日英同盟召喚   作:東海鯰

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増援の到来

神聖ミリシアル帝国バネタ地区

エリア48地下格納庫

 

「どういうことだ!! 何故敵襲に気付かなかったのだ!!」

 

激昂の皇帝ミリシアル9世は近くにいた整備兵を怒鳴りつける。無理もない。彼は神聖なる祖国に土足で踏み入った蛮族を駆逐し、その頭であるハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンを血祭りに上げ、イギリス本国へ侵攻する計画であった。しかし、カルトアルパスへ侵攻する前にイギリス側の大陸間弾道ミサイル攻撃を受けて虎の子のパル・キマイラは鉄屑に。計画が完全に破綻してしまったのである。

 

「何時直る!? 直りませんでは良心がないぞ!!」

 

怒り狂った皇帝は手当たり次第に周囲にいた者らを罵倒する。皇帝自身、修理が不可能であることは100も承知であるが、そうでもしないと自我を保てない。

 

「こうなれば陸と海からカルトアルパスへ総攻撃だ!! 航空隊も全力出撃だ!!」

「陛下、そうなりますと部隊の再配置に3日かかりますが・・・」

「構わん!! 敵は逃げたりはせん!!」

「では、そのように・・・・」

 

 

イギリス占領下

神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス

カルトアルパス総督府

 

「・・・・という訳で、当家はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国国王に忠誠を誓います。我が命を差し上げます故、どうか、家族と家臣の命を安堵して頂きたい!!」

「案ずるな。偉大なる我が大英帝国国王チャールズ3世はそなたらの命も所領も取らぬことを約束した。これはそれを記した起請文だ。以後は大英帝国に属する貴族の一員として、励むのだ」

「ははっ!!」

「されど」

「されど?」

「忠誠の証として、次男か三男を総督府へ奉公に出すように。総督府にて、召使いとして仕えて貰う。場合によってはイングランドの一流大学への入学を斡旋しようぞ」

「生憎、当家には次男や三男がおりませぬ。次女であれば出せますが・・・」

「ならば次女でよい。総督府にてメイドとして奉公させる。良いな?」

「承知致しました」

 

この日、各地の神聖ミリシアル帝国貴族が自身の家族や所領安堵を目的にカルトアルパス総督府に列を成していた。本国から従う貴族には寛大な扱いを、従わぬ貴族は取り潰すよう指示を受けていたハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトン総督は集まった貴族らから人質を取りつつ、誰が大英帝国に歯向かうのかをリスト化する作業に追われていた。

 

「しかし、忙しないな」

「恐らくは、バネタ地区に大陸間弾道ミサイルが多数着弾し、パル・キマイラとやらが全損した情報が伝わったのでしょう。神聖ミリシアル帝国の最終兵器が全損し使い物にならなくなったという事実は、大英帝国に勝てないことを示すもの。貴族らも我が身可愛さに降伏するのでしょう」

「うむうむ、ローサ君の言う通りだろう。隠したところで、我が国が暴露するしな。しかし、同時に献上品まで寄越す貴族が多いな」

「恐らくは、総督の機嫌を取るためかと」

「そこまでするか。しかし、バネタ地区に所領を持つバネタ侯爵からの献上品は気持ち悪い虫ではないか」

 

貴族からの献上品の山の中で別枠に避けられた虫籠。その中には赤味がかったクワガタムシが複数匹収められている。

 

「バネタ侯爵によれば、バネタ地区の数少ない森林地帯に生息する貴重な虫だそうで、森林地帯の減少により絶滅寸前なのだとか」

「はあ・・・・そんなものを贈られても困るぞ・・・まあ、あちらからすれば家宝に近いのだろうから、無下には出来んか・・・」

「では、総督の御学友、アキコ・ネブ様に贈られては?」

「アキコか・・・・そういえば彼女は虫に強い関心があったな」

「はい。彼女の父親はカブトムシ・クワガタムシの研究者であり、その血を引き継ぐアキコ様もクワガタムシを好んでおられます」

「確かに。ふざけて彼女の胸を触ってクワガタの形の目覚まし時計で殴られたことがあるしな。ちなみに君よりかなり小さかったぞ」

「は、はあ・・・・」

「ははは。まあ良い。まだ彼女はニュー・ホンコンにいるのだろう。速やかにこの気持ち悪い虫を送りつけよう。手配を頼む」

「ははっ」

「それとバネタ侯爵には、兵を率いて皇帝の身柄を確保するように伝えるんだ。国王陛下への忠義を示せ、とね」

「ははっ!」

 

後にこのクワガタムシは、イギリス軍による大陸間弾道ミサイル攻撃により、最後の生息地が消滅し、野生種の絶滅が認定。神聖ミリシアル帝国では繁殖方法が確立されていなかったことから、絶滅したものと考えられるようになる。後に同国の外交官が英連邦パラディオン王国にて、同国の大使になったアキコ大使に対して絶滅したクワガタの話をしたところ、

 

「え? そんなクワガタうちに320匹ぐらいいるけど?」

 

と言われて再発見。更に日本国内のブリーダーの間で「バネタノコギリクワガタ」の和名で大量に飼育・繁殖されていることも判明。更に、

 

「日本のノコギリクワガタに似てたから、それと同じやり方で産卵させてみたら馬鹿みたいに卵を産んだ」

「菌糸ビンを使ってみたけど、あまり大きくはならなかった」

「普通に昆虫ゼリーを食べる」

 

等、繁殖方法を完全に確立していたことも判明。彼女が言うには、

 

「厳しい環境に住んでいるせいで卵をあまり産まないだけで、環境を整えたらヒルスシロカブトみたいに馬鹿みたい産む。産んだ卵も腐らず、頑丈」

 

と、明らかにお前が馬鹿みたい繁殖させた結果やろという事実も判明。結果同種は本国では絶滅したが、日本では馬鹿みたい飼育されている虫になるのである。

 

「地球世界と途絶したせいで、旧世界のカブトムシ・クワガタムシの価値が爆上がり。ウエストウッドオオシカクワガタはオスだけで100万は超える。実家にいるけど。本音は外交官なんかやめてカブトムシ・クワガタムシの研究者になりたい。辞めれないけど」

「外務省は人手不足だからね」

 

 

イギリス占領下

神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス

カルトアルパス国際空港

 

「さて、オレの出番がまた来たということか!」

「今回はF15じゃなくてスツーカか。まあ、表立って参戦出来ないから仕方ねえか」

 

ニュー・ホンコン総督の命令により派遣されたオグリとウッチーは迎えの高級車に乗り込む。

 

「しかし、援軍参加の空軍部隊はオレとウッチー、後はムーから出向のラスティとハイネだけか」

「逆にそれで充分とみなされてるんだろうね〜」

「あの2人は基地に置いてけぼりか?」

「単純に別の車に乗るだけらしいから、大丈夫みたいだ」

「そうか。しかし、あのハルトが総督か。嫌味しか言わないだろうな」

「それはそう」

 

その後、彼らを乗せた黒塗りの高級車は無事カルトアルパス総督府に到着する。

 

カルトアルパス総督府

総督執務室

 

「ああ、やっぱり君達か。アオイが一騎当千のエースパイロットを送ると言っていたから予想はできていたけども」

「して、敵はどれくらい来るんだ?」

「相変わらず汚い英語だね君達は。イングランド訛りの美しい英語くらい喋れないのかな?」

「スコットランド人の癖にイングランド被れかよ」

 

悪態をつくオグリに対して、ハルトもまた挑発し返す。

 

「偉大なる国王陛下はイングランド訛りのみならず、ウェールズ訛りの英語も操ることが出来る。僕をイングランド被れというのであれば、国王陛下をウェールズ被れのクソ野郎と罵倒するに等しいが、その自覚はあるか平民? ここは大英帝国領カルトアルパスだ。イングランド訛りかスコットランド訛りの英語を喋ってくれないとなあ」

「たまたま貴族に産まれただけの癖に傲慢だな!」

 

あからさまに馬鹿にされたオグリが怒りに任せてハルトに殴りかかろうとする。

 

「やめろオグリ!! 相手は同盟国の総督だぞ!!」

 

やはりな、と言わんばかりにウッチーが全力で羽交い締めにする。

 

「やれやれ。そんな簡単に頭に血が登るようでは、司令官様もさぞ扱いに苦労するであろうな」

 

ハルトはタブレットの電源を入れ、現在把握している敵の部隊配置について説明する。

 

「現在、敵は100機の航空戦力と50000の陸上戦力、そして50隻の艦隊。総勢100000の兵力だ。艦隊には輸送艦も同行しており、輸送艦に乗艦している陸上戦力も確認済みの50000とは別にいるだろう」

「我々は何をすれば良いので?」

 

暴れるオグリをウッチーが押さえつけている間にラスティとハイネがハルトと作戦の打ち合わせを行う。

 

「ラスティ・マッキンリー中尉そなたはユーロファイタータイフーンを乗機にしていたな?」

「はい、ハイネ・オストフルス大尉も同様です」

「うむ。君達には、神聖ミリシアル帝国空軍の戦闘機部隊を相手にしてもらう。敵は100機と数は多いが、ジェット機の癖にレシプロ機に惨敗する七面鳥。敵ではあるまい。撃墜スコアを稼ぎ、エースパイロットとなり、階級を一気に上げる好機であるぞ!!」

「ありがとうございます!! 小栗二等空佐との訓練の成果を発揮して参ります!!」

「良き心掛けだ。戦果次第では僕の方から本国に上奏しよう。オストフルス大尉は本国にいる妻の期待を裏切らぬよう、生きて帰るのだぞ」

「心得ております、ハミルトン総督」

「明後日にも敵は攻めて来るだろう。今日はゆっくり休み、英気を養え。ちょうどオーストラリアから輸入した上質な牛肉が届いた。これを君達の為に焼いてやろう。あまりの旨さに飛ぶぞ」

「パイロットだけに、ですな?」

「え? どういうことですか?! オストフルス大尉?!」

「ははは!! 相変わらずラスティは頭が固いな。さて、ステーキを食べに行くとしようぞ」

「「はい!!」」

 

ハルトがラスティ、ハイネと共に総督執務室を後にした中、オグリはまだ暴れていた。

 

「あのクソブリカスめ!! 敵じゃなかったら爆撃してやったのに!!」

「落ち着けオグリ!! 絵に描いたようなイギリス人相手に激昂してどうする!!」

「止めるなウッチー!!」

 

この2人はオージービーフを食べ逃したのは言うまでもない。

 

「オージービーフ、実に美味いな」

「あれがラスティの妻か? 尻に敷かれるどころか粉砕されそうだな」

「ははは、それは言えてるな!」

「ハミルトン総督にオストフルス大尉・・・・何で決定事項なんですか?」

 

別室で未だに暴れるオグリと押さえつけるウッチーの様子を監視カメラで高みの見物しているハルト達の姿もそこにあったのである。なお30分後、

 

「「zzzzzz」」

 

「寝てて竹」

「それじゃあ総督、ご馳走になったぜ。ウッチーは俺が持ち帰る。ラスティはオグリを持ち帰れよ」

「え、ええ?!」

「嫁の後始末ぐらい出来ないとダメだろ? じゃあ、頑張れよ〜」

 

 

新生グラ・バルカス帝国海外領土ニューアーク

ニューアーク総督府市街地

 

「・・・・・・・・ヒビキ君・・・」

 

俯きながら市街地を進む日本製の黒塗りの高級車で移動するのは、先の二グラート沖海戦で戦死した若葉響二等海佐の妻、若葉琴音。この日、新生グラ・バルカス帝国の海外領土(実質的に本国)では、護衛対象である新生グラ・バルカス帝国艦隊を逃がすために命を散らした4人の幹部候補生の国葬並びに勲章の追贈が行われていた。外国人に対する国葬は異例中の異例であるが、神聖ミリシアル帝国海軍が攻撃を加えようとした輸送艦には総勢3000人の民間人が乗艦しており、彼等が決断しなければ一方的な虐殺が起きていたのは火を見るより明らかであった。また、ヒビキらが神聖ミリシアル帝国海軍を撃退したことで、同国は第二文明圏に艦隊を送らなくなった為、以後グラ・バルカス帝国本土からの避難民が安全に核の脅威から逃れられるようになったのである。また、神聖ミリシアル帝国艦隊の目的はニューアークを焼き払うことであったこと、ヒビキらがそれを未然に防止したこともあり、ニューアークでは原住民、入植者問わず彼等に勲章を授与するよう、ニューアーク総督府に求めた。神聖ミリシアル帝国とは講和を結んでいないことを利用するべきと、イギリス側から助言を受けた皇太子グラ・ガルマは、神聖ミリシアル帝国への敵意を煽るのに利用することを決断。演説を行い、打倒神聖ミリシアル帝国で国内をまとめ上げることにしたのである。

 

「・・・・・」

 

コトネの隣に座るマツバは何を話せば良いか分からず黙り込む。ヒビキ、ユウキ、コウキはそれぞれの妻または婚約者が国葬に出席する一方で、ミヅキは元がアメリカ人であったことから、異世界転移により親族とは永久に切り離されてしまった。その為、配属時に教官を勤めたマツバがミヅキの親族の代理として出席しているのである。車内には同じく最愛の人を喪った女性が涙ながらに喪服姿で座っている。やがて車はニューアーク市内最大の広さを誇るニューアーク市民広場に到着した。

 

 

ニューアーク市民広場

 

「・・・・・・」

 

遺族や市民らが見守る中、ヒビキらのクソデカ肖像画が広場の中央に飾られている市民広場に皇太子グラ・ガルマが現れる。やがて皇太子による追悼演説が開始される。

 

「我々は偉大なる英雄を喪った。それも、我が国の民を守る為にたった4人で神聖ミリシアル帝国の大艦隊に立ち向かった日本国の若き幹部候補生達である!!」

 

皇帝の血筋を継ぐ者としてのカリスマ性を感じさせる演説に皆が息を呑む。

 

「彼等は我が国の民を差し出せば、命は助かったかもしれない。あるいは見捨てて逃走すれば確実に助かったはずだ。だが彼等はそうしなかった。彼等は自らの使命と帰着する運命に気付いていたのだ」

 

ガルマは悔しそうな表情を浮かべながら演説を続ける。

 

「彼等は自身の命と国益を天秤にかけた。その結果、自身の命を引き換えに3000を超える命を救う方が重要であると判断した。そのような高度な判断を即決出来る軍人が他にいるだろうか? 否! 否であろう!! そのような高潔な軍人を喪った悲しみと悔しさ。何より彼等の愛する人の元に帰ることの出来ない無念さ。残された我々に出来ることは、彼等の栄誉を讃え、慰めの言葉をかけることだけなのである」

 

ガルマは更に言葉を続ける。

 

「彼等が命がけで救ったこの命を我々は決して無駄にはしない!! 神聖ミリシアル帝国は世界の主導国を自称しながら、自らの意図に反する行動した国を一方的に蹂躙し、支配しようとする、かつての我が国と同様の侵略国家である!! そしてその侵略国家は我が国の同盟国イギリスに攻撃を仕掛けた!! これは許されぬ行為である!! 命を散らした英雄達の無念を晴らし、神聖ミリシアル帝国を処断するその日まで私達は戦い続ける!! だが、若葉響二等海佐以下4名の御霊は安らかに眠っていて欲しい。残された者達を神に近い場所から見守って欲しい。それが現世を生きる私達からの、最後のお願いだ。神よ、最も近いところで彼等を守りたまえ!!」

 

ガルマの追悼演説が終わると、遺族らによる別れの言葉が読み上げられる。その先頭をきったのがヒビキの妻、コトネである。

 

「コトネ、僕は何時も戰場で散る覚悟は出来ている。ヒビキ君は家を出る時何時もそう言っていたね。そんな日が来るかもしれない。それは薄々感じていたけれど、そんな日が本当に来るなんて思っていなかった。そう言いながら、ヒビキ君は何時も五体満足で帰って来てくれたから。スマートな海上自衛官。将来を嘱望された若き幹部候補生。そんな貴方をあたしは誇らしく思っていた。いや、今でも誇らしく思っている。幼馴染みとして過ごした日々、日に日に深まる友情と愛情、互いにあと一歩踏み出せない足踏みした日々、そして告白。あの日のヒビキ君はちょっと情けない顔だったかな。でも、同時にあたしの気持ちを受け取ってくれてた。婚約したあたしとヒビキ君。ヒビキ君の防衛大学校進学。ヒビキ君は自衛官、あたしは花嫁修行。道は違えど、同じところに帰る。それが毎日続く。今日も明日も明後日も変わらない。大切な日々。でも、今日も明日も明後日も、ヒビキ君は帰って来ない。あのスマートな海上自衛官で、あたしの事を誰よりも愛してくれたヒビキ君はもういない。ヒビキ君、あんまりだよ!! どうしてあたしを置いてけぼりにするの? ヒビキ君がどうして殺されなければいけなかったの? 日々葛藤し、何処にもぶつけることの出来ない悔しさだけが募る。でも、あたしには最後の使命がある。それは、ヒビキ君が残してくれた新たな命。紛れもないあたしとヒビキ君の子を、双子の男女を立派に育て上げること。その使命を必ずや全うしてみせる。だから、今は安らかに眠って。あたしがそっちに行く、その日まで」

 

コトネの別れの言葉に続いて、ユウキの婚約者尾田牧遥が言葉を紡ぐ。

 

「ユウキ君の準備は、良いに決まってるよね?とあたしが問うと、ハルカ、2人の力を見せてやろう!と返してくれたユウキ君。貴方が帰って来たら告白しよう。いよいよ入籍しようと待っていた。でも、その日は永遠に来ない。訃報を知らされた時、とても信じられなかった。ユウキ君なら脱出しているはず。そう言い聞かせ、自身を落ち着かせた。でも現実は覆らなかった。後の調査でユウキ君は仲間を庇いながら亡くなった事が分かった。死が迫るその瞬間、誰が脳裏に過ったのか。あたしであると良いな。それしか言えない。さようなら、ユウキ君。愛してるよ」

 

泣きながら戻るハルカと入れ替わるようにして、コウキの友人の金早純がクソデカ遺影に向き合う。

 

「あれは俺の勤務先、根部商事オタハイト支店で外回りの営業を終えて帰って来た時のことだった。社員が皆テレビの画面に釘付けになっていた。そこに映し出されていたのは、殆ど沈んでいて、マストが僅かに海面の上にある、コウキ、お前が乗っていた護衛艦「わかば」の様子を映したイギリス海軍のヘリコプターから撮られた映像だった。我が目を疑ったぜ。同時に映し出されていたテロップの内容が信じられなかった。速報「神聖ミリシアル帝国海軍が海上自衛隊の護衛艦を攻撃か」「護衛艦「わかば」が攻撃を受けたと防衛省が発表」「外務省、東京の神聖ミリシアル帝国大使館に厳重抗議」見れば見るほど絶望的だった。でも、どんなに叫んでもコウキ、お前は帰って来ない。罰金100万円な! そう叫んでもお前は帰って来ない。俺が何時そっちに行くかは分からねえ。だがコウキ、お前が生きる筈だった時間は生きてやる。だから待ってろよ。俺が死ぬその日までな」

 

最後にヒビキらが配属された時の最初の上司であるマツバがクソデカ遺影の前に立つ。

 

「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ。散りどきを知っていてこそ、花は花、人間は人間たりえるのだという意味で、細川ガラシャが遺した辞世の句だ。ミヅキ、この句を君は知っているかい? もし、君が知っていたら間違いなくこの句をベースに選んでいただろう。アメリカから日本に帰化して、日本人として海上自衛隊へ進んだ君。異世界転移により、親族と切り離され、独りぼっちになってしまった君。それでも君は仲間達と一緒に咲き誇っていたね。今回の海戦は当に散りどきを知っていたかのようだった。君の奮闘で多くの民間人は救われ、君に感謝している。まだまだやりたいことがいっぱいあったはずだけど、君に後悔の二文字を感じない。今が当に散りどきなのだ。そう感じるんだ。だから、今度は彼の世で咲き誇っていてね。君は1人じゃない。ヒビキ君、ユウキ君、コウキ君も一緒だよ。4人で仲良くしてくれると良いな。最後の別れをこの言葉で締めくくるよ。護衛艦「わかば」の栄光と勝利を君に!!」

 

その後参列者による献花が行われる。日本政府からは駐ニューアーク領事館職員、海上自衛隊からはヒロシとケントが参列。イギリス政府からはブレンダン駐ムー英国大使が参列し、各国も領事や大使を派遣した。また民間企業からの献花もあり、ミカドアイHDと根部商事からの献花が隣り合わせという奇妙な光景も見られたという。

 

「出棺でございます」

 

最後にヒビキら若き幹部候補生らの遺体(ただし、指や足等極一部しか回収出来なかった)を納めた棺が運び出され、ニューアーク空軍基地に向けて移動を開始する。弔砲が鳴らされ、市民総出で棺を見送る。

 

 

新生グラ・バルカス帝国海外領土ニューアーク

とある老舗の茶店

 

「まさか・・・・練習艦「かしま」で可愛がった後輩が・・・・こんな姿に・・・・」

「ヒロシ先輩・・・・」

「ケント、俺の教育が悪かったのかな? 俺の教育が悪かったから彼奴等は自爆特攻したのかな?」

「ヒロシ先輩、自分を責めないでください。彼等は自分の意思で散り際を決めたんです。ヒロシ先輩のせいではありません」

「・・・・・ケントは何時もそうだ。そうやって何時も俺が欲しい言葉を返してくれる。今日もだ」

 

国葬が終わり、近場の昔ながらの茶店でお茶をしているヒロシとケント。ヒロシはかつての教え子達の変わり果てた姿に落胆すると共に、自身の無力さを突きつけられた気持ちであった。一方ウクライナで地獄を経験しているケントは無の境地であった。

 

「ケントは強いな。かつての教え子達があんな姿になったと言うのに毅然としていられる・・・」

「ウクライナではあれが当たり前。油断すれば自分がその一員に成り果てますから、不思議と死体を見ても何も感じなくなりましたね。親友に連れ回されてハルキウに行きましたし、自分が遺体を作る側にもなりましたし、何人のロシア兵や内通するウクライナ人を殺したことか・・・・」

「そうか・・・・」

 

項垂れるヒロシの背中を叩きながらケントは茶店を出る。待ち構えていた護衛艦「もがみ」「わかば」の乗員らに連れられて海軍基地へと移動。海戦以降、ニューアーク海軍基地で係留されていた護衛艦「もがみ」と増援のイージス艦「はぐろ」が待機しており、彼等は「はぐろ」でマイカル海軍基地へと移動した。終始項垂れるヒロシを見たケントは本国に対して、

 

「羽田一等海佐は先の戦いにて、4人の幹部候補生を喪ったことによる自責の念に駆られ、心神耗弱状態にあり。暫しの休養の必要ありと認む」

 

との診断書を送付した。これを受けて防衛省は羽田一等海佐を翌月付けで異動。駐在武官の交代と称してニュー・ホンコンの日本領事館へ異動させるものとし、現在赴任している栄一等海佐を護衛艦「いずも」艦長へ配置転換することにした。ケントはヒロシの健康状態を逐一管理する為に共に行動する。顔が窶れ、変わり果てたヒロシの姿にアキコとシンは驚愕することになるのは後の話である。

 

「そう言えば、新生グラ・バルカス帝国はイギリスに援軍を派兵したんだってな」

「はあ。21隻の海軍艦艇に陸軍3000人と聞いています」

 

国葬が行われている裏では既にニューアークからは戦艦「グレート・ガルマ」を旗艦とする21隻にもなる艦隊がカルトアルパスに向けて移動中。その中には陸軍部隊を満載した輸送艦4隻も含まれており、総勢3000の陸軍部隊と共にイギリス側として参戦する。明日にも到着し、カルトアルパス派遣軍の指揮下に入ることになる。

 

 

海上自衛隊イージス艦「はぐろ」医務室

 

「・・・・・ああ〜、こりゃあ先輩心神耗弱の兆候ありですわ。休養しないとダメですね」

「き、休養?! ヒビキら教え子達の仇を取らないと!!」

「海軍基地からそのような指示が出ていますか? 勝手にやるんですか?」

「ぐっ・・・・」

「本国には、休養が必要であると報告します。恐らくはアキラ先輩辺りと交代になるでしょう。勘ではありますが」

「アキラか・・・まあ、アキラなら「いずも」を任せても大丈夫か・・・・」

「それとヒロシ先輩、噂ではあるのですが」

「噂?」

「マイカル空軍基地より、航空自衛隊のF2とイギリス空軍のユーロファイタータイフーンそれぞれ4機が離陸しており、間もなくカルトアルパスに到着すると」

「ちょ、ちょっと待てよ! 我が国は内閣が崩壊寸前、解散総選挙を控えていて援軍を命令出来る状態ではないはずだぞ?!」

「故に、名目上は日英合同演習らしいです。偶然にも爆弾を投下した先に神聖ミリシアル帝国軍が展開していて、ミサイル発射訓練をしていたら偶然神聖ミリシアル帝国軍に命中してしまったという体裁らしいです」

「海場司令好き勝手やり過ぎだろ・・・しかも本国があれだから誰も処分出来ないという・・・・」

「まあ、ともあれヒロシ先輩は休養です休養!! 働き過ぎなんで、休んじゃいましょう!!」

 

診断書にハンコを捺すケント。

 

「じゃあ、先輩とまたぶらぶら歩き回りますかね〜」

「何でお前もついてくること前提なん?」

「先輩を一人にすると何をしでかすか分からないから」

「堂々と言ったなお前!?」

「未だに幼馴染みの女の子のケツ追いかけてる人には言われたかないですね。いい加減諦めましょう」

「ケツは追いかけてない!! 顔だ!!」

「変わんねえよ馬鹿」

 

マイカル海軍基地到着後、休養として2人はニュー・ホンコンの日本領事館に送られたとさ。

 

「ちなみにアキコ先輩はクルセイリースから独立後に英連邦パラディオン王国の大使として赴任することが決まっているんで、今しか会えないっすよ。まあ、今も出産を控えているんでシンと医官の葵ぐらいしか会えないですけど」

「俺とは会ってくれないの?」

「さあ?」

 

(続く)

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