グラ・バルカス帝国領レイフォル
ニューアーク軍港戦艦「グレート・ルークス」艦内通路
「皇帝陛下専用の格納庫があるって話知ってるか?」
「知ってる知ってる。何でも、皇帝陛下がガルマ様の為に貯め込んだ金銀財宝を寝かせているらしいぞ?」
「皇帝陛下はガルマ様を溺愛してらっしゃるが、カバル皇太子ではダメなのかな?」
「さあな。我々末端には皇族の方々の事情なんて分からねえさ」
「何でも、ガルマ様は日英との早期講和を模索しているらしい。まさか、ガルマ様のお命と金銀財宝で赦しを請うとか?」
「だが、ガルマ様を溺愛する皇帝陛下だ。ワシの命とガルマの命を交換してくれ、ぐらいは言いそうだよな」
「確かに」
「俺は皇帝陛下はニューアークで隠居して、本国はカバル皇太子に任せるつもりという話を聞いたぜ?」
「でも、カバル皇太子は日英と和睦することに否定的じゃなかったか?」
「レギン首相も現時点での和睦はない、と言ってたしな。どうなるんだろうな?」
艦内通路では、戦艦「グレート・ルークス」の乗員らが日英の外交官を迎え入れる準備を進めていた。乗員らは様々な噂話に持ちきりであり、会談の結果がどうなるかに関心があった。やがて艦内放送が流れ、皇帝グラ・ルークス、ニューアーク総督グラ・ガルマ、駐ムー英国大使ブレンダン、駐ムー日本大使御園が配下を率いて乗艦する。兵士達は身だしなみを整え、ビシッと整列する。
「敬礼!!」
ガルマ総督の案内で艦内に入る日英の大使らに敬礼する水兵達。皇帝陛下直属の部隊ということもあり、練度は高く、非常に容姿端麗な兵士が揃っている。やがて彼らは会議室に案内され、極秘の講和会議が開催される。
「この度は我が大英帝国の国力を知り、賢明な判断を下されたことに深く感謝致しますぞ。ガルマ総督はご存じであるとは思いますが、私は駐ムー大英帝国大使のブレンダンと申します」
「同じく駐ムー日本大使の御園と申します。この度は我が日本国とグラ・バルカス帝国の講和会議が開催されることを心から嬉しく思います。一刻も早く、無用な争いを止めましょう」
「そなたらが日英の大使か。余はグラ・バルカス帝国皇帝グラ・ルークスである。そなたらにはガルマが世話になっていると聞いた。余の過ちで多数の民、そしてガルマの命が危うい状況には耐えられぬ。日英、いや世界と一刻も早く和睦したいと考えておる。よろしく頼む」
双方の自己紹介が終わると、早速会談が始まる。
「まずは我々大英帝国並びに日本国からの提案になります」
日英の外交官からグラ・バルカス帝国側の代表団に講和案が手渡される。ガルマらニューアーク総督府の協力により、日本語、英語(イングランド)、グラ・バルカス語の3言語に翻訳されている為、全員が内容を理解出来るようになっている。
1.グラ・バルカス帝国は、ニューアーク総督府の管轄範囲を除く全ての植民地を放棄すること
2.グラ・バルカス帝国軍は解散し、日本国並びにグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の指導の下、NATO式に再編すること
3.日英両国が指名した人物を公職追放すること
4.皇帝グラ・ルークスは退位、皇太子グラ・カバルは廃嫡とし、四男グラ・ガルマに皇位を継承させること
5.グラ・バルカス帝国皇帝家は、グラ・ガルマ並びにグラ・ドスルの両家のみとし、他の家については臣籍降下すること
6.グラ・バルカス帝国は、日本国並びに英連邦王国、また第二文明圏諸国に対して、適切な金額の賠償金を支払うこと
7.グラ・バルカス帝国は、第二文明圏諸国と経済協定及び軍事同盟を締結し、同地域の安全保障を担うこと
8.グラ・バルカス帝国は、日英が指名した人物を戦争犯罪人として引き渡すこと
9.グラ・バルカス帝国の核武装は一切認めない。保有している核兵器は全て日英に引き渡すこと
10.当面の間は日英両国による民主化政策を実施する。これを担う組織として、総督府を設置する。グラ・バルカス帝国政府は、総督府の指導を受けて政策を実行すること
11.グラ・バルカス帝国は、ミゴノクカ地域を日英に割譲すること
他にも細々とした内容はあったが、概ねこのような内容であった。事前に日英とニューアーク総督府が話をしており、これなら皇帝も納得するという話であった。
「・・・・・この内容に相違はないのだな?」
グラ・ルークスは日英の外交官を睨みながらそう発言する。
「相違ありません」
「大英帝国は約束を守ります(パレスチナ? 知らんな)」
「そうか」
皇帝グラ・ルークスは書類を机に置く。皇帝の次の行動に皆の視線が集まる。
「余の考えを述べさせて頂きたい」
「構いません。よろしいですな、ミスター・ミソノ?」
「はい、大丈夫です」
「うむ。まずは植民地の放棄についてである。何故にニューアークは除外になったのだ? 貴国らは我が帝国を解体したいのではないのか? であれば、全ての植民地を取り上げるのが筋ではないのか?」
「最初はそう考えましたが、グラ・ガルマニューアーク総督は市民に愛されております。市民らはグラ・バルカス帝国に好意を抱いており、無理にレイフォルに返還しては新たな戦争の火種になりかねません」
「だが、レイフォルはニューアークを含めて独立することを望んでおろう。それこそ争いの火種ではないのか?」
「それを防ぐため、第二文明圏諸国にはグラ・バルカス帝国と経済協定と軍事同盟を結ばせます。経済的に国家を統合するのです」
「・・・・・ほう、聞かせよ。非常に興味がある」
「では。そもそも第二文明圏諸国は可能であればグラ・バルカス帝国と対立することは避けたいのです。彼らにとって本当に脅威なのは第一文明圏列強、神聖ミリシアル帝国だからです。特にムーは我が大英帝国や日本国と強い結びつきを有していますが、もし神聖ミリシアル帝国が敵になれば、両国を結ぶ海上交通路が遮断されます。そんな状況でグラ・バルカス帝国とも対立している。仮に貴国が一度敗北したとしても、再度戦争にならない保障がなければ安心出来ません。また、我が大英帝国や日本国も第二文明圏までの大規模遠征は控えたいのです。もし、グラ・バルカス帝国が第二文明圏の安全保障を担うとなればどうでしょうか? 第二文明圏諸国は背後を気にする必要がなくなり、またグラ・バルカス帝国も経済的に第二文明圏を掌握出来ます。そして貴国は何れ第二文明圏最大の経済大国になるでしょう」
経済協定と軍事同盟のメリットを説明するブレンダン大使。イギリス政府は第二文明圏にNATOのような軍事同盟とEUのような経済政治同盟を構築させ、争う必要をなくしたいと考えていた。脱退した奴がEUの猿真似組織を作らせようとしている矛盾はあるが。まあ、ともあれイギリスは7つの宝を探すため、この星の隅々までユニオンジャックを立てる為に艦隊を派遣しなくてはならず、グラ・バルカス帝国にかまっている暇なんてないのが本音だが。
「平和的解決か・・・・パガンダやレイフォルにはそれが出来なかったようだが、他は出来るのか?」
「もし出来ない国があるのでしたら、我が大英帝国が介入し、クーデターを起こさせます」
イギリスはただ核ミサイルをぶっ放していただけではない。第二文明圏にはレイフォルに従属していた様々な弱小国家が点在していた。それらの国々はイギリスの警告を無視してグラ・バルカス帝国に臣従する道を選ぶ国が多かったが、イギリスは既に全ての国に対して武力介入を実施。国内の親日英派の勢力からの支援要請や民間人保護を名目に、頭ロシアかよと言わんばかりにカナダ、オーストラリア、ニュージーランドと共に一つずつ潰して回っていた。既に第二文明圏をイギリスは統一に成功しており、あとはグラ・バルカス帝国のみだったのである。
「そうか。ニューアークはガルマの為にわざわざレイフォル征統府から分離していたのだが、まさかそれが功を奏すとはな」
皇帝グラ・ルークスは、今亡き正妻の忘れ形見である四男ガルマを可愛がっていた。後に皇帝はニューアークを征統府からグラ・ルークス個人の直轄地に昇格させ、自身は譲位して皇太子に皇位を譲った後に直轄地で隠居。その後は直轄地をガルマに譲ろうとしようと考えていたのである。
「続いて軍についてであるが、NATO式とは何だ?」
「細かい話をすると長くなりますので、かいつまんで説明致しますと、我が大英帝国や盟友日本国と相互互換性のある軍に再編するということです」
「しかし、戦争は貴国らが優位に進めておる。我々が貴国らの立場であるならば、軍を解散させ、二度と保有させないようにする。何故に寛大な措置を講じようとする? 帝国が憎くはないのか?」
「如何に我が大英帝国と言えど、第二文明圏の遥か彼方まで統治し、防衛することは出来ません。それに、将来的な古の魔法帝国復活の可能性に備え、貴国の戦力を活用出来るようにしたいのです」
クルセイリース大聖王国やアニュンリール皇国との戦争の可能性が指摘されているイギリスでは、速やかに第二文明圏戦線を整理する必要が生じていた。また、神聖ミリシアル帝国が第三文明圏にちょっかいを出してこないようにする為の抑止力としてもグラ・バルカス帝国を活用したい、そう考えていたのである。
「そうか。公職追放についてであるが、日英が指定した人物に加え、帝国内部の不穏分子についても対象には出来ぬか?」
「不穏分子、ですか?」
「実はな、部下からはニューアークは反乱が頻発しており、非常に危険だと聞かされていたのだ」
「・・・・成る程、正確な情報が提供されていなかったということですか」
「ああ。部下からはニューアーク行幸を中止するように嘆願されていた。だが、余の可愛い息子であるガルマを連れて帰らなくてはならぬと思い、皇帝権限でやって来たのだ」
「承知致しました。では公職追放については、再度人選を行いましょう」
「次の余の退位と皇太子カバルの廃嫡、そしてガルマへの家督継承。これは余の方からも頼みたいと思う」
「それは何故に?」
日本の大使、御園は話について行けず、ただメモを取るだけであった。完全に講和交渉はイギリスのペースで進んでいる。
(・・・・外務省でこの手の交渉について行ける外交官は非常に限られている。朝田さんや根部さんなら・・・・)
御園は自身の力量の無さを嘆く。交渉は更に進んでいく。
「実はな、レギン首相が怪しげな秘密兵器を完成させたらしいのだ。皇帝である余にさえ、詳細を明かさぬ秘密兵器をな」
「・・・・成る程、それが何であるか、分かりました」
「本当か?!」
「まず大前提と致しまして、貴国の技術レベルは我々が80年前に通過したレベルです。無論、当時の技術については熟知しており、戦況を変える可能性のある兵器についても推測が出来ます」
ブレンダン大使は秘書のミツルに目配せをする。ミツルはタブレットを起動し、ある二枚の画像を皇帝やガルマ総督に示す。
「こ、これは一体?!」
「我々は核兵器と呼んでいる大量破壊兵器です。条件の9に該当する兵器になります」
ブレンダン大使は画面をスクロールし、核兵器が使用された場合発生する悲惨な状況を画像で説明する。そこには、帝都ラグナに対して行われたイギリスによる核攻撃の際の画像があった。非常に鮮明かつ悲惨な光景。紙での報告しか知らないグラ・ルークスは目を背けたくなる。
「仮に貴国が核兵器を完成させ、ムーに落とした場合、その被害を遥かに上回る惨劇がグラ・バルカス帝国全土に降りかかることでしょう。それこそ、貴国が完全に無くなるまで我々は核兵器を使用する能力があります。貴国にはそれを防ぐ術はなく、また我々は貴国の本土に上陸せずとも勝利することが可能です。今ならまだ、帝国の名誉を守ったまま講和出来るでしょう」
ブレンダン大使の恫喝により、講和会議は決した。グラ・バルカス帝国皇帝グラ・ルークスは日英両国に対して、両国の講和案を受け入れると表明した。同時にレイフォル、イルネティアの代表とも会談し、両国の独立を承認し、安全保障を担うことを約束した。こうしてグラ・バルカス帝国は名誉ある降伏への道が開かれたのである。しかし・・・・
「・・・・そろそろだな」
「・・・・何かが起きるのか?」
「ふふふ、ミスター・ミソノ、自称世界最強の国がまもなく崩壊するのですよ。そして、グラ・バルカス帝国は内戦に突入する」
「何を言っているんだ!!」
戦艦「グレート・ルークス」から退艦し、市内のホテルに戻った日英の外交官はホテルのロビーでこのようなやりとりをしていた。
「言った通りですよ。そろそろ、神聖ミリシアル帝国の首都にグラ・バルカス帝国の爆撃機が到着し、核爆弾を落とす」
「?!」
「ふふふ、何で知っているのかって? 軍部では皆当たり前に知っているよ。外務・英連邦・開発省でもね」
「我が国の外務省からは何も聞かされていないぞ!!」
「特定秘密、だからね。貴国の外交官でこの事実を知っているのは極一部。彼女らは今ニュー・ホンコンにいるかな?」
「ニュー・ホンコン・・・・」
御園の脳裏に2人の男女の外交官が過る。そしてそこに入り込むイギリス人の男性外交官と女性総督の姿も。
「貴国は世界征服でもする気なのか!!」
御園はブレンダン大使に怒号をあげる。しかし、大使は涼しい表情を崩さない。
「良いですかミスター・ミソノ。我々は敵国に囲まれているのです。第二文明圏ではグラ・バルカス帝国、第一文明圏では神聖ミリシアル帝国、そして第三文明圏ではクルセイリース大聖王国、そして未知の古の魔法帝国。更に南方世界には潜在的敵国のアニュンリール皇国。何れも我々西側諸国の価値観である、自由、平和、民主主義が通用しない国々である。それは分かりますね?」
「ぐっ・・・・それは・・・・」
「はっきり言って、同時に全てを相手にすることは出来ません。パラディオンの一行がニュージーランドに到達したことで、クルセイリースとの戦争は何れ起きる。既に我が国はパラディオン残党軍を支援している。本格的な衝突に備え、戦線を整理する必要がある」
「それと神聖ミリシアル帝国への核兵器投下に何の関係があるんだ!!」
「あるよ。神聖ミリシアル帝国では今、自国第一主義を掲げる勢力が支持を集めつつある。日英に覇権を奪われかけ、地域大国に成り下がることを認められない連中がね。そんな中核兵器が投下され、首都が更地になればどうなるか。間違いなく採算性を完全無視して本土上陸作戦を決行するだろう。一方でグラ・バルカス帝国は皇帝やガルマ総督の講和派と本土の徹底抗戦派に分裂している。我々は講和派を守っておけばよく、本土の連中はミリシアルに任せておけばよい。どのみち、本土は我々の核攻撃により、奴等だけでは使い物にならんのだからな」
イギリスは神聖ミリシアル帝国とグラ・バルカス帝国の間に憎悪を煽り、互いに戦わせ、漁夫の利を得ようと言うのである。
「・・・・まるで帝国主義時代の貴国のようだな。正直吐き気がする」
「ミスター・ミソノ、外交とは非情なものなのですよ。御人好しな態度では、他国に舐められるだけで何の意味もありません」
2人の下にブレンダン大使の秘書ミツルがやって来る。
「どうした?」
ブレンダン大使に耳打ちしながら資料を手渡すミツル。それを見た大使はニンマリと悪い笑みを浮かべた。
「どうやら、遂にその時が来たようですよ」
ブレンダン大使は御園にタブレットの画像を見せる。そこには・・・
「こ、これは!?」
「これで神聖ミリシアル帝国は終わりです。後は我々の手で作り変えるだけです」
「なんて非道な・・・・」
御園はそう呟くしかなかった。この世界でもブリカスはブリカスなのだと実感しながら。
神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリス上空
グラ・バルカス帝国武装親衛隊所属グティーマウン1号機
「間もなく目標地点に到達します!!」
「む?」
機長席に座るグラ・バルカス帝国武装親衛隊のアルベール・トガー大尉は後方から接近するジェット機に気付く。
「どうやら首都近郊の基地から離陸した機体だな。副機長、操縦を任せる。私は後方の機銃座に向かう」
「了解しました」
トガーは後方の機銃座に移動。待機していた機銃要員に対して、代わるよう指示した。
「ふっ、意気込みは良し。だが相手がヒヨッコではな」
トガーは向かって来た神聖ミリシアル帝国の戦闘機をヒヨッコと揶揄する。見れば分かるが、明らかに操縦に不慣れな感じが出ていた。必死にグティーマウンに食らいつくので精一杯なのが丸わかりであった。
「・・・・・そこだ!」
トガーは機銃座を操作し、迎撃に上がってきた戦闘機を瞬く間に撃ち落とす。見ていた機銃要員らは歓喜の声をあげる。
「悪く思うなよ・・・グラ・バルカス帝国の理想を阻む者の末路が、死のみであるということを!!」
やがて爆撃機は首都中枢、アルビオン城の上空に差し掛かる。
「爆弾倉を開け!!」
爆弾倉が開き、1発の爆弾が投下される。日本人が見れば、広島に投下された原爆にしか見えないであろう。そして・・・・
「・・・・作戦成功です!! 大尉!!」
この日、神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリスは灰燼に帰した。アルビオン城を中心にキノコ雲が上がり、街は一瞬にして炎に包まれた。爆心地となったアルビオン城では、偶然にも全閣僚が参加する御前会議(会議の内容はレイフォリア奪還後のグラ・バルカス帝国本土侵攻計画の立案と軍備増強計画)が開催されており、皇帝ミリシアル8世以下首脳陣が一瞬にして炎の中へと消えた。国籍を問わず、多数の民間人も死傷し、100万を超える人命が喪われた。しかし、日英両国は既に全ての邦人を退避させており、両国から死傷者が出ることはなかった。後にルーンポリスは、「異世界のヒロシマ」と呼ばれ、核兵器廃絶を訴える運動の象徴の一つとなるのである。
「予定通りに機体は海没処分とする。潜水艦と合流せよ」
「了解しました」
後にトガーら搭乗員はルーンポリス上空から離脱。予定通り機体を海上に着水させた後に待機していた潜水艦と合流。彼らは寄り道することなく、本土へと帰還することになるのである。この作戦成功によりトガーは昇進して少佐となり、武装親衛隊の象徴となるのである。
同時刻グラ・バルカス帝国領レイフォル
武装親衛隊秘密兵器管理施設
「・・・・・頃合いだな。離脱の用意は出来ているな?」
「はい。抜かりありません!!」
「皇帝はレイフォリアに帰還したか?」
「はい。ですが、一部では影武者ではないかとの噂が・・・・」
「影武者でも構わん。仮に影武者であったとしても、レイフォリアで世界連合に致命的打撃を与えることがレギン首相の目的なのだ。予定通りに起爆させよ。奴等世界連合は皇帝が本当にここにいると思っているからな」
武装親衛隊隊長エギーユ・ハゲーズは作戦の第二段階に移らせる。隊員らは定められた手順通りに起爆の準備を進めていく。
「閣下! 準備完了です! あとは離脱するのみです!!」
「うむ。さて、奴等は既にレギン首相の掌で踊らされていることにいつ気付くのやら・・・」
この日の夜、武装親衛隊の隊員を乗せた1隻の軽巡洋艦がレイフォリアを離れた。誰も軽巡洋艦の出港を気に留めることはなく、彼らは安全に本土へと帰還した。彼らの出港の翌日、レイフォリアの沖合いには世界連合の艦隊や輸送船団が出現。
「レイフォルを奪還せよ!!」
「グラ・バルカス帝国の奴等に目に物見せてやろうぜ!!」
輸送船団から神聖ミリシアル帝国を中心に続々と陸軍部隊が上陸を開始した。しかし、レイフォリアにグラ・バルカス帝国軍は存在しておらず、外務省を中心とする文官やレイフォル征統府傘下の治安維持部隊がいるだけであった。
グラ・バルカス帝国 レイフォル領 外務省レイフォル仮出張所
「何故帝国軍がいないのだ!?」
ダラスは怒りに任せて部下を怒鳴りつける。
「分かりません! 昨夜の内にニューアークに鉄道で移動したのではないかと思われますが、詳細は不明です!!」
「ならばニューアーク総督府に問い合わせろ!! レイフォリアに敵が上陸。至急援軍を求めるとな!!」
「それが、ニューアーク総督府との電話回線が何者かにより切断されているのです!!」
武装親衛隊は離脱する際、万が一の情報漏洩に備えてレイフォリア市内の電話回線を破壊していた。そんなことを知らない外務省や征統府は大混乱を起こしていた。そもそも、武装親衛隊自体が既にいないことにも気付いていない。
「レイフォリアには皇帝陛下も居られるのだぞ!! どうするつもりだ!!」
何の解決策のないまま、時間だけが過ぎていく。既にレイフォリア市内には神聖ミリシアル帝国を中心とする陸軍部隊が侵入していた。
「ヒャッハー!! いい酒があるじゃねえか!!」
「汚物は破壊しねえとな!!」
「女あ! 俺の相手をしろ!!」
「いやー!!」
彼らは市内で入植者の家屋や店舗に侵入するやいなや破壊や略奪に手を染めており、女子供を見つけると性的暴行に走る兵士もいる等、悲惨な光景であった。
「カルトアルパスやバルチスタ沖海戦の借りを返してやろうぜ!!」
「利息付きでな!!」
それが彼らの動機であった。その時であった。
「なんだあの光は!!」
それがダラスの最後の言葉であった。武装親衛隊が設置していた起爆装置が遂に起動。日本人が見れば長崎に投下された原爆にしか見えない爆弾が地上で爆発した。キノコ雲が巻き上がり、敵味方問わず、レイフォリアは核の炎に焼かれた。一部ではベル◯式国防術を実践したと言われたレイフォリア奪還戦。グラ・バルカス帝国はレイフォリアを喪ったものの、世界連合軍は25万の陸軍戦力を投入していたが、その大部分の20万が死亡。3万の負傷者を出し、壊滅した。この報せをカルトアルパスで聞いた神聖ミリシアル帝国皇太子、後のミリシアル9世はこう言った。
「我が国はグラ・バルカス帝国を絶対に許すことはない。グラ・バルカス帝国のような蛆虫は一人残らず民族浄化する。それに歯向かう国々も同様だ!!」
神聖ミリシアル帝国は、壊滅したルーンポリスに仮の施設を拵えた上で新たな政府を樹立。皇帝ミリシアル9世が即位し、グラ・バルカス帝国との戦争継続を改めて表明。同時に世界連合各国に対して、グラ・バルカス帝国本土上陸作戦への参加を呼びかけると共に、本土上陸作戦により各国が得た土地は切り取り勝手次第であると発言。領土拡大を狙う各国はミリシアル9世の旗の下に参集することになるが、この方針はイギリスとの対立を決定的にし、後に両国は国交を断絶し、戦争の一歩手前まで関係が悪化することになるのである。
イギリス領ニュー・ホンコン
ニュー・ホンコン総督府総督執務室
「自国第一主義を掲げる勢力の親玉が皇帝に即位ですか。しかもグラ・バルカス帝国本土上陸作戦を各国に呼びかけ、領土は切り取り次第? 文明国のすることではない、そう思わないかい? アオイ?」
「全くね。本土上陸作戦を実行したところで、何も得られやしないのにね。既にグラ・バルカス帝国は内戦突入前夜。我々は大英帝国との講和を求めてきた勢力を抱え込んでいる。彼らを支援すれば勝手に徹底抗戦派と戦ってくれるし、そこに飛んで火に入る夏の虫の神聖ミリシアル帝国。愚かね」
「だけど、ミリシアル9世は本当に馬鹿だよね。本土上陸作戦をするには戦力が足りない。戦力だけじゃない、金だって足りない。既に奴等は軍備増強の為に多額の国債を発行したばかりじゃないか」
「総額3000億ポンドの国債大発行だっけ? 借金で首が回らなくなるのは明白なのに・・・余程敗北したのが悔しかったみたいねえ」
先のバルチスタ沖海戦で戦力が壊滅した神聖ミリシアル帝国。帝国軍再建の為に同国はカルトアルパス一帯の土地を担保に東京、ロンドン、ニュー・ホンコンにて総額3000億ポンド(59兆8134億円)の国債を発行。日英両国の投資家らは、神聖ミリシアル帝国にこれだけの国債を返済できる見込みはないと判断し、土地を目当てに国債を購入していた。
「ちなみに私も買ったわよ。退役したらカルトアルパスでゆっくり暮らせるようにね」
「その前にアオイは結婚しないとダメだろう。軍人生活が続いたせいでまともにお見合いとかしてないし」
「そう言うハル兄は中々奥さんの元に帰らないじゃん」
「でも既に子供はいるし、今はスコットランドの邸宅で子育てしてるよ。むしろ帰るとこうだぞ?」
ハルトは妻の声真似をする。
「帰って来たんだねハルト!! 私も一緒!! さあ、早くやろう!! って、ベットを指差しながら言うんだよ? 既に男2人女2人産んだのにまだまだヤル気満々なんだよ? 先に僕が枯れちゃうよ」
「逆によく4人で済んでるよねハル兄」
「そんなことより神聖ミリシアル帝国だろう、問題は」
「奴等は第二文明圏からグラ・バルカス帝国を叩き出したいからね。衝突の可能性は高いわね」
「だが、ニューアークは我が大英帝国の味方、ガルマ総督の支配地域。ここに手出しされる理由には行かないな」
「だからこそ、敢えて野放しにしてるんじゃない。神聖ミリシアル帝国の特殊部隊を・・・・」
兄妹は共にニヤリと笑う。
「奴等のことだ。自国の特殊部隊の犯行をグラ・バルカス帝国になすり付け、大英帝国の参戦を引き出しつつ、イヴと祭祀の杖を奪うつもりなのだろう」
「浅はかよね。そんな浅知恵なんてバレバレなのに」
神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリス
政府仮庁舎皇帝執務室
「既に特殊部隊はニュー・ホンコンに潜入しており、頃合いを見て作戦を実行する予定です」
「特殊部隊隊員にはグラ・バルカス帝国風の装備を持たせております。これで奴等も誤認するでしょう」
「日本国は本当に御人好しな国です。グラ・バルカス帝国の特殊部隊の装備に関する情報を要求したら詳細な情報を提供して来たのですから」
「あとは皇帝陛下の御下知のみです!!」
「うむ。最近調子に乗っている日本国と大英帝国を教育する必要があるからな。ただちに作戦を開始せよ!!」
皇帝ミリシアル9世の下知により、日英に対しての特別軍事作戦が発動した。狙いはイヴと祭祀の杖の奪取、そして日英のグラ・バルカス帝国本土上陸作戦への参戦表明である。彼らは既に大英帝国の掌の上にいることをまだ知らない。
「・・・・・事がならぬ時は・・・」
会議に参加していた皇帝ミリシアル9世の弟は何処かへと向かって行った。
(続く)