日英同盟召喚   作:東海鯰

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緊急幹部会2

日本国東京都大田区

根部商事本社会議室

 

「・・・・という訳だ。社長である私としては、将来を見据えた動きも必要であると考えている。もしここで後継者をまともに定めることが出来なければ、我が社は競合他社にして、分裂元のミカドアイHDに容赦なく食われてしまうだろう。そもそもとして、ミカドアイHDの前会長、兵東和崇のやり方に不満を抱いた私のお祖父様にして兵東和崇の実の弟、根部和義前会長が志を同じくする者らを率いて作ったのが我が社である。会長は互いに交代したが、今でも奴等は我が社を吸収する機会を伺っている。必ずや後継者問題を解決しなくてはならない」

 

根部商事の幹部らは元々は帝愛グループで働いていたエリートの集まりである。しかし、途中から社員の事をムシケラのように扱い始めたカズタカ会長(当時)のやり方に不満を抱く者が現れ始めた。その中には、カズタカ会長の実の弟であり、根部家に婿入りしていたカズヨシがいた。やがて帝愛グループは兄弟による路線対立に突入。カズヨシ派は経営陣から排除され、左遷。これに対して、根部和義を首班とし、根部商事が分離独立。初代社長に就任した根部和義の手腕により勢力を拡大し、両社の関係は完全に悪化。その後両社は互いにスパイを送り合い、人材の引き抜き合戦を展開。この動きは両社の会長が死去するまで続いたという。

 

「さて、皆の意見を聞きたい。率直な感想で構わん」

 

幹部らは互いに目を合わせる。会議室には社長の父親である晴義会長が幹部らを睨みつけ、社長であるマサヨシの意向に従うなと言わんばかりの態度だ。幹部らがその眼光に萎縮する中、1人の男性幹部が口を開いた。

 

「根部真義か。真の義、あるいは義に真っ直ぐとも捉えられる良き諱であると存じます!! 某は真義殿が次期社長となることに賛成致しまする!!」

 

殆どの幹部が萎縮する中、会社幹部の1人にしてマサヨシ派の熊谷直信が真っ先に賛意を述べる。彼は外様出身であり、過去には競合他社であるミカドアイHDの幹部であったが、先代の会長カズタカ氏に反発し、ミカドアイHDを出奔。ミカドアイHDは彼を始末しようとしたものの、当時台湾支社長であったマサヨシに拾われ、台北にて匿われた経緯があった。その後マサヨシは直信を介してミカドアイHD会長カズタカ氏に不満を抱く会社幹部の引き抜きを実施し、両社の関係は大いに悪化するのだが。

 

「熊谷殿が賛成するのであれば、某も賛成致す。ミカドアイHDにて失策を犯し、地下帝国送りの上で始末される寸前であった某を拾い上げてくれたは社長にござる。社長の方針に着いていきまする!!」

 

続けて賛同したのは、同じくミカドアイHDからの脱走者である己斐之直。彼は元々白服で、借金の取り立てを担当していたのだが、人間としての情が出てしまい債務者を取り逃す失態を犯し、カズタカ会長から焼き土下座か地下帝国送りを命じられていたのである。そんな折、先に根部商事に匿われていた熊谷からの誘いを受け、台湾へ脱出。追手の白服に捕まる前に根部商事台湾支店への逃亡に成功し、今に至る。異世界転移後、マサヨシが社長に就任したことに伴い、マサヨシ派の1人として幹部に名を連ねている。

 

「香川殿は如何にお考えか? 香川景光殿の意見も聞きたい」

 

己斐は隣に座る香川景光に声をかける。彼も同じく元々はミカドアイHDの白服。失態こそは犯していないが、気難しいカズタカ氏からは明確な理由なく嫌われており、能力はあれど出世出来ていなかった。彼の場合は自主退職を経て根部商事に再就職している。

 

「僭越ながら申し上げます。アキコ殿の子を次期社長にするべきです。某はアキコ殿と会うのは初めてにございますが、ミカドアイHDの白服として修羅場を潜り抜けてきた勘がそう告げています。彼女は侮れません。確か、能登川という白服と交渉し、シン殿の命を救ったとか。あの能登川を言い負かすのですから、文句はないでしょう」

「そうかそうか。さて、熊谷、己斐、香川は自らの意見を述べたぞ? 皆も他人の目を気にすることなく、思った事を述べて頂きたい」

 

熊谷、己斐、香川のマサヨシ派の幹部らによる賛成表明。これは事前にマサヨシと志道の間で仕組んだことであった。反マサヨシ派であり、未だに権力を握る会長の晴義の前では誰も思ったことは言えない。そして言えば粛清されるのではないか。そう考えて議論にならない。それは容易に想像出来た。そこで、マサヨシ派の幹部に口火を切らせることで、他の者も発言しやすい環境を整え、誰が味方で誰が敵かを分かりやすくすることにしたのである。

 

「・・・・・・やはりですな、某も賛成致しまする」

「「!?」」

 

これまで口を固く閉じてきた古株の幹部の1人が賛成表明をする。これには会長ら2名の幹部が驚きの表情を浮かべる。

 

「アキコ殿の父親は現会長の弟君。血筋、家柄、そして今亡き前会長にして創業者カズヨシ様の薫陶を受けた人物。反対する理由は一切ござらん」

 

創業当初の黎明期から会社を支えてきた重鎮の1人、渡辺勝(まさる)が賛成表明。これには会長のマサヨシは苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。

 

「某も渡辺殿と同じく賛成致しまする。文武両道のアキコ殿が会社経営に関わらぬのは少々残念にござるが、マサヨシ様の御立場に配慮された良き判断でもあると存じまする」

 

同じく黎明期から会社を支えてきた重鎮、桂澄広も賛成した。彼等は今亡き前会長とは旧知の仲であり、同時に幼少期のアキコやシンの事を軽井沢の別荘で見てきた側近の1人でもあった。

 

「うむうむ、渡辺に桂も賛成か。井上殿はどう考える?」

 

続けてマサヨシは根部商事創業時に資金面で多大な功績を上げた井上党の惣領、井上兼元に賛否を問う。

 

「ははっ。我等井上党を拾い上げ、その能力を引き立てて頂いたは根部家にござる。故に反対する理由などあらぬでしょう。我等井上党は社長の方針に従いまする」

 

井上党は社内においては中立派であり、良くも悪くも独立志向が強い集団。故にどちらにつくかは読めないところがあった。されど、金の事には誰よりも敏感な井上兼元はマサヨシ派につくほうが金になると判断し、賛成を表明した。

 

「私は一門衆として、そして根部商事の未来と社員の生活を守る為、社長の方針に全面的に賛成致します」

「元綱?!」

 

御三家の一つにして、マサヨシの叔父に当たる根部元綱も賛意を述べる。実の弟にして、自身を支えてきた存在に離反された晴義は声を荒げる。

 

「元綱よ!! 何故に無駄飯食らいの一人娘の子を社長に据えたいと望むのだ!! 答えよ!!」

「逆に晴義兄様は何故に反対なされるので?」

「元綱よ、確かにアキコは文武両道、聡明かもしれん。だが、奴の親はムシケラの研究に心を奪われ、金を無駄に浪費するボンクラ弟の娘ぞ!! その浪費癖の娘の子だ!! 隔世遺伝するやもしれん!!」

「ムシケラの研究が浪費ですか・・・・今や朝昭兄様が所長を務める、カブトムシクワガタムシ研究所は環境省や文科省が多額の資金で活動を支援する重要な機関になり、我が社の名声を高める等大きく貢献しているのに、ですか?」

 

元々はカブトムシやクワガタムシが好きな次男坊の為に作られた研究所で様々な遺伝子解析や累代飼育等を行っていたアキコの父根部朝昭。晴義はそれを無駄金と批判していたが、異世界転移後情勢は一変する。地球世界と切り離されたことで、外国産のカブトムシやクワガタムシの輸入が原則不可能となり、日本国内で飼育されている個体のみで回すしかなくなったのである。カブトムシクワガタムシ研究所では、異世界転移前に各国政府の特別な許可を得て様々な希少種の採取及び輸入を実施。遺伝子解析は勿論、累代飼育に向けた研究も行っていた。その中には数十万から数百万円の値段がつくウエストウッドオオシカクワガタや、異世界転移直前に運よく仕入れることを許されたマルガタクワガタ属のペア等、学術的に大きな価値がある品種が揃っていた。更に異世界にも様々なカブトムシやクワガタムシが生息しており、それらの研究も必要であり、環境省や文科省が予算を付けて支援を開始。これまでは企業の協賛金や個人の寄付金、親会社である根部商事からの支援で運営されていた研究所は莫大な国家予算が投じられる事実上の国家機関へ変貌した。更に所長の娘が外交官であり、外交交渉の際に現地のカブトムシやクワガタムシに対する研究の許可をお願いしたりも出来る。そして日本昆虫学会からも関連団体の指定を受け、次の学会会長にはアキコの父、根部朝昭が就任する予定である。

 

「晴義兄様は、自身の嫡流に子が産まれなかった悔しさを不当にぶつけているだけ。そんな生産性皆無な動きは止めて頂ければと思いますが?」

「生産性皆無だと?! 弟だからと幹部にしてやった恩義を忘れやがって!!」

「それに、アキコ殿は前会長の薫陶を受け、更には愛する夫と生涯添い遂げる事を固く誓い、ずっと夜の時間を我慢していたとも聞いております。当に義の一字に相応しい血筋であるかと思いますが? 夢野殿もそうであろうと思いませんか?」

「元綱殿、いきなり私に話題を振らないで頂きたい!」

 

いきなり話題を振られるは、同じく御三家の一つにして、従弟の夢野望。アイの兄に当たる人物である。アキコより先に男児をもうけているが、アキコに懐いている妹に昨夜ボコボコにされてしまい、顔に痣が出ている。

 

「わ、私は社長の方針に従うまでぞ。それに、男児はいるが、あくまで夢野家の跡取りぞ!! 愛、これで大丈夫か?」

「・・・もしお姉様の地位を脅かす発言をもう1回したら、消すわよ?」

「ヒィッ!!」

 

妹に勝てない情けない兄が会議室に晒される。その後次々と会社幹部達が賛意を述べる中、会長の他に1人だけ反対意見を述べた者がいた。

 

「私は反対よ!! 絶対に受け入れられないわ!!」

「ほう、広子よ。何故にそなたは反対なのだ?」

「なあ、広子。父の顔を潰さないでくれ、頼む」

 

頑強に反対するのは、幹部の1人坂秀広の娘にしてマサヨシの妻、広子である。彼女は是が非でも自らの子を後継者にしたいと考えており、あらゆる治療法を探してはマサヨシに勧めていたのである。無論、マサヨシは無精子病なので意味ないのであるが。

 

「貴方はまだ27。諦めるにはまだ早すぎるわ!! 現代医学ではどうにもならないかもしれないけど、この世界には魔法がある!! 魔法の力で我が子を誕生させられるかもしれないのに、何で諦めるのよ!! それと秀広お父様は自分の事ばかり!! 私はどうでも良いって言うの!?」

「広子・・・・」

 

坂秀広は強情な娘に何も言えず、頭を抱える。

 

「その通りだ。マサヨシよ、愛する妻の悲しみを理解してやることすら出来ないのか? それとも、金食い虫の娘に玉を握られているのか?」

「晴義兄様、社長はどこぞの政党の代表じゃないんですから、そんなことがある訳ないでしょう。無精子病である以上、どんな性行為にも意味はないのですから」

「元綱には聞いておらんわ!!」

「それに第一昭子さん? 貴方の子は産まれながらにして穢れているのよ!!」

「あんたあ!! お姉様の子に何という侮辱を!!」

 

本人よりも先にアイが怒り出す。周囲にいた秘書官らが取り押さえ、アイを宥める。幸いにも赤ん坊はスヤスヤ眠っており、秘書官らは安堵する。

 

「アイ、申し訳ないけど堪えて頂戴」

「・・・・・・分かりました」

「さて、奥方様。私とシンの子が穢れていると仰せですが、理由をお聞かせ願えますか?」

 

今まで終始無言であったアキコが遂に口を開く。激情型の広子とは異なり、極めて知的かつ冷静なアキコの喋り方に幹部らは彼女の素質を認めざるを得ない。

 

(これが前会長が社長にしたかった者・・・)

(溢れ出る知的かつ冷静な振る舞い。成る程な・・・)

 

「まず昭子、貴方の一族は根部家の一員でありながら、会社経営には1ミリも関わって来なかった。むしろムシケラの研究に精を出し、わが社に無駄金を使わせている。謂わば穀潰しだ!!」

「穀潰しですか。確かに私の父、根部朝昭は会社経営には一切関与せず、カブトムシやクワガタムシの研究に尽力されております。しかし、それを望んだのは本人だけではありません。前会長、根部カズヨシ様の希望でもあったのです」

「だからどうした!! 会社の為に働かず、むしろ浪費したことを認めただけじゃないか!! この穀潰しのアバズレ女め!!」

「自己紹介はよした方が身の為になりますよ? 私の従妹が今にも大噴火しそうですが」

「・・・・・・・・殺すわよ? このクソババア・・・」

「まあ、それはさておき。私のお父様を変に傍に置いておくと、何かの拍子で社長に担ぎ上げられたらお互いに困る。前会長はそう考えた結果、お父様は趣味の虫研究に没頭させた。謂わば保険のようなもの。それに、研究の傍ら現地の人々と当然関係が出来る訳ですから、そこから商談に繋がることもある訳で。奥方様のように出来もしない理想論に縋るよりは遥かに有意義なのでは?」

「お黙り!! この俗物めが!! 前会長に気に入られていたからと良い気になりやがって!! 第一、貴方の夫の血筋と経歴に文句しかない!!」

「シンの両親がミカドアイHDから多額の借金をし、地下帝国送りになったことでしょうか?」

「そうだ!! そもそもとして、当社の社長に就く人物は皆血筋や経歴を重視する!! 先代の社長にして現会長の妻は華族、前会長は旧宮家と、高貴な血筋と経歴の者と結ばれてきた!! 我が坂家もお母様は華族の末裔。それに対して貴方はどうかしら? 平民階級かつ競合他社に借金をした者の子よ? そんな穢れた血筋を引いた子が社長になるなんて、認められる訳ない!!」

「平民階級だから駄目、上流階級だから良いというのは過去の話。それに、私とシンの婚儀は前会長が御存命の時にお認め頂いております。私はシンを拾った以上、最後まで添い遂げる覚悟と決意がある。例え茨の道であったとしても」

「??!」

 

え?そうなの?という表情のシン。シンは知らなかったが、アキコは彼を救い上げたその日から彼を最後まで守り抜くと決めていた。彼女の思いを直に聞き入った前会長はアキコに対して、婚儀を認め、最後まで添い遂げるように厳命。前会長は既に亡くなってしまったが、彼女は今でも約束を律儀に守り続けている。

 

「さて、そろそろ表決を取るとしよう。私の方針に賛同する者の起立を求める!!」

 

マサヨシの方針に賛同する者が一斉に起立する。晴義と広子を除く会社幹部全員が起立し、根部商事の方針が決まる。同時に、必要な支援も行うことも決まり、こうしてアキコとシンの子は後継者に決定した。

 

「社長、僭越ながらもう一つ議題を提出させて頂きたいと存じます」

「元綱叔父上、いかがした?」

「ははっ。今回の緊急幹部会で、晴義兄様と広子様は社長であるマサヨシ社長の指示を聞かず、ミカドアイHDに内通する可能性があると存じます。故に、争いの火種は消しておくべきかと」

「何!?」

「晴義兄様、これも貴方が撒いた種です。私が綺麗に刈り取って差し上げます。たった今、現会長根部晴義並びに幹部根部広子を解任し、新たな会長には私根部元綱を、外部取締役としてイギリス領カルトアルパス総督、ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンを起用する人事案をここに緊急上程させて頂きます!!」

 

根部元綱はここで兄に刃を向けた。社長であり、甥のマサヨシを支える為、痛みを伴う改革を断行したのである。無論、事前にマサヨシや志道や幹部とは話し合いをしてある。

 

「ば、馬鹿な!! 我々以外全員の名前があるではないか!!」

「それだけ嫌われている、ということでしょう」

「待ちなさい!! ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトンはミカドアイHDの人間でしょ!!」

「正確には、元ミカドアイHDの人間、ですがね。既にその地位は妹のアオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンに継承されており、ハルト外部取締役はフリーになっています。それに、ハルト外部取締役はアキコ殿とは大学時代の学友。此方は、ハルト外部取締役直筆の貴方方2人の解任を求める文書。身柄はカルトアルパスにて預かるとも提案がございます」

「こ、こんなのクーデターではないか!! それも外国勢力を利用したもの!! これを認めてしまえば、我が社はハミルトン公爵家の言いなりになるではないか!!」

「そういう晴義兄様はミカドアイHDの系列企業、帝愛海運社長の兵東和哉氏と繋がりがあるではないですか。更につい昨日横浜港に入港したデスポワール号から和哉氏と共に仲睦まじく下船する様子が此方に」

 

幹部全員に密かに隠し撮りされていた写真がばら撒かれる。晴義は父である和義に愛されていないと考えており、同じく父カズタカに愛されていないと考えていた和哉と意気投合。元々賭け事に興味があった晴義はデスポワール号で密かに行われているクズ共による足の引っ張り合いの虜に。やがて会社経営を息子であるマサヨシに押し付けるようになり、晴義は社長から会長に。やることがなくなった彼はより一層デスポワール号に出入りするようになっていた。怪しんだ元綱は配下の者を送り、情報収集に勤めていたのである。

 

「まさかないと思いますが、晴義兄様は和哉氏から何か甘い毒饅頭を食わされていませんか?」

「な、何をいうか!! 私は根部商事の会長だ!! 他社に会社を売るわけなかろうが!!」

「ええ、ですが晴義兄様が毒饅頭を食わされていない証拠はありません。されど、晴義兄様が経営に口を出せる立場にいる限りはミカドアイHDに付け込まれる隙が出来てしまいます。どうでしょうか? 晴義兄様、広子殿は実権のない名誉職に退き、軽井沢で隠居。軽井沢で悠々自適な生活を保証する代わりに会社の実権は放棄して頂くのです」

「ぐぬぬ・・・・」

 

味方はいない。それを悟った晴義は已む無く元綱の要求を受け入れた。同時に嫡流が晴義の弟に移ることも確定した。

 

「では、これにてお開きとなりまする。皆様、本日はお集まり頂きありがとうございました」

 

志道は緊急幹部会の終了を告げる。会長であった晴義は元綱が手配した者らが周囲を固め、そのまま軽井沢へと連行していく。同じく広子も女性職員により連行される。

 

「絶対に私は認めないんだからね!! どんな手を使ってでも貴方の子を産んでみせるわ!!」

 

断末魔をあげる広子。しかしマサヨシは彼女に目を向けることなく、アキコやアイに目線を向けている。

 

「社長、アキコ殿、シン殿、娘が申し訳ないことを・・・」

「坂、そなたが裏切る事はないことは承知しておる。だが、そなたの娘はそうではない。いざとなれば裏切る覚悟であろう」

「大変情けないことに・・・」

「何かあれば直ぐに知らせるのだぞ」

「ははっ」

「さてアキコ。君は近々パラディオンに向かうのであったな」

「ええ。イヴやアウラムの要請で初代駐パラディオン王国日本大使になることになったわ」

「先に現地入りしているわが社の者らが大使館施設を完成させた。必要な物資は揃い、ニュージーランドから随時送れるようにもしてある。赤子と共に向かうと良い」

「社長、アキラを名乗る人物が来ておりますが?」

「そうか。アキコ、どうやらお迎えのようだ。行ってきてくれ」

「そうね。それじゃあ、あとは頼むわよ」

 

アキコ、シン、アイはそのまま退社する。

 

「されど社長、真義様は次期社長。直接指導なさらなくて良いので?」

「直信の言うことは分かる。されど、私は社長。忙しすぎて指導する暇はない。一方アキコには従妹のアイがいる。彼女はアキコに懐いており、2人で分担出来よう」

「成る程。して、前会長と奥方様はどうされますか?」

「何れは始末するしかなくなるだろう。だが、今はまだ早い。何もしなくても勝手に自滅するだろう」

 

 

横須賀基地へと向かう車の車内

 

「で、話し合いは終わったンか?」

「ええ。まあ、色々ドロドロしてて、社長なんかやりたくないと再度思わされたわ」

「何だかんだでアキコは義理堅いからな。絶望の縁にいたシンを拾い上げ、ヒロシを何だかんだで甘やかすし、アイには結局頼ってるしな」

 

横須賀基地へと向かう車を運転するアキラ。彼等は数日後に横須賀基地から護衛艦「いずも」にて、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランドを経由し、英連邦パラディオン王国へ向かうことになっている。

 

「まあ、会社のことはマサヨシに任せて、私は私のやりたい道を往くだけよ」

「ははは、アキコらしいな」

 

車は順調に横須賀市内に向けて走っていく。

 

「しかし、イギリスは最新鋭の空中戦艦をパラディオン島に配備するそうね」

「アキコは何が狙いだと思う?」

「おいおいアキラ、アキコは文官。それも外務省の外交官だぞ? 軍事的な話をしても分からないだろう」

 

助手席に座るシンは呆れながらアキコに目線を送る。

 

「・・・・・恐らくはクルセイリースとの戦争でしょうね」

「やはりそう思うよな」

「パラディオン防衛の為じゃねえのか?」

「相変わらずシンは真面目よね。額面通りに受け取ってる」

 

やや呆れ顔のアキコ。シンは何が何だか分からず、はてなという表情だ。

 

「クルセイリース大聖王国はクルセイリース島を中心に、周辺の国々を武力で制圧。富の全てをクルセイリース島に吸い上げる典型的な植民地経営を行っているわ。つまり、虐げる者と虐げられる者の関係にある。シン、それは知ってるわね?」

「まあ、うん」

「その結果、属領から搾り取れる資源は取り尽くしてしまい、クルセイリースは財政的にかなり危機的状況。属領は不満が溜まり、少しでも何かがあれば一瞬で暴発するだろう、と」

「そうなのか? 我が国はクルセイリースと関わりがないはず・・・まさか、イギリスが!?」

「ええ。イギリスはクルセイリースの属領に諜報員を派遣。ミカドアイHDも関わっているそうよ」

 

パラディオン島を解放したイギリスは次の仮想敵をクルセイリース大聖王国に定めていた。更なる海洋進出と7つの秘宝を手中に収める為、イギリスはクルセイリース島を必要としていた。更にクルセイリース大聖王国は飛行艦を運用しており、古の魔法帝国と何らかの繋がり、または解析している可能性があった。将来的の古の魔法帝国との戦争の為にそれらに繋がる技術を手に入れなくてはならない。飛行戦艦の配備は、クルセイリース大聖王国が動き次第直ぐに動けるようにする為、そして

 

「自慢の飛行戦艦の性能を試したい、ということか?」

「正解。シン君、よく出来ました」

「合法的に飛行戦艦の性能を試せるとか、クルセイリースはとんでもない国を敵に回したンだよなあ」

「ちなみにクルセイリースはどこに攻め込んでイギリスと戦争になるんだ?」

「・・・・・・・一番楽なのはパラディオン島。だけど、そうはならないでしょうね」

「パラディオン島は何だかンだで軍備増強中だし、手を出すにはリスクがあるからな」

「じゃあ、どこに?」

 

アキコとアキラの顔を交互に見つめるシン。

 

「「・・・・・・・侵攻先は・・・・・」」

 

 

ソロモン諸島テモツ州のとある漁港

 

「ふう・・・・今日も豊漁だな豊漁!!」

「いいサイズの鮪だあ!! 最近は異世界でも和食が人気だし、高く売れるぞお!!」

 

後発開発途上国であるソロモン諸島。異世界転移後も経済的には貧しい国ではあったが、周辺海域は海産物に恵まれた海域である。日本は同国の最大の援助国であり、同時に海産物の大消費国である。異世界転移後、ソロモン諸島は異世界産の鮪に恵まれた海域であり、日本は同国の水産業を支援。その結果、ソロモン諸島は日本向けの海産物の輸出で急速に経済成長を遂げた。テモツ州には日本やオーストラリアの支援により近代的な漁港が整備され、同国の更なる経済成長を期待させていたのである。

 

「しかし、最近近くのセントヘレナ島ではイギリス軍が慌ただしく動いてるらしいな」

「異世界転移により大西洋から移ってきた島か・・・・ニュージーランドの更に先にはパラディオン島、そして更に先にはクルセイリースとか言う野蛮人の国があるらしいぜ?」

「まさか攻め込んでくるとかはないよな? 奴等は空飛ぶ戦艦を運用してるって聞いたぜ?」

 

漁港で働くソロモン諸島の国民達は一番近くにあるイギリス軍の拠点が慌ただしく動いてることに一抹の不安を覚える。文明圏国からは遠く離れ、貧しいながらも戦争とは無縁の平和な国という立ち位置にある英連邦王国の一員ソロモン諸島。これまで日英両国の肩を持つことで、兵も金も出さずに勝ち馬に乗ってきた。しかし、ソロモン諸島には軍隊はない。近隣のツバルも同様である。もし敵性国家が攻め込んでくればひとたまりもないだろう。

 

「何もないと良いんだがな」

 

人々は何もないことを願いながら水平線の向こうを見つめるのであった。

 

 

イギリス領ニュー・ホンコン

ニュー・ホンコン島ニュー・ホンコ総督府

 

「・・・・・やはりそこに来るか」

 

クルセイリース大聖王国各地の属領に潜り込ませたスパイや現地協力者からの報告書に目を通すなりそう呟いたアオイ。

 

「敵は飛行艦の航続距離延長と補給拠点の整備、新型艦の建造と乗員訓練に1年を要した、ということか」

 

そこにはこれまで各国政府が把握していたクルセイリース大聖王国に関する情報を塗り替える資料が存在していた。

 

「パラディオン島を失陥したことで、パラディオン島には手を出さず、代わりに防備の薄い旧太平洋島嶼国のソロモン諸島とツバルを狙う作戦か・・・・」

 

クルセイリース大聖王国本土の現地協力者からの情報に頭を悩ませるアオイ総督。

 

「近くにある我が国の拠点はセントヘレナ、バミューダ、ヴァージン、ピトケアン、タークス・カイコス、ケイマンだが、何れも小規模の基地があるかないかだ。大規模な部隊展開は不可能。しかし、この一帯を取られれば、我が国とカナダはオーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニアとの連絡が遮断されてしまう」

 

アオイ総督はその後情報を整理し、報告書を作成。この報告書を受け取ったイギリス政府は、パラディオン島へ向けて航行中の飛行戦艦プリンス・オブ・フィリップを転進。パラディオン島ではなく、セントヘレナ島へ移動させ、有事に備えることになるのである。

 

(続く)

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