東京都福生市航空自衛隊・在日英軍横田基地
基地正門前
「市民の平穏な暮らしを破壊する、航空祭を即刻中止せよー!!」
「「「中止せよー!!」」」
「英日による、世界征服の企みを断じて許すなー!!」
「「「許すなー!!」」」
「日本政府は、市民の声に親身に耳を傾けろー!!」
「「「傾けろー!!」」」
「日英同盟は、即時破棄しろー!!」
「「「破棄しろー!!」」」
この日、航空自衛隊とイギリス空軍が共同使用する横田基地の正門前では、日英の左翼勢力による抗議デモが行われていた。その主目的は、航空自衛隊とイギリス空軍による横田基地の一般公開、航空祭の中止である。因みにクルセイリース大聖王国の調査団はこの航空祭に来賓枠として参加する事になっている。
「あれは何でしょうか?」
正門付近を専用のバスで移動中のニースは正門付近で抗議デモを行う集団を指差しながらアキコに尋ねた。
「彼等はこれから開催されます、航空自衛隊とイギリス空軍による航空祭の即時中止を訴えてデモを行っているのです。国の方針に逆らっている人々と言うべきでしょうか」
「国の方針に逆らっている・・・・それも白昼堂々と・・・・彼等はあの後警察に捕まるのでしょうか?」
ニースは正門前にいる30人程のデモ隊(主催者発表3000人)がどうなるのかをアキコに尋ねた。
「警察に確認しましたが、彼等は事前にデモを行う為に警察署へ道路の使用許可を申請し、受理されていますので、警察官や自衛官に暴力を振るうとか、基地内に無断侵入でもしない限りは逮捕されたりはしませんよ」
「ええ?!」
驚きの表情を浮かべるニース。
「アキコさん、もし我が国で同じように基地の目の前で反対デモをすれば、翌日には極楽送りです。どうして日本国では反政府デモが許されるのですか?」
「我が国には表現の自由、内心の自由、参政権、そして国民主権があります。国の政は、国民から選挙により選ばれた国会議員が担い、18歳以上の全ての日本国民に選挙への投票権があります。彼等の主張も、国民の意見の一部であり、僅かではありますが、彼等の主張を実現する為に当選している議員もいます。まあ、大多数の国民からは見向きもされていませんが」
「表現の自由・・・・・国民主権・・・・」
国民が政に参加し、自由な意見を表明出来る。一部の権力者階級の人々が政を独占し、自由な意見の表明を断固として許さないクルセイリース大聖王国では考えられないことであった。
「因みに我が国の国民の識字率は異世界転移後に日本領に加わったオラパ諸島を除いた場合、99.9%になります。現在はオラパ諸島に居住する国民の識字率上昇が課題ですが、若者を中心に着実に成果は出ています。この高い識字率も、国民が政に参加出来る要因の一つです」
「つまりは、殆どの日本人が読み書きが出来るという事ですか?!」
ますますニースは驚く。属領を除けばほぼ全ての国民が最低限の読み書きが出来る。またその属領でも若者を中心ではあるが、徐々に識字率が上昇しているとも言うではないか。対するクルセイリースはどうか。属領の識字率なんぞ、測定不能だ。そもそも本国でさえ、まともな読み書きが出来ない民が多数いるのだ。軍に入隊して始めて読み書きを始めた者も多数いるのだ。
「そ、そもそもの地盤が違いすぎる・・・・・」
ニースだけではなく、周囲でアキコの話を聞いていたクルセイリース大聖王国の調査団皆がそう思った。やがてバスは裏手から横田基地に入り、来賓席へと移動するのである。
「平穏な市民の暮らしを破壊する高市内閣は即座に退陣しろー!!」
「高市の犬に成り下がった大泉防衛相は議員辞職しろー!!」
場面は戻り横田基地正門前。相変わらず周囲の住民や航空祭に向かう多数の航空ファンらから冷ややかな目を向けられていた。
「うっせえんだよ!! この化石共!!」
航空祭に向かう為に並んでいた一部の航空ファンから罵声を浴びせられるデモ隊。航空ファンだけではない。横田基地周辺に住んでいる地域住民も加わっていた。
「あんたらは市民の平穏な生活云々言うけどな、あんたらは俺達の為になんかしてくれたんか? ただギャーーギャーー騒いで自己満足しとるだけやろがい!!」
「あんたらの拡声器の方がうるせえんだよ!! クソの役にも立たんくせに!!」
「第一、あんたら横田基地周辺の住民じゃねえだろが!! 勝手に代表面してんじゃねえ!!」
「異世界転移後、この国の為に尽くしてくれてる自衛隊とイギリス軍に失礼だろうが!! 恥をしれ!!」
完全にフルボッコにされたデモ隊は負けじと拡声器を使い言い返す。
「皆さん聞きましたか!? ああ言う人達が日本を戦争に、破滅の道へと誘ったんですよ!! こんな人達に負けてはなりません!! 自衛隊廃止、日英同盟の破棄、高市内閣の総辞職を勝ち取るまで一致団結して戦い抜きましょう!!」
「「「おおー!!!」」」
30人のデモ隊による抗議は続いたものの、彼等に共感する者は現れず、むしろ周囲から批判や罵声の嵐を受ける事になるのである。
東京都福生市航空自衛隊・イギリス空軍横田基地
来賓席
「今日は日本国と英連邦王国による航空部隊の視察か・・・・」
「民間機でありながら、あれだけの物を作り上げるのだ・・・軍用機となればどうなるのか・・・・」
魔戦騎士団長アバドンと飛行艦艦長シエドロンは完全に戦意喪失している。
「これより、航空自衛隊並びにイギリス空軍の戦闘機、ユーロファイタータイフーンが離陸致します!! その勇姿を是非目に焼き付けてください!!」
会場内にアナウンスが流れ、一気に歓声が上がる。格納庫の手前には4機のユーロファイタータイフーンが待機しており、パイロットが乗り込むのを整備士が待っていた。
「離陸前に、ユーロファイタータイフーンを操縦致します、パイロットをご紹介致します!! 一番機を操縦致しますのは、航空自衛隊第一飛行教導団所属、小栗闘子一等空佐です!!」
パイロットスーツを身に纏い、格納庫から走って登場する様子が会場内に設置された大型ビジョンに映し出される。伝説のエースパイロットの登場に会場内は更に盛り上がる。
「おおお!!」
整備士に画面に映し出されている事を指摘されたのか、オグリがカメラの方に向くとビシッと敬礼し、その後慣れた手付きでタイフーンに乗り込んで行った。
「続けて二番機を操縦致しますのは、同じく航空自衛隊第一飛行教導団所属、内闘也一等空佐です!!」
オグリと同様に伝説のエースパイロットとして有名になっているウッチーの登場に会場は大盛りあがり。伝説のエースパイロットが2人も参加しているのだ。盛り上がるなという方が無理である。真面目なオグリとは対照的に、ウッチーはピースサインをしてからタイフーンに乗り込んでいく。
「続けて三番機を操縦致しますのは、イギリス空軍カルトアルパス防空隊所属、ハイネ・オストフルス中佐です!! ムー海軍航空隊より出向中のエースパイロットです!!」
オレンジ髪のイケメンの登場に女性陣から黄色い歓声が上がる。その姿はまるで某核兵器を平気で撃ちまくる遺伝子操作が当たり前のロボットアニメに登場していた男性キャラを彷彿とさせる。更にハイネがカメラに向かってウインクなんかしたもんだから、更に黄色い歓声が上がる。ハイネは笑顔でタイフーンに乗り込んだ。
「最後に四番機を操縦致しますのは、同じくイギリス空軍カルトアルパス防空隊所属、ラスティ・マッキンリー改め、ラスティ・オグリ少佐です!! ムー空軍より出向中のエースパイロットです!!」
ハイネとはまた違ったオレンジ髪のパイロットが登場。やや幼さも残る童顔のパイロットにまた違った黄色い歓声が上がる。ラスティは事前に書いていたフリップをカメラに向ける。
「本日は航空祭にお越しいただき、本当にありがとうございます」
「私事ではございますが、ラスティ・マッキンリーは小栗一等空佐と結婚し、ラスティ・オグリに改姓致しました」
「また、本日は小栗一等空佐の自衛隊として、戦闘機乗りとしてのラストフライトになります」
「伝説のエースパイロットの最後の勇姿をどうか」
「目を離さずにご覧ください!!」
「俺も小栗一等空佐の最後に相応しい飛行を披露します」
「小栗一等空佐、貴方が俺の教官で良かった」
「どうか、再就職先でも飛び続けてください」
「愛してる」
伝説のエースパイロットが引退する。その事を知った航空祭参加者は一斉にカメラを向ける。最後の勇姿を見届ける生き証人となる為に。
「それでは、いよいよ離陸します!!」
オグリのタイフーンを先頭に順番に離陸していく。各機の垂直尾翼には独自のマークが描かれており、誰の機体かが瞬時に分かるようになっている。
「まずは一糸乱れぬ編隊飛行をご覧頂きます!!」
空中で編隊を整えた各機は横一列に並びながら基地上空を飛行する。
「は、速すぎる!!」
アバドンはそう叫んだ。
「あんな速さで飛行されては、飛行艦の対空砲では絶対に捉えられないぞ!?」
シエドロンの脳裏には、速すぎるユーロファイタータイフーンにより、一方的に攻撃される飛行艦の姿が浮かぶ。
「仮に数が少なかったとしても、あんな速さで飛行出来るのだ・・・・弾切れになれば速やかに基地に戻り補給して再度出撃、弾切れになったらまた戻り出撃・・・・それこそローテーションを組めば半永久的に攻撃出来てしまう・・・・それも一方的に!!」
「因みになンだが、今回は住宅地上空ってことで、あれでも速度は抑えてるンだよなあ〜」
「ダニィィ!?」
「シュワット?!」
急遽案内役に加わったアキラがシエドロンにそう補足する。
「ほら、見てみるンだな。これが防衛省が公式に発表している、ユーロファイタータイフーンの能力だ」
予め用意されていたユーロファイタータイフーン航空自衛隊仕様の資料をアバドンとシエドロンに見せるアキラ。2人は食い入るように資料に目を通し、何回も上空のタイフーンと見比べている。
(ま、俺はあくまで海上自衛隊だから、専門じゃないンだけどな)
「おお、折り返しながら並び順変更か・・・簡単なように見えて難しいんじゃなかったっけ?」
「普通にぶつかる可能性があるからな、アレ。しかも今回はかなりの近接飛行なンだよなあ」
アキコとアキラの発言を聞いたアバドンとシエドロンは改めて上空のユーロファイタータイフーンを見つめた。基地上空の端にさしかかり、左側のオグリ機、ラスティ機は左旋回、右側のウッチー機とハイネ機は右旋回しながら折り返し。その途中に並び順を変更していた。
「な、なんて機動性だ!! あれでぶつからないのか!?」
「日英のパイロットは化け物か!?」
続けてアナウンスが入る。
「続けて、日英両国の国旗のカラーを模したカラースモークを噴射致します!! 誰がどの色を出すのかを予想してみてください!!」
「カラースモーク?」
「一体どういう演技だ?」
アバドンとシエドロンは疑問に思いながら空を見つめる。すると、赤、青(この色だけ2機)、白のスモークを出しながら4機のタイフーンが基地上空を飛行する。オグリ機が赤、ウッチー機が白、ハイネ機とラスティ機が青のスモークを出す。
「あの色には何の意味があるのだ?」
アバドンはアキラに尋ねた。
「我が国の国旗は赤と白、イギリスの国旗は赤、青、白から構成されているンだ。丁度赤と白が被ってるから、ああなったンだろうな」
「なんと・・・しかし、カラースモークなんて、考えた事もない・・・・当にお祭り用の演出。そんな余裕すらあるというのか・・・・・」
「ん? なんだ?」
シエドロンは両端を飛行していた2機のタイフーンが編隊を離れたのに気付く。
「一体何が始まるんだ?」
すると両機は互いに進路を変え、互いに相手の機体に機首をぶつけるかのように飛行する。
「お、おい!! ぶつかるぞ!?」
シエドロンはアキラにそう叫んだ。しかし、アキラは表情を変えない。他の案内役らも同様だ。
「・・・・・な、なんと・・・・・」
今当にぶつかる!! という寸前で互いに右旋回しながら衝突を回避する。それも同時に、ほぼ同じ速度である。明らかに予定された飛行であった。
「あれは誰が操縦しているのだ!?」
「右側から来たのは小栗一等空佐の一番機、左側から来たのは内一等空佐の二番機だな。あの2人は本当に息が合ってるンだよなあ。お、またやったな」
再度ギリギリでぶつからずに回避するオグリ機とウッチー機。その間ハイネ機とラスティ機は基地上空を旋回して待機する。
「さて、始まるな。彼奴等の本格的な曲芸飛行が」
「「え?!」」
これだけでも相当な曲芸飛行では?!と言わんばかりのアバドンとシエドロン。
「それではこれより、小栗一等空佐と内一等空佐による、曲芸飛行をご覧頂きます!!」
場内アナウンスが流れ、皆の視線がオグリ機とウッチー機に向けられる。因みにハイネ機とラスティ機はここまでの予定である為、着陸に移る。
「まずはハートループをご覧頂きます!!」
オグリ機が赤いスモークを出しながら空にハートを描いていく。そして完全なハートが完成したタイミングを見計らってウッチー機が白いスモークを出しながらハートのど真ん中を貫いていく。
「続けて背面飛行をご覧頂きます!!」
続けてハートを貫いたウッチー機はそのまま背面飛行に移る。一方のオグリ機はウッチー機に覆いかぶさるかのように背面飛行を披露する。
「背面飛行だと!? しかも完全に垂直に並行しながらだと?!」
「何故あれで墜落しないのだ!? 飛行艦に背面飛行なんて無理だ!!」
「ははは、楽しンどけよ。地獄に行ってもこンな航空ショーは見られねえからな」
やがて両機は左右に旋回し、水平飛行に戻る。通常のパイロットであれば、背面飛行なんてしたら平衡感覚を喪い、そのまま地上にご挨拶しても可笑しくない。だが、クルセイリースの調査団らはそんな事を知らない為、オグリやウッチーのようなパイロットが日英にはうじゃうじゃいると錯覚する。
(こんな化け物が沢山いてたまるかよ・・・・)
(ルーデル閣下も異世界転移してるだろこれ)
(でもウッチーはどちらかと言うとガーデルマンじゃない?)
(足して二で割ったら何故か倍になってたって感じかな?)
アキラ、シン、アキコ、キリトの4人が目で会話をする。一方の葵はクルセイリースの文官らに解説を行っている為会話には加わっていない。
「アメージング!!」
「クール!!」
案内役の筈のイギリスやカナダの案内役も航空祭に夢中になっていたのは公然の秘密である。
「続けてテールスライドを披露致します!!」
その後、オグリ機とウッチー機はハンマーヘッド、キューバンエイト、ナイフエッジと、予定されていた曲芸飛行を一通り披露する。
「あとはちゃんと着陸してよね・・・・」
来賓席で2人の事を見守っていた横田基地司令官の日和田空将はそう願うように呟いた。
「・・・・・あの馬鹿共・・・・マジでやりやがった・・・」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる日和田司令。それに反して会場は最大の盛り上がりをみせる。
「ななななななんとー!! あれは飛行中に敢えて一瞬だけエンジンを切ることで急減速して一瞬の内に敵機の背後を取る小栗一等空佐の切り札、オグリ・スペシャルだー!!」
敵機役のウッチー機の背後を一瞬にして取ったオグリ機。在りし日の対グラ・バルカス帝国戦では何回かこの技を使って敵の度肝を抜いてみせたこともあるという。因みに使えるのはオグリとウッチーのみであり、ムーでは2人に憧れた若きパイロットがエンジンの再始動に失敗して失速。緊急脱出には成功したものの、高価なタイフーン一機を喪失する等の損失を出していた。無論説明書には絶対にやるな!と書かれている。
「はあ〜、どうせ今日で終わりだからと好き勝手して・・・・」
呆れた日和田空将を他所に会場を大盛りあがり。その後両機は何事もなかったかのように着陸。格納庫へ移動する際には惜しみない拍手が送られた。
「なんて事だ・・・・・日本国と英連邦王国の空軍は強過ぎるではないか・・・・」
「空軍でこれなのだ・・・・海軍と陸軍も同様であろうな・・・」
アバドンとシエドロンは意気消沈する。最強だと信じていた自国の軍隊が全く歯が立たないと分かったからだ。
「明日は海上戦力を視察して貰う事になってるンでな。横須賀まで移動して貰うぜ」
アキラに促され、アバドンとシエドロンはバスへと乗り込む。この日の夜は海上自衛隊・在日英軍横須賀基地内に設けられた仮設の宿舎に宿泊することになった。
神奈川県横須賀市海上自衛隊・在日英軍横須賀基地
仮設宿舎
「仮設・・・・仮設なんですよね?」
「そうですけど、何かご不満な点でもございましたか?」
「いえ、本当に仮設なのかな・・・・と。確かに帝国ホテルに比べたら明らかにグレードは下がっていますが、仮設の定義が分からないくらいには品質が良いと感じて・・・・」
魔法技師テタルは案内役の1人である葵に率直な感想を述べる。
「貴方方における仮設の定義は存じ上げません。ですが、少なくとも我が国の定義ではこれは仮設です。今回ご用意致しましたのは、地震や台風等の大規模災害で家を喪った方々に提供する仮設住宅に毛が生えた程度の物です」
「?! つまりは、日本国の民はこの仮設住宅より良い住宅を持っているという事ですか!?」
そんな馬鹿な・・・・と言わんばかりのテタル。
「これ程の品質の良い住宅が仮設住宅、即ち通常の住宅の劣化版というのが信じられないのです。我が国ならこれ程の住宅に住めるのはごく一部の上流階級だけです!!」
完全に狼狽するテタルを他所に、葵ははっきりとした口調で事実を淡々と伝える。
「ですが、これが現実です。横田基地から此処までに至る途中で見て来た住宅街を見れば一目瞭然でしょう」
「・・・・・・う、うむ」
「では、ゆっくりと。何かありましたら、そこのベルを押してください。誰かしらが対応致します」
葵は退室する。この日の夜もクルセイリース大聖王国の調査団は緊急会議を開催。会議内容は無論盗聴されているのだが、そんな事を気にしている場合ではない。
「絶対に日本国と英連邦王国を敵に回してはならん!!」
「自分もアバドン殿と同感です。明日は海軍を視察ですが、あの日英の事。我々の想像を超える兵器を見せつけてくる筈です!!」
アバドンとシエドロンの狼狽ぶりに魔法武具士アニーナも動揺する。
「アバドン様にシエドロン様まで・・・・・」
その後も会議は続いたが、とにかく情報を集め、日英とは共存の道を探る。以上の内容で決着した。
海上自衛隊・在日英軍横須賀基地
医務室
「お? 愛しの葵ちゃん、おかえり。心臓の調子は大丈夫なの?」
「もう! それは小学生の時の話だって!!」
ほっぺを膨らませて怒りを表現する葵。
「ごめんごめん、ついつい昔の癖でそう言ってしまうんだ。それで、どうだったの? クルセイリースの連中は?」
「予想通り狼狽してるわ。今日の空自と英空軍による演習はかなり効果があったみたい」
「さて、明日の観艦式はどうなるかな? しかし、観艦式なんて異世界転移以来開催されて来なかったから、本当に久々なんだよね」
「クルセイリースの調査団は護衛艦「いずも」に乗艦して観艦式に参加する予定なんだっけ?」
「それだけじゃない。今回の観艦式は皇族方も乗艦される。練習艦「かしま」に将来の天皇が乗艦される。つまりは御召艦という訳だ」
「御召艦・・・・実に1940年以来ね。しかし、皇族方を乗艦させる辺りに今の総理の考えも透けて見えるわね」
「我が国の正統性の証である男系男子による継承は揺るがないという事を内外に示す事になるしね。ヒロシ先輩は明日大丈夫かな? ガッチガチになると思うけど」
「ケントも付き添うから何とかなるわよ」
「だと良いけどね」
ケントは隣に座った葵の腰に手を回して抱き寄せる。
「・・・・・・・ちょっと疲れてるね。心臓の音がちょっと変だし」
「・・・・・・・(ケントが抱き寄せるからでしょ!! 変なところで鈍感なんだから!!)」
「今日は早めに寝てね、愛しの葵ちゃん!」
「・・・・・・・うん、ありがとうケント」
医務室を出た後、自室に向かう廊下を歩きながら葵は心の中でこう呟いた。
「・・・・・・・ケントの馬鹿・・・・黙ってたらバレないのに・・・・・真面目なんだから・・・・・」
一方の医務室では、
「・・・・・・・危ない危ない、仕事中なのに葵ちゃんとやりそうになっちゃった・・・・我慢我慢」
案内役用仮設宿舎
「案内役も仮設宿舎で寝泊まりか・・・・」
「何か不満なの? 私と一緒の部屋じゃない」
「いや、アキコと一緒の部屋なのは不満じゃないけどさ・・・・」
仮設宿舎のベッドの上で寝間着姿で横たわるシン。それに対してアキコは寝間着姿でひたすらにパソコン作業をしている。
「これじゃあ、まるで罰ゲームじゃないか・・・・窓の外からは何も見えないし」
「案内役と言えど、自衛隊から見れば私達は部外者。軍事機密の塊である基地内部を自由に歩かせる訳にも、見せる訳にもいかないしね」
予め淹れておいたアイスコーヒーを口に含むアキコ。
「まあ、明日は観艦式でアキラの艦に乗艦。居心地が悪いって事はないんじゃない?」
「ついちょっと前まではヒロシの艦だった艦が今はアキラの艦か。時間の流れを感じるな・・・・」
「確かに・・・私達も年を取ったわね・・・・」
パソコン作業を完了したアキコはデータを保存。アイスコーヒーを飲み切った彼女はシンの隣に座った。
「・・・・・・シン、私は我慢出来ない。異世界転移してから、国の為に奉仕して、奉仕して、奉仕して来たわ。私の欲求も、貴方からの好意も噛み殺して・・・・」
「アキコ・・・・・」
アキコが考えている事を察したシンは優しく彼女を抱き締める。
「・・・・今は駄目だよアキコ・・・まだボク達の子は1歳にも満たないんだ。まだ我慢しよう。今は・・・まだ・・・」
よく見れば、何時もは常に気丈に振る舞う彼女とは思えない、弱気の表情だった。この日はシンはアキコの気が済むまで彼女を優しく抱き締めた。翌朝には復調し、何時もの彼女に戻っていた。後にケントの診断では、
「過労による心身の乱れだね。ぶっちゃけ、ゆっくり休んだ方が良いっすよ? このままじゃ本当に死にますよ? 過労とストレスと我慢のし過ぎで」
とされた。診断結果を受け、それなりに休みたかったアキコだったが、人材不足である外務省は、
「駄目です」
との回答があり、諦めて翌日以降も外交官として勤務することになるのである。その結果、後日こんな電話でのやり取りが起きたのである。
『お姉様は何時休めるの!? 育休は?! 働き方改革は??!!』
「ごめんね・・・・アイ・・・霞ヶ関には労基法が存在しないのよ」
『このままじゃ、お姉様の子が私を母親と勘違いして育っちゃうよ!!』
「いや、本当にごめん・・・・でも私も手が離せないというか・・・最早奴隷というか・・・・ごめん」
『お姉様が何で謝るの!? どうして自分の身体を大切にしてくれないの?! どうせ今日もカロリーメイトと0秒飯で済ませたんでしょ!!』
「よくご存知で」
それでも育休は貰えなかったそうである。
「霞ヶ関の闇はマリアナ海溝より深いからね、仕方ないわね」
「目が死んでる・・・・・」
幹部自衛官用宿舎
「彼奴等交尾しようとしたんだ!! 独り者の俺を放置して交尾しようとしたんだ!!」
「明日皇族方をお迎えする御召艦の艦長らしからぬ発言なンたよなあ・・・・」
アキコとシン、ケントと葵がそれぞれイチャイチャしている中、未だに結婚していないヒロシとアキラは独り者同士で語り合っていた。尤も、アキラは最近アイと出来つつあるので、独り者卒業が近いのだが。
「だって!! 本当に交尾しようとしてたじゃん!!」
「交尾言うなよ。みっともないンだよなあ。未だにシンに漢として負けた事が受け入れられないお前は本当に哀れなンだな、いい加減前を向けよ」
「アキラはそうやってぐっさりと急所を抉ってくるよな・・・・」
「そうでもしないとお前が更に可笑しくなるからな・・・モグモグ」
「喋りながら饅頭を貪るな!!」
「これ美味い・・・モグモグ・・・ンだよ・・・・モグモグ」
「喋るか食べるかどちらかにしろよ!!」
「ああ、そろそろ俺も結婚すると思うから、独り者卒業が近いって事は教えとく」
「はああああ!?」
イギリス領カルトアルパス
カルトアルパス総督府総督執務室
「今頃、アキコとその愉快な仲間達は楽しそうにやってるんだろうなあ・・・」
「坊っちゃん、アッラー教の総主教がお越しになられました」
「うむ、通せ。ネート君は僕の傍に控えたまえ」
「ははっ」
ガチャリ、
「この度は偉大なる大英帝国のカルトアルパス総督、ハルト・スカーレット・アーサー・ハミルトン様にご拝謁する機会をお与え下さり、誠にありがとうございます。私はリグル王国におけるアッラー教の総主教、ラン・ラン・ルー総主教にございます」
異国の民族衣装を身にまとった白髪の老人が膝をつき、英国国王の代理であるハルトに拝謁する。
「ラン・ラン・ルー総主教、肩苦しい挨拶は結構だ。ささ、椅子にお座りください」
「では、お言葉に甘えまして」
事前に総督府側が用意した椅子に座るラン・ラン・ルー総主教。
「して総主教という事は、貴国の中ではかなりの上流階級であると思われるが、今回は如何なる要件であるか?」
「ははっ。この度は、リグル王国国王リグル23世より大英帝国との国交樹立並びに軍事同盟の締結を仰せつかりました為に参りました。こちらが国王からの国書にございます」
「・・・・・・・・・ほう、軍事同盟・・・・ですか」
いきなり軍事同盟の締結要請。何かあるな?そう判断したハルトは脳をフル回転させる。イギリスは世界各地に諜報部を派遣しているが、手の届かない範囲もある。南方世界の一つ、リグル王国のあるエルサレム島もまたイギリスにとって未知の領域の一つである。
「僕は、いや大英帝国は南方世界について断片的にしか知らぬ。アニュンリール皇国の勢力圏からやや外れた貴国の事は尚更だ」
「故に、私どもの方からも、御説明させて頂きたいと存じます」
本国がクルセイリース問題に対応する中、第一文明圏における大英帝国の拠点カルトアルパスで別の問題が起きようとしていた。
(続く)