第二文明圏列強ムー港町マイカル
駐ムー日本領事館
「・・・・・こりゃあ、核兵器を撃ち込むこと前提の内容ね」
レイフォルに渡航する日まで、マイカルの日本領事館で時間を潰すアキコとシンは、本国から送られてきた、グラ・バルカス帝国への和平案に目を通す。
「先の首都圏地下鉄ゲリラ事件に対する謝罪、関係者全員の身柄引き渡し、遺族並びに被害者及び東京メトロ、都営地下鉄、東急電鉄に対する賠償金の支払い、それとは別に1兆1451億4191万9810円の支払い、またそれとは別にオラパ諸島侵略とそれらの迎撃にかかった費用として810兆円の支払い、領土の一部割譲・・・日本政府も覚悟を決めたんだな」
「そして拒否すれば、その場で核報復を実施。その後、核により壊滅した都市の様子をシエリアとダラスに見せつける・・・と」
「ガチギレしてるなあ・・・しかも、昨日イギリス政府から日本政府に対して、ニュー・ホンコンに展開している特殊部隊をレイフォルに潜入させ、MI6の職員や自由レイフォル軍が僕達を守る為に展開しているとの報せだ。これは生きて帰れるんじゃないか?」
「・・・・・あの狂った兄妹にも人の心があるとはねえ・・・・下手したら長期休暇はなかったことにされそう・・・・」
「じゃあ、育休しかないな。あるいは僕が復帰して領事を・・・」
「それはない。というか、シンを領事にするぐらいなら腹に子供抱えたまま仕事する」
「しょぼーん(´・ω・)」
「お二人方、いよいよ出番です」
「ん? 戦闘が終わったの?」
「はい。此方が結果になります」
領事館職員が戦闘結果を二人に手渡す。
「・・・・・・へえ~、噂には聞いていたけど、空中戦艦を投入。グラ・バルカス帝国軍は大損害を受け、レイフォリアに撤退。一方の世界連合は空中戦艦1隻を撃沈? 撃墜? され、ムーを除く全ての艦艇が撃沈。ムーは戦艦ラ・エルド、フリゲート艦のヒルス、グラント、ティティウス、モロンが対艦ミサイルを使用し、グラ・バルカス帝国の巨大戦艦を大破炎上させ、更には潜水艦を対潜ロケット、爆雷、アスロックで35隻撃沈。更には紫電改2がグラ・バルカス帝国の戦闘機をバタバタ撃ち落とし、フェアリーソードフィッシュ2は雷撃により、駆逐艦4隻を撃沈、巡洋艦2隻を大破・・・ムーも中々やるわね」
内容は防衛省が衛星画像解析を行った上でのものであり、報告されていない戦果もあるが、概ね正しい。
「・・・・さて、行くとしましょうか」
「ああ!! 行こう!!」
アキコとシンは、ムーが手配した巡視船でレイフォリアに向けて出発する。グラ・バルカス帝国側には事前に無線で通告しており、安全を保証すると回答が来ている。
「さて、どうなるかな・・・・」
「結果なんて分かりきってるのに、久々に悪い顔をしているよ、あのアキコが」
「驕り昂った愚か者達が裁かれるからね、仕方ないわね」
巡視船は順調に航海を続け、3日後にレイフォリアに到着。二人を降ろした後に巡視船は急いで撤退するのである。
「シエリア、最近眠れていないらしいから、ゆっくり寝かせてあげるわよ・・・・」
航海を続ける巡視船の中でアキコは小さな小瓶片手にそう呟いていたという。
ムー首都オタハイト
駐ムー英国大使館
「この度は会談の席を設けて頂き、誠に感謝致します!!」
「いえいえ、此方もダロダ殿を始め、ニューアーク総督府の面々への調略を考えていたところでしたから、手間が省けて助かりますぞ」
ムーの首都オタハイトのイギリス大使館では、グラ・ ガルマ大佐の最側近にして、旧レイフォル国境から密入国したダロダと駐ムー英国大使のブレンダン大使による、超極秘会談が開催されていた。ダロダが密入国していることをイギリス側はムーに一切伝えておらず、イギリスの本気度が窺える。
「して、ダロダ殿。ただおしゃべりをしに我が国の大使館まで来たわけではあるまい。何かしらの手土産を用意しているのであろうな?」
ここでいう手土産というのは、賄賂のことではない。彼が、イギリス政府が要求しているのはそれ以上の物である。
「では、単刀直入に申し上げます」
超大国イギリスの大使を前にダロダは緊張する。
「我が主グラ・ガルマニューアーク総督は、大英帝国に対して、降伏を申し出ております」
「・・・・・ほう・・・・それで?」
イギリス側の担当者の動きが一瞬止まる。
(これは予想外だな。まさか敵国の・・・・それも皇帝の四男にして、一地区の総司令官が戦わずして降伏すると申し出ている。何か裏があるのか?)
「いきなりの降伏に困惑しているかと思われますが、無理はありません。ですが、我が主グラ・ガルマニューアーク総督は、勝てぬ相手に無用な戦を挑み、配下の兵士とその背後にいる、守るべきニューアーク市民の命を犠牲にすることはあってはならない。もし、首が必要であると言うのであれば、喜んで差し出すと・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
暫しの沈黙。ブレンダン大使は目を瞑り、相手の考えを先読みする。
「・・・・・・・分からぬな・・・・我が国を・・・・おそらくはガルマ総督は同盟国日本を含めて、勝てぬ相手であると理解されているのであろう。そこは実に賢明かつ、聡明である。だが、腑に落ちぬのは、仮にも皇帝の子である彼が、祖国を平気で裏切る行為に走れるのかだ。そのような者は我が国や同盟国日本が相手でも裏切るのではないか?」
「お気持ちは理解致します。ですが、我が主グラ・ガルマ総督は決してそのような邪な考えは持ち合わせておりませぬ!! 共に戦う兵士は勿論のこと、占領地の民が相手であっても別け隔てなく接し、彼らの為に出来ることは全てやる、真っ白なお心を御持ちの御方にございます!!」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
(話を聞く限り、ダロダ殿の言うことに嘘偽りは一切ないように感じる。だが、先に我が国の大使がレイフォルの中心地レイフォリアに訪問した際、グラ・バルカス帝国人は官民問わずにレイフォル人を奴隷または家畜同然の扱いをしていたはず。にも関わらず、真っ白なお心を御持ち? う~む?)
「ダロダ殿の言うことに嘘偽りがあるようには思えぬ。だが、実際に我が国の大使がレイフォリアを訪問し、そこで虐げれている現地人の姿を見てきている。故に信じられぬのだよ・・・」
「でしたら! 遣いの者で構いませぬ!! 我が主と会って頂けませぬか!! 我が主が治める、ニューアークに来ては頂けませぬか!!」
「なっ!?」
(コイツは正気か?! 敵国の大使に対して、どうぞスパイを送ってくださいとお願いしているようなものだぞ!? ますます分からんぞ!?)
「・・・・・と、取り敢えず今日はお疲れでしょうから、大使館でお休みください。君、ダロダ殿を客人用の部屋に連れて行ってくれ」
ブレンダン大使は配下の者に、ダロダを別室へ連れて行くよう指示を出す。
「畏まりました」
「ダロダ殿、本日の件は速やかに本国に報告致します。本国からの指示によっては、実際に我が国からニューアークへ使者を派遣するかもしれませぬ。その時は道案内をお願い出来ますか?」
「無論にございます!! 貴国からのご返答をお待ちしております!!」
ダロダは退室し、ブレンダンは秘書と共に応接室に残る。
「・・・・どう思った?」
「個人の感想にはなりますが、もしかすると本当にガルマ総督は我が国や日本に降伏するつもりなのかもしれません」
「ほう・・・・何故だ?」
「なんと言いますか、悪巧みをしている場合、何かしらの臭いを感じます。特に我が国のハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンとか、ビート・フィッツジェラルドとか・・・」
「・・・・・まあ、アイツらは・・・・まあ、うん・・・・それで?」
「しかし、ダロダ殿からはそれを一切感じないのです。無論、ダロダ殿が真っ白な可能性はありますが、仮にダロダ殿とガルマ総督を同一視してみた場合、己の利益は一切考えず、市民生活の改善は仕事だからやっている、その為に命を捨てることは当然のこと。本当にそう考えているように感じました」
「・・・・・確認するが、ガルマ総督はグラ・バルカス帝国皇帝の四男だったな?」
「はい。レイフォリアに潜入しているスパイや自由レイフォル軍からの報告で証明済みです。更に国民からの人気が高く、プロパガンダによく用いられているとも」
「・・・・・もしかすると、これは使えるかもしれないな。上手く行けば、グラ・バルカス帝国を内戦状態に突入させることが出来る。そしてガルマ総督を我が国の傀儡にも・・・」
ブレンダン大使はその後、本国への報告書の作成に移った。この中では、
・ダロダ殿の求めに応じて、ニューアークへ使者を派遣するべきである
・使者を派遣し、実際にガルマ総督の意思やニューアークの様子をその目で確認するべきである
・もし、実際に我が国並びに同盟国日本に降伏するのであれば、彼を殺すのではなく、むしろ生かして利用するべきである
・彼を傀儡にすることが出来れば、グラ・バルカス帝国を内戦状態に突入させ、自滅させることが出来る可能性がある
報告書は即日イギリス本国に届けられた。元々現地に潜入させているスパイの情報から、ニューアーク総督周辺の幹部連中に調略を仕掛けることを検討していたイギリス国防省は、ガルマ本人が調略出来る可能性があると聞くと方針を変更。彼を首班とする、新たなグラ・バルカス帝国政府を樹立させ、内戦を起こさせる策を立案した。3日後にはブレンダン大使宛に指示書が届く。
「・・・・・ダロダ殿を御呼びせよ」
「ははっ!!」
数分後、秘書官がダロダを応接室に連れてくる。
「ダロダ殿、本国から返事が来ましたのでお知らせします」
「・・・・・はい」
「我が国としては・・・・・」
イギリス政府は、ニューアーク総督府にブレンダン駐ムー英国大使を代表とし、外務・英連邦・開発省、MI6、英国陸海空軍の者らから成る外交団を秘密裏に派遣することになった。この知らせを聞いたダロダは大歓喜し、ブレンダン大使に握手を求めた。3日後、ブレンダン大使を初めとする使節団一行は、ニューアーク総督府に向けて移動を開始。ダロダが来るときに使った道を使い、ムーの国境警備隊に見つかることなくレイフォル側へ越境。途中でグラ・バルカス帝国ニューアーク駐留軍が手配した軍用車両に移乗し、ニューアークを目指すことになる。
「・・・・・果たしてグラ・ガルマとやらはどのような人物であろうかな?」
マイカル空軍基地
「しかし、オグリもだいぶスツーカに慣れてきたな」
「当たり前だ。オレに操縦出来ない戦闘機なんてない!!」
「まあ、スツーカは爆撃機だけどな」
「揚げ足をとるな!! しかし、ムー以外の艦艇は全滅したと言うのに、我が国はまともに増援を送ろうとはしないな」
「離れすぎてるのと、イギリスみたいに世界に植民地・・・・同盟国を積極的に作りに行こうとはしていないからな」
「ウッチー、本音出てたぞ」
「これは失礼」
この日は本来休暇中であるオグリとウッチーだったが、空を飛ぶことに生き甲斐を感じている二人は、ムー空軍の戦闘機や爆撃機を操縦し、ムー空軍の新兵に対して教育をしたりしていた。特にオグリの指導は過激的というか、刺激的であり、あまりのワーカホリックぶりに発狂する訓練生が出る程であった。
「しかし、オグリの指導で泣かされた整備兵の顔! 傑作だったわwww」
「ああ、トーロマンね。後部機銃手がいなかったから、そこら辺にいた彼を乗せたんだがな。全く、敵に囲まれたからと発狂するバカがどこにいる!! 演習で発狂するんじゃ、この国は守れないぞ!!」
「その点、軍医のガーデルメンは優秀だよな。俺以外で唯一オグリに付いていけるんだからな」
「ああ! 彼は将来有望、少佐になれるだろうな!!」
ブー!! ブー!! ブー!!
「この警報・・・・スクランブルか!!」
「領空侵犯だと?! レーダー員は何をしていた!!」
オグリとウッチーは反射的に格納庫へ走る。彼らは対Gスーツを着ていない為、一番近くに駐機していたムー空軍のJu88スツーカ2に搭乗する。
「ウッチー、背中を任せていいな!!」
「オグリこそ、操縦は任せたぜ!!」
手際よく二人はスツーカ2に乗り込むと、エンジンを始動させ、滑走路へ向かう。他のムー空軍兵士らは突然のスクランブルに右往左往しているばかりで、上官らも含めて困惑している様子であった。一方、日英加豪新エリアではスクランブル任務に就いているイギリス空軍のユーロファイタータイフーン2機が今まさに離陸しようとしていた。
「今日のスクランブル任務はイギリス空軍か!! 流石は王立空軍!! ムーの連中とは違うな!!」
「ムーもタイフーンを配備しているが、グラ・バルカス帝国と開戦した影響でタイフーン部隊はオタハイト防衛に駆り出され、マイカルには新兵しかいねえからな」
彼らに続いて離陸する為に、オグリは司令部に無線を入れる。
「此方、オグリ。これよりムー空軍の爆撃機でスクランブルする。誘導を要請する」
マイカル空軍基地日英加豪新合同司令部
「スクランブル任務のユーロファイタータイフーン2機が離陸準備を完了。滑走路に進入します!!」
通信士が状況を報告する。この日スクランブル任務に就いているイギリス空軍のユーロファイタータイフーンが間も無く離陸し、領空侵犯への対応に向かう。
「領空侵犯機の進路を彼らに送れ。誘導し、国籍を確認。仮にグラ・バルカス帝国軍機だった場合は撃墜せよ!!」
マイカル空軍基地の日英加豪新部隊の司令官、海場湊は迎撃にあがるタイフーンに撃墜命令を出す。日英はグラ・バルカス帝国から宣戦布告されており、ムーは同盟国。今回の行動は、集団的自衛権の行使に該当するとして、事前に本国から認められている行動であるからである。
「しかし、実際に発動を指示する側になるとは思わなかったな」
海場司令はそう呟く。
「突然レーダーに映った国籍不明機・・・一体どこから来たのだろうか・・・ミスター・ウミバはどう考える?」
副司令を勤めるイギリス空軍の将官が海場に問う。
「そうですな・・・・グラ・バルカス帝国の勢力圏からは遠く離れており、また先程まではレーダーに全く映っていませんでした。考えられるのは空母ないし潜水艦から発艦した、でしょうな」
「空母の単独行動は考えにくい上に、衛星画像の解析から、現在レイフォルに展開しているグラ・バルカス帝国海軍の空母はたったの1隻のみ。となると、何処かに潜水艦がいますな」
「ムーは対潜能力が低いからな・・・P1の導入はまだ始まったばかりな上に、訓練の為に日本にいるからな・・・・フェアリーソードフィッシュ2が哨戒任務に就いているが、それでは不十分だしな」
「それよりも、ムー空軍の動きが悪すぎます。スクランブルが発令されたにも関わらず、全く離陸の気配がありません。唯一、爆撃機1機が非常に手際よく滑走路に向けて進行中ですが」
「そろそろ離陸許可を求めに来るだろうな」
マイカル空軍基地はムー空軍の所有物である一方、航空管制は日英が握っていた。これは先に締結された日英との軍事同盟によるものであるが、そもそもの技術力や練度の違いから、日英に委託するしか手段がないのである。
(・・・此方、オグリ。ムー空軍の爆撃機でスクランブルする。誘導を要請する)
通信士は何で我が国のパイロットがムー空軍の爆撃機に乗っているんだ?! と驚きの表情を浮かべる。
(滑走路への進入許可を求める)
通信士は何が起きているかわからず、返答が遅れる。
「・・・あ、あの・・・オグリさんは今日休暇のはずじゃ・・・」
(早く離陸させろ!! 空母か潜水艦がいるんだろう!! うかうかしてたら取り逃がすぞ!!)
「・・・・・貸せ」
海場司令が通信士から通信機器を取り上げる。
「此方管制塔、そして基地司令の海場だ。オグリ、今スツーカには何を搭載している?」
え? 勝手にムー空軍の爆撃機に乗っていることを咎めるんじゃないの? と驚く通信士。
(対潜爆雷一式を積んでいます)
「よし、そのまま滑走路に進入しろ。オグリ、敵航空戦力は突如として、レーダーに出現した。状況から敵は潜水艦をムーの領海に送り込み、対潜哨戒能力の低さをついて発艦させたものと思われる。オグリ機は潜水艦を捜索し、これを撃沈せよ!」
(了解しました! 見つけ次第撃沈します。味方の潜水艦はいない、でよろしいでしょうか?)
「いない。思う存分やれ。ここはムーだ。日本ではない。好きなように暴れてこい。私が許可する!! 行け、オグリ!!」
(司令、俺は無視すか~?)
「やはり後部機銃手はウッチーだったか。お前は確か双眼鏡を持っているはずだ。それで潜水艦を探せ、よいな?」
(了解っす~)
その後、二人を乗せた爆撃機が離陸し、敵潜水艦捜索に向かう。
「・・・・あの二人、あとで始末書ですね」
「始末書? あんな生産性の欠片もないクズなんぞいらん、気にするな」
「まさかの司令官、あっち側の人間だった~!?」
「通信士? 何だ? あっち側の人間とは? この基地にはあっち側の人間しかいないんだよ」
「え?」
「知らんのか? 私がこのマイカル空軍基地で司令官をやっている理由はな、本国の連中に嫌われたからだ」
「いや、そうなんですか?!」
マイカル空軍基地の司令官を勤める海場はかなり変わった人物であった。彼自身かなりの問題児であったが、懲戒処分になるような不祥事は絶対に起こさない。そして能力自体は馬鹿優秀。その為順調に出世してしまい、気付けば空将補まで昇格してしまった。しかし、やはり上層部からは煙たがられており、左遷という形で防衛省からマイカルまで吹き飛ばされているのである。
「私もオグリやウッチーみたいに戦闘機乗りになりたかったんだがなあ・・・・叶わなかった。なら、私がするべきことは我が基地のエースである彼らを盛り立てることだ」
「いや、そら本国の皆さんが煙たがるよ、この人。だって常識通用しないもん。常識がブリカスしてるよ、この人」
「司令、緊急入電です!!」
他の通信士が緊迫した表情で会話を中断させる。
「どうした? 何があった!?」
「ムー大陸東側約300kmの地点を航行している日本国籍の大型自動車運搬船イカイクルーザーより救難信号!! 国籍不明機を確認したとのこと!!」
「・・・・・急にレーダーに映った航空機がそれか。敵の通信は傍受出来ているか?」
「はい。奴らは堂々と無線機を使用し、母艦と通信している模様です」
「あと何分でタイフーンは到着する? 間に合うのか!?」
司令室では緊張の度合いが上がる。
「・・・・・あと5分、いや4分で会敵します・・・・」
「イカイクルーザーに伝えよ。あと4分でイギリス空軍が到着する。それまで耐えよ、とな・・・」
「了解しました・・・・」
「それと、母艦の位置を割り出せ。大体でよい。割り出したら、オグリとウッチーに伝え、哨戒させろ!!」
「了解しました!」
第2文明圏ムー大陸東側海上
空は晴れ渡り、海は穏やかに波打つ。美しい海には空から見ると、1本の綺麗な線が走っていた。日本国籍の大型自動車運搬船イカイクルーザーの操舵室から、船長の山口は海を眺めていた。
水平線は遥か先にあり、地球に比べても感覚的に海が広く感じる。
「間もなくムー国ですね」
イカイクルーザーはムー大陸東側約300kmの地点を航行している。日本国で作られた自動車、そしてオートバイを満載し、ムー国を目指していた。
「最近きな臭いからな・・・何も起きなければ良いが・・・ん!?」
空に小さな粒が1つ見える。
「ムー国の航空機かな?」
粒のように見えた飛行機は徐々に大きくなり、船の上空を通過した。それは日本人が見ると、前時代的で、ひどくレトロな飛行機に見える。
「何だ? ありゃ?」
「ゼロ戦!? いや、フロートがついているのか? 何だろう」
船員たちはのんきに話していた。その飛行機を見た船長は全身から汗が噴き出した。
「ムーの飛行機じゃない!!! 無線を!! 無線をすぐに入れるんだ!!!」
船長山口は気が気ではない。付近に自衛隊やイギリス軍がいないのはもちろんの事、ムー国本土ですらここから300kmも離れているのだ。自動車運搬船は、救難信号を発し、無線を流すのだった。
イギリス海軍哨戒艦シカーラ
「艦長、日本国籍の貨物船から救難信号を受信しました!」
「何?!」
マイカル空軍基地がイカイクルーザーの救難信号を受信したのと同じ頃、偶然にも付近で訓練中であったイギリス海軍の哨戒艦シカーラ(モス型哨戒艦の5番艦)も、同船からの救難信号を受信していた。
「此方は栄光ある英国王立海軍マイカル守備隊の哨戒艦シカーラである。イカイクルーザー、応答せよ!」
(此方、イカイクルーザー! 国籍不明の、ムーのものではない航空機が接近! あ・・・・ああっ!!)
無線が乱れる。同時に巨大な爆発音が入る。
「此方シカーラ、これより本艦が救援に向かう!! 暫し耐えられたし!!」
無線を切ると、艦長は進路を変更させる。
「総員戦闘配置! これは演習ではない!! 同盟国の貨物船が敵国の航空機の攻撃を受けている!! 本艦はこれより、貨物船の救援に向かう!!」
哨戒艦シカーラは速力を上げ、イカイクルーザーに向けて進路を変更。直後にイカイクルーザーにはマイカル空軍基地より、迎撃の戦闘機と爆撃機が離陸したことが伝えられる。
グラ・バルカス帝国 第22潜水艦隊所属
第24番艦 E-400 搭載機 試作型水上戦闘機
アンタレス型艦上戦闘機をベースに翼を折りたたみ式に改良し、水上フロートを付けた試作型水上戦闘機。グラ・バルカス帝国の大型潜水艦E-400の格納庫に収納されていたそれは、水上で翼を広げ、哨戒のために飛び立っていた。日本人の少しだけ旧軍に詳しい者が見たならば、二式水上戦闘機のように見えるだろう。
「クックック・・・・見つけたぞ!!」
パイロットであるアストルは舌なめずりをする。彼は昔を思い出す。帝国飛行隊を目指し、パイロット試験に合格した日は誇らしかった。きっと自分は空母機動部隊に配属され、帝国の世界制覇のため、異界の空を縦横無尽に駆け回る、天翔ける戦士となる。そう思っていた。しかし、自分が配属されたのは、アンタレス型に比べ、鈍足な試作型水上戦闘機、しかも潜水艦から単機で飛び立って索敵するという地味すぎる仕事だった。彼は、ストレスと、敵を倒すという実績に飢えていた。白地に赤丸の旗を掲げる船、敵国日本国の船に間違いは無いだろう。迅速的確に母艦に現在地の報告を行い、攻撃にうつる。初の実戦に、血が沸騰するかのような興奮を覚える。
「・・・・・大きいな」
敵の商船は、帝国の商船に比べてもかなり大きく、先進的な形にも見えた。通常は、商船に対して攻撃する事を嫌がる者もいる。しかし、彼はワクワクしながら攻撃に移った。
ブーーン!!
甲高い音が付近にこだまする。船にいる者からすると、その音はドップラー効果によりさらに高音に聞こえる事だろう。風を切り、飛行機は急降下していく。急角度で海に向かって進む航空機……彼は、胴体に設置してあった2発の60㎏爆弾を投下した。何度も練習した成果は着実に現れ、爆弾2発は一直線に商船に向けて吸い込まれていった。試作型水上戦闘機から投下された、2発の爆弾は、屋根を突き破り、内部でその威力を開放、満載されていた車などを吹き飛ばし、ガソリンタンク内のガソリンに引火する。一度着いた火は次々と延焼を起こし、船は短期間の間に大きな煙に包まれた。
自動車運搬船イカイクルーザー船内
「もはやこれまでか!! 総員退避!!!」
各車にある程度のガソリンを積んでいたため、火の回りが早く、船からは猛烈な煙が噴き上げている。抵抗しようにも武器の搭載はなく、鈍足な商船は飛行機から逃げる術も無い。イギリス空軍がマイカル空軍基地に先行配備されているユーロファイタータイフーンを離陸させてくれたらしいが、到着まであと1分かかる。
「くそっ!! 何で非戦闘員を攻撃するんだ!!! 卑怯者め!!!」
空飛ぶ敵に悪態をつく船員がいる。
「つべこべ言わずに、さっさと救難ボートの準備をしやがれ!!!」
悪態をついていた船員に激が飛ぶ。船長は、ふと嫌な予感に囚われた。救難ボートは攻撃して来ないだろうな。ここは地球では無い。戦乱渦巻く異世界。パーパルディア皇国は外交官や居留民を平気で殺害した。自分達の常識が通用するような場所ではない。増して、グラ・バルカス帝国からは宣戦布告を受けている。そう、今は戦時なのだ。ここはグラ・バルカス帝国の勢力圏内ではなく、安全と聞いていた。自衛隊やイギリス軍の基地もある。しかしどうだ!? 今自分たちは明確な攻撃を受け、救難ボートで脱出しなければ、煙に巻かれて死んでしまう。考える暇は無かった。彼らは複数の救難ボードを使い、脱出を試みる。
「はははは!! 楽しい!! 実に楽しいよ!! ヒャッハー!!」
短期間で燃え広がる船を見たアストル。
「実にモロイ船だな・・・ん!?」
炎と煙に覆われた船から、何か鮮やかな色の小さな船が広げられ、人が乗って海へと落ちる。脱出装置により、船から船員が脱出を試みているようだった。
「フハハハハ、逃げるのかい? 逃さないよ。敵前逃亡は死刑だよぉ!!」
軍人では無いため、敵前逃亡のなにもないのだが、アストルはつぶやき、再び急降下を開始しようとしたその時だった。
「Is desertion in the face of the enemy considered death?
(敵前逃亡は死なんだろう?)」
突然異国の言葉で無線が入る。先ほどの独り言を聞き返してきている。どうやら無線機を入れっぱなしにしていたようだ。
「地磁気の乱れによる混信か?」
アストルに一瞬の迷いが生じた。直後に、彼の上空を2機の戦闘機がすれ違う。
「・・・・な、なんなんだアレは!?」
アストルは見たことのない、非常に先進的な戦闘機に驚く。続けて無線が入る。
「This is the Royal Air Force. Follow our lead or die!!
(此方はイギリス空軍。我らの誘導に従うか、死ぬかを選べ!!)」
「We will now fire a warning shot. Follow us or die!!
(これより警告射撃を行う。我らに従うか、死ぬかを選べ!!)」
「We have already pinpointed the location of your ship, and an attack will soon be launched by our ally, Japan.
(我々は既に貴殿の母艦の位置を特定している。間も無く同盟国日本により攻撃が開始されるだろう)」
イギリス空軍によるご丁寧な警告。直後にアストルの操縦する試作型水上戦闘機の目の前を機銃弾が通過する。
「アハハハハ!! 面白い!! 面白いよ!!! 攻撃すら当てられない、警告しか出来ない軍隊だなんてね!!」
警告射撃をこのように理解したアストルは上昇し、格闘戦を挑もうとした。
「・・・・警告は無視された、ASRAAMを発射する!!」
イギリス空軍のユーロファイタータイフーン1機がミサイルの照準を合わせる。そして、搭載しているASRAAMを発射。
「・・・・・ASRAAMから逃げれると思っているのかい?」
ユーロファイタータイフーンのパイロットはそう呟いた。ASRAAMは寸分の狂いもなく直撃。アストルは何が起きたのか全く理解出来ないまま命を落とした。
「悪く思うなよ・・・弱い国に生まれた事を、そして偉大なる大英帝国を敵に回したことをあの世で嘆くのだな・・・・おっと、海軍が来たか」
救難信号を受信したイギリス海軍の哨戒艦シカーラが現場海域に到着。救命ボートに乗る乗員全員を救出した。自動車運搬船イカイクルーザーはこの日、グラ・バルカス帝国の航空機によって炎上させられた。一方で、イギリス空軍の参戦により死者はアストルを除き0。炎上したイカイクルーザーは消火作業の後にマイカルまで曳航されることになる。
ムー空軍爆撃機Ju88スツーカ2
「海場司令によると、この辺りに奴らの母艦がいるらしい」
「う~ん、中々見つからないな~」
「しっかり探せよウッチー!!」
「探してるんだけどね~、海は広いな~」
二人は潜水艦がいる可能性が高い海域を飛行する。双眼鏡片手に海を凝視するウッチー。
「・・・・いた! 10時の方向に敵の潜水艦を発見!!」
ウッチーが遂に待望の報告をする。堂々と浮上航行する潜水艦を発見したのである。
「敵地で堂々と浮上航行・・・そんなに死にたいのか?」
オグリは一段とエンジンの出力を上げた。同時に爆雷投下の準備を開始する。オグリらに気付いた潜水艦は急速潜航を開始するが、見付かってしまった時点で手遅れである。
「オレから逃げられると思うなよ!! 爆雷投下!!」
Ju88スツーカ2は搭載している爆雷一式を投下する。爆発音が響き、大きな水柱を作り出す。
「・・・・・海面にオイルを確認!! 何かしらの被害を与えた模様!!」
「ん?」
直後に潜水艦が浮上してくる。どうやら先の爆雷投下で潜航出来なくなり、やむなく浮上したようだ。
「さ~て、降伏するのかな?」
ウッチーは双眼鏡を潜水艦に向ける。
「あ! あの馬鹿!! 機銃を向けてやがる!!」
ウッチーは潜水艦の中から乗員が飛び出し、機銃座に人員が移動しようとしている様子を確認した。
「ウッチー、失神するなよ!!」
オグリは敵潜水艦目掛けて急降下を開始する。左右に1門ずつ搭載し、F35の武装にも採用されている25mmバルカン砲(異世界転移後に日本企業が解析の上で量産化)を斉射する。甲板上にいた乗員らは一瞬にして肉塊へと変貌する。
「ん? オグリ! 爆雷が1発残ってるぞ!!」
「残しておいたんだよ!! オレの勘がそう叫んだんでな!!」
急降下しながらオグリは残された爆雷1発を投下する。誘導装置のない、自由落下式の爆雷。急降下によるGでウッチーは失神しかける。一方のオグリはアドレナリン全開でむしろ興奮している。
しかける。一方のオグリはアドレナリン全開でむしろ興奮している。
「っしゃあ! 敵潜水艦轟沈!!」
爆雷が甲板に直撃した潜水艦は大爆発を起こした。直後に浸水が酷くなり、艦は一瞬にして海中に没した。あれでは逃げる暇もないだろう。
「・・・・うっ、失神しかけたぞオグリ・・・」
「喋れるなら大丈夫だな! 潜水艦はあの世送りにした! 撤退する!!」
敵潜水艦を血祭りに上げたスツーカ2は基地へ帰投する。帰投後司令部に出頭した二人は、基地司令官である海場以下日英の軍幹部により、功績を称えられたという。後に海場司令は本国に対して、二人の叙勲を申請するのだが、
「え? 何で戦闘機乗りが潜水艦を撃沈してんの?」
と困惑したという。一方でマイカル空軍基地の日英軍はムー空軍の醜態ぶりに大激怒。スクランブルが発令されたにも関わらず、偶然休暇中のオグリ、ウッチーを除き誰も戦闘機を出撃させられなかったことを問題視。そしてイギリス政府はムー政府に対して、マギカライヒ共同体、ニグラート連合、ソナル王国を軍事同盟に加える改訂の際に戦時統帥権を要求することになる。
「オグリとウッチーには、引き続きムーの新兵に対して、徹底的な指導を指示する! これまでは自主的(休暇中の暇潰し)であったが、本日からは任務だ!! 堕落しているムー空軍の連中を徹底的にしばけ!!」
「承知しました」
「うぃ~っす」
「文句を言ってきたら我が大英帝国が成敗する!! 安心して教育して来てくれ!!」
マイカル空軍基地の日英軍幕僚らは、オグリとウッチーに対してそう指示を出す。
「この基地の連中、まともなヤツまじでいないんだけど!?」
唯一まともな思考回路を持っている日本人通信士はそう嘆いたという。
(続く)