イギリス占領下
神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
カルトアルパス総督府総督執務室
神聖ミリシアル帝国皇帝一家がカルトアルパスに滞在する際に使われてきた別荘。絢爛豪華な調度品や装飾が施され、訪れた各国の使者を威圧する場としても用いられてきた、神聖ミリシアル帝国にとって重要な邸宅。そんな邸宅は今やイギリスの支配下にあり、各国からは死神として畏怖の対象となっている男が館の主として君臨していた。
「ネート君、そろそろ紅茶を淹れてきてくれないか? 喉が渇いたし、そろそろ紅茶がキレて発狂しそうだ」
「畏まりました。少々お待ちを」
数分後
「お待たせ致しました。本日の紅茶はクワ・トイネ公国産の厳選茶葉から作られた一級品にございます」
「う〜ん、実に良い香りだ」
ハルトはまずはそのまま一口。
「コレは良いものだ!! ネート君、これは君が見つけてきたのかい?」
「いえ、お坊ちゃん・・・・ハミルトン総督が気に入りそうな紅茶の茶葉はないかと根部商事に相談したところ、試供品として贈られてきた物になります」
「根部商事? 何か聞いた事がある名前だな・・・・」
?という顔で紅茶を飲むハルト。
「お坊ちゃん・・・・ハミルトン総督の御学友、アキコ・ネブ様の親族が社長会長を勤める総合商社にございます。ミカドアイHDとは競合関係にある企業であります」
「ミカドアイHDの社外取締役を父に持つ僕に競合他社の薦める製品を提供・・・・中々に命知らずだね、ネート君。君もいささか人が悪いな」
「お坊ちゃん程ではありませんよ。それに、聞いた話では現在の社長であるマサヨシ・ネブ氏には子がおらず、検査の結果無精子病であると伺っております。根部商事では、社長会長職は創業家である根部一族の嫡流が勤めると決められており、嫡流断絶が確定した場合に備えて一門から後継者が出せるように準備がなされていると聞きます」
「・・・・・ちなみにアキコは後継者になるの?」
「お坊ちゃんの御学友、アキコ・ネブ氏は会長の弟の長女。それも長子です。仮にマサヨシ・ネブ氏に子が出来なければ、彼女またはその子に系統が渡ることになるでしょう」
「なんと! 学友が社長になるかもしれないのか。ネート君は今のうちに根部商事と繋がりを持てと言いたいのか?」
「左様。ミカドアイHDの株については、妹君であるアオイ様にお譲りするのが丸いかと。妹君は軍人でもありますし、何かとミカドアイHDに世話になることも、世話することもありましょう」
「うむ。流石はハミルトン公爵家に代々召使いとして仕える家柄の長男だ。何かと英才教育を受けてきたのだろうね」
ハルト総督には2人の専属の部下がいた。その内の一人である、ネート・デイビッド・クラーク。彼は此の世に生を受けたその日からハミルトン公爵家の次期当主御付きの家臣として、召使いとして仕えることが宿命付けられていた。
「はい。されど、お坊ちゃんが体験した苦労に比べれば軽いものです。私は海軍に入隊していませんし、一流大学を卒業してもいません。本当にお坊ちゃんの召使い、家臣として生涯を全うするべくここに立っています」
「自由の無い人生か。辞めたいとは思わないのかい?」
「それが当家の使命にござれば。お坊ちゃんこそ、スコットランド貴族の嫡流として、自由のない人生ではありませんか。結婚相手も自由に決められず、親が定めた相手と婚姻。比べて私は比較的自由です。ご案じなさらず」
「そうか・・・・君の忠義には感謝しか無いよ」
2人の会話が終わったところを見計らったかのように扉が開く。
「ハミルトン総督、エモール王国の大使が参られました」
「おお、ローサ君。あのプライドの高い国の大使を呼び出す任を与えてしまい、すまないね」
「いえいえ。あたしもネートと同じ、総督の家臣ですから」
ハルトのもう一人の家臣である、ローサ・メイ・クラーク。元々はローサ・メイ・ヒルと名乗っていたが、ネートと結婚したことに伴い改姓している。彼女はイングランド出身の平民階級であったが、屈託のない笑顔がネートのハートを奪った結果、婚約に至った経緯がある。後の主人となるハルトが仲人を務め、2人はスコットランドで結婚式を挙げている。
「そっか。君達みたいな忠臣に恵まれて僕は嬉しいよ。さて、エモール王国の大使様か。直ぐに会おう」
カルトアルパス総督府客間
「そなたがグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の代表、ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトン総督であるか?」
「如何にも」
「私はエモール王国駐神聖ミリシアル帝国大使のドラグニティである。この度はカルトアルパス総督への就任、心より御祝い申し上げる」
「エモール王国の大使からそのようなお言葉を頂けるとは・・・現実の見えない自称最強の国とは大違いですね」
「所詮古の魔法帝国を模倣することしか出来ぬ国だ。致し方あるまい。さて、そろそろ本題に入らせて頂こうか」
「貴国の大使をわざわざ総督府まで呼んだ理由、ですね?」
「そうじゃ。貴国の圧倒的国力の前に、グラ・バルカス帝国は分裂、現在進行形でコア魔法を自国内で濫用し、国土は汚染。遠からず自滅するのは確実。そうなると、ハミルトン総督の狙いはグラ・バルカス帝国ではなく、別にある。違うかな?」
「概ね正解です。ただし、グラ・バルカス帝国に関係なくはありません」
「ほう、聞かせて貰おうか。我が国にも利がある話なのだろうな?」
ギロリと睨みつけるドラグニティ大使。ハルトは全く怯むことなく地図を広げる。
「貴国は遥か昔、今から1919年程前、神聖ミリシアル帝国の前身ルーンポリス王国により国土を奪われた過去をお持ちですね?」
「ああ。奴等が領土拡張政策を進めていた時代にな」
「神聖ミリシアル帝国は基本的に人種が主たる民族である一方で、貴国と隣接するレッドアイズ自治州、ブルーアイズ自治州は竜人族が多数派を占める等、神聖ミリシアル帝国国内ではかなり様相の異なる州。しかも貴国への復帰を求める声も大きい」
「・・・・・何が言いたい・・・」
「では申し上げましょう。レッドアイズ自治州とブルーアイズ自治州を取り返したくはありませんか?」
「何?!」
あからさまに驚きの表情を見せるドラグニティ大使。
「取り返せるのであれば取り返したいが、実際には難しかろう。貴国はカルトアルパスは占領し、自信があるのであろうが、神聖ミリシアル帝国は列強。簡単に勝てる相手ではない」
「そうでしょうか? たった4人が操艦するフリゲート艦1隻に翻弄される国ですよ? しかも最新鋭戦艦は我が国が鹵獲しており、技術レベルも判明しています」
「なんと!? 先の日本国の護衛艦はたった4人で運用していたというのか?!」
「左様。たった4人で列強の大艦隊を翻弄出来る程度の技術力しか彼等は持ち合わせておりません。また、我が国は貴国の言う、コア魔法に相当する兵器及びそれを安全に使用する運搬手段も確立しています。更に皇帝ミリシアル9世の弟君を此方側に引き込んでもおります。此方は、我が国が提示した講和案を全面的に受け入れ、クーデターを起こすことを記した誓約書になります」
「どれどれ・・・・」
神聖ミリシアル帝国に対する処分案
1.神聖ミリシアル帝国は、首都ルーンポリスを中心とする旧ルーンポリス王国時代の領土(主に第一文明圏の西半分)を固有の領土とする。それ以外の地域の請求権の一切を放棄すること
2.ミリシアル9世は、世界秩序を乱した大罪人として戦後に裁判にかけるため、身柄を大英帝国に引き渡すこと。その他の者については、皇帝ミリシアル9世の勅命に逆らえず、已む無く従ったとして、英連邦王国国王より特別に恩赦を与える
3.レッドアイズ自治州、ブルーアイズ自治州はエモール王国に返還すること
4.カルトアルパス、マグドラ諸島、バネタ地区、アルバリオスをグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の永久領土として割譲すること
5.カン・ブリッド、ゴースウィーブス、他第一文明圏東半分を新生グラ・バルカス帝国の永久領土として割譲すること
6.神聖ミリシアル帝国は賠償として、建造中のオリハルコン級戦艦2番艦をグレートブリテン及び北アイルランド連合王国に割譲すること
7.神聖ミリシアル帝国は軍備を縮小し、兵員数も制限する。具体的な数については別途協議とする。それらの見返りとして、英連邦王国、日本国、ムー、新生グラ・バルカス帝国と軍事同盟を締結し、有事の際には集団的自衛権の行使を確約する
8.現在神聖ミリシアル帝国が抱えている債務については、まずミリシアル9世の保有資産にて返済とし、残金は神聖ミリシアル帝国政府が引き継ぐこと
9.神聖ミリシアル帝国は、英連邦王国並びに日本国の軍隊が国内に駐留することを認め、必要な地位協定を締結すること
10.カルトアルパス総督府並びに周辺の土地をハミルトン公爵家に譲渡すること
「真に貴国は神聖ミリシアル帝国を解体するというのか!?」
「確かに、信じられないでしょうが、我が国並びに同盟国日本の実力を聞いてはいるでしょう。神聖ミリシアル帝国を遥かに凌駕する国であると」
「それは薄々と感じてはおったが・・・・されど、過去に奪われし領土の奪還は我が国の悲願でもある。して、貴国は我が国に何を望むのだ? 援軍か? 金か?」
「どちらもいりません。我が大英帝国としては、貴国には中立でいて頂きたいのです」
「何故に? 我が国にも領土を与えるのであれば、参戦を要望するのではないのか?」
「貴国はエモール三竜なる強力過ぎる竜を使役していると伺っております。貴国が敵か味方か分からない状況であると、神聖ミリシアル帝国は必然的に貴国との国境線にも部隊を振り分けねばならないでしょう」
「だが中立の場合、敵にはならないと解釈して部隊を振り分けぬかもしれぬだろう」
「その時は神聖ミリシアル帝国国内の竜人族解放を大義に侵攻して頂ければよいかと。一騎当千の強者揃いの貴国であれば、軟弱な神聖ミリシアル帝国兵なんぞ、恐れるに足らぬでしょう」
「成る程な。警戒した場合は貴国に向かう兵が減り、しない場合は我が国に奪い返される。中々に人が悪いな、ハミルトン総督は」
「ははは。褒め言葉としておきましょうぞ。それと、別件ではあるのですが、是非ともお聞きしたいことが」
「ここはハミルトン総督の館なのだ。好きにするがよい」
「ありがとうございます。最近復興したイルネティア王国に、神龍イルクスとやらを使役する齢17の少女がおり、我が国に援助の申し入れがあったのです」
「神龍だと!? ハミルトン総督、それは真なのか!?」
驚きを隠せないドラグニティ大使。イルネティア王国とは、第二文明圏に属する島国であり、一時はグラ・バルカス帝国により滅ぼされた国。ガルマ総督の機転により、王子であるエイテスが存命し、その後国王に即位。ガルマとエイテスは両国の和解と友情の証として、第一文明圏にも名が知られるようになった国である。
「此方は、イルネティア王国からニューアーク総督府経由で我が国に寄せられた資料になります」
ハルトは日本製のカメラにより撮られた様々な写真をドラグニティ大使に見せる。第一文明圏においても日本製品は高い評価を受けており、エモール王国でも流通している為、鮮やかな写真に驚くことはなかった。
「・・・・・間違いない。これは明らかに神龍。それも黒龍・・・レッドアイズ自治州の名の由来になった竜でもある・・・この少女と神龍は何処に?」
「昨日、カルトアルパス空軍基地/カルトアルパス国際空港での燃料補給を終え、現在はニュー・ホンコン総督府に向けて軍の輸送機にて移動中にございます。ホンコンにも神龍を使役する巫女がおり、彼女なら何かが分かるのではないか、ということ。そしてニュー・ホンコンは軍事要塞ですので、管理や防衛にも向いております」
「そうなのか・・・ハミルトン総督、大変厚かましいとは思うが、我が国の者をニュー・ホンコン総督府に派遣したいが、可能だろうか?」
「先の我が国からの提案を受け入れるのであれば、可能でしょう。善は急げとも申します。急ぎ本国に伝えられるべきかと」
「ああ、そのつもりだ!! やはり、貴国や日本国と国交を結び、正解であった!! 失礼する!!」
「道中お気をつけて」
ドラグニティ大使は爆速でカルトアルパス総督府を後にして行った。ハルトは窓から走り去る大使を見送った。
「これでエモールは我が国の側についた。神聖ミリシアル帝国の解体は決定的になった。さて、あとはクーデターがどうなるか・・・・・かな?」
その後ドラグニティ大使からの緊急報告を受けたエモール王国では、国内の重鎮を集めた緊急会議を開催。会議では全会一致でイギリスからの提案を受け入れることを決定。同時にエモール三竜の一人イヴァンをニュー・ホンコンへと派遣することになった。
「しかし、本国もよくカルトアルパス総督府並びに周辺の土地を当家に譲ることをお認めになりましたな」
「お、ネート君。いたなら言ってくれたら良かったのに。まあ、あれだよ。土地をやるからカルトアルパスで隠居してろということだよ」
「そ、そうなのですか? お坊ちゃんはまだお若いのに・・・」
「まあ隠居は誇張だが、神聖ミリシアル帝国の残りカスや新生グラ・バルカス帝国がよからぬことをしないよう、監視させる為に僕を置いておくということだよ。それに、名前が全世界に売れているのに、何の褒美もないのは英国王室的にもよろしくないのだろう。ケチだと勘違いされる」
「成る程」
「さて、カルトアルパスで何の商売が出来るのか、考えてみようか」
「その前に目の前の敵を片付けてからではないかと」
「まあ、そうだね」
ニュー・ホンコンへ移動中のイギリス空軍
エアバス A400Mの貨物室
「イギリスの皆さん、イルクスは大丈夫なのでしょうか?」
「術後の健康状態は良好、回復も想定通りです。イルクスについては心配される必要はありません」
イルクスはグラ・バルカス帝国がイルネティア王国へ侵攻した際にアンタレス艦上戦闘機3機を撃墜するも、直撃弾を浴びて不時着。不時着した地点が偶然にも、ガルマ率いる部隊の近くであったことから丁重な扱いを受けることが出来、捕虜という形でニューアークへ脱出。以後はニューアーク総督府の下で管理されていた。レイフォル征統府からは引き渡しの要求を受けていたが、あれこれ理由を付けて引き渡し要求の履行を先延ばしにし、今日に至っていた。イルネティア王国独立に辺り、彼女らは帰国する流れになっていたのだが、技術レベルの関係で傷は完治しておらず、また使役する彼女自身が心に深い傷を負ってしまっていることから、イルネティア王国・新生グラ・バルカス帝国が連名でイギリスに支援を要請したのである。
「むしろライカさん、貴方の方が危ないですよ」
「わ、私ですか?! 私はイルクスに比べれば圧倒的にピンピンしていますよ!!」
「身体の話じゃないです。貴方の心の話です。詳しくはニュー・ホンコン総督府で分かるでしょう」
その後着陸態勢に入ったエアバスA400Mは無事にニュー・ホンコン島に着陸。厳重な警戒態勢の下、彼女らは日本領事館へと移送されたのである。
ニュー・ホンコン島日本領事館
領事執務室
「・・・・・という訳で、貴方に協力して頂きたいの」
「成る程、確かに私にしか出来ないことですね」
「ごめんなさいね、修行の邪魔をする形になってしまって・・・」
「アキコ領事、心配は無用です。人助けも巫女としての責務の一つ。それに日英には多大な恩があります。少しでも恩返しをさせて頂ければと」
「ありがとうイヴさん。私は見ての通り、最近つわりが酷くて立つのも難しくて・・・・うっ・・・!!」
吐き気を抑えるアキコ。直ぐに隣に控えていた葵医官がフォローに入る。
「はあ、はあ、はあ。こういう訳で、貴方と同席は出来ない。葵医官も私の健康状態を鑑みて傍から離せないし、シンは代理の領事だから離席出来ない。駐在武官のアキラを同席させるから、何とかして・・・うっ!」
葵医官が用意したバケツに嘔吐物を吐き出すアキコ。
「根部領事、来週には妊娠16週目になります。つわりもそろそろ治まりますので、あとひと踏ん張りを」
「はあ、はあ、はあ。出来るなら、実家で寝ていたいけど、生憎の人出不足。休めやしない」
「・・・・・では、行ってまいります。アキコ領事も無理をなさらずにお願いします(妊娠って大変なのね。私もいつかはアウラム君の子を・・・)」
その後イヴは部屋の外で待機していたアウラム、ニンギルス、イムドゥーク、アキラと共にライカを迎えに行った。後に神龍使い同士の会談の様子は絵画に描かれ、ニュー・ホンコン総督府の総督執務室に飾られることになる。
神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリス
寂れた茶店
「・・・・・では、私が皇帝になれば良いのだな?」
「左様。我が大英帝国首相、キア・スターマンは内応の暁には皇太弟ミリシアル・ネロ・グリフィス閣下を皇帝に担ぎ上げると確約しております。此方がその起請文に」
密かにルーンポリス入りしていた大英帝国の外交官らは様々な資料を皇太弟に提示する。
「成る程・・・・確かに兄上は総勢10万の兵を率いてカルトアルパスへ向かった。パル・キマイラの全力投入等、本気の本気故、ルーンポリスは手薄。私が反旗を翻せば、一瞬にしてルーンポリスは落ちるだろう。そして無実の罪で捕らえられている政府首脳陣を解放出来るのは確実。だが、カルトアルパスに展開しているイギリス軍は、援軍として参加のカナダ軍を含めて1万人と言うではないか・・・・それではカルトアルパスが落ちてしまうのではないか?」
兵力差による蹂躙を危惧する皇太弟に対して、イギリス側の外交官は強気であった。
「既に手は打っております。ですので、予定通りに動いて頂ければと思います」
「何か策があるのだな?」
「はい。されど、機密に関わりますので今は言えませぬ」
「まあ、そうであろうな。うむ、では兄上がカルトアルパスへ出陣した後に動くとしよう」
「皇帝自らが出陣するのですか?」
「私は止めるよう伝えたのだが、兄上は自らの手でハルトとやらを八つ裂きにしたいらしくてな。パル・キマイラにて出陣するようだ」
「成る程、それは良い話を聞かせて頂きました。では、互いに首尾よく参りましょう」
「ああ、頼んだ」
こうしてイギリスは神聖ミリシアル帝国の親日英派との間でクーデター政権の樹立と、戦後処理について合意が取り交わされた。そんなことを知らない皇帝ミリシアル9世は、御付きの者らと共にエリア48を訪れていた。
バネタ地区エリア48
魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部格納庫
「邪魔をするぞ」
「邪魔をするなら帰ってくれ」
「ほ〜い、って皇帝である余に向かって何という物言いか!!」
「これは皇帝陛下!! わざわざこんな辺境の地にまで何をしにいらっしゃったので!?」
突然の皇帝の来訪に職員らは驚きを隠せない。
「諸君らも知っての通り、イギリスが我が国の神聖なる土地に土足で踏み切っている。謂わば世界の敵と化した蛮族を成敗するべく、我が国が保有しているパル・キマイラの全力出撃を決定したのだ」
「な、なんと!? しかし、パル・キマイラは量産が不可能な古代兵器。撃墜された場合、取り返しのつかないことになりまする!!」
「その通りですぞ!! せめて1隻は待機させるべきかと!!」
反発する職員。しかし、皇帝の意思は変わらない。
「聞こえなかったか? 余は全力出撃を命じたのだ。余の命令は謂わば勅命。逆らえば一族郎党死罪である。また、余自らが乗り込み、蛮族を成敗するのだ。むしろ誇りに思って貰わねばな」
「な、なんと・・・・」
暫くの間、反発する職員と命令する皇帝の間で押し問答が続く。
「仕方あるまい。そなたらは蛮族の調略を受けているのであろう。国家反逆罪で逮捕する!!」
次の瞬間、待機していた皇帝直下の近衛師団や皇宮警察が一斉にエリア48を急襲。命令に従わない職員や技術者を検挙した。
「皇帝陛下に歯向かう逆賊、皆捕らえましてにございます!」
「うむ。奴等を後日ルーンポリスで磔にする故、直ぐに移送させよ!!」
「ははっ!!」
「さて、我々に与する同志を集めよ。明日には出撃するぞ!!」
皇帝ミリシアル9世は出撃日を明日に定め、準備を開始させた。しかし、同志の筈の職員の一部がイギリス側の調略を受けており、皇帝が滞在している場所を事細かく伝えていたことに、ミリシアル9世は気付かなかったのである。
グラメウス大陸日本領区域
日英合同弾道ミサイル部隊基地
「皇帝ミリシアル9世はエリア48に滞在しているのだな?」
「はい。現地の調略にかかった職員の証言ですので、間違いないかと」
「さて、皇帝とやらは生きて帰れるのかな? マサカドを通常弾頭で発射せよ!!」
イギリス側が管理する区画から大陸間弾道ミサイル「マサカド」が久々に発射される。画像解析では、エリア48に設けられた滑走路にパル・キマイラ5機が最終点検の為に出されており、完全無防備な状態であった。
「しかし、何故に格納庫ではなく滑走路で最終点検なのだろうな?」
「分かりませんが、無防備なのはありがたいですな」
本来なら出撃に向けた最終点検は格納庫の外でやらなければならないパル・キマイラ。理由としては、起動に時間がかかること、格納庫の中では起動中に吐き出される排熱で格納庫の温度が上昇すること、熱がこもり過ぎると各種機器が不具合を起こすこと、排熱が原因で搭載している兵器に誘爆する恐れがあること、そもそも全力出撃を想定していない為、格納庫それぞれが離れており、整備用の工具の使い回しに難があること等が理由であるが、そんなことは知らない。大陸間弾道ミサイルは順調に飛行し、約束された破壊に向けて動き出す。
「さて、あとは通常兵器の部隊をどう片付けるかになろうか。何でも、ニュー・ホンコンにいる航空部隊を引き抜いたらしいが・・・誰を引き抜いたのであろうか?」
イギリス側の基地要員が?の表情を浮かべる一方、日本側の基地要員全員の頭には航空自衛隊の問題児2名の顔が脳裏に過っていた。
(ニュー・ホンコンで航空部隊って・・・彼奴等しかいないだろうよ・・・・)
(でも我が国は部隊の派遣はしない方針だから、休暇中に義勇兵として参加したという体裁なんだろうな)
(そうなるとスツーカ2で出撃するんじゃ・・・・)
(スツーカでジェット機を撃墜してそう)
(流石にユーロファイタータイフーンも行くだろうけど、あの2人が出撃するのは容易に頭に浮かぶ)
イギリス占領下
神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
カルトアルパス総督府
「総督、カルトアルパス駐留軍総隊長ピオニー大佐がお見えです」
「おおローサ君、ご苦労。どうせ航空戦力の話なのだろう。丁度いい、通せ」
「ははっ」
その後、屈強な黒人の陸軍軍人が入室してくる。
「カルトアルパスには航空戦力が不在ですが、総督はどのようにして戦うおつもりなので?」
「いきなり本題から来たか・・・その方が手短でありがたいか。ピオニー大佐、確かにカルトアルパスにはヘリコプターや輸送機等しか航空戦力はなく、戦闘機は不在だ。敵の戦闘機部隊相手に脆弱である、そう言いたいのだろう」
「そうだ!! 如何に大英帝国陸軍が精強と言えど、航空支援なしではやってけねえ!!」
「案ずるな。こんなこともあろうかと、ニュー・ホンコン総督に支援を要請しておいた」
「ニュー・ホンコン総督・・・・妹君か! 彼女は優秀な陸軍軍人であったな!! して、返答は!?」
「ユーロファイタータイフーンを2機、それとは別に義勇兵として2名のパイロット、並びに整備要員を乗せた輸送機2機を派遣した、とのことだ」
「た、たった2機だけ・・・・そんなんで勝てるのかよ?! しかも義勇兵ってなんだよ?!」
「義勇兵という扱いではあるが、現役のパイロットかつ、エースパイロットだぞ。諸事情につきJu88スツーカ2で出撃するだけだ」
「・・・・もしかしてあの伝説の?!」
「そうだ。明日にも到着する。ピオニー大佐には、カルトアルパス市内に敵を侵入させない為に、塹壕や鉄条網の整備を進めて欲しい」
「おうよ! 伝説のエースパイロットが来るなら安心出来るな!!」
「頼んだぞ」
ピオニー大佐と入れ替わるようにして、ネートが入室する。
「お坊ちゃん、エリア48を攻撃した大陸間弾道ミサイル部隊の成果が届きました」
「どれどれ・・・・これで奴等は空から古代兵器を送り込むことは不可能になったな。ちなみに皇帝はどうなった? 巻き添えか?」
「それについては何とも。また、カルトアルパスを海から攻撃するべく、50隻の艦隊が向かって来ておりますが、原子力潜水艦をカルトアルパス湾の外に展開させており、更には新設された地対艦ミサイル連隊を海岸線に配備させておりますので、海からの攻撃については心配は無用です」
「そうか。日本製の地対艦ミサイルの実力、見せて貰うとしよう」
着々と迎撃に向けた準備が進むイギリス軍。一方の神聖ミリシアル帝国軍は既に躓いており、数日後のカルトアルパス奪還戦に繋がるのである。
「それと、他国の者と思わしき宗教指導者が面会を求めて来ておりますが、如何致しましょう?」
「神聖ミリシアル帝国ではないのだな?」
「はい。なんでも、アッラー教の者だそうで」
「・・・・・嫌な名前だな・・・・されど、信教の自由は認めねばならぬ。しかし、今は会う余裕がない。この戦争が片付くまで待つよう伝えよ」
「畏まりました」
後にカルトアルパス総督府ではアッラー教を巡り、多文化共生か公共の福祉の二択を迫られる事になり、新たな戦争の火種となるのである。
(続く)
(続く)