パルプンテは最後までとっておく   作:葉虎

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第11話

 

「ふぅ…いい天気だ……」

 

縁側でお茶を飲みつつ、空を見上げる。

 

今日は、雲一つない快晴。

 

膝の上には…

 

「くぅ、くぅ♪」

 

子ぎつねが一匹丸くなって寝ており、頭を摺り寄せてくる。

その期待に応えるべく、湯呑みを置き、ゆっくり優しく頭を撫でる。

 

絵にかいたような喉かな場面。しかも今日は平日の昼間とくればそれは至上の贅沢と呼べるもの。

だが、その贅沢も明日まで……

 

「はぁ、学校いきたくねぇな……」

 

明日からは望んでもいない新学期が始まる。

 

入学から毎年、新学期の度に同じ事をしていたりもするが、

今年は一際、しみじみと思う。

 

そう、リリカルでマジカルなイベントが目白押しの年が…

 

去年は去年で色々な事があった。

 

久遠の事件を始め、原作通りにチャリティーコンサートでテロが発生。

 

俺というイレギュラーがいたせいか、原作に登場しない人物が出てきて、

まぁ、色々あった訳だ。

 

折角の気分が台無しになるので、詳しくは割愛。まぁ、機会があったら語ることもあるだろう。んでだ、結論だけ述べるとテロは無事収束し、結果として…

 

「あ♪お兄ちゃん居た~♪」

 

義妹が出来た。

 

訳が分からんかもしれないが、要するにだ。フィリスさんやセルフィさんと同じで、義姉さんの遺伝子から生まれたクローンって奴だ。なんか澤田?沢田?字は分からんが、そんな名前の奴が元凶。まぁ、義姉さんが捕まえたからもう大丈夫だと思うが…。

 

んで、テロ事件での敵側のイレギュラーがこの義妹。解決後は義姉さんの義妹としてこの寮に住んでいる。いや、見た目からはどっちかっていうと…真雪さんの義妹に近い。

 

なぜならば…

 

にこにこ満面の笑みを浮かべた義妹を見る。

 

ちくしょう。似てやがる。だが、別人だ。奴に大人の魅力はない。

 

「ん?難しい顔してどうしたの~?」

 

彼女の容姿は義姉さんというより、知佳さんに近い…ってか、瓜二つ。

 

何がどうなったかは知らないが。彼女はトライウィングスシリーズのラストオーダー。

 

義姉さんと知佳さんの毛髪から採取した遺伝子を組み合わせ、操作したハイブリッドなのだ!!……らしい。聞いてもいないのに、沢田?が語っていた。

 

だが、外見年齢は俺と同じくらい。培養液の中で育ちきる前に資金が無くなり、止むを得ず、彼女を外に出し、龍から依頼を受けてお金を稼ぎ、さらに彼女の性能を見せつけ、龍をバックに研究を続けようと澤田?は目論んでいたらしい。

これも聞いてもいないのに勝手に語られた情報だ。

 

 

 

「別に何でもない。学校に行くのがメンドクサイなぁ~って思っていただけだ」

 

「え~!?私はすっごく楽しみ。ほら、みてみて。制服だよ♪」

 

くるりとターンする義妹。現れた時から制服姿だったから見せびらかしに来たんだろう。

 

明日から学校へ一緒に通う事となり、よほど嬉しいようだ。

 

反応が鈍い俺の姿に若干不機嫌になった義妹の機嫌を取りつつ、俺は神に祈った。

 

せめて、あの原作+転生者トリオの濃いメンバーと違うクラスになれますようにと……

 

色々と諦めたとはいえ、無駄な騒動に巻き込まれたくはない。

 

 

「神は死んだ…」

 

項垂れるように机に突っ伏す。

 

朝も早いせいか人の姿は疎らだ。どうしてこんな早くに登校しているかというと、クラス替えの結果が気になったから……ではなく、テンションがやたら高い義妹に引きずられるようにして連れてこられたからだ。

 

んで、クラス替えの結果は……

 

高町なのは

月村すずか

アリサ・バニングス

 

この三人が一緒のクラス。まぁ、原作でも固まってたし、偶々不幸にも同じクラスに俺がなってしまったからまだわかる。

 

だが…

 

視線を金、銀、白という小学生にしては目立つ頭をした奴らに向けて……ため息。

 

お前らもかよ……

 

なんだ?補正か?

 

槙原の血がそうさせるのか?

 

実に恐ろしきは我が父、槙原耕介か……。

 

 

はぁ~と深いため息を吐きつつ、体を起こし、様子を伺う。

 

金ぴかとアチャ男は、三人娘のところに競うように向かい、何かを何かを話しかけはじめ、銀髪君はふっと髪を掻き上げる仕草をして、窓際に向かったのだが、席が空いていないのに気が付くと、舌打ち一つ……そのままドカッと近くに座った。

 

その窓際で一番後ろという席に座っていた俺も、隣の席に座った男子生徒に話しかけられたので、様子を伺うの止めて、しばしの雑談。

 

まぁ、いいさ。

 

もう、あの日から気にすんの止めたのさ。

 

 

さて、学長の有難くも迷惑な長話を聞き終え、教室に戻ってきた俺はといえば、一枚の紙切れを手に、祈りを捧げていた。

 

新たな担任の元、始まったのは席替えというイベント。

 

スタンダードなくじ引きで行われるそれは、この誰もが一喜一憂した記憶があるのではないだろうか?

 

大切なのは、席の場所よりも、誰が近くに座るかだ。

 

現に、このクラスの男どもはチラチラと見目麗しい3人娘に視線を向けていたりする。

 

……思春期には早すぎるぞガキども。

 

まぁ、そんなこんなでくじを引き終え、開票が始まる。

 

俺の場所はまだ発表されておらず、3人娘はといえば、各地…というのも語弊があるかもしれないが、まぁ、それぞれ散った形になり、お互いに残念がっている。

 

んで…俺はと言えば……

 

「隣だ♪ヨッロロ~♪よっろろ~~♪」

 

「えっと……よろしく。」

 

某人気アニメ映画の替え歌を歌うくらい壊れていた。

 

俺は引き当てててしまったのだ。

 

羨望の……三人の姫の中の一人の隣を。

 

グサグサッと視線が突き刺さる中、痛い壊れ気味の俺の言葉に苦笑いで返事を返してくれた件の姫。

 

月村すずか。

 

まぁ、なのはちゃんとかバニングスよりはマシか……。

 

以前、翠屋での会合以降、3人娘とは出会えば挨拶を交わし、話を振られたら適当に応対するくらいの関係を築いていた俺なのだが…すずかちゃんとは普通に会話が成立するのだが…他の二人は……

 

なのはちゃんの場合

 

『耕二君。こんにちはなの』

 

『こんにちは高ま……なのはちゃん』

 

『今、苗字で呼ぼうとしたの…』

 

『いや、いや、そんなことは。それにちゃんと名前で呼んだじゃないか』

 

『…じゃ、それはいいの。それより、最近どうして翠屋に遊びに来てくれないの?』

 

『えっ?い、いや。それは色々と用事が…』

 

『……葵屋さん(和風喫茶)にはよく行っているみたいなの』

 

『そ、それは…お、俺、和菓子とか緑茶の方が好き…って、なのはちゃん?どうして俺の手首を握るのかな?』

 

『ちょっと、お話なの』

 

『えぇぇぇ!?何について?』

 

『お母さんが気にしてたの。この間の事で嫌になって来てくれないんじゃないかって』

 

『まぁ、た、確かにそれも顔出しづらい要因の一つだけど……って、まじ?ねぇ、ちょっとなのはちゃん、強っ!?何気に握力が…』

 

ずるずると翠屋に連行され、訥々と翠屋のお菓子の良さを言い聞かせられた。

 

それ以来、若干の苦手意識を持っていたりする。

 

 

バニングスの場合

 

『Hi 耕二』

 

『ん?バニングスか。今、帰りか?』

 

『そうだけど…いい加減、私の事も名前で呼びなさいよ!』

 

『だが、断る!!』

 

『フシャーーー!!』

 

大体、会う度にこんな感じだ。

 

 

 

若干の脚色は入ったが、概ねこんな感じ。何かと因縁をつけられやすい二人よりかはマシ。でもなぁ…

 

始業式終了後、何時もより早い下校時間となり…

 

「すずか帰るわよ」

 

「すずかちゃん帰ろ~~」

 

そう、すずかちゃんが居る限り。奴らからやってくるのだ。そして…

 

「折角だし、耕二君も一緒に帰ろ?」

 

隣にいる俺をロックオンし、声を掛けてくるなのはちゃん。

 

この子は何かと俺を誘う事が多い。それは俺に対して気があるとかじゃなく、単に…逃げる奴ほど追いたくなる……という習性があるからだ。というのが俺の見解だ。

 

一歩退けば、二歩距離を詰めてくる。そんな子。

 

当初、距離を取ろうしていた俺の態度を敏感に察したのか、ターゲットにロックオンされてしまったようなのだ。

 

そして、生半可な理由では納得せず、ずっと追いかけてくる。

 

それは今までの経験で分かっている。

 

「悪い。先約が居る。」

 

指輪をちらつかせつつ、そんなことをほざいた。

 

「え、じゃ、その子も一緒に…」

 

「な、なのはちゃん。邪魔しちゃ悪いよ……こ、耕二君。ごめんね。また明日ね」

 

「……あぁ、そういうこと。なのは、それ以上は野暮ってものよ。じゃあね、耕二。お幸せに」

 

年齢詐称疑惑のある空気読み職人。すずかちゃんが意図を読み取り、すずかちゃんの台詞からバニングスも察したようで、二人でなのはを連れて行ってしまった。

 

さてっと…

 

「アリサが今日、休みだってことを知ったらどうなるだろうか?」

 

……後が怖いので考えないことにした。

 


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