陽気な春の休日の昼下がり…
「にゃんがにゃんがにゃー♪ にゃーらりっぱらっぱらっぱらにゃーにゃ♪」
テンション高めに街を闊歩していた。
入学して早一年が過ぎ、去年の一年間。原作、転生トリオと特に関わりを持つことなく。
二年のクラス替えで、見事違うクラスになった俺は、とある場所に向かっていた。
さざなみの破壊王こと美緒直伝の訳のわからない鼻歌を思わず歌いつつ、歩く。
向かう先は人気のない、町はずれの廃墟。
俺の数少ない趣味。ドラクエ呪文を使ったネタ技の練習をしに行くのだ。
神様から貰った特典の自身の能力のコントロールのお蔭か、俺はダイのように呪文を放つのではなく、纏わせることが出来る。
所謂、魔法剣というやつだ。まぁ、俺の場合は剣なんて持ってないから魔法拳になるわけだが…。
最近はメラを纏わせ、草薙の拳ごっこをしている。
何時もはルーラを使って移動するのだが、今日は陽気もいいし、気分もいいし、散歩がてら歩いていくことにしたのだ。
「…おらっ、早くしろよ!!」
「へへっ、天才はあっちの方も天才なんだろうなぁ…」
「っ!さわらないで!!」
何時もの廃墟に到着したのだが、どうやら今日は先客が居るらしい。
しかもどうやらよろしく無い場面のようだ。海鳴は治安が良いところだと…いや、ないか原作であれだけ問題が起こってれば……。
でもなぁ、こんな場面にタイミングよく遭遇するなんてさぁ、主人公補正とか持ってるのかなぁ。嫌だなぁ……トラブル体質なんて。
これも遺伝。槙原耕介の血のなせる技なのだろうか…とか思いつつ、助けに入ることにする。
本来なら関わり合いになりたくないのだが、これを見捨てた方がもっとろくなことにならない気がする。
主に俺の正義感云々の問題ではなく、義姉にバレた際のお仕置きが怖いのだ。いや、お仕置きじゃすまないな…兄妹の縁を切られるかもしれん。
ま、とりあえず。
「……ピオリム」
ピオリムを掛け、部屋の中に突入する。
大魔王様の魔力譲りの馬鹿げた効果により、常人離れした速度で距離を詰めて…
「ラリホーマ」
男達を眠らせた。
そして、襲われそうになっていた女性に初めて目を向け所で固まった。
「アリサ・バニングス?」
其処には、目の前の光景に唖然とした顔の元クラスメイトの姿があった。
いや、よくよく見ると違う。
顔立ちはそっくりだ。だが、髪の色が金髪というより茶髪に近い。何より、身長……というより年齢か。俺よりも二つ、三つ年上に見える。
そして、肌蹴た服からは未発達の…って!
「これ、サイズが合わないと思うけど、無いよりましだと思うから」
咄嗟に着ていた服を投げ渡し、後ろを向く。
そのまま、ポケットの中から携帯を取出して、義姉に電話を掛けた。
「……うん、そう。俺がいつも使ってるあそこ。ほら、義姉さんも何回か一緒に来てくれたでしょ?あそこの廃墟。ん、じゃ待って…」
「お待たせ耕二♪」
「いや、待ってないから」
耳に携帯を当てながら突然現れた義姉に苦笑いをし、電話を切って携帯をしまった。
「それで状況は?」
「男たちは外傷なし、眠らせてある。2、3発蹴れば起きると思うよ。」
威力抑えたし…
「わかった。後の対処は任せろ。帰ったら今日はご褒美に一緒に寝てあげよう♪」
「遠慮するよ。義姉さん、寝相悪いし」
ひらひらと義姉さんに手を振って、その場を後にしようとした所で…
「……待って!」
後ろから声を掛けられた。
しかしその声を無視してそのまま歩みを止めることなく外に向かう。
もう2度と会うこともないし、これ以上関わり合いになったら面倒くさい事になりそうだったから。
だが、時すでに遅し。
その言葉が脳裏に思い浮かんだのは、その3日後の事だった。
どうしてこうなった…
いつも通りの平穏な小学生ライフを満喫していたのだが、その平穏は2限目と3限目の休み時間。
教室を訪ねてきた一人の上級生によって脆くも崩れ去った。
「あなたに会うのは此れで2度目ね。ごきげんよう。槙原耕二君」
そう、先日の廃墟の被害者が俺の教室に訪ねてきたのだ。
しかもうちの制服を着て…
同じ学校かよ!!
そして、彼女は俺が反応を返す前に
「ついてきて」
強引に手を取り、俺を連れ出した。
連れてこられたのは人気が全くない屋上。
そりゃそうだ。さっき、3時限目の始まりを告げるチャイムが鳴った所だもの。
「改めて、先日は助けてくれてありがとう。私は4年のアリサ。アリサ・ローウェルよ」
「槙原耕二です…」
もう色々と諦めた。彼女からは逃げられそうもない…。
つか、彼女の名前を聞いて確信した。
この人、とらハ3の…アリサ・バニングスの元となったキャラだ。
「よく分かりましたね。俺の事」
「ヒントは色々あったわ。まず、私をアリサ・バニングスと間違えたこと。彼女、うちの生徒でしょう。結構目立っていて上級生の間でも有名だし。それで、あなたはうちの生徒だと考えた……。そして、あの刑事さん。リスティ・槙原さんの事を義姉さんと呼んでいたでしょう?だからあなたの姓は槙原だと予測をつけて…後は教室を虱潰しに探したの。教室であなたを見つけた後は、同じクラスの子を捕まえて名前を聞いた…」
ピッと人差し指を立て、説明していくローウェル嬢。
「はぁ、それで俺になんの用です?ローウェル先輩」
「アリサでいいわ。そうね、用事はお礼を云いたかったのと、これを返そうと思って。」
そう言うと、紙袋を差し出される。中身はあの日、彼女に渡した俺の上着だった。
「別にわざわざ返さなくてもよかったのに…」
言いつつ、受け取る。さて、これで彼女の用事も終わったことだし、後は教室に戻るだけだ。
「それじゃ、俺は教室に戻ります」
「待ちなさい。まだよ、少し私とお喋りをしてくれないかしら?」
「…いえ、でも今は授業中…「あぁ、ごめんなさい。言い方を変えるわ」
そう言うと、彼女はグッと俺の腕を掴んで……
「耕二、あなたは私とお喋りをしなさい」
見惚れるような微笑を浮かべて、俺に命令をした。
……とんでもない、女の子に捕ってしまった。
ため息を吐きつつ空を見上げる。
空は憎らしいほどの青々とした快晴だった。
それから他愛もない話をした。
お互いに事件の事、彼女は俺の見せた能力の事に触れることなく。
学校の事とかの世間話を……で、話していて気が付いたことがある。
何がアリサ・バニングスの元になった人だ!
性格は真逆ではないか。
バニングスの方は名前の通りのバーニング。熱く、元気…悪く言えば喧しい。
くぎゅボイスも合わさってのまさにツンデレキャラ。
しかし、この人アリサ・ローウェルはクール。ひたすらクール。
表情もほとんど変えないし……。
例えるならば、毒舌を吐かない某小説のヶ原さんに近い。
ひとしきり会話をし、3時限目の授業終了を告げる鐘と共に…彼女は去って行った。
去り際の…
「じゃぁ、またね。耕二♪」
クールな彼女が見せた微笑みに一瞬見惚れ…我に返った所で……。
「またって…まだ何かあるのか」
不吉な台詞に戦慄を覚えつつ、俺も屋上を後にした。
これが後に、ウィザードと呼ばれるデバイス作成の鬼才。
アリサ・ローウェルと俺の縁の始まりだった。
……この後、教室に戻った俺がこっぴどく担任に叱られたのは言うまでもない。
何時もより当社比3割増しで精神力を消耗した俺は、疲れる身体に鞭を打ちつつ、文房具屋へと向かっていた。
某少女漫画家から買い物を頼まれたのである。
「当の本人は仮眠とかで寝るってんだからなぁ、なんて理不尽な……」
ブツクサと文句を言いつつ、文房具屋へと到着。中に入った所で…
「……っ!?」
見慣れない白い髪の少年を目にし、咄嗟に隠れてしまった。
そこにいたのは某、転生トリオの一角。アーチャーもどき事、アチャ男君であった。
彼はブツブツと何かを呟きながら、カッターをジッと…引くぐらいに見つめていた。
どれほどそうしていたのだろうか…暫くすると満足したのか商品のカッターを棚に戻して、店の奥に入っていく。
気になったので、こっそり後をつけてみた。
アチャ男君は、ペーパーナイフ、十徳ナイフ、彫刻刀をそれぞれ同じようにブツブツと呟きながら、ジッと見つめて棚に戻していた。
興味本位で近づき、アチャ男君の呟き声の内容を聞いてしまった時、俺は後悔という感情に苛まれた。
創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
制作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし――――
ここに、幻想を結び剣と成す――――!
アチャ男ぉ…
何故だろう……
アチャ男が店を去った後も、溢れ出てくる涙が止まらず…
「ぼく、どうしたの?」
「お母さんとはぐれちゃったの?」
店員さんや周りのお客さんに心配されるというちょっとした騒動になってしまった。
その日、精神的疲労度が積もりに積もった俺は…
夕食を終え、風呂に入るとそのまま眠りについた。