クルセイリース建国神話第2章1項
かつて世界に大きな災厄が訪れた。
突如として現れし8つの首と、8つの尾を持つ山よりも巨大な邪竜は、人々を襲い、多くの町を飲み込み、人類を恐怖のどん底に陥る。
人々が絶望したとき、北西より神の化身が現れ、十時の大地にこれを封印す。神の化身、多くの英知と力を我らに授けん。
「我らは選ばれし民、クルセイリース」
この大いなる力は人類の為に使用し、いつの日か復活する邪竜討伐のため、さらなる力を手に入れなければならない。
「その力も間もなく手に入る・・・クルセイリースを踏み台にし、日本とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国がそれを呼び覚ますことが出来る・・・・」
「イブリース大元帥、明日にもテンジー城にて幹部会だそうです」
「そう。あとはミネートが私達の言いなりに動くかどうか・・・ね」
ニュージーランドから南東方向約1300kmの位置に、文明圏外国家であるシルカーク王国がある。そこからさらに南東1700kmの位置に、縦500km、横500kmの十字型の土地を持つ国があった。名をクルセイリース大聖王国という。
クルセイリース大聖王国
聖都セイダー
セイダーのメインストリート、軍王門の周辺は活気に溢れていた。
「へいラッシャイラッシャイ!! セイダーに来たらこれを飲まなきゃ始まらねぇ。ほら、そこの兄ちゃん、田舎から出てきたんだろ?これを飲んでみな!!」
上京をしてきたであろうまだ童顔の残る少年に、緑色の液体を渡す。少年はそれを飲んで渋い顔になった。
「う・・・美味い!!」
「そうだろそうだろ・・・・・お?ほれ、見てみな。飛空艦隊が飛んでるぞ!! 田舎じゃあれを中々見ないだろ??」
少年の反応に気をよくした店主は笑顔で空を指さした。
「わあ!!!」
大小様々な船が5隻空を飛ぶ。日本人が見たならば、船にヘリコプターの回転翼のようなものが取り付けられて空を飛んでいるように、イギリス人から見れば紅茶が足りない愚か者が苦し紛れに回転翼で無理やり浮かせているように見える。古きロールプレイングゲームの最後の移動手段、飛空艇のようにも見えるだろう。
「おじさん、僕は軍の士官学校に入るんだ!! 僕もいつか、あそこにたどり着いて見せる!!」
周辺に属国を持ち、力による支配を可能とした超兵器群、飛空艦隊はエリートの象徴であり、多くの士官候補生の憧れだった。昨年にイギリスを中心とする多国籍軍とミカドアイHDにより、パラディオン島を喪っているが、それでも軍全体で見れば1%の被害に過ぎない。更に戦死または捕虜となった兵士らはクルセイリース軍の中でも問題児の吹き溜まり。むしろ軍の上層部は邪魔者が処分出来て喜ぶ者もいたぐらいである。
クルセイリース大聖王国
聖都セイダー テンジー城
クルセイリース大聖王国、聖都テンジー城において、国の幹部達が会議を行っていた。王座には聖王ジュウジが鎮座し、
軍王ミネート
外務郷サトシル
聖王女ニース
を中心に国の幹部達が並ぶ。内政担当郷が会議開始を宣言して話し始めた。
「お手元に配布しているのが、今年の属領からの収入と支出になります。すでに属領に求める税金は限界の域に達しており、反発も相当に強まっています。これ以上の増税は無理かと・・・・」
重苦しい雰囲気が漂う。自国の民の税は上げられず、属国からは限界まで搾り取っている。無い袖は振れなかった。
「更に内務省からも申し上げます。ここ1年の間に第三国の者と思われる不審人物が多数流入して来ております。その者らはどのようなルートから流入して来たのかが全く不明であり、捕らえようとするも必ず逃げ切られてしまいます」
パラディオン島を解放したイギリスはクルセイリース大聖王国との戦争に向けて準備を開始していた。その前段階として諜報員を属領へ派遣。属領内で反クルセイリースの機運を高めさせ、武装蜂起を起こさせるべく暗躍していたのである。またそれとは別にクルセイリース大聖王国本土にも諜報員を派遣しており、既にMI6の出張所が密かにセイダーに設置されているのを彼等は知る由もない。ちなみに、諜報員はイギリス海軍またはミカドアイHDの原子力潜水艦で派遣されており、闇夜に乗じて上陸または回収している。船は空に浮かべる物という認識のクルセイリース大聖王国にとって水上艦は前時代的遺物であり、海深くにに潜る潜水艦という発想は1ミリもなかったのである。むしろ考えたら馬鹿にされるだろう。
「内務卿、属領で反乱の兆しがあるということか?」
軍王ミネートが話し始める。
「まだ反乱は起きておりませんが、何れはそうなろうかと。既に属領や従属国の民の暮らしは窮乏しており、何か手を打たなければ外部勢力が焚き付け、国そのものが瓦解してしまうかと・・・」
「しかし、支出を押さえる訳にはいかない。民は富み続ける事によって良く働き、富む事に慣れてしまっている。成長が止まれば必ず統治方法が問題となるだろう」
「はい。故に内務省としては、国土の均衡ある発展を経産省と共に提案したいと存じます」
「その為には軍事予算を抑え、属領発展の為の投資に用いる必要があります。既に本土は経済的に成熟しており、発展の余地はなく、属領の発展以外に策はないかと。他にあるとすれば、聖王ジュウジ様を国家元首とする連合王国として、属領を独立させる等の痛みを伴う改革しかありません・・・・どちらにしても今のままでは・・・・」
内務省と経産省はこのままでは属領各地で反乱が頻発し、軍事警察予算が雪だるま式に膨れ上がると試算していた。そうなれば幾ら税金があっても足りない。それぐらいなら属領を手放し、国力に見合う規模に軍を縮小するべきである。そう考えていたのである。クルセイリース軍を統括するミネートも本音は彼等と同じだったのであるが・・・・
(やはり軍の縮小を提案してきたか。そりゃそうだろう。軍は予算ばかり馬鹿食いする割には何も生み出さない。謂わばお荷物なのだ。必要なものではあるが、今の我が国の国力を鑑みれば余剰過ぎる。だが、私は大元帥イブリース閣下のおかげで今がある。閣下の命に逆らうことは出来ぬ・・・・・)
「やはり東方国家を侵略し、新たな属領とするしかあるまい。聖王ジュウジ様、東方国家遠征の許可をいただきたい。これは、思いつきでは無く、イブリース大元帥らと共に、前々から考え抜いた結果です」
強硬派として知られる軍王ミネートの突然の派兵意見に、皆驚きを隠せない。
「お・・・・お待ち下さい!!」
穏健派たる聖王女ニースが慌てて止めに入る。
「今属領があるのは、飛空艦隊のおかげといっても過言ではありません。この飛空艦隊による圧倒的な空の強さがあってこそ、他国を圧倒出来ているのです。東方国家群までは飛空艦の航続距離が不足するはず。軍事的アドバンテージが無ければ、被害が大きすぎます。まして、飛空艇団抜きで一国を簡単に落とせる力があるとは到底思えません。戦争ではなく、他の方法で国が富む方法を模索するべきです!! それこそ、内務省や経産省の提言も検討するべきです!!」
一瞬の沈黙、軍王が言葉を発す。
「ほう・・・・さすがは王女様、軍について良く勉強しておられる。最後に報告しようと思って、資料をお持ちしていた所ですが、今お話しましょう。その飛空艦は、最近の技術改良によって、航続距離が300kmから1500kmへ改善されました。これで東方国家の一部が攻撃可能圏に入ります。また、高速海流が原因で、ほぼ未開拓だった北西新世界の調査、討伐も実施出来るでしょう」
場がざわつく。軍王は続けた。
「また、今までは他国と大差無かった騎士団も魔道具の発展によって大幅に強化されます。 研究中だった振動波増幅装置が完成いたしました。これで、騎士の魔法も大幅に威力が上がります。つまり、我が国は他国を圧倒出来る軍事力、神にも等しい軍事力を手に入れたのです!!!」
国の財政が厳しく、このままでは国民の不満が出始める頃合いに、軍事力の技術革新による大幅増強。国家を運営する物達にとって、あまりにも甘い誘惑だった。
聖王ジュウジが手を上げる。
「ミネート軍王の国を想う気持ちは嬉しく思う。しかし、他国にも民がおり、それぞれが生活を営んでいる。東方国家群の侵略を前に、まずは交易で栄える事が出来ぬか可能性を探るべきだ」
聖王ジュウジは強硬派が多くを占めるクルセイリース大聖王国において、相当な穏健派だった。彼は続ける。
「軍事力を振りかざすのは最後の手段とすべきであろう。ミネート軍王、北西世界の調査も慎重にするべきだ。確か、北西世界には、単独国家のみではなく、文明圏と呼ばれる高度文明の共同体があるというではないか・・・・・」
ニュージーランド南東1300kmに位置するシルカーク王国、同国周辺から南東方向に高速海流が流れ、クルセイリース大聖王国の属領である島国、タルクリスへ時折漂流物や、漂流者がいた。ちなみに英連邦パラディオン王国はニュージーランドから南東1500キロに位置しているが、シルカーク王国とは若干方角がずれており、ややクルセイリース大聖王国に近い場所にある。
「ジュウジ聖王様、それは思慮が過ぎます。3年前の漂流軍艦拿捕で、北西世界の文明程度はたかが知れています。彼等が列強国と恐れるパーパルディア皇国でさえ、帆船の魔導戦列艦程度のレベルです。 空の戦力も改良型ワイバーンということではありませんか。我が飛空艦隊をもってすれば、あっさりと勝利を治める事が出来るでしょう」
既にそのパーパルディア皇国は日英同盟によって簡単に蹴散らされ、NATO式に再編された上で日英同盟の一部に組み込まれている。無論彼等はそんなことを知る由もない。
「しかし、北西方向は規模の大きな国家も多い。まずは調査だ」
「解りました・・・・聖王様はおやさしい」
クルセイリース聖王国は、航続距離の伸びた飛空艇で、属領タルクリスを経由し、北西方向への調査団派遣を決定した。その派遣先はシルカーク王国、ニュージーランド、そしてソロモン諸島である。
文明圏外国家 シルカーク王国
在シルカーク王国日本大使館大使執務室
晴れ渡った空、少し暖かく、南国の心地良い風が吹く。東へ向いた窓の外は、遙か先まで続く広大な海が見えた。小鳥はさえずり、人々はのんびりと行き交う。
「ふう・・・・・良いところに来たな」
日本国外務省の朝田は、連日の激務続きだった事もあり、本人の希望もあって、外務省で最も暇だと言われるシルカーク王国に着任していた。周辺に敵対的国家は無く、南東方向約700kmの位置に交流の無い島はあるが、高速海流によって、王国から行くことは出来ても来ることは出来ない。もっとも、日英両国の船であれば行き来は可能であった。人工衛星により、空を飛ぶ船のようなものを確認していたが、行動半径が150km程度しか無いようであり、シルカーク王国に来ることは出来ず、「安全」という判断が日本政府によりされていた。現在外務省ではその国と国交を結ぶための事前調査を行っていたが、完全に交流が遮断されている国であり、独立した文明を築いており、更にイギリスとは違い、諜報員を派遣することが出来る能力を有していないことから、事前調査は難航している。もっとも現在の防衛相の下で「セクシー・コマンド」と称した諜報員育成計画が立案されており、現在選抜された隊員がイギリス領ニュー・ホンコンにて研修中である。この世界の敵対的国家の多さ、そして今までに被った痛手から、アプローチの方法については省内で意見が分かれていた。
朝田の仕事内容に、同国家の調査も含まれていたが、一切手がかりすら無い。
「ええと、昼からは、王国の外務郷との会談か。ヘリポートだけだと不便だから、飛行場の設置許可がほしいものだな」
朝田はゆっくりと仕事の準備を進める。数時間後、大使館前に数台の馬車が横付けされ、中からきらびやかな服を着た者が大使館に向かう。その人数は一人では無く、行列で向かっていた。
「すごいですね、日本の影響力は」
同じ異動でやってきた事務員が、大使館に向かってくる外務郷を見て感嘆する。
「彼等はこの国の貴族。まあ日本で言えば、外務大臣、副大臣、次官が部下を引き連れて来るようなものですからね。普通は我らが行くものですが・・・・・彼等は最大限の礼を示しているのでしょう。さあ、大会議室に向かいましょう」
朝田と事務員は、会議室に向かう。
大会議室
「カルク外務卿以下一行が入られます」
誘導役の事務員の手により会議室のドアが開く。
「カルク外務郷、わざわざ大使館までご足労いただき、ありがとうございます」
朝田と事務員は席を立ち、一礼した。
「とんでもございません。我らのためにこのような場を設けていただいて、真にありがとうございます」
挨拶が終わり、会議が始まった。シルカーク王国側は平身低頭で、会議は進む。ただし、飛行場建設のみがシルカーク王国の国内法の問題で先送りとなった。シルカーク王国側からは、日本の機嫌を損ねると、とんでもないことになるという、恐怖と畏敬の念が伝わってきた。恐らくはこの後イギリスとの会談が予定されているのであろう。イギリスの機嫌を損ねた場合の根回しも兼ねていると推測された。会議も終盤にさしかかろうとしたときだ。
「ん? あれは何ですかな??」
カルク外務郷が窓から外を見る。船が3隻空に浮かんでいた。上部には各2本の軸が伸び、上で竹とんぼのプロペラのようなものが回転している。
「朝田様、あれは日本のヘリコプターという乗り物ですかな?」
大使館のある王都タカクで外国の飛行許可は出していないはず。しかし、この世界で回転翼機を運用しているのは日本国と英連邦王国、そして両国から技術供与を受けた一部の国だけだった。カルク外務郷は、日本の機嫌を損ねる訳にもいかず、事実確認しない訳にもいかないので、とりあえず朝田に尋ねた。朝田は双眼鏡を取り出し、それを見た。
「なんとファンタジーな・・・・」
「朝田様、首都上空は他国の飛行禁止エリアでございます。このまま進むと王都上空に到達しますので、何かの間違いであれば取り急ぎ連絡していただき、転進をお願いしたいのですが」
「あ、いえ、日本国はあのような機体を持っていません。無論、同盟国である英連邦王国もです」
「え・・・・・???」
「あれほどの大きさの船を、しかも回転翼で飛ばす技術を日本国も英連邦王国は持ち合わせていません。 ヘリコプターとして見るなら凄く大きい。空気力学以外の方法で飛んでいるとしか思えませんね」
朝田が双眼鏡を外し、カルクに振り返ると彼は顔面蒼白になっていた。
「ま・・・・まずい!! なんて事だ!!」
「どうされました?」
「回転翼飛行機は、日本や英連邦王国以外に持ち得ないというのが我が国の常識です。王軍の上から下までこの考え方であるため、迎撃に上がる竜騎士も、日本や英連邦王国の機には絶対に手を出さないでしょう。もしも敵対的だったら・・・・敵性国家のしかも軍艦を首都上空に入れてしまう事になります。いや、船団を組んでしかもいきなり王都上空へ来るような連中です。融和的な者達ではない可能性の方が高い。朝田様、今日のところは、大変失礼ですが、これにて引き上げます」
シルカーク王国外務郷は日本国との会談を終わらせ、王城へ急ぐ。
「忙しくなる予感しかしない」
朝田はぼやくのだった。
在シルカーク王国イギリス大使館
大使執務室
「シルカーク王国の者達が来ると聞いていたのだけど、中々来ないね」
在シルカーク王国イギリス大使のカーレッジ・フェリックス・アーサー・ハミルトンは車椅子に座りながら窓辺から外を見つめる。かの有名なカルトアルパス総督のハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトン、ニュー・ホンコン総督にして陸軍軍人のアオイ・バイオレット・アリス・ハミルトンの弟として産まれたカーレッジは不治の病に侵されていた。
後天性免疫不全症候群
所謂エイズである。ハルト、アオイの弟として産まれたカーレッジは健康体であったのだが、3歳の時に交通事故に遭い意識不明の重体に。多量の出血があり、直ちに輸血が行われたのだが、不幸な事に輸血されたパックの一つがエイズに汚染されていた。病院では汚染されていることに気付いていた為、使用せずに廃棄する予定であったのだが、多量の輸血を実施した際に誤って使用。結果、カーレッジはエイズに感染してしまったのである。この時ハルトとアオイは療養の為にバハマにある別荘にいたのだが、カーレッジ意識不明の報せを受けて緊急帰国している。
「ハルトお兄様、僕は頑張って生きてる、生きてるよ。沢山の薬と貴重な日本製の最新鋭の機械、そして莫大なお金を浪費しながら・・・・ね」
カーレッジは人当たりがよく、ハルトやアオイとは異なり穏やかでおとなしく、優しい性格をしていた。ハミルトン兄弟の中で一番イギリス人らしくないとも言われる程優しい性格だった。そんな彼を兄であるハルトは大切な弟を喪いたくないとの思いから誰よりも優しく接し、姉であるアオイは一見興味がなさそうな仕草を見せつつも、裏では彼の為に必要不可欠な物を送り届けていた。誠意は言葉のハルトと、誠意は行動のアオイ。どちらが欠けてもカーレッジは心が折れていたに違いない。今座っている車椅子はカーレッジの為にハルトが日本企業に莫大な札束を積んで作らせた特注品。薬物耐性型のエイズに感染してしまったカーレッジは病が進行し、自力で歩くことが出来なくなった。何度も彼はこう思った。
「何も与えず、生み出さず、ただ死ぬために生きている僕の人生に何の意味があるんだろう」
ハルトとアオイから無償の愛を受け取るカーレッジ。常に罪悪感に駆られてきた。自分がいなければ、2人はもっと活躍出来るはずなのに・・・・
「・・・・ハルトお兄様の推薦で外務・英連邦・開発省に入ったけど、基本的には暇な国しか任されない。否、任せられない。このシルカーク王国もそうだ」
深刻な人手不足により、小国に回せる人材がいない大英帝国。不治の病に侵されているカーレッジであっても、大英帝国の代理人として使わざるを得なかった。むしろ高圧的かつ好戦的な兄ハルトよりも、平和的かつ友好的な弟カーレッジの方が小国相手には適していた。英国でも暇なシルカーク王国大使という役職が。
「だけど、病は日々悪化している。頑張って24までは生きたけど、最近は身体が言うことを聞かない。痛みはないのに、身体に力が入らない。日本製の車椅子がないと何も出来ない。あまり僕には時間が残されていない・・・・」
エイズと診断され、恋愛を諦め、生涯独身を決めているカーレッジ。兄のハルトが婚約者と恋愛感情を深める中、それが許されない自分。姉のアオイが優秀な陸軍軍人として出世していく中、守られることしか出来ない自分。既に余命はあと1年と言われており、死をあとは待つだけの日々。
「しかし、シルカーク王国の方々は遅いな・・・・どうしたんだろうか?」
「カーレッジ大使、シルカーク王国の方々が参られました」
「おお、ようやくだね。直ぐにお通しして」
「ははっ」
会議室に移動し、イギリスとシルカーク王国の間で会談が開かれる。
「カーレッジ大使、お身体の具合が悪いのですか?」
「悪いなら悪いなりにどうにかするだけ。貴方方との会談を心待ちにしていたからね」
やがて会談が進む。イギリス側が提案する軍事同盟締結並びに飛行場建設。日本側の提案よりかなり踏み込んだ内容であり、英連邦王国軍兵士らに対する不逮捕特権も含まれていたのだが・・・
「もし、この提案を飲めば、英国は我が国に対して軍事支援を惜しまないと見て宜しいので?」
「はい。大英帝国は必ず同盟国を守ります」
「でしたら、是非とも受け入れさせて頂きたく存じます」
「ん?」
妙だな。カーレッジはそう感じた。日本側からの連絡では、シルカーク王国は飛行場建設で折り合いがつかなかったという。にも関わらず、日本側より条件の悪い英国の提案を丸呑みする。
(さてはあの飛行艦か・・・・・)
カーレッジはシルカーク王国に突如として飛来した飛行艦が原因だと見抜いた。恐らくシルカーク王国は、国籍不明の飛行艦を将来的な侵略と見抜いている。普通に戦えばシルカーク王国に勝ち目はない。故にイギリスを巻きこもうと。そしてイギリスを巻き込めば、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが絶対に付いてくる。イギリスが要請すれば、日本にも戦力を供出させることが出来る。
「我が大英帝国からの提案を受け入れて頂き、感謝致します。直ちに両国の実務者協議を開始致しましょう。ですが、飛行場の建設や大英帝国軍の駐留には最低でも1年はかかりましょう。それに軍事同盟に関する条約の批准が両国で成されなくてはなりません」
「承知しております。故に1日でも早く条約が批准出来るよう努力致します!! 我々は本日火急の用があります故、これで!!」
シルカーク王国の面々は足早に立ち去る。
「・・・・・・・条約の批准は侵攻には間に合わないだろうね。何か良い策はないだろうか・・・ここは、策謀と知略に長けたハルトお兄様、軍略と武勇に長けたアオイお姉様に頼る他ないか。うむ、それが良い・・・・はあ、はあ、はあ・・・」
時折意識が遠のきながらも、カーレッジはビデオ会議の準備を開始する。
ニュージーランド南東150キロ海上
「間もなく防空識別圏に接近中の国籍不明機が見える頃合いか」
ニュージーランド空軍ウッドボーン空軍基地に設置されたレーダーサイトが同国の防空識別圏に接近する国籍不明の巨大機を検知。ニュージーランドの領空に突っ込んでくる進路を取り続けたことから、ウッドボーン空軍基地司令官は同基地に駐留するオーストラリア空軍に対してスクランブルを要請。ニュージーランドへ派遣中のオーストラリア空軍所属のF35A戦闘機2機がスクランブル発進し、対応に当たっていたのである。
「な、なんだありゃあ!!」
あまりにも彼等からの常識から外れた飛行艦3隻が隊列を組んでニュージーランドの領空に接近していた。巨大な艦が巨大なプロペラを回しながら飛行している。最近イギリスが空中戦艦を導入し、オーストラリアはスケールダウンした空中巡洋艦の導入を検討しているが、それとも異なる姿であった。
「まるでジャパンのアニメみたいだな・・・・」
「アメージング・・・・」
やがて2機のF35Aが無線にて警告を行う。
「This is the Royal Australian Air Force. You are approaching the airspace of our ally New Zealand. Change course immediately or follow our guidance, identifying your purpose and nationality, or we are prepared to shoot you down. I repeat. This is the Royal Australian Air Force.」
(此方は王立オーストラリア空軍である。貴殿は同盟国ニュージーランドの領空に接近している。直ちに進路を変更するか、飛行目的並びに国籍を明らかにした上で我々の誘導に従え。さもなければ、我々には貴殿を撃墜する用意がある。繰り返す。此方は王立オーストラリア空軍・・・)
その後複数回に渡り、オーストラリア空軍は国籍不明機に対して警告を実施するも、応答することも、進路を変えることもなかった。実際にはオーストラリア・ニュージーランド側の無線とクルセイリース側の魔信に互換性がなく、通信不可能なのであったが、そんなことを互いに知る由もない。やがて警告は本格的な威嚇に移る。
「あの馬鹿! ニュージーランドの領空に侵入するぞ!!」
国籍不明機はあと数十分でニュージーランドの領空に侵入してしまう。オーストラリア空軍は機関砲による威嚇射撃を実施することに決定。旗艦とおぼしき艦に対して威嚇射撃を実施した。
「I repeat! This is the Royal Australian Air Force! You are approaching New Zealand airspace! No violation of our airspace will be permitted! Warning shots will now be fired! Alter your course immediately or state your purpose and nationality and follow our guidance!」
(繰り返す! 此方は王立オーストラリア空軍である!! 貴殿はニュージーランドの領空に接近している!! 領空侵犯は認められない!! これより警告射撃を行う!! 直ちに進路を変更するか、飛行目的と国籍を明らかにした上で我々の誘導に従え!!)
旗艦とおぼしき艦の直ぐ傍に機関砲を数回発射する。すると、飛行艦隊はオーストラリア空軍機に対して対空砲を発射して来たのである。
「Fuck!! あの馬鹿共やりやがった!! ウッドボーン空軍基地、聞こえるか!! 国籍不明機は警告射撃に対して対空砲を発射!! 敵対の意思ありと認める!! 撃墜の許可を求める!!」
猛烈な対空砲の雨を浴びせられるも、最新鋭戦闘機であるF35を捕らえることは出来ない。やがて2機のF35Aは距離を取り、対空ミサイルの発射準備に入る。同時にウッドボーン空軍基地からは増援として、イギリス空軍のユーロファイタータイフーン、カナダ空軍のF35Aがそれぞれ2機がスクランブル発進し、対応に当たる。既に飛行艦はニュージーランドの領空に侵入している。再三にわたる警告を無視している。それどころか、対空砲を浴びせてきた。オーストラリア、ニュージーランド両国には撃墜の大義名分があり、イギリスとカナダも両国の立場を支持したのである。
「ミサイル発射!!」
増援で到着したイギリス、カナダ両国の空軍部隊と共に空対空ミサイルサイドワインダーを発射。万が一に備え1隻辺り4発ずつ浴びせる。
「・・・・国籍不明機に全弾命中!!」
容赦なくミサイルの雨を浴びせられた飛行艦は瞬く間に爆散。大小様々な破片となってニュージーランドの領海に散っていった。後日、オーストラリアとニュージーランドの海軍部隊が派遣され、浮遊物の回収作業に追われることになる。
(続く)