日英同盟召喚   作:東海鯰

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今回は戦闘場面はない、次章への繋ぎ回です。


緊急幹部会1

イギリス領カルトアルパス

三菱重工業カルトアルパス造船所

 

「オレらのボスが悪ふざけで上申した内容がまさか本当に採用されちゃうなんてねえ・・・・やっぱり紅茶キメてる奴等は違うな」

「紅茶が足りてるのか足りてないのか・・・・コレもう分かんないねえ〜」

 

神聖ミリシアル帝国からイギリスに割譲された港町カルトアルパス。かつては神聖ミリシアル帝国海軍が運用していた造船所も、今や日本の大手軍需産業である三菱重工業の事業所の一部になっていた。ただし全てが三菱重工業の施設という訳ではなく、イギリスの大手軍需産業であるBAEシステムズとの共同使用である。その為広大な敷地には両社の事業所があり、日夜合同で研究開発が行われている。最近では日英の連携強化の一環として、両社の対等合併を模索する動きも出ているという。

 

「しかし、大規模修繕の機会を利用して大規模改修か。正直0から造った方が良いんじゃないのか?」

「我が国もイギリスも魔導艦に関しては手探りだからね〜。変なリスクを背負うより、まずは改修から始めて、そこから量産化だろうね」 

 

そう言いながらオグリとウッチーは来賓席へ移動する。彼等の目の前にはイギリスが鹵獲したオリハルコン級戦艦の1番艦旧オリハルコンと2番艦の旧コスモの姿があった。現在の艦名は1番艦がクイーン・エリザベス2世、2番艦がプリンス・オブ・フィリップである。

 

「手探りの割にはかなり手の込んだ大改装じゃねえかよ。しかも空中戦艦だぜ? 紅茶キメ過ぎだろ」

 

神聖ミリシアル帝国との武力衝突に勝利した日英両国であったが、同時に課題も見つかっていた。それが空中戦艦対策である。日英両国の技術力やそもそもの科学文明国では、パル・キマイラのような馬鹿デカい物体をエンジン無しで離陸させること等不可能である。神聖ミリシアル帝国の技術力が不十分である事、半ば奇襲に近い攻撃であったことから空中戦艦との戦闘には至らなかったが、仮に古の魔法帝国の空中戦艦に対空ミサイルが十分な効果を得られなかった場合、日英艦隊は簡単に殲滅されてしまう可能性があった。水上または水中から逃れられない日英艦隊と空から一方的に攻撃出来る魔法帝国艦隊。古の魔法帝国復活までに何かしらの対策を立てることは急務であった。

 

これらの問題に対して、日本側は対艦ミサイルによる空中目標への攻撃を可能とするプログラムの改修と、潜水艦から発射可能な新型の高威力の対艦ミサイルの開発、未成艦である旧オリハルコン級戦艦の3番艦、4番艦へのレールガン搭載並びにイージスシステム搭載を選択。特に旧オリハルコン級戦艦のイージスシステム搭載艦転用は搭載可能な対艦ミサイルの数を従来艦の3倍以上かつVLSからの発射を可能とする予定であり、まさしく浮かべる城となる予定である。

 

一方のイギリス側は水上艦艇としても使用可能な空中戦艦を保有するという道を選択した。神聖ミリシアル帝国よりバネタ地区を割譲させたことにより、同地に残っていたパル・キマイラに関する資料の全てを押収。更に皇帝ミリシアル9世により幽閉されていた技術者達を拘束し、カルトアルパスへ強制移住。現在ではBAEシステムズの社員として日夜研究開発に精を出している。空中戦艦保有にあたり、カルトアルパス総督ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンは以下の点を提案した。具体的には、

 

 

・主砲は無人砲塔かつビームと実弾を同じ砲塔で発射可能とする

 

・主砲は3連装式とし、新生グラ・バルカス帝国海軍の戦艦グレート・ガルマと砲弾を共用可能とする

 

・副砲は3連装とし、後部搭載の副砲には個別の弾薬庫は搭載しない

 

・後部副砲の弾薬庫の代わりに航空機の収容区画を整備し、F35B並びに無人機の運用を可能とする

 

・上部からの敵に備え、連装式ビーム対空砲を多数設置する

 

・下部に格納式の砲塔並びに対空砲を装備し、下からの攻撃及び上空からの対地支援を可能とする

 

・艦首及び艦尾に魚雷発射管を搭載する

 

 

お前某宇宙戦艦に影響され過ぎだろと言いたくなる内容であったが、運の悪いことに神聖ミリシアル帝国が発掘した古の魔法帝国に関する技術情報に加え、パラディオンの巫女イヴが有する祭祀の杖に秘められた情報、そこに日英の最先端の技術力と豊富な資金と、必殺な物が全て揃っていたのである。日英からすれば未知の鉱石であるオリハルコンも、この世界ではありふれた鉱石の一つでしかない。純度の高いオリハルコンは無限に近いエネルギーを産み出すことが出来るが、神聖ミリシアル帝国では精々60%の純度までしか精錬出来ない。しかし、日英両国には天然ウランから僅か0.7%しか存在しないウラン235を高純度で取り出す技術力がある。それを応用することで、三菱重工業とBAEシステムズを始めとする日英企業連合は純度99.99999999999%のオリハルコンの精錬に成功。精錬には多大なコストがかかり、費用対効果の面で原子力機関に及ばないところがある為、原子力潜水艦や原子力空母の代替には至らなかったが、飛行戦艦の場合はこれ以上に優れたエネルギー源は存在しなかった。試験的に護衛艦「ゆきかぜ」就役後に廃艦予定の護衛艦「むらさめ」に搭載して試験を実施。結果、4550トンにも及ぶ船体を浮かび上がらせることに成功した。その後護衛艦「むらさめ」は、飛行試験艦「むらさめ」と改められ、日英両国による研究が継続。試験艦「あすか」も投入され、必要な技術の蓄積が行われた。それらの成果を踏まえてカルトアルパス造船所にて、鹵獲した2隻の戦艦の改装工事を実施。また、高純度のオリハルコンと日本の技術力を融合した結果、地球世界では夢のまた夢であったビーム兵器の実用化に成功。最終的な仕様は以下の通りである。 

 

 

クイーン・エリザベス2世級空中戦艦

 

主砲∶46センチ3連装衝撃砲×5基(内2基は艦底部に格納)

副砲∶20センチ3連装衝撃砲×4基(内2基は艦底部に格納)

艦首魚雷発射管×6門

艦尾魚雷発射管×6門

舷側ミサイル発射管×10門×2

連装パルスレーザー砲×20基×4(内20基×2は艦底部に格納)

多用途VLS200セル×1基

艦載機∶F35B×10機、新型ステルス無人機×20機

機関∶高純度オリハルコン機関×1

 

 

「マジで造る奴が何処にいるんだよ?」

「ここにいる、って感じかな〜?」

 

造船所では2隻の空中戦艦の就役を記念した式典の準備が行われており、英国海軍の歴史に新たな1ページが刻まれようとしていた。

 

「古の魔法帝国対策とは言え、ここまでするか普通?」

「紅茶キメ過ぎて頭おかしくなったんだろうね〜」

 

オグリとウッチーは来賓席に座る。2人はカルトアルパス総督府での勤務となったことを受けて制服が変更。明治時代の警視庁の制服を彷彿とさせる格好に変更となった。カルトアルパスの日本領事館では、剣術に秀でた2人の姿を令和に蘇った警視庁抜刀隊のようだと称している。

 

「しかし、完全に警視庁抜刀隊の制服そのものだよなこれ」

「一応新品かつ、現代の人間に馴染む素材にはなってるけどね〜」

 

総督府からサーベルの常時帯刀を特別に許可されているオグリとウッチー。カルトアルパス総督府で常時帯刀が許されているのはオグリ、ウッチー、ハイネ、ラスティの4名だけであり、ハルトからの厚い信頼が伺える。尤も、ラスティは先の3人に比べて剣術が苦手であり、式典以外では帯刀しないのだが。ちなみに何故オグリらハルト総督警護衆の制服が抜刀隊なのかと言うと、

 

「僕の警護衆だから、それ相応の格好にしないといけないこと、彼奴等大英帝国人ではないからなあ・・・・英国式は似合わないだろう。となれば、日本式が望ましいが、袴とか陣羽織は違うだろう・・・ここは、友人に意見を求める他ないな」

 

と、ハルト総督はニュー・ホンコンにいるアキコに部下の制服を考えてくれと要請。これに対してアキコは、

 

「面倒くさいわねえ・・・・なんで出産したばかりの私がアイツの部下の為に制服のデザインをしなきゃいけないのよ・・・・」

 

と、滅茶苦茶不機嫌になりながら制服のデザイン案を検討。

 

「・・・・・・彼奴等剣術に秀でたわよね。空軍軍人なのに」

「じゃあ、抜刀隊で良いんじゃないか?」

「・・・・・・面倒くさいからそれで行くか・・・」

 

悪ふざけで警視庁抜刀隊の制服デザインをベースにしたらどうかというシンの案をアキコは採用。手直しを加えた上で制服デザインをハルトに送付。このデザイン案に感激したハルトは即座に本国の業者に対して制服の製作を要請。最初に着用する4人のサイズに合わせた制服が予備も含めて到着。任官の際に着用させ、今に至っている。

 

「警視庁抜刀隊か・・・・オレもウッチーも軍人なんだがな」

「言うて陸自では抜刀隊は使うし、完全に無関係ではないけど、なんか違うよね〜」

 

やがて2人は来賓席に到着する。既にハイネとラスティは到着しており、2人は敬礼で出迎える。

 

「ああ〜、敬礼はいいよ。堅苦しいのは嫌だから」

「さ、されど内一等空佐!!」

「上官の言うことは聞いときな、ラスティ。真面目なだけでは直ぐに戦死するぜ? 生きてなきゃ意味がねえからな」

 

その後関係者が集まり、2隻の空中戦艦の就役を祝う式典が始まる。進水式ならぬ進空式にハルト総督が祝いの言葉を贈る。

 

「本日、我が大英帝国海軍は新たな歴史に1ページを切り拓きました。近い将来に古の魔法帝国が復活すると言われ、早急に必要な戦力を同盟国と共に揃える必要性に迫られる中、古の魔法帝国には空中戦艦を保有し、多数運用している可能性が高いと判明しました。現在の我が国並びに同盟国の軍隊では、空中戦艦を撃破出来ない可能性がありました。如何に対空ミサイルや対艦ミサイルが多数あったとしても、相手と同じ土俵で戦わぬ限りは劣勢を強いられるは必定。無論、対空ミサイルや対艦ミサイルの強化や増産は必要不可欠。されど、制空権のない戦車が意図も容易く撃破されてしまい、更にかつて我が大英帝国海軍は最新鋭の戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、巡洋戦艦レパルスが制空権なき状態で当時泣く泣く兵刃を交えた大日本帝国海軍航空隊と戦い、猛烈な対空戦闘を展開するも沈んだ。我が大英帝国海軍は過去の失敗を繰り返したりはしない!! 敵に空中戦艦があるなら我々も持てばよい!! 原子力潜水艦や地上サイロによる核抑止力、通常兵器による平時パトロール、それにこの空中戦艦を中心とする空中艦隊が加わることで我が国並びに同盟国、そして世界の安定に寄与すると期待している!! 大英帝国万歳!! 国王陛下万歳!!」

 

ハルト総督による祝辞の後、2隻の空中戦艦は出港。少しずつ離水するべく加速し、やがて完全に宙に浮いた。その様子は各国の報道陣により全世界に拡散。この情報を受け取ったアニュンリール皇国政府は大英帝国が本格的に空中艦を量産化し始めたら勝ち目はないと判断し、対応策を検討するも、有効的な策はないまま時だけが過ぎていくのである。

 

「ちなみに空中戦艦は何処に配備されるんだ?」

「ひとまずはパラディオン島らしいよ〜。独立したとは言え、軍が壊滅しちゃってるし、再建には長い時がかかるし、それまでは日英が肩代わりしなきゃだし」

「それに、話によればクルセイリースが不穏な動きを見せてるんだってな。ここ1年間奇妙なくらい静からしいぜ?」

「恐らくはパラディオン島失陥に伴う戦力補充でしょうが、真に大英帝国の庇護下にあるパラディオン島に攻め込むでしょうか?」

「ははは、ラスティは相変わらず真面目だな!!」

 

4人の会話にハルトが割り込んでくる。

 

「既に我が大英帝国はクルセイリースの属領に諜報員を派遣している。それによれば、属領はクルセイリース本国からの過酷な重税に苦しんでおり、貧困に喘いでいるとのことだ。更に駐留している属領統治軍と本国の魔信を傍受したところ、近々大規模な軍事行動に出る見込みだとも」

「そ、それがパラディオン島再侵攻ですか?!」

「いや、違うな。僕の勘がそう告げてる」

「では、何処に!?」

「それは分からない。だが、パラディオン島に空中戦艦を配備しておくことで、何処に敵が動いたとしても即刻敵本国に対して砲艦外交が出来る。幾つか候補はある」

「その候補とは!?」

 

慌てるラスティ。それに対してハルトは驚くほど冷静である。まるで早くクルセイリースが攻めて来てくれないかと待っているかのようである。

 

「また始めるのか? 戦争を?」

「やれやれ・・・・ブリカスは戦争が好きだねえ〜」

 

オグリとウッチーは呆れながら総督府へと戻る準備を進める。その後彼等を乗せた黒塗りの高級車は衝突事故を起こすことなく総督府へと戻った。

 

(空中戦艦は間違いなくこれまでの常識を覆す。されど、ビーム攪乱膜も同時に開発された。古の魔法帝国やこれから戦うクルセイリースがビーム兵器を使用するのかは分からんが、ビーム兵器並びに対抗策を保有している可能性は充分に考えられる。ビーム兵器が使えず、もし電子機器も使用不可能となればミサイルも使えん。だからこそ、測距儀による照準射撃が可能な砲弾が発射可能な砲塔を開発させた。ビームやミサイルが使えないなら、実弾で殴れば良い。まあ、コストが嵩む故、巡洋艦以下は純粋なビーム砲塔にするべきであろうが、駆逐艦ないしフリゲート艦クラスならば既存の5インチ砲弾を共用可能になる。空中巡洋艦を空中戦艦のコストダウン仕様として開発させてみるか)

 

後に大英帝国海軍はクイーン・エリザベス2世級空中戦艦の副砲を主砲に据えた空中巡洋艦を建造。空中艦隊の旗艦として機能し、海上自衛隊、カナダ海軍、オーストラリア海軍にも採用される事になるのである。

 

 

日本国東京都大田区

根部商事本社ビル会議室

 

「社長直々の緊急幹部会とは一体何事であろうか?」

「恐らくは社長の後継者問題についてであろうな」

「社長にはお子がおられぬ故、御三家辺りから後継者を出すのであろうな」

「御三家となると、会長の弟君の長女辺りが最有力であろうか?」

 

根部商事では社長根部正義直々の緊急幹部会開催に伴い、会社幹部達が会議室に集まっていた。まだ社長は到着しておらず、幹部達は各々予想について語り合っていた。

 

「昭子殿か。されど、昭子殿は僅かに社長より歳上。直接の後継者にはならぬであろう。さしずめ、その子が後継者であろう」

「確か、昭子殿はつい最近男児を出産なされたのであったな。それも、根部商事社長の通字である義の一字を与えられたとか」

「そうなれば、後継者は昭子殿の昭と義の一字で昭義であろうか?」

「いや、それが昭子殿の夫の真殿の一字を偏諱し、真義だそうだ」

「昭子殿は何故に己の一字をお与えにならなかったのであろうか?」

「夢野殿にも男児がおろう。それに齢も昭子殿の男児より歳上であろう。後継者には夢野殿の男児が相応しいのではないのか?」

「実はその事を一瞬考えたのだが、それを妹に話したらボコボコにされてしまい・・・素直に夢野家の跡取りにすることになったのだ」

「故に顔に痣が出来ているのか・・・痛々しい・・・」

「良いのだ。序列を考えれば妹の主張が正しい。それに私は夢野家の者。創業家に戦いを挑みたくはない」

「フン! まだそのサネヨシとやらが正式後継者に決まった訳ではないわ!! 社長、いや夫はまだまだ若い。嫡子を私が産む可能性はまだまだあるわ!!」

「無精子病であると何度も言っておるであろう・・・」

「ははは、中々に強情な姫ですな」

 

会社幹部達の議論が白熱する中、社長の秘書官が入室する。

 

「皆様、間もなく社長が入られます」

「うむ。議論はしまいじゃな」

 

幹部達は一斉に姿勢を正し、社長の入室を待つ。そして秘書官の入室から2分後、社長のマサヨシが従姉のアキコ、アキコの配偶者のシン、マサヨシとアキコの従妹アイが入室する。アキコの胸の内では白い布に包まれた赤ん坊がスヤスヤと寝ている。それを見た1人の女性幹部がアキコのことをギロリと睨みつける。一方でアキコはそんな女性幹部には目もくれず、シンと共に社長側の席に座る。

 

(あの腐れ下衆女めが!! 私が座るはずの社長の、愛しき夫の隣の席に堂々と座りやがって!!)

 

明らかに不満そうな表情を浮かべる女性幹部。社長であるマサヨシから見て左側にはアキコ、右側にはシンが座り、アキコが抱き抱えていた赤ん坊は会議中はアイに引き取られ、やや後ろに置かれた椅子に座り、秘書官らが周りを固める。

 

「皆の者、急に呼びつけてしまい、相すまぬ」

「何を申される。我等幹部一同、会社の為、日本国の為、社員の為ならば何時でも馳せ参じますぞ」

 

会社幹部の1人で、社内でもかなりの力を持つ井上党を率いる井上宗家、井上兼元は真っ先に社長であるマサヨシに忠誠を示す。

 

「うむ。ではこれより、緊急幹部会を始めるとしよう。志道、説明を頼む」

 

 

緊急幹部会の数時間前

根部商事本社へと向かう黒塗りの高級車の車内

 

「久々に君の親戚の本社に出向くのか・・・・」

 

着慣れない新品のスーツを着用し、落ち着かない様子のシン。

 

「前会長が生きていた時は夏休み中よく出掛けてたわね」

 

シンの隣で優しく彼の手を握り、緊張を解すアキコ。

 

「前会長の根部和義様はアキコの事を本当に気に入っていたからね。生まれつき身体が弱かった私に万が一の事があった場合に備えて夏休みになると本社とか、軽井沢の別荘に招いて帝王学について指導されていたと聞いているよ」

「どうりで夏休みになると、お姉様はいなかったのね。途中からはシンも」

 

2人と相対する形で座るマサヨシとアイ。アイはアキコとシンの子を抱いており、今後も外交官として世界を飛び回るアキコに代わり、育ての親として支える予定である。

 

 

在りし日の軽井沢の別荘

 

「お祖父様、お久しぶりでございます。根部昭子であります」

 

この年も軽井沢の別荘を訪れたアキコ。この年からアキコはシンを連れて別荘を訪れており、シンにとっては初めての根部家の重鎮との邂逅である。

 

「おおアキコちゃん!! とても会いたかったぞ!!」

 

白髪の老人は可愛い孫の訪問を快く歓迎する。

 

「ん? 今回は彼氏を連れてきたのか? 流石はワシが見込んだ孫娘ぞ!! ガハハハ!!」

「か、彼氏!?」

 

分かりやすく驚きの表情を浮かべるシン。

 

「うむうむ・・・・・」

 

品定めをするかのようにシンをまじまじと見つめる和義。

 

「気に入った」

「「はあ・・・」」

「シン、そなたをワシは気に入った!! 」

 

当時の会長、根部和義に一目で気に入られたシンは会長公認のアキコの許婚となっていた。アキコは気付いていたが、シンは全く気付いていなかった。その後アキコは帝王学について指導を受け、シンは社長を支える者としての教育を受ける事になり、数年間夏になると軽井沢の別荘で指導を受けていた。

 

「まあ、今の会長は私の事をあまり快くは思ってなかったみたいだけどね」

「まあ、そりゃそうだよね。自分の子よりも弟の子を、会社経営には1ミリも関わらない自由な次男坊の一人娘に期待してたら、ね?」

「ただ、前会長が生きている間は我慢していたみたいだけどね」

 

しかし、現会長である根部晴義はアキコの事をあまり快く思っていなかった。

 

(自分には男児がいるのに、父である会長は弟の一人娘に一目惚れしている。弟は会社経営に興味がないのと、私と無用な対立をしたくないから一歩引いたというのに・・・)

 

「中学生になってからは、前会長は体調が悪くなって軽井沢に行かなくなったわね。それ以降は会社に関わることはなかったしね」

「私は父から、アキコに絶対に負けるな。お前はアキコより優れてなくてはならないんだ!! と何回も言われたよ。正直嫌になったよ」

「でも、迂回して結局お姉様の血統に嫡流が移る事になるのよね?」

「私はそうするつもりなんだが・・・・」

「会長とあんたの嫁が猛反対している、と」

「そうなんだよ・・・・」

 

呆れた表情を浮かべるマサヨシ。無精子病と診断され、早々に世継ぎ問題の解決に動き出したいマサヨシだったが、嫡流を弟の一人娘に渡したくない会長とマサヨシの妻が猛反対。会社幹部らは殆どがマサヨシの考えに賛同しているものの、未だに権力を握る会長に表立って反発出来ないでいたのである。

 

「ジョン・ハミルトンの乱のように、後継者問題に外国勢力が付け込み、社内だけじゃなくて国家に対する侵略に発展する恐れもある。日本はイギリスと違って、やられても何も出来ない。迅速に対処する必要があるわ」

「それは分かっている。分かってはいるんだけど、仮にも実の父と妻だ。それを始末するというのは・・・・」

「始末する必要はないわ。まだ軽井沢の別荘はあるし、隠居して貰うのよ」

「私に出来るだろうか・・・・」

 

そんな中、黒塗りの高級車は根部商事本社に到着。一行は車を降り、本社の中に入る。

 

「・・・・・会長・・・・」

 

一行をしかめっ面で出迎えたのは根部商事会長、根部晴義。一行の中にアキコと、彼女の子を抱き抱えるアイを見つけると、舌打ちをする。

 

「・・・・ケッ、あんな女の子を後継者にしようとするとは・・・愚かな奴だ!! 私はお前をそんな愚かな奴に育てた覚えはない!!」

 

誰にでも聞こえる声で不満を垂れ流す晴義。受付嬢らは表面上は無表情だが、内心快く思っていない。

 

「彼等も今回の緊急幹部会に参加します。宜しいですね?」

「勝手にしろ。だが私は反対するからな!!」

 

そう言うと会長は一足先に立ち去る。

 

「・・・・何なの? お姉様に対してあの言い草、許せないんだけど?」

「長男であること以外に特別優れたところはない。お祖父様はお父様の事をそう称していたんだよなあ・・・・まあ、経営者としての能力はあったみたいなんだが・・・・」

 

その後別室で身だしなみを整えた後、一行は会議室へと足を踏み入れる。

 

「社長以下、一行が入られます!!」

 

秘書官らが先導し、一行は会議室へ入室。秘書官らは先回りして椅子を引いたり、アイが抱き抱えるアキコとシンの子の状態を確認したりしている。

 

「皆々待たせたな。ではこれより、緊急幹部会を開始するとしよう。志道、皆々に今回の緊急幹部会に関する説明を頼む」

 

根部商事副社長にして、マサヨシの教育役を務めた会社幹部の中でも最上級幹部である志道良広がマサヨシに代わり、説明を始める。

 

「ははっ。皆々方ご存知であるとは思うが、当社の社長マサヨシ様の従姉、アキコ殿が男児を出産なされた。マサヨシ様は知っての通り無精子病であり、治療の限りを尽くすも及ばずに終わった。嫡流の断絶が確定となったことから、御三家より世継ぎを出すことになった。御三家の中で一番社長に血縁関係の近いアキコ殿の家系より世継ぎを迎えることを基本線とする方針であった。そして喜ばしい事に男児が産まれ、アキコ殿、シン殿が世継ぎとする方針に同意したことから、マサヨシ様は歴代社長の通字である義の一字をお与えになり、また父親であるシン殿の一字である真の一字と合わせ、真義と名乗らせることとなった」

 

志道の説明を会社幹部は真剣な眼差しで聞き入る。明らかに不満そうな幹部が2人程いたが。会社の行く末を決める緊急幹部会はまだ始まったばかりである。

 

 

日本国神奈川県横須賀市

海上自衛隊横須賀基地官舎

 

「今頃アキコ先輩は本社で緊急幹部会らしいっすよ? ヒロシ先輩」

「何でアキコは俺を誘ってくれないんだ?」

「いや、誘う理由なんてないじゃないですか」

 

相変わらず医務室でおさぼり・・・都合の良い後輩と戯れるヒロシ。現場に復帰したヒロシは、来日して訓練中の英連邦パラディオン王国海軍の訓練生らと共に、練習艦「かしま」でパラディオン島に向かう遠洋航海に臨むことになっている。

 

「しかし、ヒロシ先輩はまたもや練習艦の艦長、そして練習艦隊の司令官ですか!! また戦闘が起きる予感がしますね!!」

「練習艦で戦闘とか、やりたくないんだからな!! まともな装備は主砲ぐらいしかねえんだからさ!!」

「でも、今回は就役したばかりの最新鋭護衛艦「ゆきかぜ」も同行するらしいじゃないですか。飛行試験艦「むらさめ」や試験艦「あすか」で実証した次世代近距離艦隊防空システムを追加搭載したって聞きましたよ?」

「イギリスの空中戦艦が搭載しているパルスレーザー砲の単装砲タイプか。しかし、よく超濃縮オリハルコンを含めてCIWSサイズに収めたよな。流石は三菱か」

「まあ、三菱は超小型原子炉の研究もしてましたし、それを応用したんでしょうね。うまく行けば、既存艦艇にも追加搭載らしいですよ。まあ、実弾タイプが無くなることはないらしいですけど」

「所詮はビーム。攪乱膜を使われたら無意味だしな」

「砲弾です! 敵は砲弾で攻撃を! ってやりたいだけとかないっすよね?」

「それは知らねえよ。そう言えばアキラはどこに行ったんだ?」

「アキラ先輩なら今頃アキコ先輩のお迎えじゃないですか? アキコ先輩はパラディオンの駐日本大使に内定。復興途上のパラディオン島では衛生環境や道路水道も充分ではないですし、当面の間は護衛艦「いずも」を停泊させて、そこに大使館を設置するみたいっすよ。ちなみにイギリスは空中戦艦プリンス・オブ・フィリップに大使館機能を置くらしいっす」

「じゃあ、練習艦「かしま」、護衛艦「いずも」、護衛艦「ゆきかぜ」の3隻でパラディオン島に向かうのか」

「途中でカナダ海軍のフリゲート艦「ユーコン」、オーストラリア海軍のフリゲート艦「ダッチェス」と合流して5隻みたいっすよ?」

「なんで医官のお前がそこまで知ってんだよ?」

「医官として、練習艦「かしま」に乗るように辞令が出てるんで」

「・・・・・・そうか、何時もお前は傍にいてくれてありがてえよ」

「どうもどうも!」

 

(続く)

 

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