日本国東京都首相官邸
日本国の政治の中枢永田町。今や永田町は日本のみならず、世界の政治の中枢としての機能を併せ持つ存在となっており、イギリスのナンバー10と共に、世界の政治を左右する。そんな永田町にある首相官邸では、総理大臣を筆頭に関係閣僚や関係省庁の官僚が召集され、緊急の会議が開かれていた。
「して、外務省に神聖ミリシアル帝国から命令・・・・・いや、要請が来たと聞いたが?」
内閣総理大臣石葉茂夫が外務大臣である岩谷武に問う。岩谷は官僚から渡されたメモを片手に会議に参加している面々に内容を読み聞かせる。
「昨日、ルーンポリスに駐在する我が国の大使が出頭要請を受けました。大使館が何用であるかと問うと、緊急の要請であり、ここでは話せない。大英帝国の大使にも同じ要請をしているとのことでした」
会議の前日まで遡る。神聖ミリシアル帝国では、皇帝ミリシアル8世の号令により、レイフォリアへの再侵攻が決定。各国の大使をアルビオン城に呼びつけ、レイフォリアへの出兵を要請していたのである。しかし、
「ですが、我が国の大使は偶然にも休暇を取っており不在。同じく偶然にも休暇中でルーンポリスに滞在していた駐カルトアルパス日本領事館の根布領事を代理として派遣しました」
この日、駐神聖ミリシアル帝国日本大使である近藤大使は休暇中でルーンポリスを離れていた。だが、偶然にもレイフォリアから原子力潜水艦で帰還し、シンとルーンポリスでデート中だったアキコが滞在していることが判明。ルーンポリスの日本大使館は、外務省の中でもトップクラスの人材である彼女を代理として派遣することを決定し、職員を派遣し半ば強制的にアルビオン城まで護送したのである。
「アルビオン城では、我が国の他にイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド等の第三文明圏の大使や代理公使が呼び出されており、その後ムーやエモールの大使や代理公使も呼び出されました。そこでは、神聖ミリシアル帝国の皇帝ミリシアル8世自らが各国の大使や代理公使に対して、レイフォリア再侵攻計画への参加を要請して来ました」
「さては、グラ・バルカス帝国が不自然にレイフォリアから部隊を引き揚げたからか?」
「総理の予想通りです。ミリシアル8世は、レイフォリアに残る敵は僅かである、日本国と英連邦王国の協力により、グラ・バルカス帝国はレイフォルから部隊を引き揚げざるを得なくなった、今こそレイフォルから、第二文明圏から敵を追い出す絶好の好機である、とのことでした」
「外務省は何と返答したのだ? まさかムーに展開している部隊を突っ込ませる気ではないだろうな?」
防衛相の仲谷玄が岩谷外相をギロリと睨む。元レンジャー隊員である仲谷防衛相に睨まれた岩谷外相は一瞬怯む。
「そこは我が外務省のエリート官僚である根布領事が巧く凌ぎまして、自衛隊の参戦は明言しませんでした」
冷や汗をかきながら答える岩谷外相。各国の大使は、神聖ミリシアル帝国皇帝直々の要請を受け、恩義を売るべく率先して軍の派遣を表明。ムーやマギカライヒ共同体等の第二文明圏国家も参戦を表明していた。表明していないのは、日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのG5のみだった。
「なんと返答したのだ? 明確に拒否したのか? それとも参戦の余地を残したのか?」
防衛省としては、自衛隊を神聖ミリシアル帝国が主導する第二次レイフォリア侵攻作戦に参戦させることに大反対であった。
「外相、わかっているとは思うが、ムーに展開している部隊はあくまでムー防衛の為の戦力だ。レイフォリア侵攻の為の部隊ではない。無論出来ないことはないが、レイフォリア侵攻を担うのはガルマ派に属するグラ・バルカス帝国正規軍、自由レイフォル軍、そしてイギリス軍第442グラ・バルカス帝国人部隊である。自衛隊とニュージーランド軍はムーに残り、イギリス、カナダ、オーストラリア軍はグラ・バルカス帝国に臣従している国々を制圧する。それが基本方針だ」
「無論承知している。根布領事は、現在我が国はムーの防衛で精一杯である。我が国と英連邦王国が後顧之憂を断つ故、安心してレイフォリアに侵攻されよ、と返答致しました」
「うむ。それならばよい」
「そもそも神聖ミリシアル帝国は、イギリスの影響力拡大を酷く恐れている。下手に参戦表明して我が国とイギリスが活躍なんてしてしまったら、それはそれで面倒であろう。むしろ、各国の前で臆病風に吹かれた、そんな態度で良いのではないか?」
内閣官房長官の森芳正が口を挟む。
「私は軍事に疎いが、そもそもグラ・バルカス帝国がレイフォリアをがら空きにする理由が解せん。ニューアークにはガルマ総督の部隊が未だに残留しているというのに、一番重要なレイフォリアががら空きなのだ。何か罠があるとしか思えんが、仲谷防衛相はどう考える?」
「防衛省でも、明らかにおかしいとして調査と分析をイギリスと共同で実施しております。ですが、分析結果が出るにはしばらくかかるかと」
「だが、外務省としては全く部隊を出さないというのは国益に反すると考えている。形の上でも部隊を出せないか?」
「外務省の立場は理解しているが、自衛隊やイギリス軍は便利屋ではないのだぞ? もし軍事衝突でもしたらどうなる? また面倒なことになるぞ!!」
「それに、最近グラ・バルカス帝国の息のかかった工作員による世論操作が行われていることが公安から報告されています。この問題への対処も必要であり、国家公安委員会としても自衛隊の参戦には反対だ」
国家公安委員会の堺学委員長も自衛隊の参戦には反対の意思を示す。これらの意見を踏まえ、日本政府としての正式回答を神聖ミリシアル帝国政府に対して通達。内容としては、
・神聖ミリシアル帝国が主導する第二次レイフォリア侵攻作戦に日本国自衛隊の部隊は参戦しない
・ただし、日本製並びにライセンス生産された装備品の使用は全面的に認める
・日本国自衛隊はムーにて、各国軍の後方支援に専念する。ムーにおける日本国自衛隊の関連施設の使用を承認する
・必要な装備品については、貸し付ける形で提供する用意がある
と、返答した。神聖ミリシアル帝国側からは、日本国の立場を尊重すると返答があり、同時にマイカル海軍基地並びに空軍基地への艦艇や航空機の寄港許可を要請。日本側は即座に了承した。また、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各国政府も神聖ミリシアル帝国へ回答を実施。イギリス政府は、
・イギリス軍のレイフォリア派遣は行わないが、代替としてニューアークに展開している守備隊がレイフォリアに向かわぬよう、カナダ、オーストラリア軍と共に陽動作戦を実施する
・同じくレイフォリア派遣の代替として、グラ・バルカス帝国に臣従している第二文明圏各国に対して武力介入を実施する
・貴国の戦費並びに喪失した装備品補充用の資金源として、ロンドン並びにニュー・ホンコンにおいて、神聖ミリシアル帝国国債の発行
と、回答。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドは日英に歩調を合わせ、後方支援に徹すると回答した。神聖ミリシアル帝国としても、下手に日本やイギリスが出てきて荒らされても困ることから、今回の日本政府の回答には満足する結果となったのである。
神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス
駐神聖ミリシアル帝国日本大使館
「根布領事、この度は急な要請に応えて頂き、大変ありがとうございました!!」
「・・・・・・・・」
「か、カルトアルパスへの旅費をて、手配しておきましたので・・・こちらを」
「・・・・・・・・」
アキコは大使館職員の発言を完全に無視する。代わりに傍らに控えるシンが大使館職員から旅費やその他粗品を受けとる。
「お気を付けてお帰りください!!」
「・・・・Fuck y○u. Be prepared.」
大使館職員が必死に頭を下げるも、わざわざイングランド訛りの英語で返答し、終始不機嫌な様子のアキコ。シンは彼女を宥めながら大使館を後にする。
カルトアルパスへ向かう寝台特急列車の個室内
「・・・・・・はあ・・・・せっかくの休暇も台無しにされ、休日出勤。年休なんて腐りまくりの私を大使館は何だと思ってるのかしら」
「有能な便利屋、将来の幹部候補、ゆくゆくは衆議院議員とかじゃないかな?」
「幹部ならまだしも、政治家なんて御断りよ。外務省以上に割に合わない職業だし」
「頼むよアキコ。僕の前で不機嫌にならないでくれよ・・・僕のせいで不機嫌になってるって、アイツら(アキラとアイ)に勘違いされるだろ~」
それもそのはず。本来なら彼女は久々の休暇だったのだ。レイフォリアから原子力潜水艦でムーに帰還した。彼女はようやくゆっくり休めると考え、夫のシンと何気に行ったことのないルーンポリスを観光していたのである。
「カルトアルパスしか知らない私にとって、ルーンポリスは非常識に新鮮だったし、流石は自称世界一の国だと空から実感したのに」
彼らは休日を含めてカルトアルパスの日本領事館近辺にしか外出しない為、神聖ミリシアル帝国にいるのに、カルトアルパス以外のことは何も知らない。せっかくだから帝都でも拝みに行こう。そう考えて、マイカルから航空機でルーンポリスにやって来た。だが・・・・
「ったく! 着いた瞬間に仕事モードにさせられるし、嫌になるわ!!」
ルーンポリス国際空港に着いて早々に彼女らは日本大使館の職員に囲まれてしまった。そこでは細かい説明を受けることは出来ず、緊急事態であるから速やかに日本大使館まで来て貰うとしか言われなかった。大使館が用意した公用車に乗せられ、日本大使館まで直送。そこで伝えられたのは、各国の大使が皇帝ミリシアル8世直々の要請でアルビオン城まで呼びつけられているというものだった。
「・・・・・・でも、よくアキコは我慢したと思うよ。外面は笑顔だったし・・・」
「右手で握手しながら左手に拳銃を握るのが外交だからね」
右手で飲み物をシンに要求するアキコ。
「・・・・考えてみると、こんなに態度の悪いアキコを間近で拝めるのは僕だけなんだよね」
綾○のペットボトルを渡すシン。アキコは無言でそれを奪い取り、一気にそれを飲み干す。
「・・・・それだけ貴方を信用しているのよ」
「ははは、ヒロシが聞いたら発狂しそうだね」
「あの男は基本的には優しいし、貴方より有能だけど、歪んでるのよ」
「未だに彼女を作ろうとせず、ずっとアキコに執着しているもんなあ・・・アキラやケントですら彼女はいるのに(誰かは知らないけど)」
「ヒロシのことだからさ、仮に私が死んだら私の亡骸を盗んで復活の儀式とかやりそうで怖いのよね・・・」
「異世界転移前なら笑い話だけど、この世界は魔法があるし、古の魔法帝国のこともあるからなあ・・・・アキコが死んで、僕が生き残ってたら間違いなく闇堕ちしそうなのがなあ・・・」
「だからさ、簡単には死にたくないのよ。せめてヒロシが先に死んでくれないと」
「でもさあ・・・あのヒロシだぞ? アキコと結ばれるなら古の魔法帝国と組みそうじゃね? むしろ乗っとりそう」
「怖いことを言うわねシン。今日のミリシアル8世からの要請の時より怖いわよ」
「そういえばあの光景は恐怖だったなあ・・・」
数時間前のアルビオン城
「・・・・何が始まるんだ?」
「さあね。でも、イギリスやカナダの大使の姿もあるし、良からぬことが起きそうね」
大使館でスーツに着替えさせられ、アルビオン城まで直送されたアキコとシンは、他国の大使らと共に神聖ミリシアル帝国側の代表が来るのを待つ。
「オーストラリアは代理公使、ニュージーランドは大使館職員の派遣。なら日本大使館も大使館職員を送れば良かったのに」
「アキコがいたから送りました感があるよな」
そんなこんなしていると、近衛兵に周りを守られながら一人の男が現れる。各国の大使はそれを見ると平伏し、崇敬の意を評する。ただし、日本、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの大使らはそのまま立ち尽くしている。
「・・・・・ムーの大使ですら平伏・・・いや臣従のポーズ。神聖ミリシアル帝国の威光は凄いものだ・・・」
各国の大使らの姿勢を見てシンは率直な感想を述べる。各国の大使らはそのまま立ち尽くしている日英の大使らに奇異の目を向ける。
「・・・・よい、楽にせよ」
皇帝ミリシアル8世の号令により、各国の大使は平伏の姿勢をやめる。
「さて、いきなり諸君らを我が居城アルビオン城に呼びつけてしまい申し訳ない。余から諸君らに要請したいことがあるのだ」
(・・・要請・・・)
(という名の命令ね)
皇帝ミリシアル8世は原稿を取り出すと、それを各国の大使らに対して読み上げる。
「我が神聖ミリシアル帝国の調査と分析の結果、世界の敵グラ・バルカス帝国は甚大な被害を受けていることが判明した。先のバルチスタ沖海戦では、我々世界連合は壊滅的な被害を受けた。我々はその損害で苦しんでいるが、同時にグラ・バルカス帝国も壊滅的な被害を受けた。我々は苦しいが、グラ・バルカスも苦しい。グラ・バルカス帝国は、重要拠点レイフォルでさえ維持出来ぬ程苦しい。調査と分析の結果、レイフォリアからほとんどの部隊は本土へ撤退し、ニューアークに僅かな守備隊が残るのみである。最早グラ・バルカス帝国には兵なし!! 今こそ再度世界連合を結成し、レイフォルから、第二文明圏から敵を完全に叩き出す好機が巡ってきたのである!!」
あの戦いと犠牲は無駄ではなかった。それを知った各国の大使は色めき立った。ただし、G5を除いて。
「故に今回諸君らを呼びつけたは、世界連合の再度結成の要請をする為である!! もし、参加するのであれば、我が神聖ミリシアル帝国が有する魔導技術の一部を開示し、その地位を向上させることを確約しようぞ!!」
世界最強の国の技術の開示。それがほんの一部であったとしても、ほとんどの国からすれば喉から手が出る程欲しいもの。日英と国交を結んでいる国であったとしても、貰えるものは欲しい。各国の大使は競うように、ミリシアル8世に対して世界連合参加を表明する。
「我が中央法王国は本土防衛艦隊から4隻を派遣しますぞ!!」
「我がトルキア王国は前回よりは劣りますが、50隻を派遣出来ますぞ!!」
「前回参加出来なかった我がパンドーラは陸上戦力を派遣しますそ!!」
各国が競うように参加表明する様子を見て、アキコは心底呆れる。同時に、G5以外の国々には事前に話を通していたのだと確信した。
(成る程ね・・・・神聖ミリシアル帝国は、我が国やイギリスに世界の主導権が渡りつつあることを把握している。それを取り戻す為の艦隊派遣。そして、日英が参加するなら神聖ミリシアル帝国は日英の上に立つことになり、参加しないのならがら空きのレイフォルを占領することで日英に頼らなくても勝てるとして、強さを主張出来る。どちらに転ぼうが構わない・・・・と)
各国が参加表明する中、沈黙を貫くG5の外交官達。各国の大使らはG5の動向に注目する。
「む、無論日本国や英連邦王国も参加されますな?」
「先のバルチスタ沖海戦に参加しておりませんから、戦力は充分にございましょう!!」
各国は日英を引き込みたくて仕方がない。しかし、アキコら日英の外交官は本国から何の指示を受けていない。だが、場の空気に呑まれてはいけない。冷徹に自国の国益を追及しなくてはならない。
「私はあくまで日本国の領事であり、軍の派遣を決定出来る立場にはない。故にこの場で軍の派遣の有無を確約することは出来ない」
毅然とした態度で彼女は壇上に立つミリシアル8世を見つめる。
「な、何故です!! 日本国は前回の世界連合に参加しなかったではありませんか!!」
「そうです!! むしろ前回参加しなかった分働いて貰わねば!!」
「私は日本国の外交官であり、日本国の国益を第一に考えなくてはならない。そして同時に同盟国イギリスのこともね」
アキコは軍の派遣を確約しない。各国の代表はここぞとアキコを罵る。
「では何か!! 貴国は我々が軍を派遣するのは愚か者がすることだとでも言うのか!!」
「貴国は確かにパーパルディアを倒した!! だが、所詮は新参者だ!! 新参者なら新参者らしく神聖ミリシアル帝国の要請に従うべきだ!!」
「これだから女は駄目だ!!」
「・・・・・・」
傍らに立つシンが無言で各国の外交官を睨む。今にも殴りかかりそうであるのをアキコが左手で制止する。
「・・・・・・何度でも言いますが、私は日本国の外交官。そして、日本国は神聖ミリシアル帝国とは対等な外交関係であり、更に両国には軍事協定が存在していない。故に軍を派遣する法的根拠はなく、要請に必ず従う必要はない。また、日本国は民主主義国家であり、軍の派遣には議会の承認が必要である。よって、この場で約束することはない」
各国の大使らが不満の声を口にする中、イギリスの大使が口を開く。
「我が大英帝国も、日本国の考えと同様である!! 我が大英帝国は民主主義国家であり、軍の派遣も議会での承認を必要とする!! 故に今回この場で派兵の確約は致しかねる!!」
その後カナダ、オーストラリア、ニュージーランドも同様に軍の派遣に否定的な態度を示す。各国の大使らの不満が高まる中、アキコがある提案をする。
「一方で我が国や英連邦王国はムー防衛の為に軍を展開しています。どうでしょうか? 我が国と英連邦王国がムーに残り、後顧之憂を断つというのは? 背後の敵を気にしながら戦うのは絶対に避けるべきことではないでしょうか?」
各国の大使らは一瞬沈黙した後に我に帰った。
「・・・・・言われてみれば、グラ・バルカス帝国が伏兵を背後に忍ばせる可能性があるのか・・・・」
「それに、日英が陸上戦力をムーに張り付けておけば、良い牽制になり、少ない戦力の分散も期待出来る・・・」
「後顧之憂・・・それを日英が断つ・・・悪くない。仮に負けても日英がカバーするということでもある・・・・」
各国の大使らからの批判がやむ。そこにイギリスの大使が畳み掛ける。
「また、我が大英帝国は数少ないグラ・バルカス帝国軍が駐留するニューアークに対して軍を派遣し、レイフォリアに向かわぬように牽制する計画があります。これらの行動を以て、軍を派遣した・・・そう見なすのはいかがか?」
イギリスの大使の発言が決定打となった。こうして日英両国は実質的には何もせずに世界連合に参加したという体裁が整った。イギリス、カナダ、オーストラリアが軍を派遣するニューアークであるが、此方は既にイギリス側と内通しており、戦闘が起きることはない。むしろ、変に神聖ミリシアル帝国がちょっかいを出さないように守る必要があったのだ。
(それ以上に、明らかにおかしいのよ・・・・レイフォリアは重要拠点。そこを空っぽにするなんで・・・・明らかに罠でしょ・・・・グラ・バルカス帝国憎しで足下が見えてなさすぎる・・・・)
こうしてアルビオン城での出来事は終わった。城を出るやアキコは仕事モードから不機嫌モードに代わり、今に至るのである。
「アキコは凄いよ。外交官としてのアキコは本当に本心を隠しきるんだからさ」
「貴方は逆に漏れすぎなのよシン。食堂車に行くわよ」
「ああ、もうそんな時間か・・・」
アキコとシンは貴重品を持ち、食堂車へと向かう。日本では一部の金持ちの道楽を除きなくなってしまった寝台特急の食堂車。神聖ミリシアル帝国では、航空機が未熟であることや夜行バスもまともに走っていないことから、寝台特急はまだまだ現役。それどころか日本製の部品を使用し、設備の近代化まで行われていた。神聖ミリシアル帝国全土の鉄道路線を運行するミリシアル国鉄は日本の鉄道車両メーカーと協力し、新型の寝台特急用車両の開発を行うことを発表しており、日本国内では横浜や神戸で製造中の客車に注目が集まっている。
「・・・・・良くわからないが、お上品過ぎないかアキコ?」
「根布家でマナーは教えたでしょ?」
注文した料理の数々が運ばれてくるが、フランス料理を彷彿とさせるお上品なメニューにシンは身構えてしまう。
「そ、それはそうだけど・・・でもさ、留学先はイギリスだったじゃん? メシマズの」
「あれは本当に酷かった。あまりのメシマズに毎日自炊したもんね。あとは伯父さんの会社を頼って米と味噌とワカメを持ってきて貰ったし」
身構えてしまい、ガチガチのシンとは対照的にアキコは馴れた手付きで料理を口にする。
「・・・・流石はアキコだな・・・一時は根布商事の後継者候補だったんだって?」
「そういえば、後継者候補だった時はまだシンはうちにいなかったもんね」
アキコは食事を続けながらシンに問う。
「・・・・・考えたら私はシンと何時も一緒にいたのに、自分のことを何も教えて来なかったわね」
「・・・・・僕もアキコ、君の隣に立てるように着いていくので精一杯で、そこまで頭が回らなかったな・・・・」
お代わりの水をウエイターに注いで貰う二人。
「・・・・・個室に戻ったら、過去について話をしようかしらね」
「そうしよう」
二人はその後、車窓に映る夜景を眺めながら優雅に食事を続けるのであった。
ムー国港町マイカル
日英共同使用マイカル海軍基地
海上自衛隊護衛艦「いずも」医務室
「・・・・・なあケント・・・・お前は俺の味方だよなあ?」
「航海中そればかりでしたね、ヒロシ先輩」
呆れながらヒロシの戯れ言に答えるケント。ムーに派遣される日本艦隊の中枢を担う護衛艦「いずも」。その艦長であるヒロシと医官であるケントもまた、ムーへと派遣されていたのである。
「先輩、僕は常に先輩の味方ですよ」
「だよな~」
涙を流し、ケントの胸の内で泣くヒロシ。ケントは優しく抱き締める。
「なあケント、俺は駄目なヤツだ。未だにアキコがシンと結婚したことが納得できないでいる」
「でも、初恋は実らないと言うじゃないですか」
「だけど、アキコ以上の女はいないんだよ」
「ハードル上げすぎですよ」
「わかってても・・・・だ」
「やれやれ・・・・」
(この人の介護は本当に疲れるんだよな~。昔はアキラ先輩もいたから良かったけど・・・)
「でしたら、アキコ先輩の幸せな人生を影から守ってくださいよ。その為に今はムーにいるんでしょう」
「・・・・・そうだな」
「確かにヒロシ先輩はアキコ先輩の隣には立てません。ですけど、アキコ先輩の平和を守れるのはヒロシ先輩しかいないのは事実じゃないですか。ムーを抜かれれば次はアキコ先輩のいる神聖ミリシアル帝国。そこにはヒロシ先輩の親友のアキラ先輩もいる。最愛の女性と親友を守る。それでは駄目ですか?」
何とか上手くヒロシを宥めようとするケント。一部からはヒロシの男女房と言われることもある。まあ、ケントは他人には見せびらかさないのでヒロシは知らないのだが、本国に妻がいる。
「じゃあ、今日も頑張って行きましょう!! なんかレイフォリアががら空きらしいですけど」
ケントがヒロシに働くように促す。
「レイフォリア・・・・か。しかし、なんでがら空きなんだろうな?」
何時もの艦長モードに戻るヒロシ。それを見てケントは安心する。
「まあ、明らかに罠を仕掛けているでしょうね」
「その罠に飛び込んでいく神聖ミリシアル帝国・・・・憐れだな」
グラ・バルカス帝国 レイフォル領 外務省レイフォル仮出張所
「して、皇帝陛下はいつ頃参られるのだ?」
上司であるシエリアが死亡したことで、外務省レイフォル仮出張所においてナンバー1となったダラスは部下に詳細を問う。
「およそ一週間後に戦艦グレート・ルークスにてレイフォリアに到着されます」
「おお! グレート・アトラスター級三番艦の!!」
現在グラ・バルカス帝国が保有する最強の戦艦グレート・アトラスター級。レイフォリアにて修理中の一番艦グレート・アトラスター、カルトアルパスにて沈んだ二番艦アポロノーム(一番艦をベースに新機軸を多数搭載しており、アポロノーム級とする資料もある)、密かにムーのマイカル造船所にて近代化改装を受け、一昨日ニューアークに帰還した四番艦グレート・ガルマ、そして皇帝グラ・ルークスの御召し艦にして三番艦のグレート・ルークス。4隻の新型戦艦はグラ・バルカス帝国の力の象徴であり、世界に覇権を求める帝国そのもの。尤も、日英の潜水艦からすればおやつに過ぎないのだが。
「皇帝陛下の御召し艦が来られるとは・・・・迎える準備は万端であるな!?」
「それは間違いありません」
「ダラス殿、我々武装親衛隊の秘密兵器運用部隊も近日中に到着する。レギン首相より、このエリアを割り当てて頂くが、よろしいか?」
武装親衛隊隊長のエギーユ・ハゲーズがダラスに鋭い眼光で睨む。ただし、本人は全く睨んでいるつもりはないのだが。
「・・・・あ、これはハゲーズ殿。そのエリアで構いません。存分にお使いくださいませ」
「協力に感謝する。レイフォル全体の安全はこの武装親衛隊、エギーユ・ハゲーズにお任せ頂きたい。必ずや神聖ミリシアル帝国を始めとする蛮族共を恐怖のどん底に陥れられようぞ」
「良くは分からぬが、任せる」
「では、これで」
「・・・・ハゲーズ閣下、明日にも秘密兵器を載せた爆撃機が到着する見込みです」
「うむ。しかし、レイフォリアそのものを囮にするとは・・・・レギン首相の頭脳には勝てぬな・・・」
部下からの報告を受けるハゲーズ。
「全てはグラ・バルカス帝国の為に。ジーク・バルカス!!」
(続く)