翌朝
日本国東京都福生市
航空自衛隊・在日英軍横田基地
航空機格納庫
「・・・・・今日の曲芸飛行がオレの花道になるんだよな」
新たな愛機となったユーロファイタータイフーンを前にしてそう寂しそうに呟いたオグリ。その腕は日英軍双方から見ても天下一品なのは間違いない。だが性格に難があり、グラ・バルカス帝国戦ではムー空軍の爆撃機で無断出撃を繰り返したことから上層部からは煙たがられていた。
「まあ、再就職先があるだけいいんじゃね〜?」
「ウッチー・・・・」
オグリ共々仲良くやらかすウッチー。彼も間違いなくエースパイロットだが、彼の場合はオグリと一緒になるとやらかすというのが上層部の認識であり、彼とオグリを引き離せば問題ないという評価であった。
「再就職先はANAのパイロットだろ? パイロット不足に悩む民間航空会社からしたらオグリも神のような存在になるだろうよ」
「だが、同時にカルトアルパス総督府から引き払う事になる。この制服も着納めだ」
警視庁抜刀隊モチーフのカルトアルパス総督府護衛官の制服。初めはオグリ、ウッチー、ハイネ、ラスティの4人だけが着用していたが、カルトアルパス総督府の統治が行き届き始め、更に各地の貴族から人質として出させた次男三男を教育の上で護衛官に抜擢したことで特別感は薄れていた。
「自衛官を辞めれば、このサーベルも持てなくなる。民間人が剣で武装する訳にはいかないからな」
オグリはサーベルを抜き、その場で何度かその剣を振るった。
「それだけじゃない。ウッチー、お前とも別れなくてはならなくなる」
オグリはサーベルを鞘に仕舞った。
「だが、それでも同じ空の下にいるんだろ?」
オグリの肩をポン、と叩くウッチー。
「・・・・・ああ」
「それに、俺はオグリなら優れた旅客機のパイロットになれると信じてる。何時かは歴史に名を残すパイロットになるだろうよ」
「名を残す・・・・か。あまり良い理由ではなさそうだな。残すとしたら、航空事故とかになりそうだな」
「小栗一等空佐!!」
大きな声が格納庫に響く。オグリとウッチーはその声の方向に振り向く。
「小栗一等空佐、本当に退役してしまうんですか!?」
「どうして日本最強のエースパイロットが引退しなきゃいけないんですか!?」
「まだまだ飛べる、飛びたいですよね!!」
そこには訓練を終え、横田基地に新たに配属されてきたユーロファイタータイフーンの若きパイロット達の姿があった。彼等は先のグラ・バルカス帝国戦にて神がかり的な活躍を遂げた小栗の姿に憧れて戦闘機乗りを目指した若者達だ。
「オレは上層部に嫌われた。まあ、オレの行動が招いた結果だ。致し方ないだろう」
「それに、ANAがパイロットとして迎え入れたいと言ってきてくれたんだ。別に悪くない話でしょ? 俺はそう思うけどね〜」
まあまあ、と宥めるオグリとウッチー。若きパイロット達は納得出来ないという態度を示す。
「ですが、小栗一等空佐の戦闘機乗りとしての腕は日本の空にまだまだ必要です!!」
「小栗一等空佐、内一等空佐の2人が日本の空を守っていると言っても過言ではありません!!」
「そうだそうだ!!」
そこに大声を聞きつけたイギリス空軍に出向中のムー空軍のパイロット、ハイネとラスティが駆け付ける。彼等も曲芸飛行に参加する為、オグリとウッチーと打ち合わせをする必要があったのだ。
「お前ら!! 小栗一等空佐の決意をふいにするんじゃねえ!!」
若きパイロット達を一喝するハイネ。その気迫に若きパイロット達はたじろぐ。
「確かに小栗一等空佐は日本の空を守っている。だがな!! 何時までも小栗一等空佐がいるってことはねえ!! 何時かは引退する時が来る!! その時に備えてお前らは指導を受けてきたんだろう!! タイフーン乗りになったんだろうが!!」
何時もはウッチーと共におちゃらけているオレンジ髪のイケメン、ハイネとは思えない気迫だ。
「誰よりも空を愛し、誰よりも国を愛し、誰よりも仇為す敵を許さない。それをオレは自負して来たつもりだ。だが、同時にオレの後を継いで空を守る防人が欲しい。そう思った。それがお前達だ!! 胸を張れ!!」
ハイネに続いてオグリも若きパイロット達を一喝する。
「俺も小栗一等空佐には辞めて欲しくはない。だけど、俺は決めたんだ。小栗一等空佐の決断を受け入れよう。全力で支えようってな!!」
ラスティは涙ながら若きパイロット達を一喝する。そんな彼をオグリは優しく抱き寄せた。
「という訳だからさ、お前達がするべきこと、分かるよな?」
ウッチーは若きパイロット達にこれからの空はお前達が守るんだということをやんわりと伝えた。彼等は小栗一等空佐の決意の固さを知り、泣く泣く引き下がった。
「ありがとな、ラスティ。愛してるぜ」
オグリはラスティの手の甲にキスをした。
「今日はクルセイリースの連中が視察に来る。潜在的脅威に対する威圧はさる事ながら、オレの戦闘機乗りとしてのラストフライトだ。お前達と最後に一緒に飛べることを天に感謝するぜ」
「俺もオグリのラストフライトの共が出来て嬉しい限りだ」
グータッチをして、互いの絆の強さを示すオグリとウッチー。2人はクルセイリース側に見せつける曲芸飛行に向けた準備を続ける。
「うう・・・・オグリ一等空佐・・・・」
涙ながら準備を続けるラスティ。無言でハイネは彼の背中を撫でながら共に準備を続けた。そんなラスティにオグリが声を掛ける。
「ラスティ、明日・・・・やろうか」
「・・・・・やります、やらせてください!」
そんな2人を見たウッチーとハイネは笑みを浮かべる。
「やっぱり、あの2人はお似合いだよな」
「ああ、そうだな。ラスティは幸せ者だな」
後にオグリとラスティは2児を授かる事になるのだが、この時は彼等はそんな事を知る由もない。
「その内オグリがメーデーに登場しそうだよね〜」
「否定はしねえけど、絶対に生還してやる」
「絶対に生還してくれないとラスティが困るもんな!」
「オ、オグリ一等空佐なら絶対に生還します!!」
「「「「あはははは!!」」」」
後にANAのパイロットに再就職したオグリは、絶望的な状況での奇跡的な生還劇を成し遂げ、メーデーにも出演し、このような発言を残す事になる。
「慣例に従って機長に操縦桿を譲ってたら助からないと確信していたし、機長もオレを信じてそのまま操縦桿を握らせてくれた。同時に1.3億の日本国民と何億の同盟国の国民の命を守ってきたオレが、たかが数百人の命を救えないなんて馬鹿な話があってたまるか。そう思うと頭が一気にクリアになった。機長がオレを信じたから奇跡は起きた。オレより的確な判断をした機長を褒めるべきだと思う」
日本国東京都千代田区
帝国ホテルロビー
「昨日はよく寝れた?」
「流石は帝国ホテルって感じたよ。料理、客室、格式、全てが一流って感じたな」
「全くだよ」
ロビーへ向けて歩くアキコ、シン、キリト。
「もうクルセイリースの皆さんはお見えみたいね」
クルセイリース大聖王国の調査団は帝国ホテルロビーに集まっていた。
「おはようございます」
日本国外務省のアキコが本日の予定を説明する。
「本日は自衛隊並びにイギリス軍を見学して頂く予定だったのですが、急ではありますが、先に会談をしたいと思います」
急な会談など国と国の関係ではあり得ないことだが、今回は使節団ではなく調査団であり、日本を知ってもらいたいために案内するという流れであるため、多少の無理は効く。
「日本の西にある島国、ガハラ神国の方がどうしてもクルセイリース大聖王国の方々とお話がしたいとのことです。急であるため断ることも出来ますが、いかがいたしましょうか? 会談の場を設けてもよろしいでしょうか?」
日本国はクルセイリース大聖王国の調査団については、特に他国に公表や伝達をしていた訳では無かった。しかし、隣国『ガハラ神国』から
『神示が下ったので会わせてほしい』
と、調査団受け入れを言い当てられ、帝国ホテルへの宿泊までも言い当てられた。ガハラ神国は不思議な力を操る民で、昔の日本神話の中にあるかのような国だ。日本国政府並びにイギリス政府としても、強く断る理由が無く、クルセイリース側が良いのであれば良いとの見解だった。
「ガハラ神国??」
神国という名は大層な名前だなと思いながらも、日本国がわざわざ紹介するような国。情報を持ち帰る事を目的とする調査団に断る理由が無く、会談は実施されることになった。
小会議室
クルセイリース聖王国調査団9名を挟んでガハラ神国の使者が2名、そしてG5の案内役7名と書記4名(日本語、英語、フランス語、マオリ語)がつく。そして会議が始まった。
「はじめまして、私はガハラ神国のクシナダと言います。横にいるのがスサノウです。この度は場を設けて頂いて、ありがとうございます」
古風な民族衣装に身を包んだ美しい女性が話し始める。今回はガハラ神国側から会談を申し込んできていたため、クシナダの言葉を待った。
「日本国並びに英連邦王国の方も、しかと聞いて頂きたい。結論から申し上げると、八岐大蛇ヤマタノオロチの復活が迫っています」
「や、ヤマタノオロチ??」
「ヤマタノオロチって、日本神話のヤマタノオロチか?」
「八岐の大蛇・・・・・」
日本神話に出てくるヤマタノオロチという言葉がガハラ神国から発せられる。
「What?」
「Qu'est-ce que le Yamata no Orochi ?(八岐の大蛇ってなんだ?)」
「I don't know(分からない)」
「Ko ngā tāngata Hapanihi anake ka mārama(日本人にしか分からないだろう)」
八岐の大蛇。日本についてある程度知っているG5の外交官と言えど、流石に日本神話までは知らない。故に彼等はアキコら日本側の外交官らに視線を向ける。
(八岐の大蛇・・・・まさか、出雲大社に関連が?)
(流石は異世界としか言いようがないな・・・・)
(・・・・・・ファンタジーとしか・・・・・・・)
顔を合わせるアキコ、シン、キリトの3人は、これを外交文書の報告書に載せる事になるなんて、何てファンタジーな世界かと、彼等は頭がクラクラした。
「確か・・・・体が何個の山にまたがるほど、とてつもなく大きい化け物で、日本神話に出てくる伝説上の生物だと記憶しているのですが」
アキコは手元にあるメモ帳に簡易的な八岐の大蛇を描き、それをガハラ神国側に見せる。
「おお、日本にも八岐の大蛇の記述があるのですね。ですが、日本のみではありません。ガハラ神国の神話にもしっかりと記載がありますよ。おそらく意味が解らないと思いますので、ゆっくりと順を追ってご説明いたします。しばらくおつきあい下さい」
クシナダはゆっくりと話し始めた。
「まずこの世界の成り立ちについてお話します。この宇宙は天之御中主神アメノミナカヌシによって作られています。これは人の形をしたものではなく、圧倒的なエネルギーの塊・・・・とでも言いましょうか。 生きとし生けるものはすべて、この天之御中主神の「分け御霊わけみたま」を頂いて生きております」
急に宗教的な話しになり、皆怪訝な顔をする。特にキリスト教信者の多いイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの案内役は特にである。一方の日本側の案内役は真剣に耳を傾ける。
「変な話しではありません。宇宙創造の神の事を、我々はアメノミナカヌシと読んでいますが、国によってそれぞれ言葉や宗教が違うように、宇宙創造の神も、国や宗教によって言い方が変わります。あなた方の宗教での創造の神を思い浮かべてもらえれば結構です。要は国、宗教によって呼び方が異なるだけで、宇宙創造の神という意味においては同じなのです」
彼女は続ける。
「我らの国の王、神王ミナカヌシは、この天之御中主神から頂く「分け御霊」の量が少しだけ多い人間です」
「我ら日本人にも分け御霊が?」
「もちろんあります。生ける者すべてにあります。これが無ければ生きることは出来ません。日本国がこの世界に転移した時も、神示が降っていました。当初はどんな国が来るのかと心配もしたのですが、攻撃性は無く、国内においても他国の宗教が対立せずに融和している国であったため、本当に嬉しく思いました。どうしても宗教間の対立は、殺伐としてしまいます。対立する宗教は、皆自分の宗教が一番正しいと思い、そう思うだけなら良いのですが、他の宗教を排除しようとする方までいます。宗教を元とした戦争は終わりが見えない地獄と化します。しかし、日本においては様々な宗教が自由に信仰され、それぞれが他を排除しようとまではしない。素晴らしいですね」
クシナダは微笑んだ。一方でイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの案内役らは苦笑いするしかなかった。
「本題に戻ります。かつて、ヤマタノオロチという化け物が現れました。何処から来たのかは解っていませんが、これは人類滅亡の危機に瀕するほどの大災でした。しかしその時、この横にいるスサノウのご先祖様、何代前か解りません。何千世代も前のスサノウが、天之御中主神の分け御霊を多く賜り、撃退して十字の地の中心にこれを封印しました」
「なっ!!!」
クルセイリース建国神話に似た話をガハラ神国の者が話したため、彼等は固まる。
「神は甘く無い、厳しい存在です。今回、何らかの原因で、ヤマタノオロチの封印が解かれます。しかし、現代のスサノウの神通力が上がる気配もありません。おそらく自分達・・・・人間達で何とかしろという事かと」
「ま、待って下さい!!建国神話の邪神が……邪神が復活するというのですかっ!! それはいつ?? 封印が弱まっているというのですか!!」
興奮したニースが連続して問うた。
「封印は完璧です。封が解かれるのは、人為的な事が原因になりそうなのです」
荒唐無稽な話、しかし過去に魔王と英連邦王国軍が戦った現実もあって、一言で嘘だとも言えない。アキコはクシナダを向く。
「ヤマタノオロチはどの程度の脅威なのでしょうか?」
「日本国に伝わる伝承のとおり、8つの谷と8つの峰を覆う八首八尾の巨龍です。ただし、強さは全盛期の半分ほどでしょう。まずは体力回復のために、付近の住民を喰うでしょう。魂ごと喰うため、食された民は転生する事無く完全に消滅します。そして・・・体力を完全なものとするため、自分の体の一部を取り戻そうとします」
「体の一部?」
「はい、ヤマタノオロチはあまりにも力が強かったため、封印中の体を弱体化させるため、体の一部を封印し、決して集める事が出来ぬよう異世界へ飛ばしていました。しかし、その一部はこの世界へ来てしまいました」
「・・・・・・と、言うと?」
アキコの脳裏には出雲大社が浮かぶ。まさか・・・・ね?とシンはキリトに視線を向ける。視線を向けられたキリトは、んな事言われても・・・・という表情を浮かべる。
「ヤマタノオロチは復活後、体の一部が封印してある島根県出雲市の須佐神社を目指します」
「なっ!!!! に・・・・日本にあるのですかっ!!」
「はい、何も手を打たなければ、通りの街の民も喰われ、街が何カ所か消滅するでしょう」
あまりの荒唐無稽な話しに、皆固まった。クシナダは続ける。
「出雲市の住民を喰うた後は、ヤマタノオロチはガハラ神国へ向かうでしょう。我が国には、ヤマタノオロチのエネルギーの主力だったものを剣として封印しています。その名をアメノヌラクモといいます」
アキコは絶句した。アキコだけではない。G5の案内役皆が同じ表情を浮かべていた。八つの谷と、八つの峰を覆うとは、途轍もなく大きい。それが日本を目指すなら・・・・対艦誘導弾や砲撃がどの程度通用するのだろうか? それに、クルセイリース大聖王国から日本を目指すとなれば、途中にニュージーランド、オーストラリアが立ち塞がる。下手すればイギリスを経由して向かってくる可能性さえある。安全地帯はカナダしかないだろう。いや、もしかしたらエネルギーを求めてカナダに寄り道する可能性も否定出来ない。
「そのような悲劇が起こる前に止めたいのです。ヤマタノオロチは人為的な要因で復活します。十字の民よ、どうか化け物の復活を防いで頂きたい。ヤマタノオロチは制御出来ない、本当の化け物です。国の民救いたくば、必ず阻止して下さい。敵は内にあります」
ニースは難しい顔をする。
「あまりにも抽象的過ぎます。それだけの情報で・・・他国の民を信じて自国民を拘束することなど出来ない。せめてもう少し具体性が無いと、難しい」
「解りました」
クシナダは額に集中する。額の前にほのかな光の球が現れた。
「何の魔法だ?」
アバドンが問う。
「魔法では無い、神通力だ」
スサノウが答えた。額の光が消える。
「具体的にお伝えします。復活させるのは、軍王ミネートなる者、そそのかすのはメナス、そしてその上司であるイブリースと呼ばれる者。メナスとイブリースはクルセイリースの民ではありません」
「!!!」
軍王の事など、一言も話していない。名を知るはずのない他国の民がその名を語る。
(・・・・イギリスからの機密文書にあった名前ね・・・・)
イギリス政府からの機密情報にアクセスする権利を有するアキコはイブリースの名前を聞いてそう考えていた。
「い、イブリース大元帥が!?」
「大元帥が・・・・我が国の英雄が反逆を?!」
多くの質問が飛び、会議は終了した。調査団はガハラ神国の神通力に圧倒されるのであった。
「これは速やかに政府に報告ね」
「今から資料を作らないと・・・だな・・・仕事が増えたな」
後日、日本国政府と大英帝国政府は地中貫通爆弾および燃料気化爆弾の量産化に着手。クルセイリース大聖王国戦に向けて一定の在庫を確保することになるのである。会談後、彼等は航空自衛隊並びに大英帝国空軍による曲芸飛行を視察する為に横田基地へ向かう。
カタカタカタカタカタカタカタカタ
「凄え・・・・俺よりパソコンを打つスピードが速い・・・」
「アキコは昔から報告書とか論文を作るのが得意だからな、そのせいだな」
「・・・・・・・この表現の方が伝わるか・・・・ああ、でも私は軍事部門には疎いから、その辺りを補足しないといけない・・・・アキラ辺りを呼び付けるか」
アキコはスマホを取り出し、アキラに横田基地に来るように要請。久々に帰国し、やることもなかったアキラは制服に着替え、横田基地に急行。急遽、案内役の一員として合流した。
東京都福生市航空自衛隊・在日英軍横田基地
会議室
「いやあ、ヒロシとかケントって言う選択肢もあったのに俺を選ぶンだな、アキコは」
「貴方ぐらいしかまともな人間が私の周りにはいないからね・・・・変な人ばかり寄ってくるのよ・・・・ただ、断る理由もないし、別に悪人じゃないし、情に流されて結局手を差し伸べちゃうのよね」
「そこがアキコの良いところだと思うけどな。あ、ここの数字が間違ってるンだよな、直しとくぜ」
「やっぱり餅は餅屋ね。呼びつけて良かったわ」
「アキコ、そろそろパソコンをしまってくれないかな? もうすぐ案内役の仕事再開だ」
「ああ、そろそろ休憩も終わり?」
シンに促され、データを保存。アキコはパソコンを片付けると会議室を出て移動を開始した。
「しかし、曲芸飛行か。どんなものが見れるんだろうな? 地味に楽しみなんだよな」
「ブルーインパルスが来るのかと思ったらイカれた連中らしいわよ?」
「なんでもグラ・バルカス戦争で空の魔女と恐れられた女なンだよなあ。空自の連中はあまり知らねえけど、小栗一等空佐とそのペアの内一等空佐の名前は海自でも知られてるンだ」
「「へ〜」」
神奈川県横須賀市海上自衛隊横須賀基地
医務室
「なんでアキコは俺を呼んでくれないんだよ〜!!(泣)」
「ヒロシ先輩落ち着いてください」
「ムリムリムリムリ!!」
相変わらず医務室で仲良しの後輩の肩を掴んで前後に揺さぶるヒロシ。ケントは完全に慣れっこであり、笑いながら前後に揺さぶられる。
「なんかアキラが急に制服に着替えて、ケントがプリウスミサイルで横須賀中央駅まで送迎したから何かがおかしいと思ったらこれだよ!? 落ち着けないよ!!」
「まあまあ、僕の異世界転移前の親友にして美青年のハルーシャとの話でもしますから落ち着いて・・・・」
「ムリムリムリムリムリムリムリムリ!!」
「やれやれ・・・・何時まで小学生時代に好きだった女の子のケツを追いかけてるんですか・・・・一途過ぎませんか?」
「好きだから仕方ないだろう」
「好きだろう仕方ないって、まあ確かにヒロシ先輩のアキコ先輩への愛は誰よりも深く、太く、強いと思いますよ。でも、ヒロシ先輩もかなりのイケメンじゃないですか。アキコ先輩以外にも良い女を捕まえられそうじゃないですか? しなかったんですか?」
急に黙り込むヒロシ。絞り出すようにこう呟いた。
「・・・・・アキコ以外の女と付き合ったことくらい、あるよ」
「それで?」
「ただ、全員俺の弱みに付け込んで、金だけせしめて全員漏れなく破局したんだ・・・」
「ああ〜アキコ先輩が優しすぎてそれが当たり前になっちゃったパターンっすね〜。はっきり言って、アキコ先輩ほど出来た人はいませんよ? 基本的に女は結婚したら性格が変わるんですよ。結婚してなくても、途中から本性を現すんですよ。当に結婚は人生の墓場ですよ」
「結婚してるお前が言うのかよ?!」
「でも葵ちゃんは可愛い誠実な子ですけどね。医官を志した理由も、昔心臓が悪くて、手術をしたんですけど、見事手術が成功して今があるから、自分も他の人の命を救いたいって言ってましたよ」
「そういえば、お前の嫁は昔身体が弱かったよな」
「でも、僕と葵ちゃんの詳しい恋話は知らないんじゃないですか?」
「確かにな」
「じゃあ、せっかくですから、ヒロシ先輩に良い女性が来るように願いながら僕と葵ちゃんの恋話でもしますか!!」
上手いことヒロシをアキコから引き離したケント。机の引き出しを開け、昔の写真集を取り出したケントはヒロシに自分と葵の過去について語り始めた。
「あれは小学生時代、4年生の時の事ですね。葵ちゃんが転校してきた時の事です」
東京都福生市航空自衛隊・在日英軍横田基地
クルセイリース大聖王国調査団待機室
「昔は身体が弱かったんですか?! 自衛隊って、皆屈強な軍人の集まりなのかと思ってましたよ!!」
「まあ、そう思いますよね。うちの旦那なんか、ウクライナに義勇兵として派遣されてましたしね」
クスクスと笑いながらキリトと話をする葵。クルセイリース大聖王国の調査団らは配られた資料に夢中であり、2人の会話には1ミリも気付いていない。
「しかし、昔お医者さんに身体を直して貰ったから自分も医者を目指す。凄い崇高な志だと思いますよ」
「ありがとうね。でも、かなり大変だったのよ? 私の手術代とかでかなりお金を使っちゃったし、そこから医大は・・・手術代は借金してたって両親から聞いてたし」
「借金・・・・・」
借金という言葉に顔をしかめるキリト。彼の両親はミカドアイHDに借金の取り立てに遭い、地下帝国送りにされていた時期がある。尤も、借金をしていたのは父親の弟であり、悪知恵だけは働くキリトの父親の弟は、勝手に父親の名前を使って連帯保証人にしていたのだが。そんな事を知らないキリトの両親は突然現れたミカドアイHDの白服により地下帝国送りに。しかし、取り立てに来た白服はキリトの妻であるアスナの父親である熊谷直信であり、当時からアスナとな恋仲の関係であった事から、キリトだけは見逃された。まあ、それは許されずミカドアイHDの他の白服により、アスナや直信の妻と共に拘束。直信は根部商事へ亡命し、マサヨシの庇護を受けた。マサヨシは海外留学中のアキコに支援を要請。偶然にもアキコはミカドアイHDの大株主であるハミルトン公爵家の跡取りハルトと親密な間柄であり、その関係を活かしてキリトらを解放させた。以後はキリトら一家は根部商事の庇護下に入り、更に恋仲であったキリトとアスナの婚姻も認められた。更にキリトはハルトの弟カーレッジに気に入られた。借金によって地獄と天国を味わった訳だが、基本的には地獄しか味わない。心して葵の話を聞く。
「え? 借金はどうしたのかって? いや、ケント君が、私の旦那がね、アイちゃんに助けてやれないかってお願いしたみたいなの。で、アイちゃんはアキコさんの従妹だから、そこからアキコさんに話が言って、どうにかなったみたい」
「アキコって、拾う神かなんかなのか?」
「分からないけど、根部家には感謝しかないわね。貴方もそうでしょ?」
「まあ、そうだけど。この案内役が終わったら、根部商事でVRの研究をすることになってるしな・・・・何でも介護向けに実体験型RPGを実用化したいとか」
「介護向けかあ・・・もしかしたら、カーレッジさんもその実体験型RPGを利用するようになったりしてね」
「実用化まで生きていられるのかな・・・・」
「待たせたわね」
アキコがシンやアキラを引き連れて待機室に現れる。彼等はクルセイリース大聖王国の調査団を引き連れて、曲芸飛行の披露へと移ることになる。
(つづく)