病みつきになるやばげなチキンのあるコンビニ   作:ハピエン主義者

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「大晦日だ。今年の抱負を言うがいい。



 ...善し、言ったのであればチキンを食え。くぅぽんも...む?鮭?否、チキンだ。チキンを食え。
 年を越す前にチキンを食い、年を越してからチキンを食え。うまいぞ。外はさくさくでじゅぅしぃだぞ。
 年越しそばにチキンを添えると良い。すぱいすは全てを凌駕する。
 で、あれば買え。買うなら今だぞ。買うべきだ、買え。」



汝は先生(嚮導者)なりや?

 

「......」

 

 黙々とスパイスの入った袋を見つめ、手元の数字が分かりやすくまとめられているノートを握りしめている緋色の鳥(ふぁっきんくそばーど)ことヒーちゃん。

 どうやら今日はまだあの強盗(お客)以外に客は来ていないようで、店内の商品は全て十分に陳列されており、床もきれいなままである。文句の付け所はほんの少ししかないだろう。

 

 ...あの、店内どころか店の外にまで浸食しているヒーちゃん自慢のチキンに関しての広告以外は、だが。

 

 そうしてスパイスの黄金比率の配合を再度計算し始めそろそろ一時間ほど...気晴らしに「伊る」ことや「佐う」ことを視野に入れ始めたころ、ついに店の入口の独特な音が店内に響き渡った。

 

「いらっしゃいませ~♪」

 

 瞬時にレジ前に出現したヒーちゃんは先ほどと同じようにどこからどう見ても完璧な接客対応を行う。下手なサービスをしてしまってはチキンが売れなくなる...そういった現金な考えに基づいた打算的な行為だが、口に出さなければ悪影響が出ることはない。雉も鳴かねば打たれまいとはよく言うものだ。まあコイツは雉でもなんでもない害鳥だが。

 

“こんにちは~...あれ?ソラじゃない?”

 

 やってきたのはタブレットを片手に携えたヘイローのない大人だった。そしてその人物は店内をキョロキョロと見渡した後、ヒーちゃんを見て少し驚いたような表情を見せた。

 

「むっ、ソラ先輩とシフトで交代済みである。夜間は我がこの店を取り仕切る。」

 

“そうなんだ、まあ流石にお店が二十四時間営業でも店員さんが二十四時間働くわけじゃないよね...少し安心したよ。”

 

 大人はヒーちゃんの言葉に納得した様子を見せ、そして小さく“あの様子だったらやりかねないからね...”と言葉をこぼした。ヒーちゃんは大きくうなずいた。

 

“あっ、そういえばまだ君の名前を聞いてなかったな...名前を聞かせてもらってもいいかい?”

 

「善き哉。我が名はヒーちゃん。そのままヒーちゃんと呼ぶがよろし。」

 

“そう、よろしくねヒーちゃん。私はキヴォトスの外からやってきた先生だよ。よろしくね。”

 

 自分のことを先生と名乗る大人はヒーちゃんに向けて友好の印なのか、握手を求めるようにして手を差し伸べた。

 

「否、それよりも優先すべき問い有り。」

 

“あっ、そ、そうなんだ...ええと、その質問っていうのは?”

 

 先生はどこか肩透かしを食らったような気持ちになりながらも、その質問とやらを聞く体勢に入る。

 

 そして差し出された手を取ることのなかったヒーちゃんは、代わりに全く感情の読み取れない瞳で先生の目を見据えていた。

 

「では質問しよう。汝は先生であるか?それとも──」

 

 既に数多の結果(バッドエンド)を識っていた緋色の鳥は、少しの動揺も、また迷いもなく言葉を淡々と綴った。

 

「──滅びの嚮導者なりや?」

 

“...え?”

 

 先生は固まり、次の言葉を発するのに数秒の時間を要した。

 しかしそれも当然だろう。なにせ先生は今日着任したばかりで、銃社会のキヴォトスに関してはそこらへんの小学生以下の知識しかない。いきなり初日から命の危機に陥ったり、今のように深夜まで書類に追われてコンビニに赴いている。それだというのに初対面の店員から世界を滅ぼす指導者なのか?などと聞かれたら、当然思考は止まる。

 

“...その、滅びのきょうどうしゃ?っていうのがよくわからないけれど、私は生徒のみんなをしっかり導いていく大人であり先生でありたいと思うよ。...こんな答えで大丈夫かな?”

 

 その答えを聞いたヒーちゃんは数秒硬直する。そして動き出すと同時に、垂れ下がっていた先生の手を素早くつかんだ。

 

「なれば善し。では握手だ。」

 

 ガシッとつかんだその手を先生ごと揺れるほどのバカ力でブンブンと振り回し、そしてそのままホットショーケースの前まで引きずっていく...

 

「買え。」

 

“か、買えって...このチキンのこと?”

 

「是哉。買うべきだ、次回111円引きのくぅぽんもあるぞ。買え。」

 

“えぇ...”

 

 流石の先生もこのヒーちゃんの奇行には戸惑うばかりだった。様々なことがこの数分にも満たない時間で次々に起こりすぎて思考回路がオーバーヒート気味になっている。しかしそんな先生でも、ショーケース越しに見るチキンは思わず()()()()()()と思ってしまった。

 

「む、今このチキンに関心を示したな?では買え、買うなら今しかないぞ。期間限定、この店限定だぞ。買うべきだ。」

 

“う...ぐぐぅ...”

 

 期間限定という言葉。そして現在の時刻は夜中の二時ごろ、ちょうど小腹が空く頃になった時間に目の前の食欲をそそるチキンを知覚してしまった先生には、この誘惑から逃れるすべはなかった。

 

“じゃ、じゃあ...チキン一つ、お願い...”

 

「了解、である。444円になります。」

 

 聞きたかった言葉をついに聞き出すことができたヒーちゃんはすぐさまショーケースからチキンを取り出し、専用の袋に詰め、先生の目の前に衣が削れないように細心の注意を払いながらチキンを置いた。

 相変わらずの無表情だが、見る人が見れば「うれしそう」と気づくくらいにはヒーちゃんのテンションが上がっていた。

 

“カードで...”

 

「はい...こちらくぅぽんです。お買い上げありがとうございました~♪」

 

“ああ、買っちゃった...”

 

 マニュアル通りの笑顔で接客を終え、やるべきことを終えたヒーちゃんは先ほどと同じようにスパイスの配合をする...かのように思われたが、会計を終え予定していなかったそこそこの出費にうなだれる先生の前に再度立っていた。

 

「食す前に一つ、先生、その()()()()()を我に貸せ。」

 

“このシッテムの箱のこと?悪いけど、多分私以外には扱えない...あっ!”

 

「...」

 

 先生の忠告を無視して無理やりシッテムの箱を手に取ったヒーちゃんだったが、先生の言う通りいくらタブレットを触っても何も反応がない。そのまま数十秒ほどいじくりまわしていたが、結局何もできずにいた。先生がヒーちゃんに諦めてもらおうと声を掛けようとしたところで、不意にヒーちゃんが目を閉じた。

 

「んう...先生?...ハッ!?え、だ、誰ですかぁ!?」

 

「起床したか、我が名はヒーちゃん。ではチキンを買え。」

 

「何なんですかこの子はー!!??」

 

 眠たげに目をこすっているアロナだったが、目の前でいきなり命令口調でチキンを買うように促す謎の人物の出現によって完全に目を覚ましてしまったようだ。困惑に満ちた大声を出している。

 

“...な、何が...?”

 

 本来は生徒に見えないはずのアロナの姿があろうことかヒーちゃんには見えているらしい。そもそもどうやってシッテムの箱を起動したのだとか、なぜヒーちゃんにはアロナが見えているのかだとか色々と聞きたいことは山ほどあるが、ひとまずは画面にチキンを押し付けられそうになっているアロナの救出のため、先生は動くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“...で、どうやったんだい?ヒーちゃん。このシッテムの箱は普通では起動しないし、アロナの姿が見えることもないんだけど...”

 

「...?電源を入れただけだが?」

 

“そうなんだけどそうじゃないねぇ...”

 

 なんとかアロナをチキン(油の塊)から救出した後、先生はヒーちゃんを椅子に座らせ、自身もそこらへんの椅子に座り今回の事情についてを聞きただしていた。だがヒーちゃんは誤魔化す様子もなく、ただ当たり前のように語るのみで特に有益な情報はない。

 

 アロナは目の前のヒーちゃんという不可解な存在に警戒しているようだ。シッテムの箱に映る端の方でこちらを伺うように見ている...視線はほとんどチキンの方に釘付けだが。

 

「...!先生、そんなことは些事だ。それよりも我は目の前の客を相手しなければならない。」

 

“些事って...ん?お客さん?私たち以外には誰もいないようだけど...”

 

 ヒーちゃんの言葉を聞くなら店内に先生以外の誰かがいるはずだが、店内にあの独特な音楽が流れていない。つまりは誰も入店していないということだ。ではお客とはいったい...?

 そこまで考えていたところで、先生はある一つの可能性を見つけた。見つけてしまった。

 

“まさか...アロナのこと?”

 

「いやいや、まさかデータの塊である私を客としてみているわけ...」

 

「そうだが?」

 

「何考えてるんですか!!??」

 

 店の中に、一人の少女による悲鳴とも呼べるようなツッコミが響き渡った。

 

 





・先生
ヒーちゃんとの会話で不思議系な子なのかな?と思っていたところ、シッテムの箱に干渉したことで一気に正体不明のヤバい子に格上げされた。でもチキンをひたすらに推してくるから、このチキンになにか秘密が...?と訝しんでいる。当然普通なわけがない。

・アロナちゃん
好きな色は青。先生たちも大好きですよね...?
ヒーちゃんを警戒しつつも、手元のチキンが気になりすぎている。
ちなみにこの後とんでもない”赤”を体感する。




タイトル(Title):SCP-161-JP 伊れない病
著者(Author):undercat
出典(Source):http://scp-jp.wikidot.com/scp-161-jp
ライセンス(License): CC BY-SA 3.0
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