神聖ミリシアル帝国北カルトアルパス市
陸軍陣地
「聞いたか? 我軍の空軍部隊が壊滅したって話!」
「聞いた聞いた!! なんでもモスカヴァー空軍基地に結集したところを狙い撃ちにされたらしいじゃねえか!!」
「これで制空権はイギリスのものか・・・俺達は何時まで生きれるのやら・・・」
第零航空団の全滅を受け、連動してカルトアルパスへ進軍していた陸軍部隊は皇帝からの命令により、速やかに部隊を後退。同時にイギリスによるルーンポリス侵攻を阻止するべく、カルトアルパスとルーンポリスを繋ぐ街道を封鎖していた。
「ひとまずは街道を封鎖して、首都侵攻を阻止か・・・・」
「とはいえ、イギリス軍は精々10000。無理に侵攻してくることはねえだろうな」
「となると、あとは海軍次第か・・・・ん?」
監視台で警戒に当たる兵士達は突如として舞い上がる砂埃に気付く。
「なんだあれは?」
双眼鏡でそれを確認した兵士は青ざめる。
「ぐ、グラ・バルカス帝国の戦車部隊だ!!」
「しかもイギリス製の戦車で武装してやがる!!」
「敵戦車部隊、発砲!!」
先頭を進む隊長車が監視台に向けて発砲する。簡易的な監視台は呆気なく粉砕され、新生グラ・バルカス帝国軍戦車部隊は悠々と神聖ミリシアル帝国軍陣地に突入していく。
新生グラ・バルカス帝国軍第一戦車大隊
ボーグ隊長車
「敵の監視台を破壊しました!!」
「構わず突っ込め!! 敵に航空機はなく、戦車もない!! 我らを阻むものは何一つない!!」
カルトアルパス総督府は航空優勢をガッチリと確保したこと、神聖ミリシアル帝国軍には戦車も対戦車兵器も存在しないことから、戦車部隊による敵陣地制圧作戦を立案。新生グラ・バルカス帝国陸軍第一戦車大隊の初陣を兼ねたカルトアルパス防衛戦の陸上における最終幕の幕開けである。
「敵砲兵陣地をイギリス陸軍が破壊した模様!!」
「噂のヘリコプター部隊か!!」
神聖ミリシアル帝国軍における唯一の対抗策である野戦砲。しかし、自走砲のような瞬時に陣地転換が可能な兵器ではなく、旧態依然の牽引砲。既に衛星画像やドローンにより陣地は特定されており、イギリス陸軍のアパッチ攻撃ヘリやMLRSによる攻撃に晒されていた。ちなみにMLRSは現在後継兵器を日英で共同開発中である。
「逃げるやつは皆ミリシリアン(神聖ミリシアル帝国人のこと。ここでは神聖ミリシアル帝国軍)だ! 逃げないやつはよく訓練されたミリシリアンだ!」
ボーグ隊長率いる新生グラ・バルカス帝国陸軍第一戦車大隊は神聖ミリシアル帝国陸軍の陣地を次々に突破。対する神聖ミリシアル帝国陸軍は対抗策がないために敗走。随伴するウォーリア歩兵戦闘車やイギリス、カナダの歩兵戦闘車に駆逐されていく。戦いは3時間程で決着し、神聖ミリシアル帝国陸軍カルトアルパス奪還部隊は全面降伏。指揮官以下幕僚らはカルトアルパス総督府へ連行され、降伏文章に調印。これにより、陸上における脅威は完全に払拭されたのである。
マグドラ諸島
新第零式魔導艦隊旗艦
オリハルコン級戦艦2番艦「コスモ」艦橋
「司令! 世界を美しく照らす偉大なる皇帝陛下からの勅命です!!」
「読み上げよ」
「ははっ!! 第零式魔導艦隊は総力を結集し、カルトアルパス湾に突入せよとのことです!!」
「承知した。全艦隊に3時間以内に出撃する旨を伝えよ!!」
「ははっ!!」
オリハルコン級戦艦2番艦「コスモ」。つい最近就役したばかりの神聖ミリシアル帝国最新鋭の戦艦であり、海軍の新たな看板となる戦艦である。1番艦「オリハルコン」で生じた問題点の改良が行われており、日本の書籍や産業スパイから得た情報を元に主機関の改良や居住性の向上、ロシアの水上艦艇でよく見る対空機関砲に酷似した30mm対空魔光機関砲の増設等が行われていた。一方で技術的問題から、日英のようなVLSは引き続き搭載されず、ロシアのスラヴァ級で見られるような発射筒が艦の両舷に搭載されている。
「空軍部隊は壊滅したと聞いていたのですが、制空権なしで突っ込ませるつもりなのでしょうか?」
「だろうな。だが案ずるな。カルトアルパスに展開している敵艦隊は哨戒艦と敵が鹵獲した地方隊のみ。だが我軍は最新鋭全艦隊を旗艦とする大艦隊。仮に敵の航空機が優れていようとも、対空装備を充実させた最新鋭艦隊には手も足も出まい。空軍が不甲斐ない今、我々海軍が見せる時なのだ!!」
「流石は司令!! 私もそのように思っておりました!! 海軍の発言力を高め、オリハルコン級戦艦8隻、オリハルコン級をベースとした巡洋戦艦仕様8隻の8・8艦隊構想の実現の為にも我々海軍が活躍しなくては!!」
「それだけではない。現在最新鋭戦闘機が空軍にばかり振り向けられているが、海軍も空母艦載機の更新が必要だ。この海戦を海軍の活躍により勝利することが出来れば、海軍の戦闘機部隊に予算を回せる。即ち、先の8・8艦隊に最新鋭空母と最新鋭艦載機が加わることになる。これにより我が国は世界最強の海軍国となるのだ!!」
元来、神聖ミリシアル帝国はシーパワー国家に分類されてきた。国内の資源だけでは全てを賄うことは不可能であり、第三文明圏や南方世界から船で資源を輸送する必要があり、必然的にシーレーンの維持が至上命令となっていた。特に第二文明圏列強ムーが快足な巡洋艦・駆逐艦部隊を差し向け、海上交通路を遮断することを強く恐れており、日英の支援により水上艦艇部隊が急速に近代化していくのが脅威であった。今までは技術、質共に神聖ミリシアル帝国が勝っていたものが、現在ではどちらもムー+日英同盟にひっくり返された。特に日本が輸出した「ヒルス級フリゲート(もがみ型護衛艦のムー海軍仕様)」は、30ノットの快足と好燃費、日本製の各種ミサイルや機雷を搭載しており、単艦で神聖ミリシアル帝国の主力艦隊と渡り合えるだけでなく、資源輸入を機雷により壊滅させることが可能であった。その事は、先のニグラート沖海戦における、日本の護衛艦「わかば」の奮戦で明らかであり、海軍はムーのフリゲート艦隊が自国の大きな脅威であることを再認識させられた。現在、ムー海軍は既存の駆逐艦を「わかば」級護衛艦、巡洋艦並びに戦艦を「あたご」型護衛艦ないしイージスシステム搭載艦で置き換えることを検討しており、前者については間もなく日本政府とムー政府の間で合意が成立し、日本とオーストラリアでそれぞれ3隻を建造し、追加の7隻はムー国内で建造する見込みである。後者については、イージスシステムを供与するかどうかを日本、イギリス、カナダ、オーストラリアの4カ国(日本、オーストラリア→イージス艦を保有、イギリス→日英同盟の盟主、カナダ→ニュー・ニューテリトリーにてイージスアショアを運用中)が協議を行っており、慎重に判断される見通しである。
「近頃ムーの奴等も生意気ですからな、日英と共にムーも教育しなくてはなりませんな!!」
「その為にもイギリスに勝たねばならぬ。装備の点検作業を・・・」
「こ、これは!?」
レーダーを監視していた乗員が叫ぶ。
「艦長!! 正体不明の飛翔体が多数接近!!」
「馬鹿野郎!! それはイギリスの攻撃だ!! 対空戦闘用意・・・」
次の瞬間、点検作業中かつ対空魔導レーダーを搭載していない巡洋艦「ラブカ」に2発の対艦ミサイルが被弾する。
「・・・・・巡洋艦ラブカ、轟沈!!」
「更に飛翔体が戦艦「メガマウス」、巡洋艦「バラムツ」、「ソコクロダラ」に被弾!!」
「一体何が起きている!! 何が起きているのだ!!」
日本国航空自衛隊マイカル空軍基地派遣部隊
F2戦闘機隊長機
「こうなってるのさ! 敵に反撃の隙を与えるな!! 第二射、うてー!!」
神聖ミリシアル帝国の航空戦力を排除したカルトアルパス総督府は、次なる標的を海上戦力に定めた。空軍の大敗を受けてマグドラ諸島に退いていた海上部隊を殲滅するべく、総督府は航空自衛隊のF2戦闘機部隊に出撃を要請。予備機も含め、10機のF2と2機のユーロファイタータイフーンを離陸させた。F2戦闘機にはそれぞれ4発の93式空対艦誘導弾(ASM-2)を搭載しており、在庫処分も兼ねていた。ユーロファイタータイフーンは万が一に備えての護衛機として展開しており、これによりカルトアルパス空軍に残る戦闘機は、ラスティとハイネのタイフーン、そして記念機のファントムのみとなる。
「敵艦隊を血祭りにあげてやれ!!」
「ミサイル発射!!」
次々と93式空対艦誘導弾(ASM-2)が放たれる。やがて戦果確認の為に1機のタイフーンが編隊を離れ、敵艦隊の上空へと向かう。
「・・・・・敵戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦ないしフリゲート艦8の撃沈は確実。他戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦ないしフリゲート艦4隻が大破以上。離脱する」
タイフーンは戦果を確認すると、垂直尾翼のユニオンジャックを見せびらかしながら離脱した。この奇襲攻撃により、神聖ミリシアル帝国海軍は戦艦2、巡洋艦4、小型艦12隻が撃沈及び撃沈処分で喪い、戦艦1、巡洋艦1が大破し戦線離脱を余儀なくされ、マグドラ諸島に残さざるを得なかった。だが、悲劇はこれでは終わらない。
日本国海上自衛隊原子力潜水艦「やまと」
「まさか試運転がぶっつけ本番になるとはな・・・・」
日本が異世界転移後、イギリスの支援を受けて建造した最新鋭の原子力潜水艦。それが「やまと級原子力潜水艦」である。本級はイギリス海軍がこれまでの運用で培った経験と海上自衛隊が誇る「たいげい型」の静粛性を組み合わせた最高傑作である。スコットランドにて行われた試験では、イギリス空軍のP1哨戒機を相手に探知させない等、日英同盟の象徴的存在となっていた。
「海江田艦長、時間です」
「うむ。魚雷発射用意! 敵の戦闘能力を完全に奪う! ただし、敵の最新鋭戦艦には当てるな!!」
「やまと」の魚雷発射管に新型の27式魚雷が装填される。18式の改良型として完成した本魚雷は来たるべき古の魔法帝国戦に向けて静粛性と威力を向上させた最新式であり、日英を除けばこれを防ぐ術は存在しない。
「1番から6番に魚雷装填!!」
「魚雷装填!!」
試験ということもあり、メーカーの技術者も立ち会いながら作業が行われる。更に艦橋にはイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの武官も乗り込んでおり、日英共同開発の成果を見届ける。
「魚雷全門発射!!」
程なくして、27式魚雷が放たれる。
「・・・・・・予定通りだな」
「はい」
暫くした後に爆発音が響く。
「潜望鏡深度まで浮上」
「やまと、浮上!」
潜望鏡を出し、戦果を確認する。
「・・・・・当たった敵艦は全て轟沈。予定した戦果を出したと言えるな」
「やまと」艦長海江田はつまらなさそうに言う。
「続けてSLBMの発射試験に移る。目標、バネタ地区。試験誘導弾を発射せよ!!」
各国の武官が見守る中、「やまと」は新型のSLBMを発射する。異世界転移により、アメリカと切り離された日英はトマホークと共にSLBMの国産化と量産化が求められた。イギリス海軍が保有するSLBMを分解・解析し、日本企業主導で開発が進められた潜水艦発射型艦対地長距離誘導弾(仮称)。様々な試験が重ねられた結果、「やまと」就役と同時に試験弾が完成。当初はグラメウス大陸にて試験を行う予定であったが、イギリスと神聖ミリシアル帝国による武力衝突が勃発。極秘裏に神聖ミリシアル帝国に向けて撃ち込む計画に変更した。総理大臣の了承は得られていないが、防衛相や次期総理有力候補の大泉進次郎や高市沙苗の両名から了承を得た上での行動であった。SLBMは寸部の狂いもなく飛翔し、目標座標に死をもたらすべく突き進む。
「しかし艦長、どちらが次期総理になりますかねえ?」
「さあな。だが、どちらが総理になったとしても、軍備増強の流れは止められやしない。アメリカがいない日英はそこまで脆いのだ」
「それもそうですね」
「さて、バネタ地区に新たなクレーターが生まれるな」
神聖ミリシアル帝国バネタ地区
エリア48滑走路
「素晴らしい! 実に素晴らしい!! 流石は世界を統べる帝国の技術力の高さと諸君らの努力の賜物である!!」
皇帝ミリシアル9世はえらく上機嫌であった。それもそのはず。皇帝の勅命により、使えるパーツを掻き集めて1機のパル・キマイラを完成させたのである。
「直ちに発進せよ!! また、本作戦には余も同乗し、陣頭指揮を執る!!」
最早自分以外誰も信じられなくなった皇帝ミリシアル9世は、反対する部下を押し切り、パル・キマイラへと乗り込む。
「余を侮辱したイギリスの手先を血祭りにあげ、奴等の首都ロンドンを攻め落とし、神聖ミリシアル帝国こそが世界の主導国であることを証明するのだ!!」
復元されたパル・キマイラのエンジンに光が灯る。徐々に離陸に向けて出力を上げていく。
「皇帝陛下、復元させたばかりですので、離陸には何時もより時間がかかる見込みであります」
「試運転代わり故に致し方ない。だが、敵は逃げぬ。確実に離陸せよ!!」
パル・キマイラは試運転を兼ねていた為、通常より時間をかけてエンジン出力を上げていく。その為、通常時より30分程余計に時間がかかる。そしてそれが命取りとなる。
「・・・・・へ、陛下!!」
対空監視を行っていた職員が叫ぶ。
「どうした!!」
「敵の物と思わしき飛翔体が急速接近!!」
「何!? さては余を抹殺する為に!! 是が非でも撃ち落とせ!!」
「駄目です!! 速すぎます!!」
次の瞬間、パル・キマイラに原子力潜水艦「やまと」から放たれた試験誘導弾が着弾する。試験ということもあり、核弾頭ではなく通常弾頭で放たれていたのであるが、今回はそれが功を奏した形となった。パル・キマイラの装甲を容易く貫通した試験弾はパル・キマイラを完全に破壊。同乗していた皇帝ミリシアル9世を始め乗員は全滅した。
神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリス
アルビオン城
「こ、これは皇太弟ネロ・グリフィス閣下! 如何されたので!?」
復旧作業が続けられている神聖ミリシアル帝国皇帝の居城アルビオン城。復旧作業中ではあるものの、皇帝不在時に備えて城代が置かれており、ミリシアル9世のお気に入りジャミトフが守備に就いていた。
「イギリスの攻撃により、バネタ地区は壊滅。兄である皇帝ミリシアル9世は崩御した。故に皇太弟である私、ミリシアル・ネロ・グリフィスが皇帝に即位する故、城を明け渡して貰うぞ」
「な、何だと!? 皇帝陛下が崩御なんぞ有り得ん!! 何かの間違いだ!!」
「これは、つい先程中立国パーパルディア皇国の大使を経由してイギリスから送られてきたバネタ地区の衛星写真だ」
「イギリスから送られてきただと!? さてはネロ・グリフィス!! 貴様はイギリスに内通していたのか!!」
「だとしたらどうする?」
「我が国は決してイギリスに屈したりはせん!! 皇帝陛下の意思を受け継ぎ、戦うのみぞ!!」
「そうか。なら致し方あるまい。殺れ」
「な、何をする・・・うぐっ!!」
皇太弟ネロ・グリフィスは城代ジャミトフを引き連れてきた手持ちの師団で殺害した。
「直ちにアルビオン城を押さえよ!! 別働隊はルーンポリス刑務所を襲撃し、囚われている文官らを救出せよ!!」
ルーンポリス刑務所
「バスク様!! お逃げくだされ!!」
「どうした? 一体何の騒ぎだ?」
「皇太弟ネロ様が謀反を起こしました!! ネロはイギリスと内通し、皇帝陛下を謀殺したのであります!!」
「何だと!?」
「既にアルビオン城は制圧され、国防省や内務省は敵に寝返っており、ルーンポリス警視庁では皇帝陛下に不満を抱く反乱分子が長官を監禁し、ネロに恭順の意を表明。商工会はイギリスとの関係改善を要求してきております!! 我々は孤立しているのです!!」
「おのれえ・・・・この屈辱、許しはせん!! 速やかに亡命の支度に移れ!!」
「ははっ!」
この日、皇太弟ミリシアル・ネロ・グリフィスが蜂起。イギリスの支援を受け、留守居のみでガラ空きの首都の制圧を開始。反発する皇帝の一派を武力で排除し、首都の制圧は完了。囚われていた文官らを開放し、直ちにイギリスとの和平交渉を開始した。
「首都を完全に掌握しました!!」
「直ちに全軍に通達せよ!! 皇帝ミリシアル9世は崩御し、皇太弟ミリシアル・ネロ・グリフィスがグリフィス1世として即位する。全軍直ちに撤収せよと!!」
「畏まりました!!」
数日後、イギリスが占領するカルトアルパスにて和平交渉が行われた。カルトアルパス合意と呼ばれた和平条約では以外の事が決められた。
1.神聖ミリシアル帝国は、首都ルーンポリスを中心とする旧ルーンポリス王国時代の領土(主に第一文明圏の西半分)を固有の領土とする。それ以外の地域の請求権の一切を放棄すること
2.ミリシアル9世に与し、世界平和を乱した皇帝一派を逮捕し、裁判にかけること。但し、皇帝ミリシアル9世の勅命に逆らえず、已む無く従った者は英連邦王国国王より特別に恩赦を与える
3.レッドアイズ自治州、ブルーアイズ自治州はエモール王国に返還すること
4.カルトアルパス、マグドラ諸島、バネタ地区、アルバリオスをグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の永久領土として割譲すること
5.カン・ブリッド、ゴースウィーブス、他第一文明圏東半分を新生グラ・バルカス帝国の永久領土として割譲すること
6.神聖ミリシアル帝国は賠償として、就役したオリハルコン級戦艦2番艦「コスモ」をグレートブリテン及び北アイルランド連合王国に、建造中の3番艦、4番艦を日本国に割譲すること
7.神聖ミリシアル帝国は軍備を縮小し、兵員数も制限する。具体的な数については別途協議とする。それらの見返りとして、英連邦王国、日本国、ムー、新生グラ・バルカス帝国と軍事同盟を締結し、有事の際には集団的自衛権の行使を確約する
8.現在神聖ミリシアル帝国が抱えている債務については、まずミリシアル9世の保有資産にて返済とし、残金は神聖ミリシアル帝国政府が引き継ぐこと
9.神聖ミリシアル帝国は、英連邦王国並びに日本国の軍隊が国内に駐留することを認め、必要な地位協定を締結すること
10.カルトアルパス総督府並びに周辺の土地をハミルトン公爵家に譲渡すること
基本的には先にイギリス側と話し合った内容で合意に至った。建造中の3番艦と4番艦については、予算不足で運用が出来ないと判断した神聖ミリシアル帝国側から割譲の申し入れがあり、日本への割譲が決まった。後に両艦は魔導回路を活用したレールガンや水上艦艇に転用予定であるイージスアショアを搭載するイージスシステム搭載艦として改装が決定。仮の艤装が完了した後に日本へ回航され、各種試験に供されることになるのである。
イギリス領カルトアルパス
カルトアルパス総督府総督執務室
「さて、ようやく一息つけそうだな。あと対艦ミサイルの出番なかったわ」
「一息ついたところで、アッラー教とやらの指導者と面会と聞いたが?」
「ああ、そうだった。しかしねえ、君はあくまで僕の指揮下にあるんだから、言葉遣いとかどうにかならないのかなあ?」
カルトアルパス攻防戦における一連の功績から、オグリ、ウッチー、ラスティ、ハイネの4人は昇進。オグリとウッチーは一等空佐、ラスティとハイネは2階級特進してそれぞれ少佐と中佐になった。それだけではなく、彼等の生身の戦闘能力に惚れ込んだハルトは彼等をカルトアルパス総督府勤務の家臣に取り立てることに決定。彼等はカルトアルパス総督府に居を構え、日々ハルトの付き人の1人としても勤務することになったのである。
「た、大変申し訳ございません!! オグリ一等空佐が無礼な真似を!!」
慌てて釈明に走るラスティ。総督府ではオグリとラスティ、ウッチーとハイネの組み合わせで勤務することになっており、ラスティは強烈な同僚と上司に挟まれることになる。
「で、お前らはいつ婚姻届を書くんだ? 上司としてそれくらいは知りたいんだが」
「オレは記入しているんだが、中々ラスティが書いてくれなくてな・・・そろそろ決断して欲しいんだがな」
「外堀埋められてる!?」
後に両者は総督府で結婚式を挙げ、皆から祝福されることになるのだが、それはまた別の機会に。
「まあ、よい。アッラー教の指導者とやらに伝えよ。3日後に総督府にて会談を行う、とな」
「畏まりました」
「それと、ニュー・ホンコンにいるアキコにアッラー教に関する情報を聞いてきてくれ。アキコとシンはアッラー教を国教とするメスマン帝国・・・今のトゥルキエ共和国で大使をしていた故、何か情報はあるだろう」
「ではそのように」
ムー国首都オタハイト
日本大使館
「朝田さん、異動内示が出ました。良かったですね、シルカーク王国へ赴任となっていますよ」
対グラ・バルカス帝国の外交は完全に山場を超えたと外務省は判断。既に日英の傀儡である新生グラ・バルカス帝国が建国され、神聖ミリシアル帝国の領土を新たな本国として割譲されることが決定。更にレギン率いるグラ・バルカス帝国本土は核兵器の撃ち合いとなった影響で汚染が深刻化。脱出を図る市民や兵士が後を絶たず、本土は完全に荒廃していた。日英は第二文明圏の脅威は去ったとして、最後まで残っていた自衛隊の撤収を決定。マイカル等に最低限の部隊を残し、順次引き揚げとなる。激務が続き、休みの無かった朝田は、ずっと異動願いを出していたが、やっと暇な部署への異動が認められたようだ。外務省本庁としての計らいでもあった。彼はロデニウス大陸の南東に位置する島国、シルカーク王国への赴任が決まる。ここには文明圏間の紛争も無く、グラ・バルカス帝国勢力圏からもほど遠い。
「ほ、本当に? やった!! やっと休めるのか」
朝田は安堵する。外務省朝田泰司は、シルカーク王国へと向かうのだった。
イギリス領ニュー・ホンコン
ニュー・ホンコン島日本領事館
「・・・・・・ふ〜ん」
「何が書いてあるんだアキコ?」
「病人が喋るんじゃないわよ」
外務省から送られてきた辞令を読んでいたアキコの背後からやつれた顔のヒロシが姿を現す。そのまま彼女に抱きつくなり、胸の下に腕を通す。
「そんな事言わないでくれよ・・・もう俺はおしまいだあ・・・」
「やれやれ・・・・よしよし」
息を吐くようにヒロシにセクハラをされるアキコだが、そこは幼馴染みの仲。敵意や悪意が微塵もないことを知っているからこその大人の対応。まるで子供をあやすかの如くヒロシをいなしていく。
「しかし、ヒロシがここまでやつれた姿、見たことがないな」
「半分はお前のせいだシン!! お前が俺のアキコと結婚しちまうから!!」
「落ち着きなさいヒロシ、いい歳して未だに未練タラタラはみっともないわよ」
「失恋した上にボロカス言われてて草」
「セクハラで訴えられたら先輩、あっという間にクビっすよ?」
「うう・・・・」
しょんぼりという顔のヒロシ。
「ちなみに書いてあるのは外務省からの辞令よ。具体的には、ムーで戦後処理に当たっていた朝田さんがシルカーク王国大使に配置換えよ」
「朝田さんか・・・・あの人は本当に気の毒だよなあ。でも、これで休めるかな?」
ヒロシは朝田氏と護衛艦「いずも」で少しだけ顔を合わせており、疲れ果てた眼鏡の男性の顔が脳裏に浮かぶ。
「・・・・と思うでしょ? 普通なら」
アキコがヒロシを頭を撫でながらシンに目線を向ける。
「外務省であの人、不運のゴミ回収者って異名が付けられてるしな。しかも近々クルセイリースの支配下にあるパラディオンをイギリスが解放する見込み。クルセイリースの輩が殴り込んできたりしてな」
「え? シン、ウソだろ? マジでクルセイリースと戦争になるのか?」
「イギリスはそのクルセイリースが支配するパラディオンの肩を持ち、反政府運動を支援し、パラディオン島全域で武装蜂起の嵐だ。日英同盟がある以上、我が国もクルセイリースとの戦争に巻き込まれる。それが外務省の見解だ」
「ヒロシ先輩の腕の見せ所ですね!!」
「し、しかし!!」
「・・・・・ヒロシ、あんたさあ・・・若葉二等海佐以下教え子が死んだのは自分のせいだとか未だに思ってる訳?」
「おっ?」
「アキコ先輩、説教モード入りました〜」
シンとケントは巻き込まれないように少しずつ遠ざかる。
「そうやってあんたは何かあると全部自分のせいにして、逃げようとする。そしてその尻ぬぐいを私やアキラに全部丸投げして、ヒロシは逃げる。いい加減にしなさいよ?」
アキコは自身に抱き着いているヒロシの顔を0距離で睨みつける。その気迫にヒロシはたじろぐ。
「確かに若葉二等海佐以下貴方の教え子4名は死んだ。これは覆しようのない事実。だけど、それを自分のせいだ、自分の教育が悪かったから死んだんだって、己を責めるのは筋違いじゃない?」
「・・・・・軍人でもない、文官風情が安全地帯からノコノコと好きなように言いやがって!!」
思わず胸の下に回していた手で首を絞めようとするヒロシ。しかし、アキコはそれを左手で外すと、それを強引にねじる。
「安全地帯? 黙れ小童!! 防衛省だろうが外務省だろうが、現場の第一線で働く人間に安全地帯なんかあるわけないでしょうが!!」
そのまま立ち上がり、膝を思い切り蹴飛ばすアキコ。そんなことを想定していないヒロシは吹き飛ばされ、壁に背中を強打する。
「そうやって自分のせいだと責めることが、彼らの名誉を著しく傷つけているって事に何時になったら気付くの? 貴方の教えを守り、祖国の為に、国民の為に、世界の為に散った彼等も貴方と同じ愚か者だって言いたいの? ぼーっと生きてんじゃないわよ!!」
勢いで机の上に置いているノコギリクワガタ型の卓上時計をヒロシに投げつけるアキコ。妊娠中とは思えないパワフルな動きにシンとケントは、おお〜、という表情を浮かべ、葵はハラハラする。
「貴方は軍人だ。軍人ならその命に代えてでも市民を守る。それが使命でしょう? その重要性を彼等に教えたんじゃないの?」
「・・・・・ああ。だけど・・・・」
「だけど何?」
「あそこで戦いを挑む必要なんてなかった!! 話し合いで解決する道も・・・」
「いい加減平和ボケから目覚めなさい!! 外務省の役人共や霞が関の政治家共もそうだけど、この世界に地球世界の常識なんて1ミリも通用しない!! 強き国が全てを奪う!! 背中を見せれば全てを失う!! オラパ諸島でメスマン帝国がパーパルディア皇国に対して武力侵攻を行い、火事場泥棒を企てたのがそれを物語ってるじゃない!! そして貴方はその現場にいた。教え子達も同じく現場にいて、この世界の残酷さを実感した。強くなければ国を守れない、然るべき決断を即座に下せなければ無能、時にはその身を投げ捨てる覚悟を示さなければ売国奴!! そう感じたはずよ!!」
ヒロシは今までの自分を振り返る。言われてみれば、自分は重大な決断から全て逃げ続けていた。シビリアンコントロールを言い訳にして、難しい課題から目を背け、周りに流される形で行動していた。
「貴方が決断出来ない時、全部丸投げしても今日までどうにかなったのはアキラがいたからでしょ?」
「・・・・・・・・・・」
何も言えずに俯くヒロシ。
「それと、あんたは私達外交官を安全地帯とかぬかしたけど、地球世界の常識が通用せず、会談相手の機嫌一つで自身の首と国家の命運が飛ぶ仕事のどこが安全地帯なの? パーパルディア皇国で首を斬られたイギリスのホップ領事は安全地帯にいたって言えるの? 私がシンとメスマン帝国に赴任していた時、小国の外交官がメスマン帝国の外務卿の機嫌を害したとして他国の外交官の前で首を刎ねられた事があったけど、それも安全地帯? 何も知らないくせに偉そうな口を利くんじゃないわよ!!」
今度は胸ポケットにしまっていたボールペンを投げつけるアキコ。ヒロシの額に直撃し、血が流れる。
「今貴方が為すべきことは、亡くなった教え子達の意思を継ぎ、命がけで守ったこの国と国民を守ること!! 軍人なら祖国の為に、国民と同盟国を守りなさい!! 国家の暴力装置がそんなんで良いのか!!」
アキコの鬼気迫る説教にヒロシは圧倒され、ケントと葵はうんうんと頷き、シンはそろそろアキコが疲れ果ててしまうなと思い、少しずつ彼女に近寄る。
「・・・・・ううっ・・・」
「泣くな!! それでも軍人か!! 泣いたら全部解決するのか?? ああん!?」
怒りが収まらないアキコは左手で床にへたり込むヒロシの胸倉を掴むとそのまま身体を持ち上げる。
「甘えるな!! 私はお前のお母さんではない!! ヒロシ、あんたは試験に合格して一等海佐になったにも関わらず私やアキラ、時には後輩のケントに甘えに甘え、勝手に心を圧し折られてここにいる折り紙付きのクズだ!! クズに情なんかいらない!!」
その状態で右手に握りこぶしを作り、ヒロシの顔面を思い切りぶん殴るアキコ。殴られたヒロシは鼻から思い切り血を流し、制服は血で染まっている。アキコは振り払うようにヒロシをぶん投げる。
「もう一度言う。貴方が為すべきことは、亡くなった教え子達の意思を継ぎ、命がけで守ったこの国と国民を守ることだ。出来なければゴミよ。こんなゴミに育てられた教え子達は量産化されたゴミってことかしら?」
「アキコ!! 貴様あああ!!」
教え子を侮辱されたヒロシは怒りアキコの腹を蹴り飛ばそうとする。しかし、それは事前に予見していたシンに阻止される。
「怒りに任せて僕とアキコの子に手を掛ける気かい?」
「・・・・・・チッ!!」
恋敵に阻止され、更に不機嫌なヒロシ。ここでケントと葵が仲裁に入り、ヒロシはケントに連れられて退室した。
「かなり激しい喧嘩であったようだな」
入れ替わりで入室したニンギルスは荒れた室内をみてそう呟いた。
「いい加減喝を入れないといけないと思ってね」
「羽田殿に喝を入れる必要性には全面的に同意だが、今少し手加減をしても良かったのでは?」
「いらないいらない。変に手加減すると、ヒロシを甘やかしてしまいたい私が出てきてしまうから」
「助けてあげたい、そう思わせる男ということか」
「まあ、そんなところね。そうだニンギルス。イギリス政府からの情報なんだけど、近々貴方の祖国を解放する為に、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが本土上陸作戦を敢行する見通しよ」
「なんと!! それは本当か!?」
「既に部隊は動き出してるみたいよ。詳しくは言えないけど、大部隊がニュージーランドから出撃し、我が国とパプアニューギニア、あとはロデニウス連合がオーストラリア、ニュージーランド本土防衛に残る見通しよ」
「まさか本当に祖国を解放してくれるとは・・・・このニンギルス、日英両国への恩義を決して忘れることはない!!」
「貴方の嘘偽りのない言葉を信じるわ」
アキコは席に戻ると、シンに指示を出す。
「シン、アッラー教に関して纏めた資料の写しをカルトアルパスに送っといて。何でも布教させてくれって指導者が言ってきたらしいわ」
「アッラー教か・・・・メスマン帝国では比較的世俗主義が優勢だったから、道端で礼拝したりはしていなかったが、嫌な予感がするな」
「メスマン帝国は皇帝が破門されて独自の国教会を作って、教典をメスマン帝国皇帝の都合の良いように書き換えてるからね。結果、世俗主義が優勢らしいわ」
「そうなると、カルトアルパスに布教に来た連中は・・・いや、やめておこう。取り敢えず資料の写しを送っておくよ」
「頼むわよ」
その後アキコはシンと共に数々の書類に対してハンコを押したり、誤字脱字の修正や本国への報告等の業務をこなしていく。
「出産ってなったら、流石に休み貰えるわよね?」
「貰えなさそう」
「だよね〜人手足りてないもん」
後にアキコは外務省より、英連邦パラディオン王国の大使に任命され、補佐役兼秘書のシンと共に解放されたパラディオン島に旅立つ事になるのである。
「アキコにボコボコに殴られて罵倒された・・・・嫌われた・・・・本当に俺はおしまいダア・・・・・」
「説教がまるで効いてない・・・・」
「栄一等海佐って生きる精神安定剤だったのね」
後に護衛艦「いずも」と共にアキラが帰国すると、ヒロシは問答無用で現場へ復帰。生きる精神安定剤が帰って来ると今までの鬱が嘘のように改善し、ようやく教え子達の死から立ち直ることができたのである。
「やれやれ・・・・なンだよなあ・・・やっぱりお前は俺がいないと駄目なンだな」
「貴方も甘やかし過ぎなのよ」
「まあ、迷惑をかけたことはヒロシに代わって謝るから勘弁してくれ」
「はあ〜(クソデカため息)」
(続く)