日英同盟召喚   作:東海鯰

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亡命のパラディオン

ニュージーランド南島

とある牧羊地

 

「兄さん凄い!! 羊さんが沢山いるよ!!」

 

ニュージーランド空軍に発見され、オーストラリア海軍に救出されたイヴ、アウラム、ニンギルス、イムドゥークの一行は、ニュージーランド政府の関係者と共に南島の牧羊地を訪れていた。

 

「パラディオンにも羊はいるが(品種は全く違う)、ここまで大規模に放牧している場所はない。それにパラディオンの羊と違い、羊毛の量も桁外いに多い。成る程、これは羊の国と言われる訳だ」

「牛とか鶏みたいに食えるのかな?」

 

羊を見て食べ物のことを考えるアウラム。すると説明役のニュージーランド政府の関係者から力の籠った説明が入る。

 

「流石はアウラム君、お目が高い。我が国は羊を放牧することで羊毛と羊肉を確保。それを海外に輸出することで富を得ているのです。特に我が国の羊肉は非常に新鮮で美味しいと、世界中で評判なのです!!」

 

近年はオーストラリア産の羊肉に負けつつあることを隠しながら説明するニュージーランド政府の関係者。無論そんなことは知らないアウラムは「ニュージーランド、スゲー!!」と、目を輝かせる。その後一行は牧羊地にて羊肉を食し、初めての味わいに感動する。

 

「・・・・如何ですかな? 我が国ニュージーランドは」

「素晴らしい国だと思います! この国からは平和を感じます。この平和が将来続くことを切に願います!」

 

イヴがパラディオン共和国式の感謝の意を示す。まだ幼い少女とは言え、彼女は当代の巫女。その洗練された動きにニュージーランド側も敬意を示す。

 

「・・・・ウェリントンで貴国のことについて簡単な説明は受けた。貴国は非常に豊かな国なのであろう。だが、些か軍事力が弱すぎるように感じる。厄介事を持ち込んだ俺達が言うのはおかしいと認識しているが、イヴと祭祀の杖を狙うクルセイリースの連中が攻めて来た時に対応出来るのか?」

 

申し訳なさそうな顔で問うニンギルス。ニュージーランド政府の関係者は問題ないという表情で言葉を返す。

 

「ニンギルス殿の申される通り、我が国の軍事力は非常に小さいものです。これは異世界転移前は周辺国を兄弟国のオーストラリアや軍事力を持たない島嶼国、そして世界最強の国アメリカと同盟を結んでいたことが由来です。我が国だけでは、クルセイリース大聖王国でしたか? かの国と戦えば敗けはしませんが、大きな被害を受けるでしょう」

 

敗けはしない。それだけでも一行は驚きだが、ニュージーランド政府の関係者は話を続ける。

 

「我が国は引き続き兄弟国オーストラリアと同盟を結んでいますし、遥か北には同じく兄弟国のカナダが、そして更に遠くには旧宗主国にして、国王陛下のおられるグレートブリテン及び北アイルランド連合王国があります。距離こそ離れてはいますが、我が国は決して孤立してはいません。既にオーストラリアとカナダの軍が此方に移動しておりますし、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国も準備を開始しています。そして今回は軍の派遣は致しませんが、世界最大の経済大国にして我が国最大の同盟国日本国がいます。G5の結束は強固であり、決して悪しき心を持った国々の侵略行為に屈することはあり得ません! 安心してください!! G5の自由と民主主義が貴女方を守ります!!」

 

ニュージーランド政府の関係者の発言には強い説得力があった。今まで見せられてきた物全てが彼らの常識を超えていた。この日、彼らはオークランドに戻り、ニュージーランド政府が手配したホテルにて一夜を明かすことになる。

 

 

ニンギルスの日記

 

パラディオンに古くから伝わる秘宝「祭祀の杖」の導きにより辿り着いた新天地ニュージーランド。首都のウェリントンは、祖国の首都パラディオンを完全な田舎町にしてしまう程発展していた。これだけでも驚きだが、最大都市オークランドはそれ以上だった。一方でニュージーランドは長閑な自然も広がっており、特に南島で見せられた牧羊地は圧巻であった。見渡す限りの草原。そこに放たれし羊の大群。時には俺達が乗る車が羊の大群に囲まれ動けなくなる程だ。ニュージーランド側によれば、人と羊の数は1:6の比率で圧倒的に羊の方が多いらしい。昔は1:22だったというから驚きだ。愛する妹イヴは羊の毛から作られる衣類や羊そのものを強く気に入った。パラディオンを脱出してから一度も笑わなかった彼女に笑顔が戻り、兄として感涙の極みだ。また、ニュージーランドの特産品の一つでもあるキウイフルーツもまた彼女は気に入ったようだった。何て平和な国であろうか。開拓者と先住民の対立を乗り越え、共に繁栄する国ニュージーランド。この国の先住民であるマオリ族のハカも鑑賞したが、非常に迫力のある演出であった。そして先住民の文化を開拓者である白人も積極的に取り入れ、今では国全体のアイデンティティーなのだという。侵略者が先住民の文化を取り入れる等考えたことがない。それほどニュージーランドは成熟した国なのであろう。我々は明日、ニュージーランド側が手配した航空機という乗り物でグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の首都ロンドンへ向かう。ロンドンではニュージーランド国王を兼務するイギリス国王との謁見が予定されている。大英帝国とも称されるイギリスの国家元首。失礼のないようにしなくてはならない。また同時にパラディオンの解放をお願いしなくてはならない。その際には、祭祀の杖や古の魔法帝国に関する情報を提供することになろう。愛する妹イヴの為に俺は全身全霊で臨む。

 

 

翌朝

 

「よく眠れたか? 二人とも」

「ばっちりだよ!!」

「気持ちよすぎてまだ寝ていたい・・・・zzzzzz」

「コラ、起きろアウラム。ロンドンに向けて移動するのだろう」

 

槍で頭を軽く叩くニンギルス。無論矛先にはニュージーランド政府が贈呈した羊毛のカバーが付けられている。

 

「皆様、御揃いでしょうか?」

 

ニュージーランド政府の関係者が現れる。既に空港へと向かうリムジンが待機しており、あとは乗り込むだけである。

 

「皆様、スーツ姿が似合っておりますよ」

 

航空機に乗るということや、万が一クルセイリース側のスパイがニュージーランド国内に潜伏していた場合に備え、ニュージーランド政府は分かりやすい巫女服や甲冑姿から、全員スーツ姿に着替えさせていた。また、小竜イムドゥークは大型犬用のケージに収容し、遠くからは分かりにくいように細工を施す。

 

「イムドゥーク、ちょっとの間我慢しててね」

「ガウ」

「では、出発致しますよ」

 

一行を乗せたリムジンは一路オークランド国際空港を目指す。旅程は、まずオークランドからオーストラリア連邦のシドニーに向かう。シドニーでロンドン行きの便に乗り継ぎ、20時間以上かけてイギリスへと向かう。シドニーからロンドンへの移動が長時間に渡ることから、休憩を兼ねてオーストラリア政府の関係者とも接触する予定となっている。

 

「ニュージーランドの兄弟国オーストラリア・・・・どんな国であろうな」

 

飛行機はオークランドを離陸。一路シドニーを目指して飛行を開始した。

 

「凄い! 魔法もなしにどうやって飛んでるの?!」

「雲の上なんて初めて見た!!」

 

イヴとアウラムは窓の外に広がる光景に目を奪われ、年相応の子供のようにはしゃぎ出す。

 

「・・・・二人がああ笑うのを見ると、安心するな・・・」

「ガウ!」

 

二人の丁度後ろの席に座るニンギルスとイムドゥークは微笑ましく見守る。シドニーへのフライト中、二人は巫女と婚約者という関係を忘れたかの如く無邪気だった。

 

「・・・・・本当に良かった・・・あの元気な姿が見れる俺は幸せ者だ」

「ガウ・・・・」

 

その後飛行機は無事シドニーに到着。待ち構えていたオーストラリア政府の関係者と無事接触し、祭祀の杖や巫女の役割を説明。オーストラリア政府の関係者は興味深そうに話を聞いており、あっという間に乗り継ぎの飛行機の時間が来る。

 

「次はロンドンか・・・・」

「ニュージーランドやオーストラリアの親玉の首都・・・どんなところなんだろな?」

 

オーストラリアのシドニー国際空港からイギリスのロンドン・ヒースロー空港へと旅客機が飛び立つ。万が一に備え、オーストラリアの領空内を演習と称してオーストラリア空軍のF35AライトニングⅡ2機が護衛。普段ならあり得ない距離に最新鋭のステルス戦闘機が飛行する光景に乗客達は興奮し、スマホで撮影する者が後を絶たなかったという。

 

 

アウラムの日記

 

ニュージーランドに辿り着くまでは本当に絶望だった。クルセイリース大聖王国は不当にも、僕の幼馴染みイヴの身柄と祭祀の杖の引き渡しを要求した。クルセイリース大聖王国は飛行艦と呼んでいる航空戦力を保有しており、パラディオン共和国が保有する武器では太刀打ち出来ない。僕はイヴやニンギルスと共に当初の計画通り祖国パラディオンを脱出した。イヴの持つ、祭祀の杖の導く先への航海。太陽は暑く、雨の降らない航海は日に日に僕の身体を蝕んで行った。イヴの前では元気を装うが、正直限界だった。見渡す限りの海。島一つなく、すれ違う船もない。このまま洋上で座して死を待つか、それともイヴと心中するか・・・悩みながら航海を続けた。その間イヴはひたすらに祈りを捧げていた。おそらくは船が見つかるよう、祈っていたのだろう。そして奇跡は起きた。僕達はニュージーランド空軍の哨戒機に発見された。魔法なしで鉄の塊が空を飛ぶ。それだけでも驚きだったが、その後オーストラリア海軍の哨戒艦が現れ、僕達は救助された。イヴと祭祀の杖がクルセイリースに渡るという、最悪の事態は回避された。しかし、ふと安全と分かると祖国に残った両親のことが頭に過る。分かっている。分かっているんだ。助からないこと、僕やイヴを逃がすことが役目であることなんて分かっているんだ。だけど、夜になると今亡き両親の顔が浮かんでしまう。ニンギルスには、よく寝れたことにしておこう。無駄な心配をかけたくはない。次の目的地はイギリスのロンドンだ。オーストラリアやニュージーランドによれば、ロンドンはシドニーやオークランドとは比べ物にならない程栄えているらしい。ただ、飯は絶望的に不味いとも聞いた。イギリス料理の味は劣悪であり、人間の食い物ではないと。そこまで酷評されると、逆に気になってしまう。ニュージーランドの羊肉には及ばないだろうが、そこまで酷くはないのではないか。困った時は、非人道的な扱いを受けているとして、日本大使館に逃げ込めとも言われた。オーストラリアとニュージーランドはイギリスに何かされたのだろうか? そして何故日本大使館なのだろうか。興味は尽きそうにない。

 

 

グラ・バルカス帝国レイフォル領 外務省レイフォル仮出張所

 

「間も無く皇帝陛下が参られる。警備体制に抜かりはないな?」

 

外務省レイフォル仮出張所所長代理のダラスは関係各所と当日の動きを確認する。

 

「はい。既に儀仗隊を始めとする歓迎部隊やレイフォル駐留軍を中心とする警備兵も配置についております。汚ならしい現地人は一歩も近づけぬように線引きもしており、万全と言って良いかと」

「うむ! 実に素晴らしい!! これ程万全の態勢であれば、我々の出世は間違いないであろうな!!」

 

皇帝グラ・ルークスを崇拝するダラス。彼の脳裏には、皇帝直々に、

 

「ダラス、実に大義である」

 

と皆の前で言われる姿を想像していた。他の職員や陸海空の関係者も同様であり、帝国の統治により汚ならしい現地人が一人もいないレイフォリアに皇帝が感激すること間違いなしと誰しもが思っている。

 

「ダラス殿、お待たせしてしまい、相すまぬ」

「おお、ハゲーズ殿。お越しになるのでしたら迎えの車を出しましたのに」

「大変ありがたい申し出ではあるが、我々はレギン首相直々に命じられた秘密兵器を運用している故、防諜の観点から接触者を極力減らしているのだ」

「そうでございましたか・・・・武装親衛隊も大変にございますな」

「お陰様で名の通り禿げておりまする」

「いや、ハゲーズ殿は昔からではないのか?」

「ははは! 流石はダラス殿、冗談が通じませんな」

 

ハゲーズとダラスは歳の差こそあれど、かつては外務省で上司と部下の関係であったことから、二人の関係は親密である。

 

「してハゲーズ殿、秘密兵器とは何なのだ?」

「・・・・・・直に分かる時が来る故、今は言えぬ」

「そうか・・・・まあ、レギン首相直属故に制約は多いのだろうな」

 

ダラスはハゲーズに配慮の姿勢を示す。

 

「して、陛下の行幸の予定はどうなっておる?」

「それにつきましては此方に・・・・」

 

 

武装親衛隊レイフォリア仮駐屯地

 

「お帰りなさいませ! 閣下!!」

「出迎えご苦労。して、トガーよ。例の秘密兵器の様子はどうだ?」

 

武装親衛隊隊長エギーユ・ハゲーズの腹心、アルベール・トガー。彼は今回レギン首相直々に命じた特別作戦の実行役の一人であり、実行役のリーダーである愛国心に溢れた若き青年である。

 

「準備万端であります! 作戦開始は何時でも可能です!!」

「うむ。して、グラ・ルークスがニューアークからレイフォリアに戻る日程は流布したな?」

「はい。抜かりはありません!! その証拠に、ムーのマイカル海軍基地には蛮族共の艦隊が集結。陸軍を輸送する輸送船の姿もあります!!」

 

トガーはハゲーズに対して、スパイが手に入れた資料を示す。そこには、神聖ミリシアル帝国を中心とする大艦隊が停泊しており、中には日英の戦闘艦艇の姿もある。

 

「して、この写真に映る全てが向かってくるのか?」

「いえ、日本国と英連邦王国はマイカルに留まり、後詰めとして控えるようです」

「だとしても、これだけの敵を一掃出来るのはデカイ。流石はレギン首相と言わざるを得まい」

 

武装親衛隊は作戦開始の日まで暗躍を続ける。

 

 

グラ・バルカス帝国レイフォル領ニューアーク

ニューアーク総督府

 

「・・・・近々私の父にして皇帝、グラ・ルークス陛下がお越しになられる。私との会談も予定されている」

「では、その場で私とガルマ様の婚姻を直談判されるのですね?」

「無論だ。イセリア、そなたは私が愛する唯一無二の女性だ」

「私もですわガルマ様。義父となるグラ・ルークス陛下がお越しになるのが待ち遠しいですわ」

 

総督府のバルコニーで抱擁をかわすガルマとイセリア。その様子を皇帝グラ・ルークスに瓜二つの男性が見つめる。

 

「ガルマ様、イセリア様、そろそろお入りくださいませ。冷えますぞ」

「うむ、そんな時間であったか。ディットー殿、すまない」

「いえいえ、礼には及びませんぞ」

 

皇帝グラ・ルークスに瓜二つの男性の名はディットー。グラ・ルークスが皇太子時代に大学で出会った学友であり、あまりにも似ていたことから整形や親類関係が疑われた赤の他人である。旅行を趣味にしており、密かに日本やイギリスへ渡航した経歴を持つ。今回グラ・ルークスがニューアークに行幸するのに合わせ、ニューアークにやってきたのである。

 

「イセリア、私はディットー殿と特別な話をしなくてはならぬ。申し訳ないが、席を外して欲しい。今日の続きはベッドの上でしよう」

「!! はい!! ガルマ様!!」

 

言葉の意味を理解したイセリアは顔を赤らめながら退室する。

 

「いやはや、遂にガルマ様は外堀を埋めに行きますか」

「ああ。私はイセリア以外の女と結ばれる未来等見えぬ」

「私もガルマ様とイセリア様の婚儀には大賛成ですぞ。ニューアークだけですぞ? 帝国の理念、現地に合った統治が出来ている都市は」

「私は帝国軍人であると同時に、皇帝陛下の息子である。私利私欲の為に働く等と言った、汚ならしいことは出来ん!!」

「それでこそガルマ様です!! 日英がガルマ様を担ぎ上げる理由もよく分かります。ガルマ様は本当に真っ直ぐで、心が綺麗な御方にございます」

「しかし、ディットー殿が集めてきてくれた日本やイギリスの写真や資料には驚かされました。まさかそれほどの国であったとは・・・」

「本国では、帝国に都合の悪い情報を握り潰す輩がごまんとおりますからな。皇帝陛下でさえ、本当の情報にありつけない有り様でございます」

「そなたは本当に帝国の為に尽くす忠臣である。父グラ・ルークスに対して、学友という立場で情報を提供してくれた。しかし結果として戦争は止められなかった・・・・いや、国民感情的に止めようがなかった訳であるが、皇帝陛下は真面目に世界連合との講和を考えておられるそうだな」

「はい。ガルマ様が進めている和平交渉の内容についてはキリシア傘下の秘密警察対策で伏せておりますが、ガルマ様も講和に賛成である旨は伝えております」

「そうか。だが、仮に和平交渉が成立したとしても戦争自体は終わらぬであろうな」

「でしょうな。レギン首相はグラ・バルカス帝国人は優良人種であり、優良人種による統治こそが世界を救うと本気で思っており、また皇太子のグラ・カバル殿下もそれに賛同しております。また、レイフォリアにはエギーユ・ハゲーズ率いる武装親衛隊が派遣され、武装親衛隊の監視の為にマ・ツボマン率いる秘密警察が派遣。そして本国へ引き抜かれなかったガルマ・ドスル派の正規軍。和平交渉後は三つ巴の内戦待ったなしですな」

「だが、イギリスによる核攻撃でレギン派やキリシア派の拠点は甚大な被害を受けている。内戦になれば、日英の後ろ楯のある我々が有利であろう」

「そうではございますが、あのレギンが大人しくやられるとは思えぬのです。何か隠し球がありそうです」

「うむ・・・・万が一に備え、ニューアークでの日程が終わっても、皇帝陛下にはレイフォリアには戻らぬよう進言するか」

「いえ、違いますぞガルマ様。皇帝陛下には日程通り、レイフォリアにお戻りになるべきです」

「・・・・・何か策があるのだな?」

「はい。このディットー、皇帝陛下いや学友の為に、最後の御奉公をさせて頂きたいと思いまする」

「・・・・・聞かせよ」

「では・・・・」

 

作戦の詳細をガルマに話すディットー。二人のいる部屋は防諜対策が万全であり、グラ・バルカス帝国陸軍の制服を着たイギリス陸軍第442グラ・バルカス帝国人部隊が総督府の内外を警備する等、完璧な防護態勢である。

 

「・・・・・しかし、それでは・・・・」

「ガルマ様。私は既に齢70になりました。これからはガルマ様のような若い世代が国を率いて行かなくてはなりません。レギンの傀儡であるグラ・カバル皇太子殿下では勤まりません。ガルマ様には、新たなグラ・バルカス帝国の皇帝として、国を率いて頂きたい。その為ならばこの命、安いものです」

「だが、父上が悲しまれるだろう・・・それに兄を討つことにもなる・・・日英と和平交渉はしているが、正直カバル兄さんを討たなくて済む方法はないかと模索もしているのだ」

「ニューアーク行幸の際に私から直々にお話致します。ガルマ様はただ、帝国の未来をお考えください。日英と本気で和平交渉は出来るのはガルマ様のみなのです!! カバルのバカには不可能です!!」

「そ、そうか・・・・」

 

ディットーの熱意ある説得にしぶしぶ納得するガルマ。二人の秘密会議は終わりを告げた。ガルマは夜、約束通りイセリアとベッドの上で一夜を共に明かした。後に二人は第1子となる皇女アルテイシアを授かることになるのである。

 

「第二子はキャスバルとか言われそうな気がするのは何故だろう・・・・」

「?」

 

 

グレートブリテン及び北アイルランド連合王国

イングランド ロンドン・ヒースロー空港

 

「こ、ここがイギリスか・・・」

 

20時間以上のフライトの末に、一行は大英帝国の首都ロンドンの玄関口、ロンドン・ヒースロー空港に辿り着いた。長すぎるフライトでフラフラなイヴとアウラムを横目にニンギルスはシドニーやウェリントンとは比べ物にならない程巨大な空港施設に言葉を失う。空港に駐機する機体の尾翼には誇らしげにユニオンジャックがペイントされ、英国らしさが全面に出ている。一方で、多数駐機する機体の中には青い色をした機体や白地に赤い色で塗装された機体の姿もあった。

 

「おいお前らしっかりしろ。これから大英帝国の国家元首に謁見するのだ。無様な格好は許されんぞ」

 

フラフラなイヴとアウラムを担ぎながらニンギルスは空港内を歩く。首輪に繋がれた子竜イムドゥークが彼らの後に続く。

 

「・・・・どうやら外の世界では車は当たり前のようだな・・・」

 

一行は大英帝国側が用意したリムジンでダウニング街10番地へと向かう。すっかり車の乗り方になれた一行は慣れた手つきで乗り込んでいく。

 

「「zzzzzzzzz」」

「彼らは本当にお疲れみたいですね」

 

彼らを迎えに来た外務・英連邦・開発省の外交官、マーニー・プリチャードはウェールズ訛りの英語でニンギルスに話し掛ける。

 

「まあ、本来ならようやく10になる子供だしな・・・ただ妹イヴは巫女となる運命に、アウラムはイヴの婚約者となる運命に生まれただけだ。俺とイヴは古来より続く祭祀の杖を扱う家系、パラディオンには王はいないが実質的にはいるようなものだ」

「オーストラリアやニュージーランドから話は伺っております。彼女が持つ祭祀の杖は古の魔法帝国を封印する鍵の一つなのだとか?」

「ああ。イギリスは古の魔法帝国に強い警戒感を示していると聞くが、仮に復活した場合勝てるのか?」

「少なくない犠牲を払うことにはなるでしょう。ですが、大英帝国が勝利することは間違いありません」

「凄いな・・・・そこまで言いきれるとは・・・」

「ですが、復活しないにこしたことはありません。我が大英帝国としては、祭祀の杖を第三国に渡らぬようにしたい。されど、パラディオンから取り上げるつもりもありません」

「・・・・・何が言いたい」

 

発言の意図が分からず、疑問の表情を浮かべるニンギルス。

 

「詳しくは首相との会談の際にご提案させて頂くことになりましょう」

「そ、そうか。しかし、貴国の首都は世界の首都に相応しい活気に溢れているな」

「ほほう・・・分かりますか!!」

 

まだ日本を訪れたことのないニンギルスは、これまで訪れたシドニーやウェリントンより遥かに栄えているロンドンの街並みを世界の首都と表現する。世界の首都と言われ、イギリスの外交官は上機嫌になる。

 

「大英帝国は今や世界を動かす影響力を有する大国。これも全て聡明なる国王陛下が君臨しているからにございます」

「・・・・政を担うのは首相なのではないのか? 貴国の国王は政に関しては関わらないと聞いているが?」

「首相といえど、国王陛下から政に関する権利を与えられている臣下に過ぎません。我らの功績は国王陛下の功績に等しいのです」

「・・・・よく分からないが、そうなのか」

 

これ以上話をしても、自分の理解するところではないと悟ったニンギルスは会話を打ちきる。車は一旦、外務・英連邦・開発省の建物に入る。そこで全員の服装が整えられる。イヴは日本から輸入された高級化粧品をそこで初めて使うことになり、元々容姿端麗な彼女は更に美しい女性となった。アウラムは髪型が綺麗に整えられると共に、イギリス側が製作した、祭祀の杖を模したペンダントを首から下げる。ニンギルスは髪型を整えると共に、二人の保護者と言わんばかりのスーツ姿である(全員スーツだが)。

 

「皆様、お似合いですよ」

「・・・・・・・」

「何イヴに見惚れてるんだよニンギルス!!」

「・・・・イテッ」

「ふふっ、アウラムも兄さんもカッコいいですよ」

 

互いに身だしなみを確認した後に再度車に乗車。マスコミ関係者が待ち受けるダウニング街10番地へと向けて走り出す。

 

 

イギリス首都ロンドン

ダウニング街10番地

 

「政府関係者によりますと、間も無くパラディオン共和国からの亡命者を乗せた車両が到着するとのことです!」

 

ダウニング街10番地には各国の報道陣が集まり、各々撮影機材を首相官邸に向けていた。ニュージーランドの沖合いに突如として現れた亡命船。乗っていたのは2人の子供と1人の青年、そして1匹の子竜。ここだけ聞けば哀れな少年少女でしかないが、彼らは古の魔法帝国封印に重要な役割を持つ者達であり、更に彼らを狙って他国が侵略戦争を仕掛けている。その国が次はニュージーランドやオーストラリアを狙うかもしれない。イギリスのことを知る者達は何と命知らずの国があるのか、そんなに自殺願望があるのか、核兵器の実験場に立候補するなんて狂ってる、そう思っていた。同時に、亡命してきた少年少女の姿も気になる。わざわざ首相官邸に招いて会談を行うのだから、何かしらの重大発表があるに違いない。第三文明圏各国は勿論のこと、神聖ミリシアル帝国やムーからも報道陣が派遣されている。特に神聖ミリシアル帝国は実況生中継である。

 

「たった今、一台の車が止まりました! 中から10歳にも満たないと思われる少年少女が降りてきました!!」

 

先にアウラムが降車し、次に降りるイヴの手を引く。容姿端麗な少年少女に対して一斉にシャッターが切られる。体験したことのない光景にイヴとアウラムは混乱するが、直ぐに外交官のマーニーがフォローする。続けて少女の兄と思わしき好青年が小竜と共に降車。先に車内でマーニーから話を聞いていたニンギルスは報道陣に対して、手を振る余裕さえある。それをみて更にシャッターがきられる。やがて中から大英帝国首相キア・スターマンと外相デービット・ミラー、そして首相官邸ネズミ捕獲長のラリーが首相の配偶者ヴィクトリアに抱き抱えられながら現れる。首相と外相はイヴ、アウラム、ニンギルスの順に握手をかわす。子竜イムドゥークはネズミ捕獲長のラリーに挨拶するも、高速猫パンチを浴びせられて怯んでしまう。後にラリーの高速猫パンチの様子が一部の新聞の一面に乗ったという。彼らは一列に並び、報道陣に向き合う。大英帝国首相とパラディオン共和国亡命者。両国の会談が始まる瞬間であった。

 

(続く)

 

 

 

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