グラ・バルカス帝国 レイフォル領 外務省レイフォル仮出張所
映像を流すためにはテレビ局で大掛かりな装置を使い、大きなテープにそれを記録し、再生にももちろん大きなサイズの機材を要する。それが、赤ちゃんの手よりも小さいサイズのカード状の装置に記録され、劇的に薄いテレビが再生機能も備えているなど、グラ・バルカス帝国では考えられない事だった。帝国においては、VHSビデオテープですら遥か未来の技術であるため、この圧倒的に小さい映像再生装置にシエリアは、驚愕する。一方、同席していたダラスは文系出身の人間であり、この技術格差に全く気付いていないようであった。映像が流され始める。
『グラ・バルカス帝国のみなさん、これから日本国について、説明をいたします』
ナレーションが始まり、映像が流され始めた。見た事が無いほどの美しい・・・・自国のはるか先を行く精細な解像度と色鮮やかな映像・・・・・。まずは日本国の自然について解説が始まった。四季により変化する色合いを見せる日本国の自然、美しかった。映像は神話、日本国の成り立ち、2度に渡る蒙古襲来、戦国時代と、時を追って進む。やがて、映像はカラー画像から彼らの見慣れた白黒画像となり、70年前の大戦・・・第二次世界大戦の映像が流れ始めた。
「ば・・・・そんなバカな!!! はっ!!」
思わず声の漏れるダラス。映像には……グレードアトラスターに酷似した戦艦が写っていた。
(戦艦よりも航空機の方が優勢となる)
といった情報は上手く遮断され、映像は続く。アンタレス型戦闘機に酷似した機体が、猛烈な対空砲火、正に光の雨とも言える、とてつもない弾幕をかいくぐり、爆弾を抱えたまま空母に突っ込む。己1人の命と引き換えに、より多くの敵を倒す。まさに必死の戦闘。あまりにもすさまじい「意志」を感じる戦闘に、彼らは釘付けとなった。絶望的な沖縄戦・・・そして敗戦・・・(原爆の投下シーンは、技術のヒントを与えてはならないので、カットされた)
更地だった東京都は、たったの30年で復活し、70年後には帝都ラグナを超えるのではないかと思えるほど、超未来的な発展を遂げる。街には帝国を遥かに上回る量、そして質の高い車が行き交い、鉄道は時速320kmと、比較にならないほどの速さで走る。最後には日英両国の首相が、「異世界における日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合並びに英連邦王国との相互協力及び安全保障条約」を締結し、満面の笑みを浮かべたところで動画は終了する。
「・・・・・・な、なんてことだ・・・・」
映像が終わった時、シエリアは汗でびっしょりと濡れていた。
「じゃあ、次は我が大英帝国に関する動画を観て頂きましょうか」
ハルトがSDカードを交換し、イギリス政府が監修した動画が流される。
God save our gracious King,
Long live our noble King,
God save the King:
Send him victorious,
Happy and glorious,
Long to reign over us,
God save the King.
初っ端、イギリスの国歌である「神よ国王陛下を守りたまえ/国王陛下万歳」と共に、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド(聖パトリック旗)、連合王国旗が流される。それを見たシエリアは現在の英国国旗の成り立ちを即座に理解する。
(何故わざわざ旗を流すのかと思ったが、あれは自国は4つの国から成る連合王国であることを示すためか!!)
一方のダラスはたかが旗ではないか、と言わんばかりの表情を浮かべる。
「太陽の沈まぬ帝国だと!?」
イギリス政府が監修した動画は、自国の偉大な歴史をこれでもかと言うくらいゴリ押ししたものである。無論、アメリカ独立戦争や中国へのアヘン密輸や香港返還はなかったことにされている。その後動画は日本でいう明治時代に移り、日本との軍事同盟である日英同盟締結の様子が流れる。
『大英帝国はこうして、栄光ある孤立を放棄した一方で、日本という一生の友人を手に入れることになったのである』
日英両国が如何に協力し、ロシア帝国やドイツ帝国に立ち向かったか、そしてアメリカ合衆国の謀略により泣く泣く日英同盟を破棄させられ、その後両国は不幸な戦争へと突入する様子が流れる。イギリスの戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルス撃沈の画像は流さないという歴史修正も実施する。
「植民地を独立させただと!?」
戦後疲弊したイギリスは広大な植民地を手放したのだが、そこは編集により、
『聡明なる女王エリザベス2世は、植民地の解放を我等に命令されました。英連邦がこれから進むべき道を、人種も、肌の色も関係ない。同じ英連邦の人間が一方的に差別され、迫害されることはあってはならない。女王は在位70年の間、世界平和と人種差別の撤廃の為にその手腕を発揮されたのであります!!』
クソデカエリザベス2世の肖像画と共に女王陛下万歳が流され、多数の英国国民により涙ながらに国葬される様子が映し出される。
『また、女王陛下と親交のあられた日本の天皇陛下はこれまでの慣習を破り、女王の国葬に参列。更に新国王の即位式には皇太弟が参列する等、両国は世界にも類を見ない程密接に結ばれています。正に日英同盟は、国家同士の結婚と言うべきものでしょう!』
女王エリザベス2世の国葬、国王チャールズ3世の即位式、参列する天皇陛下や皇嗣殿下、その後国王即位後初の英国訪問となった天皇陛下を歓迎するチャールズ3世の様子が映し出される。
『さて、ここまで観て頂いたグラ・バルカス帝国の皆さん。我が大英帝国だけでも貴国を遥かに上回る国力を有する国であると理解出来たことでしょう。しかし、あなた方が敵に回しているのは我が大英帝国だけではありません。盟友日本、そして大英帝国を構成する英連邦王国全体を相手しているのです!』
英連邦王国に属する全ての国の国旗が映し出される。異世界転移前からの加盟国に加え、ローデシア連邦、アルーニ王国、そしてかつての列強パーパルディア皇国の国旗もそこにはあった。最後にはブリティッシュ・グレナディアーズと共に現在の英国陸海空軍の映像が流れ、更にはバルチスタ沖海戦でイギリス海軍の原子力潜水艦ヴィクトリアスの魚雷攻撃により炎上するグラ・バルカス帝国海軍の空母の様子等、グラ・バルカス帝国側に圧倒的な技術格差を見せつけたところで動画は終了する。
「如何でしたか? 我々日英両国の国力と結束を感じて頂けましたか?」
アキコは畳みかける。
「現在グラ・バルカス帝国軍はムーとの国境の町、アルー西側約30kmの位置に、基地を作りつつあることを我々はで既に把握をしています。決してアルーに・・・ムー国に侵攻する事が無いよう、上の方々にしっかりと伝えて頂きたいと思いますが・・・まあ、無理でしょうね。日本国並びにイギリスは同盟国、ムーを守るために、本格的に参戦する準備があります。重ねて申し上げますが、あなた方の技術はすでに、我々が70年前に通過した場所です。70年もの技術格差がどういったものか、あなた方でも理解して頂けるでしょう。帝国が・・・・ムーへの侵略を開始した時、グラ・バルカス帝国の終わりの始まりとなるでしょう」
ある程度技術に精通しているシエリアは絶句する。まだ、日本国や英連邦王国の全体の規模や国力、継続戦闘能力は解らない。しかし、もしも映像が真実であった場合、少なくともこれまでのように簡単に勝てる相手ではないという事を理解した。
「ク・・・・クックック・・・フフフ・・・・フハハハハ!!!」
ダラスが笑い始めた。
「・・・・何がおかしい・・・」
シンがダラスを睨み付ける。
「フッフッフ・・・ふざけた事を!! こんな映像・・・偽情報など、簡単に作れるわ!!!」
ダラスはこの映像を欺瞞情報と理解したようだった。
「愚かなものだ・・・・この期に及んで現実逃避なんてな。同じ外交官として・・・・今は正確には違うが、ここまで愚かな外交官がいるとは思わなかったし、見たことがない」
「あのシンにすらここまで言われるとか、恥ずかしいわよ? あんた。まあ、あんたの場合は現実逃避じゃなくて本当に理解出来てないんだろうけどね。愚かなのは事実だけど」
「フン、貴様らは映像技術だけは高いようだな。仮にこの映像が本当だったとして、日本は過去戦争に負けて、イギリスは疲弊して牙を抜かれたのではないのか? 我が国が支配者側ならば、必ずそうする。すべての軍備と軍事技術を取り上げ、二度と立ち上がれないようにする。現に日本国よ。そなたは昔は世界有数の軍隊を持っていたらしいが、現在は憲法で戦力を保持しないと書いているそうではないか」
「・・・・・コイツ文系なのに地政学の知識皆無じゃん」
「いや、大体の外務省官僚は地政学の知識皆無だし、それを専門に卒業した(シンの卒業論文は私が書いたけど)私達が異常なだけよ」
「地政学? あんな時代錯誤の学問を専門にしているとは・・・余程日本は人材難のようだな」
地政学の知識が皆無なダラスは、その重要性を理解せず、むしろ二人を馬鹿にする。
「そしてイギリスよ。貴様らは植民地を手放し、独立させなければならない程疲弊し、国力が衰えた落ちぶれ国家に過ぎん。我が帝国ならば、軍に関する技術を禁じ、作れなくなる、ロストテクノロジ―とする事で、もう二度と作れない事となる。確かに、映像等一部技術は帝国を上回っているところもあるだろう。しかし仮に、日本国やイギリスが帝国を上回る軍事技術を有するならば、バルチスタ沖海戦に参加しなかった理由の説明がつかぬのだよ」
「日本は確かに参加していないけど、我が大英帝国は参加していますよ。動画にもバルチスタ沖海戦にて我が大英帝国海軍の潜水艦により轟沈する空母の映像があったはずですけどぉ・・・なんだろな? 現実逃避するの止めてもらって良いすか?」
「潜水艦? 潜水艦を運用可能な国は我がグラ・バルカス帝国のみである! 嘘をつくのも大概にしろ!! それにもしも、貴国が強いならば、世界連合を勝利に導けば、他国からの株も上がり、帝国を弱体化させる事も出来たはずだ。でもそれをしなかった。強いならば、貴国らの行動は合理的ではないのだよ。ムーを攻めるなだと? 日本国や英連邦王国も参加するだと? 弱小国が偉そうだな・・・・出来るものなら、止めてみるがよい。今までのお前たちの行動が・・・・お前たちが弱いと証明しているのだ!!」
現実逃避しているのか、本当に理解出来ていないのかは不明だが、ダラスはそう言い放つ。
「・・・・・今頃、核弾頭が貴女方の国に着弾した頃かな? 早く被害報告届かないかな~」
ハルトが空気を読まずに核攻撃の成果を期待する。スマホを取り出し、本国から通知が来ていないかを確認している。
「・・・・・!!」
直感でハルトが持っている薄型の板を通信機器と理解したシエリアは更に汗をかく。
「それに、日本国は本当に弱い国だ。この重要な場にこんな30にも満たない小娘しか送ってこれない。謂わば貴様は捨て駒だ。死んでも構わない女しか送れない弱い国だ!!」
アキコのことを一方的に侮辱するダラスにシンは怒りに震える。
「自分達とは異なる価値観を持っているとは想像しないのか? 真に平和を愛し、戦争以外の外交によって共に和する。共存の道を探る国があるとは思わないのか? なるべくならば、武力を使いたくない国もある。しかし! 我が国も自国、そして同盟国を守る義務がある!! 貴様ら帝国・・・いや最早国ですらない! 貴様ら蛮族の行いは、完全に侵略だ!! 無法者には我が国も自衛行為を行うだろう!! 既に先の東京におけるサリンを用いたゲリラ事件に対しての報復措置は実施した!! 今頃貴様らの首都と同じような廃墟地が13ヵ所新たに生まれた!! このまま進むのであれば、廃墟地は更に増えるだろう!!」
「弱い犬ほどよく吠えると言ったものだ。負け犬風情が!!」
「ああ~、核ミサイルのお代わりを所望すか! お買い上げありがとうございます!!」
男共が暴れまわり、議論は完全な平行線をたどる。互いに譲れない外交目標があるため、互いに納得する事はない。
「・・・・・やめよ」
その場で聞いていたシエリアが口を開いた。
「ダラス、帝国の意見、立場を良く表明した。貴君の言う通りだ。ここから先は私が話そう。ちょっと下がっていてくれ」
「なっ!!! いくらシエリア様とはいえ、本件担当は私です!!! 私には皇帝グラ・ルークス様より賜った、帝国を導くお手伝い、職務を全うする義務があります!!」
グラ・ルークスを妄信的に信じているダラスは、シエリアの命に反発する。
「解っている。しかし、上司の言う事を聞くのも職務だ。挑発だけではこれ以上何も引き出せぬ、少し下がっていてくれ」
「ぐっ!! わ、解りました」
困惑するダラスをよそに、シエリアはゆっくりと話始めた。やがてダラスは退室した。
「・・・・・運が良いな・・・・ダラスとやらは・・・フフフ」
マスクの下でほくそ笑むハルト。
「仮に先ほど貴国が見せた映像技術が本物で、貴国らの軍事技術が仮に我が国を上回っているとして、貴国らが我々に求める事は何だ?」
「その事について纏めた我が国並びに英連邦王国からの最終提案になります(あんたの葬式の準備よ)」
アキコはシエリアに日本政府並びにイギリス政府からの最後通牒を突き付ける。
「そういえば、風の噂で聞いたけど、シエリア。あんたは最近、イギリス人を殺害した罪悪感から夜も眠れない日々が続いてるらしいわね?」
「・・・・だからどうした。外交官ならそう言う日も・・・・こ、これは!!」
日本国並びに英連邦王国は貴国に対して、以下の内容を提案する。
1.グラ・バルカス帝国は、日本国並びに英連邦王国に無条件降伏すること
2.グラ・バルカス帝国は植民地を全て放棄し、以後の法的領土は、日本国並びに英連邦王国が最終決定するものとする
3.グラ・バルカス帝国皇帝グラ・ルークスは退位し、四男のグラ・ガルマに皇帝の地位を譲ること
4.グラ・バルカス帝国皇族はグラ・ガルマ並びにその子息のみとし、それ以外については臣籍降下すること
5.グラ・バルカス帝国は、首都圏地下鉄ゲリラ事件の被害者並びに遺族に対して、一人あたり30億円を賠償金として支払うこと
6.グラ・バルカス帝国は、東京地下鉄、東京都交通局、東急電鉄に対して810億円の賠償金を支払うこと
7.グラ・バルカス帝国は、賠償金として以下の金額を支払うこと
日本国:1400兆円
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国:1000億ポンド
カナダ:8000万カナダドル
オーストラリア:6000万オーストラリアドル
ニュージーランド:3000万ニュージーランドドル
ムー国:2000兆ムー
マギカライヒ共同体:1500万ライヒ
ニグラート連合:1250万ニグラート
パミール王国:2000万パミール
イルネティア王国:8100万イルネティ
8.グラ・バルカス帝国軍は解散し、日英両国の指導の基で再建する。ただし、全ての兵員を再雇用する訳ではない
9.グラ・バルカス帝国は、日英両国が指定した戦争犯罪人を引き渡すこと。皇帝グラ・ルークス並びに皇太子もこれに含まれる
10.グラ・バルカス帝国は、以後日英両国で犯罪を犯した者達の流刑先とすること
他にも日英両国からの要求は続いていたが、シエリアはわなわなと振るえながら破り捨てる。
「ふざけるな! こんなの交渉ではない!! 我が帝国に対する降伏勧告ではないか!!」
「そうだよ(迫真)(そろそろ死ぬなコイツ)」
「それに帝国はすでに第2文明圏に入植を開始している!! 利害の絡む者もいよう!! 貴国らは、帝国がその条件を飲むと思っているのか?」
「でも、飲まないと帝国は完全に崩壊しますよ?(そろそろ葬式の時間だな)」
「それに皇太子を犯罪人として引き渡し、ガルマ様を即位させる? そんな勝手が・・・・」
急にシエリアの発言が止まる。目の瞳孔は収縮し、手足が震え始める。
「う・・・・うぐっ・・・・うああっ・・・・」
首もとを押さえるなり、シエリアはその場で崩れ落ちる。
「し、シエリア様・・・ぐあっ!!」
立ち上がった男性職員が苦しみながら倒れる。やがてグラ・バルカス帝国側の人間全員がその場で倒れ、意識を喪う。
「・・・・やれやれ」
アキコは開封された小さな小瓶を机の上に置いた。
「・・・・これからは、ゆっくりとお眠りなさい。あの世にいるであろう、貴方の家族と共に・・・シエリアさん?」
会議は平行線を辿った後に、日本側が首都圏地下鉄ゲリラ事件への報復として用意した毒ガスによりシエリアらグラ・バルカス帝国側の外交官を毒殺したところで終わる。
「・・・・・・正規軍にすら内通者がいるのを知らないのは、哀れよね・・・」
レイフォル仮出張所を後にし、港に到着したアキコら一行。彼らをイギリス軍の特殊部隊や自由レイフォル軍、イギリス側に内通しているガルマ派の正規軍が周辺を警戒しており、何の妨害を受けることなく港に到着していた。特にガルマ派の正規軍はアキコら一行の監視という名目で傍に控えており、他の兵士が接近するのを完全に阻止している。
「さあ~て、爆破しますか!」
ハルトはDVDプレイヤーのリモコンを取り出し、赤いボタンを押す。次の瞬間、外務省レイフォル仮出張所の一室で爆発が起きる。
「さて、さっさと逃げるわよ!!」
アキコらは港に待機しているガルマ派の正規軍が用意した駆潜艇に乗艦。この時に着用していたスーツやマスクを処分し、予め用意していた別の服に着替えたのち、沖合いで待機しているイギリス海軍の原子力潜水艦ヴィクトリアスに移乗。無事ムーへ帰還した。ちなみに、着替えの際に艦内スペースの都合で男共と同じ部屋でアキコは着替えたのだが、シンと並んで話しながら着替える彼女をハルトがずっとガン見しており、ヴィクトリアス移乗後に制裁されることになる。
「この変態が!!」
「シンには制裁しないのに僕にだけするの!?」
「黙れこのブリカス!!」
「関節技決めてて草を越えて竹」
グラ・バルカス帝国 レイフォル領 外務省レイフォル仮出張所
「おのれ蛮族共め・・・・小癪な真似を!!」
予めDVDプレイヤーにセットされていた爆弾が起爆し、ぐちゃぐちゃになった会議室を見たダラスはそう呟く。
「奴らは最初から和議を結ぶつもり等なかった。怒らせることが目的か!!」
爆発により無惨な姿になった上司を見て、怒りが収まらないダラス。もし彼女がダラスを退席させなければ、爆発に巻き込まれていた。彼は知らないが、あの時退席したことで、毒殺からも免れていた。日英両国は初めからグラ・バルカス帝国を赦すつもり等なかった。必要だったのは、
最後の情けをかけたが、愚かなグラ・バルカス帝国はそれを踏みにじった
という絵面だけだったのである。仮に奇跡的に飲んだとしても、外交官を殺害することでわざと怒らせ、日英と戦わざるを得ない状況にする。つまりはどのみち帝国は詰んでいたのである。
「こうなれば徹底的な報復をしなくてはならない!! 戦力を3倍、いや10倍にして日英を第二文明圏から叩き出してくれるわ!!」
レイフォリアに駐留するグラ・バルカス帝国レイフォル駐留軍は本国に対して、戦力の増強を要請した。しかし、本国から指示された命令はその逆を行くものであった。
グラ・バルカス帝国臨時首都ルナ
ルナ御用邸
「・・・・以上が被害調査の結果になります・・・・」
日本による核報復が実施されたグラ・バルカス帝国。帝都ラグナと同様に廃墟地となった都市が新たに13ヵ所誕生したことを受け、緊急の閣議を開催。皇帝グラ・ルークス、皇太子グラ・カバル、帝王府長官カーツ等帝国の重鎮も勢揃いしていた。
「・・・・・あ、あり得ん!! 世界最強の帝国がここまで一方的に攻撃される等あり得ん!! 何かの間違いだ!!」
皇太子グラ・カバルは報告書の内容を見てそう叫んだ。
「レギン首相!! 帝国は必ず勝利するのだな!?」
「まずは落ち着きください、皇太子殿下。焦っていては、見えるものも見えなくなります」
「・・・・う、うむ・・・・そうであるな・・・・」
レギン・ビザの発言を受け、我に返るグラ・カバル。水を一杯飲み、気持ちを落ち着かせる。
「確かに我が帝国は日本国並びにグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の長距離攻撃により、甚大な被害を受けております。ですが、長距離攻撃だけでは我が帝国を屈服させることは不可能です」
「それはどうしてなのだ? レギン首相。敵が使用している長距離攻撃の威力は絶大である。現に我が帝国の工業地帯や農村地帯は甚大な被害を受けている。工業も農業も昨年の40%程の稼働率にしかならぬだぞ!!」
報告書を読み完全に沈黙しているグラ・ルークスや皇帝を気にするカーツに代わり、グラ・カバルが質問する。
「皇太子殿下の危惧されることはごもっともにございます。ですが、如何に優れた長距離兵器を保有していたとしても、帝国全土を焦土にすることは出来ません」
「何故そう言えるのか。レギン首相、精神論ではあるまいな?」
副首相兼内務相のグラ・キリシアが鋭い眼光でレギン首相に問う。
「此方の資料をご覧ください。日英両国が使用したと推測される兵器の詳細とその運用に必要な費用を纏めた資料になります」
レギンの合図で各員に資料が配られる。そこには、大陸間弾道ミサイル「マサカド」と日英が保有する核弾頭の数、そして費用について記されていた。
「我が帝国の武装親衛隊の精鋭がムーや日本本土でスパイ活動を実施した結果手に入れた情報によれば、日本国が保有する長距離兵器・・・彼らが大陸間弾道ミサイルと呼んでいる兵器はまだ配備が始まったばかり。更には財務省により予算が厳しく制限されており、年間10発未満しか配備出来ないとのことです。ミサイルの先端に載せる核弾頭も同様であり、10発にも満たないそうです」
レギン・ビザは、内閣発足後に正規軍の一部を引き抜き、更に新規に採用した人材にて新設した武装親衛隊の精鋭をムー、神聖ミリシアル帝国、日本国に派遣していた。特に日本国に派遣しているスパイには女性隊員が含まれており、財務省や防衛省、外務省の幹部にハニートラップを仕掛けた上で機密情報を入手していたのである。未だにスパイ防止法が存在していない日本国では各国のスパイが思う存分活動しており、SNS上では左派政党を中心に、戦争より平和、戦争より暮らし、戦争より米、を掲げ、グラ・バルカス帝国と速やかに停戦しろという明らかな工作活動が為されていた。中にはグラ・バルカス帝国に謝罪しろという意味不明な声もあった。公安やイギリスのMI6、日英の闇を担うミカドアイHDがそれを非合法的に消し去る等の対応に追われていたのである。
「日本国最大の敵は内部におります。財務省の幹部を籠絡し、戦争に金がかかりすぎている点を利用して仲間割れを起こさせる。そして日本国内の左派勢力を味方につけ、厭戦感情を蔓延させることが必要です。確か、皇帝陛下は日英との和議を望まれておりましたな。先のシーン暗殺部隊派遣はあまりにも悪手にございましたな」
「レギン貴様!! 皇帝陛下を侮辱するとは・・・逆賊め!!」
帝王府長官カーツが激怒する。
「事実ではありませんか。シーン暗殺部隊が東京でテロを実施した結果が新たな廃墟地の誕生ではありませんか」
「おのれ・・・・ライバルが皆死んだから首相になれただけの存在の癖に・・・」
「やめよカーツ。そしてレギン首相、話を続けよ。余は今後の方針が聞きたい。そなたの考える日英との講和、そして戦争終結をな」
グラ・ルークスがカーツを宥める。
「ははっ、ではお話させて頂きます。まず、皇太子殿下が申されました通り、我が帝国の国力は4割程度に落ち込んでおります。帝国軍の主要幹部も軒並み蒸発しており、本土防衛で精一杯であるのは明白かと。故に最低限の部隊を残し、全て本国へ撤退させます」
「!?」
驚愕する国防相。しかし、皇帝が今はまだ待てと言わんばかりに制止する。
「日本に関しては理解した。だが、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国はどうなのだ? 彼の国は我が帝国に対して頻繁に長距離攻撃を実施しているではないか。それに、日本による長距離攻撃に使用された核弾頭?とやらは英国製と聞く。充分な数を保有しているのではないのか?」
「此方の資料をご覧ください。これは日英両国の債務状況になります」
続けて日英両国の財務状況を纏めた資料が配られる。
「確かに両国の経済力は帝国を上回っています。ですが、両国の債務状況は決して芳しくはありません。日本国は比較的健全ではありますが、大英帝国は相当な債務を抱えており、戦争を継続すれば財政破綻もあり得るでしょう」
「つまりは、内側から破壊する・・・・ということか?」
「その通りにございます。日本は左派勢力による工作活動、英国は債務問題。それぞれ特有の爆弾を抱えております。それを爆発させれば、帝国と和議を結ばざるを得ず、帝国は日英を無視して他国と戦争継続も可能でしょう」
「だがレギン首相!! 日英はレイフォルから我が帝国を叩き出すつもりだぞ!! レイフォルは我が帝国の生命線。ここを喪えば、我が帝国が戦争継続なんぞ出来んぞ!!」
グラ・ドスル国防相は、レイフォルに対しての日英による攻撃を危惧する。
「それに、ニューアークには可愛い弟のガルマがいるんだ。本土防衛は大切だが、レイフォル防衛の為にもある程度の戦力を振り分けるべきではないのか!?」
「それは出来ない。確かにレイフォルは我が帝国の生命線だ。ここを喪う訳にはいかないのは承知している。だが現在、我が帝国の研究班が秘密兵器を製造中である。間も無く開発が完了し、奴らの度肝を抜くことが出来よう」
「新兵器だと? 国防相である俺ですら初めて聞いた兵器だが、どんな兵器なんだ?」
「それについては防諜の観点から明かすことは出来ん。だが、確実に奴らの足が鈍る。それらを運用する武装親衛隊をレイフォリアに派遣する。受け入れ態勢を整えるのだ」
「・・・・よく分からねえが、承知した。ちなみに、ムーへの侵攻計画は中止になるんだな?」
「無論だ。むしろ、ムーにはレイフォルに出てきて貰った方がありがたいのだよ。がら空きのレイフォリアに敵を集め、一網打尽にする」
「良くわからねえが、承知した」
「そのガルマのことなのだがな・・・」
ここでおもむろに口を開く皇帝グラ・ルークス。
「ガルマには本当に辛い想いをさせてしまった。今一度、あやつと話をしたい。レギン首相、勝手なことではあるが、余のレイフォリア、ニューアーク訪問を入れることは出来ぬか?」
「これはこれは・・・皇帝陛下自らが戦地に赴かれるつもりとは・・・余程我が帝国の危機ということですな?」
「・・・・それもあるが、何より敵の最前線に取り残されているガルマが心配なのだ。どうだ? 訪問のついでに、あやつを本国に連れ帰るのはどうだ? 最悪レイフォルが落ちたとしても、敵に利用されるよりかはマシであろう」
「・・・・・・(ニヤリ)確かに、そうですな」
「・・・・・・(この男、何故一瞬笑った?)」
キリシアはレギンが一瞬微笑んだのを見逃さなかった。他の者は全く気付くことなく、話が進んでいく。
「では、皇帝陛下のレイフォリア並びにニューアーク御訪問も加えさせて頂きます。陛下の御訪問中は、皇太子殿下が公務を行って頂きます」
「うむ、それで構わぬ。その為の皇太子、将来の皇帝であるからな!」
こうしてグラ・バルカス帝国は、ムーへの侵攻計画を中止し、武装親衛隊による特別軍事作戦の実行を決定。また、ガルマへの激励として、皇帝グラ・ルークスのレイフォリア訪問も決定し、護衛部隊を追加派遣。それらの再配置に2ヶ月を要することになる。
「国防相にすら知らせない新兵器・・・・調べてみる価値はありそうだな・・・・」
閣議後、副首相兼内務相のキリシアは配下の秘密警察に対して、レギン派の拠点に対する内偵を開始した。
「あの男・・・一体何を企んでいる・・・・」
グラ・バルカス帝国臨時首都ルナ
臨時首相官邸
「・・・・・老いたな、皇帝陛下・・・・もう遅いのだがな・・・・」
「レギン閣下! 武装親衛隊隊長がお見えです!」
「うむ、通せ」
「ははっ!」
金髪の美人秘書がスキンヘッドの髭面の男と長い銀髪を後ろで結んだ若い男の二人を連れてくる。レギン首相の悪だくみが今まさに始まろうとしていた。
神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス
アルビオン城謁見の間
異様な空気の中、厳しい顔を崩さない皇帝ミリシアル。その前には4人の男がひれ伏していた。皇帝の怒りが彼らに伝わり、4人の額にはびっしりと汗がにじむ。世界最強の名の元、各国に呼びかけ、中央世界と第2文明圏の大艦隊を率いて出撃した。それでも十分すぎる戦力だった。が、念には念を入れる皇帝ミリシアルの指示の元、古の魔法帝国が作りし超兵器、空中戦艦パル・キマイラまで投入。しかし・・・・にもかからわず、戦闘は痛み分けで終わり、グラ・バルカス帝国を叩きだすといった戦略目標も未達に終わる。外交的に考え、この結果は帝国の国益を大きく損なうだろう。
国防長官アグラ
軍務大臣シュミールパオ
対魔帝対策省兵器分析戦術運用部長ヒルカネ・パルぺ
そして、グラ・バルカス帝国と直接対峙した空中戦艦パル・キマイラ艦長メテオス。彼らは怒れる皇帝を前に、言葉を失っていた。
「・・・・・・今後の計画を申せ」
皇帝の重い言葉。国防長官アグラは思考を巡らす。軍事的に立て直し、グラ・バルカス帝国を滅した後、外交的にも失いかけている信頼を取り戻すための具体的対策。現時点では、まだ失った兵や艦の損失穴埋めや、敵の兵器性能の再考が終わっておらず、とても今後の具体策など決定してはいなかった。それでも、解りませんなどと口が裂けても言える状況にも立場にも無く、国防長官アグラは声を絞り出す。
「当面は・・・・この度就役する新型魔導戦艦を兵力の充填にあて、失った兵の補填、人事面も含めての兵力の早期育成に努め、兵力が再び揃うまでの間は、本土防衛に徹します。軍事予算を効率的に配し・・・・」
「たわけがっ!!!」
皇帝の怒号が謁見の間に響き渡る。あまりの迫力に、国防長官アグラは固まった。
「敵の戦力は再考が必要だ。現有戦力では足りぬ事くらいは理解しておる!! 新造戦艦で穴埋めだと?自分の仕事の範疇だけで考えるな!!! 余に艦船の大幅な量産体制の確立を上申するするなど、そういった話が何故出ないのか!! お前たちは国の幹部だ!!! 国の幹部が皇帝の顔色を伺いすぎると、本来の国家運営に支障を来す可能性がある。お前たちは、帝国臣民の命、そして行く末を導く立場にあるのだと、よくよく理解しろ!!!」
ビリビリと部屋に響く。
「とにもかくにも、我が帝国が戦争の主導権を取り戻さなくてはならない! バルチスタ沖海戦における世界連合の大敗により、第二文明圏における我が帝国の威信は揺らいでおる!!」
神聖ミリシアル帝国が主導して実施されたレイフォル攻略作戦。勝利が約束された作戦と誰もが思っていた。しかし、結果は戦略的敗北。多数のグラ・バルカス帝国軍の艦艇や航空機を破壊するも、レイフォルからグラ・バルカス帝国を追い出すことは叶わなかった。そして、威信が低下した神聖ミリシアル帝国の穴を埋めるかのように、イギリスが勢力を拡大。海戦の敗北で大暴落した各国の国債をイギリスが多数買い上げることで各国の資金調達を支援するだけでなく、金融面での影響力を拡大させ、各国の政治に入り込む。既にルーンポリス金融市場はイギリス資本に支配されており、ムーのオタハイト金融市場もイギリス資本に飲み込まれつつある。
「現在各省庁において、対応策を検討中にございまして・・・・」
無論、対応策など何も出来ていない。確実に言えるのは、神聖ミリシアル帝国単体、いや世界連合ではグラ・バルカス帝国に勝つことは不可能であるということである。
「なあに・・・余に策がある」
ニヤリと笑うミリシアル8世。
「と、言いますと?」
「実はな、カルトアルパスに駐在するグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の駐在武官からの情報でな。グラ・バルカス帝国皇帝グラ・ルークスがレイフォリア、ニューアークを訪問するそうだ」
「な、なんと!!」
つい昨日、カルトアルパスでは駐在する各国の武官を集めた食事会が開催されていた。その中で、ミリシアル8世の側近が日英の駐在武官と接触。その際に、イギリスの駐在武官からグラ・ルークスがレイフォルにやってくるという極秘情報を入手したのである。
「それに加え、レイフォルはニューアークにまとまった守備隊がいる以外は完全に手薄だ。取り戻す好機が巡ってきたのだ!!」
「・・・・・つまりは、リベンジのチャンスと?」
「そういうことだ。良いか! 二度目の失敗は許されんぞ!! 良いな!!」
神聖ミリシアル帝国は、レイフォルからグラ・バルカス帝国軍が続々と撤退している状況を好機と捉え、再度世界連合を結成し、侵攻することを決定した。それがレギン首相の罠であるとも知らずに・・・
(続く)
「