文明圏外国家シルカーク王国
王都タカク 東側上空
大空を飛ぶプロペラの付いた船、マストには菱形を2つ重ねたような十字状の旗がはためく。3隻の飛空艦は北西の島国への偵察、そして威嚇を兼ね、編隊を組んで飛行していた。やっと見えてきた陸地・・・・物語や漂流物で思いを巡らす事しか出来なかった伝説の陸地が見えてくる。パラディオン島を除けばクルセイリース大聖王国飛空艦隊が初めて飛ぶ空だった。地上を見ると、海に張り付くように白色を基調とした建物が並ぶ。
「やはりこの方向には文明があったのか」
軍に籍を置く外交担当のカムーラは地上を見てにやける。
「くっくっく・・・・はーっハッハッハあ!!! しかもこの文明レベルの低さよ!!」
カムーラの中で野心が芽生える。
「カムーラ殿、我々は制圧ではなく外交に来ている。今回の目的も他国との接触、外交であるという事をお忘れ無く」
「はっ!! ミラ、お前の考えは甘い。聖王女ニース様の騎士が長すぎて、現実が見えなくなるのか? 現場から離れすぎたな。支配と領土拡大無くしてこれ以上国の発展は無い。我らが飛空艦の航続距離が上がり、新天地が見つかったというのに、喜ばずにはいられるか!!! しかも、北西の・・・伝説の新世界だぞ」
「目標を見誤るのはどうかと。征服について聖王女ニース様はもちろん、聖王ジュウジ様もお望みではない」
ミラに釘を刺されたカムーラは不快感を露わにする。
「ちっ・・・・お? ワイバーンが上がってきたぞ。飛空艦隊長!! 攻撃を受けたなら撃ち落としても良いからな。良い開戦の口実になる」
「はっ!!」
日本国ないし英連邦王国の機と勘違いしていたシルカーク王国竜騎士団は飛空艦を攻撃する事無く、王城の南側にある練兵場広場へと誘導するのだった。
シルカーク王国王都タカク
サルカ城
「クルセイリース大聖王国の使節団の方々をお連れしました」
王都の・・・・しかも王城に直接乗りつけた飛空艇団、日本国ないし英連邦王国の機体が故障したものと思い込んでいた軍部は、日本国や英連邦王国のものではないと知り、大騒ぎになっていた。着陸した機体の調査を進めたところ、クルセイリース大聖王国なる国の外交官が乗っている事を知る。本来ならば外交担当の職員が対応をする所であるが、直接王都に乗り付けてきた未知なる高度文明国家が相手であるため、シルカーク王国外交の最高責任者、カルク外務卿が急遽対応することとなった。また、本国からの指示を受けたイギリスの在シルカーク王国大使、カーレッジ・フェリックス・アーサー・ハミルトンも緊急同席する。
「あれが件の飛行艦か。我が大英帝国の空中戦艦や神聖ミリシアル帝国のパル・キマイラとも異なるな」
「しかし、カーレッジ大使殿も緊急同席とは・・・・本国から何を言われたので?」
「それは機密に関わりますので控えさせて頂きたい・・・ふう、ふう、はあ、はあ」
一瞬痛みなく意識が遠くなりかけたカーレッジ大使。改めて余命が僅かであることを再認識させられる。明らかに体調不良の彼を見てカルク外務卿は心配になるが、不治の病と聞いており何も出来なかった。
「カルク外務卿! カーレッジ大使! 彼等はクルセイリースとやらから来たとのこと!!」
クルセイリース大聖王国と名乗る5名の使者は、カルクやカーレッジの対面に着席、挨拶を交わした。
「クルセイリース聖王国の皆様、初めて我ら3国がお会い出来た事を光栄に思います。此方は我が国の友好国の一つ、大英帝国の大使、カーレッジ・フェリックス・アーサー・ハミルトンにございます」
「お初にお目にかかります。僕は国王陛下よりグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の在シルカーク王国大使を任せて頂いております、カーレッジ・フェリックス・アーサー・ハミルトンと申します。この度はロンドンより会談に同席するよう指示を受けました為急遽参加させて頂きます」
彼らは社交辞令から入る。もっとも、カーレッジは車椅子に座りながらだが。
「さて、この度はどのようなご用件でしょうか?」
「最初に訂正しよう。クルセイリース 大 聖王国だ。私は軍外交担当のカムーラという。貴国とは国交を結びたいと思い、やってきた」
カムーラは事前に準備してきた資料をカルクに渡す。事前の打ち合わせには無い行動に、ミラは怪訝な顔をした。同時にカーレッジは内容を何となく察しており、カムーラに対して憐れみの表情を浮かべる。
「カムーラ殿、資料は私が用意しているが?」
刺すような視線でカムーラを見る。
「案ずるなミラ。これは軍王様からの指示だ。資料はこれで正しい」
「・・・・・・・・(あっ察し)」
カーレッジはどう報告しようか思案した。その間にカルクは資料を読み進める。次第に顔が赤くなっていった。
「クルセイリース大聖王国の皆様、これは本気でしょうか?」
「ん? 何か問題でもあるのか?」
無礼な言に、カルクはさらに顔を赤くする。あまりの怒りで青筋が額に浮かぶ。
「カーレッジ殿、ご覧ください!!」
「どれどれ・・・・あー、まあ、そう来るよね〜」
激昂するカルクとは対照的に冷めた対応のカーレッジ。それにミラは若干違和感を覚える。
「大ありです!! この内容では従属国、いや、奴隷国家ではないですか!!! 初めて来た者達が王都上空に乗り付け、このような無礼な文を、無礼な態度で手渡す。国家として非常識極まりない!!」
「蛮族に常識なんてないからね、仕方ないよね(おいおい死んだわアイツ)」
相変わらず冷めた対応のカーレッジ。彼の脳内にはウッキウキで核の発射ボタンを押す兄ハルトの様子が浮かぶ。
「非常識ではない。従属か死かを問うているのだ」
「ああ、クルセイリースが大英帝国に従属するか死かを問うているな」
空気を読まないところは兄姉譲りのカーレッジ。
「ちょ・・・・お待ち下さい!!」
あまりにも事前に聞いていない展開に、ミラが割って入る。
「カムーラ殿、越権行為が過ぎる!! 聖王ジュウジ様の決裁を取った文章は私の手元にある。そのような強硬な姿勢は示されておりませんぞ!!!」
「何だミラ。お前は聞いていないのか? 聖王ジュウジ様は先ほどお亡くなりになった。理由は解らんがな。今後は聖王子ヤリスラ様が全権を握る。ヤリスラ様は外務に関しては、軍王ミネート様にお任せするとの御言葉を発せられた。ミラよ、お前こそ出る幕ではない」
「お前か黒幕が殺したんだろ(名推理)」
相変わらず空気を読まないカーレッジ。余命が僅かであることを良いことに無敵の人と化している。
「なっ!!」
ミラは思考を巡らせる。聖王子ヤリスラはまだ5歳の子供であり、親である第3女王ラミスやイブリース大元帥の言いなりだった。ラミスは軍王ミネートやイブリース大元帥に絶対の信を置いている。
「しかし、カムーラ殿、ここは外交。国内に有事があればこそ、意見調整を行った後に出直す事が重要ではないのか」
「お前の意見等は聞いていない。先ほど魔信文が来た。マジックチェーン技術により封がされていて、複製は不可能だ。これは国の決定事項である」
ミラは苦虫をかみつぶしたような顔でカムーラを睨む。一方でカーレッジは特注品の車椅子の機能を利用して大使館が傍受した魔信の内容を密かに確認していた。
「・・・・・(マジックチェーンねえ・・・・大英帝国の手にかかれば封を開けるのは容易だけどね)」
カムーラはそんなミラを無視して、シルカーク王国外務卿カルクを見た。
「従属はお前たちにとって、悪い話しばかりではないぞ。貴様らのような低文明国が、我が国の高度文明に触れる事により、国民の生活レベルは向上する。お前たちが国民の事を真に想うのなら、従属すべきであろう」
「そっくりそのままお返ししましょう」
「何だと?」
ずっと空気を読まない発言を繰り返していたカーレッジにカムーラはいよいよイライラを募らせる。
「カムーラ殿、我が国の盟友ジャパンの友人から聞いたのだけど、ジャパンにはこのような言葉がある。井の中の蛙大海を知らず、とね。意味は分かりますか?」
「・・・・・知らんな。敢えて聞いてやろう」
「自分の狭い知識や経験にとらわれており、他に広い世界があることを知らないような者のことを意味する諺だよ。君達は自分達の国が世界一優れた文明国である、そう思い込んでいる。その外側には、遥かに優れた文明国が多数あることを知らずにね」
特注品の車椅子は肘掛けに手を置けば、カーレッジの思考を読み取り、自動で移動出来る。壁に車椅子を向けると、職員に部屋を暗くするように指示する。
「貴方方の祖国は、ここですね?」
「なぬっ?!」
プロジェクターの機能も有している特注品の車椅子は壁に日本の衛星画像を元に作られた世界地図を表示する。其処にはクルセイリース大聖王国の正確な位置や彼等の知らない大陸や文明国の大陸があった。
「ほう、どうやら戦争のしがいがあるみたいだな・・・・だが、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国よ。実に面白い国だ。従属勧告は最後にしておいてやる。さて、哀れなシルカーク王国よ、如何する?」
「・・・検討したい。今日のところはお帰り願う」
「ふ、私は寛大だ。国の命運を左右する重要な決定事項。良いだろう。2ヶ月後だ。2ヶ月後にまた来よう。その時までに、従属か死かを選ぶが良い」
カルクは、横暴なカムーラを睨み付けて話す。
「私からもお伝えしておこう。我がシルカーク王国は、日本国並びに英連邦王国と国交を結び、友好関係にある国家である。もしも我が国を攻撃すれば、我が国内にいる日本国民や英連邦王国国民にも被害が出るだろう。日本国や特に英連邦王国を著しく刺激する事になることを忘れるな!!」
「日本国? 英連邦王国? 何だそれは。お前たちの宗主国でもすでにいるのか? お前たちの国家群の上位共同体として、文明圏というのがある事はすでに調査がついている。その中でも列強と呼ばれし国、パーパルディア皇国だったか? そこが相当な領域を支配している事も調査済みだ。 最初に絶望を与えておいてやろう。どうしようもない絶望をな。お前たちが列強と恐れるパーパルディア皇国でさえ、我が国の軍事技術をもってすれば、あっさりと敗れ去るだろう」
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の事を英連邦王国の盟主だとは知らないカムーラは目の前にカーレッジがいるにも関わらず嘲笑する。
「日本国や英連邦王国の技術レベルはそんな次元を遙かに超越している。調査不足で日本国や英連邦王国を刺激し、敗れ去った国は多々あるのだ!! あなた方の出した2ヶ月は、自分たちの命が伸びた2ヶ月だと思え!! あなた方の話しを聞いていると、国内でも意見が割れているようだ。日本国や英連邦王国の調査をいい加減に行う事は、貴国が亡国の道を歩む事と知れ!!」
「ふん!! 強がりを!!! 虎の威を借る狐のような国だな。もっとも、その虎でさえも我が国の敵では無いが。まあせいぜいあがけ!!」
会談は終了した。この時点でクルセイリース大聖王国の命運が決まったと言っても良かっただろう。
シルカーク王国王都タカク
練兵場広場
白髪、白髭を生やした老人が遠い目で練兵場を眺めていた。
「シエドロン様、北方約150kmの地点に飛行物体を確認しました。付近にも何機かいます」
第1飛空艦隊長シエドロンは部下からの報告を受ける。
「ワイバーンではないのか?」
「いえ、魔力反応がほとんど検出されません。これは電磁反射式測定装置で捕らえたものです」
「ほう・・・・珍しいな」
飛空艦を飛ばすにしても、相当な魔力が漏れる。今回の測定結果は、魔力反応がほとんど無い相当に大きな物体が空に浮かんでいる事を示していた。
「新世界の文明との接触は、何と刺激的なのか」
しばらくして外交担当の一団収容後に飛空艦隊は、北方向を飛行している物体の調査を行った後に帰国する事となった。
「シエドロン様、間もなく飛行物体が目視出来ます」
最初に感知した飛行物体はすでに探索範囲外に飛行していってしまったため、新たに現れた物体の方へ飛ぶ。硬化ガラスが張り巡らされた艦橋には外交担当のカムーラ、そして騎士ミラも、異界の飛行物体に興味を持ち、視察に来ていた。徐々に飛行物体が見えてくる。
「あれは・・・・」
「まさか飛空艦??」
「速度は我が方と同じか、少し速い程度・・・・しかし小さいですな」
シエドロンが感想を述べる。カムーラはその飛空艦を見て笑った。
「ハッハッハ!! あれは艦とは言えんな。あれでは対空用兵器を積む場所すら無いではないか。小さくて貧弱だ。あんな旧式飛空艦は我が軍には存在しない。200年以上の技術格差があるようだ」
彼は続ける。
「我が文明以外に飛空艦がある事には驚いたが、あんな物を運用しているようでは、我が国には絶対に勝てん・・・ん?」
カムーラは飛行物体に赤色の丸いペイントがなされている事に気付く。
「先ほどの外交官が、日本国は白地に赤色の国旗だと言っていたな・・・フ・・・・フフフ・・・・フハハハハハハッ!!! あれが日本国の飛空艦か? 確かにこの周辺国家やパーパルディア皇国よりはレベルが上だろうが、我が国と比べると足下にも及ばない!!!」
カムーラは日本国陸上自衛隊が公務用定期便として運用していたCH-47を見て小さいと馬鹿にする。
「カムーラ殿、今見た船が日本のすべてとは限らない。辺境の地に小型の飛空艦を配備しているだけなのかもしれない。日本国を調査せずに、日本国を決して刺激してはならない!! それに、英連邦王国の飛行艦は未だに確認されていない!!」
「一時が万事だミラよ。調査を進めたければ、お前がせいぜい調査するんだな」
クルセイリース大聖王国飛空艦隊は周辺調査の後、帰国した。軍部には小型飛空艦を運用している国があるが、技術的に取るに足らないものとの報告が上がる。一方、聖王女の騎士ミラの作成した
日本国並びに英連邦王国を警戒すべし
との報告書はもみ消された。ミラは独自に日本国並びに英連邦王国への調査を開始する。
イギリス領カルトアルパス
カルトアルパス総督府総督執務室
「・・・・そうか、折角の療養枠が戦争の最前線になってしまったのか」
カルトアルパス総督のハルトは、ニュー・ホンコン総督のアオイ、そしてシルカーク王国大使のカーレッジの3人で緊急のビデオ会議を開催していた。
『おそらく、いや確実に戦争の最前線になるわ。邦人の退避に加え、大使館職員の退避を実施する必要があるわ。特にカーレッジ、貴方は真っ先に退避する必要があるわ。今は必要な薬や機材をふんだんに送れるけど、戦争になればそれは不可能になる。近日中にニュージーランドへ移動するべきよ』
ハルトとアオイはカーレッジに対して退避を求めた。特にアオイに関しては総督権限で陸軍部隊を派遣する用意があるとも述べた。
【だけど、クルセイリースは大英帝国のことを最後に従属勧告すると言ってきた。これでは戦争の口実が付けられない。誰かが犠牲にならないと難しい・・・なら、余命がない僕が犠牲になるしか・・・・】
「『馬鹿!!』」
同時に大声で怒鳴られたカーレッジ。
「カーレッジ、君は僕達の大切な弟だ。勝手に死ぬことなんて許さないぞ!!」
『そうよ!! それに、戦争の口実ならもう間もなく作られるわ』
【へ?】
気の抜けた声で答えるカーレッジ。ハルトは本国からの最新情報をカーレッジに伝える。
「シルカーク王国にクルセイリースの飛行艦が現れたのと同日にニュージーランドの領空に国籍不明機が3隻現れた。此方側の無線警告を無視した上にあろうことか、警告を行ったオーストラリア空軍の戦闘機に対して対空砲を発射した。これに対して我が大英帝国空軍、カナダ空軍、オーストラリア空軍の空対空ミサイルにて撃墜。破片の調査の結果、クルセイリース大聖王国の物と判明した。つまりは、我が国は事実上、彼の国と戦争状態にある。君が犠牲になる必要はないんだよ」
ハルトから伝えられた最新情報を聞いたカーレッジ。ハルトは更に言葉を続けた。
「カーレッジ、君の余命は僅かなのは知っている。故に最後は祖国の為に尽くしたいと考えているんだろう。そして自分が生きる意味が欲しいとも」
『え? 何々?』
ビデオ会議中のアオイを側近にして友人のボタンが耳打ちする。同時に資料を渡し、説明をしている。
「どうしたんだアオイ? 何があった?」
『国籍不明機がソロモン諸島の領空に接近。これを受けてセントヘレナ島に緊急配備されていた空中戦艦プリンス・オブ・フィリップがスクランブル。ショックカノンの斉射で一方的に撃破したってよ』
「国籍不明機・・・・まあ、クルセイリースだろうけどな」
この会議では、シルカーク王国に滞在する邦人の退避、邦人退避の目処が立ち次第大使館職員をニュージーランドへの一時引き上げ、そしてカーレッジのカルトアルパス転勤を上申することに決定。上申は了承され、ニュージーランドからシルカーク王国へは邦人退避の為の輸送艦とヘリコプター部隊が、近隣の英連邦パラディオン王国へは有事に備え、空中戦艦クイーン・エリザベス2世を急遽オーストラリアに寄港させ、オーストラリア陸軍並びにニュージーランド陸軍を乗艦させた上でパラディオン島へ派遣。またパラディオン島に寄港予定であった練習艦隊は寄港を中止し、ニュージーランドにて待機することになったのである。これによりパラディオン島に赴任予定であった各国の大使らは、駐ニュージーランド大使館内にて業務を行う事になるのである。
ソロモン諸島南方100キロ上空
イギリス海軍空中戦艦プリンス・オブ・フィリップ
「あれが国籍不明機・・・・いや、不明艦か」
艦長のフィリップは、シルカーク王国やニュージーランドへ派遣された物と同様、3隻のファンタジーな飛行艦が宙に浮いているのを艦橋で確認する。
「これより無線にて警告を行う。回線を繋げ」
通信が通じなかった航空隊とは異なり、様々な無線装置を搭載しているプリンス・オブ・フィリップはあらゆる回線を使用して警告を実施する。
「此方は大英帝国海軍空中戦艦プリンス・オブ・フィリップである。貴殿はソロモン諸島の領空に向けて接近中である。直ちに進路を変更して離脱するか、我々の誘導に従うように!! 繰り返す! 此方は大英帝国海軍・・・・」
定型文にて警告を行う空中戦艦プリンス・オブ・フィリップ。ソロモン諸島の領空に接近する飛行艦と並走しながら警告を続ける。すると・・・・
「艦長! 敵が火器管制レーダーを本艦に向けて照射しています!!」
「ほう!!」
敵からわざわざ敵対の意思を示してきたのと同時に、文明圏から遥か彼方の場所に旧式とは言え、火器管制レーダーがあることにフィリップは驚く。火器管制レーダーを照射しているのは最後尾の艦のようであり、恐らくは独断によるものと推測された。
「レーダー波はトレースしているな?」
「はい。抜かりはありません!!」
「うむ。砲雷長、火器管制レーダーを照射し続けている敵艦に主砲を向けさせよ。警告の後、無視した場合これを撃沈する!! 技術班は課題や成果についてまとめる用意をせよ!!」
空中戦艦プリンス・オブ・フィリップは後部主砲を敵の最後尾の艦に向ける。
「此方は大英帝国海軍空中戦艦プリンス・オブ・フィリップである。本艦は貴殿の艦艇より、火器管制レーダーと思わしきレーダー波を受信した。よって敵対の意思有りと認める。これより、火器管制レーダーを照射した艦を撃沈する」
ご丁寧に警告を実施。
「主砲、エネルギー来ました! ショックカノン撃てます!!」
「測敵良し、照準良し、後部主砲発射準備良し!!」
「撃てー!!」
46センチ衝撃砲通称ショックカノンが遂に火を吹いた。日英の技術力と異世界にしか存在しない鉱石の融合が生み出した化け物が侵略者に対して牙を剥いた。
クルセイリース大聖王国ソロモン諸島派遣艦隊
旗艦チベ
「そろそろ何かしらの大陸とか島が見えてきてくれると良いのだがな」
クルセイリース大聖王国軍の将官タンスコン少将。的確な采配により、数多の戦闘に勝利してきた名将であり、恰幅のよいちょび髭の男性である。
「タンスコン少将!!」
「何だ?」
「本艦のレーダーが急速に接近する敵と思わしき飛行艦を検知! とんでもない量の魔力の前に魔力計測カウンターが振り切れています!!」
「何?!」
敵の文明の程度を知る為に今回搭載された魔力計測カウンター。それもこれまでに確認されたパーパルディア皇国の難破船よりやや高いレベルを上限に設定された最新鋭の計測装置。これだけのレベルであれば充分である。それどころか過剰とも言われていたのだが・・・
「どうやら侮れない文明国がある可能性があるな。総員戦闘配置!!」
「総員戦闘配置〜!!」
やがてあまりにも強過ぎる魔力を前に計測装置が完全に壊れてしまう。その後、巨大な飛行艦が彼等の眼前に出現する。
「で、デカいな・・・・しかも我々と違ってプロペラがないではないか・・・・」
「少将、軍王ミネート様からは威圧的に接するようにと言われておりますが、如何しましょう?」
同乗する外交官はタンスコンに訊ねる。彼等はカムーラとは違い、タンスコンから軍王ミネートからの命令内容が伝えられており、同じ方向に向けて進んでいたのである。
「取り敢えずは接触し、外交交渉だな。見たまえ、あの馬鹿デカい主砲を。ぱっと見た感じだが、18インチ程あるのではないかな?」
「18インチ!? それでは我が国のあらゆる砲よりも強力ということになるではないですか!?」
「事は慎重に進めるべきだな」
「少将、敵飛行艦が呼びかけてきています。ここから先はソロモン諸島の領空であり、離脱するか誘導に従うかを選べと」
「うむ。では、彼等の誘導に従い・・・」
「あ! 飛行巡洋艦「デオチ」が火砲を敵飛行艦に向けています!!」
「何だと!?」
軍の中でも良識派のタンスコンは慎重に接触することを決意するが、それを不服とした者もいた。
クルセイリース大聖王国ソロモン諸島派遣艦隊
飛行巡洋艦「デオチ」
「タンスコン少将より、敵飛行艦を刺激するような行動は避けよとのことです」
「何だと!? あのハリボテに怖気づいたか!! タンスコンめ!!」
イブリース大元帥がタンスコン少将を監視する為に部隊に加えられている飛行巡洋艦「デオチ」。本艦はイブリース大元帥直属の部隊に所属していたが、当初派遣予定であった艦が故障により離脱。その穴埋め兼タンスコン少将監視の為にイブリースは本艦を派遣。艦長はガルシア・ロメロ大佐であり、イブリース大元帥に媚びを売りまくる男である。
「イブリース大元帥は我等に命じられた。日本国並びにグレートブリテン及び北アイルランド連合王国との間に戦端を開くことを。タンスコンは砲艦外交の延長ぐらいにしか思っていないようだが、イブリース大元帥は更にその先を見据えておられる。大元帥に我等の忠義を示し、死すべき時は今なるぞ!! 敵に後れて恥かくな!! 火器を敵に向けよ!!」
「ははっ!!」
飛行巡洋艦「デオチ」は持てる火器全てを空中戦艦「プリンス・オブ・フィリップ」に向けた。
「艦長、敵戦艦が火器管制レーダーの照射を止めろ、やめなければ撃つと!!」
彼等は中々撃ってこないこと、そして無線による警告に留まっていることから、敵はハリボテだと確信。
「バカめ! 撃てるならとっくに撃ってるだろう!! ハリボテを沈めてしまえ!!」
エネルギーを充填し、各砲塔の発射準備が完了する。ちなみに、旗艦からは火器管制レーダーの照射を止めろとの命令が出ていたが、完全に無視している。
「敵飛行艦、後部主砲が本艦に向けられました!!」
「脅しのつもりか。その手には・・・」
次の瞬間、空中戦艦プリンス・オブ・フィリップが発砲。青白いビームが3本放たれる。容易く装甲を貫いた青白いビームは飛行艦を一瞬にして爆沈させる。この攻撃により、飛行巡洋艦「デオチ」は轟沈。その後、警告を無視されたイギリス海軍は問答無用で残りの艦艇に対しても砲撃を実施。副砲を用いて2隻目を沈め、旗艦のチベは実弾攻撃により沈められた。
「あの馬鹿が!! これでは・・・・」
こうして、イギリスとクルセイリース大聖王国との間に戦端が開かれた。ニュージーランドとソロモン諸島に向かった艦隊が帰還しなかった事は軍部により握りつぶされ、現在も大陸を求めて作戦行動中であると報告されるのである。一方で、軍王ミネートや副官のメナスからの報告を受けたイブリース大元帥は大満足であり、不気味な笑みを浮かべていたという。
ニュージーランド首都ウェリントン
駐ニュージーランド日本大使館
「アキコも不運よね、折角夫婦水入らずで赴任出来るかと思ったら戦争だもんね〜」
今回の人事異動で駐新日本大使に任命された霧ヶ谷明日奈は大使執務室でアキコと暫しの休息を取っていた。2人は外務省の同期入省したエリートであり、友人関係にある間柄である。アキコが様々な国の大使や領事を任せられたのに対して、彼女は中々国内から出る事に恵まれず不満を抱えていたのだが、この度日本国の最重要同盟国の一角であるニュージーランド日本大使に任じられたのである。因みに日本国の最重要同盟国は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド、クワ・トイネ公国、クイラ王国の事である。
「そう言うアスナは初めての外国赴任がいきなり大使なのね。今まで我慢していた甲斐があったんじゃない?」
「まあね。しかし、アキコは本当に優秀よね。高校卒業して直ぐにケンブリッジ大学に受験して一発合格してストレートで卒業して、速攻外務省入りでしょ?」
「それで行くとシンも学歴最強なのよね。因みにケンブリッジ大学首席卒業がシンで、私は次席。まあ、シンに華を持たせる為に態と譲ったんだけどね」
「採用担当者学歴で騙されてやんの。まあ、シンを傍に置いておくと噛みつかれるから、お偉いさんは僻地に飛ばしたい。でも能力は優秀だからクビには出来ない。そんなシンを管理出来るのがアキコしかいないから、アキコはあまり国内にいなかったわね」
「最初の赴任先がベラルーシ大使館で笑ったのよね。シンが何かしないか心配になったけど。まあ、ともあれ暫く世話になるわ」
数日後、シルカーク王国や英連邦パラディオン王国からの邦人退避の受け入れ先となったニュージーランドでは多忙に2人は追われることになるのである。
「そういえば、アキコとシンはケンブリッジ大学卒業後1年間就職せずに浪人してたけどなんで?」
「アンタが卒業するまで待ってくれってアンタの親父さんと従弟に言われてたのよ。あとはあの狂人に気に入られて英連邦王国を巡る旅にも出たし」
因みにアキコ、シン、アスナは同い年であるが、アキコとシンはストレートでケンブリッジ大学に入学したのに対して、アスナは彼等より1年後れて入学した経緯がある。
「まあ、流石に私も友人を見捨てて帰国する程薄情な奴じゃないし、義理はちゃんと果たしてからって思うから。因みにこの前本社で親父さんに会ったわよ。貴方の旦那には会わなかったけど」
「新しい事業に駆り出されてるとは聞いてるけど、何をしてるのやら・・・・」
「古の魔法帝国案件とは聞いてるけどね」
「へ〜」
(続く)