イギリス領ニュー・ホンコン
ニュー・ホンコン海軍基地
パーパルディア皇国から割譲され、イギリスの永久領土となったニュー・ホンコン。ニュー・ホンコン島の一画には海軍司令部が設けられており、基本的には哨戒艦と巡視船が配備されている。
「続々と艦艇が集結しつつあるわね」
海軍基地の司令官と共に視察するニュー・ホンコン総督アオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンは久々に集結した英連邦王国海軍の艦艇を見てそう呟く。ニュー・ホンコンの沖合いでは、ムーへ向かう海軍艦艇並びに民間徴用の輸送船が集結している。総勢100隻を超える大艦隊が集まっており、上陸している兵士や軍属、民間徴用の労働者らによりニュー・ホンコンの飲食店は未曾有の好景気に見舞われていたのである。
「再度の空母打撃群の編成・・・・政府も本気になったのね」
一昨日起きたグラ・バルカス帝国による日本の貨物船に対する攻撃を受け、イギリス政府はムーに対して大規模な増援部隊の派遣を表明。元々マイカル基地に向かわせる予定の部隊に加え、空母「プリンス・オブ・ウェールズ」を旗艦とする空母打撃群を編成。イギリス海軍の全力出撃とも言うべき状態であった。
イギリス海軍(20)
空母(1)「プリンス・オブ・ウェールズ」
駆逐艦(2)「ダイヤモンド」、「ドラゴン」
フリゲート艦(9)「ヨーク」、「ブルドック」、(以上もがみ型ベース)、「アクティブ」、「フォーミダブル」(以上31型フリゲート艦)、「アーガイル」、「ランカスター」、「アイアン・デューク」、「ウエストミンスター」、「リッチモンド」
揚陸艦(4)「アルビオン」、「ブルワーク」、「ライムベイ」、「マウンツベイ」
補給艦(2)「タイドレース」、「タイドフォース」
原子力潜水艦(2)「アガメムノン」、「アキリーズ」
カナダ海軍(10)
フリゲート艦(6)「ユーコン」、「ニピゴン」、「アナポリス」(以上もがみ型ベース)、「トロント」、「モントリオール」、「オタワ」
掃海艦(3)「キングストン」、「グレースベイ」、「ナナイモ」
潜水艦(1)「ウィンザー」(たいげい型ベース)
オーストラリア海軍(11)
駆逐艦(3)「ホバート」、「ブリスベン」、「シドニー」
フリゲート艦(5)「ダッチェス」、「ボイジャー」(以上もがみ型ベース)、「スチュアート」、「パラマッタ」、「パース」
強襲揚陸艦(2)「キャンベラ」、「アデレード」
補給艦(1)「サプライ」
ニュージーランド海軍(4)
フリゲート艦(2)「タラナキ」、「アモクラ」(以上もがみ型ベース)
補給艦(1)「アオテアロア」
多目的艦(1)「カンタベリー」
海上自衛隊(21)
航空機搭載型護衛艦(1)「いずも」
イージス艦(2)「まや」、「はぐろ」
護衛艦(4)「すずつき」、「おおなみ」、「しらぬい」、「あさぎり」
護衛艦(フリゲート)(4)「もがみ」、「くまの」、「みくま」、「によど」
掃海母艦(1)「うらが」
潜水艦(4)「そうりゅう」、「はくりゅう」、「けんりゅう」、「こくりゅう」
潜水艦救難艦(1)「ちよだ」
補給艦(3)「おうみ」、「ましゅう」、「ときわ」
輸送艦(2)「おおすみ」、「くにさき」
当初日本はイージス艦「まや」、「はぐろ」のみの派遣予定であったが、グラ・バルカス帝国による貨物船攻撃を受け、イギリス政府は日本政府に対して、日英同盟の発動を要請。これを受け日本政府は、日英同盟に基づき、自衛隊を派遣することを閣議決定した。護衛艦「いずも」を中心に、イージス艦、護衛艦、潜水艦、掃海母艦、補給艦等多種多様な艦艇が派遣されることになった。この他にも、日英のみならず、ロデニウス連合を始め、民間から徴用した輸送船が40隻以上参加しており、彼らもムーに向けて移動を開始する。輸送船には陸上戦力は勿論のこと、戦闘機を分解した上で海上輸送も行われる。航空戦力は日本、イギリス、オーストラリアの先発隊が既に経由地のオラパ諸島ロコール島並びにリペリュー島に到着しており、補給と整備の後にマイカルへ向けて再度離陸することになる。
「これだけの大戦力、移動にも時間がかかるでしょうね」
「部隊の展開完了には3ヶ月かかる見込みですので、それまではムー軍並びにマイカルに先行配備中の部隊が踏ん張るしかありません」
「そうなると、日本の外交官がレイフォルに向かうのは結果的に時間稼ぎの意味合いもある訳か」
「まあ、そうなりますな」
「そう言えば、今回はロデニウス連合の艦隊は参加しないのね」
「ロデニウス連合の艦隊は留守居の日本艦隊と共に、東ロウリア王国討伐に向かう予定です。今頃、東ロウリア王国側に最後通牒が突き付けられた頃でしょう」
補給と整備が完了した部隊から続々とニュー・ホンコンを出港し、ムーへ向けて進軍を開始する。途中、オラパ諸島、神聖ミリシアル帝国カルトアルパスを経由し、輸送船部隊を守る形で進軍。またオラパ諸島まではアルタラス王国、パーパルディア皇国、ポルスカ共和国、シオス王国の艦艇が護衛に付き、演習も実施予定である。彼らはオラパ諸島到着後、艦隊から分離してメスマン帝国に向かうことになる。
ロデニウス大陸東ロウリア王国
王都ビーズル ビーズル城執務室
「陛下! た、大変なことが!!」
ノックをせずに兵士が入ってくる。普通ならあり得ない行動。国王であるハーク・ビーズル・ロウリアは異変を察知する。
「何があった? 申してみよ」
「ははっ! クワ・トイネ公国との国境線沿いに大軍が出現しました! その数10000!!」
「何!?」
「陛下、大変でございます!! 西側の国境線沿いに西ロウリア王国軍20000、南の国境線にはクイラ王国とローデシア連邦の軍勢10000が現れました!! 我が国は大軍に包囲されつつあります!!」
「あ、あ、案ずるな!! 我々にはビーズルの壁があるではないか!! ビーズルの壁が破られぬ限りは敗けはせん!! それに世界最強のグラ・バルカス帝国軍2000が駐留しておる!! それに我が国は35000の常備軍と50000の予備役がおるではないか!!」
「し、しかし予備役は女子供、そして老人を含めた数にございますが・・・・」
「とにもかくにも軍を召集せよ!!」
「ははっ!!」
「陛下! ローデシア連邦が我が国に対して交渉したいとの申し出が!!」
「ローデシアがか? 我が国に忠誠を誓うのか? 通せ!!」
暫くした後にローデシア連邦の代表がハーク・ビーズル・ロウリアと謁見する。
「御初に御目にかかります。某はローデシア連邦軍第一強襲旅団所属、シュトロームにございます」
「そうか。して、シュトロームよ。ローデシア連邦は我が国に忠誠を誓うつもりなのか?」
「陛下、そんな馬鹿な話があるとでも? 某は陛下に対して、降伏を勧告しに参ったのです」
降伏勧告をされるとは思わなかった国王は激怒する。
「降伏だと!? 貴様は知らんのだろうが、我が国は世界最強のグラ・バルカス帝国と同盟を結んでおるのだぞ!! 日本もイギリスもグラ・バルカス帝国には勝てん!!」
「その最強の国とやらですが、既にイギリスにより首都を焼かれております。此方がそれを証明する写真にございます」
一枚のカラー写真が手渡される。そこには、廃墟と化したラグナの様子が映し出されていた。
「ば、ば、ば、馬鹿な!! こんなことはあり得ん!! 神聖ミリシアル帝国にも、グラ・バルカス帝国でさえ不可能だ!! 何かの間違いだ!!」
分かりやすく狼狽するハーク・ビーズル・ロウリア。
「その気になれば日英はこのビーズルを完全に消し去ることが出来ます。しかし、如何に東ロウリア王国といえど同じロデニウス大陸に住まう者の集まり。このような無惨な姿になることは誰も望んでおりません。故に、以下の内容をご提案致します」
シュトロームはロデニウス連合並びに日英からの降伏勧告を読み上げる。
1.東ロウリア王国国王ハーク・ビーズル・ロウリアは退位すること
2.東ロウリア王国は主権を放棄し、西ロウリア王国へ併合されること
3.東ロウリア王国軍は西ロウリア王国の指揮下に入ること
4.ハーク・ビーズル・ロウリア並びに一門は先の首都圏地下鉄ゲリラ事件を支援した責任を取り、全員銃殺刑とする
5.ビーズルの壁は取り壊し、市民の自由な行き来を保証すること
「余に死ねというのか!!」
「はい」
「はいじゃねえ!! 第一、どさくさに紛れて独立したローデシアの連中の言うことなんざ聞けるか!!」
「ですが、拒否すれば我々ロデニウス連合に加えて日英軍の攻撃が開始されます。そうなれば多数の市民の犠牲は避けられません」
「市民なんぞ、余の為に働く虫けらぞ!!」
「・・・・では、拒否ということですね。後悔なさらないように」
こうして東ロウリア王国は降伏勧告を拒否。シュトロームが自陣に帰還して30分後・・・・
西ロウリア王国陸軍砲兵陣地
「射撃を許可する! 射撃開始!!」
「射撃開始!! 繰り返す!! 射撃開始!!」
西ロウリア王国軍の99式155mm自走榴弾砲が砲撃を開始する。異世界転移に伴い再生産された本装備はクワ・トイネ公国、クイラ王国、西ロウリア王国軍砲兵部隊の主力兵器であり、西ロウリア王国軍は100門を配備している。
クワ・トイネ公国陸軍砲兵陣地
「予定通り、西ロウリア王国軍が砲撃を開始しました!!」
「我々も砲撃を開始する。撃て!!」
東西から一方的に砲撃を受ける東ロウリア王国。ビーズルの壁を飛び越え、ビーズル市内の軍事施設や兵器工場に砲弾の雨が降り注ぐ。途中、ビーズル市内からグラ・バルカス帝国の駐留軍が撃ち返して来たものの、明後日の方角や距離に着弾しており、それどころか砲撃により露になった陣地に向けて修正射撃を実施されてしまい、東ロウリア・グラ・バルカス連合軍は次々と無力化されていく。
ビーズル市街地上空クワ・トイネ公国空軍
ユーロファイタータイフーン
「目標地点に到達した。爆撃を開始する!!」
砲兵陣地の射程圏外に対しては、ローデシア連邦以外が保有する空軍部隊、ユーロファイタータイフーンが爆撃を実施する。ワイバーン部隊や僅かなアンタレス艦上戦闘機が向かってきたものの、搭載している空対空ミサイルにより虫けらの如く撃ち落とされ、基地は爆撃され使用不能になる。こうしてビーズル市街地上空の制空権は完全にロデニウス連合が掌握。残された海軍部隊はというと・・・・
ビーズル港北30キロ沖合いロデニウス連合艦隊旗艦
西ロウリア王国海軍駆逐艦「ハーク・ロウリア1世」
「敵艦隊捕捉!! その数30!!」
「黒い煙を吐いているあの艦は?」
「グラ・バルカス帝国の軽巡洋艦のようです」
「よし! 軽巡洋艦を確実に仕留める!! ミサイル発射!!」
ロデニウス連合艦隊に唯一対抗できるグラ・バルカス帝国海軍東ロウリア王国駐留軍旗艦軽巡洋艦「フォボス」は真っ先に狙われた。西ロウリア、クワ・トイネ、クイラの駆逐艦・フリゲート艦から17式艦対艦誘導弾12発を浴びせられる。念には念をとして、過剰とも言える数のミサイルを直撃させる。
「敵軽巡洋艦、爆発!!」
「残りカスの東ロウリア王国海軍を殲滅する! 砲撃開始!!」
総勢4隻のロデニウス連合艦隊が東ロウリア王国海軍29隻に対して攻撃を開始する。先のロウリア王国戦と同様の光景が繰り返される。しかし、前回と違うのは西ロウリア王国海軍が攻撃する側であるということ、日英ではなく、ロデニウス連合の攻撃であるということである。万が一に備え、イージス艦「きりしま」を艦隊旗艦とする日本艦隊4隻が背後に控えているが、今回は出番がないようである。
東ロウリア王国王都
ビーズル城地下室
「西の防衛線が破られました!! 西ロウリア王国軍が突入!!」
「東の防衛部隊沈黙!! クワ・トイネ公国軍が侵入! 鉄の象を従えています!!」
「港は敵艦隊並びに上陸して来た敵軍に掌握されました!!」
ビーズル城の地下に設けられた作戦室では悲痛な報告が相次ぐ。各地の防衛線は次々に突破され、ロデニウス連合軍がビーズル市内に突入。東ロウリア人民防衛隊(民間人から成る防衛隊)と市街戦に突入していた。人民防衛隊の士気は低く、戦わずして逃げる者や投降する者が後をたたず、遂に東ロウリア王国に残された拠点はビーズル城のみになっていた。
「グラ・バルカス帝国に援軍を要請するのだ!! 世界最強のグラ・バルカス帝国本国から援軍を!!」
「既に駐留軍が要請したそうですが、到着前に我軍は全滅してしまうでしょう・・・・」
「ならば城を出て、山岳地帯で戦闘を継続する!! 必ずやグラ・バルカス帝国は世界を支配するだろう!! その日まで耐えるのだ!!」
「陛下! 早くお逃げください!! 西ロウリアとローデシアが城に突入しました!!」
「馬鹿な! 如何に装備が優れていようとも、こんなに早く城内に侵入出来るわけがない!!」
「それが、敵は空から兵を送り込んで来たのです!!」
「ぐぬぬ・・・・・ばかなー!!」
制空権を完全に掌握したロデニウス連合軍は、満を持して空挺部隊を投入。既に市街戦に突入しており、迎撃の為に部隊を出撃させていたことから城内に籠る兵は僅かであり、そこを突かれた形である。西ロウリア王国とローデシア連邦の空挺部隊は、クワ・トイネ公国、クイラ王国の輸送機から空挺降下。彼らは旧ロウリア王国時代にビーズル城に訪れたことがある者の情報で城内を知り尽くしており、難なく地下室に向けて進んでいたのである。
パアアン!!
「ぐあっ!!」
乾いた銃声と共に兵士が倒れる。
「貴様が反逆者、ハーク・ビーズル・ロウリアだな!?」
「我々はロデニウス連合軍だ!! 逃げ場はない!! 投降せよ!!」
西ロウリア王国とローデシア連邦の兵士に銃を突き付けられる東ロウリア王国の首脳陣。全員が両手を挙げ、降伏の意思を示す。やがてハーク・ビーズル・ロウリアを始め全員に手錠がはめられ、地下室から連れ出された。この日、東ロウリア王国は崩壊。ビーズル城には西ロウリア王国旗が掲げられ、ここに分断された東西ロウリアは統一。ロデニウス連合ロウリア王国として再出発することになったのである。
パーパルディア皇国皇都エストシラント
駐パーパルディア皇国英国大使館
「首都圏地下鉄ゲリラ事件を支援した親グラ・バルカス帝国国家、東ロウリア王国は日英からの要請を受けたクワ・トイネ公国、クイラ王国、西ロウリア王国、ローデシア連邦の攻撃を受け、1日足らずで降伏。国王ハーク・ビーズル・ロウリアは西ロウリア王国への反逆罪及び日本国へのテロ攻撃支援の罪で一族郎党クワ・トイネ公国軍兵士により銃殺刑に処された・・・か」
東ロウリア王国が消滅して翌日、ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトン大使は紅茶を片手に新聞記事を読んでいた。内容は勿論、東ロウリア王国についてである。
「しかし、よくもまあクワ・トイネやクイラ、そしてローデシアが東西ロウリアの統一を認めたものだ」
数ヶ月前にハルト大使の部下としてエストシラントに赴任したネートはそう呟く。そして彼の彼女ローサは二人に紅茶を淹れてくる。
「・・・・・いや、二杯目は遠慮しておくよ」
「・・・・・しかし、東西ロウリアが統一すれば、経済的軍事的にロウリア王国はロデニウス大陸最強の国家になるというのに・・・」
「ネート君、君はサッチャーみたいなことを言うのだね」
「そりゃあそうでしょう。かつての東西ドイツと同じですよ。ロウリアが東西に割れていることで自然と国力も半分でした。そもそも西ロウリア単体でクワ・トイネやクイラを上回っているのですから」
「確かにクワ・トイネやローデシアは東西ロウリアの統一には反対だった。クイラは理解は示しつつも、直ぐの統一には反対。一方の西ロウリアも、かつての西ドイツの話を聞いていたのだろう。統一を掲げてはいるが、本音は経済的問題から統一には消極的だった。それ故に東ロウリア王国は生かさず殺さずで今日まで生き延びた」
親日英派の西ロウリア王国に対抗する形で建国された東ロウリア王国。ベルリンの壁に酷似したビーズルの壁を築くことで自国民の流出を阻止すると共に、防衛陣地として活用。しかし、近代化政策からは取り残され、一部の部隊が福岡県の暴力団から密輸した兵器を所有する以外は火縄銃すらない、完全旧式の軍隊であった。滅ぼそうと思えばすぐに滅ぼせる。しかし、各国はそうせず、敢えて生かし続けた。そこには各国の事情があった。
クワ・トイネ公国とローデシア連邦は、かつて旧ロウリア王国の侵略を直接受けた国々であり、心のどこかでは現在でも西ロウリア王国を警戒していた。かつての西ドイツを警戒するイギリス、ベネルクス三国、イタリアのような立ち位置である。彼らは外交上、東ロウリア王国の地域を西ロウリア王国の領土とは認めつつも、東西ロウリアの統一には断固反対の立場であった。もし東西ロウリアが統一すれば、クワ・トイネ公国は再びロウリア王国と直接国境を接することになり、ローデシア連邦は東ロウリアに向けられていた軍が自分たちに向けられるかもしれない。御礼参りを酷く恐れたのである。
クイラ王国は東西ロウリアの統一そのものには賛成していたものの、今すぐの統一は時期尚早であるとしていた。かつてのフランスのような立ち位置であり、クイラ王国の外交官が、
「私はロウリアを愛している。だからこそ、ロウリアは二つあった方がよい」
と言った程である。西ロウリア王国への石油や天然ガスの輸出でクイラ王国は潤っており、同国に配慮しつつも、クワ・トイネやローデシアと足並みを揃えたい。苦悩する様子がそこにはあったのである。
では、西ロウリア王国はどうなのか? 実は西ロウリア王国は東西ロウリア王国の統一には消極的な立場であった。国家としては西ロウリア王国は旧ロウリア王国の後継国であり、東ロウリア王国地域の主権を有するとしていた。しかし、日英と緊密な関係を築いた西ロウリア王国は、東ロウリア王国とは比べ物にならない程経済成長していた。東ロウリア王国の取り込みは、国家としては歓迎すべきことだが、経済的には毒饅頭である。東西ドイツとは比べ物にならない程の経済格差がそこにはあり、東ロウリアへの投資は統一ロウリア全体の経済を著しく悪化させる可能性が高かった。そうなれば統一ロウリアは、ロデニウスの病人となり、その不況は周辺国に波及するのは間違いなかった。そのことが良く分かっている西ロウリア王国は、かつての東西ドイツの話を聞いていたこともあり、口では統一を掲げつつも、裏では各国と口裏を合わせていた。
その結果、各国は現状維持がもっとも好ましいとして、東ロウリア王国は放置されていた。しかし、各国は同時に同国による偽造パスポートや難民問題に苦しむことになった。それでも東西ロウリア統一よりは安いとして許容していたが、ここにグラ・バルカス帝国による首都圏地下鉄ゲリラ事件がぶちこまれた。東ロウリア王国を経由して東京で大規模なテロ攻撃が実行された。日英両国は、グラ・バルカス帝国への報復とロデニウス大陸の安全保障問題から、各国に対して東ロウリア王国問題の解決を要請。ロデニウス連合は、旧東ロウリア王国地域の復興について話し合い、結果以下の内容で合意に至った。
1.クワ・トイネ公国、クイラ王国、ローデシア連邦は、東西ロウリア王国の統一を承認する
2.統一ロウリア王国は引き続きロデニウス連合に残留する
3.旧東ロウリア王国地域にロウリア王国軍は常駐しない
4.旧東ロウリア王国地域をロデニウス連合の経済特区とし、独自の制度を導入し、経済の復興を図る
5.経済特区の利益の分配は、統一ロウリア王国が7割、他3か国が1割とする
6.ジン・ハークよりビーズル市内にロデニウス中央銀行を移転させる
※ロデニウス連合の中心施設として、ロデニウス連合本部がクワ・トイネ公国公都クワ・トイネ、ロデニウス議会がクイラ王国王都バルラート、ロデニウス中央銀行が西ロウリア王国王都ジン・ハークに置かれていた
利益の分配はこれまで旧ロウリア王国が侵してきたことに対する賠償金の意味合いも兼ねており、また軍を駐留させないことは周辺国への配慮に加え、統一ロウリア王国の負担軽減の意味合いがある。
この内容は各国首脳らで合意がなされた後に、ロデニウス議会で審議。全会一致で可決され、東ロウリア王国の消滅が決定したのである。
「背に腹はかえられぬし、そもそも問題を先送りしていたが故なのだよ」
「はあ・・・そういえば大使、我が国が密かにグラ・バルカス帝国皇帝の四男と接触するそうですが、何か聞いておりますか?」
「・・・・・・さあね」
興味がないと言わんばなりの態度を示すハルト。
「これはこれは。あのハルト大使が興味なさげとは・・・」
「・・・・・」
ハルトは受話器を取ると、何処かに電話をかけ始める。
「如何したのですか? 急に電話等と」
「・・・・・ミスター・ノトガワ、大使館にスパイがいる。至急来てくれ」
「「!!」」
一瞬驚愕の表情を浮かべるネートとローサ。それをハルトは見逃さなかった。
「さてさて、茶番劇は終わりにしようか」
ハルトはそういうと席を立ち、窓から外を見つめる。ネートやローサに対して完全に背中を見せている。
「茶番劇? いやはや、まさかハルト大使からそのような言葉が出るとは・・・」
「我が国の諜報機関、MI6は知っているな?」
「ええ勿論! 彼らはレイフォリアに潜入し、大活躍を・・・ああっ!!」
「僕が何を言いたいか、分かったみたいだね」
ニヤリと微笑むハルト。
「我々がスパイを潜り込ませているように、敵もスパイを潜り込ませている。我々が現地人協力者を作るように、敵も現地人協力者を作る。入ってきたまえ」
ハルトがそう言うと扉が開き、スーツ姿の男女が二人入ってくる。彼らを見たネートは顔が青ざめる。
「紹介しよう。彼こそが本物の僕の部下、ネート。そして隣の彼の彼女、ローサだ」
「・・・・ば、馬鹿な!? 貴様らは死んだはず!!」
「あ、あり得ないわ!!」
ハルト大使は彼らに背を向けたまま種明かしを始める。
「MI6からの報告でね、彼らに背格好の似た現地人協力者がこの大使館にいることが分かったのさ。そこで僕は考えた。ネートとローサには一旦行方不明になってもらったんだ。そうすれば君達は彼らに扮して大使館に帰ってくるんじゃないかな?って」
「半信半疑だったけど、まさか本当に僕たちになりきろうとするなんてな!!」
「本当の貴方達の顔なんて、全く似てないのにね!!」
「あ、貴方達が偽物よ!!」
「なら試してみよう」
ハルトは四人に対して、懐に隠していたスプレーを浴びせる。
「・・・・やはりな。魔法で顔を変えていただけか」
ハルトが噴射したのは幻惑魔法解除スプレー。幻惑魔法が溶けた二人は元の顔が露になる。
「所詮似ているのは背格好だけ。中身まではなりきれていない。よく知っていれば分かってしまうのにね」
「分かっていたのなら何故!!」
「そりゃあ、君達裏切り者を炙り出す為さ。そして君達は用済みだ。既に君達裏切り者は我が大英帝国を始め、各国で拘束されている」
ハルトはテレビを点ける。
『次のニュースです。イギリス政府は、グラ・バルカス帝国に内通していた協力者やスパイを多数拘束したと発表しました。先に日本で発生した、首都圏地下鉄ゲリラ事件の余波ではないかと推測されています』
「生憎にも、スパイがゲロったのは東京でのテロ攻撃直後だった。テロを未然に防げなかった。だが、ロンドンで計画されていたテロはベルファストに集まっていたスパイや裏切り者を多数逮捕し防ぐことが出来た。そこから関係者を芋づる式に消した。あとは残りカスの総仕上げ。残っているのは君達だけなのだよ」
「・・・・・クソが!! 貴様ら貴族は! 王室は我が国の癌だ!! 消えてなくなるならグラ・バルカス帝国に力を貸した方がマシだ!!」
「国王陛下への侮辱は断固として許すわけには行かぬ。ましてや、敵国に協力したんだ。死ぬ覚悟は出来ているな?」
ハルトはここで遂に拳銃を構えた。
「海軍軍人の血が騒ぐよ。三年間だけ家庭の都合で海軍にいたから、拳銃の扱い方ぐらい知っているよ」
女の裏切り者は完全に戦意を喪失している。
「ここで介錯されるか、地下強制労働施設に行くか、僕と刺し違えるか。好きなのを選びたまえ」
余裕綽々のハルト。女の方は両手を挙げて降参しており、本物のネートとローサにより手錠をはめられるところである。
「・・・・クソガああああ!!」
自暴自棄になった愚かな裏切り者はハルト大使に向かって突進する。
「・・・・悪く思うなよ」
パアアアン!!
乾いた銃声が大使執務室に鳴り響く。続けて二発の銃弾を叩き込む。
パアアアン!! パアアアン!!
「・・・・・終わったな」
そこには、眉間に3発の銃弾を撃ち込まれた裏切り者の成れの果てが倒れていた。
「僕の特技は早撃ちだからね。さて、あとは彼らに任せるとしよう」
直後にミカドアイHDの白服が到着。彼らは亡骸を片付け、裏切り者の女を連れ、大使室の清掃を実施した。この他、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド等でもスパイの摘発を実施。日本だけは法律の不備から、スパイの摘発が出来ない為、ミカドアイHDに大金を積んで地下強制労働施設へと送られた。スパイ摘発と東ロウリア王国消滅は、グラ・バルカス帝国に靡こうとする国々に大きな衝撃を与えることになる。
(続く)