日英同盟召喚   作:東海鯰

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ニュー・ホンコンの休日

イギリス領ニュー·ホンコン

日本領事館ニュー·ホンコン島出張所

 

「お疲れちゃんだな、ラスティ」

「·····ハイネ大尉」

「だ〜か〜ら〜」

「貴方は仮にも上官でしょう。馴れ馴れしくは出来ないですよ」

「本当にラスティは真面目だね〜。やっぱりオグリの御相手にお似合いだな」

「な?!」

 

明らかに動揺するラスティ。この日も彼はオグリと共に戦闘機の操縦訓練を受けており、教官役のオグリと一緒に複座型のタイフーンに乗っていた。

 

「まあ、明日もラスティはオグリと空中デートだな!!」

「ち、ちが、違います!! 小栗2等空佐は上官であり、恋愛対象とかでは······」

「またまた騒がしい2人組だな」

「う、内2等空佐!!」

「ハイネ、本当にラスティは真面目だよね〜」

「全くです。やはり、ウッチーの言うように、ラスティはオグリの相手に」

「お前もそう思うか?」

「はい。他人の私から見てもそう思うのです。実の弟であるウッチーなら尚更では?」

「ははは! 妻帯者は違うな!! 確かラスティは独身童貞だったな?」

「はい。未だに彼女すら持ったことのない、仕事に打ち込み過ぎて女経験マイナスのイケメンオレンジ髪ですよ」

「黙れ黙れ黙れ!!」

「明らかに赤面だね〜。やっぱり惚れてるんじゃない?」

 

顔面真っ赤なラスティは逃げるように自室へと逃げ込んだ。

 

「あーあ、チャンスを逃したな」

「ですね」

 

 

翌朝日本領事館食堂

 

「相変わらずアンタは私のいるところに現れるわね・・・・」

「だって私はお姉様の従妹だもん!! それより、最近また痩せた? お姉様は元々食が細いのに、これ以上痩せたらお腹の子ごと死んじゃうわよ!!」

「あはは! アキコがそう簡単に死ぬわけないンだよなあ!」

「アキラさあ、何でアンタも来てるわけ?」

「ブリカスは神聖ミリシアル帝国とやり合うつもりらしいからな。その対応だよ」

「何時もの日常が戻ったな、アキコ」

「お! シンじゃねえか。最近窶れてるな、さてはアキコの代わりに仕事をしているな?」

 

アキコ、シン、アキラ、アイの四人の絡みを遠くから見つめる空自組の姿が食堂にあった。

 

「あれがかつてのカルトアルパスの日本領事館の風景らしいよ?」

「実に緊張感がないな」

「オグリ、そう言うなって。あのアキラって男は若くして1等海佐。俺達より偉いんだぜ?」

「・・・・・中々やるようだな」

「お? ウッチーにオグリじゃないか?」

 

食事をするオグリとウッチーの下へ、ハイネとラスティがやって来る。

 

「ハイネ、相変わらずラスティは真面目だよな」

「全くです。実はオグリのことが好きなのを隠そうとして隠せてないのもまた・・・・ね?」

「ちちちち違う!!」

「・・・・・・・・・・」

 

見定めるようにラスティを見つめるオグリ。その鋭い眼光にラスティはたじろぐ。何とかして話を繋がなくては。そう思ったラスティはある疑問を問うことにした。

 

「そう言えば、内2等空佐は何故に小栗2等空佐と違う姓なのですか?」

「・・・・・・そこ聞く〜?」

「空気を読もうとして失敗する。ラスティらしくて俺は好きだぜ!」

「・・・・・・聞きたいか?」

 

オグリからギロリと睨まれるラスティ。

 

「聞きたいなら幾らでも聞かせてやる。所詮、過去の出来事だ。それも含めてオレだからな」

 

オグリはそう言うと箸を置き、静かに語りだした。

 

「あれは・・・・まだ小学生4年の頃だ。まだウッチーがオレと同じ小栗を名乗っていた時の時代だ」

 

 

小学生4年の頃の小栗家

 

「相変わらず親父はお仕事で深夜帰りらしいな」

「大人って大変だよね〜。夜中にトイレで目が覚めた時ばったりお父さんに会ったけど、汗だくで死んだ目してたもんな〜」

「おいトウヤ、その漢字じゃないだろ」

「んん〜? あ、本当だ。まあ、バレないっしょ」

「オレにバレたからダメだろ」

「ちぇっ、トウコが言うならしゃあないな〜」

 

この頃のオレとウッチーは互いに小栗家の人間だった。オレはウッチーをトウヤ、ウッチーはオレをトウコと呼んでいた。大体の事は2人で一緒に行動してきた。塾通いも、学校へも、留守番も。この日は母親が夕方のパートの仕事だと言うので留守番だ。夕食は既に用意されていた為、それを食べた。今は学校の宿題中だ。

 

「そう言えば最近、お母さんの化粧、かなり濃くない?」

「・・・・・トウヤもそう思うか?」

「うん。それに、毎日お父さんがいない時は写真を見てばかりなんだよね〜」

「写真? 一体誰の写真なんだ?」

「それが分からないんだよね〜」

 

変わることのない日々。それが続くと信じていた。だが、

 

「ん? 電話か?」

 

部屋の固定電話が鳴る。

 

「オレが出る」

「はいよ〜」

 

トウコは鳴り響く固定電話の受話器を取る。

 

「もしもし?」

(トウコ! お母さんはいるか?!)

「お父さん?! 今日も徹夜じゃないの?」

(緊急事態なんだ!! トウヤもそこにはいるか?)

「いるけど」

(すぐに家に行くから待ってろ! いいな!!)

 

ガチャン!

 

「切れちゃった・・・・」

 

 

「・・・・という訳で、お父さんが迎え来るみたいだから」

「いきなりだね〜なんだろ?」

 

30分後、父親が運転する車が到着する。

 

「親父!」

「お父さん!」

 

トウコとトウヤは父親を出迎える。しかし、出迎えるやいなやこう言われた。

 

「お母さんは私たちを裏切った。今からお父さんの実家に向かう。暫くはそこで過ごすことになる」

 

突然の急展開について行けないまま、トウコとトウヤは車に乗せられ、自宅から3時間はかかる父親の実家に移送された。

 

 

父親の実家

 

「親父! 一体何があったんだよ!!」

「お母さんが裏切ったって、何?」

 

トウコとトウヤの問いに父親を始め、父方の親族は顔を顰める。

 

「トウヤ君にトウコちゃん。今から話すことは極めて衝撃的な内容だ」

 

父親の弟。2人から見れば叔父が口を開く。一体何を話すというのか。2人は緊張して息を飲む。

 

「結論から言うとね、君たちのお母さんは・・・・不倫をしているんだ」

「「?!」」

「ずっと怪しいとは思っていたのだ・・・だが、妻を信じたい側面もあり、2年間黙っていたのだ・・・」

「2年間?!」

「お母さんは2年間も不倫を?!」

 

トウコとトウヤは互いに顔を合わせる。同時に最悪の想定も頭に過った。

 

「トウコにトウヤ、最近お母さんの様子がおかしくはなかったか?」

「・・・・男の俺から見ても化粧が濃くなった気がするね」

「明らかにパートの時間じゃないのに外出していたし、後は最近はカップ麺の割合が増えたな」

「・・・・・そうだったのか」

 

父親は悲しげな表情を浮かべると共に、トウコとトウヤに対して土下座をした。

 

「お前達には本当に辛い思いをさせてしまった!! 最早離婚は免れない!! 私が早く行動に移していれば!!」

「なんで親父が謝るんだよ!! 親父は家族の為に身を粉にして働いていたじゃねえか!! オレは知ってるんだよ!! オレとトウヤの大学進学の為に金を積み立てているのをな!!」

 

在りし日の留守番中、トウコは父親の部屋に入ったことがある。

 

「今日は珍しくトウヤが塾で居残りだし、たまには好きにさせて貰うか。どれどれ・・・」

 

父親の部屋の引き出しを物色するトウコ。

 

「そう言えば親父は毎日残業して、休日は死んだように寝てるよな。趣味とかはないのか?」

 

そんな中、鍵のついた引き出しを見つけたトウコ。

 

「明らかに怪しいな。開くのか?」

 

試しに引っ張ってみたトウコ。

 

「・・・・開くのかよ。さては鍵を閉め忘れたな」

 

引き出しには2つの預金通帳が入っていた。

 

「・・・・・確か予算の管理は親父ではなかったはず。誰の通帳だ?」

 

見てみると、そこにはトウコとトウヤの名前が書かれていた。

 

「オレとトウヤの預金通帳? なんで?」

 

試しに開いてみるトウコ。そこには、トウコとトウヤそれぞれ300万円の預金の入った口座があった。

 

「・・・・・まさか親父はオレとトウヤの為に残業を?!」

 

トウコの脳裏に疲れ果てた父親の顔が過る。

 

「・・・・・親父、すまねえな。絶対にオレは有名人になってやるからよ!!」

 

トウコは静かに引き出しを閉めた。翌日、しっかりと鍵がかかっていることを確認すると、密かに彼女の秘密としてしまいこんだ。

 

 

「そうか。トウコは気付いていたのか」

「金遣いの荒いあの女には任せておけないという考えがあったんだろ? 美人だけどさ」

「うむ・・・・」

「ありがてえ話だね〜。で、これからはどうすれば良いんだ?」

「不倫の証拠は確保している。既に弁護士を雇い、内容証明を妻とその実家、そして不倫相手とその実家に送付してある。今後はお前達の親権を獲得する為に戦うことになる」

 

この時のオレとウッチーは親父の話を聞いて安堵していた。明らかに悪いのは母親の方だ。家族の為に働いている親父がいるのに、労うどころか、稼ぎが少ないと文句を言い、ブランド物に金を使いまくっていたクソババア。挙げ句の果てには不倫をした人間のクズ。悪いことをしたら怒られる。即ち、親権も親父の下に行く。そう思っていた。だが・・・・

 

「クソババアがオレとトウヤの親権を主張?! それもクソババアに親権が行きそうだと?! ふざけんな!!」

「・・・・・・・」

 

怒りを露わにするトウコと半ば諦めの表情のトウヤ。父親や弁護士は申し訳なさそうな顔をしている。

 

「我々も親権を強く主張したのですが、やはり殆ど子育てに関与出来なかったことが大きかったようで・・・」

「じゃあ何だ!! やったもん勝ちかよ!!」

「親権は母親に行きやすいとは聞いてたけど、酷いもんだね」

「オレは絶対にクソババアの子にはならねえぞ!!」

 

強く拒絶するトウコに対して、トウヤは違った。

 

「・・・・・俺はあの女の下に行くよ」

「トウヤ?!」

「トウコ、君は絶対にあの女とは反りが合わない。トウコは真面目で義に反することは出来ない真っ直ぐな姉だ。あの女からしても、トウコはいらないと思う」

「なら、何でオレの親権まで!!」

「あの女がほしいのは俺の親権だからだよ。自分で言うのもあれだけどさ、俺は母親似の顔立ちじゃん? トウコはやるから、トウヤは寄越せで辻褄を合わせたい。違うかな弁護士さん?」

「・・・・・その通りです。可能なら2人とも欲しいけど、愛しのトウヤ君をくれるなら、トウコはいらない。そう吐き捨てていました」

「じゃあ決まりだな。トウコ、いや姉さん。今生の別れだ」

「トウヤ?!」

 

こうして、オレとウッチーは別々に引き取られることになった。オレは引き続き小栗姓を、ウッチーは母親の姓である内を名乗ることになった。離婚調停も進み、財産分与や慰謝料の支払い等細部が詰められていく。同時に、オレとウッチーが共に同じ屋根で暮らせる日々が終わりに近付いてもいたのだ。

 

「いよいよか・・・」

「いよいよだな・・・」

 

2人は夕暮れ時の空を見上げる。太陽が地平線に沈み掛けており、夕焼けが空を焦がしている。

 

「・・・・・姉さん」

「どうしたトウヤ。珍しくオレを姉さんと呼ぶじゃねえか」

「姉さん!!」

「おっ?!」

 

トウヤは急にトウコに抱きついてきた。

 

「どうしたんだよトウヤ! お前らしくねえぞ!!」

「姉さん、本当は俺、姉さんと離れ離れになりたくない。ずっと一緒にいたいんだ!!」

「・・・・当たり前だ。オレとお前は血を分けた姉弟じゃねえか」

「分かってる、分かってるんだ。姉さんを守る為には、俺があの女の息子になるしかないってことは。分かりきってる!! 覚悟も出来ている!! だけど・・・・だけど!!」

 

涙ながら訴えてくるトウヤ。トウコは彼を優しく抱き締める。

 

「トウヤ、確かにオレとお前は明日から別人、赤の他人だ。だがな!! これだけは覚えておけ!!」

 

トウコはトウヤの目をじっと見つめる。少し気持ちを落ち着かせた後に、彼女はこう語った。

 

「確かに明日でお別れだ。だが、オレ達はあの空の下にいる。それだけは変わらない。明日も明後日も、同じ空の下だ!! どんなに離れていても離れはしない。オレはお前の心からはいなくなったりしない。姉と弟だったという事実は消えない。消しはさせない。あの空の下にいるなら、いつかまた出会える日が来る。それまでは耐えろ。トウヤ、お前は男だ。オレの双子の弟だ。どんなに離れ、存在を否定されたとしてもだ!!」

「・・・・・姉さん・・・」

 

次の瞬間、彼らの上空を2機の戦闘機が通過する。勇ましく舞うF-4EJ改。それを見たトウコはあることを思い付く。

 

「決めたよトウヤ。オレは戦闘機乗りになる。あの戦闘機で、空を舞う。お前が見上げた空に、オレがいる。それで良いだろう」

 

彼女は直感的に戦闘機乗りになった方が良いと感じていた。それまで自衛隊に微塵も興味がなかった彼女だったが、離れていても繋がっている遥かな空に未来を見出そうとしたのだ。

 

「姉さんが戦闘機乗りになるなら、俺だって!! 姉さんの背中は俺が守る!!」

 

トウコに負けじと、彼も空に未来を見出そうとする。彼も元々自衛隊には興味がなかったが、彼女と一緒にいたい。そんな夢を叶える為に新たな道を歩むことにしたのである。そして翌日、2人は最後の別れを告げた。

 

「達者で暮らせよ、トウヤ」

「姉さんこそ、寂しさで潰れたりとかしないようにね」

 

こうしてオレとウッチーは暫しの別れとなった。それ以降、オレは必死に勉強をした。親父には、航空自衛隊に入ると告げた。その為に必死に勉強して、身体を鍛えたいと。親父は了承してくれた。あれから月日が流れ、オレは防衛大学校を受験した。長年の勉強の成果が実り、合格通知が届いた。そして奇跡は起きた。

 

 

防衛大学校校門

 

「・・・・随分と美形になったな、トウヤ」

「そう言うトウコ・・・いや、オグリの方が良いかな? オグリは相変わらず男勝りだね〜」

 

約束通り、2人は防衛大学校で合流した。彼らは航空自衛隊で戦闘機乗りになる為に自然と防衛大学校を目指したのだ。

 

「例え弟であろうと、舐めた真似をしたら制裁するからな!」

「まあ、上手いこと躱してみせるよ。あと、世間体を考えて呼んでくれるかな〜?」

「気が進まないが・・・内だから・・・ウッチーだ。お前は今日からウッチーだ! 良いな!!」

 

防衛大学校は噂に聞いていたように、地獄だった。パワハラ暴力は当たり前。流石は軍人を育成する学校だ。例え女であろうと容赦はしない。中退する同級生が後を絶たない中、オレとウッチーは必死に食らいついた。その後、オレとウッチーは無事戦闘機乗りに採用された。そして最終的にはF15Jのパイロットとして、沖縄県の那覇基地に配属。日々領空に接近する中国軍機へのスクランブルに没頭することになった。その後の異世界転移では、状況確認の為に那覇基地では最初にスクランブル発進し、尖閣諸島から中国の船舶が消滅していることを海保の巡視船と共に確認した。

 

「まあ、雑に言うとこんな感じかな」

「波乱万丈な人生だったんだよね〜」

「というか、オレはウッチーが生きているとは思わなかったぞ」

「んん〜? まあ、そこは世渡り上手ってことで」

「愛想は良いし、顔も美形だもんな、ウッチーは」

「オグリと性別が逆だったらな〜、って良く言われるんだよね〜。オグリは女に見えないらしいし」

「失礼な奴等だ。制裁してやろうか」

「まあまあ・・・」

 

一方で、上官の境遇を初めて聞いたラスティは言葉が出ない。半ば冗談のつもりだったのに、まさか闇の深い話だったなんて・・・と。

 

「ラスティ、アンタはどう思う?」

「ど、どういうことでありますか?」

「オレのことをどう思うかと聞いている。不倫するような女の娘であるオレを愛せるか?」

「?!」

「おお〜、オグリも遂に婿を迎える覚悟が出来たんだね〜」

「婿?!」

 

何でそうなるの?!と言わんばかりの表情のラスティ。オグリは構わずに続ける。

 

「オレは親父譲りの人間だと思う。だが同時に、平気で不倫をするような女の娘でもある」

「は、はい・・・・」

「故にオレは婿を迎えたいと微塵も思わなかった。あの女の娘である以上、何処かで奴の遺伝子が悪さをして、相方を苦しませるんじゃないか。そもそも女なのに男みたいに喋る女等、他人にモテるはずなんてないと諦めていた・・・・」

「は、はあ・・・・」

「だが、今初めて、婿を迎えたい。本当に愛したい人がいる・・・」

「「おお!!」」

 

オグリの言葉の意味を理解したウッチーとハイネは完全にワクテカしている。早く告白しろ!と言わんばかりに囃し立てる。一方のラスティは何が何だか理解出来ていない。

 

「・・・・ラスティ!」

「は、はい!!」

 

上官に名を呼ばれ、直立するラスティ。

 

「このオレ、小栗闘子に貴方の子を産ませてくれないか!!」

「だははははwww」

「初めて聞く告白だなwww」

 

ウッチーとハイネが大爆笑する。真面目なオグリは構わずに告白を続ける。

 

「確かにウッチーやハイネから見れば、オレの告白は変だろう。自覚もある。防衛大学校時代も恋愛なんてしなかったし、ウッチー以外の男に興味なんてなかった。だが、ラスティ。貴方だけは違う。心の底から愛したい、そう感じている・・・・・」

 

食事で起きたまさかの愛の告白。ラスティは突然の出来事に頭が真っ白である。

 

(どうしよどうしよどうしよ〜!! 小栗2等空佐に告白されちまったよ〜!! 死別して会えなくなった母上に似ていて、正直好きではあったけど、まさかあっちから告白だなんて!! 何て返せば良いんだよ〜!!)

 

恋する乙女かの如く赤面して慌てるラスティと本気で愛を訴える漢の如く真面目なオグリ。

 

「だからさあ! 性別間違えてるよな!! オグリは!!」

「ずっとウッチーは彼女のことを男勝りと言っていましたが、不器用なところも含めてでしたか!!」

「ちなみに俺は結婚してないけどね〜。そろそろしたいとは思うけど」

「あははは。じゃあ、我々はこの辺で。ラスティ、小栗2等空佐を頼んだぜ!!」

「ま、待ってオストフルス大尉!!」

 

構わずに食器の入ったトレーを返却しに行くウッチーとハイネ。残された2人は互いに相手の出方を伺っており、顔が赤い。

 

「はあ〜、さっさと食器を片付けてくれる?」

 

食堂担当のアイに睨まれた2人は慌てて動き出す。既に食堂には彼ら以外おらず、アキコらは既に退室していた。

 

「す、すまない!」

「は、はい!!」

 

やがて食堂はアイと他の食堂担当の職員のみになる。

 

「やれやれ・・・神聖ミリシアル帝国がこの島を狙っているという話なのに、呑気な軍人さんだこと」

 

アイは先程までの話を思い返す。丁度空自組が談笑していた頃である。

 

「しかし、アキラが来たということは本国もかなりの危機感を抱いているということね」

「流石は外務省のスーパーエリート官僚様だな。シンのようなウルトラハイパーポンコツ官僚とは大違いだ」

「アキラ貴様ー!!」

「お姉様の飼い犬は黙ってて」

「お前ら、ボクの扱い酷くない?!」

「正当な評価よ、シン。さてアキラ、貴方の見立てを聞きたい。確か、カルトアルパスの日本領事館周辺で不審者が彷徨いてたとか聞いたわよ」

「それに加えてカナダ領事館に爆発物が投げ込まれたとか」

「アキコにシンも聞いてたか。その通りだ! パラディオンの連中がニュージーランドに着いてから奴等はずっと抱いていた負の感情を剥き出しにし始めたみたいなンだな」

「世界の覇権が日英に傾きつつある現実を受け入れられなかったのね」

「exactly!」

「アメリカ訛りか・・・イングランド訛りのボクからしたら何て汚い英語か」

「ハハハ! 残念ながら海自は米海軍と絡むンでな! さて、話を戻すぞ。どうやら神聖ミリシアル帝国中の最右翼、ミリシアル第一党の連中を皇太子が支援している・・・というか中心人物なンだかな、これがかなりの反日英派みたいだ」

「政府の中にも皇太子の息がかかった人物が多数いるみたいだし、かなり厄介ね」

「だが、日英が世界の覇権を握るには、神聖ミリシアル帝国との対立は避けられない。地政学的に、神聖ミリシアル帝国はかつてのアメリカ合衆国のような立ち位置。日英と第二文明圏諸国の同盟は、神聖ミリシアル帝国を挟み撃ちするように映る」

「それに、日英は第一文明圏の離島を領土にしている。これらの島々は神聖ミリシアル帝国の喉元に、彼らの庭に食い込む形になる」

 

地政学に精通するアキコとシンは神聖ミリシアル帝国が置かれた現状を分析していく。これまでなら、仮に第二文明圏と第三文明圏が組んだとしても、圧倒的技術的アドバンテージから相手にすらならなかった。しかし、日本国と英連邦王国の出現で全てが覆った。神聖ミリシアル帝国の兵器群では、日英に敵わない。それなのに日英は第二文明圏の雄ムーと手を組み、様々な兵器を輸出している。数こそは少ないものの、もし神聖ミリシアル帝国がどちらかと軍事衝突されれば、間違いなく挟撃される。今はグラ・バルカス帝国という共通の敵がいるが、これがいなくなれば神聖ミリシアル帝国は日英に取り込まれてしまい、1地方の中小国に成り下がる可能性があった。事実、既に同国は日英に経済的に侵略されていた。日本式のショッピングモールが建ち並び、イギリスの金融市場に組み込まれつつある現状。日英の属国に成り下がりつつある現実を受け入れられない、プライドの高い者らの不満は蓄積していた。

 

「軍の上層部は日英のことをよく理解しており、日英との対立を避けるべきだと認識してくれているンだがな・・・・若手将校派ダメみたいなンだな」

「しかも、ブリカスはグラ・バルカス帝国の爆撃機が原爆をルーン・ポリスに落とそうとしていることを知っていながら放置。事の次第では日英に対する憎悪が増すわね」

「我が国やイギリスと神聖ミリシアル帝国には機密情報の共有に関する協定はない。だから違反にはならないが、民衆は合理的ではないからな・・・」

 

真面目な話をするアキコ、シン、アキラ。アイは話について行けず、食器洗いに戻っている。

 

「そこにパラディオンだ。イヴの持つ祭祀の杖は古の魔法帝国を封印する鍵であると同時に、古代技術を解明する鍵でもある。神聖ミリシアル帝国は日英に技術レベルで劣り、模倣しか出来ない中国未満の国だ。古代技術の鍵があちらからやって来たと知れば、尚更だ」

「日本政府は当初はカルトアルパスに送る事にしていたけど、神聖ミリシアル帝国の闇を知ったイギリス政府の意向でニュー・ホンコンに変わったのよね」

「あちらさんは激怒してたぜ? 連日日英の領事館の前には不審者が彷徨き、パラディオンの連中が本当に来ないのかを監視してたぜ? 今はそいつら、カナダ領カイシンにいるみたいだがな」

「まさか島の中に隔離されているとは思わないでしょうから、あっちの領事館を監視しているのね」

「だが、奴等もカナダ側にいないことに気付いた。最近は島の周辺に不審な小舟の接近が相次いでいる。恐らくはイギリス側の負担を増やし、隙を見て上陸し、パラディオンの連中やニュー・ホンコン総督や家族を拉致するつもりなンだろうな」

「下手したら領事館の中で戦闘が起きるじゃない。アキラ、今の私は走れないのよ?」

 

腹をさするアキコ。シンはえっへん!という表情を浮かべる。

 

「・・・・ハハハ! ヒロシが聞いたら大号泣だな!! まあ、ともあれ警戒はしててくれ。俺もお前らを守る。空自組やイギリス軍守備隊もいるし、地下シェルターもある」

「まあ、実際に行動したらグラ・バルカス帝国よりも先に滅びるでしょうけどね」

「下手したら日英派のグラ・バルカス帝国国民の移住先にされてそう」

「ガルマ派の国民をニューアークだけに収容は出来ないしな、アリかもな!」

「彼奴等核兵器の怖さを知らないだろうからさ、威力の高い爆弾感覚で内戦中にポンポン撃ち込みそうなのよね」

「自分で自分の土地をマジで汚しそうだよな。さて、お開きにしよう。カナダ領事館の話はまた今度な!」

 

こうしてカルトアルパス組はそれぞれの持ち場に戻る。足取りが重たいアキコを伴侶のシンが優しく手を引く。

 

「シンもやれば出来るじゃない」

「ボクだって根部家の人間だ。実質的に息子みたいな感じだったじゃないか」

「あはは! そうね」

 

 

ニュー・ホンコン総督府

 

「・・・・・面倒なことを」

「どうしたのさアオイ? 総督に飽きちゃった?」

「ハル兄、神聖ミリシアル帝国の奴等が近々ここにテロ攻撃をするつもりらしいよ」

 

アオイはカナダ領事館から届いた密書をハルトに手渡す。

 

「・・・・・よろしい、ならば戦争だ。本国には伝えた?」

「いや、まずはハル兄に見せてから報告しようと思ったのよ。ハル兄なら、そこから戦争の理由を付け足すの、得意でしょ?」

 

最高に悪い笑みを浮かべるアオイ総督。ハルトも悪い笑みで返した。

 

「わざと警備の隙を作らせて上陸させよう。無論、日本領事館の警備は万全にしておくようにね」

「最近、我々の警備の隙を突こうと、不審船が彷徨いているし、仮に上陸されても船が足りないで済むしね」

「日本領事館には足を踏み入れさせるなよ? 彼処には僕の友人が2人もいるからね」

「パラディオンよりも友人、流石はハル兄ね」

「あれはついでだよ。それに、古の魔法帝国は核兵器で消し飛ばす予定だし」

 

神聖ミリシアル帝国の影を逆手に取り、逆に同国の立場を悪くするべくイギリスは動き出した。ハルトは密書の内容に加筆修正を加えた上で報告書を外務・英連邦・開発省に送付。アオイは国防省に対して、作戦計画の原案を提出。本国でそれらを吟味し、加筆修正を加えた後に作戦の実施が決定。日本側には作戦は伝えられず、ハルトはアキコに対して、秘密回線で彼女にだけ通知した。

 

「つーことでよろしく!!」

(私を殺す気が!!)

「大丈夫大丈夫、偉大なる英国軍が守るから!! ただ、僕は神聖ミリシアル帝国に巣食う帝国主義者を駆逐し、世界平和を実現したいだけだよ」

(なんでこんな国と同盟してるんだろう・・・・)

「最悪の事態に備えて、ラスティとハイネは暫く日本領事館で在宅勤務にしとくから! まあ、普段通りやってよ」

(はあ・・・・・)

 

こうしてブリカスは未だに世界の覇権に拘る神聖ミリシアル帝国に対して、刃を向けることを決断した。イギリスに挑み、自滅の道を進んだしくじり国家の一つに神聖ミリシアル帝国の名が刻まれることになる。

 

(続く)

 

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