リーム王国王都ヒルキガ
セルコ城執務室
「こ、こ、これはどういうことだ!!」
リーム王国国王バンクスは、今朝方イギリス大使館から送られた最後通牒に声を荒げる。そこには、
・我が国並びに同盟国からの情報で貴国がグラ・バルカス帝国に臣従する意志があることが判明した
・数日以内に貴国が我が国並びに同盟国の資産を凍結し、敵対行動を取ることも我々は把握している
・将来的に、貴国が親善訪問と称してグラ・バルカス帝国軍を受け入れる可能性が高く、我が国並びに同盟国の安全保障環境を著しく脅かすと共に、自由で開かれた第三文明圏に反する
・我が国は貴国に以下の内容を提案する
1.リーム王国国王は退位し、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国国王がリーム王国国王を兼務すること。なおリーム王国国王一家はオーストラリアに移住し、沙汰を待つこと
2.リーム王国は民主化し、立憲君主制国家として再編すること
3.リーム王国軍は当面の間、イギリス政府の管理下に置くこと
4.リーム総督府を設置し、当面の政治はリーム総督府を介して民主化並びにその他政策を実施すること。リーム総督はイギリス政府が決定した者を配置する
5.リーム王国は過去に他国に侵略して略奪した領土を返還すること
6.リーム王国は英連邦王国並びにコモンウェルスに加盟すること
7.リーム王国貴族の処遇については、イギリス政府が決定すること
8.ヒルキガ合意により租借している領土については、イギリスの永久領土として編入することを認めること
「こんなものを飲めるわけあるかあああ!!」
バンクスの怒りの叫びが執務室に木霊する。
「如何致しましょう・・・明日にもグラ・バルカス帝国の代表が我が国を訪問しますが・・・」
「・・・・・落ち着け落ち着け、確かグラ・バルカス帝国は神聖ミリシアル帝国を倒したのだったな?」
「はい。ムーの艦隊以外は全滅に近い被害を受けたようですが・・・」
「こうなれば本当にグラ・バルカス帝国と同盟し、イギリスなんぞ一息に滅ぼしてくれるわ!! イギリス大使館に伝えよ!! 貴様ら並びに同盟国の資産は凍結!! 大使や邦人はスパイの疑いがあるとして拘束するとな!! 軍は直ちにイギリス軍への攻撃に移れるよう、支度をせよ!!」
リーム王国国王バンクスは自棄糞になり、イギリスへの宣戦布告を決定した。宣戦布告を受け取ったイギリス大使館は直ちに本国へ報告すると共に、駐留軍に対してセルコ城攻撃を命令した。
リーム王国イギリス租借地ヒルキガ港
ヒルキガ陸軍基地
「大使館より命令! リーム王国は我が連合王国に反旗を翻すことが確定した。直ちに連合王国国王に仇なす不届き者を排除せよとのこと!!」
「よろしい。では予定通りセルコ城制圧作戦を開始する!!」
租借地のある港には、イギリス、アンティグア・バーブーダ、グレナダ、セントクリストファーネイビス、セントルシア、セントビンセントグレナディーン、フェン王国、ガハラ神国、バハマ、ベリーズ、ジャマイカ、パプアニューギニアによる総勢3000の陸軍が(イギリス軍2500、その他500)が駐留している。500の他国兵を租借地防衛に残し、イギリス軍はセルコ城に向けて進軍を開始した。戦車の配備こそないものの、エイジャックス歩兵戦闘車やフォックスハウンド歩兵機動車が配備されている。彼らはセルコ城に向けて進軍を開始した。
セルコ城前広場
「鉄の塊が此方に向かってきます!!」
「案ずるな!! 我が国のワイバーン部隊がまもなく飛来し・・・」
「た、隊長! ワイバーン部隊が!!」
ドオオオン!!
次の瞬間、リーム王国空軍のワイバーンが1騎撃ち落とされる。肉片と化したワイバーンや騎士だった物が彼らの前に落ちてくる。
ドオオオン!! ドオオオン!!
音がする度に味方の竜騎士が次々に撃ち落とされる。制空権を確保し、陸軍のセルコ城攻略を支援する為にトーパ王国のイギリス空軍基地からユーロファイタータイフーン4機が飛来。各機は搭載しているASRAAMを発射し、リーム王国空軍のワイバーンの撃墜。その様子を見ていた駐リーム王国ムー大使は、
「まるで七面鳥狩りのようだ」
と評したという。リーム王国は王都ヒルキガ上空の制空権を完全に喪い、イギリス陸軍の侵攻を止める術は残されていなかった。
「な、何かが降ってきます!!」
「・・・・・な、なんだ?!」
新たに現れた2機の戦闘機。その正体は、同じくトーパ王国のイギリス空軍基地から飛来したオーストラリア空軍のF35Cである。制空権掌握を確認した後、セルコ城前広場に陣取るリーム王国陸軍並びに近衛兵を殲滅する為にやって来たのである。
「・・・い、いかん!! 待避ー!!」
F35Cはそれぞれ、Mk84を1発ずつ投下する。元々はアメリカ製の爆弾である本装備も例外なく、日英の軍需産業により国産化され、同盟国にも提供されている。また、ムーではイギリスより購入したユーロファイタータイフーンや、国産化したJu88スツーカ2に搭載する為にマイカルにてライセンス生産が行われている。
ドオオオン!! ドオオオン!!
F35Cが投下したMk84がセルコ城前広場に展開していたリーム王国陸軍並びに近衛兵らに甚大な被害をもたらす。市民達は突然のイギリスの侵攻に驚き、皆日本製のカーテンを閉じて家の中に引きこもる。一部の者は日本製のカメラを片手にイギリス軍を撮影していたりするが、誰もリーム王国軍に加勢しようとはしない。日英の価値観が流入したリーム王国国内では、未だに絶対王政に固執する国王への支持率が低下していたのである。同時に日英の製品流入により、両国への親近感が高く、バンクスがろくでもないことをして日英を激怒させたのだろう、そう民衆は考えていたという。
「敵前衛部隊排除!!」
「歩兵戦闘車、前へ!!」
前衛部隊を壊滅させたイギリス陸軍は遂にセルコ城に突入を開始した。一方でリーム王国は他国との国境線でも危機に晒されていた。
「間も無くリーム王国との国境線に到着します!!」
「よし、これよりアルーニ王国は過去にリーム王国に奪われし土地を取り戻す!! 進めー!!」
「アルーニに遅れを取るな!! 我らも続けー!!」
またリーム王国に奪われた領土を奪還するべく、アルーニ王国を始めとする周辺諸国が出兵。彼らはイギリスによるヒルキガ侵攻に合わせる形で攻撃を開始しており、リーム王国は単独で防衛出来る力を残してはいなかったのである。
イギリス海軍フリゲート艦グラスゴー
「敵の潜水艦を発見!!」
「問答無用だ!! 撃沈せよ!!」
更に大使を乗せてリーム王国へ水上航行中であったグラ・バルカス帝国の潜水艦をイギリス海軍のフリゲート艦グラスゴーが発見。攻撃開始直前に敵潜水艦は潜航を開始した。
「敵潜水艦、急速潜航!!」
「敵の方から敵対行動とはありがたいな!! 日本の対潜ロケットを発射せよ!!」
フリゲート艦グラスゴーは、日本から輸入した07式垂直発射魚雷投射ロケットを発射した。元々対潜ロケットを保有していないイギリスは、試験を兼ねて日本から同兵器を購入。グラスゴーに配備していた。
「・・・・・ロケット、目標に命中します!!」
次の瞬間、水中で巨大な爆発音が響く。盛大に水柱が上がる。
「敵潜水艦を水葬しました!!」
「うむ!」
「リーム王国海軍がヒルキガ海軍基地に向けて移動を開始しました!!」
「迎撃する! 対水上戦闘用意!!」
イギリスにより王都の一等地から追い出され、王都からやや離れた港に拠点を置いていたリーム王国海軍100隻は、イギリス海軍に真っ正面から戦いを挑んだ。対するイギリス海軍はフリゲート艦グラスゴーと、増援として昨日到着した海上自衛隊のイージス艦こんごうの2隻。数の上ではリーム王国海軍が圧倒的に上回っていた。しかし・・・・
「粉砕! 玉砕! 大喝采!!」
近代的な水上艦艇2隻とスペインの無敵艦隊時代の艦艇100隻では勝負にすらならない。圧倒的射程圏外から一方的に砲弾の雨を日英連合艦隊はリーム王国海軍に浴びせていく。
「敵水上艦艇、全滅!!」
「制海権、制空権共に掌握しました!!」
リーム王国は制海権、制空権を完全に喪失。周辺諸国は国境線を越え、国境警備隊と交戦中。国境警備隊は本部に増援を求めるも、本部から逆に増援を求められる始末であった。
セルコ城執務室
「イギリス軍が城内に侵入! 近衛兵が戦闘中です!!」
「海軍全滅!! 制海権を喪いました!!」
「周辺国が国境線を越えました! 我が国に味方する国はありません!!」
部下から届くのは悲報ばかり。バンクスは怒り狂い、頭を机に何度も叩きつける。
「クソガ! クソ!! クソー!!」
「へ、陛下!!」
「うるさい! うるさーい!!」
涙を流し、完全に狂ってしまったリーム王国国王バンクス。やがて執務室にイギリス軍が雪崩れ込む。兵士はL85の銃口を向け、投降を促す。国王バンクスの臣下達が素直に両手を挙げて投降の意思を示す中、バンクスは往生際が悪かった。
「お前らが、お前らがいけないのだぞ!!」
日本製のガラスの灰皿を投げつけるバンクス。兵士の一人の顔面に当たり、彼を負傷させる。しかし、それがバンクスにとって命取りであった。
「・・・・・A foolish king.(愚かな国王だ)」
他の兵士が一斉にバンクスに向け発砲。蜂の巣にされたバンクスはその場で命を落とした。その場にいたリーム王国宰相はイギリス軍に対して降伏を申し入れた。翌日、リーム王国はイギリスに降伏。同国はイギリス国王を国家元首とする英連邦王国の一部に組み込まれ、立憲君主制国家としての道を歩み始めることになるが、同時にバンクスの弟バンカスを中心とするリーム王国亡命政府が神聖ミリシアル帝国に誕生。神聖ミリシアル帝国に大使として赴任していた彼は、イギリスによる今回の行動を大英帝国による世界征服の一環であると訴え、国際的な支持を求めた。しかし、イギリスとの関係悪化を懸念した皇帝ミリシアル8世は政府に対し、バンカスの国外追放を指示。元々バンカスは神聖ミリシアル帝国内で外交官特権を濫用しており、評判が悪かったのである。その濫用ぶりはイギリスの大使から、
「まるでソビエトロシアの大使館のようだ」
と言われる程であり、それらを理由に神聖ミリシアル帝国政府は、バンカス大使の追放を決定。バンカスは抵抗したものの、本国へと強制送還された。その後彼はヒルキガにてイギリス軍に拘束され、遥か彼方のカナダへ送られることになる。
「ん? ワシの話し相手か?」
送られた先はかつてのパーパルディア皇国皇帝ルディアスの住まいであり、死を迎えるその日までルディアスの話し相手として、カナダで毎日を過ごすことになる。
「バンカスよ、命があるだけ感謝するべきであるぞ」
「ぐぬぬ・・・・」
「あのオーロラを見よ。カナダは美しい国だ。まさに北国の自由な国である!! ピザにパイナップルは邪道であるぞ!!」
「完全にカナダ人になってやがる・・・・」
イギリス領ニュー・ホンコン
日本領事館ニュー・ホンコン島出張所
「リーム王国も崩壊。これで第三文明圏は安泰だな」
カナダ領カイシンにある日本領事館から届いた新聞を読んだシンがそう呟く。
「次にブリカスの生け贄になるのはどこかしらね? クルセイリース?」
「順当に行けばそうなるよな。ニュージーランドにパラディオンの一行が着いたことは把握しているだろうし、ニュージーランドに恫喝しに行くだろうな」
「ブリカスに恫喝とか、自殺願望ありすぎじゃない? この世界」
心底呆れた表情のアキコ。彼女の手には、領事館への指示を伝える文書が握られている。
「アキコは仕事熱心だな。正直ニュー・ホンコンはイギリス領なんだし、厄介事なんてないだろ。カナダ側の領事館に仕事丸投げで良くね? たまにはサボって休まないと過労死するぞ?」
「仕事してないと逆に身体がおかしくなるのよ。外務省がブラック過ぎて・・・」
そう言いながらパソコンに向かって仕事を続けるアキコ。カナダ側のカイシンにある領事館からは様々な案件が飛び込んでおり、彼女はそれを的確に処理していく。
「ナニコレ? 神聖ミリシアル帝国がニュー・ホンコン島上陸を求めてる? 門前払いしとけよこんなの。許可される訳ないだろバカ!!」
「外交官特権でイヴちゃんとアウラム君に接触しようとしてるね~」
「もし上陸して来たらこの俺ニンギルスが始末する。安心してくれ」
「いや、アンタは本気で始末しそうだから逆に安心出来ない。本当に始末したら外交問題よ。あと槍をしまえ。危ないのよ」
「しかし、ニュー・ホンコン島は退屈だな。基本的には軍事基地しかなく、本当にニュー・ホンコン一帯を管理するためだけの島だ」
「ニュー・ホンコン総督府にはテニスコートとか、プライベートビーチがあるらしいけど、あのブリカス兄妹の世話になりたくないから行けないのよね」
「それに、下手に領事館を出れば愛する妹イヴを危険に晒しかねんしな」
「ちなみにイヴちゃんは何してるの? 退屈してない?」
「それがシン殿、むしろ修行が捗ると言っていたぞ。考えてみればニュー・ホンコン島に来るまで本当にせわしなく、巫女としての修行が出来ていなかった。今は自室で当代の巫女として、修行の日々を送っている。周囲を海、島はイギリス軍、対岸はカナダ、オーストラリア、ニュージーランド軍に守られたこの島はまさに安全地帯だ。安心して修行が出来るみたいだ。守護者アウラムも同じく修行中だ。退屈なのは俺だけだ」
「・・・・・なんかすまないねえ・・・・せっかくニュー・ホンコンまで来て貰ったのに監禁生活で」
「致し方ないだろう。巫女と守護者は本来、その生涯を祖国に捧げる。しかもイヴとアウラムは修行を始めたばかりのタイミングでの継承だった。祖国に帰っても監禁生活みたいなもの。むしろ、ここは冷暖房完備、食事もあり、病に罹れば医師の診察も受けられる。天国みたいなものだ」
「いや、ニンギルスアンタは違うでしょ」
「イヴが無事なら俺はそれで良い」
「・・・・・・・(シスコンか!)」
ニュー・ホンコン島
イギリス空軍基地
「以上で今日の訓練は終わりだ! 学んだことを忘れたら承知しねえからな!!」
鬼教官と化したオグリにより、この日もラスティはヘロヘロになっていた。対するハイネは教官役がウッチーの為、ノビノビと訓練をしている。
「は・・・・・はひ~・・・・」
「今日もぼこぼこにしごかれたのか? お疲れ様だな」
「お、オストフルス大尉・・・」
「だ~か~ら、ハ~イ~ネ。肩苦しい肩書きなんか良いから。同じイギリス空軍の戦闘機乗りじゃないか」
「いや、でも俺は中尉で貴方は大尉じゃないですか・・・・」
「良いの良いの。そうやって階級呼びするの、めんどくさいし」
二人は日本領事館へと戻る。彼らは日本領事館の中に私室を与えられており、緊急時には銃を手に取り侵入者と戦うことも任務となっている。
「ん? ハイネにラスティじゃない。今日も問題児から虐められたの?」
領事館の廊下で二人はアキコとばったり出会う。
「これはこれは・・・・日本国の領事様は問題児に囲まれて大変らしいですね」
「オストフルス大尉、それは嫌味かしら?」
アキコとハイネが睨み会う。ラスティは慌てて二人の間を取り持とうとする。
「け、喧嘩は止めてください二人とも!!」
「・・・・・・・・・あまり無理をするんじゃないわよ。生きて帰らなきゃ、何の意味もないのだから・・・ね」
そう言うとアキコはそのまま立ち去って行った。
「・・・・・・・・何が言いたかったのでしょうか?」
「さあな? だが悪気は全くないんだよなあ、あれ。伴侶のシンとやらに聞いてみたんだが、俺らの名前を聞くと呆気なく戦死して退場しそうな感じがするらしいぜ」
「う~ん? 心当たりはないんだけどな~?」
「・・・・・・たぶん・・・・アレ・・・・だな」
「アレ? アレって何ですか? オストフルス大尉?」
「俺の妻もアレの時は相当機嫌が悪くてねえ・・・・日本の領事様もそうなんだろうな」
「?」
ハイネの言っている意味が分からず、?の表情のラスティ。
「お? 小栗2等空佐お気に入りのラスティじゃないか。こんなところで遊んでて良いのか?」
続けてシンがトイレから出てくる。
「お、お気に入りですか?! 俺毎日殺されそうになってますよ!? 今日なんか飛行訓練中にエンジンを一瞬停止しやがりましたからね!! 死ぬかと思いましたよ!!」
「流石はエースパイロットじゃん」
「いや、怖かったっすよ!! 笑顔で、人呼んでオグリスペシャル!! とか言って訓練中にエンジンを止めて減速するんすよ!? 墜落するかと思いましたよ!!」
「あ~あ、俺さあカルトアルパスにいたんだけどさ、領事館でその解説読んだわ。わざと減速することでミサイルの誘導を切るらしいよ?」
「失敗したら死にますよ?!」
「でも死んでないから今があるし」
「シンさんからも小栗2等空佐に何か言ってくださいよ!」
「僕は軍人じゃないから、無理だね!!」
「じゃあアキコさんにお願いして下さいよ!! このままじゃ本当に死んじゃいますよ!!」
「あのアキコが手を焼いてるんだぞ? 無理だろ」
「そんなあ~!!」
「じゃあ、僕は愛しのアキコの手伝いで忙しいんでね。今日は徹夜させられるんだ。全く、仕事好き過ぎて困るってもんだ」
シンはそのまま立ち去っていく。
「・・・・・オストフルス大尉」
「ハイネ!」
「本当に俺、死んじゃうんすか?」
「死なないだろ」
「だって、毎日毎日小栗2等空佐からしごかれてるんすよ? 俺のことが嫌いなんじゃ・・・・」
「ん~? それは違うんじゃないかな~?」
風呂上がりの為にラフな格好をしているウッチーが現れる。
「う、内2等空佐殿!!」
「ウッチーで良いよ。ハイネにはそう呼ばせてるし。廊下で立ち話なんてあれだし、俺の部屋にでも来いよ」
「は、はい!!」
「肩苦しい奴だなあ、ラスティは」
「全くだな」
ニュー・ホンコン島日本領事館出張所
ウッチーの部屋
「へえ~! ラスティは訓練中にオグリスペシャルをやられたのか!!」
「笑い話じゃないっすよ!!」
「大丈夫大丈夫。俺も何回かやられたことあるけど、生還してるし」
「失敗した時のリスクと釣り合ってないっす!!」
「失敗したら脱出すれば良いから」
「修羅場潜りすぎっす!!」
笑うウッチーと真面目な顔のラスティ。二人の対比を見て楽しむハイネ。男3人の談笑が部屋に響く。
「内2等空佐、俺・・・・小栗2等空佐に嫌われてるんでしょうか・・・」
「ん? 何でそう思うん? そんなことないと思うけどな~?」
「だって、毎日のように厳しく指導されるんです。褒められたことなんて一度もないです。俺は駄目なヤツだから嫌われてるんじゃないかなって・・・・」
真剣に悩むラスティ。しかし、ウッチーは笑ったままである。
「あはははは!! 本当にラスティ、お前は真面目だよ真面目!!」
「な、何で笑うんですか!! 同僚のパワハラですよ!!」
「知らねえのか? だって、オグリはお前のことが好きだからビシバシ指導してるんだぜ? 嫌いなヤツとか、興味ないヤツには指導書だけ渡してあとは勝手にやれで放置なんだぜ?」
「え?」
そうなの?!という表情のラスティ。
「で、でも小栗2等空佐は今まで内2等空佐と一緒にいたじゃないですか!! 俺はお二人が恋仲なのだと・・・」
「「だははははは!!」」
腹を抱えて大爆笑するウッチーとハイネ。
「そうか! ラスティには教えてなかったもんな!! オグリは俺の双子の姉なんだぜ!!」
「・・・・・ええ??!!」
「ちょっとうっさいんだけど?」
ノックもせずに当たり前のように殴り込んでくるオグリ。
「オグリ聞いたか? ラスティのヤツ、俺とお前が恋仲だと思ってたんだってよ!!」
「・・・・・・は? ラスティ、あんた・・・そういうタイプだったの? 引くわー」
「違います違います!! 誤解です!!」
「顔が紅いぞラスティ。実はお前さん、オグリのことが好きなんだろ?」
「か、からかわないで下さい!! オストフルス大尉!!」
この日は深夜までパイロットらによる談笑が続いたという。
領事執務室
「やれやれ・・・・・まだまだ寝れそうにないわね」
「アキコさあ~、最近イライラしてない? ハイネやラスティにキツく当たりすぎだよ」
「・・・・・・・」
「ねえアキコ! アキコったら!!」
「・・・・・・・」
明らかにイライラしているアキコ。シンは無理やりパソコンから彼女を引き離し、近くのソファーに押し倒す。
「ちょ、ちょっとシン!!」
「アキコさあ! たまには僕のことを頼りにしてくれたって良いじゃん!! 全部自分一人で抱え込まないでくれよ!!」
シンは昔よりやや膨らんでいるアキコの腹を撫でる。
「・・・・・始まってるんだろ? それでイライラしてるんだろ?」
「・・・・・・・」
無言で頷くアキコ。
「医官の葵に聞いたんだよ。アキコが最近明らかにイライラしてるけど、何でかって。君は僕の子を身籠っているんだろ? ならゆっくり休んでて欲しいんだよ!!」
「・・・・・・・シンの癖に・・・・」
「僕だって男だ。愛しの妻を思いやることくらい出来るさ」
「・・・・・・・・」
「さあ、今日はもう休んでくれよ。それと、暫くはパソコンを触らず、君と僕の子のことを考えて生活してくれよ。領事館のことは分担して何とかするからさ」
「・・・・・・・・」
彼女は本当に能力が高かった。しかし、あまりにも優秀過ぎるが故に、周りが付いていけず、最終的には彼女だけが仕事を抱え込んでしまう。しかし、それをこなせてしまう為に気付かない。自分の身体が既にボロボロなこと、そして彼女自身のことを気遣ってくれる身近な存在のことを。
「・・・・・・何時もは私に守られて泣きべそをかいてたクソガキも、成長したじゃない」
疲れが急に来たのか、シンの手を借りなければ起き上がれないアキコ。
「さあ、今日は風呂に入って寝よう。な?」
この日から約1ヶ月間、アキコは出張所にて静養することになり、その間シンが業務を代行することになる。
「・・・・・という訳で彼女を仕事から切り離すことに成功したよ」
「それは良かったです」
「やれやれ・・・・アキコは何でもかんでも自分だけで解決しようとするから・・・・」
「でも、それだけシンさんのことを可愛がってるんだって、ケントが言ってましたよ」
「・・・・・葵お前、ケントの妻なのか?」
「はい!」
「・・・・・こりゃあ、ヒロシが泣くだろうなあ・・・・」
クルセイリース大聖王国聖都セイダー
聖城テンジー城軍王執務室
「何だと?! イギリスが我が国に対して、パラディオン島からの撤退を要求しただと?!」
軍王ミネートは部下からの報告に声を荒げる。
「はい。もし拒否するのであれば、実力を以て排除するとも」
「ぬう・・・・パラディオン島では現地人による反乱が頻発し、支出が止まらぬ・・・・しかもジュウジ様よりニュージーランドへの侵攻については許可が下りぬ・・・・」
「また、最近の反乱では明らかに我軍より優れた銃火器を使用する反乱軍も現れはじめています。此方は、パラディオン島に駐留する部隊が鹵獲した銃火器になります」
ミネートは部下から一丁のアサルトライフルを受けとる。
「なんだこれは?」
「捕らえた反乱軍の兵士によれば、L85と言うイギリス製の小銃とのことです。奴等はこのイギリス製の小銃で武装し、我軍の小銃とは比べ物にならぬ密度で射撃して来るのです」
「ば、バカな!! 我軍より優れた銃火器があってたまるか!! とにもかくにも情報を集めよ!! ニュージーランド侵攻は中断だ!!」
クルセイリース大聖王国属領パラディオン
北部の森林地帯
「・・・・・・間も無く合流地点だな」
パラディオン島解放戦線の兵士は北の海を見つめる。この日、イギリスからの支援物資が潜水艦により輸送されてくるのである。
「・・・・来ました! 浮上して来ます!!」
海中から大きな鉄の鯨が姿を現す。ミカドアイHDが保有する輸送用原子力潜水艦「カズタカ」がニュージーランドより、イギリスからの支援物資を載せて到着したのである。
「しかし、わが社が原子力潜水艦を保有することになるとはな・・・・」
浮上した原子力潜水艦の艦橋でため息をつく能登川。ミカドアイHDは全世界に自社の勢力圏を構築するべく、輸送用原子力潜水艦の導入を提唱。これに世界に紛争の火種をばら蒔いて世界を支配したいイギリス政府が乗っかり、民間企業初の原子力潜水艦が誕生したのである。イギリス政府は今回のパラディオン島解放戦線に対する武器支援として、ミカドアイHDに原子力潜水艦の派遣を要請している。
「物資を速やかに降ろした後にニュージーランドに帰還する。周囲の警戒を怠るなよ」
パラディオン島には、続々とイギリスからの支援物資が揚陸されていく。
「これがイギリスのアサルトライフルという武器か・・・」
「これがジャベリンという対戦車ミサイルか・・・強そうだな」
イギリス政府は、ニュージーランドに部隊が集結するまでの時間稼ぎとして、パラディオン島に武器弾薬を送り、抵抗勢力を支援。後にニュージーランドへの侵攻がなくなったと判明すると、オーストラリアとニュージーランドが陸軍を、イギリスとカナダが海軍と空軍を派遣し、パラディオン島は半年後に解放されることになるのである。
「それまでは我々の仕事だ。休む暇はないぞ。直ぐにニュージーランドに帰還する!! 急速潜航だ!!」
(続く)