ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第19話:特訓の成果

修行2日目の午前。全員がリビングに集まり、一誠とアーシア、八雲、くぅろに悪魔事情についての知識をリアス達が教えていた。

 

「我々悪魔と堕天使、そして天使を率いる神の軍団は、大昔に永久とも言える時間の中で三つ巴の大きな戦争をしたの。結局、勝利も敗北もないまま、全ての勢力が激減しただけで戦いは終結したわ」

 

今、リアスが八雲達の前に出ては悪魔の歴史について語っている。

 

悪魔は永遠に近い寿命を持つ代わり、出生率が非常に低い為に大戦の影響で種そのものが存続の危機にあった。大戦後に純血の上級悪魔が連なる七十二柱と呼ばれる名門の家系が殆ど断絶してしまったのだ。

 

その中で、リアスのグレモリー家、ソーナのシトリー家、ライザーのフェニックス家は七十二柱の生き残りなのだ。

 

「これが、悪魔が人間を転生させて眷属を増やす理由。レーティングゲームはその中で生まれてきたの。ゲームで眷属に実戦経験を積ませ、その主である悪魔自身も実力を示す事が出来るから、今ではゲームの成績が爵位や地位にも大きく影響する様になってるの」

 

難しい事柄に頭がパンクしそうになる一誠達だったが、それでも真剣に話を聞いており、ある程度教わった後でリアスが改めて一誠に問題を出した。

 

「私達の仇敵。神が率いる天使の最高位の名とそのメンバーは? イッセー」

 

「はい。えっと、確か『熾天使(シラフ)』で、そのメンバーは……ミカエル、ラファエル、ガブリエル……それと、ウリエルです」

 

「正解」

 

戸惑い混じりの解答だったが、一誠は正解出来て安心した様に溜め息を溢した。

 

「次に私達の王、魔王(サタン)様。その四大魔王様の名前はどうかしら?」

 

「それならバッチリです! いずれ、出世してお会いする予定ですからね! ルシファー様、ベルゼブブ様、アスモデウス様! そして憧れの女性魔王様であらせられるレヴィアタン様です!」

 

「正解」

 

今度は自信満々に答えて一誠はガッツポーズを見せた。

 

「なら、次はイッセーが一番苦手な堕天使の幹部の名前を全部言ってもらおうかしら」

 

それを聞いて、苦虫を噛み潰した様な顔になる一誠。堕天使は他の勢力より数が多い上に、名前も複雑だからややこしい。

 

「えーっと……堕天使の中枢組織を『神の子を見張るもの(グリゴリ)』と言って、総督がアザゼル、副総督がシェムハザ。そんで幹部連中は……………アルマロス、バラキエル、タミエル……………あー、えーと、えーと、アレ? ベネなんとか、コ、コ、コカイン……?」

 

残りの堕天使の名前が出ずに混乱する一誠に、八雲が言う。

 

「ベネムエとコカビエル。後はサハリエル……だったな。そうですよね、リアス部長」

 

「正解よ。イッセー、これは基本的な事だからちゃんと覚えなさい」

 

すると、リアスは一区切りつける様に手を叩いた。

 

「それじゃあ、次はアーシアに交代してもらうわ。お願いね、アーシア」

 

「は、はい!」

 

リアスと交代する様に前に出ると、アーシアが緊張な面持ちで授業を始めた。

 

「コホン。では、僭越ながら私、アーシア・アルジェントが悪魔祓いの基本をお教えします」

 

前に出たアーシアに一誠達はパチパチと拍手でエールを送ると、途端に赤面してしまうアーシアの可愛い反応を見て、一誠は心の中で礼を言っていた。

 

「え、えっとですね。以前、私が属していた所では、2種類の悪魔祓いがありました。1つは神父様が聖書の一節を読み、聖水を使い、人々の体に入り込んだ悪魔を追い払う“表”の悪魔祓いです。そして、“裏”が悪魔の皆さんにとって脅威となっています」

 

「何時かのはぐれ悪魔祓いの様なものか?」

 

八雲の問いにアーシアは頷く中、一誠も理解したのか、脳裏に白髪のはぐれ悪魔祓いを思い出していた。

 

そんな中、アーシアはバッグから様々な物を取り出した。

 

「では、悪魔祓い達が持つ道具を幾つか紹介します」

 

まずは慎重に置いてあった小瓶を持ち上げた。

 

「これが聖水です。悪魔の皆さんは絶対に触れない様にしてください。触れると大変な事になります」

 

「どの様に大変なんだ?」

 

八雲の質問にホリンが答える。

 

『えげつないで。皮膚は焼け焦げて、肌が爛れるんや。そんで、体力も精神もぎょーさん削られる』

 

「詳しいんだな」

 

『ウチの格好を見て察してほしいで……』

 

そう言って、ホリンはくるりと回っては修道着を見せた。

 

「アーシアも触れちゃダメよ。お肌が大変な事になるわ」

 

「うぅ、そうでした……」

 

そんな中、リアスの言葉にアーシアはショックを受ける。元シスターにとって、複雑なものがあるのだろう。

 

「役に立つかどうかは分かりませんけど、幾つか作り方があるので後でお教えします」

 

気を取り直したアーシアが次に取り出したのは、少し古ぼけた分厚い書物だった。

 

「次は聖書です。小さい頃から毎日読んでいました。今は一節でも読むと頭痛が凄まじいので困ってます」

 

「悪魔だもの」

 

「悪魔だからね」

 

「……悪魔」

 

「うふふ、悪魔は大ダメージ」

 

「悪魔だしな」

 

「悪魔なのです」

 

「うぅぅ……私、もう聖書も読めません!」

 

一誠以外の部員から総ツッコミされ、アーシアは涙目になってしまう。

 

「でもでも、この一節は私の好きな部分で、とても素敵なんですよ!」

 

そう言いながら、アーシアは聖書を開いては内容を黙読し始めたが、その行為が激しい頭痛を起こしてしまうのを、アーシアはこの時忘れていた。

 

「あう!」

 

ほらね。

 

「ず、頭痛が……。ああ、主よ。聖書を読めなくなった罪深い私をお許し――あうっ!」

 

再びお祈りのダメージに苦しむアーシアを置いて、八雲は広げられている聖書を覗いた。

 

「御主人様、分かるんですか?」

 

「いや、全然」

 

くぅろの言葉に八雲は否定する。悪魔と同じ“言語”を得ても、文章までは分からない様だ。

 

『それだったら、ボクが読んであげるよ』

 

そう言って現れたのはナナヤ。言語に優れたナナヤなら、聖書も簡単に読めるだろう。

 

『えーっと、し――』

 

「ナナヤ。それ以上いけない」

 

しかし、読んでしまうとリアス達にダメージを与えてしまうので、八雲は聖書を音読しようとしたナナヤを止めた。その際、ナナヤは『冗談だよ』と言っては戻ると、確認したリアスが再び言う。

 

「さて、今度は八雲の番ね」

 

「はい……と言っても、俺が教える訳じゃないですけどね。――シキガミ降神」

 

リアスに促された八雲は前に出ると、“二十四気の神操機”を出現させてはシキガミを呼び出した。

 

「榎のコンゴウ、見参」

 

呼び出されたのは、学問を司る榎のコンゴウ。学問繋がりか知らないが、何故か眼鏡を掛けていた。

 

「今回は八雲とわたし達もゲームに参加するので、改めてシキガミの能力についてお教えしよう」

 

すると八雲が何処からかホワイトボードを運び込むと、コンゴウはペンを手に持ち、中央に人の絵を描いては左右にある単語を書いた。

 

「わたし達シキガミの持つ機能は幾つかある。1つは、“契約者、又は契約者が指名した者に、わたし達が司る力を貸し与える事”が出来る。つまり、わたし達の契約者である八雲に力を与えたり、八雲が示した者に力を与える事が出来るのだ。――イッセーよ」

 

「え? 俺?」

 

「まあ、取り敢えず来い」

 

いきなりのコンゴウの指名に一誠は戸惑うが、八雲に促されて前に出た。

 

コンゴウは一誠に言った。

 

「確か符力の修行で出した塊は、米粒の大きさだと聞いたが間違いないな?」

 

「うぐっ。まあ、そうだけど……」

 

「では八雲。昨晩説明した通りに……」

 

「ああ……」

 

コンゴウの言葉に頷くと、八雲は意識を右腕に集中させた。すると、右手の“二十四気の神操機”の宝玉が輝き、“兎を模した紋章”が浮かび上がった。

 

「貸すぜ、イッセー」

 

【Lend!!】

 

機械音と共に八雲の右手が輝き、その輝きが一誠目掛けて放たれるが、特に変わった様子が見えなかった。

 

すると、コンゴウは一誠に言った。

 

「ではイッセー。昨日と同じ様に、符力の塊を作り出すのだ」

 

「へ? さっきと何か関係が――」

 

「作り出すのだ」

 

コンゴウの言葉に一誠は渋々従っては、体に流れる魔力を掌に集中させた。

 

「なっ!?」

 

するとどうだろう。昨日は苦労して米粒程の大きさしか集められなかった魔力の塊が、昨日アーシアが作り出した時と同じ大きさの魔力の塊が掌に集まったではないか。

 

その事にリアス達は驚き、一誠はそれ以上に驚愕する中、コンゴウは言った。

 

「わたしが目覚めてすぐに取り掛かったのは、八雲の神器の調査だった。全てではないが、調べた結果、この神器は“わたし(シキガミ)達と同じ契約機能”が備わっていたのだ」

 

「つまり、今のイッセーくんは八雲くんにシキガミの司る力を与えた結果なのですね」

 

朱乃の言葉にコンゴウは頷く。因みに、八雲が一誠に与えたのは柊一族が司る“霊感”であり、一誠の持つ魔力を上げたのだ。

 

すると、コンゴウが言う。

 

「ただし、貸し与えた力には制限時間がある。力を与えた量が多ければ時間も多く、少なければ時間も短い。そして、与える量によってわたし達も疲労が掛かる」

 

「あ、ホントだ……」

 

コンゴウの説明が終わると、一誠の魔力の塊も昨日と同じ米粒程の大きさに戻る。どうやらかなり少なめに与えたようだ。

 

すると、コンゴウは次の説明に入る。

 

「2つ目。“契約者が指名した相手の力を奪う事”が出来る」

 

「この前ランゲツが堕天使に使ったアレか」

 

八雲の言葉に頷くコンゴウ。

 

「奪われたら一定の間、様々な影響が出る。白虎一族が相手の“信頼”を奪えば、部隊内の信頼が無くなって部隊が崩れたり、柊一族が相手の“霊感”を奪えば符力が大幅に無くなってしまう」

 

勿論、この効果の加減でも制限時間や疲労等の効果はあるとコンゴウは説明すると、終えたのか眼鏡を外した。

 

「ゲームに役立つとは思うが、多様は避けた方がいい。依存してしまうと、公式戦で実力を出せないからな」

 

「……そうね。皆、実力で戦わないと意味がないものね」

 

「その通りだ。――では八雲、わたしは戻る」

 

コンゴウの言葉に八雲は了承しては戻すと、リアスが声を掛ける。

 

「それじゃあイッセー、アーシア、八雲、くぅろ。習った事は覚えておくのよ」

 

リアスの言葉に一誠達は返事をするのだった。

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、午後の修行。

 

一誠、祐斗、小猫の3人はリアスの指示の下、八雲との修行を行っていた。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!? ヤバいって!?」

 

無論、1対3の模擬戦ではない。

 

「手加減しろよ、皆!」

 

3対3の模擬戦だ。

 

「兌離兌震! 兌震兌離! 兌震離兌!」

 

グレモリー眷属3人と、シキガミ3人による模擬戦だ。

 

「必殺、暴流登衝撃(ボルトショック)!!」

 

まずは1人目。逃げ回る一誠に攻撃を仕掛けるのは、僧服姿でデンキウナギに似た魚人的な外見を持つシキガミ。陰陽三又(さすまた)匹夫屠(ひっぷほっぷ)”を操り、地面から電撃を柱の様に放出しては一誠を狙っている。

 

名は『秋水のエレキテル』。“根性”を司るシキガミである。

 

「必殺、神翼合切剣(しんよくがっさいけん)!!」

 

2人目。祐斗に攻撃を仕掛けるのは、ハヤブサに似た鳥人的な外見を持つシキガミ。自身の羽根を無数に手裏剣の様に回転させながら飛ばして攻撃し、自身の持つ陰陽手槍“雷鳴王(らいめいおう)”で突っ込んでは祐斗と鍔競り合いを生じさせた。

 

“希望”を司るこのシキガミ名は、『雷火のフサノシン』。やんちゃで無鉄砲な所があるが、シキガミの中でも1、2を争う飛行速度を持っている若いシキガミだ。

 

「必殺、追撃貫通無双(ついげきかんつうむそう)!!」

 

最後の3人目。小猫と対峙しているのは、熊に似た獣人的な外見を持つシキガミ。自慢の両手の鋭い爪を振るい、避けた小猫は大きな爪痕が出来た地面を見てしまった。

 

“活力”を司り、戦いにも豪快さを好むシキガミ……『椿のゴロウザ』である。

 

「ピカァー! おい、リアスの嬢ちゃんの“兵士”! 逃げ回る根性があるなら掛かって来いよ!」

 

「そんな事言っても……うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

そう文句を言いながら、エレキテルは攻撃の手を緩めずに一誠をしつこく狙い匹夫屠の突きを何度も放つ中、一誠も何度も攻撃をギリギリで回避していた。

 

「だが、足元がお留守だ」

 

そう呟いた八雲は一誠の近くに【木】の闘神符を投げると、生えた蔓に一誠が躓いてしまった。

 

「ぶべっ!」

 

その隙をエレキテルは透かさず狙い、匹夫屠の矛先を一誠の目の前に突き立てた。

 

「へっへ~、オレっちの勝ち~!」

 

誇らしげに胸を張るエレキテルに、一誠は悔しそうに顔を歪めた。

 

一方、祐斗と小猫も劣勢だった。

 

「速度が売りの“騎士”でも、オレの速度が追い付けるかよ!」

 

「くっ!」

 

祐斗はフサノシンのスピードに追い付けず防戦一方。

 

「その様な拳で、おれ様が倒れると思うか!」

 

「……しぶとい」

 

ゴロウザのタフさに、次第に小猫は追い込まれていた。

 

「あわわ……シキガミの皆さん、お強いですね」

 

そんな模擬戦の最中、その脇でくぅろと共に朱乃の修行を受けているアーシアは様子を見て驚きと不安で落ち着いてなかった。

 

「そうですわね。でもアーシアちゃん。あまり余所見をしていると、魔力が散ってしまいますわ」

 

「はうっ! すみません!」

 

「出来ました!」

 

アーシアが謝罪する中、くぅろは自身の魔力の塊を別の形へと変化させては朱乃に見せた。

 

「これって……」

 

朱乃の疑問にくぅろは答える。

 

「はい、ナイフです」

 

嬉しそうに言う中、ナイフの構造をまじまじと朱乃は見た。大きめの刃、刃の背に鋸刃を持つそのナイフは、サバイバルナイフその物だった。

 

「……どうしてそのナイフなのでしょうか?」

 

「この前、テレビでやってたのを見ました」

 

どうやら、テレビの影響の様だ。

 

「そこまで」

 

そんな中、リアスの声が響く。どうやら模擬戦が済んだ様だ。

 

「3人共、お疲れさん」

 

結果は無論、八雲率いるシキガミ達だった。

 

すると、シキガミが戻ってはリアスが言う。

 

「それじゃあ、次は個人での模擬戦よ。八雲、個人戦でのシキガミの選出をお願い」

 

「はい」

 

それから暫く、八雲はグレモリー眷属と模擬戦するシキガミを選んでは戦闘させ、状況分析や複数のシキガミの命令伝達の訓練を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

それから何日もの間、修行をする八雲とグレモリー眷属、そしてくぅろ。

 

確実に皆は成長しているのだが、成果を見せる皆の中、一誠は自信が持てなかった。

 

しかし、ある晩が切っ掛けでリアスに慰めてもらい、少しだけ癒された。

 

その際、リアスも一誠に言われた言葉に頬を染め、心に小さな何かが芽生え始めたのだが、それが何なのかリアスも分からなかった。

 

そんな事が起こっていた中、修行期間は過ぎていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

修行開始から1週間、曇りの深夜。

 

一誠は毎晩の様に特訓を続け、その成果が開花の兆しを見せ始めていた。

 

「ごめん、アーシア。もう1回!」

 

今、一誠の目の前では衣服が引き裂かれたアーシアが下着姿の肢体を隠す様に身を捩っている。あの日から、アーシアも一誠の特訓に続けていた様だ。

 

「はい! すぐに着替えてきます!」

 

しかしアーシアは怒る事もなく、羞恥に泣く事もなく、一誠の特訓に積極的に手を貸している。

 

そして一誠の魔力が、再び着替えてきたアーシアの衣服を容赦なく引き裂く。端から見れば変態以外何物でもない行為だが、これはあくまでも特訓である。誤解のない様に……。

 

「で、出来ましたね、イッセーさん!」

 

そんな常軌を逸した行為を繰り返し、ようやく下着以外の衣服を消滅させるまでに至っては歓喜の声を上げるアーシア。

 

「違う……!」

 

しかし、一誠はまだ納得していなかった。

 

「服だけじゃ未完成だ。でも、後一歩なんだ! すまないけどアーシア、もう少しだけ付き合ってくれ……」

 

「はい! 古着も沢山貰ってますので大丈夫です! イッセーさん、頑張ってください!」

 

純粋なのか、どこかずれているのか……。

 

とにかく、下着姿のアーシアは一誠にとことん付き合う意を示し、夜が明けるまで特訓は続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

一誠が特訓を頑張っている頃、キャンプ跡地である事が起こっていた。

 

辺りの木々は薙ぎ倒れ、炊事棟は使い物にならない程に壊れ、川も以前より水量が減っていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……………」

 

そんな場所の中心に、八雲は大の字に倒れては激しい疲労を味わっていた。

 

「……………よっしゃあ!」

 

しかし、倒れていながら口の両端を吊り上げて何かを喜んでいた。

 

『やったな八雲。記録更新だ』

 

『全く……大した男だ』

 

『上手く行けば、ゲームでの逆転も狙えますね』

 

シキガミ達が誉める中、小鹿の様に震えながら八雲は立った。

 

「でも、使うと俺の中の符力がすっからかんだ……。1度使えば、暫くは動けないし、ゲームでも役に立てないだろうな……」

 

そう言いながら、八雲は別荘に繋がる【転】の闘神符を取り出した。

 

『戻ったら汗を流そうぜ。露天風呂だし、ゆっくり浸かれば疲れも吹っ飛ぶぜ』

 

「……そうだな」

 

コゲンタの提案を飲み、八雲は別荘へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「あぁ~……気持ちいぃ~……」

 

戻ってすぐ、八雲は別荘の露天温泉に向かっては汗を流し、疲れを癒す様に浸かっていた。余程疲れているのか、少々緩んだ表情だった。

 

『もうすぐ修行も終わりだな』

 

気持ちが緩んでいる八雲に、不意にコゲンタが話し掛けた。

 

「……そうだな。辛かったけど、楽しかった」

 

『全員が成長する中、1番成長したのは八雲だったぜ。オレ達が保証する』

 

「そうか? まあ、コゲンタ達が“アレ”とか“ソレ”とか、色々と教えてくれたからな」

 

「あら? “アレ”とか“ソレ”とは何なのでしょうか?」

 

「おいおい、アレって言えば……………えっ?」

 

緩み過ぎたのか、八雲はギギギと聞こえる様な動きで気付かなかった人物へと振り向いた。

 

「うふふ。こんばんは、八雲くん。コゲンタちゃん」

 

そこにいたのは、体をタオル1枚で隠した朱乃だった。

 

「あ、あああ、朱乃先輩!? 先輩、ナンデ!?」

 

「あら、日頃頑張ってる後輩くんとのコミュニケーションも大事ですわよ」

 

そう言いながら、朱乃も温泉へと浸かった。勿論、タオルを外しているので、リアスに劣らない魅惑的な体が露になっていた。

 

「ちょ、ちょいと……!」

 

すると、近付く朱乃に驚いた八雲は自分のタオルで視界を隠した。

 

「あらあら、見てくれても構いませんのに」

 

「じょ、冗談が過ぎますって……」

 

『それで、何か用なのか? 朱乃ねーちゃん』

 

目隠し状態の八雲に代わりコゲンタが訊いてみた。

 

「最近、八雲くんもイッセーくんみたいに深夜に特訓をしてるので気になって……。私達と違い、八雲くんは深夜は活発ではないですし、少し心配したんですよ……」

 

朱乃の言葉にコゲンタはすまないと思った。

 

確かに、初日から行っている深夜の特訓のせいで、八雲の生活リズムがずれてしまった。皆が見ていない所では、よく欠伸や転た寝もしていた。

 

だが、それでも八雲は深夜の特訓を止めなかった。シキガミ達が教えてくれたアレは、まさにゲームの勝敗を左右する力だから……。

 

「それで、どの様な特訓をしていたのですか?」

 

『ダメだ』

 

すると、朱乃の質問をコゲンタが否定した。

 

『アレは切り札だ。いくら八雲と朱乃ねーちゃん達がある程度信頼してても、こればっかりは本番時にしか教えられないな』

 

「おい、コゲンタ。――すいません、朱乃先輩……」

 

謝罪する八雲に朱乃は首を横に振る。

 

「いえ。こちらも勝手に質問してしまってすみません。ですが、あまり無理なさらないでくださいね」

 

「はい……」

 

それから暫く、八雲と朱乃は特に会話もしないまま湯船に浸かっていた。まあ、混浴状態であり、八雲(一方)朱乃(一方)の裸体を意識している為、会話なんて出来ないが……。

 

『……さすがに重いか』

 

すると、2人に聞こえない様に呟いたコゲンタが会話をした。

 

『そう言えば、前にリアスのねーちゃんがゲームの作戦を考えてたけどよ……………正直、勝てそうか? あのフェニックスに……』

 

「……………とても難しいと思いますね」

 

「……どうしてですか?」

 

目隠し状態でも、朱乃が悩んで答えた言葉に八雲は反応すると、コゲンタが理由を言った。

 

『フェニックスは命を司る聖獣だ。流す涙はどんな傷をも治し、その身に流れる血を飲めば不老不死を手に入れられると人間界の国々に伝説を残す程だ』

 

しかし、聖獣であるフェニックスには別の一族が存在する。それが侯爵の地位を持ち、七十二柱にも数えられた悪魔側のフェニックス。

 

その口を開いたのは朱乃だった。

 

「人間達は聖獣フェニックスと区別する為に、悪魔のフェニックスを『フェネクス』と呼ぶ様ですが、聖獣と称されるフェニックスと悪魔であるフェネクスは能力的には殆ど一緒ですの」

 

「つまり不死身ですか……。方法は無いのですか?」

 

「無い訳ではありません。倒す方法は2つ……圧倒的な力で押し倒すか、起き上がる度に何度も倒して相手の精神を潰すかのどちらかです。前者は神クラスの力が必要で、後者は相手の精神が尽きるまでこちらのスタミナを保つ事……。例え不死身でも、精神までは不死身ではないのですよ。……最も、神の様に一撃で相手の精神も肉体も奪い去る力があれば、とても楽なんのですが……」

 

溜め息しながら月を見上げる朱乃。その僅かな声色に諦めの気配を八雲は感じ、視界が見えなくとも、今の朱乃が笑顔をしていない事も分かった。

 

そして、“前者の方法”なら、ライザーを倒せる事も分かった。

 

「ねえ、八雲くん」

 

すると、朱乃が不意に八雲に訊いた。

 

「八雲くんは、リアスの事をどう思ってますか?」

 

「え? 唐突ですけど一体――」

 

「答えて」

 

少し迫力のある声色に遮られると、八雲は暫く考えては答えた。

 

「……立派な人ですね。いや、この場合は立派な悪魔か? とにかく、尊敬出来る人だと俺はそう思いますよ」

 

「……そうですか」

 

何故か朱乃はホッと一息つく中、八雲は言う。

 

「それに、俺に守る力を教えてくれました。今までの恩を返す気持ちで、ゲームに望む所存です。俺が盾になってでも、勝ちましょう」

 

「ええ、頑張りましょう。リアスさえ無事ならば、例え勝率が低くても勝機を生み出せますわ」

 

「……何言ってるんですか?」

 

朱乃の言葉に八雲は首を傾げては言う。

 

「全員、守ってみせますよ。リアス部長もイッセーも、アーシア、小猫、祐斗、そして朱乃先輩も、ね……」

 

何気なく八雲の口から出た言葉を聞いた朱乃が目を丸くした。その際、偶然にも雲が晴れては満月が現れ、月明かりがスポットライトの如く八雲を照らしていた。

 

そんな八雲に朱乃は一瞬だけ見惚れてしまい、温泉のせいでもあるが頬が赤く染まっていた。

 

「あ、あれ……? 俺、何か変な事を言ってました?」

 

『いや、寧ろくさかったぞ……』

 

何となく尋ねるが、コゲンタが代わりに呆れる様に答え、暫くして朱乃は……。

 

「あははは!」

 

笑っていた。

 

普段の「あらあら、うふふ」とした笑顔ではなく、年相応の少女の様に笑っていた。

 

「ちょ、笑う事ないでしょ、朱乃先輩」

 

しかし、目隠し状態で先程の台詞で笑うなと言われるのは無理がある。

 

「ふふ、すみません。では、私の事も守ってくださいね」

 

「勿論ですよ」

 

勢いよく頷く八雲。すると、朱乃は八雲の体に手を伸ばした。

 

「えっ、ちょっ、ど、どうしたんですか?」

 

「うふふ。いえ、少しだけ八雲くんに元気をあげようと思いまして……」

 

そう言いながら、八雲の胸板を触る朱乃。完全に逆セクハラな光景だった。

 

「ひゃん!」

 

「あらあら、かわいい声ね。……それにしても、鍛えている事もあっていい体をしてますわね。触り心地も良くて、ちょっと癖になりそう……」

 

「く、癖ってなんですか!?」

 

「それに、八雲くんの硬いアソコが、私の太股に当たってますわ。とても逞しい……」

 

「それは膝ですよ!?」

 

『ワーオ、大胆だな』

 

「コゲンタ! くそっ! 目隠しを取る訳もいかないし……って、うわあぁぁぁぁぁっ!?」

 

朱乃の手が下腹部へと向かい、八雲が羞恥で叫んだその時だった。

 

ガラララ!

 

「あら?」

 

温泉の扉が開き、朱乃も手を止めては扉へ視線を移した。

 

「……………」

 

そして視界に写ったのは、タンクトップとパンツという姿のくぅろだった。因みに、今のくぅろの格好は就寝時である。

 

「御主人様の悲鳴が聞こえて駆けつけましたが……………この状況、一体どういう事ですか?」

 

目隠しした八雲。そんな八雲の肌を触る朱乃。端から見れば情事の最中だと間違えられる可能性がある光景を、くぅろはまじまじと見ていた。

 

「その声は、くぅろか! すまないけど、この状況は――」

 

「ズルいです!」

 

「はいぃ?」

 

くぅろの一言に素っ頓狂な声を上げる八雲に、くぅろは言い続ける。

 

「2人だけ遊んでるなんて……私だって御主人様と遊びたいです!」

 

どうやら、くぅろにとって八雲と朱乃の光景は遊びの類いに見えた様だ。

 

「あら、だったらくぅろちゃんも遊ぶ?」

 

「ちょ、朱乃先輩!?」

 

「やったぁ!」

 

朱乃の許可にくぅろは喜ぶと、服を脱いではくぅろ自身も温泉へと浸かった。

 

「だ、だから……やめてくれって、の……ぬぉわあぁぁぁぁぁ!?!?」

 

そして暫くの間、八雲は朱乃とくぅろに触られ続けるのだった。

 

因みに、八雲の貞操は無事である。だが、幾度となる貞操の危機が続くのを、八雲は知る事はなかった。

 

 

 

 

 

 

それから翌日。本日の修行を始める前にリアスが一誠に言う。

 

「ブーステッド・ギアを使いなさい、イッセー」

 

「え?」

 

いきなりの事で戸惑う一誠。この山に入ってから、一誠の神器を一切禁止されていたから無理もない。

 

そんな一誠をよそに、リアスは言う。

 

「相手は祐斗でいいわね」

 

「はい」

 

リアスに促され、祐斗が木刀を構えて一誠と対峙すると、再びリアスが口を開いた。

 

「イッセー、模擬戦を始める前に神器を発動させなさい。そうね……発動から2分後、戦闘開始よ」

 

「は、はい。――ブーステッド・ギア!」

 

リアスに言われるまま、一誠は左腕に神器……“赤龍帝の籠手”を出現させると、その能力を発動した。

 

「ブースト!」

 

【Boost!!】

 

一誠の言葉に反応して神器が音声を発する事で、力が元の倍になった。

 

【Boost!!】

 

10秒後、更に一誠の能力が倍になる。

 

【Boost!!】

 

そして10秒、また10秒と、人間界で言う10秒毎に力が倍になっていく。

 

倍加を繰り返すといえば聞こえはいいが、実際は能力の増大には限界が存在する。何故なら、増大する力と宿主に掛かる負荷が比例する為であり、もし増大に耐え切れずに限界を超えてしまうと、宿主は全身の機能が止まる感覚に襲われてしまうのだ。

 

「……………ふぁ~……」

 

「……八雲先輩、寝不足?」

 

その一方、模擬戦の様子を見学している八雲はあくびをしており、気付いた小猫が話し掛けていた。

 

「ん……ちょっとな……」

 

勿論、寝不足の原因は昨夜の出来事なのだが、人には言えない事なので八雲は適当に誤魔化した。

 

「ストップ」

 

すると、リアスの指示が入り一誠は貯めた力を止める。

 

「いくぞ、ブーステッド・ギア!」

 

【Explosion!!】

 

力の増加を止める意味も含むその音声を引き金に、“赤龍帝の籠手”の宝玉が光を放った直後、一層強い輝きが一誠を包んだ。2分間高めた力は尋常なものではないと分かる。

 

「その状態で祐斗と手合わせしてみてちょうだい。――では……………始め!」

 

リアスの合図と同時に祐斗の姿がフッと消えた。

 

気付いた時には“騎士”のスピードで接近する祐斗の木刀が迫るが、一誠は咄嗟の判断で腕を交差させて一撃を防ぐ。

 

「っ!」

 

その事実に祐斗は少しだけ驚く様子を見せ、その一瞬を隙と見た一誠は瞬時に拳を振るう。しかし拳が当たる寸前、祐斗は持ち前の速度で回避し、一誠の拳が虚しく空を切った。

 

「どこだ!」

 

目を辺りに配らせて祐斗を追う一誠。左右、前、そして背後と探してもいない。

 

「っ!」

 

瞬間、一誠が上を見上た時、祐斗が木刀を下へ突き出して降ってきては一誠の頭部に一撃を入れた。

 

「いってぇ……!」

 

打たれた箇所を押さえもせず、一誠は地面に降り立った祐斗に蹴りを放つが、拳と同じく空を切った。

 

「くそっ、また避けられた!」

 

「イッセー! 魔力の一撃を撃ってみなさい!」

 

悔しがっていると、リアスの指示が聞こえた。

 

一誠はその指示に従い、体に流れる魔力を掌に集中させて集めるが、集まったのは相変わらず米粒程の小さな塊だった。

 

「こんのおぉぉぉぉぉっ!」

 

しかし、リアスの指示に一誠は従い、どうにでもなれという勢いで一誠は魔力の塊を殴りつける様に放り出した途端、米粒程の魔力の塊が巨岩並みの大きさに変貌を遂げた。

 

速度のある巨大な魔力の塊が祐斗に迫るが、それはあっさりと避けられてしまい、目標を失った魔力の塊は遥か先にある隣の山に飛んでいき――

 

ドッゴォオオオオオオオオオオオオオンッッ!!

 

刹那、凄まじい爆音が轟いた。

 

「……え?」

 

迫る爆風を凌いだ後、一誠は恐る恐る顔を上げては言葉を失った。

 

『なっ!?』

 

「何……だと……?」

 

「あらあら……」

 

「……山が」

 

「な、なくなってしまいました……」

 

コゲンタ、八雲、朱乃、小猫、アーシアが言葉を繋げる。

 

全員の目に、一誠の一撃で大きく抉られた山の全容が飛び込んできた。

 

「マ、マジで? マジで、消し飛んじゃったの?」

 

【Reset】

 

あまりの出来事に呆気に取られる一誠だったが、強化されている時間の終了を知らせる音声が発せられ、全身の力が一気に抜けた。

 

「そこまでよ」

 

リアスが一誠と祐斗の模擬戦を止めると、祐斗も木刀を降ろし、一誠も腰を抜かした様に地面へ座り込んだ。

 

「お疲れ様。さて、感想を聞こうかしら。祐斗、彼はどうだった?」

 

リアスの問い掛けに祐斗は答える。

 

「はい。正直、驚きました。最初の一撃で決めようと思っていたんですが、イッセーくんが硬すぎて大したダメージも与えられませんでした」

 

その証明をするかの様に祐斗は木刀を前に出すと、刀身は既に折れかけていた。

 

「あのままやっていたら僕は得物を失って、逃げ回るしかなかったですね」

 

「ありがとう、祐斗」

 

確認したリアスは一誠に言う。

 

「イッセー。この前、あなたは私に“自分は皆より弱く、才能もない”と言ったわね。それは半分正解。ブーステッド・ギアを発動していないあなたは弱いけれど、その力を使うあなたは次元が変わるわ。その証拠があれ……上級悪魔クラスの一撃よ」

 

消し飛んだ山へ指差すと、リアスは語り続ける。

 

「基礎を鍛えたあなたの体は、莫大に増加していく神器の力を蓄える事の出来る器となったわ。前に言ったでしょ? あなたは基礎能力を鍛えれば最強になっていくの。始まりの数字が高ければ高い程、増大していく力も大きいのよ。あなたにとって、それだけでも強大な成長なの」

 

「……俺の力は、凄い……のか?」

 

未だに自身の力を疑う一誠に向かって、リアスは自信満々に言い渡した。

 

「あなたはゲームの要。恐らく、イッセーの攻撃力は状況を大きく左右するわ。あなた1人で戦うのなら、力の倍化中は隙だらけだけど、勝負はチーム戦。あなたをフォローする味方がいる。私達を……そして、何より自分を信じなさい」

 

「みんなを……………自分を……」

 

一誠は言葉を噛みしめながら辺りを見渡すと、八雲が、シキガミ達が、朱乃が、祐斗が、小猫が、くぅろが、アーシアが、そしてリアスが微笑んでいる。

 

それはとても心地よくて、一誠の中に自信が満ちていくのが分かった。

 

「あなたをバカにした者に見せつけてやりましょう。相手がフェニックスだろうと関係ないわ。私達がどれだけ強いのか、彼らに思い知らせてやるのよ!」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

『『『『『おう!』』』』』

 

全員の力強い返事が、全員の気持ちを1つになったのは言うまでもなかった。

 

決意を新たに、結束を深め合った山籠り修行合宿は順調に進み、その後無事に終わりを告げる。

 

そして、決戦当日を迎えた。




イッセーとリアスのイベント省略。そして、八雲と朱乃のイベント勃発。

取り敢えず、自分なりに考えたシキガミの能力と、八雲の神器の新たな能力です。因みに八雲の神器が発した機械音のイメージは、『鎧武』の『戦極ドライバー』です。

でも、神操機(ドライブ)と言う意味で『ベルトさん』でも良いかも……。

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