ってやつか?!」
突然海が盛り上がったかと思うと、巨大な鉄の鯨が出現し、ハイネは驚く。
「・・・・あの旗は、同盟国のグレートブリテン及び北アイルランド連合王国!! へへっ、どうやら助かったみたいだな」
緊急浮上したヴィクトリアスは、連合王国旗を掲揚し、上空のハイネ機に味方であることを示す。やがてハイネ機は海面に不時着。不時着に成功すると、ヴィクトリアス側から迎えに来たボートで救助され、艦内に収容された。
「これがグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の潜水艦か・・・こりゃあ我が国が背伸びしても勝てねえ訳だぜ・・・」
感嘆するハイネを乗せ、原子力潜水艦ヴィクトリアスはムーのマイカル海軍基地に帰還。元々帰還予定であった為、最初は何も言われなかったものの、
「この度は貴国の潜水艦の派遣並びに海戦への参加、大変ありがとうございました!!」
「Huh?(現場海域に潜水艦なんか派遣してないし、マイカルに帰還中だったはずだぞ?) 」
「貴国の優秀な潜水艦乗組員により、グラ・バルカス帝国の空母は壊滅的被害を受けたそうです!! 同盟国として、誇らしく思います!!」
「Huh?(え? 何で勝手に海戦に参加しているの? 初耳だぞ?)」
「それだけでなく、危険承知で浮上して、我が国の雷撃機パイロット、ハイネ大尉を救出。当に紳士の国ですな!!」
「Huh?(寄り道したな、アイツら・・・)」
という連絡があったと、オタハイトのイギリス大使館からイギリス本国に報告が入ったことで、魚雷の無断使用が発覚。艦長以下幹部は本国に召還され、1ヶ月間の出勤停止処分が課せられることになる。後に日本では、このムーとブリカスのやり取りが、うるせえ山羊とおっさんみたいな声で喋る猫で再現されることになる。
世界連合艦隊
ウゥゥゥゥゥゥーーー
けたたましくサイレンが鳴り響く、ムーの開発した機械式サイレンの音が静かな海上にこだました。各国の艦隊は空に注意を向け、ムーの誇る空母5隻からは次々と戦闘機が発艦し、ニグラート連合の竜母4隻からはワイバーンロード竜騎士隊が発艦していく。各国の艦隊がそれぞれ独自の技術をもって対空戦闘の準備を行っていく。
「対空戦闘準備完了!!」
ムー国艦隊旗艦ラ・エルドも戦闘配備が完了する。
「第2文明圏連合竜騎士団が艦隊上空支援に到着するまでの時間は?」
司令レイダーは艦長に尋ねる。
「ハイネ機の報告後、すぐに基地を飛び立ったようですが、敵の侵攻速度が速すぎます。敵が艦隊上空に到達後、今しばらく時間がかかるものと思われます」
ハイネの報告後、すぐに支援要請を出していたが、基地からの距離を考えると、もう少し時間がかかりそうだった。やがて、澄み渡った空に黒い点が多数現れる。その方向へ向かって飛び去る迎撃機は敵の急降下爆撃を警戒して上に上がった。ムー国艦隊司令レイダーは、横に立つ艦長に話しかける。
「艦長・・・第2文明圏連合竜騎士団がいるのは陸の基地だ。グラ・バルカス帝国からすでに攻撃を受けて壊滅した可能性は無いな?」
「確かに、滑走路等はありますが、船団攻撃のために偽装されていますので、空から簡単には見つかりますまい。現在まで攻撃を受けたという報は受けていないため、無事と判断いたします」
「うむ・・・・」
戦場は動き続ける。
「さて、ムーの新兵器の実力見せつけてやるか!!」
ムーの空母から総勢81機の紫電改2が発艦する。各国のワイバーンロードを突き放し、真っ先に敵機の編隊へと向かっていく。
「・・・・・敵機捕捉!」
「カルトアルパスでやられた仲間の仇だ!!」
ムーの紫電改2は、グラ・バルカス帝国のアンタレス艦上戦闘機との空中戦に突入する。自国の戦闘機より高性能な敵機が現れたグラ・バルカス帝国海軍航空隊は混乱する。
「ば、バカな! ムーがこんな新型機を!?」
「うわあああ!!」
紫電改2との空戦に持ち込まれたアンタレスが次々と撃ち落とされていく。アンタレスは既に20機が撃ち落とされているのに対して、紫電改2は未だに1機も撃ち落とされていない。
「隊長! 我らがムーを引き付けます!! 隊長は他の雑魚を!!」
「わ、わかった!! 死ぬなよ!!」
数ではムーの紫電改2に勝るグラ・バルカス帝国海軍航空隊は、一定の戦力を残し、他国の部隊への攻撃を開始した。
「おのれ・・・ムーめ!! 何時かは貴様らの国を蹂躙してやる!!」
一方、ニグラート連合竜騎士団長モレノールはワイバーンロードの限界高度4200mから急降下を開始していた。高度3000m付近に敵が侵攻していくのを認めたためであるが、おそらく敵は気付いていないであろう事に、顔がにやける。
「憎き帝国め!! 目にものを見せてやろうぞ!!!」
連合のワイバーンロードは他国と異なり、その体色が空に溶け込むように見えるため、模擬空戦でもおよそ先に敵を見つける事が多かった。眼下侵攻中の敵は約20、我が方は15であるが、奇襲出来れば戦闘は有利になるだろう。団長モレノールの合図で各竜たちは翼を広げ、首を伸ばす。徐々に口内に火球が形成されていった。
「ん!?」
敵の1機がバンクし、散開を始めた。護衛機のようだ。だがっ!!!
「今更気付いても遅いわ!! 導力火炎弾、発射!!」
空を翔る無数の火球、15発もの火球が青き空に炎の線を引く。必中のタイミング。
「な、なにっ!!」
各自散開したグラ・バルカス帝国の航空機はニグラート連合竜騎士団の放った火球をすべて回避した。
「くそっ!! 何て運動性能だ!!!」
彼は驚愕しつつも体制を立てなおす。敵はすでに遥か先まで進んでしまった。
「速い!!」
モレノールは導力火炎弾を再度放つために騎首を敵に向けようとしたその時。
「隊長!! 左後方から敵機!!」
彼が振り向くと敵戦闘機が自分の後方につこうとしていた。
「ぬぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
頭を下に向け、急降下を開始する。光弾による線が一瞬前まで自分が飛行していた場所を通過、少し遅れて「タタタタ……」といった乾いた音が響く。僅かな判断ミスをしたら死んでしまうという事実に、モレノールの背中にどっと汗が流れる。敵はすぐに機首をこちへ向けた。
「しまっ!! ちくしょう!! なんて速さだバケモノめぇぇぇぇぇ!!!!」
敵は自分よりも遥かに速いだけではなく、とんでもない旋回性能をもっているようだった。迫り来る光弾。そして、今まで共に戦ってきた愛騎に連続して大きな穴が開き戦友を貫く。ワイバーンロードはのたうち回る暇も無く即死する。
「がっ!!!」
ニグラート連合竜騎士団長モレノールはグラ・バルカス帝国東方艦隊第1次攻撃隊の護衛戦闘機、アンタレス型艦上戦闘機と交戦し、その命は大空に散った。
世界連合艦隊 神聖ミリシアル帝国地方隊 旗艦 ブロンズ型魔導戦艦セインテル
艦橋には緊迫した戦況報告響き渡る。
「ムーから発艦した戦闘機隊、グラ・バルカス帝国海軍航空隊と交戦中! 既に25機を撃墜!! ムー側に損害なし!!」
「ニグラート連合竜騎士団、全滅!!」
「現在第2文明圏連合竜騎士団170騎が艦隊に接近中、しかし到達まで約15分!!」
「本隊からは、しばらく耐えるように司令あり」
「あと2分ほどで敵、目視範囲に入ります!!」
艦長レルジェンは瞼を閉じて報告を聞く。
「副長! 我々は捨て駒にされたな・・・・」
「はい、間違いなく。」
世界連合という名の、数は多いが超旧式、いや、骨董品と言って良いほどの軍が眼前に展開する。第2位列強国のムーでさえも科学文明船とはいえ、性能的に神聖ミリシアル帝国の旧式艦よりも遥かに古い。そして弱い。唯一、ムーの新型機は活躍しているようだが、ムー以外の航空戦力は壊滅。それでも、神聖ミリシアル帝国のシルバー級魔導戦艦と同等の強さを持つと思われるグラ・バルカス帝国を前にしてみれば、正直彼らは弾除けに過ぎなかった。それでも数百隻もの艦隊は目を引く。
「我らは生き残れると思うか?」
「旧式とはいえ、船の数は多い・・・敵はより狙いやすいソフトターゲットに向かう可能性も高く、後15分ほどすれば数だけは多い第2文明圏竜騎士団が直上に現れます。総数は500騎ですが、とりあえず170騎が上空支援に到達する。最初の1撃は耐える事が出来るでしょう」
「2回目以降は解らぬか・・・・ん?」
ブオォォォォォ……ン
海上に鳴り響く微かな重低音、目を双眼鏡に当て、空を見た。前部にムーの飛行機のようなプロペラが付き、ミリシアル帝国のような低翼を採用している。美しくもある見慣れない航空機が目に飛び込んで来た。
「来たか!! 対空戦闘用意!!」
艦長の命により、迅速的確に対空戦闘の準備が行われていく。
「魔導エンジン、出力45%から上昇開始!!」
「動力振り分け45%を維持しつつ攻撃回路へ接続」
「接続完了。対空魔光砲への魔力充填開始……80%……90%……100%……対空魔光砲、エネルギー充填完了!」
「残魔力、装甲強化のためコンデンサへ」
「対空魔光砲、魔力回路起動! 属性分配、爆48、火22、風30、対空魔光砲発射準備完了!!」
魔導戦艦セインテルの対空砲の砲口に粒子が吸い込まれていく。
火器は上空を向き、やがて艦隊上空に進入してきたグラ・バルカス帝国の航空機を照準機に捕らえた。帝国の急降下爆撃機は高度4000mから急降下を開始、何らかの攻撃をしようとしているのだろう。降下を開始した急降下爆撃機、その音はドップラー効果により高音に至る。
「対空魔光砲発射!!!」
砲口に粒子が吸い込まれた後、爆音と共に光弾が空へと向かった。空へと打ち上げられる連続した光弾。一見凄まじいまでの攻撃が空へと向けられているように見える。しかし、近接信管も無く、手動で行われる照準ではいくら連射しているとはいえ、攻撃はもどかしいほどに当たらない。最初に急降下してきた敵が機銃掃射の後、爆弾を投下した。
マギカライヒ共同体 機甲戦列艦隊 旗艦バルテルマ
「敵機、我が艦隊に向かって急降下開始!!!」
簡単に攻撃を許してしまった事に、艦長テルンは眉間にシワを寄せた。見張り員から報告直後、敵の機体が高音を発し始める。まるで死神の悲鳴のようにも聞こえる音と共に、敵は機首を我が艦隊に向けた。
「対空戦闘開始!!!」
比較的小型の魔導砲が空を向き、射撃を開始する。空へと打ち上げられる砲弾は単発であり、全く敵に当たらない。
「くそっ!!」
次の瞬間、敵が光弾を発射した。急降下爆撃機から発射された機銃弾は、木製の船体に大きな穴を開け、上から下に貫通する。
「船底破損!! 浸水!!!」
「なっ…何だとぉ!!」
空を飛ぶ兵器からのたったの1射で船が破損した事に驚きを隠せず、敵を睨みつけるテルン。
「あれは何だ!!!」
敵は黒い何かを落とし、機首を上げて離脱する。
ドバァァァァァッ……ドゥゥゥゥゥ……
グラ・バルカス帝国の急降下爆撃機から放たれた爆弾は、マギカライヒ共同体機甲戦列艦隊旗艦バルテルマの内部でその能力を開放、炎は内部にある火薬へと引火、爆圧は放射状に広がる。海上には猛烈な閃光と爆発音が発生し、同船は木端微塵に粉砕されてこの世から消えた。
ムー機動部隊 旗艦 戦艦ラ・エルド
空を我が物顔で飛び回る敵機。神聖ミリシアル帝国艦から打ち上げられる対空兵器はとんど敵を捕らえる事が出来なかった一方で、ムーの対空兵器は恐るべき戦果をあげていた。
「3時の方向より敵爆撃機接近!!」
「高射砲用意!!」
ハリネズミのように設置されている35mm連装機関砲が火を吹く。レーダーを搭載し、正確無比な射撃により、急降下爆撃を試みたグラ・バルカス帝国海軍航空隊の航空機8機を撃墜する。
「マギカライヒ共同体、旗艦バルテルマ、轟沈!!」
「トルキア王国戦列艦隊、ヘルマ、ぺクノス、ジェイアード、轟沈!!」
「中央ギリスエイラ公国魔導戦列艦、ナーノ、ピルコ、ミーリル轟沈!!」
増え続ける被害。海上の各所で炎に包まれる友軍。数が多いため、全体としてはまだ数パーセントの損耗ではあったが、青い海の上で発生し続ける赤い炎はそこにいる兵たちの心に恐怖を植え付けた。彼らにとっては、敵に囲まれながらも敵機をバタバタ撃ち落としていくムー機動部隊が最後の希望となっていた。
「・・・・間も無く紫電改2が着艦の為に向かって来ます。空母の守りを強化するべきかと」
「うむ。ちなみに直ぐ出せる紫電改2は如何程ある?」
「予備の20機です」
「すぐに発艦させろ。上空の守りを厚くするのだ」
「ははっ!」
ムー国艦隊司令レイダーの指示で空母から予備の紫電改2が次々と発艦する。それと入れ替わるように81機の紫電改2が着艦体勢に入る。
「低空に敵機! 機数4、空母トウエンに向かっています!!!」
レイダーの背中に汗が噴き出す。日本国の資料で読んだことがある攻撃。水中を進み、船の喫水線下を攻撃、爆圧の逃げにくい水中で爆発するため、船体に多大な被害をもたらす兵器。確か・・・魚雷!!!
「い、いかん!! 奴を空母に近づけるな!!!」
次の瞬間、空母トウエンの護衛として展開しているフリゲート艦グラントが主砲を敵機に向ける。これまでの対空射撃においても圧倒的命中率の高さを誇るムー海軍が運用するヒルス級フリゲート。日本から輸入した本艦は、空母の護衛として常に傍に展開させていたのである。
「・・・・・グラント、敵機を全機撃墜!!」
ヒルス級フリゲートの二番艦グラントは、主砲の62口径5インチ砲を発射。正確無比な射撃により、敵機の魚雷攻撃を完全に阻止した。
「よし!!」
「敵機、遠ざかります!!」
「ひとまずは助かったな・・・・艦載機の搭乗員には日本から輸入したプリンを振る舞え!! 良いな!!」
「ははっ!!」
世界連合艦隊を混乱に陥れたグラ・バルカス帝国空母機動部隊の第1次攻撃隊は、一通りの攻撃を終え、帰投していった。しかし、ムーの紫電改2と近代化改修された艦艇の反撃により多大な損害を出しただけでなく、イギリス海軍の原子力潜水艦により空母を8隻沈められる等、損害に見合う戦果とは言えない状況だった。
グラ・バルカス帝国 海軍連合艦隊 旗艦グレードアトラスター
戦艦グレードアトラスターは帝国監察軍所属であったが、その能力の高さから、今回連合艦隊旗艦としての役割を与えられていたため、本来乗艦しないはずの帝国海軍東方艦隊司令長官カイザルが乗艦・・・するはずだったが、カイザルはイギリスによるラグナ核攻撃により爆死しており、艦長のラクスタルが臨時司令長官を勤めている。
「第1次攻撃隊から入電、第2次攻撃の要あり、戦果・・・・」
艦橋では第1次攻撃隊が敵に与えた大戦果が報告される。一方我が帝国の損害も極めて大きい。謎の攻撃(ブリカス)により、空母8隻が撃沈され、ムーの新型機や対空射撃により航空機を60機も喪っていた。ラクスタルは目を閉じて考える。
「やはりムー・・・侮り難し・・・・航空攻撃は空母が1隻のみの為に不可能。艦載機を可能な限りサイバー・ペガススに収容。入りきらない場合は着水させ、搭乗員を回収!! 奴等には戦艦を中心とした打撃部隊を送るぞ! 伏兵の可能性も考慮し、編成は・・・」
グラ・バルカス帝国海軍連合艦隊は、その大艦隊の一部を・・・艦隊決戦として、世界連合艦隊殲滅のために差し向ける事を決定したのだった。その後、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦が参戦し、グラ・バルカス帝国は大損害を受ける。神聖ミリシアル帝国艦隊に向かった潜水艦部隊は大戦果をあげるも、世界連合・・・特にムーに向かった潜水艦部隊は、フリゲート艦や駆逐艦に見つかり、次々に対潜ロケットや爆雷、更にはアスロックを叩き込まれる。グラ・バルカス帝国は多大な損害を出しながらも、敵空中戦艦に徹甲弾を叩き込むという奇策で空中戦艦1隻を撃沈。しかし、直後に発生した最後の海戦では、ムー以外の艦艇全てを撃沈するも、旗艦グレードアトラスターに対艦ミサイルが20発被弾。旗艦は機関をやられ、航行不能となった為、巡洋艦2隻による曳航を開始。また、ムーの空母から発艦したフェアリーソードフィッシュ2が雷撃や爆撃を実施し、多数の艦艇が損傷。互いに弾薬を消費し尽くし、9割以上の損害を互いに出していたことから、双方は漂流者を救助して撤退。海戦は世界連合の戦術的勝利、グラ・バルカス帝国の戦略的勝利とされ、互いに勝利を宣言することになるのである。
第二文明圏列強ムー港町マイカル
マイカル国際空港
「今頃、世界連合とグラ・バルカス帝国がドンパチやってるんだろうな」
「ムー以外はぼろ負けでね」
グラ・バルカス帝国に対して、日本政府の意思を伝える為に、経由地となるムーのマイカル国際空港に降り立ったアキコとシン。レイフォルには、友人のハルトの手によって協力者が多数潜伏していること等知る由もなく、彼らは最後の旅路になるのではと思いながら空港内を歩く。
「・・・・生きて帰れると良いのだけどね・・・」
彼らは世界連合とグラ・バルカス帝国による一連の海戦が終結した後に、日本政府の要請により派遣されるムーの巡視船にて、レイフォルへ向かうことになる。なお、巡視船は二人を降ろした後、速やかに離脱することになっており、ムーへの配慮とイギリス政府が好き勝手出来るように遠慮がなされている。
「・・・・・生き急ぎ過ぎたのかもしれないわね」
「大丈夫さ! この僕、シンがいる限り、アキコが死ぬことない!!」
「・・・・何時もなら馬鹿って言いたいところだけど、今はシンを信じるしかないわね」
グラ・バルカス帝国統治下ニューアーク市
ニューアーク総督府
「これが例の本か」
「はい。先ほど、レイフォルの情報局のナグアノと申す職員からガルマ大佐に送られた本になります」
「我が国と日英が戦った場合の想定か。実に興味があるな」
ニューアーク総督のグラ・ガルマは、数分前にレイフォルから送付されてきた一冊の書籍に目を通す。
「しかし、資料請求をしたら大衆向けの書籍を送って寄越すとは、何事であろうか?」
「さっぱり分かりませぬ」
副官のダロダと共に本を読み進めるガルマ大佐。読み進めて行く内に、二人の血の気が引いていく。
「・・・・・不味くないか? これ」
「に、偽情報の可能性も・・・」
「確かに無くはないが、我軍の機密の全てがここに載っている。仮にスパイをレイフォルに潜り込ませたとしても、ここまで機密が漏洩するとは考えにくい。そう思わないか?」
「た、確かに・・・・」
「それに、ムーに潜り込ませた諜報員からも、日英に関する報告が届いている。私も本国に報告しているのだが、お父上は私からの文を読む気がないのであろうな。一度も返事を返してきたことがない」
「相当嫌われておりますな」
「ああ。しかもラグナが壊滅したことを私にすら隠していた。この本がなければ知る由もなかった。果たして私は祖国の為に尽くすべきなのだろうか…」
彼らは直感的にこの本は信憑性が非常に高いと判断していた。
「では、如何なさるので?」
「私はニューアーク総督だ。グラ・バルカス帝国の軍人であると同時に、帝国臣民の一部であるニューアーク市民を守る行政官だ。もし、私の命で諸君らと市民の命が救われるのであれば安いものさ」
ガルマ大佐は決心した。
「ダロダ、申し訳ないがムーに向かってくれ。そして私、ニューアーク総督グラ・ガルマの意思を日英に伝えてきてくれ」
「畏まりました」
「もし、諸君らと市民の命の安全を保証しないのであれば、ニューアーク駐留軍は玉砕覚悟で抵抗するとも伝えよ。良いな?」
「ははっ! ガルマ大佐!!」
ニューアーク総督にして、グラ・ルークスの四男、グラ・ガルマ大佐は日英両国に対して、降伏を申し入れる使者をムーに派遣した。現地に潜伏している自由レイフォル軍の情報を元に、今から調略を始めようとしていたイギリス政府は、突然のニューアーク総督府の降伏に驚くと同時に大いに喜んだという。
おまけ
ムー海軍次期主力フリゲート
ヒルス級フリゲート(基本的に日本のもがみ型と変わらない)
20隻の建造(内、4隻は日本で建造。ムーの回航員により到着)が決定しており、老朽化や陳腐化が進む哨戒艦や駆逐艦、海防艦の置き換えが行われる予定で、4隻が就役中。更なる追加建造または改良型の導入も検討中。艦名から、日本では「ヒルスシロカブト級フリゲート」、または「ディナステス級フリゲート」と呼ばれることもある。
1番艦:ヒルス
2番艦:グラント
3番艦:ティティウス
4番艦:モロン
5番艦:ミヤシタ(建造中)
6番艦:マヤ(建造中)
7番艦:サタン(建造中)
8番艦:ネプチューン(建造中)
9番艦:???(来年度予算計上中)
10番艦:???(来年度予算計上中)
(続く)