日本国長崎県長崎市
三菱重工業長崎造船所本工場
「わかば型の2番艦・・・・いや、正確にはわかば型は1隻で終わりだから、新しい級になるのか」
海上自衛隊向けの艦艇を多数建造する三菱重工業の長崎造船所。異世界転移後は海上自衛隊向けのみならず、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド等英連邦王国向けや、パーパルディア皇国やムーを始めとする異世界国家向けに「もがみ型護衛艦」を多数建造。旺盛すぎる需要に対して供給が追い付かない状況となっていた。これを受けて三菱重工業はオーストラリアのASCを買収。まともな艦艇の建造能力を有していなかったASCは三菱重工業ポートリバー造船所と改められ、現地のオーストラリア人を雇用した上で長崎と並ぶ護衛艦の生産・整備拠点として多額の費用をかけて整備。オーストラリア海軍を始め、カナダ海軍、パーパルディア皇国海軍向けの艦艇を建造している。これにより長崎に若干の余裕が生まれ、海上自衛隊向けの艦艇の建造も進められるようになったのである。
「新たに進水する艦の艦長に内定したけど、「わかば」の名前が闇に葬られるのは悲しいな・・・・」
新たに進水する「わかば型護衛艦」の実質的2番艦の艦長に内定しているマツバの脳裏には、先の戦闘で戦死した4人の若き幹部候補生達の笑顔が過ぎる。
「ヒビキ君は2階級特進で海将補か。若くして二等海佐になり、将来を嘱望されていた君はもういない。ユウキ君も、コウキ君も、ミヅキちゃんもいない。ならば、僕は君達の分も懸命に働かないとね」
マツバは進水式のイベントに参加する為に会場入りする。会場には国内外の報道陣や長崎市長、防衛省関係者や来賓の姿もあった。やがて関係者が揃い、進水式が始まる。
「国家、吹奏」
勇ましく翻る日の丸と共に、白服を着用した海上自衛隊の音楽隊による国家吹奏が始まる。
「・・・・・・・・・(新たな命を吹き込む式典。僕のとっておきの教え子、ヒビキ君にも見せてあげたかったな)」
その後防衛大臣仲谷玄により、命名が行われる。アナウンスが流れ、仲谷防衛相が前に出る。
「本艦を、「ゆきかぜ」と、命名する!! 令和10年3月24日、防衛大臣仲谷玄」
それまで隠されていた白い横断幕が降ろされ、「ゆきかぜ」と書かれた平仮名が姿を見せる。当初は「わかば型護衛艦」の2番艦として建造していたことから、当初は繋がりを持たせる為に「ふたば」とするつもりであった。しかし、先のニグラート沖海戦により、ネームシップである「わかば」が戦没。先代の「わかば」も思えば第二次大戦中に撃沈された駆逐艦梨を浮揚し、再就役させたものであったことから、再度海の底に沈んでしまった不運艦との汚名がついてしまい、採用を断念。その代替として、それを覆し、誰もが認める幸運艦の名前がネームシップに相応しいとされ、満場一致で「ゆきかぜ」が採用された。こうして、「わかば型護衛艦」の2番艦「ふたば」改め、「ゆきかぜ型護衛艦」の1番艦「ゆきかぜ」としてこの日進水式を迎えたのである。
「・・・・・・(ゆきかぜ・・・・か。良い名前だな)」
式典に白服を着用して参加しているマツバは、敬礼しながらそんなことを思っていた。
「・・・・・・(第二次大戦では数々の戦闘に参加しながらも生き残り続けた幸運艦。先に戦没した「わかば」の汚名返上とは言え、ここで来たか。その名に恥じぬ働きをしないとね)」
その後鐘が鳴り、防衛相による支綱切断に移る。小さな斧が用意され、報道陣が見守る中斧を握る。
「1、2の、3!」
斧が振り下ろされ、船体を繋ぎ止めているロープが切断される。シャンパンのボトルが船首に当たって割れ、5色のテープや花火が進水式を彩る。くす玉が割れ、色どり豊かな風船が宙を舞い、音楽隊による軍艦マーチが吹奏される。
式典後、長崎市内の喫茶店
「しかし上層部もかなり思い切った判断をした、そう思わないかい?」
式典が終わり、親友のミナキと共に久々に息抜きをするマツバ。「ゆきかぜ」就役後、マツバが「ゆきかぜ」の艦長、ミナキは「もがみ」の艦長に配置換えの予定である。
「それだけ上層部にとって、「わかば」の喪失は痛かったという訳だろうな。尤も、艦そのもの以上に優秀な幹部候補生を4人も喪ったのが痛い。他の「わかば」乗員が無事なのは奇跡だ」
「旧「わかば」の乗員は将来的には「ゆきかぜ」に回すらしいね。今は取り敢えず、他の艦に配置換えになってはいるけど」
「そしてその「ゆきかぜ」の艦長がマツバか。「わかば」の乗員を無事帰国させたことを上層部は高く評価しているみたいだぜ? 遠くない内にマツバも海将補になれるかもしれないな」
「海将補・・・・」
マツバの脳裏には、2階級特進で海将補になった若き幹部候補生、ヒビキの顔が過ぎる。忘れたくても忘れられないあの顔が、である。
「ミナキ君・・・・」
「なんだ? マツバ?」
「未だに死んだヒビキ君達を忘れられない僕をどう思うかい?」
「・・・どう思う、とは何だマツバ?」
「いや、何をしたところでヒビキ君達は帰っては来ない。だけど、例えば買い物をする時にふと、このお菓子はヒビキ君が好きな奴だったなと、思わず手に取りそうになったりとかするんだ。いや、もう彼はいないだろうと直ぐに戻すんだけど」
「それだけ、可愛い後輩だったということか」
「うん。本当に可愛い後輩だったよ」
2人は海を眺める。造船所では進水した「ゆきかぜ」の艤装が開始されており、作業場が忙しなく動いている。
「マツバ、俺は別に無理に彼奴等を忘れる必要はないと思うぜ」
「というと?」
「ここは異世界。日米同盟によってアメリカに庇護されてきた世界とは違い、日英同盟によって同盟国を庇護しなくてはいけない世界だ。艦長として、これからも様々な戦闘に参加することになるだろう。そして指示にはない、仰ぐ暇もない、現場での即時決断が求められる場面も多々あるだろう。判断に迷うこともあるかもしれない。その時、彼奴等ならどうしただろうか。それを一瞬考えて、お前なりの最善手を選択すれば良い。ただ真似するんじゃなくて、お前なりの最善手を決める材料の一つとしてな」
ミナキはそう言うと、コーヒーを口に含む。
「それに、人間は忘れたくても忘れられる程、精巧に出来ちゃいねえ。不完全な生き物さ」
「成る程ね・・・・」
「それに、どうしても忘れられないなら、彼奴等と撮った写真とかあるだろ? それを常に携帯しておくのはどうだ? 離れていても、心は一つ、ってな」
「・・・・・・流石はミナキ君だね、そうさせて貰うよ」
マツバはヒビキら若き幹部候補生達4人と江田島で撮った写真を焼き増ししよう。そう心に決めた。
「しかし、あの「わかば」自体かなり曰く付きの艦だったんだよなあ・・・・」
「それはそう。まず進水式の時点でかなり不穏だったよね・・・・」
2人は護衛艦「わかば」の不穏過ぎる進水式を振り返る。
在りし日の岡山県玉野市
三菱重工マリタイムシステムズ
「本艦を、「わかば」と命名する!!」
護衛艦「わかば」の晴れ舞台である進水式。この日は防衛相の代理として、次官が参加したのだが・・・・
「・・・・・う、うせやろ?!」
支綱切断を行った次官がカメラの前でそう叫んだ。次官だけではない。周囲にいた自衛隊、造船所、報道陣の全員が異様な光景にざわついていたのだ。中には頭を抱えたり、口を手で覆ったり、卒倒する者もいた。
「・・・・・な、なんで?! 何故だ!?」
それもその筈。船首に当たって割れる筈のシャンパンが割れなかったのである。艦自体は問題なく進水した。軍艦マーチと共に艦は船台を離れ、海へ解き放たれる。
「・・・・・ば、馬鹿な・・・・」
シャンパンが割れなかっただけではなく、くす玉すら割れなかった。海上自衛隊発足以降、このような不穏過ぎる進水式は類がなく、戦前の戦艦土佐を想像させる珍事となった。
「これじゃあまるで戦艦土佐みたいに不運な艦歴になるんじゃないだろうか・・・・」
造船所で勤務する熟練作業員は護衛艦「わかば」の運命を不安視した。船体自体に問題はなく、艤装は予定通り進められ、翌年海上自衛隊に引き渡されるのだが、そこでもまた問題が起きた。
オラパ諸島攻略作戦完了後
オラパ諸島ロコール島沖合
海上自衛隊練習艦「かしま」食堂
「しかし、練習艦を実戦投入させるとか、思い切った判断を下すよなあ・・・・栄一等海佐は。ヒビキもそう思わねえか?」
「その思い切りの良さが昇進の証だろうね」
オラパ諸島攻略作戦完了後、戦後処理の為にオラパ諸島ロコール島に停泊していた練習艦「かしま」。幹部候補生の1人であるヒビキとユウキは艦内食堂で昼食をとっていた。
「コウキとミヅキは「しまかぜ」で何をしてるんだろうな?」
「確か、「しまかぜ」の艦長はマツバさんでしょ? 可愛がられてるんじゃない?」
「松葉一等海佐は「しまかぜ」でかなり慕われてるらしいぜ? 噂によれば「もがみ」の艦長に配置換えらしい」
この頃のヒビキはまだ二等海佐ではなく、ユウキらと同じ三等海尉であった。既に特別昇進試験の受験は終了しており、あとは結果待ちである。
「若葉響三等海尉、羽田艦長、栄副艦長がお呼びみたいだぞ?」
食事中に伝令を受けたであろう同僚がヒビキに話し掛ける。
「艦長と副艦長が?」
「ああ。食事が終わり次第来てほしいとのことだ。焦らず、しっかり飯を食ってからで良いとも言っていた」
「羽田艦長が言うなら完全な善意なんだろうけど、なるべく早いほうが良いか・・・ありがとう。直ぐに行くよ」
ヒビキは同僚に感謝を伝えると、ユウキと共に急いで食事を済ませる。その後一旦ユウキと共に自室に戻り、歯磨きや身だしなみを整える。
「ユウキ、変なところはないよね?」
「ないない! じゃあ行こうぜ!!」
「ユウキは呼ばれてないじゃん」
「良いの良いの!!」
その後2人は艦長室へ移動する。丁重にノックをし、礼儀正しく入室する。
「若葉響三等海尉、三代勇気三等海尉。ただいま参りました!!」
「ん? 俺が呼んだのは若葉三等海尉だけなんだけど?」
「まあ、一緒に来てくれた方が説明が省けるから、むしろ有り難いンだけどな。三代三等海尉、感謝するぜ」
艦長室には椅子に座るヒロシと傍らに立つアキラが待ち構えていた。練習艦隊総司令官と参謀長の2人を前にしてヒビキとユウキは非常に緊張する。
「さて、君達を呼んだのは他でもない。本国から出港前に受けた特別昇進試験の結果が届いた」
合否通知が異国の地で行われる。経験したことない出来事にヒビキとユウキは更に緊張する。
「結果は若葉三等海尉は合格、三代三等海尉は不合格だ」
2人とも表情を崩すことなくヒロシの言葉に耳を傾ける。
「・・・・・・・羽田艦長、本題をまだお話しておりませんよね?」
ヒビキは鋭い目つきでヒロシの顔を見つめる。ユウキは理由がわからず、ヒビキとヒロシの顔を交互に見つめる。
「・・・・・・・流石は若葉二等海佐、特別昇進試験に合格するだけあるね」
三等海佐を飛び越えて二等海佐に昇格したヒビキをそう評したヒロシ。ヒロシは机の引き出しから1枚の書類を取り出し、それを一旦伏せる。
「・・・・・・・若葉二等海佐、もしいきなり艦長になれと言われたら、どうする?」
「・・・・・・・艦長、ですか? それはこの練習艦「かしま」のことでしょうか?」
「違う。今本国で建造中の最新鋭護衛艦、「わかば」の艦長だ」
「・・・・・「わかば」、ですか? 何故に僕を艦長に? 苗字が若葉だからでしょうか?」
「アハハハ!! 言葉遊びは流石に理由にはならねえだろうよ!!」
アキラはヒビキの返答が面白かったのか、笑い始める。
「冗談であります」
「まあ、そうだよな」
「して、何かあったんですか?」
ユウキがヒロシに理由を訊ねる。
「・・・・・いや、実は他の一等海佐を艦長に据える予定だったんだけど・・・・」
ヒロシは凄く言いづらそうな表情を浮かべる。
「当初予定されていた人物がさ、ミカドアイHDから多額の借金をしていたことが発覚しちまってさ・・・地下帝国送りになった」
「「・・・・・・Huh??」」
思わず Huh Cat になるヒビキとユウキ。
「その上に「わかば」は進水式でシャンパンが割れなかったり、くす玉が割れなかったり、更に進水後に労災が起きて作業員や確認の為に来ていた自衛官が負傷したりと不運しかない艦なんだ・・・・それで誰も艦長になりたがらないんだ・・・」
「市ヶ谷の連中は思い当たる人材に片っ端から声を賭けたンだが、全員に拒否られたンだ。本当に申し訳ねえンだけど、そンな不運艦の艦長を引き受けてはくれねえか、って話だ」
「・・・・成る程、それで試験に合格したんですね・・・」
ヒビキは何故試験に受かったのか。闇の深い事実に気付いた。様々な不運が重なり、今や誰もが敬遠する厄介者と化した護衛艦「わかば」。全ての艦長候補に断られ、頭を抱えた防衛省は考えた。期待の幹部候補生がいるから、そいつを合格させて艦長にさせよう! 表向きには能力があれば直ぐに艦長になれる! と宣伝しよう! と。
「・・・・承知致しました。であれば、断る理由はございません。若葉響二等海佐、護衛艦「わかば」艦長の職を拝命致します」
「ありがとう。肩の荷が下りたよ」
「それと艦橋要員についてなンだが、若葉二等海佐と気心の知れた三代勇気三等海尉、真砂光輝三等海尉、ミヅキ・クチバ三等海尉を傍に付けさせる。幕僚に味方は必要だからな」
「御配慮感謝致します! 栄副艦長!!」
こうして、帰国後ヒビキは26歳の若さで二等海佐に昇進。最新鋭の護衛艦「わかば」の艦長に就任した。その後特に不運な事故等はなかったものの、最終的にはニグラート沖海戦にて戦没。若き艦長や幹部候補生達と共に海へと帰っていったのである。
「なら僕は「わかば」の分まで戦うよ。幸運艦「ゆきかぜ」が無念の最期を遂げた「わかば」の意思を次ぐ!!」
「その意気だぜマツバ!!」
後に護衛艦「ゆきかぜ」は様々な戦闘に参加。松葉艦長の指揮の下で数々の戦果を挙げることになるのである。
クルセイリース大聖王国占領下
英連邦パラディオン王国飛行艦基地
「しかし、最近パラディオンのパルチザンが跋扈し過ぎじゃねえか?」
「確かに。弓矢ぐらいしか飛び道具がなかった連中が最近小銃を使いだしてるしな・・・・」
クルセイリース大聖王国の統治下にあるパラディオン島。過酷な搾取に苦しんでいたパラディオン人であったが、イヴ、アウラム、ニンギルスがニュージーランドに辿り着いたことをきっかけに事態は好転しつつあった。日英両国の外務省、防衛省関係筋は、クルセイリース大聖王国と将来的に軍事衝突することは避けられないとの見解で一致。その際の前進基地として、パラディオン島を確保するべきとの判断に至った。石葉内閣の崩壊で一時計画は中断したものの、新たに発足した高市沙苗内閣により計画は前進。即座に実施された解散総選挙では、石葉内閣で喪った議席を次々と取り返し、単独過半数を回復。大阪や京都はさっぱり勝てなかったものの、地盤である奈良を制圧し、過激的な右派政党を木っ端微塵にし、勢力図の塗り替えに成功。高市沙苗内閣は安定した政権運営を可能にしたのである。ちなみに、石葉前総理を倒した右派政党政参党の若葉栗栖衆院議員(若葉響海将補の従姉)は今回も石葉前総理を粉砕。直後に政参党が瓦解した事を受けて、与党入りするという、地味な嫌がらせも起きていたのだが。
「ん? なんだあれは····」
基地周辺を警戒中の兵士が空から何かが飛来してくるのに気付く。
「・・・・・・なんか此方に向かって来てない?」
「確かに・・・・我が国の新兵器か?」
次の瞬間、彼等の眼前に広がる飛行艦隊に目掛けてミサイルが着弾する。
「な、なんだ!?」
「本部! 聞こえますか!? 謎の飛翔体が着弾!! 飛行艦に被害が出ています!!」
英連邦パラディオン王国北西150キロ沖あい
イギリス海軍空母プリンス・オブ・ウェールズ
「大陸間弾道ミサイルによる先制攻撃に成功。現在被害状況を確認中!!」
「哨戒中の潜水艦隊より入電。敵水上艦隊並びに潜水艦隊の姿なし!!」
イギリスからクルセイリースに対する警告から3か月はとうに過ぎ去った。イギリスは神聖ミリシアル帝国やムーから部隊を引き揚げ、パラディオン島奪還部隊を編成。イギリス海軍の空母プリンス・オブ・ウェールズを旗艦として、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英連邦王国が護衛艦艇を展開。艦隊には陸軍部隊を満載した輸送艦も随伴しており、イギリスからの要請により、海上自衛隊の輸送艦「しもきた」、「くにさき」の2隻も加わっていた。両艦共に英連邦王国軍の兵士や物資を満載し、一路パラディオン島を目指す。
「司令部より入電! 敵飛行艦基地の被害甚大!! 直ちに上陸作戦を開始せよとのこと!!」
「了解した。艦載機を上げろ!! 上陸前の露払いだ!!」
プリンス・オブ・ウェールズの飛行甲板からはイギリス海軍のF35Bが次々と発艦。輸送艦突入を支援する。
イギリス海軍空母プリンス・オブ・ウェールズF35B飛行隊
「ん? 馬鹿デカいレーダー反応だな・・・・」
飛行中の一機が突如として巨大な飛行物体をレーダーで捕捉した。
「・・・・・・おお! すげええ!! 馬鹿デカい艦が浮いてやがるぜ!!」
上陸作戦に向けて上空警戒中のF35B飛行隊は、パラディオン島の飛行艦基地から飛来したクルセイリース大聖王国の飛行艦を捕捉。迷うことなく、空対艦ミサイルLRASMを発射した。
「果たして装甲はどんなものかな?」
万が一に備え、空対艦ミサイルLRASMを一部の機体に搭載させていたイギリス海軍。それが功を奏し、クルセイリース大聖王国の飛行艦に対して対艦ミサイルによる攻撃と、それによる戦果確認、そして有効性に関するデータ収集が可能になった。ちなみにLRASMは、異世界転移後に在日米軍基地内や在日アメリカ大使館に残されていたデータを無断で拝借し、日英共同開発の結果完成している。
「・・・・・呆気なく沈んだな・・・・飛行性能を重視し過ぎて、装甲は紙みたいだな」
神聖ミリシアル帝国の古代兵器パル・キマイラを念頭に、空中目標に対しても攻撃可能となっているLRASMは、クルセイリース大聖王国の飛行艦をたった2発で撃墜。一瞬にして空に汚い花火をぶち上げる。その後飛行隊は島の各地を偵察。脅威が排除されていることを確認すると、旗艦に報告。かつてイヴ達が脱出した北西の海岸に輸送艦が突入し、英連邦王国軍が次々と無血上陸を果たすのである。
「ここがパラディオン島・・・・実に空気の澄んだ美しい島だな」
上陸した英連邦王国軍の兵士達は、桁違いに美しい森に目を奪われる。
「イギリス軍の方々ですか?」
英連邦王国軍の上陸に気付いたパルチザンが接触してくる。彼等はミカドアイHDによる物資輸送により、イギリスが供与した武器で武装しており、クルセイリース大聖王国の駐留軍を苦しめている。
「ああ。我々は国王陛下の勅命により、この島に巣食う賊を成敗するよう指示を受けている。準備が出来次第、本格的な奪還作戦を開始する」
その後、英連邦王国軍とパルチザンの連合軍は星辰の森を越え、首都パラディオンに突入。既に大陸間弾道ミサイルによる攻撃で主力艦隊を喪い、イギリスの支援を受けたパルチザンの武装蜂起で完全に疲弊していたクルセイリース大聖王国パラディオン島駐留軍に有効的な反撃を行う力は残されていなかった。飛行艦は日英に存在しない、優れた装備であった一方、戦車等装甲車は保有しておらず、小銃も日英から大いに後れをとっており、陸上戦闘では質量共に英連邦王国軍に分があった。侵攻開始から5時間後には、パラディオン島駐留軍が降伏。1週間後にはパラディオン島全域を英連邦王国軍が掌握。イギリス政府は全世界に対して、パラディオン島の解放と英連邦パラディオン王国の独立を宣言することになる。
クルセイリース大聖王国
軍王ミネート邸宅
「何だと!? パラディオンがグレートブリテン及び北アイルランド連合王国を中心とする連合軍により陥落。パラディオン島は独立し、英連邦王国の一員として庇護下に入っただと!?」
部下からの速報を聞いたミネートは酷く狼狽する。これまでクルセイリース大聖王国は圧倒的軍事力と技術力で周辺諸国を蹂躙。向かうところ敵なしな状態であり、属領となった各国の反発を抑えつけ、反乱を諦めさせていた。しかし、属領の一つであったパラディオンはイギリスの支援により独立を達成した。
「この情報が知れ渡れば、ミネート様の御立場が危うくなりまする!!」
「そんな生優しい話ではない!! パラディオン島には小規模ながらも飛行艦隊を配備していた!! どのような手を使ったのかは分からぬが、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国を中心とする連合軍はそれを撃破したということだ!! 奴等がパラディオンで満足せず、他の属領に対して独立の機運を高める工作を行う可能性があるのだ!!」
軍王ミネートは支配する者の脆弱性を深く理解していた。属領達は心の底からクルセイリース大聖王国に忠誠を誓っている訳ではない。また、同盟国達も同じくクルセイリース大聖王国を心の底から信用している訳でもない。今はクルセイリースと手を結ぶ事が国益に適うから渋々受け入れているのであって、国際情勢が変わればあっさりと鞍替えしてしまうだろう。そうなればクルセイリース大聖王国はあっという間に周囲を敵国に囲まれてしまう。
「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の動きについての情報はないか!?」
「それが、同国はパラディオン島から遥か彼方の距離にあり、一番近い国であるニュージーランドでさえ最低でも1500キロと、誤差や空気抵抗、敵からの迎撃を考慮しますと、飛行艦の航続距離が微妙に足りませぬ。故に情報が届かないのです・・・」
「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国直々の大本営発表以外に奴等を知る事は出来ぬということか・・・」
軍王ミネートはこれまで進めてきた東方国家遠征計画の見直しの必要性を痛感した。
「背に腹は代えられない。東方国家遠征計画の見直しが必要であろう」
「されど、我が国の財政状況は過去最悪の状態です!! 新たな属領を確保し、搾取出来る土地と民を増やさなくてはクルセイリース大聖王国そのものが破綻してしまいます!!」
「分かっておる! しかし、聖王ジュウジ様を抱き込めば何とかなろう・・・・」
「邪魔をしますわよ」
「「!!」」
突然の来訪者にミネートや部下は背筋が凍る。ミネートの邸宅を訪れたのは、クルセイリース大聖王国の女性元帥、イブリース大元帥。クルセイリース島がまだ複数の国家に別れて群雄割していた頃、当時まだ完成したばかりの飛行艦1隻で敵国の水上艦隊を全滅させ、クルセイリース島統一に貢献した伝説の軍人である。御年81歳ではあるものの、未だに最前線に立つ猛将である。
「ミネート、そなたは東方国家遠征計画の見直しが必要であると申したな?」
「い、いえそのような事は何も!!」
「それと、軟弱者ジュウジを抱き込むとか申していなかったか?」
「な、何を申されます!! このミネートが弱腰な態度を取ること等あり得ませぬ!!」
ミネートが慌てるのにも訳があった。今やクルセイリース島で知らぬ者等いないイブリース大元帥。彼女は根っからのタカ派であり、財政難の状況にあっても軍事予算の削減を断固として認めず、むしろ増額を主張する老害である。更に大元帥という立場の為、意向に反する将官を閑職送りにすることも容易である。ミネートは本来、軍王になるコースではなかったが、イブリース大元帥に気に入られたことで今の地位にある。謂わば大元帥の傀儡なのである。
「それで良い。パラディオン島の失陥は残念ですが、そもそも喪われた戦力は閑職送りにした連中の部隊。むしろミネート、貴方の邪魔者がいなくなって良かったではないか」
「は、はい! その通りであります!! されど、パラディオン島の失陥が今後の属領統治に影響する可能性に憂慮しているのでありまして・・・」
「つまり、先の東方国家遠征計画の見直しは国の為を思ってのものと?」
「そ、その通りであります!!」
「う〜ん・・・・」
大元帥は少し考え込む態度を示す。次に何を言い出すのかがわからず、ミネートや部下は冷や汗が止まらない。
「確か、パラディオン島を陥落させたのは、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国であったな?」
「はい、その通りであります」
「そうかそうか」
大元帥はそう言うと、1人の男を紹介する。
「ミネート、貴方に補佐官を付けさせます。この者の助言に従うのです」
白いローブを纏った怪しい雰囲気の知恵者を大元帥はミネートに引き合わせる。
「彼の名前はメナス。必ずや貴方の助けになるでしょう。では、以後も励むのですよ」
「は、はあ・・・・」
そう言うと、大元帥はミネートの邸宅を去った。後にミネートは大元帥とメナスに焚き付けられ、散々利用された挙句に悲惨な末路を辿る事になる。
「な、何だったんだろうか?」
「分かりませぬ」
その後ミネートはメナスの助言に従い、1年間は喪われた戦力の回復に勤めることとし、暫くの間軍事行動は控えられる事になる。同時に裏では・・・・
「日本国にグレートブリテン及び北アイルランド連合王国。この2カ国と戦端を開くことが出来れば、我々の野望に近づく・・・」
「イブリース大元帥も人が悪い。騙すために年寄りを装うとは・・・」
クルセイリース大聖王国のとある場所でイブリースとメナスが会談をしていたことは誰も知らない。
(続く)