日英同盟召喚   作:東海鯰

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争いの予感

グラ・バルカス帝国領レイフォル

ニューアーク市内ニューアーク中央駅

 

「陛下、列車は定刻通りにニューアーク中央駅に到着致しました」

 

御付きの者が皇帝グラ・ルークスを起こす。

 

「うむ。しかし、反乱が頻発している割には定刻通りに運行出来るものだな」

「おそらくは、ガルマ様が張り切ったのでありましょう」

「そうであろうな。やはりヤツは可愛い息子じゃ。亡き正妻の面影が残っておる」

 

車内で身だしなみを整えるグラ・ルークス。御付きの者らが最終チェックを行い、客車のデッキへと向かう。

 

「・・・・・・律儀なヤツじゃ」

 

客車の扉が開き、事前に敷かれたレッドカーペットの上に皇帝グラ・ルークスが降り立つ。レッドカーペットの両端にはニューアーク中央駅の駅員がズラリと並び、一子乱れることなく敬礼する。

 

「皇帝陛下、よくぞニューアークにお越し下さいました。私はニューアーク中央駅駅長のパラワニクスです」

「うむ。出迎えご苦労! 大義である!!」

 

駅長が出迎える中、集まっていた報道陣によりシャッターが切られる。集まっているのは基本的にグラ・バルカス政府系の報道機関であり、僅かにニューアークに拠点を置くジャーナリストがいるぐらいである。

 

「ん? 駅長、ニューアーク中央駅は現地人を雇用しているのか?」

 

出迎えた駅員の中に明らかにグラ・バルカス帝国人ではない人種が混ざっていることを指摘するグラ・ルークス。

 

「はい。ニューアーク総督、グラ・ガルマ大佐は我々グラ・バルカス帝国人と現地のレイフォル人は共に皇帝陛下の臣民である。皇帝陛下の臣民に不当に差を付けたり、弾圧することはあってはならない。共に帝国の為に働ける社会を作る。他の支配地がどうであるかは全く関係ない。私、グラ・ガルマが総督である限りは、レイフォル人に対する差別は例え重役であっても死罪である! と申されました。我々も最初は何も知らない若僧と蔑んでおりましたが、今となっては恥ずかしい限りであります。必ずや陛下もガルマ様の功績をお認めになるでありましょう」

 

駅長からガルマが善政を敷いているという趣旨の発言を聞いたグラ・ルークス。

 

「・・・・・・そ、そうか。ガルマも大したものだな(アレ? 報告書と違うが・・・・)」

「では陛下、此方へ」

「あ、ああ・・・」

 

駅長に促され、グラ・ルークスは駅前広場へと移動する。ここから総督府までは巨大な一本道であり、この日はガルマと共に総督府までオープンカーで移動する予定である。

 

「父上! お待ちしておりました!!」

 

駅前広場ではガルマが幹部らと共に父であるグラ・ルークスを出迎えた。変わらぬ笑顔に皇帝も笑顔を見せた。

 

「おお! ガルマよ!! 息災であったか!! うむうむ!! やはりそなたには亡き正妻の面影が残っておる!!」

 

グラ・バルカス帝国皇帝グラ・ルークスの妻は帝国1の美女と誰もが呼んだ美貌と帝国1の内面を持つと呼ばれた穏やかな性格の持ち主であった。彼女が長男グラ・カバルと四男グラ・ガルマを産んだのであるが、長男は父親似、四男は母親似だったのである。皇位継承権は長男にある一方で、グラ・ルークスは末っ子であり妻の忘れ形見である四男をひどく可愛がった。可愛さのあまりにわざわざ彼の為の支配地としてニューアークをあてがい、彼の為の戦艦として「グレート・ガルマ」を与えたのである。

 

「父上、是非とも紹介したい方がおります」

 

事実上の妻であるイセリアを招き寄せるガルマ。

 

「彼女はイセリア。ニューアーク前市長の娘であると同時に、私の妻に相応しい女性です。レイフォル人ではありますが、帝国の為に尽くすと誓っております。どうか、結婚を認めては頂けませぬか!!」

「・・・・・・??」

 

一瞬頭が真っ白になるグラ・ルークス。

 

(ガルマに恋仲の女性だと?! バカな!! 報告書には、ガルマは軍人として、行政官としての勤めに忙しく、女を侍らせる余裕はなく、また女には興味がなく、男色を極めているとあったはず!! 全く内容が違うではないか!!)

 

この時皇帝は混乱していた。

 

(まさか・・・・あの報告書はガルマを陥れる為の嘘偽りということか!! 一体誰がそんなことを・・・・・)

 

「ち、父上?」

 

(帝王府が報告書を改竄したということか?! まさか、皇太子カバルも関わっているのではないか?! そしてガルマを何らかの罪で殺すつもりなのか?!)

 

どんどん悪い方に妄想が膨らんでいくグラ・ルークス。実際は帝王府の一部の人間の私利私欲の為に(兵器の水増し発注)都合の良いように改竄していただけなのだが、知るよしもない。

 

「・・・・陛下、ガルマ様が困っておられます・・・」

 

見かねた皇帝の付き人がグラ・ルークスに話し掛ける。我に帰ったグラ・ルークスは慌ててガルマの顔を見て話をする。

 

「・・・・はっ! が、ガルマよ!! ええと・・・・何の話をしていたのであったか? 最近物忘れが酷くて敵わぬのだ」

「私とイセリアの婚儀のお願いであります」

「ほほう・・・・」

「・・・・っ!」

 

イセリアのことをまじまじと見つめるグラ・ルークス。値踏みされていることを悟った彼女は一瞬たじろく。

 

「うむ! 良きおなごではないか!! やはりガルマはワシの息子じゃ。好みのおなごも似ておる!!」

 

グラ・ルークスはイセリアにかつての正妻の面影を感じた。そして長らく正妻のいなかったガルマが皇帝と同じ好みを持っているこれに満足したグラ・ルークスはガルマに対して、婚儀を認めることを決めた。

 

「正式な決定はまだ出来ぬが、ワシはガルマとそなたの婚儀を認めるつもりだ。ガルマのことをよろしく頼むぞ!!」

「「!!」」

 

遂に恋が実り、二人は感激の表情を浮かべる。やがて彼らはオープンカーに乗り、駅前通りをゆっくりと行進する。

 

「皇帝陛下バンザーイ!!」

「ガルマ様ー!!」

「グラ・バルカス帝国、バンザーイ!!」

「グラ・バルカス帝国に栄光あれー!!」

「グラ・ガルマ総督、バンザーイ!!」

 

駅前通りでは、グラ・バルカス帝国旗を振る市民が皇帝を出迎えた。レイフォリアではグラ・バルカス帝国人しかいなかったが、ニューアークでは現地のレイフォル人も多数・・・・というよりも、半分以上はレイフォル人が皇帝を出迎えていた。それも作られた演出ではなく、心から皇帝を、帝国を歓迎する市民ばかりであった。

 

「報告書は当てにはならぬな・・・・この市民の表情を見れば分かる」

 

ガルマやイセリアには聞こえぬように呟くグラ・ルークス。

 

「帰国したら、帝王府にガサ入れをせねばならぬ。重要な情報がねじ曲げられている可能性が高い」

「如何されましたか? 父上?」

「いや、何でもない。本土にいる皇太子カバルのことを考えていただけだ」

「カバル兄さん・・・ですか。息災ですか?」

「ああ。相変わらず頭は良くないがな」

「かくいう私も頭は良くありませんよ、父上」

 

市民に手を振りながらオープンカーはやがてニューアーク総督府に到着する。

 

「・・・・・さて、ガルマと何を話せば良いのか・・・ガルマの気持ちや本当の仕事ぶりを聞くべきではあろうがな」

 

そんな父グラ・ルークスを見てガルマも異変に気付く

 

「・・・・・父上があんなに難しい表情を・・・・帝国本土では何か黒い計画でも起きているのだろうな・・・」

 

互いに何かを感じながら総督府へと入る。ガルマの道案内により、総督府の内部についての説明を受ける。

 

「此方が普段私が執務に使う部屋になります」

「ほほう・・・・かなりの書類の束が積みあがっているな・・・」

「お恥ずかしながら、人手が足りず、中々手のつかない内容もあるのです。優先度を見て、可能な限り速やかに対処はしているのですが、予算も限られておりますので・・・」

「・・・・・その限られた予算は何に使っておるのだ?」

 

半ばガルマを試すかのように問うグラ・ルークス。

 

「レイフォリアの連中が聞いたら笑うかもしれませんが、ニューアーク市民の生活改善の為に使っております」

「ほう! 具体的には何をしたのだ? 是非とも聞きたい」

 

占領地の民に対して施しをする統治者はグラ・バルカス帝国では極めて稀であり、ほとんどの者は私利私欲に走る。結果として占領地は荒廃し、搾取が繰り返され、最終的にはグラ・バルカス帝国人の入植地となっている。だが、ニューアークでは違うのである。

 

「まずはニューアーク市内全域を回り、課題点の洗い出しに努めました。ニューアークはレイフォルでは第2の都市である一方で、首都であったレイフォリアからは半ば見下された都市でもあったようです。その為、ニューアーク市民はレイフォリア市民に対して、対抗心を抱いていることが分かりました」

 

日本で言う、東京と大阪のような関係がレイフォリアとニューアークの関係であった。ガルマは東京と大阪の話は知らないが、対抗心を利用することが出来れば、統治がしやすくなると考えた。

 

「まずはニューアーク市民の心に訴え、私を筆頭にニューアーク総督府への期待を集めることから始めました。キャッチフレーズは、ニューアークをレイフォルで一番にしよう、であります」

 

常に首都であるレイフォリアに差をつけられ続けていたニューアーク。ほぼ無傷で占領されたニューアークに対して、レイフォリアは壊滅していた。市民の中には、グラ・バルカス帝国はニューアークの為にレイフォリアを焼き払ったのだと勘違いする者までいた。それ程に対抗心は強かったのだ。

 

「私は続けてこう訴えました。現在、ニューアークは間違いなくレイフォルで一番の都市である。だが、一番という今の立場で胡座をかいていては、簡単に一番から転落するであろう。ニューアーク総督府は、私グラ・ガルマは、ニューアークを更に発展させ、名実共に一番にする為にやって来たのだ!! しかし、私だけでは一番に出来ない。帝国本土からやって来た者と新たに帝国に加わる者が共に力を合わせ、差別のない社会を作ることが必要だ!! 私の為ではなく、ニューアークの為に皆の力を貸して欲しい!! そして共に進もう!! 新たなニューアークへ!! 新たな帝国へ!! ・・・・と」

 

父である皇帝グラ・ルークス譲りの演説力をガルマは発揮し、一瞬にして帝国軍兵士は無論、現地人の心でさえ鷲掴みにしてしまった。それに加えて母譲りの容姿と美貌、更に皇帝の四男というお坊っちゃん属性。全てが噛み合った結果であった。

 

「無論、演説だけでは民の心は掴めません。まずは混乱している市内の治安維持に努めました。その時に、ニューアーク市内を管轄していた、レイフォル警察の関係者を呼び寄せたのです」

 

 

統治を開始して5日後のニューアーク総督府

 

「・・・・・と言うよう担当区域を分割して治安維持に当たっておりました」

「また、路地裏が多いため、死番という制度を設け、担当となった者は躊躇なく路地裏に突撃するよう訓練を行っていました」

「隊員は皆剣術に秀でており、路地裏での刀による斬りあいでしたらグラ・バルカス帝国軍に負けぬ自信がございます」

「ですが、元々予算がなく、銃火器に関する訓練が出来なかったが故でもあります・・・・」

 

ガルマはニューアーク市内を管轄するレイフォル警察ニューアーク支部の幹部を総督府に呼び寄せていた。幹部らはいよいよグラ・バルカス帝国が正体を現したのかと、戦々恐々である。

 

「ふむ・・・事情はよくわかった。そなたらは我々よりもこのニューアークについて詳しい。そなたらが良いのであれば、引き続き警察としての職務を全うしてはくれないか?」

「な、なんと!?」

「わ、我々はレイフォル人ですよ?! 敵国の人間ですよ?!」

「昔はそうだったかもしれない。だが、今はそなたらニューアークの民も帝国の臣民である。かつての敵国の人間だったから・・・それだけで切り捨てられる程人員に余裕がある訳ではないし、そもそも同じ帝国の臣民なのに差別があってはならぬ」

「な・・・・なんと・・・・」

 

ニューアーク支部の幹部らはガルマの懐の広さに驚愕する。レイフォリアの仲間達からは、旧体制の者らは資産全てを剥がされた上で貧民街に追放されており、一家離散や自殺に走る者が続出しているとの情報が入っていた。しかし、ニューアーク総督はレイフォリアとは全く違う対応を指示した。

 

「無論、新たに再編するニューアーク総督府管轄のニューアーク警察のトップは私グラ・ガルマであり、グラ・バルカス帝国の者らを主要幹部には据える。だが、そなたら既存の警察組織を取り込む形で再編する。また装備は帝国式に改めさせて貰う。安心しろ。必要な装備や訓練は我々が提供する。共にニューアークの為に働こうではないか!」

 

ガルマの働きにより、グラ・バルカス帝国の要請や改革に応じるニューアークの民が日に日に増えていった。また、グラ・バルカス帝国領レイフォル全体でガルマの話が広まり、ニューアークを目指すレイフォル人も増えていった。

 

「決めたぞ! 俺はガルマ様について行くぞ!!」

「拙者もだ!!」

「おいどんもガルマ様について行くでごわす!!」

 

こうしてガルマにより、ニューアーク支配は順調な滑り出しを見せた。ガルマは並行してインフラ整備や企業誘致を進める。各地から流入してくるレイフォル人を安価な労働力として活用し、帝国本土から様々な企業がニューアークに進出。労働者保護の為の命令も併せて総督府より発令し、悪質な企業に対しては陸軍を派遣して取り潰す等、ニューアークのことを第一に考えた政策を次々に打ち出して行った。

 

 

「これ等により、ニューアークでは我がグラ・バルカス帝国への支持は固く、レイフォル人で構成されるニューアーク防衛軍に志願する現地人も多数おります。彼らは郷土愛が強く、ニューアークが攻撃されれば、帝国軍の一員としてその刃を見せつけることでしょう」

「うむうむ!」

 

ガルマの話を満足そうに聞くグラ・ルークス。可愛い四男が治める領土の実態を知り、笑みを爆発させる。

 

「やはりガルマはワシの子じゃ! 帝国のあるべき姿を理解しておる!! ガルマこそが、ワシの後継に相応しいのぉ・・・・」

「父上、御気持ちは分かりますが、私は皇位継承権第二位です。カバル兄さんが存命である以上、例え皇帝陛下であられる父上が望んでもそれは不可能であります」

 

四男を溺愛する父を宥める息子。

 

「父上、そろそろ終わりにしませんか?」

「・・・・・・・何をだ?」

 

急に真剣な表情を浮かべるグラ・ルークスとガルマ。先に口火を切ったのはガルマであった。

 

「薄々父上も分かっているでしょう。日本国並びに英連邦王国には勝てぬということを」

「・・・・・・続けよ。ガルマ、そなたの率直の意見、是非とも聞かせてくれ」

「ははっ。ムーに派遣している諜報部を中心に、日英両国について細かく調べて参りました。それが此方になります」

 

ガルマは日英両国の軍や国力について纏めた資料を示す。

 

「まず、帝国本土攻撃に使用されたロケット・・・彼らは大陸間弾道ミサイルと呼ぶ兵器ですが・・・・」

 

ガルマは日英両国から仕入れた図や数字を使いながら、皇帝に日英の底知れぬ国力について語る。

 

「・・・・日英の戦闘機にはプロペラがないのか?」

「代わりにジェットエンジンを搭載し、音速で飛び回るとのことです」

「なんと・・・・我が軍の戦闘機では相手にすらならぬな」

 

陸海空三軍についての解説が行われ、皇帝グラ・ルークスは今まで抱いていた疑念について、それが間違いではなかったと気付く。同時に、帝国が進むべき道も分かった。

 

「皇帝陛下、敢えて申し上げさせて頂きます。日本国並びに英連邦王国に対して、降伏するべきです」

 

降伏。それは同時にグラ・バルカス帝国の崩壊を意味していた。もし本国でそんなことを口にすれば、明日には死体になっているだろう。だが・・・・

 

「うむ。ガルマの言うとおりだ。既に我が帝国本土は日英の大陸間弾道ミサイルにより、壊滅的被害を受けておる。レギン首相やカバルのヤツらは新兵器があれば好転すると言うが、余計に日英を怒らせるだけであろう」

 

皇帝が降伏案に事実上同意した。驚くガルマを横目に皇帝は言葉を続ける。

 

「しかし、降伏となれば賠償が必要であろう。拡がりすぎた植民地は全て放棄し、膨れ上がった軍は縮小も必要だ。あとはワシと皇太子カバルの首もいるであろう」

「こんなこともあろうかと・・・・勝手にではありますが、既にイギリスと話をつけております。陛下が本当に降伏するおつもりでしたら、明日にも会談出来るかと」

「・・・・・ガルマよ」

「ははっ」

 

皇帝は四男に土下座をする。

 

「愚かな老いぼれの尻拭いをさせてしまい、本当に申し訳ない。明日にもワシが乗ってきた戦艦「グレート・ルークス」がニューアークに入港する。そこにイギリスの大使を招き、降伏について話し合いたい。そう、要請してはくれまいか?」

「顔を上げてください父上! イギリスの大使には、直ぐにでも連絡致します。おそらくは護衛の兵士を同伴させるよう要求はあるでしょうが、会談は可能かと」

「そうか。ガルマ、やはりそなたが次の皇帝に相応しい。どうしてもガルマに継がせたい。その為ならワシがレイフォリアで散っても構わぬ」

「・・・・・申し訳ありませんが、レイフォリアには既に陛下の影武者、ディットー殿が向かいました。ご存知ないのですか?」

「は?」

 

初耳であると言わんばかりのグラ・ルークス。

 

「何故ワシの学友のディットーがレイフォリアに向かったのだ?!」

「・・・・・そうか、ディットー殿は何も言わずに・・・・」

「なあガルマよ!! 何故だ!? 何故なんだ!!」

「・・・・・おそらくは、ディットー殿は陛下の身代わりで死ぬつもりなのです。諜報部によれば、神聖ミリシアル帝国を中心とした世界連合がレイフォリアに迫っているとのことです。イギリスの情報では、わが軍は皇帝を餌に敵を誘き寄せ、皇帝もろとも新兵器で一気に壊滅させるつもりではないか・・・・と」

「レギンのヤツの仕業か・・・!! ワシを・・・あわよくばガルマもろともレイフォルで殺し、傀儡と化したカバルを皇帝に担ぎ上げるつもりか!!」

「ディットー殿は陛下と話をするとしてはいましたが、それは私を納得させる方便。どうやら最初から死ぬつもりみたいですな・・・」

「・・・・・・ディットー・・・・」

「ガルマ様? 少々長いのではありませんか・・・・皇帝陛下?!」

 

泣き崩れる皇帝を優しく慰めるガルマ。会談が長いため、入室してきたイセリアは状況を察すると、ガルマと共に皇帝を慰める。

 

「父上は良き友人をお持ちです。友人の為にも、明日の会談は必ずや成功させましょう」

「・・・・ああ。必ずな」

 

この日の夜、ガルマはイギリス側に会談の要請を行った。また、戦艦「グレート・ルークス」も護衛の駆逐艦と共に入港し、会談に向けた会場設営を開始。ニューアーク市内では、イギリスの諜報機関が活動しており、武装親衛隊や秘密警察の隊員らは密かに処分されているのだが、ガルマら一部を除きグラ・バルカス帝国側は知るよしもない。

 

 

 

グラ・バルカス帝国臨時首都ルナ

秘密警察本部

 

「・・・・・・クックッ、良くやったぞマ・ツボマン」

 

レイフォリアから届いた報告書を読んだキリシアはマスクの下で笑みを浮かべる。

 

「マ・ツボマンは今どこにいる?」

「現在、輸送機にてルナへ帰投中です。明日にも秘密警察本部に到着するかと」

「うむ。では、到着次第ヤツには新兵器の開発を命じることとする。必要な材料をかき集めよ。ヤツの働きで帝国本土の資源地帯は我々が掌握している」

「畏まりました」

 

部下が部屋から退室する。一人になったキリシアはマスクを脱ぐ。

 

「これで我々もレギンと対等な立場となった。一刻も早く新兵器の量産体制を確立し、帝国を再び1つに纏めあげなくてはならぬ」

 

キリシアは女子の為に皇位継承権を有していない。しかし、一方で彼女はグラ・ルークスの長子であり、父譲りのカリスマ性と政治的手腕を持っていた。密かに皇位の座を狙っており、カバルを傀儡とするレギンに対抗するべく、策謀をめぐらせていたのである。

 

「秘密警察の働きにより、正規軍は既に瓦解している。コンペートーを拠点にする極一部のドスル配下の部隊以外は我々秘密警察が掌握している。仮にガルマが敵になったとしても、些細な問題にしかならぬ」

 

ガルマが日英との和平を模索する中、レギンとキリシアは激しい権力闘争を繰り広げていた。政治的手腕のないドスルでは、正規軍を纏め続けることは難しく、忠誠心の高い一部の部隊のみが彼の元に残っていた。レギン派とキリシア派に比べればあまりにも弱小勢力であることからドスル派は放置されていた。後にドスル派は帝国本土から脱出し、ニューアークに身を寄せることになるのである。ガルマに忠誠を誓う市民らと共に。その時、日英は味方側の国から攻撃されることになり、そして新たな戦争の引き金となるのである。

 

 

 

神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス

駐神聖ミリシアル帝国日本領事館

 

「・・・・・・今日も懲りずに屯してンなあ・・・・」

 

アキラは領事館の窓から外を見てそう言った。隣に立っている領事館職員は何のことか分からず、?という表情だが、アキラには一般人に扮した神聖ミリシアル帝国の諜報部員の姿が目に映っていた。

 

「今頃ニュー・ホンコンの領事館は更に凄いことになってるだろうなあ」

「は、はあ・・・・」

 

祭祀の杖と巫女を狙う神聖ミリシアル帝国。祭祀の杖に秘められた力を手に入れるべく、日英に頭を下げるも、門前払いされた自称世界最強の国。特にミリシアル8世の息子(皇太子)は日英により世界の主導権を奪われつつある現状に我慢ならないようであり、

 

「どんな手を使っても良い。日英から祭祀の杖と巫女を引き離せ」

 

と命じている。神聖ミリシアル帝国内では、日英を脅威とみなす勢力が台頭しつつあり、皇太子はこの勢力を支援している。グラ・バルカス帝国討伐の連合軍に日英が参加しないことにも皇太子は腹を立てており、

 

「日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国はグラ・バルカス帝国に内通している」

 

と、強ち間違いではない発言を周囲にしていた。彼は皇太子権限で連日ルーンポリスの日本大使館やカルトアルパスの日本領事館に対して、

 

「世界平和の為に尽くす意志があるのであれば、速やかに祭祀の杖と巫女を引き渡すように。引き渡すのであれば、本日までの貴国らの無礼を赦す」

 

と通告していた。無論完全に無視されているのだが、皇太子は、

 

・やはり日本とイギリスはグラ・バルカス帝国に通じている

・日本とイギリスは古の魔法帝国復活の為に我が国の要請を無視している

・日英の存在は世界平和の為にはならない

・ルーンポリスから日英の民が逃げ出しているのは、我が国と敵対するからである

 

との考えを深めていた。更には通商路保護の為にカルトアルパスに展開している日英の艦艇を拿捕すべし、と皇帝に上奏。皇帝からは頭を冷やせと言われるも、彼は止まることを知らない。その癖にカリスマ性はあるため、日に日に彼の元に日英を敵視する者らが集まり、政治団体「ミリシアル第一党」を結成。次期帝国評議会選挙に候補者を擁立する予定であり、皇太子が比例区で出馬するとの憶測も出ている。

 

「・・・・・ そろそろ俺も転勤かな?」

 

この数日後、アキラは神聖ミリシアル帝国からイギリス領ニュー・ホンコンへの異動が命じられた。既にルーンポリスの大使館は一時的に閉鎖され、領事館も間も無く閉鎖される。

 

「・・・・・全く、ブリカスは本当に黒いンだよなあ・・・原爆が落ちることが分かっててわざと教えてない。まあ、無駄にプライドだけは高い国を合法的に消せると考えれば······黒いなあ······怖い怖い」

 

アキラは一足先にニュー·ホンコン行の航空便でカルトアルパスを離れた。

 

「駐在武官は死ンでは不味いンでね。さてアキコ、退屈してないか?」

 

翌日、政治団体「ミリシアル第一党」の党員がカナダ領事館に対して、爆発物を投げ込む事件が発生。警備中のカルトアルパス警察は直ちに容疑者を確保するも、皇太子が捜査に介入。カナダ側は容疑者の引き渡しを要求したのに対して、皇太子側は証拠不十分、責任能力無しとして釈放するよう皇太子令を発動。無論カナダ側や面目を潰されたカルトアルパス警察は抗議したものの、容疑者は釈放。カナダと神聖ミリシアル帝国の関係は急速に悪化した。イギリス政府はカナダ側を全面的に支援すると表明し、オーストラリア、ニュージーランド他英連邦各国が追随した。

 

 

イギリス領ニュー·ホンコン

日本領事館ニュー·ホンコン島出張所アキコの私室

 

「急速に関係悪化し過ぎでは?」

「いよいよイギリスが神聖ミリシアル帝国を怒らせに行ったのか・・・・・・」

「グラ·バルカス帝国に加えてクルセイリースとやり合おうとしているのに、神聖ミリシアル帝国ともやるのかよイギリスは」

 

頭が痛い。そう思いながらアキコとシンは近くにそびえ立つニュー·ホンコン総督府を眺めるのであった。

 

(続く)

 

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