<推しの子最終章>アクア生存ハッピーエンドIF 作:玉吉ふさじ
「アクア・・・ッ!本当に良かった・・・本当に良かったよう・・・」
「・・・心配させてごめんな・・・ルビー・・・」
アクアが目を覚ました後、すぐに家族に連絡が行き、しばらくして宮子とルビーが病室に飛び込んできた。二人はアクアの無事な姿を見るなり安堵の涙を流し、ひとしきりアクアの無事を喜びあって、気持ちが落ち着いたところで宮子は病院の手続きや関係者への連絡があると言って席を外した。病室にはアクアと、変わらず泣きじゃくるルビーの二人だけが残された。
「バカぁ・・・ッ無茶なことばっかしないでよぉ・・・っ!私が知らない間にこんな大変なことになってて・・・死にそうになってて・・・結局ライブも来てくれなかったし・・・!」
ルビーは母親譲りの美しい顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、アクアの胸元で嗚咽交じりの声をあげている。
アクアは「それも・・・ごめん」と妹の頭に手を載せた。
「怖かった・・・!また・・・っまた私の大切な人が私の前からいなくなっちゃうのかって・・・っ」
「・・・そうだよな・・・母さんのことも思い出させちゃったよな・・・」
「そうだよぉ!あの時だって・・・アクア一人でママと一緒にいて・・・私にママが死ぬところを見せないように・・・」「
自分はこれまで、妹を悲劇から遠ざける為にあらゆる手段を実行して来た。自分一人が暗闇を歩いても、ルビーが光の道を歩けさえすればそれでいいと、そう思っていた。今でもそれが間違っていたとも思わない。しかし、思えばそのことがまた妹を幸せなだけの世界に一人で置き去りにしてしまっていたのではないだろうか。その罪は、一つ一つ噛みしめながら、妹の人生に兄として寄り添うことで償っていかなくては…
「アクアはいつもそう!私の為にいつも自分一人で傷つこうとして・・・!私、そんなの全然嬉しくない・・・」
「そうだな・・・」
ルビーの訴えに、素直にうなずくアクア。と、そこで、アクアの耳に馴染みのない言葉が入ってきた。
「せんせーの時だって・・・死体を見つけた時私一人置き去りにされたような気になったし・・・!」
「・・・?」
どうやらルビーにも自分の知らない悲しい思い出があったらしい。いや、双子とはいえ四六時中一緒にいるわけではないので当然ではあるが、この際少し詳しく聞いておくか・・・
「先生?ああ、雨宮五郎・・・さんだっけ。俺は良く知らないけど、多分すごく親しかった人だよな?」
「・・・え・・・?」
ルビーは、その、アクアが何気なくふいに聞き返した言葉に、自分が泣き喚いていたことも忘れ、あっけにとられて思考を停止する。
「宮崎でご遺体を見つけた時のことだろ?そういえばお前、いつの間にあんな離れた場所に住んでいた医者と知り合ったんだっけ?」「は・・・?何言ってるの・・・?」
ルビーは、兄の言葉に、兄の中に、なにか、何か言いようのない違和感のようなものを、感じた。
「何って・・・だから・・・雨宮さんについて・・・お前はすごく悲しんでいたけど、俺は会ったこともなかったからな」
ルビーの中に、小さな不安が、現実になっては欲しくない嫌な予感が少しずつ、少しずつ大きくなっていく。
「えっちょ、ちょっとやめてよ・・・あははっ・・・こんな時に冗談なんて趣味悪いよ・・・?せんせー・・・?」「?先生って俺のことか?なんで・・・」
なぜ、何故、兄と。いや、なぜせんせーと話が噛み合わないの?
「え・・・だって・・・お兄ちゃんは・・・せんせーでしょ・・・?雨宮・・・五郎先生だよね・・・?私に合う為に・・・一緒に生まれ変わってくれた・・・」
その言葉に、アクアは目に見えて困惑の色を示す。
「・・・?何言ってるんだ・・・?おい、ルビー、大丈夫か?生まれ変わった?ちょっと言ってることがよくわからないけど・・・俺が寝ている間に何かあったのか?具合悪いなら念の為一緒に診察を・・・」
・・・あかねちゃんから、カミキヒカルが、私を殺そうとしていたと聞いた。
・・・アクアが、それを止めてくれたってことも。
・・・せんせー?
・・・せんせーは・・・もしかしてせんせーは・・・私を守るために・・・カミキを連れて、
いっちゃったの?
「・・・!?ルビー・・・?」
突然両掌で顔を覆い膝から崩れ落ちる妹の姿を見て、アクアは思わずベッドから身を乗り出した。まだ塞がり切っていない腹の刺し傷からは鋭い痛みが走り、ずっと寝たきりだった身体は鉛のように重く思うようには動かない。それでも、床に力なくへたり込む妹の頭をその胸に抱え込んだ。「アクア・・・アクアぁ・・・!」ルビーの大きな瞳から流れる大粒の涙が、アクアの病院着の胸元を濡らしていく。
「いっちゃった・・・せんせーが・・・せんせーが・・・またいなくなっちゃったよぉ・・・っ」
何を言っているのか、妹の言葉の意味がアクアには理解できなかった。しかし、妹に何か、尋常ではないことが起きているのだけは理解した。
「いつも・・・そう・・・!私の大切な人は、私の前からいなくなっちゃう・・・‼」
そんなルビーを、放っておけるわけはない。アクアは重く鈍い動きしかできない身体を気持ちで支えながら、それでもはっきりとした強い声を絞り出した。
「・・・っ!!大丈夫・・・大丈夫だルビー・・・!!何があっても・・・俺が絶対に守ってやる!お前の力になる・・・!」
ルビーが何を言っているのか、今のアクアにはほとんど理解できない。しかし、何か大きな悲しみに晒され、深い心細さと絶望の中にいるのだけはわかる。
「俺は絶対にいなくならない!ずっとお前の側で、お前が幸せになれるようにずっと一緒にいてずっと守るから・・・っ!」
自分に言える精一杯の言葉を必死で探しながら、アクアはルビーのことを強く、しかしとてもやさしく抱きしめた。
「うっ・・・ひぐっ・・・」
ルビーはアクアのその拙く手慣れない、年相応な必死さに、「そこ」から愛する人の存在がいなくなってしまった実感を噛みしめながら、それでも確かに今「そこ」にいる大切な家族の存在をその身に感じた。そして
「お・・・」
「おにぃちゃぁん・・・っ」
もう、それ以外ではなくなってしまったアクアに、確かめるようにそう、呼び掛けるのだった。
---------------------------------------------------------------------------
僕が思い出せないことの二つ目は、自分のここ最近のルビーに対する度を越した愛情表現だ。
確かに僕には元からシスコンの気はあったし、アイが死んでから過保護さは加速した気はするけれど、それにしたって「15年の嘘」の撮影中からはいくらなんでも度を越している。まるで前世で生き別れた恋人同士があの時に念願の再会を果たしたのかとでもいうくらいに、深くとめどない愛情に心を満たされ、過剰なまでの甘やかしやボディタッチまでしていたような気がする。
のだが・・・困ったことに僕は自分があの時「何故自分がそんな風になってしまったのか」が一向に思い出せない。撮影で落ち込んでいたルビーを助けて兄妹の絆が深まりでもしたのだろうか?これに関してはほんの数か月前のことなのに思い出せないのは明らかに不自然である。いや思い出せないことそのものも重要だが、それにより生じたルビーとの温度差のようなものは、何かルビーを深く悲しませてしまったような気がする。大切な思い出を共有できていないような・・・。そちらもかなり問題だ。
ただまあ、それでも、あいつが望む限り、僕がルビーをこれからも守り続けていくという決意には、何も変わりはない。あいつは、僕の大切な、この世でたった一人の妹なんだからな。