聖祥に入学して数日が過ぎた。
入学式当日の夜は入学祝と称する宴会でえらい騒ぎだった。
丁度、桜の咲き具合も頃合いで花見を兼ねて、寮の近くの桜並木の下で行ったもんだから
テンションもさらにあがり、悪乗りした某漫画家にお酒を飲まされた挙句、菩薩のような
母さんが鬼に転じて……止めよう。思い出したくない。
とまぁ、さておき晴れて聖祥の一生徒になったわけなのだが…
「……まぁ、薄々そうなんじゃないかとは思っていたけどね」
寮のお姉さん達と一緒に、本日も登校を果たした俺は、席に着き頬杖をついたまま、教室を見回し、
数人の見覚えのある女の子に視線を向けた。
高町なのは
アリサ・バニングス
月村すずか
リリカル原作3人娘である。
まぁ、この辺りは想定の範囲内だ。考えていなかったわけじゃない。同級生で同じクラス。
やっぱり、リリカルの世界なんだ~。ジュエルシード事件とか起きるのかなぁとか…うん、まぁ此処まではまぁいい。問題は、その3人にしきりに話しかけている連中。
銀髪オッドアイのガキ。
白髪、色黒。何処かの赤い弓兵に似ている小僧。
金髪のどこぞの英雄王を模したお坊ちゃん。
俺と同じく転生者の3人組だ。初日に姿を見た時は思わず吹きそうになった。
「はぁ、此処って日本の小学校だよな……」
なんで、黒髪の人口がこんなに少ねぇんだよ!!
まぁ、そういう俺も茶髪なんだけどさ。べ、別に染めたわけじゃないわよ!地毛よ!両親からの遺伝なんだから!!
……止めよ。やっててむなしくなってきた。疲れてるんだな……帰ったら久遠と戯れよう。癒して貰おう。
そんな事を考えつつ、意識を元に戻す。
この3人の転生者の態度から言って、原作に介入する気満々なのだろう。
正直、勘弁してほしい。
俺はさ……さざなみ寮で平和に第2の人生を過ごせればそれでいいんだよ。
ルーラとかホイミとかさちょっとずるい能力を使って楽しく生きられれば。
彼女もさ…容姿も悪くないし、今のうちから女の子とのコミュニケーションスキルを磨けば出来ると思うんだ。出会いには事欠かないし、原作に出ないモブキャラだってかわいい子はいるし……
そりゃ、原作組のキャラたちは可愛いよ。美人だよ。とらハ2の人達でそれは分かっているよ?
でもさ、リリカルのキャラはみんなハードル高いし、狙うのは無理だろ。
原作を振りかえってみよう。
なのはの場合、嫁はフェイトだろ。で子持ちでシングルマザー。
フェイトの場合、嫁はなのは。で子持ちでシングルマザー。
はやての場合、嫁とか子持ちはともかく、守護騎士どうにかしなきゃだろ。
シグナムとかヴィータとか……あと、シグナムとか。
管理局3人娘は男が付け入る隙がない。つか、彼女たちは男性相手に恋をするのだろうか?
ありさとすずかはお金持ちのお嬢様。帝王学?何それ美味しいの?な、俺には無理だ。
そもそも何話していいかわからないし、会う時間とか取れんの?
まぁ、これは俺の考えであの転生者3人トリオが何を考えているのかが分からないし、
馬に蹴られたくないから、別に邪魔はしないけどさ……。
ちょっかい出して、こっちまで被害が飛び火するのだけは勘弁してほしい。
原作通りがベターなのに。誰も死なないし、大きな怪我もしない。
フェイトやはやては悲しい思いをしたかもしれないけど、乗り越えた訳だしさ。
もし、リリカルのイベントが始まったら関わり合いにならないようにしようとしていたのに…台無しだ。
とりあえずは、俺の周囲に害をもたらすようならば、容赦せずに敵対行動を取るというスタンスの元、
あいつ等の情報を集める事にした。何ができて何ができないのかを。
「……ダモーレ」
小声で呪文を唱え、転生者組を一人一人さりげなくチラ見する。
この呪文は相手のステータスが見える呪文。この世界仕様なのか見えるのは魔力のランクとかデバイス所持の有無、そして転生者の場合は神様から数かった3つの能力まで把握することが出来た。
……ドラクエの呪文って結構…いや、かなりチートだよなとか思いつつ、情報を整理する。
銀髪の厨二病患者
魔力ランク:SSS
デバイス所持:有
神様特典
①魔力SSS
②デバイス知識、デバイス精製技能
③容姿を銀髪オッドアイにする。
赤い弓兵もどき
魔力ランク:SSS
デバイス所持:無
神様特典
①魔力SSS
②無限の剣製
③容姿をアーチャーにする。
金ぴか英雄王劣化版
魔力ランク:SSS
デバイス所持:無
神様特典
①魔力SSS
②王の財宝
③容姿を英雄王にする。
……うん。まぁ、見た目通りの能力ですね。赤いのと金ぴかのは。
銀色のもなぁ。リリカルなのはでは結構有用な能力だろう…。ん?ちょっと待て、こいつらどう考えても転生先を把握したうえでの能力選択だよな…。俺の時は分からなかったのに。なんだ?あの神様嘘を付いてた?それとも俺が最初に転生して、後から転生したから行き先が決まっていたとか……。
若干釈然としないがまぁ、いいや終わったことだし。
にしても…王の財宝かぁ。いいなぁ。あの第四次の聖杯問答で飲んでた酒には興味があるんだよ。どんだけ美味いのか。
どうにかして手に入らないものか……。金ぴかにお願いしてもなぁ、俺が転生者ってばれると何かとめんどくさそうだし……。
うん、うん考えていると教師室が慌ただしくなる。どうやらHRがそろそろ始まるようだ。
この後もお酒入手について色々考えを巡らせた結果、一つの方法を思いつくが、その代償に事あるごとに先生に注意を受けた事は言うまでもない。
学校から帰宅後、父さん手製のおやつを食べ終えて、部屋に戻ってきた。
久遠は残念がら居なかった。くそぉ、俺の癒しが……。まぁいい、今は王の財宝についてだ。
俺の部屋は小学校に上がった際に貰ったばかりの部屋だ。父さんと母さんはまだ早いんじゃないかと思っていたようだが、義姉さんが援護射撃をしてくれたお蔭で、自分の部屋を持つことが出来た。
その際に…
「耕二も男だから、いろいろあるんだよね♪ムラムラっと来るときとかさ」
義姉さんが含み笑いをしながら、そんなことを言っていたが…。肉体年齢を考えてほしい。
まぁ、それはいいや。さてっと、王の財宝…さっそく試してみますか。
「モシャス」
呪文を唱える。モシャス…対象の1人に変身し、HP・MPを除く能力、呪文・特技をコピーする呪文。
これで金ぴかに変身すれば、王の財宝が使えるのではないかと考えたのだ。
俺の賭けは…
「王の財宝っと…おぉ!!」
成功した。空間に穴が開いている。よっしゃ。
「では、さっそく。あの美味いお酒を…出してくれ!!」
……わくわく。
……どきどき。
……ん?
しかし何も起こらない。
「なんでだ!?やっぱりモシャスじゃだめなのか!?でも穴は開いたしなぁ、何でもいい、取り出しても危なくないものを一個だけ取り出してくれ」
穴に向かって注文をしてみる。するとドサッと何かが出てきた。
出てきたものを確認する。なんと、押し入れにしまってあった俺の枕だった。
いつから俺の枕はギルガメッシュの蔵にある至高の財になったんだ?
いや、待てギルガメッシュの蔵?まさか……
「王の財宝って、使ったやつの持ち物しか出せないんじゃ……」
オワタ…俺の短くもはかない夢が…いや、俺はまだいい。
「金ぴか…あんたぁ……やっちまったなぁ」
脳裏には金ぴかが王の財宝から家具や本などが雨あられと射出させている光景が浮かび、笑いが込み上げる。
「い、いや、それはそれで強いのかも……。俺なら絶対にやらないが」
せめて魔力量の多さを糧に頑張ってほしいものだ。