あれからどれぐらいの時間が経ったんだろう…どうやら気を失っていたようだ。瞼を開けてみる。
「ん…」
開けると照明の光が目を刺してくる…なかなか応えるものだ。見渡すと周りはコンクリートの壁、顔は動かせるが…手足は動かない、どうやら椅子に縛られているようだ。
「でも口は動かせんだよな…」
なんて…意味の無いツッコミをしながら何故こうなったのかを考えてみる。やはり自分が何かやらかしてしまったは間違いはないだろう。
そうやって考えていると…扉が開く音が鳴らされ。誰かがこの部屋に入ってくる。
「誰だ?」
「あぁ…私だよ、ナルバレックさ、久しぶりだね壱輝くん」
「まさかこんな所で会うことになるとは。思いもしてませんでしたよ…で、なんで俺は拘束されてるんですか?」
「なんでかって言うとね…君が暴走したからだよ」
「暴走…?俺が?今までそんなことなったことありませんし。しかも、俺にそうなった覚えはないですよ?」
俺はそんなに強くないし、特別な力なんてある実感なんてなかったし、行使したこともないのに…
「それは気を失っていたからだろう…そこは君ももう分かってただろ?」
気を失っていればそりゃ覚えてないわけだ…今まで暴走なんてしたこと無かったしなぁ…原因はなんなんだろう?
「まぁ…そうですね…」
「そして…暴走を見て、聖堂教会は今、君を疑っているんだ、だから…シエルと同じ『審問』を受けてもらうことになった」
「え…それってあらゆる種類の殺戮を受けるってことですか」
「うん、そうだよ…さぞ辛いだろうね、まぁ…頑張って耐えたまえ、さすれば君はまた代行者として活動ができるかもよ?」
そう言ってナルバレックさんは俺を椅子に縛っている拘束を解いた。
「分かりました…死なないように頑張って見ます…」
俺は審問が行われる場所へと足を進めた。
その後、審問と称されたあらゆる種類の殺戮を受けた…1つは全身を焼かれ…1つは数多の斬撃を受けた、どれも痛さ・辛さはとても大きかった。
殺戮の中…意識が薄れていく。遂に俺も死ぬのか…と絶望に浸る。この状況をどうにかできる術を持っている訳でもないんだ。シエル…君が感じた痛みはこんなに辛かったのか。俺はただここで朽ち果てるのを待つだけらしい…俺はついに意識を手放した。
え…何故だ、何故温かさを感じる…まさか俺生きている!?体も残っているのか!?そう気づいた瞬間、すぐ瞼を開けてみる。
「ま…まさか、死なずに生きていたなんてな…」
自分の体を見てみるが、手足共々しっかりあるようだ、だがしかし…殺戮で受けた傷は痛々しく残っていた。
自分事なのに事実だと受け入れるまで時間がかかりそうだ…ついていたと考えるべきか?嫌…よそう、馬鹿馬鹿しいな。代行者が神頼みなど…聞いて呆れるわ。自分達がその神である主の代行を成すことが赦された使徒であるというのに。
どうやら俺はベッドに寝かされていたのだろう、通りで温かさを感じた訳だ…でも、誰がベットまで連れてきてくれたんだろう?こんな審問にかけられた異端のような自分を運ぶなんて。
「あ、起きた?おはよ〜、まさか生きていたなんてね、オマケに体を綺麗に残してさ、さすがに傷は残ってるようだけど」
唐突に後ろから声をかけられる、この声は…ナルバレックさんか。
「おはようござい…と言いたいところなんですが、それよりも気になることがあります。俺は代行者を続けることができますか?」
「安心して、代行者は続けてもいいらしいよ、不都合な存在を消せれば"誰でもいい"からね、たとえそれが審問受けたものだとしても…ね」
「そ…そうですね…なら良かったです」
「一先ず、シエルとかノエルに会いに行ったらどうだい?、2人とも心配そうな顔してたよ、ちなみに場所はここからまっすぐ行ったところだよ」
「そうなんですか?待たせる訳には行かないので早めに行ってきます。それでは…ナルバレックさん」
俺はベットから体を起こし、下に置いてある靴を履く。
「あぁ、いつかまた会おう壱輝君…どんな状況かは想像もできないけどね」
俺はナルバレックさんと話していた場所を後にした。
「全く…あの人と話していると精神が擦切れる…」
話している時何か圧を感じたな…あれが強者の風格と言うやつなのだろうか…。
「考えることも恐ろしいな」
俺はそう言葉を零しながらナルバレックさんが言っていた場所へと向かった。進んでいると遠目にシエルとノエルの姿が見えた。
「お〜い!二人とも〜、帰ってきたぞ〜!」
少しばかり大きな声で声をかける、聞こえていたのか足を進めてこちらに寄ってきた。
「無事だったんですね!何よりです…」
「お兄ちゃん…本物だよね!?」
「あぁノエル…本物だよ」
「良かった…お兄ちゃん…帰ってこないかもって心配してたのよ?」
2人が愁眉を開いたようで安心した。
「心配させてごめんな…俺が暴走さえしなければ、2人を心配させずに済んだって言うのに…」
「いえ、いいんです」
シエルが穏やかな声でそう言ってくれた。こんなに嬉しいことがあるだろうか?
「私は…その…」
ノエルは赤面しながら口をもごもごさせているようだ。恥ずかしいのかな?
「いや…良いんだ、無理に言わなくても伝わっているよ、心配してくれてたんだろ?ありがとなノエル」
「///…どういたしまして!当然よ!」
「なぁ…シエル──君が感じた痛みはあんな物だったんだな…やっと分かったよ。こういうのは同じ体験をしてみないと分からないものだな」
「自分でも思ってたんです、あなたが私と同じ経験──痛みを感じてくれるって。何処か少し喜んでたのかもしれません、でも同情を求めるのは辞めました。これは私が背負った罪ですから。贖罪はきっちり自分でやらなければ」
「でも、これで一緒だな…シエル」
「はい…そうですね」
横から顰めた顔をしたノエルが入ってくる。
「何2人でお熱い空気になってんのよ!シエル!同情は求めないんでしょ!?」
「いえ…違いますよシスターノエル。これは気持ちを貰っただけです、同情ではありません」
「ほんとに〜?実は求めてたんじゃないの〜?」
「ちち違いますよシスターノエル!!断じて求めてなどいません!」
「あっそ…ならいいんだけど。あっ!私はお兄ちゃんが無事なだけで満足よ?1番優先するのが安否だから。シエルと違ってね!」
「そこを言う必要がありましたかシスターノエル!?」
なんて何気ない会話を繰り広げている2人を見ると、なんとも和やかな気分になる。こんなごく普通な日常がずっと続けばな〜…ってそうには行かないか。俺達は代行者──主の代わりに代行を成すのが赦された使徒だ。その役割を果たさなければだよな…
「それより、2人とも任務とかなかったのか?、ずっと暇って訳でもないだろ?」
シエルが思い出したような顔をしつつ話す。
「あ!、そういえば教会側から言われてたことがありました…壱輝さん」
「ん?俺についてか?」
「はい。今後あなたがいつ暴走しても対処出来るように、あなたが任務に行く際は私とシスターノエルが必ず同伴することが義務付けられました」
俺は改めて自認した──自身の危険性や犯した過ち。拭っても拭いきれない罪を。
「なるほどな…2人共ごめんな。俺のせいで変な荷を背負わせてしまって…全部俺の落ち度だよな…感謝してもしきれないよ」
「いえ、いいんです──私も貴方の傍にいること、支える事ができるんですから」
「私もそうよ?お兄ちゃん、嫌なわけないじゃん!、むしろ嬉しいよ!シエルがいるのだけは嫌だけど…」
「ん?何か言いましたかシスターノエル?」
「いや!?別に!」
ノエルが必死に誤魔化そうとしてるが、露骨に目が泳いでいてバレバレだ。
「はぁ…まぁいいです、一先ず今日は引き上げましょう。任務はもう無いですし、時間も時間ですから」
あ…そういえば今が何時が聞くことをすっかり忘れていた。自分にとって衝撃な事ばかりだったせいか、普通のことが頭から抜けていた。
「あ〜その…シエル今何時だ?」
「?──今は午後の11時ですけど?」
え──午後の11時?…俺が死徒と戦闘していた時にはもう日が落ちていて、明らかに深夜だった。
「そういえば──聞き忘れていたけど、俺はどのぐらい気を失っていたんだ?」
と──シエルに聞いてみる、………返事がない。本人に何かあったと思って顔を見てみると。とても驚いたような顔をしていたと思ったら突然声を荒らげて言い出した。
「どのくらいって──ナルバレックから聞きかなかったんですか!?」
「あ──あぁ、それよりも他に聞く必要がある事ばかりだったからな」
「いや──そうではなくて、はぁ…ほんとにあの人は──、」
少し間を開けて咳払ってから、シエルが言う。
「壱輝さんは2日ほど気を失っていました」
2日──何故だろう、この日数を少なく感じるのは。
「そうか──2日か、その程度ならなんてことないな、2人の役に立てて良かったよ、この程度じゃ役に立てたなんて言うのは烏滸がましいしな。いやぁ──ほんと俺はまだまだだよな…」
「いえ…烏滸がましい訳なんてそんな無いです!、壱輝さんは確かに役に立ってくれましたし、私─んんっ…私達の為に戦ってくれました!、そんな自分を下げるようなこと言わないでください」
シエルの発言を聞いたノエルが、しかめっ面をしながらこう言ってきた。
「そうだよお兄ちゃん!、私達はお兄ちゃんに助けられたって心の底から思ってるんだよ!?」
「あぁ─わかった、これからは自分を下げるような事は辞めるよ、それでシエル達に怒られちゃったら、たまったもんじゃないからな」
そう言って少し口角を上げて「ハハッ」と笑った。そうやって笑っていると、俺の顔を見て安心したのか、ノエルとシエルが安堵の表情を浮かべながらこう言ってきた。
「お兄ちゃん…笑えたんだね」
「笑えたんですね、壱輝さん」
あ──そうか、笑えたのか…俺は。いつからだろうか、笑えなくなってしまったのは。ただ来る日も来る日死徒続ける毎日を狩り続ける、それは復讐の為に、死徒に殺されたおっさんの無念を晴らすために、ただ自分にそう言い聞かせながら戦ってきた。そんな自分が笑えているのだ…おっさんと過ごしていたあの時のように。
「そう──か、ノエル…シエル、今俺は笑えているんだな」
「う…うん!笑ってるよ、お兄ちゃん」
「はい、確かに笑っていますよ」
2人はそう言ってくれた。
そういえばですね、最近新たな小説の案を思いつきまして、やる気があればその内出すかもしれません。