ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第30話:教会からの使者

少々18禁に発展しかねないハプニングから数時間後、八雲とくぅろは家路についていた。

 

何時もなら、学園からだいぶ離れた所でくぅろが八雲の腕に抱き付いて談笑しながら帰るのだが、朱乃との一件が尾を引いているのか、とぼとぼと八雲の少し後ろを歩いている。

 

「……………」

 

くぅろの表情から寂しさと切なさが感じられる。まるで、主人に怒られた犬の様な光景だ。

 

「……………」

 

さすがに気まずい空気に耐え兼ねず、八雲は立ち止まってはくぅろに言う。

 

「……くぅろ。もう怒ってないから元気出せ」

 

「……ごめんなさい」

 

「……はぁ」

 

これで何度目だろう……と、八雲はくぅろの謝罪の言葉に溜め息をしては振り向き、鼻に詰めたティッシュを取った。

 

「自身が誓いを立てて失敗する事なんて何度もある。もし次も同じ事が起きれば、前回の失敗を起こさない様に頑張れ」

 

「……分かりました。でも、自信が無いんです。朱乃さんが御主人様を取るんじゃないかと思うと、胸の辺りが苦しくて……」

 

人はそれを嫉妬と呼ぶ。

 

そんなくぅろの思いを感じ、八雲は男としての喜びを内心で喜ぶと、くぅろの頭を優しく撫でた。

 

「……まあ、頑張れ」

 

「……はい!」

 

機嫌を取り戻したくぅろは八雲の腕に抱き付くと、2人は再び進み出すが、家に近付いた所でくぅろが急に立ち止まった。

 

「どうした?」

 

「……匂います」

 

「え? ああ、止まったばかりだからまだ血が乾いて――」

 

「違います。これは……」

 

八雲の勘違いを冷静にツッコミ、くぅろは鼻をひくひくさせては言った。

 

「光の匂いです。それも、闇を滅ぼす程に強力な匂いです」

 

「何?」

 

くぅろの言葉に八雲は辺りを見渡すが、それらしいモノは見えず、思考を始めた。

 

(恐らく、光の匂いは教会に関係する者。昨日の件を考えれば、あのイカれ神父の可能性が高いな。――くそっ! オニシバなら鼻で詳しく探れるが、今は皆を休ませないと……!)

 

もしもシキガミが健全なら、くぅろの言う光の匂いを感じていたであろう。だが、未だに朱乃に吸われた力が回復しておらず、現在シキガミ達は神器に深く潜っては眠っているのだ。

 

それから進む毎に光の匂いが強くなる中、2人はつる屋の近くまで帰って来た。

 

そして、くぅろは口を開く。

 

「……匂う! お店の中から、光の匂いがプンプンします!」

 

「っ!」

 

緊張が走り、八雲は走り出す気持ちをギリギリ抑えて入り口付近に身を隠した。

 

もしも祖父母に何かあれば、八雲は飛び出してその者に制裁を加えるだろう。だがくぅろは光の匂いだけ感じており、祖父母に関しては何も変化が無いと言った。

 

取り敢えず、八雲は祖父母の安全を最優先に考えながら、中の状況によって行動しようとした。

 

「……………あれ?」

 

しかし、つる屋の入り口からゆっくりと中を覗き込んだ八雲は間抜けな言葉を発した。

 

「はい、これ。昔好きやったでしょ?」

 

何故なら、店の中でおつるが2人の女性客に和菓子を振る舞っていたからだ。

 

「……ん?」

 

だが、その女性客が一般ではないのを八雲は理解した。

 

服装は白いローブを着込み、時折ローブの下から見えるボンテージの様な黒い戦闘服。

 

きわめつけに十字架を胸に下げている事もあり、彼女達がキリスト教会の関係者だと分かった。

 

「……っ! おいしい! 味も昔のままで、懐かしいわ!」

 

長い栗毛をツインテールにしている女性が懐かしむ様に和菓子を堪能する中、おつるも懐かしむ様に微笑む。

 

「あの頃はよく一人で店に来とったしねぇ。おじいさんに可愛がられとって、よく新作の和菓子も振る舞っとったし……」

 

「そういえば、おつるさん。赤蘭さんはいないんですか?」

 

「おじいさんは、町内会の人らと将棋しに出掛けたばかりなんよ。戻って来るんが知っとったら……………あら?」

 

(あ、バレた)

 

おつるの勘の良さに察した八雲はくぅろと共に出てきた。無論、今帰って来たかの様に、女性客にも怪しまれない様に振る舞いながら。

 

「ただいまー」

 

「ただいまです、おつるさん」

 

「八雲ちゃん、くぅろちゃん、おかえり」

 

「……えーっと、おつるさん。どちら様ですか?」

 

ツインテールの女性の質問におつるは答える。

 

「ああ、イリナちゃんは初めてやね。孫の八雲ちゃんと、家にホームステイしとるくぅろちゃん。仲良くしてな」

 

おつるの言葉に八雲は女性客に頭を下げる中、ツインテールの女性も頭を下げては自己紹介した。

 

「そうなんだ……。――あ、はじめまして。紫藤イリナです。小さい頃、近所に住んでたんだよ」

 

「……………」

 

そんな中、八雲はジッと見つめられている視線に目を向く。

 

緑色のメッシュを髪に入れている外国の女性。黙々と和菓子を食べているにも関わらず、その女性には隙が少なく、なかなかの実力者だと八雲は感じた。

 

だが八雲は、それよりも異様な存在を感じていた。

 

(あれって……)

 

その女性の傍らに置かれた、布に巻かれた長い物体。何故巻かれているのか今は分からないが、微かに感じるソレは、知らずに汗を流させる程の物だと理解した。

 

「……私の物に何か?」

 

メッシュの女性が和菓子を食べ終え、声を掛ける。

 

だが、もし八雲が会話を始めてしまえば、何時の間に外国人と話せるのかとおつるが驚くだろう。

 

「え、えーっと……………紫藤さん。彼女は今何と?」

 

故に、この場を誤魔化す為に八雲は英語を理解出来ない“フリ”をした。

 

「ああ、気にしないで。見つめられて気になっただけだから」

 

イリナは手を振って愛想笑いをすると、メッシュの女性は時計を見ては言葉を発した。

 

「イリナ、そろそろ戻ろう。時間を掛けすぎている」

 

「え? うわっ、もうこんな時間!?」

 

「おや、もう帰るんかい?」

 

メッシュの女性の言葉にイリナは驚く。

 

おつるもお茶を出しては言葉を投げ掛ける中、イリナはお茶を一気に飲み干しては言った。

 

「……っぷはー! はい。任………じゃなかった。ホテルにチェックインして報告しないと! それじゃあ、おつるさん。また機会があれば来ますね」

 

「ええ、また来てな。ほれ、これも持っていき。ホテルに着いたら、二人でお食べ」

 

「ありがとう、おつるさん! ああ、主よ。心優しきお方に御加護を」

 

イリナは胸で十字を切ると、お土産の和菓子詰め合わせを受け取ってはメッシュの女性と共に店を出た。

 

「どう、来てよかったでしょ?」

 

「ああ。ジャポネーゼ・スウィーツ……とても上品な味わいだった……」

 

「任務が終わったら、また行きましょ♪」

 

会話をしながらホテルの道のりを歩く2人。

 

そんな2人の背中を見て、八雲は疑問を口に出した。

 

「……任務?」

 

翌朝、その疑問の答えが分かるのだが、今は知らない……。

 

 

 

 

 

 

「教会の関係者が潜り込んでいるらしいの」

 

昨日のつる屋の件が終わった翌朝、八雲は一誠達と何時もの様に公園で鍛練する中、それは唐突にリアスから聞かされた。

 

昨日、リアスは一誠とアーシアと共に家へ帰って来ると、僅かだが教会の関係者が訪れた痕跡を感じたのだ。

 

その際、悪寒を感じた一誠は血相を変えて家に入るが何も事態は起こっておらず、一誠の母親がリビングでくつろいでいただけだった。

 

だが、一誠達が帰って来る前、一誠の母親は教会の関係者と談笑していたらしく、その証拠として昔の写真を一誠達に見せたのだ。

 

以前見た聖剣が写った写真であり、男の子だと思っていた女の子の写真を……。

 

「男の子っぽかったけど、今じゃ立派な女の子になってビックリした……って、母さんが言ってたんだぜ?」

 

「まあ、確かに写真だけじゃあ男の子だよな。それで、名前は知ってるのか?」

 

「二人の内、一人は外国人だそうだ。それで、写真の写ってる子が紫藤イリナって言ってたぜ」

 

「紫藤イリナ? すると、昨日の二人組がそうか……」

 

「まさか、接触したの?」

 

リアスの言葉に八雲は頷いた。

 

「お客として来てたので挨拶だけですが。まあ、怪しまれずに済んだのはよかったです」

 

「そうなの? でも教会の者なら僅かな魔力でも察知する筈よ。シキガミを宿している体なら尚更。それなのに無事なのは不思議ね」

 

そんなリアスの疑問に答えたのは、コゲンタだった。

 

『オレ達が寝てたから気配を探る事が出来なかったんだろうよ。まあ、不幸中の幸いだぜ』

 

「寝てたって、何かあったのか?」

 

「あー……まあ、色々とな……」

 

一誠の質問に八雲は言葉を濁した。もしも昨日起こった事を話せば、羨ましさと嫉妬を込めた涙を流しながら迫るだろうと感じ取り、話す事を拒んだのだ。

 

その様に思う中、リアスが口を開いて話を進める。

 

「それで、昼間に彼女達と接触したソーナの話では、彼女達はこの町を縄張りにしている悪魔リアス・グレモリーと交渉をしたいそうなのよ」

 

その言葉に八雲だけが驚く。敵対の関係であるにもかかわらず、キリスト教(あちら)から交渉するなど余程の事でないと起こらないだろう。

 

「……何か、嫌な予感がするわね。信徒にとって邪悪な存在である悪魔に依頼をする位なのだから、相当切羽詰まっていて、かなりの厄介事なのは確実ね。話ではこの町を訪れて来た神父が次々と惨殺されているみたいだわ」

 

「……………」

 

リアスが難しい表情をする中、八雲も思考する。

 

(神父の惨殺に関しては違うだろうな。おばあちゃんからは不審者も何も聞かされてなかったし……)

 

ふと、八雲はある事を思い出す。

 

(そういえば、あの布に巻かれた物から感じた力、よくよく考えれば何処かで感じたな。つい最近……)

 

思い出そうとするが今は鍛練の最中だ。取り敢えずこの事は置いておき、八雲達は鍛練を再開するのだった。

 

教会の関係者との交渉が、着々と近付いていく。

 

 

 

 

 

 

「やっと終わった……」

 

その日の放課後、日直を終えた八雲とくぅろは部室へと向かい、部室の扉前にいた。

 

「くぅろ。中の様子は分かるか?」

 

八雲の言葉にくぅろは目を閉じて意識を集中すると、暫くして口を開いた。

 

「……皆さん以外に、昨日と同じ気配が二つ。それとギスギスと一部の空気……というか、雰囲気が何というか……」

 

「昨日と同じ……とすると、もう来てるのか」

 

『一部の空気ってどういう意味だ?』

 

「そこまでは……」

 

コゲンタの言葉にくぅろは困惑する中、八雲は扉に手を伸ばす。

 

「……まあ、取り敢えず入ろう。それと、コゲンタ達は昨日と同じ気配を消しといてくれ」

 

『分かった』

 

了承したコゲンタを確認すると、八雲は扉を開けた。

 

「すいません。遅くなりまし、た……」

 

入った瞬間、八雲は肌に険悪な雰囲気を感じてしまったが、視線を交互に移した。

 

一方は、ソファーに座るリアスと朱乃と向かい合う様に、昨日出会ったイリナとゼノヴィアが座っていた。それぞれ一瞬驚いたが、イリナは邪気の無い笑顔を向けて手を振り、ゼノヴィアは注視する様な視線をしてはリアスに視線を向けた。

 

もう一方は、部室の片隅に集まっている一誠達4人。皆が緊張した面持ちをしている中、祐斗は怨恨の眼差しで睨みを利かせていた。

 

ひとまず、八雲とくぅろはリアス達の話し合いを邪魔しない様に一誠達の場所へと近付き、確認する様に一誠に訊ねた。

 

「話し合いはどの辺りまで進んでるんだ?」

 

「少し前に来たばかりだぜ。話そうとした途端、吉川が来たから全然進んでない」

 

「そうか」

 

一誠の答えに八雲は現役信徒達に視線を向ける中、リアスと朱乃にイリナは話し掛ける。

 

「リアス・グレモリー。あの男の子、一般人よね? どうしてこんな所に来てるのかしら?」

 

「八雲は私達の協力者よ。特にはぐれ悪魔の討伐時は、助けられてるわ」

 

「無理矢理に入れた……訳じゃないね」

 

「無理矢理ではありませんわ。八雲くんは八雲くんの意思で、私達を助けてくれますの」

 

「……世間話はそこまでにしよう。今はこちらの話しだ」

 

そんな中、ゼノヴィアはイリナ達の会話を中断させては話を切り出した。

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われた」

 

その言葉にグレモリー眷属は目を見開く中、八雲は先日戦ったフリードを思い出し、手にしていた獲物が聖剣だと予想がついた。

 

だが同時に、聖剣がカトリック、プロテスタント、正教会の“3ヶ所”から盗まれたという内容に、八雲と一誠は疑問を持った。

 

「聖剣エクスカリバーそのものは現存していないの」

 

そんな心の中の疑問を見透かしたようにリアスが答え、その言葉に呆気にとられた。

 

「ごめんなさいね。彼らの中には悪魔に成りたての子がいるから、エクスカリバーの説明込みで話を進めてもらっても構わないかしら?」

 

リアスの申し出にイリナが頷いた。

 

「イッセーくん。エクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」

 

「今はこのような姿さ」

 

一誠の方に顔を向けて言うイリナの言葉に続く形でゼノヴィアが傍らに置いていた長い得物を手に取った。それには呪術らしき文字が記された布が何重にも巻きつけられているのだが、彼女はそれをスルスルと解きはじめた。

 

そして、今まで隠されていたそれが姿を現した。

 

「これが、エクスカリバーだ」

 

美しい刀剣。その姿を見た瞬間、例えようのない存在感に八雲は目を奪われては、フリードの持つ聖剣と似た力を感じ取った。

 

一方、一誠達も似た表情を浮かべていたが、それは八雲が抱くものではなく、心の底から本能で恐怖するものだった。

 

「大昔の戦争で四散したエクスカリバーだが、折れた刃の破片を拾い集め、錬金術で新たに7本の聖剣を作り出したのさ。これがそのひとつ、『破 壊 の 聖 剣(エクスカリバー・デストラクション)』。七つに分かれた聖剣のひとつだよ。カトリックが管理している」

 

説明を終えたゼノヴィアは封印する様に再び布で手に持つ聖剣を覆い始めた。

 

そして、彼女に続いてイリナが懐から取り出したのは長い紐の様な物だった。すると、その紐は意志を持ったかの様にうねうねと動き始め、やがて1本の日本刀へと形を変えた。

 

「私のは『擬 態 の 聖 剣(エクスカリバー・ミミック)』。こんな風にカタチを自由自在に出来るから、持ち運びにすっごく便利なんだから。この様にエクスカリバーはそれぞれ特殊な力を有しているの。こちらはプロテスタントが管理しているわ」

 

「イリナ……悪魔にわざわざエクスカリバーの能力を喋る必要もないだろう?」

 

「ゼノヴィア。いくら悪魔だからと言っても信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう? それに私の聖剣は能力を知られたからといって、悪魔の皆さんに後れを取るなんて事ないわ」

 

自慢げに語るイリナにゼノヴィアが溜息交じりに口を挟むが、余裕綽々の様子でイリナは屈託のない笑みで返していた。

 

「……………」

 

そんな彼女達にかつてない程のプレッシャーを放つ者がいた。

 

祐斗だ。

 

敵意、怨念、憎悪……………様々な黒い感情が入り乱れる形相で、彼女達と聖剣を睨んでいた。

 

種類は違えど、つい先日に取り逃がしたばかりのそれと同類である聖剣が、今こうして目の前に現れたのだ。感情を表に出すなという方が無茶な相談なのかもしれない……。

 

(最悪、祐斗を取り押さえれる様にはしないとな……………したくはないけど……)

 

最悪を想定して八雲は警戒すると共に、このまま無事に事態が収まる事を心中祈る中、リアスは真摯な態度で敵対組織と会話を再開させた。

 

「……それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」

 

「現状、聖剣はカトリック、プロテスタント、正教会に二本ずつ管理し、残る一本は大昔の戦争の時に行方不明となった。その内、各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。奪った連中はこの国に逃れ、この地に持ち運んだって話なのさ」

 

ゼノヴィアの言葉にリアスは呆れた様に額に手を当てた。

 

「私の縄張りは出来事が豊富ね。それでエクスカリバーを奪った連中に心当たりは?」

 

リアスの問いにゼノヴィアは目を細めた。

 

「奪った連中は『神の子を見張る者』。その主犯格は堕天使幹部……コカビエルだ」

 

予想外の答えに八雲と祐斗以外の面子は目を見開き、リアスは苦笑を浮かべた。

 

「コカビエル……。古の戦いから生き残る堕天使の幹部……。聖書にも記された者の名前が出されるとはね」

 

彼女達の会話から、八雲は何となくだが、現在の状況を把握する事が出来た。どうやら教会が悪魔に交渉を求める程に、事態は切羽詰まっているようだ。

 

(エクスカリバーの奪還の為、協力してくれってところかな。なら、俺も手伝える事があれば……)

 

だが、八雲の予想とは裏腹にゼノヴィアはハッキリと言った。

 

「私達の依頼……いや、注文とは私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに、この町に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。ーーつまり、今回の事件に関わるなと言いに来た」

 

的外れな内容にリアスは眉を吊り上げた。

 

「ずいぶんな言い方ね。それは牽制かしら? もしかして、私達がその堕天使と関わりを持つかもしれないと思っているの? 手を組んで聖剣をどうにかすると」

 

「生憎、本部は可能性が無い訳ではないと思っているのでね」

 

リアスの瞳に冷たいものが宿るのが、グレモリー眷属達に感じたが、構わずゼノヴィアは言い続ける。

 

「上は悪魔と堕天使を信用していない。聖剣を神側から取り払う事が出来れば、悪魔も万々歳だろう? だから先に牽制球を放つ事にした。堕天使コカビエルと手を組む様な事があれば、例え魔王の妹君であっても、我々はあなた達を完全に殲滅させる。……これが私達の上司からの言伝だ」

 

リアスの威圧に臆する事なく、ゼノヴィアは淡々と言ってのけた。

 

「……私が魔王の妹だと知っているという事は、あなた達も相当上に通じている者達の様ね。ならば、言わせてもらうわ。私は堕天使などと手を組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗る様なマネはしないわ!」

 

暫く両者の間に拮抗状態が続いたが、ゼノヴィアがフッと笑って沈黙を解いた。

 

「その言葉が聞けただけでもいいさ。一応、コカビエルが盗んだエクスカリバーを持って潜んでいるという事をそちらに伝えておかなければ、何か起こった時に私が……教会本部が様々なものに恨まれる。まあ、協力は仰がない。そちらも神側と一時的にでも手を組んだら、三竦みの様子に影響が出るだろう。それが魔王の妹なら尚更だよ」

 

ゼノヴィアの言葉を聞き、リアスは強張った表情を緩和させて軽く息を吐いた。

 

「正教会からの派遣は?」

 

「上は今回この話を保留した。仮に私とイリナが奪還に失敗した場合を想定して、最後に残った一本を死守するつもりなのだろうさ」

 

(潔いというのか、軽率というのか……聞くこっちが呆れるなぁ……)

 

心中呆れる八雲と同じく、呆れた様子でリアスが問う。

 

「二人だけで堕天使の幹部からエクスカリバーを奪還するつもりなの? 無謀ね。死ぬつもり?」

 

「そうよ」

 

「私もイリナと同意見だが、出来るだけ死にたくはないな」

 

イリナとゼノヴィアは真剣な眼差しで平然と言い切る中、リアスは本日何度目かの呆れ声を漏らした。

 

「まさか、死ぬ覚悟で日本に来たというの? 相変わらず、あなた達の信仰は常軌を逸しているのね」

 

「私達の信仰をバカにしないでちょうだい、リアス・グレモリー。ね、ゼノヴィア」

 

「まあね。それに教会は堕天使に利用されるぐらいなら、エクスカリバーが全て消滅しても構わないと決定した。私達の役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手から無くす事だ。その為なら、この命など惜しくはない」

 

そんな覚悟を目の当たりにした八雲は、シキガミ共々呆れていた。

 

(これが信仰心ってヤツか……。命を無駄にするなっての……)

 

「……………」

 

「……………」

 

そんな事を思っている内に、いつの間にか両者が見つめあったまま会話は途絶していた。

 

そして、イリナとゼノヴィアが目で合図を送りあうとおもむろに立ち上がった。

 

「それでは、そろそろおいとまさせてもらうかな。イリナ、帰るぞ」

 

「そう、お茶は飲んでいかないの? お菓子ぐらい振る舞わせてもらうわ」

 

「いらない」

 

「ごめんなさいね。それじゃ、おじゃましました」

 

リアスの誘いをゼノヴィアは手を振って断り、イリナも手を合わせながら断ると、そのまま部室を去ろうとした。

 

だが、ふとゼノヴィアの視線が一ヶ所に止まった。

 

「入室してすぐ見かけた時、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか? まさか、この地で会おうとは」

 

彼女が口にした『魔女』という言葉に、アーシアはビクッと体を震わせる。

 

それに気付いたのか、イリナもまじまじとアーシアを見つめた。

 

「あなたが一時期、噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん? 悪魔や堕天使を癒す能力のせいで教会から追放されたと聞いていたけれど、悪魔になっているとは思わなかったわ」

 

「……あ、あの……私は……」

 

言い寄られ、対応に困るアーシア。

 

「大丈夫よ。ここで見た事は上には伝えないから安心して。『聖女』アーシアの周囲にいた方々に今のあなたの状況を話したら、ショックを受けるでしょうからね」

 

「……………」

 

イリナの言葉にアーシアは複雑極まりない表情を浮かべていた。

 

「しかし、悪魔か。『聖女』と呼ばれていた者。堕ちるところまで堕ちたものだな。まだ我らの神を信じているか?」

 

「ゼノヴィア。悪魔になった彼女が主を信仰しているはずはないでしょう?」

 

呆れた様子でイリナは言うが、ゼノヴィアは即座に否定した。

 

「いや、彼女から信仰の香りが感じ取れる。抽象的な言い方かもしれないが、私はそういうのに敏感でね。背信行為をする輩でも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。それと同じものが彼女から伝わってくるんだよ」

 

ゼノヴィアが目を細めると、イリナは興味深そうにまじまじとアーシアを見つめる。

 

「そうなの? アーシアさんは悪魔になったその身でも主を信じているのかしら?」

 

イリナの問いかけに、アーシアは悲しそうに暗い表情で呟き始めた。

 

「……捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたものですから……」

 

それを聞いたゼノヴィアは、布に包まれた聖剣を突き出した。

 

「そうか。それならば、今すぐ私達に斬られるといい。今なら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べてくださるはずだ」

 

そのままアーシアに近付こうとするゼノヴィアに、八雲は咄嗟に動こうとしたが、その前に一誠がゼノヴィアに立ちはだかった。

 

「触れんな」

 

怒気を含んだ口調で、アーシアを庇う様に立つ一誠が告げる。

 

「あんた、さっきアーシアの事を『魔女』だと言ったな?」

 

「そうだよ。少なくとも今の彼女は『魔女』と呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」

 

平然と言ってのけるゼノヴィアへの怒りで、一誠は奥歯をギリギリと噛み鳴らした。

 

「ふざけるな! 救いを求めていた彼女を誰一人助けなかったんだろう!? 自分達で勝手に『聖女』にして、少しでも求めていた結果が違ったら、今度は『魔女』呼ばわりして見捨てんのかよ? そんなの、おかしいだろ!?」

 

激高する一誠は腹から込み上げてくる感情を吐き出すかの様に、さらに続ける。

 

「アーシアの苦しみを、優しさを、誰も分からなかったくせに何が神様だ! 現にその神様だって、アーシアが助けを求めた時に何もしてくれなかったんだ

ぞ!?」

 

「神は愛してくれていた。何も起こらなかったとすれば、彼女の信仰が足りなかったか、もしくは偽りだっただけだよ」

 

だが怒りを露わにする一誠に、ゼノヴィアは悪びれる事なく返答し、その態度がさらに一誠の沸点を上げる。

 

「君はアーシア・アルジェントの何だ?」

 

今度はゼノヴィアが聞いてきた。

 

だから一誠は正面から鋭い目つきを睨み返し、ハッキリと告げた。

 

「家族だ。友達だ。仲間だ。だから、アーシアを助ける。アーシアを守る! お前達がアーシアに手を出すなら、俺はお前ら全員を敵に回してでも戦うぜ」

 

一誠の挑戦的な物言いに、ゼノヴィアはさらに目を細めた。

 

「それは我ら教会全てへの挑戦か? 一介の悪魔にすぎない者が、大きな口を叩くね。教育不足ではないか? グレモリー」

 

「イッセー、お止めーー」

 

「ちょうどいい。僕が相手になろう」

 

リアスは今にも一触即発しそうな両者を落ち着かせようとしたのだが、彼女を遮る様に祐斗が前に出た。

 

「誰だ、キミは?」

 

問いかけるゼノヴィアに、剣を携えていた祐斗は不敵に笑った。

 

「キミ達の先輩だよ。……最も、“失敗作”だけどね」

 

その瞬間、部室内に無数の魔剣が出現した。

 

(……最悪以上になったな)

 

ゼノヴィアの言葉に憤怒を貯めていた八雲は、想定外の出来事に冷静になるのだった。

 

現状、何も出来ない自分に、誰も聞こえない様に舌打ちしながら……。




ふと、別の作品を思いついては衝動的に書いた結果、投稿するのが遅くなりスミマセン。

もう暫く、投稿ペースは遅くなるかもです……。
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