イギリス占領下
神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
カルトアルパス総督府
「・・・・・・・・」
前日に兄を謀殺し、ハミルトン公爵家の家督継承の確立と大英帝国への忠誠心を示したハルト。本音は泣いていたいところであるが、そうは言っていられない。敵は直ぐ目の前まで迫ってきており、これを殲滅しなくてはならないからだ。
「ハルト総督、お待たせ致しました。私が新生グラ・バルカス帝国第一戦車大隊隊長のボーグにございます!!」
援軍参加の新生グラ・バルカス帝国軍の将校が挨拶の為に総督府を訪れており、ハルトはそれの対応に当たっていた。
「おお、そなたらの事を聞いておるぞ!! 確か、先の戦争ではムー侵攻を担う戦車部隊を率いていたそうだな!!」
「はい。されど、ムー空軍に悪魔がおり、思うような活躍が出来ず、更には死に場所も見つからずに今日まで生き恥を晒しておる始末で・・・」
「案ずるな。生き恥と言うが、そなたのような熟練兵を養成するのに時がかかる。むしろ悪魔相手に死なずに今日まで生きてきたことは素晴らしきことである!!」
「そうでありますか・・・」
「して、第一戦車大隊はチャレンジャー2を装備しているのであったな?」
講和以降日英両国はガルマ派に属する部隊の近代化に着手していた。参加した部隊の殆どが海軍であったものの、海軍陸戦隊や本国でレギン派、キリシア派双方から相手にされなかった逸れものらが新生グラ・バルカス帝国軍に参加。先の戦争で戦車部隊を率いたボーグは、先の戦争犯罪を赦免する代わりに新生グラ・バルカス帝国軍に一兵卒として参加していた。一兵卒と言えど、経験豊富な彼は陸軍が脆弱な新生グラ・バルカス帝国軍では貴重な存在であり、訓練が進むにつれて昇進に次ぐ昇進。結果、イギリスから供与されたチャレンジャー2戦車15両、ウォーリア歩兵戦闘車20両を装備する第一戦車大隊隊長に任命。階級も中佐となった。
「はい。貴国より供与された戦車は強力で、今までの戦車がおもちゃのようであります」
「うむうむ、そうであろう。更に本国では新型のチャレンジャー3の配備が開始された。中古のチャレンジャー2を更に供与することも可能になろう。訓練の成果は出せるか?」
「無論にございます。戦車はおろか、装甲車さえ満足に保たぬ神聖ミリシアル帝国なんぞ、敵ではありませぬ!!」
「頼もしいな。以後はピオニー司令の指揮下に入り、戦果を上げる準備をして頂きたい。新生ボーグ戦車部隊の初陣ぞ!!」
「ははっ!! 必ずや御期待に応えて見せまする!!」
援軍として到着した新生グラ・バルカス帝国軍部隊を吸収し、13000の戦力に拡大した英国カルトアルパス派遣軍。対する神聖ミリシアル帝国軍は大陸間弾道ミサイルで古代兵器を喪うも陸海空合わせて100000。数では圧倒的に上回っていた。しかし、英国カルトアルパス派遣軍は高性能ジェット戦闘機、現代水上艦艇、主力戦車で武装するのに対し、神聖ミリシアル帝国軍はレシプロ機未満の低性能ジェット戦闘機、近代水上艦艇、戦車なしという、質では完全に敗北していた。数の多さが必ずしも戦争の勝敗を決める絶対条件ではない。それを知らしめる戦いがまさに始まろうとしていた。
「それと良い事を教えてやろう。ボーグ隊長の言う悪魔だが、今回は我々の味方として参加することになる」
「なんと!! これは非常に心強い!!」
「ちなみに総督府に居るが、会ってみたいか?」
「良いんですか?!」
「小栗二等空佐、内二等空佐、入れ」
扉が開き、ハルトの直臣ローサに連れられたオグリとウッチーが姿を見せる。2人とも通常の軍服にパーパルディア皇国製のサーベルを下げた正装姿である。
「な、何?! ムーの空を支配した悪魔はおなごだっただと!? これは恐れ入った!!」
「2人とも階級は中佐相当。ボーグ中佐と同じ階級になるが、無論あちらの方が先に昇格しており、この戦いが終われば一等空佐。即ち大佐に昇格するだろう」
「先任将校という訳ではありますか。これは大変失礼致しました!!」
慌ててオグリとウッチーに敬礼するボーグ。その後彼等は当たり障りのない話をした後、それぞれ配置に付き始める。
「さて、奴等はどうでるか・・・・」
イギリス占領下
神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパス
カルトアルパス国際空港管制塔
「・・・・レーダーに感あり!! IFFに該当する機体なし!! 神聖ミリシアル帝国空軍の戦闘機と思われる!! その数100!!」
「かなりの大部隊だな」
「だが、カルトアルパス全域を爆撃するには少なすぎる」
「となると、目的はハルト総督のいる総督府だけだな」
「オストフルス大尉、マッキンリー中尉のタイフーンをスクランブルさせろ!! カルトアルパスからの増援部隊は何時でも出れるよう、搭乗員は格納庫で待機!!」
管制塔では接近する機影を確認し、直ちにスクランブルへ移る。パイロットスーツを着用し、格納庫で待機していたラスティとハイネは慣れた手付きで愛機のユーロファイタータイフーンに乗り込む。
「・・・・・・システムオールグリーン!!」
「ラスティ、訓練通りやれば良い。だが、無理はするなよ」
機器の最終確認を終えたラスティにハイネが無線で話し掛ける。2人ともユーロファイタータイフーンで実戦に出るのは初めてである。今までは教官役としてオグリがいたが、これからは1人で何とかしなくてはいけない。しくじれば自身は勿論、バディであるハイネを危険に晒す。その緊張感からラスティは表情が硬くなっていた。
「は、はい!!」
「いい返事だ。それじゃあ、先に離陸させて貰うぜ。後に続きな!」
ハイネ機が先に離陸滑走路に進入。離陸許可は出ており、離陸を開始する。
「此方ハイネ・オストフルス。これより離陸する!!」
「続けてラスティ・マッキンリー、離陸します!!」
2機のユーロファイタータイフーンが滑走路を離陸する。上空で隊列を整えた後、管制塔の誘導に従い、迎撃行動に入る。
「・・・・・敵は少なくとも100機、此方はたったの2機。絶望的戦力差だ。けど、負けるわけには!!」
真面目な性格のラスティは一層気を引き締める。
「ヒュー、敵さんも随分と張り切ってるね〜。七面鳥狩りの時間だな」
対して内心神聖ミリシアル帝国を見下しているハイネは余裕の表情を見せる。
「敵機、サイドワインダーの射程圏内に入った! 攻撃を開始する!!」
「目標設定完了、此方も攻撃を開始します!!」
まずは挨拶とばかりにAIM-9サイドワインダーをそれぞれ4発ずつ発射する。
「・・・・・・全弾命中したとしても、残りは最低92機・・・油断すればハイネが落とされかねない。気を引き締めないと!!」
「相変わらずラスティは硬いね〜。此方ヒチョウ、これより敵機に接近し、機関砲による攻撃を開始する」
全弾命中を確認したハイネは管制塔に対し、突撃する旨を伝え、了承される。ハイネに続いてラスティも敵編隊に向けて突入を開始する。
「さあ、ラスティ!! 狩りの始まりだぜ!!」
「小栗二等空佐、貴方との訓練の成果を出してみせます!!」
神聖ミリシアル帝国空軍
第零航空団隊長機
「もう間もなく敵戦闘機による迎撃が行われる可能性が高い!! 全機警戒を厳とせよ!!」
神聖ミリシアル帝国空軍の中でも上澄み中の上澄みだけが所属する第零航空団。普段は首都ルーンポリスの防空任務に従事し、帝国の強さの象徴とも言うべき世界最強とも称される航空団である。先のグラ・バルカス帝国による、ルーンポリスへの原爆投下の際には、機種変の為に隊員が皆エリア48に出張しており、みすみすと原爆投下を許してしまっていた。その事もあり、隊員らのグラ・バルカス帝国に対する憎しみは凄まじく、それと手を組んだ日英を中心とする世界48カ国は賊国として成敗されなければならないと固く信じている。故に士気は高く、皆が迎撃に上がるであろうイギリス空軍の戦闘機がいつ来るのかと心待ちにしていた。
「偉大なる祖国を踏みにじる敵国を粉砕してやる!!」
空には旧ソ連のYak-17と酷似したジェット戦闘機が100機の編隊を組んで飛行する。全機が翼下に2発の爆弾を搭載しており、ハルトのいるカルトアルパス総督府を集中的に爆撃し、指揮系統を破壊し、ハルト自身を殺害する腹積もりであった。日本との国交樹立により、地球世界のジェット戦闘機に関する機体設計やエンジンに関する技術情報が流入。流石に最新鋭ステルス戦闘機F35の生産は不可能であったものの、旧ソ連の第一世代戦闘機であれば充分に生産が可能であることが判明。日英からすれば骨董品にも程があるが、神聖ミリシアル帝国からしてみれば既存のどの戦闘機よりも遥かに高性能であり、日英に対抗出来る可能性のある唯一無二の空軍部隊であった。一方で空対空ミサイルについては、産業スパイが技術情報を日本から持ち出したものの、非常に高度な技術であり、神聖ミリシアル帝国の技術力では再現することが不可能であると判明。そこで完成品を日本から密かに持ち出そうとしたものの、東京に潜入しているMI6に全てが露呈。経由地として着陸したアルタラス王国にて、アルタラス王国税関並びに在有英軍により押収され、関係者はミカドアイHDの地下強制労働施設へと送られた。ちなみに、英連邦各国に駐在している神聖ミリシアル帝国の外交官らも、スパイ活動がバレたことから地下送りとなっている。その為神聖ミリシアル帝国の外交官が唯一無事なのは日本だけである。それはさておき、神聖ミリシアル帝国の最新鋭ジェット戦闘機のカタログスペックは以下の通りである。
機種名∶エルペシオ4
翼幅:9.20 m
全長:8.70 m
全高:2.30 m
翼面積:14.85 m2
空虚重量:2081 kg
通常離陸重量:2890 kg
最大離陸重量:2140 kg
発動機:改良型魔光呪発式空気圧縮放射エンジン×1
出力:910 kg/s
最高速度:700 km/h
最高速度(地表高度):748 km/h
実用航続距離(外部燃料タンクなし):395 km
実用航続距離(外部燃料タンクあり):717 km
実用飛行上限高度:12750 m
乗員:1 名
武装:23 mm魔光機関砲、60キロ爆弾×2
「ん? なんだあれは?!」
目の良いパイロットが何かに気付く。
「あれは日英の対空魔光弾!!」
次の瞬間、隣を飛行していた隊長機が爆散する。続けて7機のエルペシオ4が撃ち落とされる。
「て、敵はどこにいるんだ!?」
「敵影は確認出来ないぞ?!」
突然の攻撃に部隊は混乱する。
「あ、アレは!!」
彼等の視線の先には此方に向けて突っ込んでくる2機の戦闘機の姿があった。非常に洗練され、美しい戦闘機が現れたかと思うと、それぞれ左右に別れて上昇する。
「あのマークは・・・・ニュー・ホンコンの部隊だ!!」
「それもオレンジ色の蝶のマーク!! ムー大陸の悪魔お気に入りのハイネ機じゃねえか!!」
「何のパーソナルマークもない機体も強過ぎる!!」
「うわあああ!!」
ハイネ機が圧倒的性能差を活かして背後を取ると、20mm機関砲の雨を降らせていく。航空自衛隊向けへの輸出の際、機関砲をF15JやF2と互換性のあるM61バルカンに変更しており、ムー空軍向けの機体も同様の兵装を採用している。また、F35が搭載する25mm機関砲を搭載する改良型も考案されており、カナダ空軍、オーストラリア空軍、ニュージーランド空軍への導入が検討されている状況である。
「俺達はあ!! 世界最強の神聖ミリシアル帝国空軍なんだぞ!!」
ラスティ機の背後についた1機の戦闘機が魔光機関砲のトリガーを握る。
「くたばりやがれええ!!」
鮮やかな光が閃光となり発射される。しかし、射線軸上にラスティ機の姿はない。
「馬鹿な! 回避しただとお!?」
ロックオンされていることに気付いたラスティはギリギリのタイミングで急上昇し、これを回避。逆に背後を取ったラスティはそのまま敵機を返り討ちにしていた。
「クソ!! 我が国の最新鋭戦闘機でも敵わねえのかよ!!」
100機いた戦闘機部隊も、気付けば40機が撃ち落とされていた。神聖ミリシアル帝国の精鋭部隊は必死にハイネ機とラスティ機に喰らいつこうとするも、簡単に引き離されては機関砲の餌食になっていた。
「これで30機!! 基地に帰ればエースパイロット間違いなしだな!!」
「お前らなんかに、負ける程俺は間抜けじゃない!!」
縦横無尽に駆け回るラスティ機とハイネ機。気付けば2人で50機以上の戦闘機を撃墜し、機関砲も弾切れが近くなっていた。
「ラスティ! 後ろに敵だ!!」
「何?! 流石は精鋭部隊、なかなかやるな!!」
比較的練度の劣るラスティを敵は集中的に狙うも、そもそもの機体の性能差を覆すことが出来ず、呆気に取られている間にハイネに撃ち落とされる。そして、一機、また一機と撃ち落とされる。
「弾切れ寸前だ! 撤退する!! ラスティも続け!!」
「了解しました!!」
こうして最終的にハイネ機は45機、ラスティ機は40機のエルペシオ4を撃墜。圧倒的な性能差に加え、ニュー・ホンコンでの訓練の成果を存分に出した形となった。戦後、彼等は2階級特進し、ハイネは中佐、ラスティは少佐となった。それだけではなく、カルトアルパス総督、ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンに大いに気に入られ、彼等は総督直属の部下に取り立てられる事になり、以後は総督府と基地を反復横跳びする生活となるのである。
「ですが、残り15機は依然としてカルトアルパスに向かってきます。オストフルス大尉、基地ではどのような対応になるのでしょうか?」
「ハイ〜ネ。何回言えばラスティはそう呼んでくれるのかな?」
「で、ですが軍隊である以上は!!」
「そう固くならないの! 既に基地では手を打ったみたいだし、心配は無用だ」
次の瞬間、1機の戦闘機の接近に気付くラスティとハイネ。マイカルからの増援部隊の一部だろうと思い、一瞬目を向けたところ、搭乗しているパイロットの姿に驚く。
「お、小栗二等空佐に、内二等空佐!?」
「凄え!! ファントムだ!! ファントムじゃねえか!!」
ラスティの叫び声を他所に、F-4EJ改はそのまますれ違うと、敵戦闘機部隊に向けて前進して行った。
「小栗二等空佐に内二等空佐はF15Jのパイロットの筈・・・ユーロファイタータイフーンも操縦してはいたけど、ファントムは操縦していない筈では!? いや、そもそもなんでファントムが?!」
今から30分程前の事である。
カルトアルパス空軍基地
「してフーヤン、予備機は飛べるのか?」
「予備機が飛べなきゃ意味がないだろYO!!」
「それもご丁寧に2機か。これはまるで俺とオグリの為に用意されたように感じるかな〜」
マイカル空軍基地より、8機のF2戦闘機がカルトアルパスに派遣されていたのだが、オラパ諸島防衛隊が防空演習と称して2機のF2戦闘機を派遣。この2機は予備機として、カルトアルパス国際空港で待機していたのだが、それにオグリとウッチーは乗ろうとしていたのである。
「念の為聞いておくけどYO、お前らにF2の操縦実績はあるのかYO?」
「愚問だな、あるわけないだろう!!」
「俺もだよ〜」
当然だと言わんばかりにないと回答するオグリとウッチー。するとフーヤンはニヤリと笑うとこう告げた。
「それなら、もっと操縦しがいのある奴に乗らないかYO?」
「・・・・・・ほう、話を聞こうじゃねえか」
「ん〜? F2とタイフーン以外に何かいるのかな〜?」
フーヤンは2人を案内すると、そこには、とっくの昔に退役した筈の名機の姿があった。ミサイルや爆弾を満載し、ピッカピカの姿かつ、今にも飛び立てそうな古めかしいジェット戦闘機である。
「ファントムだと!? ライトニングⅡに置き換えられた筈では?!」
「凄え!! 俺とオグリが空を目指したきっかけの戦闘機じゃん!!」
目をキラキラと輝かせるウッチー。
「何でこんなところにあるんだ?」
「いや、何でかは知らないんだけどYO、ハルト総督個人の所有物なんだとYO! んで、飛行可能なように整備するよう依頼を受けたもんでYO! 今日まで整備してたんだYO!」
航空自衛隊からファントムが引退すると聞いた際、ファントムが欲しいなあと思ったハルトはミカドアイHDに相談。その結果、輸送費や整備費、人件費全てをハルトが現金一括払いで購入することを条件に防衛省、ミカドアイHDと合意。予備パーツも全て買い上げ、一旦スコットランドの倉庫へ移送。当初は再整備の上で航空ショーに出す予定が異世界転移により延期。その後ハルトがカルトアルパス総督に就任したことに伴い、カルトアルパス総督府設置記念としてファントムを飛ばす事を計画。スコットランドからわざわざ移送し、飛行可能な状態まで整備。が、記念飛行前に本格的な戦闘に突入してしまったのである。そこでハルトは思い付いた。
「これで敵を爆撃したらええやん。パイロットはちょうど2人余ってるし、行ける行ける!」
ハルトの脳裏にはオグリとウッチーの2人の顔が浮かんでおり、アイツらなら操縦出来るだろぐらいに考えていた。その為、フーヤンに対してハルトは完全武装を指示。その結果、動態保存が実戦に復帰したのである。
「ファントムを復帰?! あれは記念機です!! お坊ちゃん!!」
「昨日まではな」
等という会話が行われたとも言われている。
「・・・・という訳だ。乗るか? 乗らないか?」
「乗るに決まってるだろう!! このオレが操縦出来ない戦闘機はない!!」
「オグリが乗るなら、俺も乗るしかないよな〜?」
「決まりだな? それじゃあ簡単な説明をしていくYO!」
その後フーヤンから簡単な説明を受けたオグリとウッチーはファントムに乗り込む。無論2人ともF-4EJ改の操縦実績も、シミュレータすらやったことがない。彼等がパイロットになった頃にはファントムは旧式と化しており、新人はF15JかF2に回されていたからである。
「・・・・これがファントムか。無骨な見た目ながらも、確かに武士の魂を感じるな」
操縦席に座ったオグリは旧式の機内を見てそう呟いた。
「あれがこれでそれが・・・・ああ、これか。準備オッケ〜」
ウッチーは後部座席に座り、レーダーを担当する。
「行くぞウッチー!!」
「おうよ!」
やがて格納庫の扉が開き、F-4EJ改が滑走路に姿を現す。それを見た日英加の隊員らは歓喜の声をあげる。
「此方オグリ。管制塔に対し、離陸許可を求める」
(此方管制塔。ファントム、貴殿には最優先で離陸する許可を与える予定である。現在輸送機が着陸し、滑走路を移動中の為、暫し待たれよ)
オラパ諸島から到着したC-2輸送機が滑走路を移動する。やがて輸送機が格納庫へと向かうと、いよいよファントムにも離陸許可が出される。
(此方管制塔、ファントムに告ぐ。直ちに離陸し、敵機を殲滅せよ)
「了解した。F-4EJ改ファントム、小栗闘子、内闘也、撃墜任務に出る!!」
「スクランブルが下命された。ファントムの勇姿を目に焼き付けてくれよ!!」
滑走路をファントムは力強く離陸する。その様子はカルトアルパスのあらゆるところから見られており、市民らも自国の戦闘機より無骨ながらも力強い見た目に目を奪われる。
「あれが日本の戦闘機らしいな」
「我が国の・・・いや、神聖ミリシアル帝国の戦闘機より圧倒的に速いな」
「でも、日本じゃ引退してて、保存の為に持ってきたアレしか飛べないらしいぜ?」
「うわああ・・・・皇帝陛下はとんでもない国を敵に回したもんだなあ・・・」
カルトアルパス市民らは日英に関する情報を豊富に入手しており、更には日英との玄関口ということもあり、日常的に日英製品や制度に触れていたことから、祖国の惨敗を確信していた。むしろカルトアルパス市民は市内がイギリス領になることによるメリットを活かす為に何をするべきかに関心が向かっており、誰も神聖ミリシアル帝国の為に戦おうとはしない。それどころか、
「俺も志願すればユーロファイターとやらに乗れるんかな?」
「空軍パイロットは貴重だからな、有り得るな」
「決めた! 俺は英国王立空軍に入隊する!!」
「俺もだ!!」
「某は英国王立陸軍に入隊し、戦車とやらに乗る!」
「拙者は英国王立海軍に入隊だ!! イギリスは戦艦オリハルコンを鹵獲している。科学文明国であるイギリスにとって、魔導機関の扱いに長けた兵士が必要な筈だ!」
このように、イギリス軍への協力を申し出る兵士が相次いでいた。彼等は戦後、神聖ミリシアル帝国軍カルトアルパス防衛隊を再編して編成される、英領カルトアルパス駐屯軍の主力部隊として、カルトアルパス総督の指揮下に入ることになるのである。
「・・・・・あれはラスティとハイネのタイフーンか。挨拶しといてやるか」
初操縦の機体で曲芸飛行。なんていう博打はせず、素直に敬礼だけして飛び去るオグリとウッチー。一瞬ではあったが、驚く2人の顔を見たオグリとウッチーは笑いながらファントムを敵編隊に向けて飛ばす。
「・・・・・敵機捕捉、ミサイルのロックオン完了!!」
「くたばりやがれ!!」
搭載しているスパローミサイル4発を発射し、まずは4機を確実に葬り去る。
「敵は動揺しているな! オグリ、あとは機関砲で仕留めてやれ!!」
「言われなくてもだ!!」
神聖ミリシアル帝国第零航空団副隊長機
ベレンコ中尉
「ちくしょう! ちくしょう!」
「イギリスの戦闘機は、化け物かよ!!」
1機、また1機と仲間が撃ち落とされていく。神聖ミリシアル帝国軍最強の戦闘機部隊が為す術もなく撃ち落とさる。それも最新鋭戦闘機がである。対してイギリスの戦闘機はたった3機であり、1機も撃ち落とされていない。
「やはり、イギリスは古の魔法帝国だ!! 悪魔の国だ!!」
「大英帝国国王チャールズは古の魔法帝国の王の子孫に違いねえ・・・・うわあああ!!」
遂に全ての味方機が撃ち落とされ、残すは副隊長機のみとなってしまう。
「・・・・・勝てない・・・・」
神聖ミリシアル帝国第零航空団副隊長のベレンコは敗北を悟る。
「いっそのこと、悪の帝国イギリスに行き、内側を知るか・・・」
ベレンコは魔信を取り、眼前に迫るファントムにコンタクトを取る。
「此方、神聖ミリシアル帝国第零航空団副隊長、ベレンコ中尉だ。イギリスの戦闘機に告ぐ。降伏し、貴殿の指示に従う」
一か八か。ベレンコはファントムに降伏を申し入れた。
F-4EJ改後部座席
「・・・・・オグリ! 敵機から降伏の申し入れだ!!」
「降伏・・・・か。実に賢明かつ、ギリギリの判断だったな。後少し判断が遅ければ、バラバラになっていただろう」
その後オグリはファントムを敵機の真横に付け、誘導に従うように指示。ベレンコ中尉はオグリ、ウッチーの指示に従い、カルトアルパス国際空港へ着陸。予め待機していたカナダ軍の部隊により、ベレンコ中尉は拘束。機体も無傷で鹵獲され、一旦格納庫へ送られることになる。こうして、イギリスと神聖ミリシアル帝国によるカルトアルパス攻防戦の初戦はイギリス側の完勝に終わった。対する神聖ミリシアル帝国側は、優秀な熟練搭乗員や最新鋭戦闘機を多数喪い、更に無傷で鹵獲もされるという、目も当てられない事態となった。エリア48で報告を受けた皇帝ミリシアル9世はあまりにも不甲斐なさ過ぎる結果に大激怒し、
「陸軍の攻勢を中止し、空軍戦力の全てを結集するのだ!! 数の暴力で敵陣に攻め入れ!! 海軍は一時撤退し、制空権を奪取するまで指定海域にて待機せよ!!」
残る空軍戦力全てを結集するよう、命令。大惨敗から3日後、カルトアルパス攻防戦の際、第零航空団が拠点としたモスカヴァー空軍基地に神聖ミリシアル帝国空軍の稼働可能な戦闘機や爆撃機がかき集められ、制空権奪取に動き出すのであるが・・・・
神聖ミリシアル帝国空軍
モスカヴァー空軍基地
「な、なんだあれは!!」
神聖ミリシアル帝国空軍が皇帝のワガママを受け、総勢3340機に及ぶ空軍部隊を掻き集め、今まさに離陸させようとした時であった。イギリス側は待ってましたと言わんばかりに、グラメウス大陸より大陸間弾道ミサイル「マサカド」を発射。モスカヴァー空軍基地を完全に無力化し、敵の戦意を挫き、更には他国に対する牽制の意を込めて特別に核弾頭で発射。この攻撃により、イギリスは処分に困っていた中古の核弾頭の在庫処分が完了し、同時に神聖ミリシアル帝国空軍を完全に消滅させることになったのである。
イギリス領カルトアルパス
カルトアルパス総督府
「おいおい、割譲はまだだろう?」
「細かい事は気にしなくて良いんじゃね〜? ちなみにオグリは聞いた? 神聖ミリシアル帝国空軍は壊滅。制空権は完全に掌握したって」
「ああ。それに加え空軍の惨敗を受けて、カルトアルパス侵攻の為に向かっていた海軍部隊はマグドラ群島に撤退、陸軍は陣地を築き、市内を砲撃する用意を進めているとも聞いた」
「あのイギリスだからなあ・・・やすやすと陣地を築かせるとは思えないんだよなあ・・・・」
(続く)