イギリス領ニュー・ホンコン
ニュー・ホンコン島北方海域
「・・・・・皇帝陛下からの勅命だ。闇夜に乗じ、ニュー・ホンコン島へ上陸せよ!」
先のパーパルディア皇国との戦争により、イギリスの永久領土となったニュー・ホンコン島。先の新海の租借期限による香港島並びに九龍半島返還という過ちを繰り返さない為、イギリスはカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを巻き込んだ。カナダは広大な市街地カイシンを、オーストラリアとニュージーランドは軍事拠点ロークン半島を、そしてイギリスはニュー・ホンコン島を獲得した。これらはそれぞれ別々の国の永久領土ではあるものの、それは形式上であり、実際はこれらの地域全てを纏めてニュー・ホンコンとされ、ニュー・ホンコン島に置かれるニュー・ホンコン総督府の支配下にある。つい昨日、ニュー・ホンコン市議会により、カイシンがニュー・ニューテリトリー、ロークンがニュー・クーロンに改称された。これにより、名実ともに大英帝国香港総督府が異世界に蘇り、ニュー・ホンコン総督アオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンもご満悦だったという。
「しかし、奴等も愚かですな。我々神聖ミリシアル帝国を敵に回すのですから」
新月の夜、カナダ領ニュー・ニューテリトリーから手漕ぎボートでイギリス領ニュー・ホンコン島へ上陸しようとする団体。彼等は神聖ミリシアル帝国皇帝直轄の特殊作戦群である。国防省の指揮下には入らず、皇帝の意向で動く、エリートの中のエリートの更にエリートしか入れない精鋭中の精鋭部隊である。
「しかも我々のことをグラ・バルカス帝国の精鋭部隊にしか見えないであろうしな」
彼等は日本側から入手したグラ・バルカス帝国の特殊部隊、シーン暗殺部隊に酷似した服装や装備を有していた。彼等の目的は以下の通りである。
1.祭祀の杖は世界平和の為に神聖ミリシアル帝国により管理されるべきである。古の魔法帝国を封印する祭祀の杖並びにそれを扱う巫女とその守護者をあるべき場所に移すこと
2.日英両国が神聖ミリシアル帝国の要請を拒否したことに対して、実力を以て厳罰に処すこと
3.イギリス政府からの謝罪とを賠償引き出す為、ニュー・ホンコン総督並びにその家族を拉致し、人質とすること
4.日本政府からの謝罪と賠償を引き出す為、ニュー・ホンコン領事とその家族を拉致し、人質とすること
5.作戦においては、我が国の関与を全面的に否定し、グラ・バルカス帝国に責任をなすり付け、先のニューアーク平和条約をぶち壊すこと
要は、
世界最強の国がお前ら僻地の蛮族に頭を下げてやったのに何だその態度は? あと何勝手に敵国と和平を結んでやがるんだ。彼奴等はこれから世界連合の植民地にする予定だったんだぞ。我が国の計画を御破算にしやがって許せねえ。そもそもお前ら僻地の蛮族の集まりの癖に最近生意気過ぎねえか? 身の程知らずにも程がありすぎるだろ。ここいらでちょっと叱りつけ、教育しないとなあ?
ということである。日本だけが相手ならこのような脅しは非常に有効だった。しかし、彼等は地球世界の紛争の元凶を作り出した国、ブリカスこと、イギリスを同時に敵に回したのである。
ニュー・ホンコン総督府
総督執務室
「・・・・・来たわね、戦争を教えてあげないとね」
島中に張り巡らされた監視カメラや鉄条網、竜の歯。島全体が要塞と化しているニュー・ホンコン。ニュー・ホンコン初代総督であるアオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンは速やかに武装し、出撃準備を整える。
「アオイの完全武装なんて久々じゃない?」
「基本的には総督府で書類整理ばかりだったからね。でも、最近は市議会も発足し、内政は民政移管。総督府は基本的に軍事を担う存在になったから、訓練するだけの暇は出来たのよね」
「そっか。で、アオイは何処に行くのかな?」
「私は精鋭を率いて日本領事館に行くわ。奴等の最重要目標は間違いなく日本領事館。精鋭部隊同士のぶつかり合いになるし、総督自らが同盟国を守る為に出撃したというポーズが必要だしね」
「ははは、スターマン政権は君をプロパガンダに使うか。まあ、そうなるよね」
「ハル兄は総督府に待機しててね。総督府にも部隊は残していくから。一応、ニュー・クーロンのオーストラリア軍とニュージーランド軍、そして同地域の基地を共同使用しているパーパルディア皇国軍にも部隊を出すように要請はしておいたから」
「かしこまり〜。紅茶でも飲んで待っておくよ。最近セイロンの紅茶が仕入れられたしね」
「じゃあ、行ってくるわ」
「戦闘後の後始末は任せてね〜」
イギリス軍が待ってましたと言わんばかりに待ち構えていることを知らない神聖ミリシアル帝国皇帝直轄の特殊作戦群。迎え撃つイギリス側は、ニュー・ホンコン総督府、ニュー・ホンコン島飛行場、ニュー・ホンコン島海軍基地に防衛部隊を展開。更にニュー・ホンコン総督府からは、アオイ総督率いる特殊部隊の中の精鋭10名が闇夜に乗じて日本領事館へと移動を開始した。また、島からの脱出を阻止する為にカナダ領ニュー・ニューテリトリーのニュー・ホンコン国際空港よりカナダ空軍のユーロファイタータイフーンとP1哨戒機が離陸。オーストラリア連邦並びにニュージーランド領ニュー・クーロンのニュー・クーロン海軍基地からは、オーストラリア海軍の哨戒艦2隻とニュージーランド沿岸警備隊巡視船2隻が出撃。また哨戒活動中のパーパルディア皇国海軍ニュー・クーロン派遣部隊の巡視艇1隻が応援で現場に急行中となっていた。一方、日本領事館では。
イギリス領ニュー・ホンコン
日本領事館ニュー・ホンコン島出張所
「ん? 電話か?」
私室で寝間着姿で寛いでいた副領事のシンは仕事用のスマホが鳴っていることに気付く。
「もしもし?」
(やあ、僕の親友のシン君。僕だよ。大英帝国のハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンだよ)
「(・д・)チッ・・・・・何のようだよ。ボクはこれからアキコとイチャコラするところなんだ。邪魔すんなら切るぞ」
(そっちにさあ、神聖ミリシアル帝国の特殊部隊が向かっててさ、君らのことを狙ってるみたいなんだよね〜)
「ファッ?!」
(アオイ自らが精鋭部隊を率いてそっちに向かってるけど、間に合うか分からないからさあ〜、地下シェルターに避難して耐えてて欲しいんだよね〜)
「おいおいニュー・ホンコン島は軍事要塞だろ!! しかも何で神聖ミリシアル帝国の特殊部隊が侵攻してるんだよ!?」
(祭祀の杖と巫女が欲しいのと、無駄なプライドのせいでしょ。まあ、我が大英帝国がくだらないプライドを粉々にしたんだけど)
「ざけんな!!」
(ま、取り敢えず連絡はしたから! 僕も狙われてるらしいから、総督府に立て籠もるんでよろしく!!)
「お、おい!!」
言いたいことを全て言い終えたのか、電話は一方的に切られる。そこに同じく寝間着姿のアキコがホットミルク片手に現れる。
「騒がしいけど、どうしたのよ?」
「ハルトのろくでなしから電話が来て・・・」
「・・・・ああ、言わなくても分かったわ。神聖ミリシアル帝国がここに兵を送ってきたんでしょ?」
「そ、そうなんだよ!! ハルトの妹が精鋭部隊を率いて向かってるらしいけど、間に合うか分からないって・・・・」
「間に合う訳ないじゃない。間に合わせる気ないもん」
さりげなくホットミルクを飲むアキコ。
「彼奴等は神聖ミリシアル帝国をしばく為の口実と、日本に貸しを作るため、そしてイギリス国民や国際社会への強いメッセージの為のポーズ。それらの為に神聖ミリシアル帝国が兵をニュー・ホンコンに送っていることを知りながら敢えて放置してたのよ」
やや膨らんだお腹を擦りながら話し続けるアキコ。
「でも我が国は別に神聖ミリシアル帝国に挑発なんてしてないだろ? イギリスと違って!!」
「我が国目線では・・・・・ね。でも、経済的に見たら話は違うわ。今やメイドインジャパンは異世界の主流になりつつある。これまで神聖ミリシアル帝国の製品が売れていた市場も、近年は日本製品の独壇場。畜産はオーストラリアとニュージーランドが強く、そこに軍事のイギリス、あとはイギリスの腰巾着のカナダと日英が世界の常識を塗り替えている。世界最強、世界の中心、世界の警察、世界の指導国を自称していた神聖ミリシアル帝国からしたら、日本はイギリスと同等、下手したらイギリスより恨まれてるのよ。経産省が発表した日本と神聖ミリシアル帝国の貿易収支は見た?」
「いや、見てない。アキコのことしか考えてなくて・・・」
「・・・・恋は盲目ね。まあ、シンは私が見ていないと危なっかしいったらありゃしない。そこが貴方の良いところでもあるけど」
「逆に何でアキコは平然としてんだよ・・・」
「だって、私にはシンがいるじゃない」
「え?」
暫し沈黙。互いに相手の眼を見つめる。やがて言葉の意味を理解したシンはアキコの手を引いて地下シェルターへと避難を始める。
「何で回りくどい言い方を!!」
「普通に言ったらつまらないじゃない」
「・・・・ボクの気持ちなんて手に取るように分かるくせに・・・」
要は、お前には自分しか見えてないんだから、見えるものくらい守ってみせろよ?と言われたのである。日に日に膨らみが増していくお腹の為に速く走れないアキコの手を引いて、2人は無事地下シェルターへの入口に辿り着いた。
「さてと」
アキコは地下シェルターの入口で生体認証を行い、地下シェルターへの扉を開く。中には既に他の領事館職員が逃げ込んでおり、2人の到着に安堵している様子だった。
「お姉様!」
「ちゃんと逃げ込んでたのね。アイ、パラディオンの一行は無事かしら?」
「はい。私と一緒に地下シェルターに入ったよ。今は別室で修行中みたい」
「こんな時でも修行。流石は巫女ね。自衛官らは?」
「イギリス軍の到着まで時間稼ぎをする為にニ人一組で散ってるよ」
「そう。しかし、神聖ミリシアル帝国は愚かなことをしたわね。グラ・バルカス帝国の仕業に見せたいのでしょうけど、バレバレなことに気付いていないのだもの」
「世界最強を自称しているのだったか? 呆れたものだな」
「ニンギルス、貴方もちゃんと地下シェルターに避難したのね」
「てっきり、イヴを守る為に戦う! とか言うのかと思った」
「昔の俺ならそうしたな。だが、ここニュー・ホンコンに来て、貴国らの軍について知った。如何に武術に秀でていても、どうにもならぬこともな」
ニンギルスの傍らには愛用の長槍が置かれていた。
「万が一、地下シェルターにまで敵が来た場合は俺も戦おう。そうはならぬことを祈るがな」
「まあ、地下シェルターの分厚い壁を奴等がぶち抜けるかどうかだけどね」
ニュー・ホンコン総督府
総督執務室
「敵の侵攻状況は?」
「敵は部隊を日本領事館に向けたようです。武装した敵部隊が日本領事館を目指して移動しています」
有事の際には作戦室としても機能する総督執務室では、ハルトを中心に作戦会議が開かれていた。そこでは、各地のセンサーやドローンで探知した敵の位置がリアルタイムで更新され、神聖ミリシアル帝国の特殊作戦群の位置が丸裸となっていた。
「哨戒中の哨戒艦スタッグビートルから入電!! 不審船がニュー・ホンコン島に向けて航行しているのを確認! 停船命令を無視したことから、臨検の許可を求めています!!」
「ハルト副総督、構いませんな?」
「うむ。許可しよう。必要であれば拿捕、撃沈することも許可すると伝えよ」
「ははっ!」
ニュー・ホンコン島南部海域
イギリス海軍ニュー・ホンコン守備隊
哨戒艦スタッグビートル
「艦長、総督府より当該の不審船を臨検し、必要であれば拿捕するようにとのこと!!」
「・・・・・嫌な予感がするな」
「嫌な予感・・・・ですか?」
「何かは分からぬが、あの不審船は何か良からぬ物を積んでそうだ。まずは威嚇射撃を実施し、再度停船命令を出せ。拒否した場合は船体射撃に移る」
「了解!!」
「何なんだ? この感覚は・・・」
神聖ミリシアル帝国特殊作戦群
工作船イブセマスジー
「不味いな・・・イギリス海軍に見つかったか・・・」
工作船の船長はニュー・ホンコン島への進路を阻むように並走する哨戒艦スタッグビートルを見て苦々しい表情を浮かべる。
「船長、イギリス海軍の艦から通信です」
「・・・・繋げ」
「ははっ」
(此方は大英帝国ニュー・ホンコン守備隊所属、イギリス海軍哨戒艦スタッグビートルである。貴船はニュー・ホンコン島周辺に設定している航行禁止エリアに接近している。直ちに進路を変更するか、停船し臨検を受け入れよ)
「・・・・・・」
(なお、警告は一度限りとする。指示に従わない場合)
次の瞬間、工作船イブセマスジーの前方に無数の30mm弾が着弾し、水しぶきを上げる。その速射性にイブセマスジーの乗員は驚きを隠せない。
(本艦の30mm機関砲が貴船に向けられることになる。総督府からは撃沈の許可も得ている。賢明な判断に期待する)
イギリス海軍側からの警告を見るに、自分達が敵であることを認識しているのは間違いない。下手をすれば、自分達がグラ・バルカス帝国ではなく、神聖ミリシアル帝国であることさえ把握している可能性もある。
「されど、皇帝陛下の勅命だ。やりきらねばならぬ!! ニュー・ホンコン島へ全速前進!! 積み荷を上陸させろ!! 担当者は電源を入れ、上陸に備えろ!!」
一見すれば第三文明圏各国が保有する古めかしいジャンク船にしか見えない工作船イブセマスジーは、隠していた高出力魔導エンジンを始動。時速44ノットを発揮する特注品のエンジンで加速し、哨戒艦スタッグビートルを引き離しにかかる。ちなみに乗員らはシートベルトを着用しており、安全対策も取られている。
「本船は何処に向けて進んでいる!?」
「このまま進みますと・・・日本領事館に着きます!!」
「よし! 総督府に比べれば手薄であろう日本領事館であれば・・・」
「船長! 敵機直上!!」
工作船イブセマスジーの直上にカナダ空軍所属のユーロファイタータイフーン2機が現れる。タイフーンはJDAMを投下する。
「敵機、爆弾を投下!!」
「一か八かだ! 新兵器を放出しろ!!」
工作船イブセマスジーはJDAM直撃の直前、搭載していたコンテナを3箱放出した。コンテナはある程度自力航行が可能となっており、うち1箱が海岸線に漂着。残る2箱は放出時の衝撃や直後のJDAMの着弾及び誘爆に巻き込まれ大破。海底に沈んでいった。しかし、奇跡的に漂着した1箱から日英がまだ開発出来ていない兵器が起動。日本領事館に向けて移動を開始したのである。その様子は監視の為に旋回している偵察用ドローンにより、ニュー・ホンコン総督府の総督執務室に転送された。
ニュー・ホンコン総督府
総督執務室
「敵不審船を轟沈。しかし、謎のコンテナを放出しました!!」
「コンテナ? さては敵の秘密兵器か。漂着予想ポイントに近い拠点はどこだ?」
「このまま進みますと、日本領事館付近の海岸に漂着するかと」 「・・・・・監視を続けつつ、装甲車を差し向けろ。噂の新兵器かもしれん」
監視を続けると、コンテナが開く。中からは四本脚で動く謎の無機質な兵器が姿を現す。
「副総督、何ですかあれ?」
「・・・・・MI6の報告にあった、神聖ミリシアル帝国の新兵器だな」
「新兵器?」
「恐らくは古の魔法帝国の遺跡から発掘し、復元を行ったのだろう。報告書によれば、新兵器・・・我が軍のコードネーム「サプレッション」だな。自立式の無人兵器で、四本の脚で歩行しながら移動し、胴体下部に搭載した20mm機関砲と同等程度の性能の装備で敵を制圧する兵器らしい」
「我が国ですら無人兵器であんなものはありませんぞ!!」
「だが、無人兵器そのものの装甲板は著しく薄く、拳銃程度の威力で貫通出来るくらいには脆弱のようだ。恐らくは技術力が足りないのだろう。是非とも鹵獲したいところだ」
「では、海軍と沿岸警備隊には、沈んだコンテナの回収を命じるべきかと」
「そうだな。そのように致せ。それと総督には敵が例の新兵器を投入して来たこと、増援として装甲車と自走高射機関砲を差し向けたことを伝えよ。また、日本領事館には隔壁を封鎖し、時間を稼げとな」
「ははっ!!」
日本領事館ニュー・ホンコン島出張所
とある廊下の角
「あれが噂の新兵器か」
拳銃と手榴弾で武装したオグリは、ラスティと共に第一隔壁に繋がる廊下の角に身を隠していた。
「あの方向は第一隔壁に繋がる道です。このままでは隔壁まで辿り着いてしまいます」
「なら、敵の注意を引きつければ良いだけのこと」
オグリは廊下を進む無人兵器サプレッションに対して、身を隠しながら拳銃を数発発砲した。
カン! カン!
金属が凹む音と共に、敵の存在に気づいたサプレッションがオグリとラスティの方角に向けて機関砲を向け射撃してくる。オグリは進路を変更する僅かな隙を見て物陰に隠れる。
「流石に拳銃程度じゃ、当たりどころが良くないと倒せないか。ラスティ、手榴弾の使い方、分かるな?」
「はい!」
「合図と共に投げろ。投げたら直ぐに次の角まで走れ!!」
2人は手榴弾を投げると直ぐに走り出した。直後、廊下に爆発音が響き渡る。
「破壊できたか、確認しますか?」
「絶対に頭を出すな、死ぬぞ。頭を出したら撃ち抜かれる」
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
「敵は一つじゃない。無数にいる。オレ達はイギリス軍が来るまでの時間稼ぎをしないと行けない。下手な真似をしたら死ぬぞ」
オグリが状況を確認すると別のサプレッションが向かって来ており、手榴弾により破壊された残骸を乗り越えながらオグリとラスティの方角へと進みつつあった。
「だが、殆どの敵は隔壁の方に行ったみたいだな。ウッチー、死ぬなよ。姉を悲しませんなよ。ラスティ、行くぞ!!」
「は、はい!」
「手榴弾!!」
この戦闘でオグリとラスティは神聖ミリシアル帝国特殊作戦群の無人兵器サプレッションを20機撃破し、戦闘後に日本、イギリス、ムーの各国政府から勲章を授与されることになるのである。
地下シェルター指令室
「オグリの方に行ったのは20機だけか。残り40機は此方に来てるな」
「中々に賢い兵器だね、サプレッションとやらは」
地下シェルターの指令室で第一隔壁へと繋がる廊下の角の監視カメラの映像を確認するウッチーとハイネ。彼等は地下シェルターへ続く3つの隔壁でサプレッションを迎撃。必要に応じ、武装した上で地下シェルターから出撃出来るようにする完全武装している。
「英語で鎮圧という意味らしいけど、明らかに鎮圧じゃなくてジェノサイドなんだよね〜。キルモードしか復元出来なかったのかな? だとしたら無能過ぎない?」
「ウッチー、そろそろ頃合いじゃねえか?」
「よし、迎撃モードSで対応だね。ポチッとな」
ウッチーはリモコンを操作し、迎撃モードSを起動させる。天井から格納されていた30mm機関砲が姿を現し、容赦なく銃弾をサプレッションの群れに浴びせる。
「サプレッションの迎撃率、20%!!」
「まあ、そんなところかな〜。オグリとラスティはどんな感じ?」
「現時点では9機のサプレッションを撃破。内1機は拳銃で破壊したようだな」
「急所を上手く撃ち抜いたのかな〜? 流石はオグリだね」
指令室には、第一隔壁に向けて機銃掃射するサプレッションの姿が映し出される。
「第一隔壁、突破されたぜ」
「だろうね〜。ほんじゃ、行きますか。第二隔壁も迎撃モードSを起動して、サプレッションを減らして、後は俺達で破壊しようか」
「留守居は任せたしたよ、栄1等海佐」
「ああ。存分にやってくるンだな。だが、間違いなく本隊が後から突入してくる。サプレッションを撃破したら、直ぐに帰って来るンだぞ」
「へいへ〜い。じゃあ、行くかな〜」
完全武装したウッチーとハイネが地下シェルターを出て、第三隔壁へと向かう。現時点ではまだ第三隔壁は封鎖していない為、2人は問題なく第二隔壁と第三隔壁の中間地点に到達する。
「遅かったなウッチー。オレとラスティは既に20機の無人兵器をぶっ壊してきてやったよ」
「流石はオグリ。でも、武装は使い切ったみたいだね」
「オレとラスティの分はあるか?」
「勿論。指令室からの新しい情報だと、サプレッションは更に20機が破壊され、残り20機。また、外には神聖ミリシアル帝国の特殊部隊が総督府から急行して来た装甲車部隊と交戦しているようだ」
「特殊部隊とは言えど、生身の人間と装甲車の戦いは明らかに生身の人間に分が悪いな」
「そこに総督率いる精鋭部隊が加わるらしい。俺達は迫りくるサプレッションを破壊すれば勝ちだ」
「じゃあ、一息にぶっ壊してやるか! 行くぞラスティ!!」
「は、はい!」
日本領事館前の街道
「畜生! 敵の展開が早すぎる!!」
日本領事館の目の前まで辿り着いた神聖ミリシアル帝国の特殊作戦群であったが、先回りしていたイギリス軍のブッシュマスターや26式の迎撃を受けていた。如何に精鋭中の精鋭の特殊作戦群と言えど、装甲車相手の戦いは厳しく、終始劣勢であった。彼等はイギリス側がわざと設置した窪地に身を隠しながら応戦し、一箇所に押し込められていた。
「このままでは我々の全滅はもとより、送り込んだ皇帝陛下の秘密兵器で人質にする予定のターゲットを抹殺してしまいます!」
「分かっている! とにかく撃ち返すん・・・」
指揮をしていた隊長の後頭部が撃ち抜かれる。後頭部をやられた隊長はその場で息を引き取る。
「た、隊長!?」
「Don't move(動くな)」
アオイ総督率いる精鋭部隊が遂に到着。イギリス側はわざと窪地を用意することで敵をそこに押し込め、纏めて殲滅、または捕虜にする方針だった。
「If you don't want to die, put down your weapons and put your hands up.(死にたくないのなら武器を捨て、両手を挙げろ)」
殆どの兵士は敗北を悟り、イギリス軍に降伏していくが、愛国心の強い兵士1名が自棄になる。
「こうなればお前を道連れだああああ!! 女ああああ!!」
涙と鼻水を垂らしながら爆弾片手にアオイに突っ込んでくる兵士。
「愚かな真似を」
次の瞬間、アオイは帯刀していたパーパルディア皇国製のサーベルを抜刀し、敵を切り捨てた。
「フン!」
不良品だった為に起爆しなかった神聖ミリシアル帝国側の手榴弾を窪地から放り出すアオイ。その後地面に叩きつけられたことでようやく起爆し、鮮やかな色を出しながら爆発する。
「総督、日本領事館から連絡」
「申せ」
「ははっ! 領事館に侵入した無人兵器の無力化に成功。うち1機を無傷に近い状態で鹵獲に成功したとのこと!!」
「ほう!! これは良い話ね!! 直ちに回収班を派遣させなさい」
「了解!」
神聖ミリシアル帝国の特殊作戦群による秘密作戦は失敗に終わった。それどころか、古の魔法帝国の遺跡から発掘した無人兵器を鹵獲され、神聖ミリシアル帝国が関わった証拠まで与えてしまった。1週間後、イギリス政府は緊急の記者会見を開いた。
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
ロンドン ダウニング街10番地
「皆様お集まり頂き、大変ありがとうございます。本日は極めて重大なお話をさせて頂くことになります」
イギリスの首相、キア・スターマンの発言に皆の視線が注がれる。
「1週間程前、我が国の海外領土の一つ、ニュー・ホンコン島が何者かによる攻撃を受けた事は皆様ご存知であるかと思われますが、攻撃を行った国が判明致しました」
各国の報道陣が一斉にシャッターを切る。その中には神聖ミリシアル帝国のマスコミも含まれていた。
「・・・・・以上の証拠から、ニュー・ホンコンへの攻撃を行ったのは神聖ミリシアル帝国の部隊であると断定致しました。また、同国は無人自律型無差別殺戮兵器を投入しており、非人道的な兵器を仮にも友好国である我が国及び同盟国に対して投入したことになります」
捕らえた特殊作戦群の隊員の装備や顔写真、そして鹵獲したサプレッションの画像や動画を示すスターマン首相。各国はイギリス政府が示した根拠に度肝を抜かれる。
「我が大英帝国は、神聖ミリシアル帝国に対して、皇帝ミリシアル9世自らの謝罪と賠償としてカルトアルパスの割譲を要求する。拒否した場合、同盟国と共に必要な措置を講じることになるであろう!!」
世界最強と称される神聖ミリシアル帝国への謝罪要求という前代未聞の行動。各国の報道陣は、
「イギリスと神聖ミリシアル帝国の開戦は確実か」
との見出しで一斉に報道。この事態に神聖ミリシアル帝国政府閣僚や国防省幹部らは皆頭を抱え、皇帝や直下の組織は作戦失敗とイギリスからの要求に大激怒するのである。
神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
神聖ミリシアル帝国沿岸警備隊14号巡視艇
「・・・・・・!?」
「どうした? 何があった!!」
「イギリス海軍の艦艇が此方に向かって来ています!!」
「船長! イギリス海軍より入電! 速やかに降伏せよとのこと!!」
「ぐぬぬ・・・我が帝国に対して降伏勧告だと!? だが、所詮は巡視艇・・・海軍艦艇と刃を交えたところで勝てぬ・・・」
その後、カルトアルパスはムーから本土へ撤退中のイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの部隊により占領された。イギリス政府は神聖ミリシアル帝国政府に対して、武力による圧力をかけ始めた。オーストラリアとニュージーランドの部隊は本土へ引き揚げたものの、イギリスとカナダの部隊は引き続き駐留し、カルトアルパスの領土化を狙っていたのである。イギリスと神聖ミリシアル帝国の間の緊張は最高潮に達していた。神聖ミリシアル帝国政府はどうにか緊張を和らげようと努力していたものの、皇帝ミリシアル9世が聞く耳を持たないばかりか、政府や軍に対して軟弱者と罵った。そしてそこにさらなる悲報が届くのである。
(続く)