ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第15話:お世話主任、八雲

「行ってきまーす」

 

使い魔の森で起こった合成獣騒動から翌朝。何時もの登校時間より早く、八雲は学園に向かっていた。

 

『ちょっと早いんじゃないか?』

 

「いいんだよ。くぅろの餌やりもしないとダメだしな」

 

昨夜、使い魔の森で出会った子犬……くぅろ。

 

魔方陣ジャンプ終了間際にくぅろが着いてきた際、八雲はリアスにくぅろのお世話主任と指名された。そしてその初日、八雲は早い足取りで学園の旧校舎に向かっていたのだ。

 

「餌はドッグフードでいいよな?」

 

『でも、あんな森で出会ったんだろ? 市販の餌を食うかどうか……』

 

「餌の用意はリアス部長がしてくれるらしいしな。もし食べなきゃ、皆に相談してみるか……」

 

それから学園に到着する迄、八雲はコゲンタと戯れない会話をするのだった。

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

『お?』

 

「あら?」

 

学園到着後、八雲は部室のある旧校舎の入り口に到着しては朱乃と出会った。

 

「おはようございます、朱乃先輩」

 

『おーっす、朱乃ねーちゃん』

 

「ごきげんよう、八雲くん、コゲンタちゃん」

 

「朱乃先輩も、くぅろが気になって来たんですか?」

 

「ええ。ザトゥージさんでも知らないと言われてましたから、私なりにあの子を調べてみようと思いましたので……」

 

それから八雲は朱乃と会話しながら部室前に到着すると、朱乃は部室の鍵を取り出しては解錠した。

 

「では、扉を開けますわね」

 

「すいません。――おーい、くぅろー」

 

入るなり早々くぅろを呼ぶ八雲。だが、返って来たのは別の声だった。

 

「キュイー」

 

その者は、昨日アーシアの使い魔となったばかりの蒼雷龍の子供……ラッセーだった。アーシアの使い魔ゲットの祝杯の後、くぅろが寂しくならない様にとアーシアが残しておいたのだ。

 

そして、ドラゴンにも懐かれている八雲にラッセーは八雲の頭に乗ると、八雲はラッセーの頭を撫でながら言う。

 

「やあ、ラッセー。おはよう。くぅろは何処にいるんだ?」

 

言葉が通じたのか、ラッセーは八雲から離れると、ソファーにある小さく盛り上がった1枚の毛布に向かった。因みにこの毛布はリアスがくぅろに用意してくれた物である。

 

「……あれ?」

 

『何だか……』

 

「おかしいですわね?」

 

すると、八雲達はある事に気付いて小声で話す。

 

「あの盛り上がり方……。まるで人1人の大きさですよね?」

 

そう……八雲の言葉通り、“毛布の盛り上がり方がおかしい”のだ。丸まっている状態ではあるが、その大きさは子犬の大きさではなかったのだ。

 

「あの後は皆帰りましたよね?」

 

「ええ。同時に部室を後にしましたし……」

 

『じゃあ、誰かがこっそりと戻って一緒に寝たんじゃねーのか?』

 

「こっそりって、部室の鍵は限られるだろ?」

 

「それに、鍵は部長と私が管理を……」

 

その言葉に、八雲達は会話を止めては視線を毛布に向ける。

 

「じゃあ、今いるのは部長かしら?」

 

『でも朱乃ねーちゃん。イッセーの朝練の時にはいたぜ?』

 

「……………」

 

それから暫く八雲達は考えたが、八雲は意を決して毛布に近付く。

 

「取り敢えず起こしましょう。何時までもこのままじゃあいけないし……」

 

そして、八雲は勢いよく毛布を取り除いた。

 

「おーい。誰だか知らないけど起き……ろ……よ……」

 

だが、それがいけなかった。

 

「どうかしました――」

 

動きが止まった八雲に朱乃も近付くが、その理由が分かった。

 

「……すー……すー……」

 

そこに眠っていたのは、生まれたままの姿の少女。

 

健康的な肌色、宝石の様に綺麗なショートの黒髪、華奢な体に似合うスラリとした手足、それに対する大きな胸。

 

そんな光景を見て、誰が思考を止めないだろうか?

 

否、断じて否だ!

 

『……そろそろ思考を戻したらどうだ?』

 

「はっ……!?」

 

コゲンタの言葉に止まっていた思考を戻す八雲。だが、それより一瞬だが、八雲の目の前に眠っている少女の目がゆっくりと開いた。

 

「……………」

 

寝惚け眼を擦り、上半身を起こす少女。どこか既視感を感じる光景だが、今はそれどころではない。

 

「……………」

 

「や、やあ……」

 

そして、少女の視線が八雲を捉えた瞬間、それは起こった。

 

「ご……」

 

「ご?」

 

刹那、八雲は倒れてしまった。無論、少女の裸を見て倒れた訳じゃない。

 

『おい、大丈夫か?』

 

八雲は覆い被される形で少女に抱きつかれ、床に倒れてしまったのだ。

 

「……………えーっと、どなたです――」

 

「御主人様ぁ!!!」

 

「……………へっ?」

 

『……何……だと……?』

 

「あらあら……」

 

唐突な発言に、八雲は止まってしまう。無理もない。こんな姿の少女に言われては、思考も止まってしまうだろう。

 

「御主人様、御主人様、御主人様、御主人様、御主人様~♪」

 

そんな中、少女は甘える様に八雲の体を頬擦りし、御主人様と連呼するのだった。

 

「……………うふふ」

 

その際、朱乃は怖い位に微笑んでいた……。

 

 

 

 

 

 

「なるほど……」

 

あの後、朱乃はリアスに連絡しては部室に来させると、やっと少女に解放された八雲は事情を話していた。

 

「つまり……誰も入れない筈の部室に、この子が裸のままで寝ていた。それに伴って、くぅろも行方不明なのね?」

 

「はい、部長」

 

リアスの言葉に朱乃は頷いた。因みに八雲はと言うと――

 

「……………」

 

「御主人様~♪」

 

少女に自身の腕を抱かれてしまい、顔を赤くしながら視線を逸らしていた。尚、少女の現在の姿は毛布に身を包んだだけであり、毛布越しから伝わる女性特有の柔らかさが八雲の緊張を更に高めていた。

 

すると、喋れない状況の八雲にコゲンタがリアスに話す。

 

『リアスのねーちゃんよぉ。まさかだと思うが、この女ってもしかして……』

 

「コゲンタも気付いてるなら、八雲と朱乃も気付いてるわね」

 

八雲は無言で頷き、朱乃も肯定で「はい」と一言。

 

「なら、この子の正体は……………八雲」

 

「……………は、はい」

 

リアスの意味を悟ったのか、八雲は隣に抱きつかれている少女に視線を移した。

 

「……………」

 

「……?」

 

暫しの沈黙。ジッと八雲に見つめられる少女はキョトンと首を傾げるが、八雲は意を決して呼んだ。

 

「……くぅろ」

 

「はいっ!」

 

「……………やっぱりか」

 

「やっぱりね……」

 

「やっぱりですわね……」

 

『やっぱりかよ……』

 

そしてこの場にいる者、全員が確信した。

 

この少女こそが……くぅろなのだと。

 

「えっと……くぅろ。質問するが……」

 

「はい、御主人様!」

 

「……………いや、その前にその御主人様ってのは止めてくれないか?」

 

「何故ですか?」

 

「何故って……じゃあ、どうして八雲を御主人様と呼ぶのかしら?」

 

「……何でだろ?」

 

リアスの言葉にくぅろは答えるが、八雲の時よりはテンションは下がっていた。

 

「でも、何でだか分からないけど、一目見た時に思いました。“この人だ”って……。この人と出会う為に、私は向かってたんだって……」

 

「俺に? ってか、何処から来たんだ?」

 

「分かりません!」

 

だが、八雲の質問時にはテンションが戻っていた。どうやら、八雲に話し掛けられるとテンションが高い様だ。

 

『根はまんま犬だな』

 

「そう言うお前は猫ですね。見た目は……」

 

『だから猫って言うな!』

 

コゲンタの言葉を返すところ、くぅろにも魔力の類いはあるとリアス達は確信する。

 

すると、八雲は改めてくぅろに言う。

 

「分からない? じゃあ質問を変えよう。くぅろは一体何だ?」

 

「分かりません!」

 

「……まさかと思うが、記憶が無いのか?」

 

「はい! 正確には、“あの森からやって来た以前の記憶がありません”!」

 

くぅろは語る。

 

曰く、どうやって使い魔の森に来たのか分からず、合成獣が根付く頃には疲労からなのか深く眠っていた。だが、合成獣が活動し始めてからは食べられない様に隠れ住み、突如現れた“懐かしい気配”を感じて向かってみれば八雲達に出会ったのだ。

 

「それで、くぅろはどうするの?」

 

語り終えたくぅろにリアスが口を開く。

 

「あなたの事で私達がお世話しようと思ったのだけれど、人になっちゃったら必要なさそうね。誰かと共に過ごせば、自然と馴染むもの」

 

「それって……まさかリアス部長……!」

 

驚く八雲にリアスは笑顔で言う。

 

「ええ。くぅろもあなたに懐いているしね。――それと心配しないで。家の方には私が説得するから」

 

八雲は確信した。くぅろのお世話主任として、八雲の住んでいるつる屋に居候させるのだと……。

 

「ありがとうです、リアスさん!」

 

「どういたしまして。あ、それとこの学園に通える様に準備もするわ。朱乃、手伝ってちょうだい」

 

「畏まりました。さぁ、くぅろちゃん。一緒に来てください」

 

「あ、はい」

 

そして、リアスと朱乃はくぅろを連れ出した。

 

「……………どうなるんだ、俺の生活」

 

『……さあな。だけど、これだけは言える。何時もより騒がしくなるぞ』

 

天井を見上げる八雲の呟きに、コゲンタはそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

部室での騒動が過ぎ、朝の教室に八雲はいた。登校してくるクラスメートに挨拶するが、八雲は今朝の事で考えていた。

 

(リアス部長。一体くぅろを何処にやったんだ?)

 

連れ出されて待つ間、時間は過ぎて行く。余り待っていると遅刻してしまうので、八雲は教室に向かったのだ。

 

「おはよう、吉川」

 

「おはようございます、吉川さん」

 

「ん? ああ。おはようイッセー、アーシア。ってか、早朝にも挨拶し――」

 

「アーシアちゃーん! おはよー!」

 

「おはよう、アーシアさん。今日もブロンドがキラキラ輝いているね」

 

すると、一誠とアーシアに挨拶する八雲を遮り、松田と元浜がアーシアに近寄っては挨拶をした。

 

「おはようございます、松田さん、元浜さん」

 

勿論、アーシアに挨拶を貰い、感無量となる2人。小さいところで幸せを感じる奴等だと一誠は思う中、松田が一誠の肩に手を置いた。

 

「そう言えばイッセーくん。聞いたよ」

 

「何がだ?」

 

「何でもアーシアちゃんと毎日登校しているんだって?」

 

「そ、それがどうした」

 

「おかしいじゃないか。何故に毎日同じ方向から朝登校してくるのかな?」

 

どうやら、一誠とアーシアが噂になっているのを耳にしたらしく、松田と元浜は青筋を出し、一誠に負の感情を込めた視線を向けていた。

 

そしてそれを感じた一誠は、ニヤリと口の端を吊り上げては言った。

 

「いいか、松田、元浜……。俺とお前達は決して超えられない壁で隔てられてしまった。これは仕方ないんだ」

 

「な、何を勝ち誇ってやがる!」

 

「そ、そうだぞ、イッセー。アーシアちゃんと仲良くなったからって――」

 

「俺、アーシアと暮らしているんだ。1つ屋根の下で。なあ、アーシア」

 

一誠の言葉にアーシアは頷く。

 

「はい。イッセーさんのお家でご厄介になっています」

 

「へっ!?」

 

「なっ!?」

 

絶句する2人。一誠の必殺の一言と、笑顔で答えるアーシアを見て、松田と元浜は最早言葉すら出ない状態の中、一誠の攻撃は続く。

 

「アーシアには今朝も起こされてしまったな」

 

「イッセーさんはお寝坊さんですからね。うふふ」

 

「ひでぶっ!?」

 

「ご飯をよそって貰ったりもするな。アーシアは気が利く子だって、母さんも褒めていたな」

 

「そんな……照れます」

 

「たわばっ!?」

 

松田は床に突っ伏し、元浜は口から赤い液体(トマトジュース)を出しては膝を付いてしまう中、一誠は頬に手を当てて照れるアーシアを、余裕の表情で朗らかに見守っていた。

 

すると、回復した松田と元浜は顔を一誠に近付ける。

 

「お前! 本当は色んな可愛い子と知り合っているんだろう!? 理不尽だ! こんなの絶対おかしいよ!」

 

「イッセー、1人ぐらい俺達に紹介してくれよ! 頼みます!」

 

仕舞いには土下座する2人。そんな中、一誠は携帯を取り出してはアドレスを検索しては電話を掛ける。

 

「ちょっと待ってろ」

 

『……………どれどれ』

 

その場で2人を待たせ、教室の隅に行っては電話の相手に確認を取る一誠に、コゲンタは気になって近付いた。

 

『……………は?』

 

しかし、一誠と電話の相手の会話を聞いた瞬間、とても嫌な表情をしては戻ってきた。

 

『おいおい、あの声の何処が可愛い子だよ。ランゲツみたいな声だったぞ……』

 

『ワシと一緒にするな』

 

(どうした、コゲンタ?)

 

『いや、別に……』

 

コゲンタの反応に疑問を抱く八雲だったが、一誠が戻って来ては松田と元浜に言う。

 

「これ、紹介出来る子の番号。メアドもあるから。数日中に連絡するらしいぜ。その間、メールで仲良くなればすんなりと――」

 

「サンキュー!」

 

「ありがとうございます! イッセー様!」

 

刹那、土下座をしていた松田は一誠の携帯を奪い、元浜と共に速攻で番号とアドレスを登録した。その動きは八雲でも見切れたかどうか、僅かな差だったとか……。

 

「お前達、席に座りなさーい!」

 

そして2人が登録を済ました直後、教室から担任が入って来た。

 

「やべっ。――じゃあなイッセー! 休み時間になったら詳しく聞かせろよ!」

 

そう言って松田と元浜は自分の席に戻ると、朝のホームルームが始まるのだった。

 

「では、始まる前にお知らせがあります。何と……今日からこのクラスに入る生徒を紹介します」

 

担任の言葉に教室中が騒ぐ。転校生の話など情報通な生徒でも聞かされていない中、“八雲だけはその転校生を知っているのか驚く事はなかった”。

 

「どうしたんだ吉川。他の奴より、やけに静かだな?」

 

「何か気になるんですか?」

 

「……あー、イッセー。アーシア。多分その転校生、お前も知ってる奴だ。ってか、昨日会ってる」

 

「え?」

 

「昨日会ってるって、お祝いの後は真っ直ぐ帰りましたので誰も会ってませんけど……?」

 

歯切れの悪い八雲に一誠とアーシアが首を傾げる中、担任は顔を廊下へと向ける。

 

「それじゃあ、入ってきなさい」

 

教室の扉が開かれて入ってくる転校生に、全員が静かになる。それもそのはず。その転校生を見て、担任を含む全員が魅了されたからだ。

 

綺麗な黒髪、青い瞳、凛々しい顔立ち、制服越しでも分かる大きな胸、スラリと伸びた手足。

 

(……………マジですか?)

 

そんな転校生を見て、早朝に出会った八雲でさえも、口をポカンと開けて魅了されたのだ。

 

そんな状況の中、転校生は黒板に自身の名前を書いては挨拶を始める。

 

「初めまして。狗牟田(いぬむた)(オーキス)・くぅろです。分からない事が多いので迷惑を掛けると思いますが……皆さん、よろしくお願いいたします」

 

その転校生とは、くぅろだった。

 

「……くぅろ、さん?」

 

「くぅろって……まさか!?」

 

名前に気付いたアーシアと一誠に八雲は無言で頷く中、担任が捕捉する様に説明する。

 

「えー、狗牟田さんは少し前まで海外に暮らしていたが、家庭の都合で日本に戻って、この学園に転校してきたそうだ。皆、分からない事があれば手を貸すんだぞ」

 

(その捕捉……リアス部長か朱乃先輩が考えたのか?)

 

担任の言葉に八雲達3人以外のクラスメート全員は「はい!」と答えると、担任はくぅろに指示する。

 

「じゃあ狗牟田さん。席は吉川の隣だ。――吉川、色々と教えるんだぞ」

 

「あ、はいっ……」

 

そしてくぅろは着席すると、八雲に一言。

 

「よろしくです、御主……………吉川さん」

 

「……ああ。よろしく、くぅろ」

 

「はいっ!」

 

八雲の一言に笑顔で答えるくぅろ。だが、その言葉にクラス中に衝撃が走る。

 

「よ、吉川がいきなり美少女転校生を名前で呼んだぞ!?」

 

「えっ、2人は知り合いかな?」

 

「でも、狗牟田さんの反応。知り合いにしては嬉しすぎると思うわ!」

 

「まさか……もう付き合ってるのか!?」

 

様々な憶測が飛び交う中、八雲は頬を掻きながら言う。

 

「あー、くぅろとは昨日出会ったんだ。道に迷ってたらしくて、教えてるうちに仲良くなったんだよ……」

 

一か八かの嘘。しかし、それを全員は納得したが、一誠とアーシアだけは違った。

 

「なあ、吉川……」

 

「狗牟田さんって、もしかして……」

 

小声で話し掛ける一誠とアーシアにコゲンタが答える。

 

『ああ、そうだよ。こいつは昨日、合成獣から助けた子犬だ』

 

「「ええっ!?」」

 

その言葉に、一誠とアーシアは驚くのだった。

 

 

 

 

 

 

それから時間が過ぎていき、放課後のオカルト研究部の部室。グレモリー眷属はくぅろについて話し合っていた。

 

「へぇ。あの子犬が女の子に変身するなんてね……」

 

「……まるでギャルゲーに出るキャラクター」

 

「私も初めて見た時は驚きました。どの様に変身したのか、未だに分かりませんし……。アーシアちゃん。くぅろちゃんの様子はどうでしたか?」

 

「は、はい。くぅろさんの人気は凄かったです、ね。ク、クラスの方々に積極的に話し掛けたりして、すぐお友達になってましたし……」

 

「そう。私と朱乃で考えた設定が役に立てたみたいだし、今のところは問題無しね」

 

顔を赤くするアーシアの言葉に安堵するリアスは、視線を横に移しては呆れていた。

 

「こ、こら、くぅろ……ダメだ……って、ば……あぁっ!!」

 

何故なら、八雲が恥ずかしながら如何わしい声を上げていたからだ。

 

「はむっ……。御主人様の味がしまふ……」

 

無論、原因はくぅろにある。ソファーに座っている八雲の膝の上にくぅろが対面で座って抱き付き、首辺りを甘噛みしているからだ。

 

教室で過ごしていた大人しい姿勢が打って変わり、八雲に過剰に甘える姿を見せるくぅろ。そんな光景をある者は顔を赤くし、ある者は呆れ、ある者は苦笑し、ある者はうふふと笑顔を作っては黒い何かを漂わしながら見つめていた。

 

「……それで、放課後まで初対面として話し掛ける様にキツく言っておいた反動が、アレって訳ね……」

 

「な、何て羨ましい行動だ、ちくしょうっ! あの時、俺が助けていたら今頃……………ぐへへ」

 

そんな中、くぅろの行動に涎を垂らす一誠は羨ましそうにガン見する一方、くぅろは全員に見せつける様に、八雲の頬や首もとを舐めた。

 

「あ、あの、くぅろ? そろそろ、止めなさ……………ひぅっ!」

 

「……あむっ……………ペロペロ……………はふっ」

 

『おい、くぅろのワン子。そろそろ止めろっての!』

 

「んっ……うるふぁい、です……。今まで我慢……んちゅっ……してた……………もん……」

 

コゲンタの言葉に耳を向けず、抱き付く力を強めては胸を当てるくぅろ。そんな過剰のスキンシップに、八雲は限界だった。

 

「……いい、加減にっ……。――待て!!」

 

「っ!」

 

その時だった。八雲の一言に、くぅろはさっきまでのスキンシップを急に止めてはテーブルを越えて後ろに跳び、八雲に対峙する様にソファーへと座った。

 

「ふぅ……。やっと解放された……」

 

ホッと一息をつきながら、八雲はくぅろに視線を向けると、くぅろは八雲を見つめながらソワソワと足を動かしていた。

 

(この辺りは、犬の名残かな……?)

 

まるで餌を目の前にして許可が降りるまで待たされる犬を彷彿させられ、八雲が小さく微笑んでいるとリアスが指示を出す。

 

「それじゃあ八雲。今から八雲のお婆様とお爺様に、くぅろをホームステイさせてもらえる様に行きましょうか。――朱乃。話し合いが終われば戻るから、それまで頼むわね」

 

「分かりましたわ、部長」

 

「行くわよ八雲、くぅろ」

 

「分かりました。行こうか、くぅろ」

 

「……………」

 

未だに待っているくぅろに、八雲はやれやれと感じながらも言った。

 

「……よし」

 

「っ♪」

 

そして、くぅろは動き出しては八雲の腕に抱き付き、リアスと共に部室を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

それから、リアス達はつる屋に到着しては居間で家族会議が行われていた。

 

「お爺様、お婆様、そういう事情でこの狗牟田・O・くぅろのホームステイをお許し下さいますか?」

 

くぅろの事情説明を終え、リアスは優雅に朗らかに無茶な注文を、おつると赤蘭に注文を突きつけていた。因みに、リアスが考えたくぅろの設定は以下の通り。

 

①両親は海外に住んでおり、親の都合で1人日本で住む事となった。

 

②しかし住所にあった建物が数年前に無くなっており、所持していた資金で宿泊するがお金が無くなり、次の仕送り迄にどうするか悩む。

 

③その時に八雲と出会い、見ず知らずのくぅろを助けてくれてはお金まで貸してくれた。

 

④そして今日、八雲はリアスに相談しては「俺の所はどうだ?」と言い、おつると赤蘭に話し合って決める事とした。

 

以上が、くぅろの設定だ。無論、③の八雲がくぅろを助けた事以外は嘘である。

 

すると、リアスの説明におつるは微笑んで言った。

 

「大変やったんやね。……リアスさん、くぅろちゃんを家で預かりましょう。おじいさんもいいですね?」

 

「……………」

 

おつるの言葉に赤蘭は頷くと、くぅろは微笑んだ。

 

「ありがとうございます、八雲さんのお婆様、お爺様」

 

「畏まらなくてええよ。近所はおつるさんと呼ばれとうから、おつるでええんよ。お家の様に寛いでええから。ね、おじいさん?」

 

「……………」

 

「は、はいっ! 八雲さん、おつるさん、赤蘭さん、不束者ですが、これからよろしくお願いします」

 

「あら。何だかお嫁さんが来てくれた様で嬉しいなぁ。――八雲ちゃん。色々と頑張るんよ」

 

「ちょ、おばあちゃん! おじいちゃんまで! くぅろとは昨日出会ったばっかだって!」

 

頬に手を当てながら言うおつるに八雲は頬を染めて反論すると、いつの間にか赤蘭は祝い酒を持って来ていた。どうやら、まんまと懐柔された様だ。

 

こうして、くぅろは八雲とひとつ屋根の下で暮らす事となり、八雲の隣の空き部屋を整理してはリアスが用意したくぅろの荷物を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

そして数時間後。くぅろの部屋の整理を終えた八雲は、くぅろと一緒にリアスをつる屋の近くまで見送っていた。

 

「本当にありがとうです、リアスさん!」

 

「別に構わないわ。――くぅろの今後の事だけど、オカルト研究部に入ってもらうわ。私達で無くした記憶を探してあげるわ」

 

「はい!」

 

「リアス部長。その事ですが、くぅろについて幾つか分かった事が……」

 

「何か分かったの?」

 

リアスの言葉に、八雲はくぅろを見ながら話し出す。

 

今日を通して分かったは、くぅろには“学業や生活に支障がない程の知識を身に付けている”事だ。しかし、歴史の授業では分からない事が多かったらしく、誰でも分かる様な日本や世界の歴史は全然分からなかったのだ。

 

その事を聞いて、リアスは口に手を当てる。

 

「んー、随分……何と言うか、知っている事と知らない事がちぐはぐね。まるで必要最低限の事しか書かれてない、マニュアルの様な知識ね……」

 

「もしかしたら、誰かが意図的にくぅろの記憶を消したのかもしれません……」

 

「……………」

 

心配そうな顔をするくぅろに、リアスは肩に手を置く。

 

「そんな顔をしないで。私達が必ず、あなたの記憶を取り戻してあげるわ」

 

「……はい」

 

「うん。素直でよろしい」

 

そう言って、リアスはくぅろに離れては言う。

 

「それじゃあ八雲。くぅろの事、お願いね」

 

「はい。それじゃあリアス部長、また明日。バイス!」

 

「リアスさん。また明日です」

 

「ええ、またね」

 

そして、リアスは歩き始めては、魔方陣ジャンプが出来そうな所まで向かうのだった。

 

「それじゃあ御主人様。私達も帰りましょうか」

 

「なあ、くぅろ。外でそんな風に呼ばないでくれ」

 

「えー」

 

「えー、じゃない。仲間達の前だったら言っていいが、それ以外の人がいる前では言うなよ」

 

「……………分かりました、御主――」

 

「こら」

 

「……………八雲さん」

 

「よろしい」

 

そして八雲は笑顔でくぅろの頭を撫でると、くぅろも幸せそうに笑うのだった。

 

「ふふっ、何だかいいカップルね。本当に八雲の花嫁になるんじゃないかしら。くぅろは……」

 

そんな2人の背中を見て、リアスはやれやれといった微笑みで呟いた。

 

「……花嫁、か」

 

その際、寂しげな表情を浮かばせて……。




ヒロインが固まってきましたね……。

フェニックス編スタート……の前に、新キャラであるくぅろ(人間態)の登場です。容姿は『ねじまきカギュー』の『東郷・マチルダ・竜子』をイメージしてます。……性格は全然ちゃいますけど。

因みに……ミドルネームの“(オーキス)”は、簡単に犬=狼=オオカミ=OOKAMIの“O”から取ってます。
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