日英同盟召喚   作:東海鯰

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皇帝の到着

グラ・バルカス帝国レイフォル領レイフォリア港

 

「遂にレイフォリアに着いたのだな」

 

戦艦「グレート・ルークス」にて本国を出発し、駆逐艦4隻を伴いながら皇帝グラ・ルークスはレイフォリアに降り立つ。港には儀仗隊がズラリと並び、レッドカーペットが敷かれている。

 

「皇帝陛下!! 遠く離れたレイフォリアまでお越し頂き、ダラス以下一同は深く感激しております!!」

 

作り物の涙ではなく、本気の涙を流すダラス。皇帝の付き人らは、「何あれ・・・キモッ・・・・」という表情を浮かべる中、グラ・ルークスは顔色一つ変えることなくダラスと握手をかわす。

 

「本国から遠く離れたレイフォリアで奮闘するそなたらには感謝しておる。大義であるぞ」

「はは~!! 皇帝陛下の御言葉で我ら一同は更に奮起することになるでありましょう!! ささっ、此方へ!!」

 

その後、オープンカーにて皇帝グラ・ルークスを歓迎するパレードがレイフォリア市内にて執り行われる。沿道には皇帝を一目見ようと押し掛けたレイフォリア市民で埋め尽くされ、更には歓迎の音楽と躍りが披露される。

 

 

親近であられるグラ・ルークス同志の歌

 

自主の旗を高く掲げ

永遠に我等が共に進むのさ

友好! レイフォリア! ラグナ!

親近であられるグラ・ルークス

歓! 迎! グラ・ルークス

歓! 迎! グラ・ルークス

友好! レイフォリア! ラグナ!

親近であられるグラ・ルークス

 

海を越えて遠くにいようとも

いつでも心に寄り添う国

友好! レイフォリア! ラグナ!

親近であられるグラ・ルークス

歓! 迎! グラ・ルークス

歓! 迎! グラ・ルークス

友好! レイフォリア! ラグナ!

親近であられるグラ・ルークス

 

海を越えて遠くにいようとも

いつでも心に寄り添う国

友好! レイフォリア! ラグナ!

親近であられるグラ・ルークス

歓! 迎! グラ・ルークス

歓! 迎! グラ・ルークス

友好! レイフォリア! ラグナ!

親近であられるグラ・ルークス

 

以下最初からひたすら繰り返し

 

「・・・・・・・・」

 

オープンカーにて沿道に集まり、躍りや歌で歓迎で歓迎する市民に手を振るグラ・ルークス。ゴミ一つ落ちていない綺麗な都市レイフォリアだが、そこには現地人の姿はない。レイフォリアを管轄するレイフォル征統府(ニューアークは対象外)は現地のレイフォル人を、

 

「帝国の繁栄には必要のない、汚ならしい人種である。1日でも早く絶滅させなくてはならない」

 

として、積極的に絶滅政策を進めていた。郊外には効率よく現地人を殺処分する為の収容所が作られ、皇帝が滞在している今この瞬間でさえ殺処分が行われている。極一部の現地人は、グラ・ガルマ総督が統治するニューアークに向けて命懸けの民族大移動の真っ最中であり、一部はニューアークに到着。話を聞いたガルマ総督は涙を流し、彼らに対して手厚い保護と支援を約束したという。一方で、現地人の虐殺と搾取によりレイフォル征統府は帝国に対して、多額の富をもたらしており、そのもたらされた富を活用して新兵器の開発と量産が行われているのである。

 

「・・・・・・綺麗な都市だな。見た目はな」

 

皇帝はポツリとそう呟いた。夜には歓迎の晩餐会が開かれ、現地で活動する帝国の職員や兵士を労った。レギン首相から特命を命じられているハゲーズも何食わぬ顔で晩餐会に出席し、皇帝より勲章を授かっている。

 

(・・・・・レイフォリアに帰ってきた時が貴方の命日ですよ、皇帝陛下・・・・)

 

ハゲーズは心の内で皇帝を馬鹿にしながら晩餐会を楽しむ。翌日、皇帝グラ・ルークスは四男のガルマが統治するニューアークへ移動を開始。陸路にてニューアークへ向かった。

 

「・・・・・ガルマよ、元気にしておるのかの?」

 

皇帝は可愛い四男のことばかり考えながら移動する。レイフォリアとニューアークを結ぶ鉄道が開通し、彼らは専用列車でニューアークへ向かう。

 

「ニューアークから本国に届く富は僅かだそうではないか。統治に苦労しているのだろうな」

 

帝王府からは、ニューアークでは現地人による反乱が頻発しており、視察は極めて危険であるとして、視察中止が上奏されていた。しかし、我が子の顔が見たいグラ・ルークスはそれらを一蹴し、皇帝権限で視察を強行した。帝王府ではとある人物が泡を吹いて倒れ、病院へと搬送された。その人物は退院後にレギン首相に急接近し、特命の実行に必要な資材の確保に尽力しているのだが、皇帝はそんなことは知らない。まさかガルマの功績が一部の人間により握りつぶされ、何も伝えられていないということを。

 

「・・・・さて、暫し寝るとしよう」

 

グラ・ルークスはニューアークへと向かう特別列車の中で暫し眠りについた。

 

 

ムー港町マイカル

ムー海軍マイカル海軍基地

 

「・・・・・凄い数だな・・・・これが全てレイフォリアに向かうのか・・・」

 

グラ・バルカス帝国をレイフォリアから叩き出す。その為に再度結成された世界連合艦隊。既に日英の偵察衛星により、レイフォリアにはまともな部隊は残っていないことが判明している。今回は陸軍も参加しており、陸軍兵士と物資を載せた輸送船も数多く停泊している。輸送船の多くは神聖ミリシアル帝国陸軍の兵士や物資を搭載している。実は神聖ミリシアル帝国の派遣した部隊の数があまりにも多く、自国の輸送船だけでは足りず、同国は第二文明圏各国に対して、陸海空軍の派遣の代わりに輸送船を出して欲しいと要請。戦時統帥権を日英に譲渡している各国は日英の判断を仰いだ。これに対して、イギリス政府は輸送船並びに輸送艦のみの派遣であれば、要請に応えるべしと回答。日本政府も追随した。これにより、ムーを中心とした総勢150隻の輸送船団が編成され、神聖ミリシアル帝国や前回参戦しなかった第三文明圏諸国の一部が乗り込む。その中にはフィルアデス大陸条約機構加盟国も含まれているが、日英両国に派遣を止めさせる根拠も理由もない為、そのままとなっている。彼らは神聖ミリシアル帝国からの飴に釣られたのである。

 

「出港!!」

 

遂にマイカル海軍基地から艦隊が出港する。神聖ミリシアル帝国海軍を中心に、トルキア王国、アガルタ法国、パンドーラ大魔法公国、亡命レイフォル政府、その他小国の艦艇が続々と出撃する。輸送船を含めれば、700隻にも膨らむ大船団。レイフォリアに駐留するグラ・バルカス帝国軍には、彼らの上陸を妨げることは出来ない。そう、上陸を妨げることは・・・・

 

 

日英共同使用マイカル海軍基地

護衛艦「わかば」艦長室

 

「・・・・・嫌な予感しかしないな」

 

神聖ミリシアル帝国のカルトアルパスからムーのマイカルに到着し、港に停泊している護衛艦「わかば」の艦長室には、3人の若い男性自衛官が休息をとっていた。当直を除き乗員は休暇として上陸しており、久々の休暇を乗員らは謳歌していた。

 

「若葉艦長、それは何故でしょうか?」

「ヒビキで良いよ。僕と君の仲じゃないか」

「ですが艦長!」

 

慌てるように叫んだのは、ヒビキの同期入隊の三代勇気。ヒビキからはユウキと呼ばれている、日焼けした肌が特徴の体力自慢の自衛官である。彼もヒビキと共に飛び級に挑戦したのだが、学力が足らずに最終選考には行けなかった。

 

「ユウキ君は変なところで真面目だよね」

 

少々笑いながらユウキを見つめるのは、同じく同期入隊の真砂光輝。皆からはコウキと呼ばれ、ユウキとは対照的に色白な肌が特徴の頭脳派自衛官である。彼も飛び級に挑戦したのだが、体力が僅かに足りず、此方も最終選考には行けなかった。

 

「当たり前だろコウキ! 若葉艦長は俺達の同期にして誇りなんだぞ!! ぞんざいに扱えるかよ!!」

「そう言ってるけど、裏では何でヒビキ君だけが合格なんだ、俺に足りないところなんてないはずだ! とか言ってたよね」

「そ、それは言わない約束だろコウキ!!」

「やれやれ・・・・そんなこと言ってるから合格しないんだよ・・・」

 

ヒビキ、ユウキ、コウキの3人は同期入隊ということもあり、非常に仲が良い他、新人時代のルームメイトでもあり、3人で外出する程の仲である。今回新たに就役した護衛艦「わかば」では、ヒビキは艦長、ユウキは砲雷長、コウキは船務長を勤める。他の乗員も若手が多く、人手が足りない中、少しでも早く実戦経験を積ませたいという海上自衛隊の意志が読み取れる。他にはベテランの乗員は旧式の「あさぎり型」や「むらさめ型」に配属されており、回したくても回せないという事情もある。

 

「It must be tough being surrounded by two noisy men.(騒がしい男二人に囲まれて大変ですね)」

 

艦長室の扉をノックもせずに開けて入って来る女性自衛官。彼女の名前はミヅキ・クチバ。ハワイ生まれ横須賀育ちの日系アメリカ人で、現在は日本国籍を取得。父親がアメリカ海軍の原子力空母ジョージ・ワシントンの乗員であったことから、彼女も海軍軍人の道を選択。当初はアメリカ海軍に入隊するつもりであったが、横須賀の街を気に入ったことから日本国籍を取得。海上自衛隊に入隊した。ヒビキ、ユウキ、コウキとは同期であると同時に、四人は常に成績の上位を独占したことから、クアトロKと呼ばれている。彼女は今回飛び級を受験しなかったが、次回受験するつもりである。

 

「ミヅキさあ、俺が英語苦手なの分かっててそうしてるよな?」

「うん」

「うんじゃない!! あと艦長室に入るならノックして、許可を取れ! 風紀が乱れるだろ!!」

「・・・・と、万年4位の男が申しております」

「う、うるさい!!」

「「あはははは」」

 

四人は暫しの間談笑する。

 

「して、ヒビキ艦長。嫌な予感って何なんですか?」

「ミヅキも気になるのかい?」

「ヒビキ艦長の予感はよく当たるので」

「ユウキ君がカップ麺にお湯を容れた時に、そろそろ教官がユウキに説教しに来そうだな~、っていうと本当に来たりしたもんね」

「本当に若葉艦長の予感は当たるから嫌なんだよ」

 

3人の視線がヒビキに注がれる。

 

「・・・・レイフォリア、爆発するぞ」

「「「・・・・・・・・・え?」」」

「それも盛大にね。しかも広島や長崎の比じゃねえぐらいにね」

「「「ええ?!」」」

 

驚愕する3人。ヒビキは話を続ける。

 

「わざわざレイフォリアをがら空きにし、皇帝を滞在させる。普通ならあり得ない行為だ。それは分かるかな?」

「まあ、そうだな」

「皇帝が滞在するならむしろ防衛能力を強化するはずだし・・・」

「イギリスの核ミサイル攻撃で余裕がないとか?」

「確かにイギリスの核ミサイルにより、グラ・バルカス帝国は甚大な被害を受けていることは、偵察衛星の画像解析で判明している。余裕がないのは事実だろう。だが・・・・」

 

ヒビキは難しい表情を浮かべる。

 

「もし戦争目標を勝利から講和に切り替えた場合、むしろ手薄にして戦力を1ヵ所に集めさせる。そこを核兵器で丸ごと吹き飛ばし、世界連合の戦力を大幅に低下させる。世界連合は日英の支援なしでは、グラ・バルカス帝国海軍に勝つことは不可能だ。仮に突破したとしても、上陸すればレイフォリアと同じように核兵器で吹き飛ばされるかもしれない。そう思わせることができれば、世界連合はしぶしぶ講和に応じるしかない。各国共に戦争により、国が疲弊している」

「だが、神聖ミリシアル帝国が講和に応じるのか?」

「応じないなら、国自体を機能不全にすれば良いだけだ。これはカルトアルパスに立ち寄った際に、駐在武官の栄1等海佐から頂いた写真だ」

 

ミヅキはそこに映る巨大な爆撃機に驚く。

 

「B52?! いや、でも機体形状が違う・・・・でもB29でもない!!」

「・・・・・これは・・・・富嶽じゃないか!!」

「その通りだよコウキ。グラ・バルカス帝国は富嶽を運用している可能性がある。そして富嶽が作れるなら、核兵器が作れてもおかしくはない・・・」

「まさか・・・・皇帝を餌に世界連合をレイフォリアに集め、あらかじめ設置した核兵器を起爆させて吹き飛ばし、平行して富嶽で神聖ミリシアル帝国に核兵器を投下。各国の陸上戦力を壊滅させ、同時に世界連合の中心国を脱落させる・・・」

「ユウキにしては良くできたじゃないか」

「俺だってエリートなんだよ! 飛び級は落ちたけども!!」

「神聖ミリシアル帝国が壊滅したとなれば、世界連合は瓦解し、グラ・バルカス帝国に靡く国が現れてもおかしくない。そこで講和の提案を持ちかければ・・・・飲む国が続出するだろう。グラ・バルカス帝国は講和がなれば、国力を回復させ、再度宣戦布告するだろう。その時は世界連合は防げないかもしれない」

「核兵器で汚れる土地は自国の本土ではないから関係なし・・・か。もしかしたら皇帝を餌にするのは、皇帝のことが邪魔だと思う勢力の仕業だったりしてな」

「否定は出来ない。どうもニューアークのグラ・ガルマ総督によれば、皇帝グラ・ルークスは四男のグラ・ガルマを非常に可愛がり、レギン首相やグラ・カバル皇太子とは最近不仲らしい。可能なら、皇帝と四男をレイフォリアでまとめて吹き飛ばすとかあるかもしれない」

「・・・・・防衛省や外務省は今何をしているのか・・・」

「さあな。だが、日英両国の当局者が双方の省庁を頻繁に出入りしたりしてるらしい。何かしらの動きはありそうだな」

 

 

神聖ミリシアル帝国帝都ルーン・ポリス

駐神聖ミリシアル帝国日本大使館

 

「ルーン・ポリスから速やかに邦人全てを待避させるだって?!」

 

休暇から帰ってきた近藤大使は、本国からの緊急の命令に驚く。

 

「邦人の待避の為に日本政府はイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各国政府と共に、臨時のチャーター便を手配している模様です」

 

補佐役の井上は本国から届いたチャーター便に関する情報を手渡す。

 

「・・・・かなり本気だな。イギリスが何かを掴んだのか?」

「日英両国の防衛当局者の調べにより、グラ・バルカス帝国がルーン・ポリスへ大規模攻撃をする可能性が高まったとのことです。また、レイフォリアに派遣していたスパイも順次引き上げるとのことです!!」

「クソ! 一体何が起ころうとしているんだ!!」

 

日英両国は、自国や同盟国の邦人待避の為に奔走する。

 

 

アルビオン城皇帝執務室

 

「何? 日本国と英連邦王国の民が一斉にルーン・ポリスから逃げ出しているだと? どういうことだ?」

 

執務室で内閣が署名した新たな軍備拡張計画並びに国債の発行に関する法律に署名している最中の皇帝ミリシアル8世は、部下からの報告に疑問の表情を浮かべる。

 

「日英の無慈悲な攻撃により、グラ・バルカス帝国は死に体ではないのか?」

「はい。それは間違いありません」

「それに、カルトアルパス近辺には日英の艦艇が展開し、通商路を保護しているとも聞いているが? 潜水艦とやらを今日も撃沈したとも」

「間違いありません」

「では、何故ルーン・ポリスから逃げ出しているのだ?」

「日英両国の大使館に問い合わせましたところ、本国からの指示とのことです。大使館も間も無く一時的に閉鎖するとも」

「・・・・・日英は何かを掴んでいるのか?」

「分かりません。ですが、我が国は日英と軍事情報の提供に関する協定は結んでおりません。ゆえに情報の開示は難しいかと・・・」

「・・・・・一体何が起きるというのだ・・・・」

 

皇帝ミリシアル8世は日英両国の不審な動きに一抹の不安が過るが、これと言った証拠もない為、ルーン・ポリスに引き続き残ることになる。それが彼の、神聖ミリシアル帝国没落の決定打となること等知るよしもない。

 

 

グラ・バルカス帝国レイフォル領武装親衛隊特設基地

 

「真か?」

「はい。マイカルに潜入しているスパイからの情報です。昨日、マイカルより世界連合の艦隊が出撃。輸送船を含めれば700あまりにも膨らむとのことです」

「うむうむ・・・」

 

計画通り・・・という表情を浮かべるハゲーズ。

 

「ハゲーズ閣下! 敵が出撃したのは真にございますか!!」

「おお、トガーよ。丁度そなたを呼ぼうと思っていたところだ。いよいよ、諸君ら武装親衛隊の精鋭の出番が来たのだ!! 諸君らは直ちにグティーマウン爆撃機で出撃。ムーの領空を回避しながら北に大きく迂回して神聖ミリシアル帝国へ向かうのだ。奴等の首都を秘密兵器で焼き払え。出来るな?」

「ははっ!! このアルベール・トガー、帝国の勝利の為、全身全霊で任務を遂行致します!!」

「うむ! 頼むぞ!!」

 

この日の夜、レイフォリアの飛行場から1機の爆撃機が飛び立った。目標は世界の中心だった都市、神聖ミリシアル帝国の首都ルーン・ポリス。グラ・バルカス帝国が開発した秘密兵器を搭載し、爆撃機は飛行する。その飛行経路は、カルトアルパスで勤務する駐在武官、栄彰1等海佐が予想した経路と全く同じであり、潜水艦にて乗員を回収するところまで同じであった。神聖ミリシアル帝国が保有する戦闘機では、グティーマウンを撃ち落とすことは出来ない。グラ・バルカス帝国が日英の核攻撃を防げないように、神聖ミリシアル帝国もグラ・バルカス帝国による攻撃を防げないのである。約束された破滅が今、神聖ミリシアル帝国に迫りつつある。

 

 

イギリス領ニュー・ホンコン

ニュー・ホンコン総督府

 

「明日にも邦人を乗せた第一陣がニュー・ホンコンに到着・・・か。どうやらグラ・バルカス帝国の目標はルーン・ポリスみたいね」

「我が大英帝国と同盟国日本国の当局者が導きだした答え。それがルーン・ポリスだったという訳だよアオイ」

 

何故レイフォリアががら空きなのか。明らかに不自然な動きに日英両国は徹底的に原因を調査していた。衛星画像の解析や現地に派遣しているスパイ、東京やニュー・ホンコン、海外ではカルトアルパスやマイカルの領事館やルーン・ポリス、オタハイトの大使館近辺を彷徨くグラ・バルカス帝国側のスパイの摘発・拉致・拷問により様々な情報を仕入れ、多角的に分析を行っていた。そこには、カルトアルパスの駐在武官から届けられた複数の飛行経路予想もあり、G5の官僚らは徹夜で分析に当たった。その結果導きだされた答えが・・・

 

「レイフォリアは各国の地上部隊を殲滅する為の罠。皇帝はそれらを成功させる為の餌であり、あわよくば皇帝ごと消し去るつもりである・・・恐ろしいことを考えるわね」

「それだけじゃない。世界連合と和議を結ぶために神聖ミリシアル帝国の首都を爆撃するつもりみたいだ。秘密兵器・・・・まあ、核兵器でね」

 

イギリスは現地に潜り込ませたスパイや捕らえたグラ・バルカス帝国側のスパイから様々な情報を入手。分析の結果、グラ・バルカス帝国は核実験に成功しており、数発の核兵器を保有している可能性が極めて高いことが判明した。日英両国は自国に核が落とされる可能性をシミュレーション。結果、フィルアデス大陸の中立国や敵対国を制圧すれば、日英両国に核が落とされる可能性はなくなることを突き止めた。このシミュレーション結果を元に、イギリスへの敵対を鮮明にしているリーム王国への軍事侵攻が決定しており、間も無く開戦する見通しである。中立国に対しては政治的圧力をかけ、グラ・バルカス帝国に与しないことを約束させている。無論、違反すれば即座にフィルアデス大陸条約機構軍が殺気丸出しでこんにちわしに行くことになる。

 

「ただ、グラ・バルカス帝国側が放射線や放射能、核汚染に関する知識に乏しい場合、核兵器を威力の高い爆弾程度に考える可能性もあるわね」

「仮に内戦になれば、核兵器による殴り合いに成りかねないな。情報によれば、グラ・バルカス帝国国内はレギン首相とグラ・カバル皇太子の派閥、グラ・ガルマ総督とグラ・ドスル国防相、そして皇帝グラ・ルークスの派閥、そしてグラ・キリシアの派閥に分かれているらしい。今は団結しているが、何かがあれば即座に内戦に突入だ」

「現時点で核兵器を保有しているのはレギン派のみ。だけど、キリシアは配下に秘密警察を保有。近いうちにキリシア派も核兵器を持つでしょうね」

「核兵器の殴り合いによる大地の汚染・・・・こりゃあ、ほっといても自滅しそうだな・・・・」

「とは言え、我が大英帝国はガルマ派を支援する方針だから、本国から脱出するガルマ派の兵士や市民の支援をすることになるでしょうね」

「一方で神聖ミリシアル帝国はグラ・バルカス帝国本土上陸作戦を本気でやるつもりだ。レイフォリアで主力を喪ったとしてもやるだろうな」

「やらないと示しがつかないものね。既に汚染されている大地にまともな装備なしで上陸。無知とは恐ろしいわね」

 

日英両国は最悪の事態に備え、様々な準備を開始する。

 

「そう言えば、そろそろハル兄の学友がニュー・ホンコンに着く頃じゃない?」

「そう言えばそうだな。迎えに行くとするか。G5の領事館はこのニュー・ホンコン島にあるから、どのみち船かヘリコプターが必要だしな」

「じゃあヘリ出すわ。軍に出撃命令を出してくるわね」

「頼むよ」

 

30分後、ニュー・ホンコン総督府より2機のワイルドキャット AH.1が離陸。ニュー・ホンコン国際空港へ移動を開始した。ニュー・ホンコン上空一帯の航空管制はイギリス空軍が行っていることや、戦闘機のスクランブル等で発着の変更が起きることはよくある為、さしたる問題にはならないようである。

 

 

ニュー・ホンコン国際空港

空港職員用控え室

 

「・・・・・・まさかニュー・ホンコン島に送られるとかじゃないでしょうね?」

 

今回の転勤に同行する海上自衛隊の医官、未来葵1尉に問いかけるアキコ。核心を突かれた葵は困った表情を浮かべる。

 

「確かにニュー・ホンコン島にも領事館はあるけど、あれはあくまで出張所扱い。それも駐在武官用のよ。私みたいな文官が行くところじゃないんだけど?」

「でも、島ですから警備も容易ですし・・・」

「じゃあリモートワークしろと?」

「ま、まあここはイギリスですから・・・困ったことはそんなに起きないでしょうから・・・」

「・・・・・・あ、ヘリが飛んで来やがった・・・絶対アイツらが乗ってるよ・・・」

 

暫くすると、アキコとシンにとっては見馴れたイギリス人の兄妹が姿を現す。それを見てアキコは深いため息をつく。

 

「はあ~、私を島に幽閉して楽しい?」

「幽閉なんて・・・・アキコ! 僕がそんな非人道的な行いをする訳ないじゃないか!!」

「気軽に核兵器を撃ち込んだ奴に言われても説得力ないんだけど?」

「でも、ニュー・ホンコンは島だぞ? 神聖ミリシアル帝国はパラディオンの一行を狙っているんだ。カナダ領のカイシンよりも、大英帝国の永久領土であるニュー・ホンコンの方が安心安全だろう!」

「あんたら(ハルトとアオイ)のせいで安心安全じゃない」

「第一、ニュー・ホンコンって総督府と軍事基地しかないじゃない。息抜きとか一切ないじゃない。まさに監獄」

「まあね」

「まあね、じゃないのよ。第一、領事である私が出張所に幽閉されたら、どうやって仕事を回すのよ」

「・・・・・・・・まあ、どうにかなるよ」

「無責任な・・・・」

「とにもかくにも、皆をニュー・ホンコン島まで移送するから! さあ歩いて歩いて!!」

 

ハルトに無理やり駐機場まで連れていかれる一行。パラディオン側は初めて乗ることになるイギリス陸軍のヘリコプターに興味津々である。

 

「これがヘリコプターか・・・・今までの飛行機よりも小型だが、非常に緻密な造りだな・・・」

 

ニンギルスはまじまじとイギリス陸軍のヘリコプター、ワイルドキャット AH.1を見つめる。その後一行はヘリコプター2機に分乗し、ニュー・ホンコン島へ向かう。

 

「・・・・・皆様、彼方に見えますのが大英帝国の海外領土、ニュー・ホンコン島にございます。当面の間、皆様はこの島でお過ごし頂くことになります」

 

その後アオイ総督からニュー・ホンコン島に関する簡単な説明がなされた後、ヘリコプターはニュー・ホンコン島に着陸。ニュー・ホンコン守備隊の他、日本、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの駐在武官らの歓迎を受ける。

 

「そう言えばシン、ニュー・ホンコン配属の我が国の駐在武官は誰?」

「最近交代になって、航空自衛隊からの派遣らしいよ。何でもムーで無断出撃を繰り返した結果、500台以上の車両・戦車、潜水艦15隻、駆逐艦3隻、航空機30機を撃墜した化け物らしい」

「ルーデルかな?」

「あそこの二人がそうらしい」

「・・・・アンタが新しい領事か?」

 

男勝りの女性自衛官に話し掛けられるアキコ。

 

「まあ、そうだけど。貴女は?」

「オレは小栗闘子だ! 航空自衛隊のエースパイロットの小栗だ!! ニュー・ホンコン島駐在の武官兼パイロットとして配属された!! 領事館の警備は任せて貰おう!!」

「あ、どうも。同じく駐在武官の内闘也です。オグリの奴、よく暴走しますけど、悪い奴ではないんで」

 

駐在武官としてニュー・ホンコン島に派遣されて来たのは、ムーで無断出撃を繰り返した結果、グラ・バルカス帝国軍の車両・戦車を少なくとも500台、潜水艦を15隻、駆逐艦3隻、航空機30機を破壊または撃墜あるいは撃沈した化け物パイロット、オグリとウッチーであった。これ等の戦果は全てスツーカ2で挙げた戦果であり、F15Jによる戦果は含まれていない。彼らはグラ・バルカス帝国側がレイフォリアから部隊を引き揚げてしまったことや、本土上陸作戦を日英は実施しない方針であることから、破壊すべき相手がいなくなり、帰還させても問題なくなったことから、事実上の左遷部署であるニュー・ホンコンの駐在武官にさせられているのである。一応、ニュー・ホンコン島の飛行場には彼らのF15Jは配備されているので、パイロットをクビになった訳ではないが。

 

「航空自衛隊の問題児か・・・・頭が痛くなる・・・」

「相変わらずゲテモノの世話をさせられて大変だな、アキコは」

「いや、シンもそのゲテモノに入ってるけどね」

「・・・・・・・ん? オレンジ髪の美青年がいるが、あれは?」

 

あからさまに話題を変えに行くシン。ウッチーが二人に自己紹介を促す。

 

「ムー空軍より王立空軍に転籍しました、ラスティ・マッキンリー中尉です!!」

「俺はムー海軍航空隊より王立空軍に転籍した、ハイネ・オストフルス大尉だ。よろしく頼む」

「二人とも元々はムーの軍人だっけどね~、見込みがあるのとオグリが気に入った軍人なので、イギリス空軍に転籍させたんだ」

「恋愛とかじゃなくて、軍人としての目だからな!!」

 

イギリスも軍の人員不足に悩まされており、優秀な人材の確保に苦労していた。一方のムーはグラ・バルカス帝国が間も無くムー大陸から叩き出され、軍縮の必要性が生じ初めており、人員の整理が課題であった。そうなると、優秀な人材が路頭に迷うことに成りかねない。民間への再就職には限界があり、仕事をとても用意出来ない。そこで両国は、ムー側の軍縮で余剰になる軍人がイギリス軍に転籍することを可能とする協定に調印。経費はムーが3割を負担し、有事の際にはイギリスからの援軍として派遣される仕組みを整えたのである。

 

「彼らはイギリス空軍の軍人としてニュー・ホンコン島で勤務することになると同時に、根布領事やパラディオンの一行の護衛任務もこなすことになる予定だ。仲良くしてくれよ」

「・・・・・まあ、アンタらより良い子そうだし、我慢出来そうね」

 

その後、アキコらは当面の間暮らすことになる日本領事館ニュー・ホンコン島出張所に入る。出張所には、アキコやシンの他、駐在武官のオグリとウッチー、イギリス空軍のラスティとハイネ、パラディオンのイヴ、アウラム、ニンギルス、その他領事館職員10名が滞在。基本的には島の外には出れず、不自由な暮らしを送ることになる。

 

「ネットがあるだけマシだけど、ある意味イギリスが常に監視しているってことででもあるのよね」

「日本ってイギリスに信用されてないのか?」

「逆だ逆!! 信用しているからこそ、丁重に守っているのだ!!」

「ハルト、アンタは当然のように領事館に出入りしないでくれる?」

 

(続く)

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