イギリス占領下
神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
カルトアルパス空軍基地
「・・・・ここがカルトアルパスか」
神聖ミリシアル帝国皇帝ミリシアル9世の誘いに乗り、弟ハルトを暗殺する為に来訪したジョンは初めて訪れる異国の街並みに目を奪われる。
「ハルトは弟の分際でこんな美しい街を支配する総督にさえなったのか。実に腹立たしい限りだ」
途中経由地として立ち寄ったニュー・ホンコン国際空港(所在地はカナダ領ニュー・ニューテリトリー)にて、神聖ミリシアル帝国の特殊部隊隊員2名と合流。彼等と共にカルトアルパスへの物資輸送を行うイギリス空軍のC-17輸送器に搭乗し、無事到着。ちなみにその気になれば、ニュー・ホンコンにてジョンを暗殺することも出来たが、ハル兄の顔を立てる為に敢えて無視したと、後にアオイは語っている。
「迎えが来たか」
事前にカルトアルパス総督府より、総督の兄が表敬訪問すると伝えられていたこともあり、総督府より迎えの高級車がやってくる。彼等はそれに乗車し、総督府へ向かう。
「・・・・・・・・・(しかし、ハルトのヤツ、何でこんな回りくどいことを・・・・さっさと斬ってしまえばよいものを)」
迎えの高級車に護衛兼監視役として同乗するオグリは終始無言であったが、目で不満を訴えていた。迎えの黒塗りの高級車は、1台目にはジョン、オグリ、ウッチーが、2台目には神聖ミリシアル帝国の特殊部隊、ラスティ、ハイネが乗車し、有事に備える。
「・・・・・・・・・(そう言うなよオグリ。ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンも、血が繋がっていないとはいえ、兄を殺す事には消極的なんだよ)」
「・・・・・・・・・(ボタン一つで外国人を大量虐殺した癖に何馬鹿なことを言ってるんだよ。こちとら敵の戦車を吹き飛ばすと快感すら覚えるぞ)」
「・・・・・・・・・(オグリも空の魔王の仲間入りかあ・・・たまげたなあ・・・・)」
「・・・・・・・・・(見たけりゃ見せてやるよ・・・・って、ウッチーは後部機銃手として死ぬ程見てただろうが!)」
「・・・・・・・・・(そう言えばオグリは、サーベルの扱いって出来たっけ?)」
「・・・・・・・・・(このオレに出来ないものはない!! 馬鹿にするな!! 撃墜されて敵地に降り立った時に敵から銃とサーベルを奪って斬り殺したオレの勇姿を忘れたのか!!)」
「・・・・・・・・・(30回撃ち落とされて五体満足、それどころか敵の戦車を強奪して帰ってきたこともあるもんな)」
「・・・・・・・・・(それどころか敵地に墜落したラスティを救出する為に敵地に強行着陸だってしたぞ!!)」
「・・・・・・・・・(でも、あの時は機体が沼地にはまって離陸不可能で結局敵の装甲車奪って帰ってきたじゃ〜ん)」
目で先のムー大陸における武勇伝を語り合うオグリとウッチー。2人は現役のエースパイロットでありながら、肉弾戦においても好成績かつ、小松基地勤務時代、習志野を訪問した際に些細な事で第一空挺団もとい第一狂ってる団隊員と殴り合いの喧嘩になった際に勝ってしまい、後日第一狂ってる団へのオファーが小松基地に届いてしまうというわけのわからない化け物である。
「・・・・・・・・・・(ラスティは育ちが良くてオレンジ髪のイケメンだけど、戦士としては不適格。あいつと結婚したらラスティを専業主夫にさせるわ)」
「・・・・・・・・・・(少なくともオグリよりは炊事洗濯掃除出来るもんな。アルタラス王国配属時代のオグリの私室は酷かったもん。整理整頓出来ない、カップ麺すら作れない、洗剤の量がわからない、だもんな。まあ、翌日から俺が全部やったから問題にはならなかったけどね〜)」
事ある毎に一緒にいることから周囲に、
「早く結婚しろお前ら」
と言われるオグリとウッチーだが、血の繋がった姉弟なので結婚出来ないという致命的欠陥を抱えていた。いつしか、2人の持ちネタみたいになっていたが。
「・・・・・・・・・・(しかし、ラスティに暗殺なんて出来るのかな?)」
「・・・・・・・・・・(やるしかないんだよな〜)」
そんな2人に挟まれるジョンは終始居心地が悪かった。明らかに自分のことをみていない。にも関わらず殺気のようなものが漂っている。更に目で何かを話し合っている。
「・・・・・・・・・・(日本人にまともに会うのは初めてだが、日本人は言葉を発さずとも会話が成り立つのか? 流石は忍びの国・・・・恐ろしい・・・・)
終始グレートブリテン島から出たことがない、基本的に牧場経営で来訪者もあまりないジョンにとって日本人は資料でしか見たことのない存在。サムライとシノビとヘンタイの国というイメージしかなく、目で会話するオグリとウッチーを見て変な勘違いをしてしまうのである。
「日本人・・・・なんて恐ろしい人種なんだ・・・」
「「??」」
突然のジョンの一言にきょとんとするオグリとウッチー。
「・・・・・・・・・・(暗殺予定なのがバレたのか?)」
「・・・・・・・・・・(だとしても結末は変わらないけどね〜)」
変な勘違いを産みながらも黒塗りの高級車は追突されることなく、カルトアルパス総督府へ到着。総督府の入口では、総督であるハルト自らが直臣であるネート、ローサと共に兄を出迎える。
イギリス占領下
神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
カルトアルパス総督府正面玄関
「おお兄上!! この日が来ることを心待ちにしておりましたぞ!!」
屈託のない笑顔で兄ジョンを出迎える弟ハルト。
「・・・・・ああ、余もそう思っていたところだ」
「思っていた? では今は思っていないので?」
「いちいち試すなハルト!! 冗談に決まっておろうが!!」
一瞬この場での暗殺も考えたジョンであったが、ハルトの両脇を固めるネートとローサがピクリとも笑わずにジョンを睨んでいたことから、暗殺は不可能としてこの場では断念した。
「ははは、これは失敬。ささ、中へお入りください」
絶妙に背中を見せずに中へと誘導するハルト。やがて2人は並んで総督府へと入っていく。ハルトとジョンに続く形でネートとローサが続く。
「御付きの方々に付きましては、別室で待機して頂きます。此方へどうぞ」
4人の中で一番器量良し(男性だけど)のラスティの誘導で神聖ミリシアル帝国の特殊部隊隊員も総督府へと入る。始めはハルトやジョンのやや後ろを歩く形で続いたが、最初の曲がり角付近で別れる。
「御付きの方々は此方の別室にて待機をお願い致します。暫くは兄弟水入らずとしたいので」
「・・・・・・それもそうであるな」
「では失礼致します」
ラスティの誘導で神聖ミリシアル帝国の特殊部隊隊員は総督府の一室へと案内される。きらびやかな総督府にも関わらず、家具一つない殺風景極まりない部屋へと足を踏み入れる。
「・・・謀られたか!!」
特殊部隊隊員の一人は部屋を見てそう叫んだ。次の瞬間、案内役のラスティが腰から下げているサーベルに手をかけたのに気付く。
「斬り捨て御免!」
ラスティが抜刀し、特殊部隊隊員に斬りかかる。
「若造が!!」
不意打ちに近い抜刀にも関わらず、特殊部隊隊員は隠していた短刀でラスティの刃を受ける。
「神聖ミリシアル帝国を舐めるな!!」
「ぐっ、強い!!」
短刀であるにも関わらず、ラスティのサーベルを弾き飛ばす。
「貴様ああ!!」
もう一人の特殊部隊隊員が懐から拳銃を取り出し、ラスティに向けて銃口を向ける。
「後ろががら空きだな」
ラスティに銃口を向けた特殊部隊隊員をオグリが一撃で斬り捨てる。背後から勢いよく斬りつけられた特殊部隊隊員は鮮やかな血飛沫を上げながらその場で絶命する。
バタン!!
ハイネが扉を閉め、出口を塞ぐ。これで逃げ道は完全に無くなる。
「おのれええ・・・・良くも不意打ち等と!!」
弾き飛ばしたラスティのサーベルを握り、オグリに斬りかかる特殊部隊隊員。第一狂ってる団隊員とマジの殴り合いをしたことのあるオグリとは知らずに自ら死地に飛び込んでいく。
「ラスティのサーベルを貴様のような穢らわしいクズが握るな!!」
「くっ! この女、出来る!!」
最低限の動きで敵の攻撃をいなしていくオグリ。明らかに強者の動きに特殊部隊隊員は舌を巻く。
(日本国には神聖ミリシアル帝国の、皇帝陛下直属の精鋭部隊さえ手こずらせる精鋭がいるのか・・・・日本懲罰後は戦力として使えそうだな)
「・・・・・愚か者め」
オグリは敵の攻撃をいなしながら周囲に目を向ける。既にウッチー、ラスティ、ハイネの3人は周囲に展開し、拳銃を構える。敵は完全にオグリに目が行っており、周囲から向けられた銃口に全く気付いていない。
「今だ! 撃て!!」
パアアン!! パアアン!! パアアン!!
3発の銃声が密室に木霊する。3方向から同時に銃弾を撃ち込まれた特殊部隊隊員はその場で崩れ落ちる。
「うぐああ!!」
「貴様のせいでラスティのサーベルが穢れたわ!! 死に晒せ!!」
特殊部隊隊員の喉元にサーベルを突き刺してとどめを刺すオグリ。その後ウッチーとハイネが倒した特殊部隊隊員の息を確認。絶命していることを確認した。
「お、お見事です!! 小栗二等空佐!!」
「ラスティ! 敵にサーベルを奪われるとは何事だ!! オレがいたから良かったものを!! それで国民を守れるのか!!」
「まあまあオグリ、ラスティもハイネも無事なんだ。それで良いじゃねえか」
「さて、死体を片付けようぜ。早いところ片付けないと、臭くなるぜ」
その後4人は死体をあらかじめ用意しておいた箱に納めると、速やかに玄関で待機していたミカドアイHDのトラックへと運び入れた。特殊部隊隊員の遺体は速やかに火葬され、カルトアルパス市内の教会で埋葬される予定である。
「あの部屋はどうするんだろうな?」
「まあ、掃除はするだろうね〜。ワンチャン貰えたりしないかな?」
「そうなれば、俺達はハルト総督御付きの護衛官に出世か?」
「そんなこと、あるんでしょうか?」
「取り敢えず血のついた衣服は廃棄だ。シャワーを浴びて、身体を清めるぞ」
総督府の職員やミカドアイHDの白服達が部屋の後始末を開始し、オグリらは浴室へと消えていく。後日同室は根部商事によりリフォームされ、総督直属の護衛官の寝室として使われることになる。
「此方が本国にいる子供達の為の部屋になります。広々とした室内には成長に合わせて様々な家具が置けるように配慮がなされています」
兄を連れて各部屋を案内するハルト。巨大な総督府には数多くの部屋があり、その殆どは使用されておらず、現在用途を検討中の部屋が多いため、使い道が決まっている部屋のみを案内する。
「ほう・・・・・流石は皇帝の別荘と言うだけはあるな」
ジョンは暗殺の機会を伺いつつ、絢爛豪華な総督府に目を奪われる。
(この弟さえいなければ、この総督府は余の物であったはず。必ずや弟を暗殺し、この建物と名誉を手に入れなくては!!)
「・・・・・・・・・・」
ハルトは一瞬寂し気な表情を浮かべる。
(やはり兄上は僕を殺す事にしか頭が行っていない。本気で僕を殺せば全てが手に入ると思っている。何と愚かなことか。仮に事が成せたとしても、そんな約束なんぞ簡単に反故にされる。それどころか用済みとして真っ先に殺される。何故それが分からんのです!! 兄上!!)
「如何されましたか? 兄上」
「・・・・・いやあ、豪華な邸宅であると思ってな。これをお前の家族と部下が使うのだろう? 手に余りそうだな」
「兄上も私室、要りますか?」
少し試すかのように問うハルト。試されてるとも知らないジョンは社交辞令で返す。
「いや、要らぬよ。余にはスコットランドに僅かな所領がある。家族はそれで満足している。これはお前のだしな」
(何が私室が要りますか、だ。お前さえ亡き者にしてしまえばこの総督府全体が余の物になるのだ!! そして神聖ミリシアル帝国の者らはニュー・ホンコンにいる妹アオイ、そして本国にいる父上を暗殺するべく動いている。数日後には全てが余の物になる。精々兄に歯向かった事を悔いるのだな!!)
社交辞令の裏側の本音を隠しきれていないことに気付かないジョン。ハルトは内心ため息である。
(やはり叛意ありか。本当に残念ですよ、兄上。如何に綺麗に取り繕っても、教育された以上の事は出来ない。僕と兄上の違いが如実に出てしまっている。やはり、討たなくてなならないのか・・・・)
その後、他の部屋を隅々まで案内するハルト。途中ウィンザー朝の歴代国王・女王の肖像画を飾る貴賓室でカルトアルパス産のワインを振る舞う。
貴賓室
「貴賓室では各国の要人を御迎えする為に最高級の調度品を取り寄せております。ささ兄上、カルトアルパス産のワインを御賞味ください」
封されたワインをネートが開栓し、それをグラスに注ぎ込む。
「兄弟の今後の親睦を祈念し、乾杯と致しましょう」
「・・・・・・・・ああ、そうだな」
(何が兄弟の今後の親睦を祈念し、だ!! お前は今日この総督府で亡き者にされるんだよ!!)
ハルトが自分を毒殺する事はないと知っているジョンは臆する事なくワインに口を付ける。
「・・・・実にまろやかな味わい・・・・コレは良いものだな」
「ええ。今朝方カルトアルパスの商人より取り寄せたワインですから。フランスのワインより美味でございますよ」
「フランスのワインを知らぬが、とにかく美味いな」
ローサが軽いつまみを2人に提供する。2人は当たり障りのない会話と共に、ワインを楽しむ。
(・・・・・このワインが兄上と味わう最初で最後か・・・兄上、死に急がないで頂きたい!!)
(ハルトを始末すればこの上等なワインも余の手の内か。ますます暗殺するしかなくなったな。しかし、神聖ミリシアル帝国の特殊部隊は今何をしているのだろうか?)
既に始末されたことを知らないジョンは、頭の隅に神聖ミリシアル帝国の特殊部隊を思い浮かべながらワインを楽しんだ。その後、中庭に出た2人は共通の趣味であるテニスや乗馬に興じた。無論ネートやローサといった、ハルトの直臣が常に傍に控えており、ジョンに暗殺の機会を与えない。
(しかし、あのハルトの直臣が邪魔過ぎる!! あの2人が邪魔して暗殺の機会がない!! 更には神聖ミリシアル帝国の特殊部隊隊員らと魔信が繋がらない!! 一体何をやっているのだ!!)
諸々の接待が終わり、遂にその時がやって来る。ハルトが自らの私室にジョンを案内したのである。
ハルトの私室
「ささ兄上、お入りください」
「うむ」
ハルトの私室は意外にも落ち着いており、畳が敷かれた和風の部屋となっていた。2人は靴を脱ぎ、畳の上へと上がる。
「ほう、将棋か。確かハルトには日本人の学友がいるのであったな?」
「はい。2人とも綺麗なイングランド訛りの英語を操り、今は外交官として勤務していると聞いております」
「私室が和風なのは、2人の影響か?」
「そうですね。ネート君、緑茶を淹れてくれ。熱々のをな」
「はっ、畏まりました」
2人は将棋盤に向き合い、駒を並べ始める。
「しかし、兄上に将棋を嗜む趣味があるとは」
「チェスに飽きた故、何か異国のボードゲームがないかと調べたことがあってな。チェスにルールが似ていた故、覚えたのだ」
「そうでしたか」
やがてネートが2人に緑茶を、ローサが煎餅や饅頭等の和菓子を2人の近くに置く。
「・・・・・ネート君、ローサ君」
「「ははっ」」
「暫くの間、本当の兄弟水入らずとしたい。席を外していてくれるかな?」
「畏まりました」
「何かありましたら、お呼びください」
2人はハルトの指示で退室する。まさかの好機到来にジョンは内心ガッツポーズをする。
(やはりハルトは余を全く警戒していない!! 遂にハルトと二人きりの機会が到来。次こそは仕留めてやる!!)
暗殺の機会が巡ってきたと喜ぶジョン。しかし、現実はそう甘くはない。ハルトの私室は実は暗殺部屋を兼ねており、掛け軸の裏には人1人が隠れられるスペースがあり、更に普段は布団や毛布を仕舞う押し入れにも武装した兵士を隠すことが出来る。掛け軸の裏にはウッチーが銃剣として使えるナイフの柄を握りながら待機し、押し入れの中にはラスティとハイネが拳銃を握り、銃口を向け、そして私室と玄関を仕切る襖の裏には退室したネート、ローサの2人と入れ替わりで密かに入室したオグリがサーベル片手に控えていた。そう、ハルトはジョンを私室で暗殺するつもりなのである。それに気付かず、既に詰んでいることに気付かないジョンは、ハルトと将棋に興じながら暗殺の機会を伺っていた。
ハルトの私室
押し入れの中
「・・・・・しかし、ハルト総督は何故さっさとジョンとやらを暗殺しないんだ? 始末するなら早くした方が良いのに?」
「人間だから、だろうな」
「人間? オストフルス大尉、どういうことですか?」
押し入れで待機する2人はヒソヒソと会話をする。ジョンはハルトと将棋に興じており、ヒソヒソ声には全く気付かない。
「ハルト総督にとってジョンは唯一無二の兄。信じたい気持ちがあるんだろうな」
「自分を殺しに来た人間を信じる? ボタン一つでグラ・バルカス人を大量虐殺した男とは思えないですね・・・・」
「人間というのはそんなもんさ。ハルト総督は自らの言葉で唯一無二の兄を翻意させたい。昔のように仲良くしたい。そう考えているんだろうぜ」
「良くわからないなあ・・・・」
「ラスティは母子家庭の一人っ子だからな。無理はないぜ」
「ん? 流れが変わったような?」
2人の視線の先には、真剣な眼差しで兄ジョンを見つめる弟ハルトの姿があった。
「・・・・いよいよみたい、だな」
ハルトの私室
「・・・・・兄上」
「なんだ?」
「兄上は・・・僕を殺しに来たんでしょう?」
「・・・何故そう思う? 可愛い弟を何故殺さねばならん」
「煙に巻くのも、よしなされ」
ハルトは桂馬を動かし、王手をかける。
「兄上が連れてきた部下は、スコットランド人ではない。さしづめ、神聖ミリシアル帝国の手の者だろう。奴等は此方で始末した。今頃はミカドアイHDの手により火葬されており、後日カルトアルパス市内の教会に埋葬される予定だ」
「・・・・・・・・・・・・」
無言で王を逃がすジョン。
「兄上、貴方の負けです。どうせ、神聖ミリシアル帝国のお偉いさんから唆されたんでしょう。僕を殺せば爵位を与えるだなんだって」
「・・・・・ははは、ハルトは想像力が豊かだな」
「既にMI6が動いてる。兄上が治めるスコットランドの所領は大英帝国軍が制圧した。神聖ミリシアル帝国の輩は皆拘束され、ロンドンの大使館にも兵を送り、制圧が完了の見込みだ」
飛車を動かし、退路を断つハルト。
「・・・・・誰が最初に気付いた?」
「アオイの友人、ボタンだ。優秀なハッカーかつ、冥土の土産に教えておきますが、彼女はMI6の一員だ。兄上のスマートフォンをハッキングし、全てが筒抜けでした」
「・・・・・完全な法令違反だな。遵法意識の欠片もないのだな、妹アオイは」
「それがアオイの、そしてボタンの仕事だ」
「やはり可愛くない妹だな」
ジョンは負けじと金を置き、抵抗の意思を示す。
「・・・・・・妻子はどうなる?」
「残念ながら、ヒルバート君が始末した。北アイルランドへの逃走を図っていることが分かり、夜中の内に・・・・ね」
「・・・・・・産まれたばかりの赤ん坊もか?」
「無論そうです。生かしておいては、後の世の災いとなりますから」
ハルトがジョンを接待しているその裏では、イギリス政府による神聖ミリシアル帝国の政府機関に対する弾圧が開始されていた。MI6からの情報を元に、英本土全域で取り締まりを開始。神聖ミリシアル帝国の工作員向けの武器の密輸の拠点として活用される寸前であったスコットランドのジョンの所領や北アイルランドのIRA残党の拠点、ロンドンの大使館等同時に制圧した。スコットランドのジョンの所領では、
「ヒルバート、この騒ぎは何なんです?! 何故軍や警察がジョンの所領に土足で踏み入るのですか!!」
「奥方様、ジョン様はハミルトン公爵家を、国王陛下を、そして大英帝国を裏切りました。その報いを受けることになったのです」
「ジョンが裏切り者?! そんな訳ない!! 何かの間違いよ!!」
「此方はニュー・ホンコン総督、アオイ・バイオレット・アリス・ハミルトン様からのジョン様裏切りを報せる一報を文書化したもの」
「・・・・・待ちなさい!! 私や子を始末せよと書かれてるじゃない!!」
「アオイ様は私に、ジョン様の妻子を始末するよう命じられました。大変恐縮ではございますが、お覚悟めされよ!!」
拳銃を構えるヒルバート。銃口を向けられた婦人は命乞いをする。
「ま、待ちなさいヒルバート!! 私はともかく、産まれたばかりの赤ん坊は殺さないで頂戴!! お願いだから!!」
パアアン!!
「きゃっ!!」
婦人が恐る恐る目を開けると、そこにはゆりかごの中で脳天を撃ち抜かれ絶命したジョンの息子の姿があった。
「ひ、ヒルバート!! 何て事をしてくれたのよ!!」
「私はジョン様の部下ではありますが、同時にハミルトン公爵家に仕える者。当主やハルト様、アオイ様の命には逆らえませぬ!! 御免!!」
パアアン!!
続けて婦人にも発砲し、婦人も赤ん坊の後を追った。これにより、ジョンの家系は断絶となった。
「・・・・・これで良かったの・・・・かな?」
この一件ではイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、ニュー・ホンコンで合計1000人の逮捕者が発生。更にカナダ当局がオタワでテロを企てたとして、神聖ミリシアル帝国人3名、パーパルディア皇国人3名、ロウリア王国人4名を逮捕、オーストラリアやニュージーランドでも同様に逮捕者が発生する等、神聖ミリシアル帝国による英連邦王国各地での同時多発テロは完全に失敗に終わった。
残党は日本の神聖ミリシアル帝国大使館に残っていたものの、英連邦各地で逮捕者が相次いだことから動くにも動けなくなっていた。解散総選挙に合わせてテロを起こしてしまえば、極右政党の大躍進は確定的であり、余計に立場を危うくすることに気付いたからである。ちなみに衆院選では与党は単独過半数を割り込み、大阪・兵庫では連立与党の候補者が全滅、大阪、京都、和歌山の小選挙区からは与党議員が誰一人いなくなり、僅かに比例復活がいる程度の大惨敗を喫した。現役の総理大臣が比例復活も出来ずに落選する等、日本の政治は大きく混乱。与党は政権自体は維持出来たものの、野党の顔色を伺わなければ何も決められなくなってしまうのである。
ハルトの私室
「・・・・・という事だ。兄上、甘い言葉に釣られ、全てを喪いましたな」
ハルトは最後に銀を置き、12手詰をかける。ジョンは敗北を悟り、緑茶を口に含み、気持ちを落ち着かせる。
「・・・・・兄上、ハミルトンの名を捨て、僕の家来になれ。そうすれば、赦す。良く考えてください。兄上には、他に生き残る道はありません」
最後の最後の翻意に期待するハルト。今ならまだ引き返せる。逃げ道を用意し、頼むから逃げ道を使ってくれと思いながら兄の目をじっと見つめる。
「・・・・・ハルト、余とお前は年が6つ離れた兄弟であるにも関わらず、お前は余に色々と話をしに来てくれたな。その時はアニキ風を吹かしていたものだ」
ジョンが懐に手を入れる。隠れているウッチー、ラスティ、ハイネはいよいよかとばかりに構える。
「だが、余はハルト、お前に劣っていると思ったことはない。にも関わらず、ハルトは欲しい物を何もかも手に入れ、余は何もかも手に入らない」
ジョンは懐から拳銃を取り出すと、将棋盤の上に置いた。
「この勝負、余の負けだ」
ハルトは少し微笑んだ。兄が翻意したのかもしれない。僅かながら希望が見えたからである。しかし・・・・
「帰るぞ、ハルト」
ジョンは立ち上がると、ハルトの傍にしゃがみ、耳元でこう呟いた。
「貴様の家来になんぞならん!」
ジョンは足首に隠していたナイフを手に取り、ハルトを刺殺しようとする。しかし、それは全てハルトに御見通しであった。次の瞬間、掛け軸が上にスライドし、ウッチーが銃剣を投げつける。
「ぐあっ!!」
銃剣は腕に突き刺さり、ジョンは痛みに苦しむ。銃剣には毒が塗られており、それが更にジョンを苦しめる。
「ハルト、謀ったなあ!! ハルト!!」
掛け軸の裏から姿を見せたウッチーを見てジョンはそう叫んだ。
パアアン!! パアアン!!
押し入れから2発の銃声が響き、ラスティは左肩を、ハイネは右足を撃ち抜いた。
「おのれええ!! やはりハルト!! 貴様ああ!!」
痛みに悶えながらもハルトに殴りかかろうとするジョンだったが、直ぐにウッチーに捕まってしまう。オグリと同じく第一狂ってる団隊員と殴り合いをして勝ってしまったウッチー相手に勝てるわけもなく、ハルトから引き離され、その場で投げられてしまう。
「ジョン・ハミルトン、ここで終わりだ!!」
襖を蹴破り、サーベルを抜刀したオグリが投げられた直後のジョンを斬りつける。
「ぐああ!!」
「ラスティ!! ハイネ!! とどめを刺せ!!」
「は、はい!!」
「はいよ!!」
オグリに斬られ、身動きの取れないジョンを至近距離から拳銃でとどめを刺すラスティとハイネ。暫くハルトに一矢報いんと迫るも、やがて力尽きてその場で倒れ伏した。
「・・・・・皆、良くやってくれた。後は近日中にやって来る敵の本隊を始末するだけだ」
この間ハルトは微動だにしなかった。ずっと将棋盤に置かれたジョンの拳銃を見つめていた。
「・・・・・これで僕は兄殺しの総督か。兄上も馬鹿な真似を・・・・」
泣く泣く兄を始末したハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトン。大英帝国の為なら親族さえ斬り捨てる覚悟を示し、迫りくる敵に備えるのである。大英帝国と神聖ミリシアル帝国の衝突は近い。
「何もかもを手に入れた? 兄上は馬鹿な事をおっしゃる。僕は兄をこの手で始末し、唯一無二の兄を喪った!! 大切な肉親を喪ったのに何が何もかもを手に入れただ!!! 愚か者めが!!」
後日、ジョンの亡骸は火葬され、総督府の敷地内に埋葬された。日本式の墓石を根部商事に発注し、兄の為の墓をハルトは作り、毎朝兄の墓を訪れ、墓石の清掃と美化を欠かさない日々を送ることとなる。
「兄上の死を無駄にはしない。カルトアルパスは守り抜く。必ずな!」
(続く)