日英同盟召喚   作:東海鯰

74 / 111
艱難な過去のパラディオン

イギリス首都ロンドン

ダウニング街10番地

 

「・・・・凄い人集りだ・・・」

 

大英帝国首相キア・スターマンと会談する為に移動しているイヴら一行は首相官邸前に出来た報道陣よる人集りに驚く。全員が見たことのない機材を所持しており、容姿の整った男女が何かを喋っている。白人の報道関係者がメインであるものの、黒人のスタッフやどちらにも属さない肌の者、獣人やエルフの報道関係者の姿も見られる。

 

「パラディオン共和国にもマスコミはあるが、こんなに沢山集まることはない。余程イヴの持つ祭祀の杖が注目されているようだな・・・」

 

車は首相官邸前に停車する。

 

「じゃあイヴ、僕が先に降りるよ」

「き、気をつけてねアウラム」

 

アウラムはイヴの降車を手助けする為に先に降車する。彼が降車した瞬間に一斉にシャッターが切られ、目映い光が彼を襲う。

 

「うわっ?!」

 

経験したことのない光の量に目を瞑るアウラム。すかさず外務・英連邦・開発省の外交官マーニーが光を遮るように鞄を向ける。

 

「さあ、今のうちに降車を」

「は、はい!」

 

イヴが降車すると更にシャッターが激しくきられる。マスコミ各局の報道も加熱する。

 

「たった今、パラディオン共和国からの亡命者が降りてきました!! 若い10歳にも満たない少年少女のようです!!」

「キア・スターマン首相が出てきました! 今、少女の目線に合わせて屈み・・・固い握手を交わしました!!」

「ご覧ください!! 小さな竜の姿があります!! あ、今ネズミ捕獲長のラリーに猫パンチをされた模様です!! 竜が猫にパンチを浴びせられました!! 竜は怯んで少女の元に逃げていきます!!」

 

 

「・・・・こ、この人が大英帝国の宰相・・・」

 

イヴは中から出てきた白人の男性を見て気持ちを引き締める。すると白人の男性は、イヴの目線に合わせて屈み、握手を求める。

 

「初めまして。私は国王陛下よりグレートブリテン及び北アイルランド連合王国首相の職を賜っております、キア・スターマンと申します。この度は遥々大英帝国までお越し頂き、大変光栄です」

「あ、ありがとうございます。わ、私はパラディオン共和国第216代星杯の巫女、イヴ・カグラ・パラディオンと申します。この度は世界の中心、大英帝国の宰相とお会いできて大変嬉しく思います」

 

事前に外務・英連邦・開発省の役人が考えた文章を暗記し、そのまま読み上げるイヴ。表情はまだ固く、緊張している様子が伺える。

 

「私はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国外相のデービット・ミラーと申します。大英帝国はパラディオン共和国の皆様を全力で歓迎致しますぞ」

 

首相の隣に立つ黒人の男性がアウラムに握手を求める。やや膝を屈めながら握手を求めるミラーに対して、アウラムは背伸びをしながら握手を交わす。

 

「僕はイヴの婚約者にして守護者のアウラム・ジャックナイツ・パラディオンです。ミラー外相、本日はお会いできて本当に嬉しいです」

「ハハハ! それはありがたい! だが、無理に背伸びをしなくても良いのだぞ? アウラム君はこれから私よりも背が高くなるだろうからな!!」

「本当ですか?!」

「本当だとも!!」

「「アハハハ!!」」

 

気持ちを解そうと笑いを誘うミラー外相。アウラムは直感的に敵意はないと悟り、年相応の笑顔を見せる。此方はイヴとは対照的に表情が柔らかく、リラックスしている様子だ。

 

「やれやれ・・・・緊張し過ぎなイヴもあれだが、見ず知らずの国の人間相手にリラックスし過ぎなアウラムも如何なものか・・・」

「ガウ?」

 

対照的な二人を見守るニンギルスはイムドゥークと共にスターマン首相の妻と顔を合わせる。

 

「ガウ!」

「フシャァァァ!!」

 

挨拶をしたイムドゥークだったが、誰だよお前! と言わんばかりに高速猫パンチを浴びせられる。たまらずイムドゥークはイヴの元に逃げこむ。

 

「おいおい、竜が猫に負けるのかよ・・・やれやれだな」

 

やがて全員が一列に並び、報道陣に対しての写真撮影タイムに入る。

 

「・・・・では、皆様此方へどうぞ」

 

写真撮影が終わると、一行はスターマン首相に連れられて首相官邸の中へと招かれる。

 

「お、お邪魔します・・・」

 

一行は会議室に通される。会議室には一台のテーブルが置かれ、両国の国旗が掲げられている。

 

「わ、我が国の国旗?!」

「急いで作らせたのですよ。外交交渉の場ですから」

 

精巧に作られたパラディオン共和国の国旗に一行は大英帝国の技術力と余裕をひしひしと感じる。両国の代表者が席に座る。パラディオン共和国側は、イヴ、アウラム、ニンギルスの三人。イギリス側はキア・スターマン首相、デービット・ミラー外相、ジョン・ヒーリン国防相、その他官僚達である。

 

「この度は私達を世界の中心、大英帝国までご招待頂きありがとうございます。早速で申し訳ないのですが、此方はパラディオン共和国宰相からの最期の手紙になります」

 

イヴが懐から封をされた封筒を取り出し、スターマン首相に手渡す。

 

「開けても宜しいかな?」

「はい、お願いいたします」

 

万が一に備え、御付き者が白手袋を着用しながら封を切る。中からは宰相からの最期のメッセージを記した羊皮紙が数枚出てくる。内容は以下の通りである。

 

 

初めまして。私はパラディオン共和国最後の宰相、オルフェ・ゴールと申します。この密書を誰かが読んでいる頃には、王政時代を含め、古の魔法帝国が存在した時代から続くパラディオン共和国は侵略者の手により滅亡していることでしょう。そして、この密書を誰かが読んでいるということは、古の魔法帝国を封印する7つの秘宝一つである祭祀の杖と、杖に選ばれし一族の当代イヴの身柄も確保していることでしょう。もし、心優しき国に引き取られているのであれば、願うことはただ一つにございます。イヴから祭祀の杖を取り上げないようお願い申し上げます。祭祀の杖は、古の魔法帝国を封印すると共に、同国を現代に甦らせる力があります。もし、古の魔法帝国を復活させることを試みる輩の手に渡れば・・・・言うまでもありません。世界は滅びるでしょう。そして、もう一つ叶うのであれば・・・・イヴとアウラム、そしてニンギルスの三人のことをお頼み致します。彼らは祖国を喪い、行く宛もない流浪の民なのです。どうか・・・・お頼み致します・・・

 

 

急遽書き上げた文章なのか、所々インクが滲み、読みにくい箇所があった。無論、イギリス側はパラディオン語を解読出来ない為、パラディオン側のニンギルスが代わりに文章を読み上げた。

 

「気になることが幾つかありますので、お聞きしても宜しいかな?」

 

ジョン・ヒーリン国防相がパラディオン共和国側に尋ねる。

 

「イヴ殿が所有されている祭祀の杖。それが古の魔法帝国の封印と復活に必要な物であるというが、何かそれを証明するものはあるだろうか?」

 

魔法関係に関しては資料に乏しいイギリス側は更なる資料の提示を求める。

 

「・・・・少々魔法を使わせて頂いても宜しいですか?」

「構いませぬ」

 

ヒーリン国防相が承諾すると、イヴは自身の周りに結界を張った。正真正銘の魔法にイギリス側は驚く。

 

「け、結界!? この世界に魔法があるとは聞いていたが・・・結界を張ることが出来るのか!! まさか、古の魔法帝国は結界の中に封印されているということか?!」

「その通りです、ヒーリン国防相。祭祀の杖だけではなく、世界中に散らばっている7つの秘宝はそれぞれが古の魔法帝国を封印する鍵の役割を有しています。秘宝を管理する為に遥か昔、神により選ばれた7つの家が造られ、1ヵ所に集まらぬよう世界中に散らされた・・・パラディオンはその中の一つである・・・そう我が国の歴史書には記されています」

「7つの家・・・・それぞれの家は連携しているのか?」

「いえ。全く知りません。下手に連携すると、悪しき者に利用される可能性があると判断してそれぞれの家が出会わぬように神が記憶の一部を消して散らせたものである。そう先々代は言っておりました」

「ちなみにだが、イギリスは古の魔法帝国と戦って勝てるのか?」

 

ニンギルスが口を挟む。ヒーリン国防相は自信を持ってこう答える。

 

「我が国だけでは少なくない犠牲が出ましょう。ですが、大英帝国は同君連合のカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、そして盟友にして親友の日本国と永久同盟を結んでおります。断言しましょう。大英帝国は古の魔法帝国に勝ちます。安心して頂きたい」

 

その強い自信はどこから来るのか。そしてイギリスが盟友にして親友と呼んだ日本国とは? 疑問は尽きない。

 

「そしてもう一つ。我が国は同盟国日本国と共に、この星の世界地図を作成しているのですが、貴国の存在を認識したのはほんの数週間前でした」

 

ヒーリン国防相が二枚の地図を広げる。鮮明かつ正確に作られた世界地図にイヴらは驚く。

 

「こ、これがこの星の地図なのですか?!」

「そもそも結界の外にこんなに国があったの?!」

「結界?」

 

アウラムの発言にヒーリン国防相は疑問の表情を浮かべる。

 

「・・・・・良くは分かりませんが、数週間前までこの位置に島が存在していることを我々は確認出来ませんでした。ですが、突如として巨大な島。それも中世を彷彿とさせる都市国家が出現したのです。これは?」

「・・・・・やはり私は結界を上手く張れなかった・・・出来損ないなのね・・・」

「イヴ・・・・」

 

俯くイヴ。アウラムはイヴを慰め、背中を優しく撫でる。

 

「既に他国の侵略を受け、更に私達を助けて頂きました。故に我が国の秘密について申し上げさせて頂きます」

 

イギリス側の表情が変わる。一体何を話すのか、そしてアウラムがボソッと口にした結界とは。

 

「・・・・まず、我が国が貴国に今まで認識されなかった理由。それは結界を張り、他の人々からは見えないようにし、更に外部の者が侵入出来ないようにしていたからです」

「結界・・・・宇宙から・・・・失礼、遥か空高くからであっても見えなく出来るのですか?」

「はい。パラディオン共和国では、代々祭祀の杖の継承者が長年の修行期間を経た後に一人前の巫女として結界を張り、他国から祭祀の杖を奪われぬようにしていたのです。一人前になるまでは最低でも30年程かかります」

「ですが、見たところ貴女は10歳になるかならないかに見えますが?」

「その通りです。私は今年でようやく10になります。本来でしたら、私の姉・・・長女が次世代の巫女として修行し、母が当代の巫女として結界を張り、祖国の安寧と世界の平和、そして古の魔法帝国封印を担うはずでした。しかし・・・・」

 

イヴが悲しげな表情を浮かべる。

 

「巫女となる姉には無論巫女の守護者となる婚約者がおり、次世代の巫女として修行の日々を送っていました。ですがある日、婚約者の不倫が発覚したのです」

 

この先の結末を察したイギリス側は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「守護者の裏切りを知った長女は酷く怒り、修行を放り出して不倫中の婚約者の元を急襲しました。そこで婚約者と不倫相手を剣で滅多刺しにして殺害。その後更なる奇行に走り、社に戻った長女は次女と三女を襲撃。有無を言わさずに殺害。騒ぎを聞き付けて里の者らが集まると、皆の眼前で自らもその場で命を絶ちました。後継者の自殺並びに奇行と守護者の裏切り。それを知った当代の巫女であった母は酷く悲しみました。同時に当時まだ6つだった私が後継者に、そして幼馴染みの彼アウラムが守護者になりました。本来なら、守護者にする男性選びには長い時間と選考が必要なのですが、姉の自殺と奇行の経緯から選考する時間も余裕もないとして、私の幼馴染みの彼以外選択肢がありませんでした」

 

イヴの脳裏にはあの日の光景が過る。

 

 

4年前のパラディオン共和国

星辰の森のとある小川

 

「イヴ! 今日も楽しかったね!!」

「うん! 楽しかったよアウラム君!!」

 

この時6歳だった二人は小川で仲良く遊んでいた。近くにはイヴの兄であり、当時の巫女の長男にして第1子のニンギルスが槍を傍らに置きながら二人を見守っていた。

 

「お前ら、そろそろ帰るぞ!」

「「は~い!!」」

「・・・・こんな時間か。少々俺も遊ばせ過ぎたな・・・アウラム、今日はもう遅い。今日は俺の部屋に泊まっていけ」

「本当に?!」

「ああ。ついついお前らが仲良く遊んでいると、俺も時間を忘れてしまう。俺にも落ち度がある」

「とか言いながら、兄さんもアウラム君を帰したくないんでしょ?」

「・・・・・まあな。何れはお前を任せるんだ、修行もさせたいしな」

「ちょ、ちょっと!! まだ決まった話じゃないでしょ!!」

 

イヴがニンギルスの背中を恥ずかしそうにバシバシ叩く。アウラムは笑いながら二人と一緒に歩く。社に着くまでは変わらない日々が続く。誰もがそう思っていた。

 

「ん? 何の騒ぎだ?」

「おお! イヴ様! 御無事でしたか!!」

 

里の者らがイヴの元に集まる。直感的に何かが起きたのだと三人は悟った。

 

「どうした? 一体何があった?」

「とんでもないことが起きたのよ、ニンギルス」

「は、母上!?」

「イヴを貴方に任せてて良かったわ。じゃなかったらイヴは死んでた。アウラム君を巻き添えにね」

「ま、待ってくれ母上! 何が起きたのだ!? 何故イヴとアウラムが殺される!! 説明してくれ!!」

「・・・・・守護者が不倫をし、激怒した継承者が殺人事件を起こしたわ。守護者と不倫相手を殺害した後に次女と三女にも手を掛け、自殺したわ」

「ば、ば、バカな!?」

「ま、待ってお母様・・・・お姉様達が全員亡くなったってことは・・・・つまり・・・・」

 

イヴは今自分がどんな立場にいるのかを察し、酷く動揺した。

 

「私が・・・・パラディオン共和国の次期巫女!!」

 

この時イヴはまだ6歳。幼馴染みの男の子と仲良く遊び、10以上歳の離れた兄に可愛がられている可憐な少女である。いきなり押し付けられた継承者の地位。彼女の生活は一変することになり、今まで幼馴染みや兄と遊んでいた暮らしは過去のものとなった。そして今回の事件で心を酷く痛めたイヴとニンギルスの母親は体調を著しく悪化させ、事件の3年後に病死。結果イヴは経験不十分なまま巫女になることになり、試行錯誤しながら結界を張る日々を送ることになる。しかし、あまりにも時間がなく、経験も未熟であることから、数週間前には結界が晴れてしまい、何らかの方法で存在を認知していたクルセイリース大聖王国による侵略を受けることになったのである。

 

 

「かなり大変な人生を送られたようですな・・・」

 

話を聞いたスターマン首相は涙を流し、ユニオンジャック柄のハンカチで涙を拭う。

 

「ですが、これからの貴女方の人生は必ず良いものになります。大英帝国首相として、お約束致しましょう」

 

首相が涙を拭い、ハンカチをしまったタイミングをみはからい、ミラー外相が発言する。

 

「さて、イヴ殿が有されている祭祀の杖は本物であると分かったところで、我が国が何を提案して来るのか。それが気になるところであろう」

 

ミラー外相の発言に一同は息を飲む。自分たちは謂わば流浪の民。その気になれば祭祀の杖だけを取り上げて殺めることも可能。ミラー外相の発言に3人の視線が注がれる。

 

「我が国としては・・・・」

 

緊張するイヴ、アウラム、ニンギルス。真剣な表情を崩さぬミラー外相をじっと見つめ、一言たりとも聞きもらさまいと集中する。

 

「我が大英帝国は、他国に対して不当な侵略行為を行うクルセイリース大聖王国の行動を断固として許すことは出来ない。パラディオン共和国が完全にクルセイリース大聖王国の支配下に落ちれば、奴等は大英帝国の同盟国ニュージーランドやオーストラリア連邦に対して、侵略行為を働く可能性が高い。我が大英帝国は、法の支配の徹底、開かれた自由の海を実現する為に、パラディオン共和国をクルセイリース大聖王国から解放する為に英連邦王国軍を派遣する用意がある!!」

「「「?!」」」

 

まさかのパラディオン共和国解放の為にイギリス軍の派遣を表明。イヴらパラディオン共和国側は驚きを隠せない。

 

「無論、ただでとは言わん。1つ、パラディオン共和国は共和制を放棄し、連合王国国王を国家元首とする立憲君主制国家、英連邦パラディオン王国として再建すること。2つ、英連邦パラディオン王国に総督府を設置する。初代総督は我が大英帝国の者を置くが、民政移管が進み次第、選挙により総督を選出するものとする。大まかな内容は以上だ。細かい内容については、クルセイリースの者らを島から叩き出した後に新政府と協議するものとしたい」

 

要はイギリスの勢力圏に入れという要求。国家元首が自国の人間ではなくなるのは気になるところがあるが、だが同時にイギリス国王が治める国への攻撃はイギリスへの攻撃と同じになる。

 

「無論、イヴ殿が有されている祭祀の杖を取り上げることなど致しません。ですが、パラディオン島解放後に我が大英帝国を中心とする調査隊を派遣し、7つの秘宝について調べさせて頂きたい。我が大英帝国としては、古の魔法帝国が復活しないに越した事はなく、また可能であるのならば、結界の中に(核兵器で無慈悲に)攻撃し、そのまま滅ぼしたい。如何かな?」

「「「・・・・・」」」

 

理解が追い付かず、言葉が出ないイヴらパラディオン側。そもそもニンギルスを含めて成人していないのだ。大の大人達の話し合いについていける筈がないのだ。

 

「簡単に申し上げますと、我々は貴女方の味方です」

 

スターマン首相が笑顔で補足説明をする。その笑顔にイヴとアウラムは安心する。

 

「・・・・・パラディオンの解放については理解した。だが、イヴとアウラムの身柄をどうするか。それが決まっていないではないか!!」

 

ニンギルスは最愛の妹がどうなるのか。それが一番気がかりのようであった。

 

「大変恐縮ではありますが、我が大英帝国は貴女方の身柄を引き取るつもりはありません。貴女方の身柄は日本国が預かることになっております」

「日本国・・・・貴国の同盟国か」

「はい。我が国が引き取る話もあったのですが、貴女方と日本国の親和性が高いと判断されたのと、より安全なところに避難して頂きたいという判断でそうなりました。我が大英帝国からは、パラディオン島帰還の日まで護衛の者を付けさせて頂きます」

「そうか・・・・言葉を荒げて申し訳なかった」

 

会談は無事終了し、以下の内容で合意に至った。

 

1.グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、クルセイリース大聖王国による、パラディオン共和国侵略を断固として非難する

 

2.グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、クルセイリース大聖王国に対して、3ヶ月以内にパラディオン島より全ての軍を即刻撤退することを勧告する

 

3..パラディオン共和国は共和制を放棄し、連合王国国王が国家元首を勤める立憲君主制国家、英連邦パラディオン王国に改称する

 

4.グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、英連邦パラディオン王国の独立を承認し、対等な条件で国交を樹立する

 

5.グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、

「異世界における日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合並びに英連邦王国との相互協力及び安全保障条約」

の防衛範囲に、英連邦パラディオン王国を含むように日本国に対して交渉を行う

 

6.主権回復後速やかに正式な国交を樹立し、必要な条約を締結する

 

7.グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、英連邦パラディオン王国に対して、必要な近代化政策を支援する

 

8.グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、祭祀の杖が継承者の手元から離れることのないよう、必要な手段を取ることを確約し、これを履行する義務を負う

 

9.英連邦パラディオン王国は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国と古の魔法帝国対策で全面的に協力することを誓う

 

10.クルセイリース大聖王国がパラディオン島より撤退しない場合、英連邦王国軍は実力を以てこれを排除する。同時に英連邦王国軍はクルセイリース大聖王国追放までの期間、パラディオン島内で行われる全ての作戦行動を英連邦パラディオンは承認する

 

 

これによりイギリスは更なる利権獲得並びにニュージーランド防衛の足掛かりを得、パラディオンは国家の独立回復と祭祀の杖が悪しき者らに(ブリカスも大概だが、味方なのでセーフ)渡ることを阻止することが出来るようになった。会談後、両者は共同記者会見に臨んだ。

 

「それでは、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国首相キア・スターマン、パラディオン共和国代表イヴ・カグラ・パラディオンにより共同記者会見を行います」

 

司会役の官僚の発言を皮切りに一斉にシャッターが切られる。イヴは眩しさに目を細める。

 

「神聖ミリシアル帝国国営放送です。今回の会談では何が決まったのでしょうか?」

「今回の会談では、パラディオン島に侵攻したクルセイリース大聖王国に対して、3ヶ月以内に島から撤退するように勧告すること。拒否した場合、軍事行動を含めた必要な措置をとることをパラディオン側に提案し、受け入れて頂きました」

 

基本的にはスターマン首相が答える形で会見は進んでいく。

 

「軍を派遣ですか?!」

「まだグラ・バルカス帝国は片付いていないのに!?」

 

現在イギリスは日本国やカナダと共にグラ・バルカス帝国と戦争をしている最中である。ムーに大軍を派遣している今、新たにパラディオン島に軍を派遣すると表明したことに各国は驚く。

 

「しかし、イギリスにそんな余裕はあるのでしょうか? ムーから軍を撤退させるということでしょうか?」

「何れはムーに派遣している部隊の大半は撤退します。ですが、当面は現在本国周辺に展開している部隊や同盟国と協力し、対処する方針です」

 

実際、イギリス軍に余裕はない。元々人手不足である上にムーへの派兵や横須賀、ニュー・ホンコン、パーパルディア皇国、チャールズ諸島、オラパ諸島、マイカルに軍を駐留させ、加えてリーム王国への対応の為に沖縄県嘉手納基地や普天間基地にも追加の部隊を配置している。その為初動対応はカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの軍になるが、これは勢いに任せてパラディオン島からニュージーランドに侵攻した場合に備えての配置。3ヶ月という期間は、ムーから部隊を引き上げる為の時間稼ぎである。その穴は日本の自衛隊や内通しているグラ・ガルマの部隊が担うことになるのと、またそもそもグラ・バルカス帝国の動きが怪しいことから、万が一に備えて部隊を本国に戻したいという思惑もあった。

 

(グラ・バルカス帝国が、アメリカが第二次世界大戦でヒロシマ・ナガサキで使用した核爆弾と非常に酷似した兵器をレイフォリアに持ち込んだと思われるという話を今は口が裂けても言えぬ。不確実な情報な上に、何処に落とすのかも不明。だが、レイフォリアを敢えてがら空きにしているのだ。恐らくはそこに敵を誘い込んで・・・・だが、同時にムーへの侵攻はなくなったと考えてもよい。ならば、少しずつ兵を下げても問題はないし、プライドだけは一丁前の神聖ミリシアル帝国からすれば、ムーに我が大英帝国の軍が居座ることを良くは思わぬ。そのプライドも利用することにする)

 

「また、現在我が大英帝国はグラ・バルカス帝国側に対してあらゆる手段を用いて作戦を実行中である。何れは皆が驚くことになる。待っていてくれたまえ」

 

スターマン首相の匂わせ発言に各国の報道陣は顔を見合わせる。世界連合とは別に何かを仕掛けている。それを暴露したのである。これにはグラ・バルカス帝国側を疑心暗鬼にさせることと、神聖ミリシアル帝国に対する牽制の意味があった。

 

「我が大英帝国は、ニューアークに籠る敵を全力で足止めする。その隙に世界連合は為すべきことを為して頂く。それだけです」

 

続けて、ムーの記者が質問する。

 

「ムーのオタハイトニュースです。今回の会談で、イギリス政府は古の魔法帝国に関する情報を得たものと思われますが、何か新たに分かったことはありますでしょうか?」

「それにつきましては、機密保持の観点から回答は差し控えさせて頂きます。各国政府高官同士で必要な情報のやり取りをしたい。また、古の魔法帝国を復活させずにそのまま滅ぼせる可能性がある。それだけは言えます」

 

古の魔法帝国をそのまま滅ぼす。普通なら封印の鍵を手に入れたのだから、それを維持すればよいものをイギリスの首相は滅ぼすと言った。しかし、ムーはイギリスや同盟国日本の実力を把握しており、日英なら本当に実現しそう、そう考えた。

 

「パーパルディア皇国のエストシラントTIMESです。今回大英帝国が祭祀の杖を確保したことで、神聖ミリシアル帝国から引き渡しを要求される可能性があると考えますが、大英帝国政府としてはどのように対応されるのでしょうか?」

 

世界最強、世界の中心と信じて疑わない神聖ミリシアル帝国のことである。魔法の素質のない国が管理するよりも、魔法研究に関しては最先端を進む神聖ミリシアル帝国が管理する方が望ましいとして、引き渡しを要求するのではないか。祭祀の杖がニュージーランドに到着したことが世界に伝わった頃からそんな噂が流れていた。イギリスと神聖ミリシアル帝国の関係が悪化していることから、両国の新たな対立の火種になるのではないか。そう危惧する者もいた。

 

「祭祀の杖は私が継承者として保有する物であり、私の許可なしに引き渡しを行う権限は大英帝国政府にはありません。また、仮に神聖ミリシアル帝国政府から引き渡しを求められたとしても、それを許可するかどうかは関係者と協議をし、検討に検討を重ね、最終的に判断します。また、祭祀の杖に関する研究については、大英帝国並びに日本国が参加するG5のみが参加する方向で協議をしています。他の国々については、別途協議するとスターマン首相と合意しています」

 

ここで初めてイヴが答弁する。要は助けてくれた大英帝国並びに同盟国日本以外には原則触れさせないという方針を示した形である。その後幾つか当たり障りのない質問が行われ、記者会見は終了。この日の日程を終え、イヴらはイギリス政府が手配したホテルで一夜を明かすことになる。

 

 

日本国東京都千代田区霞ヶ関

外務省のとある一室

 

「・・・・・あの先輩、カルトアルパスの日本領事館は動物園じゃないんですよ?」

「まあまあ・・・・そう言わずに・・・・」

 

外務省から緊急の指示を受けて久々に日本に帰国したアキコ。帰国して直ぐに外務省に呼び出され、外務省のとある一室に連れられた。そこで指示されたのは・・・・

 

「パラディオン共和国からの亡命者3人をカルトアルパスの日本領事館で匿え・・・・日本国内で良くないですか?」

「いやほら、万が一クルセイリースがニュージーランド、オーストラリアを陥落させたら不味いから・・・」

「陥落しねーよ、流石にそれは両国のことを馬鹿にし過ぎですよ先輩」

 

呼び出された部屋にはアキコの先輩の女性官僚が待っていた。アキコが初めて外務省に配属された際の先生役であり、アキコのことをよく知る人物の一人である。

 

「万が一陥落したらクルセイリース如き、本国にイギリスが核ぶっぱなしてTHE ENDですよ? 近年ブリカスは核兵器使用に対するハードルが陥没しているんですから」

「いや、でも日本国内だとスパイ天国だし・・・」

「じゃあ法務省に掛け合って何とかしてください」

「皆面倒事をしたくないのよ。でもさ! アキコは親族が大企業の会長に社長でしょ? 最悪失脚しても何とかなるから!!」

「だから亡命者という面倒事を押し付けると?」

「うん」

「うんじゃねえ!! ウチは動物園じゃない!!」

「まあ、これは確定事項だから!! じゃあ、明日羽田から出る政府専用機でイギリスに飛んで貰うから!!」

「はあああ!?」

「ちなみに今、カルトアルパスの日本領事館に領事が不在になってるでしょ?」

「外務省がここに呼びつけたからね」

「結婚して退職したシンを復帰させた上で駐神聖ミリシアル帝国日本領事館副領事に抜擢することになったから、宜しくね。既に辞令は送っておいたから!!」

「ええ・・・・どんだけ人手不足なんですか?」

「みんな民間企業に行っちゃうんだもん。昨日アキコの同期が一人辞めたよ?」

「はあ・・・・分かりました・・・・やりますよ・・・・公僕ですから」

 

翌日、亡命者3人を日本に連れていく為にアキコは同行する外務省職員や自衛隊関係者と共に羽田空港を政府専用機で飛び立った。アキコはイヴ、アウラム、ニンギルスと接触した後に案内役として共に日本国内を周り、最終的にはニュー・ホンコン経由でカルトアルパスまで彼らを護送することになるのである。

 

「ニュー・ホンコンに行ったら間違いなく総督府に顔を出しに行かなきゃいけないじゃん・・・絶対ハルトが出待ちしてるじゃん・・・」

「まあまあ・・・」

 

隣に座った海上自衛隊の女性医官に宥められながらも政府専用機はロンドンに向けて飛び立った。

 

「そういえば、貴女誰?」

「まあ、そうですよね」

 

(続く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。