日英同盟召喚   作:東海鯰

86 / 111
儚き願い

第二文明圏列強ムー首都オタハイト

オタハイト中央駅前広場

 

「しかし、改めて日本は凄い国だよな」

「なあ! 地下に鉄道を通しちまうんだもんな!!」

 

街行く人々は新たに出来た鉄道駅への出入り口へ向けて歩いている。この日、第二文明圏では初の地下鉄が開業したのである。市内交通を担う路面電車が多数運行されていたものの、人口が増え続けている首都オタハイトでは、路面電車でまかなえる輸送力では到底足りない状況となっていた。昔から地下に鉄道を通す構想自体はあったものの、軟弱な地盤、土木技術の限界、莫大な資金等が重なり、ずっと構想段階で止まっていた。しかし、日本やイギリスと国交を樹立したことが全てを変えた。日本政府とムー政府は、オタハイト市内における地下鉄路線整備を共同で行うこと、日本式での整備とし、東京地下鉄(東京メトロ)が運行・保守・点検の指導を行うこと、建設費用は円借款で賄うこと等で合意。日本式の指差確認喚呼が取り入れられ、ホームドアの整備や国鉄・私鉄各社との相互直通運転等の環境整備等も行われることに決定。その記念すべき第一号として、主要な繁華街やビジネス街を通るオレンジ線が開業。起点と終点双方の駅では私鉄線との相互直通運転を実施し、オタハイト市を越えて100キロを超える運行形態が実現したのである。また同時に駅前広場の整備が行われ、巨大な液晶ディスプレイが設置された。企業の広告やニュース速報が流され、現在は地下鉄が開業した瞬間を伝えるニュースが速報として流されている。

 

(第二文明圏初の地下鉄が開業。路線を中心部に位置するオタハイト中央駅では出発式が行われました)

 

プァアアアン!!

 

(今、ゆっくりと動き出しました! 地下鉄の開業と相互直通運転のスタートです!)

 

駅員が敬礼し、一番列車(式典用の為、客扱いはなし)がゆっくりと下り方面へと出発する様子が液晶ディスプレイに映し出される。街行く人々は皆高画質かつフルカラーの映像に釘付けとなる。

 

(営団地下鉄オレンジ線は、フカクサ駅からオタハイト中央駅を経由し、キュウバシ駅迄を結ぶ全長14.2キロの路線で、オタハイト都心のビジネス街や繁華街を経由します。フカクサ駅からはケイナリ線、キュウバシ駅からはケイヒン線と相互直通運転を実施し、全長126キロメートルに渡る広域鉄道ネットワークが誕生しました。これにより乗り換えが不要となり、アカト駅からは13分、カマデン駅から15分の短縮となります)

 

画面には相互直通運転の範囲が映し出され、3社直通運転の効果を見せつける。

 

「また終電後ケイヒン線では線路切替工事が行われ、地上駅を使用したキュウバシ駅の運行が終了。最終日には多くの鉄道ファンが押し寄せ、駅は一時混乱しました。線路切替工事は終電から始発までの僅か4時間で完遂させる必要がありましたが、日本企業の高い技術力がそれを実現しました」

 

ストラム工法についての解説がなされ、脇には建設に関わった企業の社名とロゴが記載される。今後、オタハイト都心の地下鉄新線の建設・運営は王都高速度交通営団/営団地下鉄が担うこととなり、鉄道業界における日本企業の進出が加速することになる。

 

 

王都高速度交通営団/営団地下鉄オレンジ線

オタハイト中央駅1・2番線ホーム

 

プアアアアン!!

 

式典に参加する関係者や報道陣を前に、汽笛と共に日本製のピカピカな地下鉄車両が入線する。地下鉄1号線の出発式の為に特別な装飾を施された車両がゆっくりとホームに停車する。日本の支援により開業した地下鉄1号線は全ての駅でホームドアが整備されていること、更にATOを搭載している為非常に安全性と定時性に優れている。普段は車掌はおらず、運転士のみが乗務する。式典用にスモークが炊かれ、特別感を際立たせる。

 

「音楽隊の演奏が始まりました!」

 

その後ムー陸軍音楽隊による合奏が行われる。王都オタハイトにおける地下鉄事業の管理運営を担う組織、王都高速度交通営団の団歌が演奏される。営団職員代表として、歌の上手い男女合わせて2名が熱唱する。

 

 

王都高速度交通営団団歌「未来よ君は美しい」

 

1.

この街が好き夢の匂いが好き好き

この街が好き風の予感が好き好き

季節は明日の素敵な贈り物

心のリボン解いたら

未来よ君が見えてくる嬉しい手招きしてるから

未来よ君は美しい陽ざしの微笑み弾かせて

 

2.

この街が好き夢の欠片が好き好き

この街が好き空の青さが好き好き

時間は明日の素敵な約束さ

心の暦をめくったら

未来よ君が見えてくる今日の扉の向こうから

未来よ君は美しい陽ざしの微笑み弾かせて

 

3.

未来よ君が見えてくる嬉しい手招きしてるから

未来よ君は美しい陽ざしの微笑み弾かせて

 

本来は帝都高速度交通営団のイメージソングとして発表された知る人ぞ知る名曲「未来よ君は美しい」。現在においても帝都高速度交通営団を継承した東京地下鉄は社歌としては採用しておらず、影の薄い曲であった。しかし、ムー側の職員がこの曲を発掘し、試しに流してみたところ会議で大好評。直ちに東京メトロ側に使用の許諾を申請し、認められたことから、正式に王都高速度交通営団の社歌として採用されることになったのである。社歌のお披露目が成された後、いよいよ出発式に向け、来賓の挨拶が行われる。

 

「この度は、第二文明圏初の地下鉄路線が開業したことを心から嬉しく思います。まだまだオタハイト市内の交通事情は非常に脆弱であり、一刻も早く既存の路面電車網の再編と地下鉄路線の整備が求められます。王都高速度交通営団総裁として、全身全霊を捧げる所存です」

 

ムーはオタハイト市内の地下鉄路線の運営と管理、建設を担う組織を設立。ムー国鉄(ムー政府)が50%、王都府とオタハイト市がそれぞれ25%を出資する公企業が誕生した。日本人向けに付けられた名称は、

 

「王都高速度交通営団」

 

である。素直にオタハイトメトロとかで良いのではないかと思う日本人が多数であったが、日本の地下鉄路線や事業者の名称について資料をムーが集めていたところ、東京メトロ(東京地下鉄)の前身である、

 

「帝都高速度交通営団」

 

の名称を発見。そこからムー側は、日本では国が地下鉄事業を運営する場合は営団と呼ぶのだと勘違い。また、王都高速度交通営団は東京メトロの支援を受けることから、かつて存在していた組織にあやかり、営団地下鉄を名乗ることに決めたという。流石にマークはそのまま使えず、独自のマークを採用したが、後に日本側では「王都高速度交通営団」の、ムー側では「帝都高速度交通営団」「東京メトロ」のマークを付けた車両が双方の親善の為に運行されることになる。

 

「この相互直通運転の開始は我々ケイヒン電鉄にとっては悲願の都心乗り入れであり、ヒト、モノ、カネ、そして情報の移動が活発になることによる当社の発展に大いに寄与するものであります!!」

「鉄道会社の垣根を越えた連携の実現。郊外に大規模な路線網を持つケイナリ電鉄としては、都心乗り入れが沿線の開発を更に活性化させるものと期待します!!」

 

やがて来賓の挨拶が終わると、テープカットに移る。傍らには「王都高速度交通営団旗」を掲げた職員が佇み、日本人には懐かしい光景が蘇る。そして日本の営団地下鉄にあやかり、制服も黄緑色にドゴール帽と完全に狙っている。各国の報道陣が式典用に装飾された地下鉄車両にカメラを向ける中、ムー陸軍音楽隊の演奏の元、車掌による指差し確認が行われる。

 

プアアアアン!!

 

「今、列車がオタハイト中央駅をゆっくりと走り出しました! ムーの歴史が変わる瞬間に我々は立ち会えたのです!!」

 

オタハイト中央駅始発の私鉄線直通列車が出発する。

 

「皆様、営団地下鉄オレンジ線とキュウケイ本線、セイケイ本線との相互直通運転のスタートです!!」

 

式典が終わると、地下鉄の開業を待ち侘びたオタハイト市民が地下鉄各駅に一斉に押し寄せた。各駅には報道陣が集まり、市民への取材が行われていた。

 

「日本国の支援で地下鉄が開業しましたが、どう思いますか?」

「昔からねえ、オタハイトに地下鉄を通すって話はあったのよ。本当に開業して嬉しいねえ」

「今まで都心部には、国鉄への乗り越えが必要だったのが無くなるんで、かなり便利になると思います」

「でも、まだ終わりじゃないんでしょ? オタハイト市内は路面電車網は凄いけどさ、最近よく遅れるし乗れないことも多いから、早く他の路線も整備して欲しいかな」

「日本から民間向け、イギリスから軍事向けの支援を受けるのは良いけど、属国にはならないように上手くやって欲しいかな」

「王都高速度交通営団。響きが良いよね、カッコいい!!」

 

 

「ミカドアイHDとの受注競争、実に大変だったよ」

 

来賓として参列し、テープカットを見届けた根部商事社長、根部正義はそう呟いた。

 

「パーパルディア皇国を中心とした第三文明圏はミカドアイHDが受注したが、ムーは我が社が取れた。今後ムーは高速鉄道の建設も進める予定だ。ミカドアイHDはJR東日本と組むらしいが、うちはJR東海と組んで受注競争に参加させて貰うとしよう」

 

異世界において、ミカドアイHDと根部商事は激しい受注競争を繰り広げていた。異世界転移後、社長職または会長職は両社共に息子に代替わりし、息子同士の争いとなっていたのである。

 

「マサヨシ社長、外交官としてニュー・ホンコンで日々業務に従事して居られる、従姉アキコ様の件ですが」

 

マサヨシの秘書が重要な最新情報を伝える。

 

「姉上か。確か妊娠したと聞いていたが」

「検査の結果、懐妊された子は男児であるとのことです」

「ほう! でかしたぞ姉上!!」

 

営団地下鉄開業の瞬間よりも喜びの表情を浮かべるマサヨシ。

 

「某は無念なことに無精子病。子を授かることの出来ぬ身体。そうなれば血縁関係のある者を次期社長として教育せねばならぬ。姉上は会長である父の弟の子。某と一番血縁関係が近い」

 

一族経営である根部商事では、社長会長職は創業者の直系長子が継ぐ者と定められている。しかし御家断絶に備え、有事の際には御三家から後継者を出すものと現在の会長根部晴義が社長時代に制定。彼の2人の弟と夢野家に嫁いた妹を御三家とし、有事の際には協力する体制を確立。ちなみにアキコは会長根部晴義一人目の弟、根部朝昭の長女であり、昭子の昭の字は父からの偏諱である。

 

「先々代はアキコ様を痛く気に入っておりましたからな」

「某が生まれなければ、アキコが社長になっていたと何度もおっしゃられていたしな。聞かされる此方としては複雑だが、アキコの優秀さは認めざるを得ない。というか、比べることが彼女に失礼だしな」

「それと、無事産まれた場合、歴代社長の通字である義の一字と夫である真の一字を組み合わせ、真義(さねよし)としたいとのこと」

「根部真義、良い名前ではないか。義に真っすぐという、我が社のイメージに合う名前だ。大賛成であると伝えてくれ。それと子育てに必要な物があれば全て用立てるとも」

「畏まりました」

「それと、帰国したら緊急幹部会を開催する。幹部に緊急招集を通達せよ」

「後継者の決定の為にですな?」

「ああ。今のうちに決めておかなければ、家内が騒ぐかもしれん」

「社長の奥方様は我が子を次期社長にと拘っておられますからな・・・」

「無精子病かつ、不妊治療をしても子は見込めないと何度も言っているのだが、諦めが悪いのだ」

「ともあれ、アキコ様は先々代より帝王学やマナーを学んでおりますし、教育面でも問題はないでしょう。幹部会では、アキコ様のお子様を次期社長に据えることに反対は出ないでしょう」

「1人を除いて・・・・な」

 

根部商事社長マサヨシは速やかに帰国の準備に移る。速やかに後継者を認定し、争いの火種を除去し、会社の安定と社員の生活を守るべく動き出す。途中、ニュー・ホンコンを経由してアキコ・シンと会談し、久々に対面で話し合う方向で調整が行われることになる。一方後継者問題は、イギリスでも起きていた。

 

 

グレートブリテン及び北アイルランド連合王国

スコットランド ハミルトン公爵家牧場

 

「納得出来ん!!」

「そこをどうか納得して頂きたく・・・」

「納得出来んと申しておろうが!!」

 

スコットランドの名門貴族ハミルトン公爵家。多くの英国貴族達が没落し、中には爵位のみの完全没落貴族も珍しくない中、当家は以前と同じく英国内随一の資産家であった。ハミルトン公爵家はその時々に応じて様々な商売を行い、没落貴族達を尻目にむしろ富を蓄えてきた。それどころか没落貴族の土地を二束三文で買い上げ、それを転売することにより更に儲けた。昔よりは土地は減ったものの、それでもスコットランドを拠点に、イングランド、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ジャマイカに土地を有しており、事実上の所領であるニュー・ホンコン島やカルトアルパスも含めればハミルトン公爵家はイギリス国王より資産を持つ貴族であった。そんなハミルトン公爵家の長男、ジョン・ハミルトンは自身に爵位の継承権が無い事に憤りを隠せないでいた。

 

「弟ハルトはカルトアルパス、妹アオイはニュー・ホンコン島を所領にし、ハルトはカルトアルパス公爵、アオイはコンホン公爵に任じられた! しかもそれぞれ我が子に世襲出来るそうではないか!!」

「それは大英帝国による異世界海外領土統治の根拠にする為のものであり、決してジョン様を軽視している訳では・・・・」

 

異世界転移後、イギリスはパーパルディア皇国との戦争に勝利してニュー・ホンコンを割譲させ、先のニュー・ホンコン攻撃の報復として神聖ミリシアル帝国の本土の一部を占領してカルトアルパスを実行支配していた。これらの領土はイギリスの永久領土とされているが、後に返還要求がなされる可能性があった。香港の二の舞を避けたいイギリス政府は、ニュー・ホンコンはホンコン公爵、カルトアルパスはカルトアルパス公爵が治める領土であるとし、それらが同地に留まり続けている間は彼等が帰属する大英帝国の領土である、と主張することにした。これに伴い、アオイはニュー・ホンコン島全域と対岸のニュー・ニューテリトリー、ニュー・クーロンの一部、ハルトはカルトアルパスの一部を所領とし、それらを大英帝国政府に貸し付ける形となった。所領の殆どは総督府や軍事施設が置かれている場所である為、使用料以外の収益を出すことは難しいものの、元々資産家かつ、大英帝国に奉仕する貴族である為問題ないとされていた。しかし、ジョンはそれらの恩恵に預かることが出来ないでいた。

 

「明らかに軽視しておろう! 余はスコットランドの名門貴族、ハミルトン公爵家の長男様だぞ!! にも関わらず余に与えられているのはスコットランドの牧場のみ!! ヒルバート、これは明らかに不公平であろう!!」

「ジョン様、何度も申し上げましたが、ジョン様は長男でこそあれど、直系ではございませぬ」

 

ジョン・ハミルトン御付きの召使いヒルバート・ダグラス・クラークは呆れながらも説明を繰り返す。

 

「ジョン様がまだ1歳にも満たぬ頃、ジョン様の実の両親は北アイルランドの教会を巡礼中にIRAによる爆弾テロに遭い、当時のフィッツジェラルド家当主と共に亡くなってしまわれたのです。ジョン様の母君は現在のハミルトン公爵家当主、アレクサンダー・スカーレット・ハミルトン様の妹君。ジョン様はまだ1歳にも満たぬ頃でしたから、先代の当主が孫の顔がみたいとして、スコットランドのハミルトン公爵家の邸宅で預けられておりました。それが縁で両親を失い、哀れに思われた現在の当主。ジョン様の義父であられるアレクサンダー様がジョン様を養子として迎えることになったのです」

「そんなこと承知しておる!! 父が義父である事も、養子である事もだ!! 義父には深く感謝しておる!! その深さはマリアナ海溝より深い!!」

「でしたら、尚更ご自身の立場を理解してくだされ。本来であれば、爵位はおろか、領地さえ与えられない間柄なのです! ジョン様はハルト様、アオイ様を補佐する事が与えられた使命なのです!!」

「知るか!! 長男が爵位を継承するが習い、次男が我が子だからと長男を軽視すること等、あってはならんのだ!!」

「・・・・・・分かりました。今一度アレクサンダー様に掛け合ってはみまする。くれぐれも軽率な真似だけは為さらぬように」

 

ヒルバートは頭を抱えながら退室する。御付きの部下がいなくなると、ジョンは怒気を強めながら独り言を吐く。

 

「ヒルバートに任せたところで爵位が手に入る訳でもない! どうせ我慢しろで終わりだ! いざとなれば反旗を翻す覚悟だってあるのだぞ!!」

 

コンコン、

 

扉を叩き、ジョンを呼ぶ声がする。屋敷に勤めるメイドの者と知ったジョンは何用か尋ねる。すると、

 

「ジョン様、神聖ミリシアル帝国の大使がお越しですが、如何致しましょう?」

「神聖ミリシアル帝国の大使が? 何故にロンドンを離れ、こんな田舎町に? まあよい。お通しせよ」

 

扉が開き、駐英国神聖ミリシアル帝国大使のゴップが現れる。老練かつ小肥りの男性である。

 

「これはこれはゴップ大使殿。わざわざこんな田舎町までご足労頂きありがとうございます。しかし、事前連絡なしに何用でございますか?」

「ワシは中身を見ておらぬ故分からぬが、本国よりそなたに直接渡して欲しい書状があるとのことでな。わざわざ届けに参ったのだよ」

「はあ・・・・まあ、ありがたく頂戴致します」

「では、ワシはこれで」

「もうお帰りになられるので?」

「久々の休暇も貰えたのだ。貴国の街並みを隅々まで堪能したいと思う。本国では味わえぬ光景ばかりでな」

「そうでしたか・・・・では、お気をつけて」

 

ゴップ大使を見送った後、ジョンは書状の中身を確認する。差出人はなんと皇帝ミリシアル9世であった。

 

「・・・・・・真に余がハミルトン公爵家の主になれるのか!?」

 

そこにはこう記されていた。

 

 

突然の異国の皇帝より文を受け取り、大変驚かれたと思う。聞いたところによれば、そなたはハミルトン家の長男であるにも関わらず、養子であることを理由に弟ハルトに爵位が継承されることに不満を抱いているそうではないか。そんな中、我が国は貴国により不当にもカルトアルパスを占領された。更には神聖なる宮殿にカルトアルパス総督府を設置し、実行支配を強めようとしている。そしてその総督にはそなたの弟ハルトが就任し、カルトアルパス公爵を付与されたと。そこでだが、我が国と手を組まないか? 我が国は不法占拠を続けるイギリス・カナダ連合軍を追い出し、行く行くはイギリス本国も占領する予定である。カルトアルパスに展開するイギリス・カナダ連合軍を混乱させる為、カルトアルパス総督就任祝の名目で渡航し、その足でハルト総督を暗殺して頂きたい。既にロンドンの大使館やニュー・ニューテリトリーの領事館には、我が国の精鋭部隊が大使館または領事館職員の身分で潜入しており、必要な武具もソロモン諸島に置いているペーパーカンパニーを通して日本から運び入れる手はずとなっている。後は秘密裏に搬入可能な港が必要だ。そなたが保有している所領には小さな港があると聞いている。そこを使わせて頂けるのであれば、我が国の精鋭部隊がそなたの父やハルトの嫁、子供を暗殺する。さすれば、そなたが念願のハミルトン公爵に就くことも出来よう。首尾よくイギリス打倒が成功すれば、そなたを直臣に迎え入れようぞ。良い返事を期待しておる。

 

 

「一か八か、掛けてみよう!! ハミルトン公爵はただ1人!! この俺だ!!」

 

誰もいない私室でジョンはそう叫んだ。こうしてジョンは父や弟、妹のみならず、大英帝国を敵に回した。即日港の使用許可をロンドンの大使館に送り、作戦への参加を表明。カルトアルパスにいる弟ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンに対して、

 

カルトアルパス総督就任並びにカルトアルパス公爵叙任の祝い

 

と称して、カルトアルパスに向かうことを伝えた。即日歓迎の返答があり、ジョンはカルトアルパスに向けて旅立つ。

 

「ハルトよ、兄より優れた弟は、アオイよ、兄より優れた妹はいらないのだよ!!」

 

しかし、ジョンはあまりにも迂闊であった。彼が持つスマートフォンがハッキングされ、ニュー・ホンコン総督府から全てが丸裸にされていたということに気が付かなかった。

 

 

イギリス領ニュー・ホンコン島

ニュー・ホンコン総督府総督執務室

 

「・・・・・・という訳で、アオイの兄さん・・・ハルトじゃない方はアオイとハルトの事を殺す気みたい」

「・・・・・・・そう」

 

興味無さそうに返答するアオイ。それもその筈。養子として迎えられたジョンとは異なり、アオイはハルトと共に直系として産まれた産まれながらの貴族。ジョンはハルトとアオイを補佐する為の教育が施されたのに対し、ハルトとアオイは将来爵位を継承する為の、貴族として社交界に出たり、軍役に就いたりする為の教育を施された。更にジョンとアオイは6つも歳が離れている。そんなに歳が離れていては、一緒に遊んだりなどしないし、両親もハルトとしか遊ばせなかった。故にあまり興味がなく、そう言えばいたな、ぐらいの感覚である。

 

「いやアオイ、身の危機感じてる?」

 

アオイの学友であり、諸事情で彼女お抱えの部下になったボタンがあまりにも危機感のないアオイに呆れる。ちなみに諸事情とは、欧州中央銀行への不正アクセスと出金である。無論ドイツ政府はガチギレし、引き渡しを要求されたのだが、とんでもねえハッキング能力に目を付けたイギリス政府は彼女に接触。犯罪者としてドイツに引き渡されるか、MI6に入って死ぬまでイギリス政府の監視下に入るかを選ばせたのである。後者を半ば強制的に選ばされた彼女は各地の部署を転々としながら、やがてニュー・ホンコン総督府に赴任。現在表向きはアオイ・バイオレット・アリス・ハミルトン総督御付きの部下として勤務している。

 

「既に手は打ってるよ。日本領事館の栄一等海佐から、最近怪しい輩がニュー・ニューテリトリーを出入りしているって聞いてたから。それが裏付けられただけ」

「いや、怪しい輩って・・・・見ただけで分かるもんなん?」

「逆に分からないボタン?」

「それはアオイが軍人だからだと思うけど・・・」

「そっかあ・・・・」

「いや何でしょんぼりするし」

 

 

イギリス占領下

神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス

カルトアルパス総督府総督執務室

 

「そうか・・・・兄上は僕のことを・・・」 

(大変申し訳ございません! 私がしっかりしていれば!!)

「謝るなヒルバート君。君が何をしようとこうなることは分かっていた。何れは兄上と爵位を賭けた戦いになると。それがたまたま今だっただけに過ぎない」

 

ニュー・ホンコン総督府からの速報はイギリス本国は勿論のこと、カルトアルパスにも届けられていた。イギリス政府からジョンの謀反と神聖ミリシアル帝国の企てを知ったヒルバートはハルトに対して謝罪の電話を掛けていたのである。

 

「ヒルバート君、君は兄上の為によく尽くしてくれた。父上に代わって感謝を申し上げる。既に兄上はカルトアルパスに向かっている。表向きは僕のカルトアルパス総督就任祝いでな。そこで見定めようと思う」

(見定める、ですか?)

「ああ。本当に手をかけなくてはいけないのか、共存する道はないのかを見定めたい。あれでも僕にとっては唯一無二の兄なのだ。出来るなら喪いたくはない」

(ハルト様・・・・)

「だが、駄目なら兄上の一族は皆殺しだ。後顧の憂いを断つ必要がある。ヒルバート君は兄上の奥方とその息子を何時でも始末出来るように手配するように。生かしておいては、牙を剥くかもしれない・・・・・そうか、分かった」

 

受話器を戻すハルト。イギリスの占領下にあるカルトアルパスでは、イギリスによる通貨改革が行われており、神聖ミリシアル帝国からの切り離しが進んでいる。ハルトはその最高責任者として市内を見おろしている。

 

「・・・・・兄上、どうしてそこまで愚かなのですか・・・兄上・・・・」

 

普段見せない表情を見たハルト御付きの部下であるネートとローサは後に、

 

「ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンは最後まで迷っていた。どうして兄を殺さなくてはいけないのか。殺さずに済む道はないのか。避けられないと分かっていながら、苦悶していた」

 

と語っている。その後ハルトは兄に対して最後の手紙を認めた。読むことはないだろう、そう思いながらも書かずにはいられなかった。後にこの手紙は封をしたまま兄ジョンの亡骸と共に火葬され、ハルト自身が内容について話すことはなかったことから、内容は不明のままとなるのである。

 

「兄上・・・・・改心して頂けないだろうか・・・」

 

叶うはずのない願い程虚しいものはない。自らにそう言い聞かせながらハルトは迫りくる神聖ミリシアル帝国軍と敵に寝返った兄に立ち向かうのである。

 

(続く)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。