神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
駐神聖ミリシアル帝国日本領事館
「・・・・・・・・・・ほほう・・・・」
「栄一等海佐! 明日の予定についてですが・・・・」
「ん? 確かイギリスの武官と会談だったか?」
「はい。それについてなのですが・・・」
この日も駐在武官としての勤めを果たすアキラ。部下との会話が終わると、再びムーにいるヒロシから送られてきた資料とにらめっこをする。
「見て見て!! 栄一等海佐よ!!」
「何時見ても仕事が出来るオトコって感じよね!!」
日本領事館に勤務する女性職員が遠くからアキラを見つめながらまるでアイドルかのように黄色い声をあげている。
「栄一等海佐って、結婚しているの?」
「してなかったはずよ?」
「彼女はいるって噂だけど、誰なのかは分からないわ」
「根布領事と親しげだけど、不倫しているとか?」
「それはないでしょ(苦笑)そもそも、根布領事と大川秘書官があんなにべったりなのよ?」
「夫婦というより、飼い主と飼い犬だけどね」
一方、そんな黄色い声が全く聞こえていないアキラは引き続き真面目な顔で資料とにらめっこをしていた。一見、真面目に仕事をしているように見える彼だが、実際にはこんなことを考えていた。
(・・・・・・バカ甘い物が食いてえ・・・・)
彼の傍らにはバカ甘いことで定評のあるマ○クス・コーヒーの空の缶が4本並べられており、全部この日の業務開始1時間以内に飲み尽くした物である。更に彼の引き出しには大福、饅頭、どら焼、カステラが常備されており、常に甘味で満たされている。
「・・・・・・駄目だ、頭に糖分が足りなくて何も思い付かねえ・・・」
現場にいた時は親友であり、同僚のヒロシの副官、懐刀、参謀を勤めた知将アキラ。彼は大の甘党であり、様々な策謀を巡らし、発案。そして頭をフル回転させる為に常人の3倍以上の糖分を必要としていた。
「・・・・・・」
食堂
「え? 甘い何かを作って欲しいですか~?」
「そうだが?」
「まあ、別に良いですけど。ホットケーキで良いですか? それで良ければ昨日お姉さまの従弟から送り付けられてきたホットケーキミックスがアホみたいにあるので作れるけど」
「いや、何で送り付けられてきてンだよ・・・」
「お姉さまのお父様の実家って、総合商社なのは知ってるわよね?」
「ああ、根布商事だったか。確か、異世界転移後に初めてクワ・トイネに進出した日本企業だったかな?」
「昔、お姉さまがその根布商事の後継者だった時代があるのよ。お姉さまは厳しい躾と教育を受けて毎日ボロボロだったわ・・・お姉さまは強いから我慢出来てたけど、私なら1日も持たないわ」
「だけど、従弟が産まれたら後継者ではなくなったと?」
「男が産まれたら用済みと言わんばかりにお姉さまは帰されたわ。で、従弟の名前は正義(マサヨシ)と言うのだけど、マサヨシは自分が早く産まれてればと罪悪感を抱いているのよ」
「別にマサヨシは悪くないのにな、根は本当に優しいンだろうな」
「それで毎月何かしらをここに送り付けて来るのよ。今月はホットケーキミックスの山・・・どうしようか相談したくても、今はお姉さまは出張中・・・正直アキラに食べて貰った方が楽なのよ・・・」
アイは積み上げられた段ボールの山を指して言う。ホットケーキミックスの入った段ボールは30箱はありそうだった。
「金持ちつーのは、よくわかンねえな!」
「お姉さまも金持ちだけどね。お姉さまのお父様は虫の研究に没頭しているぐらいだから・・・まあ、根布商事の役員にはなってるし、同社の海外展開や社会貢献に利用しているのでしょうけど」
「まあ、どうでもいいや! 早く作ってくれ!! 頭に糖分が足りなくて仕事にならねえンだ!! メープルシロップと生クリームと抹茶アイスとアイスコーヒーも忘れずにな!!」
「・・・・・何故か一緒に届いてたのよね・・・・それも」
30分後
「うっひょー!! いい粉使ってンじゃン!!」
「国産って書いてあったわよ。何か焼きやすかったし」
「じゃあ、食うか!!」
「・・・・糖尿病まっしぐらな食事なのに健康診断は全部健康とか・・・バグでしょ・・・」
呆れながらもホットケーキの山を食べ尽くすアキラを見つめるアイ。
「・・・・・・別にあんたのこと・・・・嫌いじゃないのよ・・・・」
空になったホットケーキの皿を片付けながらアイはそう聞こえないように呟いた。最終的にアキラはホットケーキを30枚食べ、仕事に復帰することになる。
正午頃の食堂
「アイ、醤油ラーメンとチャーシューマシマシ、ご飯大盛と漬物をくれ」
「ホットケーキ30枚とアイスコーヒー5杯、箱入り抹茶アイス2箱食ってまだ食えるの?!」
「ん? 腹ぐらい減るだろ?」
当然、という顔のアキラにアイは心底呆れながら注文の品を作るのであった。
「糖尿病にも痛風にもならないとか、どんな身体してるのよ?」
「俺は頭で戦う人間だからなンとも」
「貴方と結婚する人がいたら、食費がエグいでしょうね・・・」
「まあ、ヒロシよりは先に結婚するだろ。知らンけど」
食事を終えたアキラは食堂を後にし、仕事に戻った。また書類とにらめっこが始まるのである。
「・・・・・・・・・レイフォリアががら空きかあ・・・・絶対罠なンだよなあ・・・・」
アキラはレイフォリア周辺の地図を取り出し、資料と照らし合わせる。
「・・・・・・・・・なンだ? この爆撃機は? ンン?! おお!! コイツは富嶽じゃねえか!! すげえな!! 幻の長距離爆撃機富嶽を実現させたのか!! 是非とも無傷で手に入れたいなあ!!」
偵察衛星や現地に潜入するMI6からの資料を見てそう呟くアキラ。
「富嶽つーことは、それなりの航続距離はあるな・・・・仮に東京まで飛ばすとなれば、どこかで補給がいるな・・・・」
世界地図を取り出し、レイフォリアから東京までのおおよその飛行経路を推測しながら、補給地点の候補を探っていく。
「どのルートでも、最終的にはリーム王国で補給しないと、東京には辿り着かねえな。まあ、リーム王国は近々イギリスが旧カリブ海諸国を引き連れて成敗する予定だから、東京が攻撃される可能性は低いな。メスマン帝国にはイギリスとパーパルディア皇国、アルタラス王国、そしてポルスカ共和国が向かってるから問題なし・・・・と」
世界地図には、衛星画像や諜報活動により判明した各国の基地が記されており、グラ・バルカス帝国に与する、または現時点では中立となっている国々の基地を赤丸でリストアップしている。
「・・・・・そうなると、オラパ諸島やチャールズ諸島が壁になっている関係上、第三文明圏まで富嶽を送り込むことは不可能・・・そうなると、最大の目標は神聖ミリシアル帝国本土・・・・か」
神聖ミリシアル帝国本土各地の基地は青丸でリストアップされており、その中にはパル・キマイラを運用する秘密基地もある。
「・・・・・グラ・バルカス帝国の秘密兵器・・・まあ、原爆辺りなンだろうな・・・・」
アキラはグラ・バルカス帝国が仮に原爆を保有し、それを爆撃機に載せて投下する場合、目標と成り得る都市をリストアップしていく。
「・・・・・俺がグラ・バルカス帝国なら・・・・ここと、ここと、あとはここもアリだな・・・・」
其処には、神聖ミリシアル帝国の首都ルーン・ポリスも含まれていた。
「今のグラ・バルカス帝国は完全に敗北の道を進んでいる。日英による核弾頭を搭載したICBMによる一方的な攻撃、グラ・ガルマの調略成功と蜂起の準備、最悪の事態に備えてのガルマ派の兵士や市民を本土からニューアークへ脱出させる為の艦艇の手配・・・奴等も我々が何をしているかは理解しているはずだ・・・国民を団結させ、我が国は負けていない、少しでも有利に講和したいとなれば、世界の中心だった都市、ルーン・ポリスに落とすのが一番インパクトがある・・・」
アキラはルーン・ポリスに原爆を投下する場合の飛行ルートを地図に書き記していく。その中でも彼しか想定しなかったルートがあった。
「・・・・・レイフォリアから離陸し、ムー大陸を遥かに北に迂回し、ムーの領空には入らないルートで神聖ミリシアル帝国へ・・・・燃料消費を考えるなら絶対にあり得ないルートだが、原爆を投下した後に機体を海中投棄し、乗員は潜水艦で回収すれば可能だ。神聖ミリシアル帝国周辺海域はグラ・バルカス帝国の潜水艦の独壇場だ。今日も神聖ミリシアル帝国海軍の小型艦が哨戒任務中に消息を絶っている。かつてのソマリア沖のように日英を中心とし、カルトアルパスを拠点に商船の護衛を実施しているが、制海権はカルトアルパス周辺しか確保出来ていない。そもそもこの国には潜水艦の概念がないからなあ・・・・どうにもなンねえか」
アキラが腕を頭の後ろで組みながら天を見上げる。
「お? もうこンな時間か。飯だ飯」
気付けば夕食の時間となり、アキラは食堂へと向かう。
食堂
「旨いなあ・・・やはりなンだかンだでアキコと同じ血を引いてるだけあるな!!」
「私のお母さんはお姉さまのお父様の妹だから、かなり近い間柄だしね」
「でも、アキコが料理しているのはあまり見たことないンだよな。アイはあるか?」
「・・・・・言われてみれば確かに・・・私も見たことないわ。何時もカロリーメイトとかで済ませてるイメージね」
「だよな?」
アキラが食べ終わり、食器をアイに返そうとする。するとアイは別の皿を食事中の職員全員に配り始める。
「あ!! どうしたンだ!! この、水饅頭!!」
「水饅頭?」
別の職員がお碗の中に氷水と酒まんじゅうが入った謎の食べ物を見てそう呟く。
「若葉君、入って」
「失礼します!!」
アイが呼ぶと食堂のドアが開き、若い男性自衛官が入室してくる。
「オラパ諸島攻略作戦の際に練習艦「かしま」にて御世話になりました、若葉響(わかばひびき)二等海佐であります!! 本日、新型FFM1番艦、わかば級護衛艦「わかば」の艦長に着任しました!!」
「おおっ! そうか!! ちなみに、何歳だったか?」
「今年で26です!!」
「おお~、じゃあ君もあの狭き門を突破したンだな?」
「はい! 羽田一等海佐と栄一等海佐と同じく、飛び級で昇進しました!!」
本来であれば、護衛艦の艦長クラスを勤める一等海佐や二等海佐は40代にならないとなれない。だが、人手不足に悩む海上自衛隊では、本当に優秀な人材を徹底的に囲い込み、昇進への意欲を向上させる為、新たに飛び級制度を設立。年齢に関係なく挑戦出来るが、健康、体力、学力、精神力、判断力、経済力、技術力、戦闘力、社交性等様々な観点から徹底的に評価。挑んだ99.9%の自衛官が不合格となる厳しすぎる飛び級制度である。最終選考まで残った自衛官が0人の年は珍しくなく、現時点で合格したのはヒロシとアキラの2名だけであり、ヒビキは彼らに次いで3番目の合格者である。
「だがなヒビキ! 浮かれてはいかンぞ!! 確かに君は二等海佐だ。だが、二等海佐になった、艦長になったがゴールじゃない!! むしろここからがスタートだ!! 選ばれた存在として、より一層国民の為に奉仕しなくてはいけない!! 君なら大丈夫だとは思うが、決して不断の修練を怠るべからずだぞ!!」
「はい!! 肝に銘じております!!」
「うむ。練習艦「かしま」の時よりも更に逞しくなって嬉しいぞ! それで、これはお前か?」
笑顔でお碗を見せるように持ち上げるアキラ。
「はい。着任前に休暇を頂き、浜松に戻って参りました!! 母の手造りであります!!」
「ほほお~!! さてさてそこのお前!! こっちに来い!」
「ははっ」
アキラの近くに座っていた領事館職員はされるがままにお碗をアキラの前に差し出す。すると・・・・
「え? ま、饅頭に砂糖ですか?(困惑)」
アキラは困惑する職員を他所に大量の砂糖を水饅頭の中にぶちこんでいく。
「御袋さんは元気か?」
「はい。僕が羽田一等海佐や栄一等海佐と同じく飛び級に合格したと知り、大変喜んでおりました!!」
「うむ!!」
そして自身の水饅頭にもバカみたいに砂糖をぶちこんでいくアキラ。全員の視線がアキラに注がれる中、旨そうに水饅頭with砂糖を口に入れていく。
「う~ン!! うンめぇ~!!」
そこから更に追い砂糖をぶちこんでいくアキラ。もはや砂糖そのものを食ってような食べ方に全員困惑する。ただし、彼をよく知るアイや、かつてアキラの元で教育を受けたヒビキは例外である。
「・・・・この領事館の幹部組、根布領事以外まともな人間はいないのか?」
砂糖をバカみたいにぶちこまれた職員はそう呟いた。なおアイは砂糖をバカみたいにぶちこんでいくアキラを微笑ましく見ていたという。
「・・・・・・優秀だけど、子供っぽいところもある・・・・それがお姉さまの親友、アキラ・・・・シンがいなかったら、お姉さまはアキラと結ばれてたかもね」
親友にすら負けるヒロシ、完全に涙目である。
ムー国港町マイカル
日英共同使用マイカル海軍基地
護衛艦「いずも」艦長室
「・・・・・アキラなら酒まんじゅうに砂糖をバカみたいにぶちこむんだろうなあ・・・・」
「僕らはこのままで充分ですけどね」
「・・・・ほんのり甘いのが旨いのに・・・・あのバカ舌め・・・」
「でも頭は回りまくりですけどね、アキラ先輩は」
「俺にはあそこまで頭は回せねえよ・・・・飛び級に合格するぐらいには回るけどさ・・・・」
「飛び級なんてあるんすね~。まあ、僕はウクライナに行ってたからある意味飛び級ですけど。うん、旨い旨い」
ちなみに、ヒロシとアキラは練習艦「かしま」にてオラパ諸島を目指していた際・・・
「酒まんじゅうに砂糖や氷水は不要だ。酒まんじゅうはほんのり甘いのが旨い。このバカ舌が!!」
「酒まんじゅうに砂糖や氷水は必須だ。徹底的に甘くするのが旨い。この頭の回転率18%(アキラと比較して)が!!」
と、医務室で喧嘩したことがあったのだが、ケント以外は誰も知らない。
「はあ?! アキラおめえ砂糖に頭やられてんじゃねえの?!」
「ヒロシこそ頭が回らなさすぎた!! いいかヒロシ!! 水饅頭はあの連合艦隊司令長官山本五十六元帥が愛した食べ物なンだぞ!!」
「だからなんなんだよ!!」
「おめえは山本五十六長官を否定するのか? 海上自衛隊は帝国海軍の後継者だ。ならば偉大なる山本五十六元帥の水饅頭も継承するべきだ!!」
「いらねえもんを継承すんな!!」
「必要なンだよなあ!!」
「「・・・・・・・・・・」」
「zzzzzzzzzzzz」
馬鹿馬鹿しくなって座ったまま寝ているケントを他所にヒロシとアキラは睨み会う。そんな二人だが、仕事中は互いに信頼しあっているのである。
「ああ、そんなことあったんすか。寝てたから分からねえっす」
「よく寝れたよなケント・・・」
「最早医務室で喧嘩するのが日常茶飯事過ぎて子守唄ですよ」
「まあ、アキラは本当に優秀だからなあ・・・俺は無能だからアキコの近くで仕事出来ないし・・・」
「佐官に無能はいませんよ、先輩。あと緑茶の御代わりください。そこの急須に入ってるんで」
「ん? ああ、あれか・・・・アッツ!?」
「僕は熱々の緑茶が好みなんで。火傷しました?」
「してないけどさ・・・・はあ~。俺に恋の季節は来ないのか?」
「来ないっす」
「酷い!」
おまけ
わかば級護衛艦
概要:もがみ型護衛艦の拡大型として12隻の建造が決定している新型のFFM。一番艦には、かつて海上自衛隊が旧海軍の駆逐艦梨を引き揚げて再使用した護衛艦「わかば」から名前が取られた。
武装:基本的にはベースとなった「もがみ型護衛艦」に準じているが、VLSが32セルに増やされる等、若干武装が強化されている。
艦長:初代艦長には、飛び級制度を利用して二等海佐に昇進した若手のホープ、若葉響二等海佐が就任。護衛艦「わかば」の若葉艦長という、半分ぐらい狙いましたかお偉いさん? という人事。ちなみに、若葉艦長の親友は飛び級制度を利用し、最終選考まで残るも、あと1点が足りずに無念の不合格となっている。
来歴:ムーに派遣中のイギリス海軍の駆逐艦ドラゴンと交代する為に訓練をしながら移動中。カルトアルパスには補給と挨拶の為に立ち寄った。なお、わかばと交代するイギリス海軍の駆逐艦ドラゴンは機関不調の為、本国に帰還して整備を受ける予定であり、
相変わらず欠陥品じゃないか!!
と、45型駆逐艦は笑われることになる。後にイギリス海軍は45型駆逐艦に変わる新型の駆逐艦を日本に発注することになるのだが、それは後程の話。
(続く)