ロウリア王国 王都 ジン・ハーク ハーク城 御前会議
月の綺麗な夜、秋になり、少し涼しくなったこの日の夕方、城では松明が焚かれ、薄暗い部屋の中、王の御前でこの国の行く末を決める会議が行われていた。
「大王陛下、準備はすべて整いました」
白銀の鎧に身を包み、筋肉が鎧の上からでも確認出来るほどのマッチョで黒髭を生やした30代くらいの男が王に跪き、報告する。彼の名は将軍パタジン。ロウリア王国の軍事に関する最高責任者である。
「2国を同時に敵に回して勝てるか?」
威厳を持ち、34代ロウリア王国大王、ハーク・ロウリア34世はその男に尋ねる。
「一国は、農民の集まりであり、もう一国は不毛の地に住まう者、どちらも亜人比率が多い国などに、負けることはありませぬ」
「南西の諸侯らは余に反発して兵はおろか、金すら出さんというが大丈夫か?」
「ご案じなさらず。彼らには主力部隊の留守を突いて王都を攻め落とそう等という気概はありませぬ。仮に攻めて来たとしてもこの鉄壁の城塞を突破することは不可能です」
「うむ・・・宰相よ、1年ほど前接触してきた日本とイギリスという国の情報はあるか?」
国王は宰相のマオスに勝算の有無を問う。日本とイギリスはロウリア王国にも接触してきたが、事前にクワ・トイネ公国、クイラ王国と国交を結んでいたため敵性勢力と判断され、ロウリアには門前払いを受けていた。なおその返礼品としてイギリスはMI6の職員をロウリア王国中にばら蒔き、多額の報酬で使い捨ての現地人スパイを確保していたのであるが、無論彼らは知らない。
「日本はロデニウス大陸のクワ・トイネ公国から北東に約1000kmの所にある新興国家です。イギリスはそれよりも更に離れています。1000kmも離れていることから、軍事的に影響があるとは考えられません。また奴らは我が部隊のワイバーンを見て、初めて見たと驚いていました。竜騎士の存在しない蛮族の国と思われます。情報はあまりありませんが、イギリスはイギリス連邦王国を構成する中心国家のようです。既に10数ヵ国を事実上の属国にしており、日本は彼らの対等な立場の同盟国とのことです」
マオスははっきりと日英にはワイバーンがないと断言した。ワイバーンの無い軍隊はワイバーンの火力支援が受けられない分弱い。空爆だけで騎士団は壊滅しないが、常に火炎弾の脅威にさらされ続けるため精神力が持たない。無論日英はワイバーンを遥かに凌駕する兵器を所有しているので観賞用以外にワイバーンが必要ないだけなのだが。
「そうか・・・しかし、ついにこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人どもが根絶やしにされると思うと私は嬉しいぞ」
感涙し、ハンカチで涙を拭う大王。
「大王様、統一の暁にはあの約束もお忘れ無く・・・クックック」
真っ黒のローブをかぶった男が王に向かってささやく。気持ちの悪い声だ。
「解っておるわ!!」
大王は怒気をはらんだ声で言い返す。心底不満の様子だ。
(ちっ、3大文明圏外の蛮地と思ってバカにしおって。ロデニウスを統一したら、フィルアデス大陸にも攻め込んでやるわ!!)
「将軍、今回の概要を説明せよ」
「はっ! 説明致します。今回の作戦用総兵力は50万人、本作戦ではクワ・トイネ公国に差し向ける兵力は40万、残りは本土防衛用兵力となります。クワ・トイネについては、国境から近い人口10万人の都市ギムを強襲制圧します。なお兵站についてはあの国はどこもかしこも畑であり、家畜でさえ旨い飯を食べております。なので現地調達いたします」
広げられた地図にそれぞれの軍を模した駒を置きながらパタジンは説明を行う。
「ギム制圧後、その東方250kmの位置にある首都クワ・トイネを一気に物量をもって制圧します。彼らは、我が国のような、町ごと壁で覆うといった城壁を持ちません。せいぜい町の中に建てられた城程度です。籠城されたとしても、包囲するだけで干上がります。かれらの航空兵力は、我が方のワイバーンで数的にも十分対応可能です。それと平行して、海からは、艦船4400隻の大艦隊にて北方向を迂回。マイハーク北岸に上陸し、経済都市を制圧します。なお食料を完全に輸入に頼っているクイラ王国は、クワ・トイネからの輸出を止めるだけで干上がります」
説明は更に続けられる。
「次にクワ・トイネの兵力ですが、彼らは全部で5万人程度しか兵力がありません。即応兵力は1万にも満たないと考えられます。今回準備してきた我が方の兵力を一気にぶつけると、小賢しい作戦も、圧倒的物量の前では意味をなしません。6年間の準備が実を結ぶことでしょう」
最後にロウリア王国軍を模した駒がロデニウス大陸全体を制圧したところで説明が終わる。
「そうか・・・・ふっふっふ、はっはっはっはあーっはっはっは!!! 今宵は我が人生で一番良い日だ!! 余は、クワ・トイネ、クイラに対する戦争を許可する!!!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーー
王城は喧噪に包まれた。この様子は城内に潜入するオーストラリアの諜報員の手により迅速にファイブアイズ加盟国に共有される。加えて各地に潜入する各国の諜報員や現地人スパイにより詳細な情報を入手。クワ・トイネ公国側に対して情報提供を行った。
クワ・トイネ公国日本大使館
「本国からは何と?」
「政府は英国軍を支援する為、日英同盟に基づき陸海空自衛隊並びに海上保安庁の派遣を決定。既に英国の空母プリンス・オブ・ウェールズを旗艦とする日英の空母打撃群は佐世保を出港したとのこと!」
外務省キャリアの田中は本国からもたらされた援軍派遣の情報を速やかにクワトイネ公国側へと通達した。
クワトイネ公国イギリス連邦王国大使館
「・・・・という訳で我が国はロウリア王国による侵略行為を断じて許すことは出来ず、英国紳士の誇りにかけて侵略者を一人残らず叩き出すことを決定致しました」
イギリスの大使はクワ・トイネ公国側に対して援軍派遣並びにロウリア王国への宣戦布告を表明した。
「おお!! ありがたい!!」
「此方は我が国の首相、スターマンによる宣戦布告の文書です。これをロウリア王国の連中に渡してやってください」
「承知致しました! これで我が国は救われます!!」
中央暦1639年11月11日午前―――ロウリア・クワトイネ国境付近
ロウリア王国東方討伐軍 本陣
「我々はクワ・トイネ公国並びにクイラ王国とロウリア王国の間の紛争の平和的解決を強く望んだ。法の支配による相互の主権尊重、領土の不可侵、自由主義、民主主義。しかし! ロウリア王国は我々の努力を踏みにじり、あろうことか宣戦布告という愚行に出た!! クワ・トイネ公国並びにクイラ王国に滞在する自国民保護の為、我がグレートブリテン及び北アイルランド連合王国は志を同じくするカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、ソロモン諸島、ツバル、アンティグア・バーブーダ、ジャマイカ、グレナダ、セントルシア、バハマ、ベリーズ、セントクリストファーネイビス、セントビンセントグレナディーンと共にロウリア王国に対して宣戦布告する!! 我が大英帝国を敵に回したことをあの世で後悔するが良い!!」
本陣ではクワ・トイネ公国のアナウンサーがイギリスからロウリア王国に対して行われた宣戦布告の言葉を読み上げていた。同時に日本国が日英同盟に基づき、戦争に参戦することも合わせて発表。一方で新興国が群れたところで大したことはないとしてロウリア王国側は予定通りの行動を開始していた。
「明日、ギムを落とすぞ」
Bクラス将軍パンドールは、ギムに攻め込む先遣隊約3万の指揮官の任を与えられていた。歩兵20000、重装歩兵5000、騎兵2000、特化兵(攻城兵器や、投射機等、特殊任務に特化した兵)1500、遊撃兵1000、魔獣使い250、魔導師100、そして、竜騎兵150である。数の上では、歩兵が多いが、竜騎兵は1部隊(10騎)いれば、10000の歩兵を足止め出来る空の覇者である。それが150騎もいる。
「これだけの兵がおれば、我々先遣隊のみでも征服出来ようぞ」
パンドールは、満面の笑みを浮かべ、部隊を見つめていた。ワイバーンは高価な兵器である。ロウリア王国の国力であれば、本来国全てをかき集めても200騎そろえるのがやっとである。しかし、今回は、対クワトイネ公国戦に、500騎のワイバーンが参加している。噂では、第三文明圏、フィルアデス大陸の列強国、パーパルディア皇国から軍事物資の支援があったとされている。事実なのか不明であるが・・・いずれにせよ、先遣隊に150騎のワイバーン。この明らかに過剰な戦力にパンドールは満足だった。
「ギムでの戦利品はいかがしましょうか?」
副将のアデムが話しかける。彼は冷酷な騎士であり、ロウリア王国が領地拡大のために他の小国を統合した時代、占領地での残虐性は語るに耐えない。
「副将アデムよ、お前に任せる。」
「了解いたしました。」
アデムは将軍に一礼すると、後ろを振り返りすぐさま部下に命じる。
「ギムでは略奪を咎めない。好きにしていい。女は嬲ってもいいが、使い終わったらすべて処分するように。一人も生きて町を出すな。全軍に知らせよ」
「はっ!!!」
アデムの部下は、すぐさま天幕を出ようとする。
「いや、待て!!!」
アデムに呼び止められる。
「やはり、嬲ってもいいが、100人ばかり、生かして解き放て、恐怖を伝染させるのだ。それと敵騎士団の家族がギムにいた場合は・・・・なるべく残虐に処分すること」
恐怖の命令、このアデムの心は人間ではない。そう思いながら部下は天幕を飛び出し、命令を忠実に伝えた。
クワ・トイネ公国 在桑英軍エジェイ基地
「ロウリア王国の物と思わしきワイバーンがクワ・トイネ公国の防空識別圏に接近中!! その数150!! 航空隊は直ちにスクランブルせよ!!」
基地司令からの指示により、完全武装をしたイギリス空軍の戦闘機ユーロファイタータイフーンが次々と滑走路から離陸していく。エジェイ基地の周辺では周辺住民が次々に飛び立つ王立英空軍の戦闘機に手を振り、健闘を祈っている。イギリス空軍に続いて自衛隊のF2戦闘機が、カナダ軍のCF-18ホーネットが追い掛けるように離陸。日英加の空軍戦力が国境線に迫るロウリア王国軍の脅威に立ち向かおうとしていた。
ロウリア王国北東200キロ海中
イギリス海軍原子力潜水艦アスチュート
「艦長、時間です」
「よし! 攻撃始め!!」
ロウリア王国近海の海中にその身を潜める王立英海軍の原子力潜水艦アスチュートはアメリカ製の巡航ミサイルトマホークを発射した。目標はジンハーク近郊のワイバーン関連施設。後方であってもロウリア王国に安全な場所はないことを誇示しつつ、同時に予備の航空戦力を削りきる作戦である。ちなみにトマホークは日英共同でリバースエンジニアリングの上で国産化することが決まった装備の一つであり、近々試作品が完成する予定である。
クワ-トイネ公国 マイハーク港
「あれが日本とイギリスの海軍艦隊か・・・」
「何てでかいんだ・・・・日英の艦艇は化け物か!?」
日本国によるインフラ整備により、大型船の停泊が可能になったマイハークには日英の空母打撃群が停泊していた。参加戦力は、
日本国
イージス艦「ちょうかい」、「まや」
護衛艦「いずも」、「もがみ」、「くまの」、「あきづき」、「むらさめ」、「あけぼの」、「ありあけ」、「いかづち」、「てるづき」
補給艦「ましゅう」
イギリス
空母「プリンス・オブ・ウェールズ」
駆逐艦「ダイヤモンド」
フリゲート艦「ケント」
カナダ
フリゲート艦「トロント」、「モントリオール」
オーストラリア
フリゲート艦「アンザック」※、「アランタ」※、「スチュアート」
ニュージーランド
フリゲート艦「テ・マナ」※
補給艦「アオテアロア」
※はクワ・トイネ公国海軍兵が運用能力取得に向けて訓練の為に乗り込んでいる艦
と、ファイブアイズ加盟国の艦艇が集結していた。ちなみにイギリス海軍の駆逐艦ダンカンが機関故障につき、佐世保に引き返した為に代替艦として急遽海上自衛隊の護衛艦「てるづき」が追加で派遣され、本日到着した。45型駆逐艦は不具合のデパートであることから一部の英国の貴族院議員がぶちギレて、
「45型駆逐艦の改修は諦めてオーストラリアやニュージーランドと共にジャパンのモガミクラスを導入せよ!!」
と過激な発言をしたという。パプアニューギニアやグレナダを始めとした他のイギリス連邦王国加盟国は少数の陸上戦力を大使館防護やクワ・トイネ公国首脳防護の為に駐留するが、事実上形だけの宣戦布告である。ロウリア王国側による侵略の意思表示とそれに伴うイギリス側の報復、同盟を遵守する日本側により今戦争が開始されようとしていた。
(続く)