はぁ……何も手に付かない……。
初めて……女の人に告白された。
俺の精神年齢が世間でおっさんと言われる年齢に突入しつつあっても…
告白の相手がまだ、小学生だったとしても…
俺にロリコン要素が皆無で……スタイルが良い大人の女性が好みだったとしても…
それでも、あの微笑みに目を奪われ、心を動かされたことは事実で……。
「おい、坊主。耕二の様子がおかしいんだが、何か知らねぇか?」
「ふふ……耕二はね、今日学校で女の子に告白されたらしいよ♪」
「おぉ!?告白なのだーー!耕二、モテモテなのだぁーー!!」
「えぇ!?おめでとうございます耕二君!!」
「あらあら、耕介さん。今日はお赤飯にしましょうか…」
「そ、そうだな!!」
って…
「何ばらしてるのさ義姉さん!?つか、勝手に読まないでよ!!」
「耕二、姉弟の間で隠し事なんて野暮だよ。」
「けけけ、いっちょ前に照れてやがんのか?今日は珍しく可愛いじゃねぇか。よし!耕介!!酒だ!!今日は飲むぞぉ!!耕二の彼女GET記念の宴会だ!!」
「宴会なのだぁーー!!耕介ぇ!ごちそうを用意するのだぞ!」
「彼女かぁ……羨ましいなぁ。私にも素敵な恋人が……」
何このカオス…。
夕暮れ時のさざなみ寮。
珍しく、現寮生が全員集合したリビングでは混沌とした様相になっていた。
ニヤニヤと俺をしきりにからかう義姉さん。リスティ・槙原。
事の発端にして同じく、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこれ幸いと便乗し、酒を要求しだした。仁村真雪。
宴会という言葉に反応し、思わずピョコンっと猫耳と尻尾をだして、ご馳走を要求しているの猫娘。陣内美緒。
久遠を抱きかかえつつ、妄想の海にダイブした巫女衣装の少女。神咲那美。
ENKAI!!が発令され、即座に準備に取り掛かる俺の父親、槙原耕介。
そして……
「折角だし、私も何か作ろうかしら」
「「「「「「!?」」」」」」
即座に場の空気を戦慄させた。俺の母親。必殺料理人の槙原愛…って!
「っと…そ、そうだ!愛、耕二の相手についてもっと詳しく聞きたくないかい?」
「お、おぉ!?そうだ。準備は耕介に任せて、愛は耕二の話を聞いてやれよ!なっ!?」
「そ、そうなのだ。愛は耕二と一緒に待ってればいいのだ。」
「そ、そうですよ。お仕事で疲れているでしょうし……ね、耕二君もお母さんとお話ししたいよね?」
「う、うん。母さんに話を聞いてほしいな?」
「こ、耕二もこう言ってることだし、準備は俺に任せて愛は耕二と話をしてあげてくれ」
驚異のチームワークを見せるチームさざなみ。誰だって、自分の命は惜しい。
以前の惨劇を俺たちは忘れない。不幸中の幸いか犠牲になったのは父さんだけだったが…
顔面蒼白で、冷汗を流している父さんに対し、こっそりバーン様の魔力を使用したキアリーを3回使用した所で
やっと症状が改善された時は、畏怖の目で母さんを見つめたものだ。
皆の説得もあり、どうにか惨劇は防がれたが……
「それじゃ、耕ちゃん。お話をしましょうか♪」
どのみち俺は、嬉し恥ずかしの詰問タイムは避けられないようだった。
「それで、耕ちゃんに告白した女の子はどんな子なの?」
「えっと、別に普通の…「アリサだろ?」……義姉さん!!」
くそ、義姉さんめ。プライバシー?なにそれ?おいしいの?と言わんばかりの態度で、人の心を読みやがる。
「いや、耕二。ボクは別に心は読んでいないよ。ただ、耕二の知り合いで知っているのがアリサだけだったのさ。それにしてもアタリだったとはね…」
「なんだ?坊主は耕二の相手の事を知ってんのか?」
「まぁね♪偶然知り合うことになったのさ…」
「それで、耕二君。告白の相手はアリサちゃんって子なの?」
な、那美さん……いや、ドジッ子で少し天然なのは知ってますが、もう少し変化球で……直球ど真ん中は勘弁してくださいよ。
もう、無理だ。この面子相手に白を切りとおすのは…ラリホーでも使わん限り……ただなぁ、義姉さんとか真雪さんとか母さんとかに通用する気がしないんだよなぁ。いいや、諦めよう。
「……そうです」
「おぉ!?アタリなのだ!それで、アリサっていうのはどんな奴なのだ!?」
「年は耕二の2つ上で4年生。将来あれは絶対に美人になるね。よかったな。耕二の好みのタイプ。年上の綺麗なお姉さんにど真ん中のストライクじゃないか。しかも絶好球だ。」
「そういや、ゆうひとか知佳によく付いて回ってたよなぁ。けけけ、なんだ耕二。お前もいっちょ前に男じゃねぇか。」
やめて…もうやめて!!ライフが無くなる。
ベホマでも癒せない心の傷を負ってしまう……。
「それで…耕ちゃんはどうするの?お返事で悩んでたんでしょ?」
助け舟…を出したわけでもないのだろう。母さんがそんな質問をしてくる。
「……分からない。確かに俺もアリサの事が好きだよ。此れは間違いない。」
「両思いなのだ!!」
「耕二君、男らしいですね。堂々と女の子の事を好きと言えるなんて…」
「っと、ネタに使えっかもな。メモッとこ…」
猫、巫女、漫画家の戯言はスルーして…
ただ、恋愛となるとどうだろう?駄目だ、付き合い方が全く思い浮かばない。
つか、俺も相手もまだガキだしなぁ。まぁ、どっちも見た目とは裏腹に精神年齢高いけど…
そんな俺の話を聞いて、母さんはにっこりと微笑し…
「じゃぁ、それをアリサちゃんにそのまま伝えてあげて。まだ小学生だもの。恋愛とかそんな難しいこと考えないで、アリサちゃんと一緒に居るのが好きなら、一緒に居て、遊んで…そうやって大人になっていって……その時に、まだお互いに相手が好きだったら……その時にまた考えましょう♪」
……そうだな。うだうだ考えてないで、まずは告白の返事を、今思っていることをちゃんとアリサに伝えないとだな。
「ありがとう母さん。相談したらすっきりした」
「どういたしまして♪それでね、耕ちゃん。今度アリサちゃんを連れてきて、ちゃんと紹介してね♪」
「うん。機会があればね」
その時はなるべく、寮の住人が居ない時を選ぼう…。
「にしてもなぁ、まさか耕二がなぁ。順番的には…ねこ!それに神咲従妹!あと坊主もか……お前らの方が先に彼氏を紹介しなきゃいけねぇってのに…先越されてんじゃねーよ!!」
「…真雪に言われたくないね。いい加減、真雪も男作らないと…このままじゃどんどん行き遅れ…「上等だ!表に出やがれ坊主!!」…はぁ、真雪から言い出した話じゃないか」
久々に義姉さんと真雪さんの追いかけっこが始まる。
まぁ、真雪さんの言わんとすることもわかる。うちの寮生はOB含め美人なのに浮いた話はあまり聞かない。まぁ、みんなうちの父親に好意を向けていたっていう事もあるんだろうけど。
そうこうするうちに準備が完了し、宴会が始まる……
さざなみ寮は今日も平和だった…
翌日、人の邪魔が入らない4限目の授業中にアリサを屋上へと呼び出した…
「ごめんな。授業中に…でも、誰にも邪魔されずに話がしたかったから…」
「それは別に構わないわ。それで話っていうのは何?」
「昨日の…アリサの告白の返事がしたくて…」
俺の言葉に僅かにアリサの表情が変わるが、気にせず自分の気持ちを伝える。
「俺もアリサの事が気になってる……。告白も嬉しかった。でも、それがLoveなのかLikeなのかが分からない。
だから……もっとアリサの事を知りたい。俺の事を知って欲しい。その結果……アリサの事が本当に好きだったなら」
こんな曖昧な返事は間違っているかもしれないけど…
「今度は男の俺から告白する。仮に、別の誰かを好きになってもちゃんと伝える。答えは必ず出す。だから…待っててくれないか?」
言い切る。結局答えは保留。一番最悪な答え…いや、答えを出してすらいない。
黙って話を聞いていたアリサは…
「……待つなんて、嫌よ」
俺の都合のいい願いを拒否し…距離を縮めてくると。
「――んっ」
「――っ!?」
そのまま抱き着くように俺の頭の抱え、唇を合わせた…
それは一瞬、触れ合うだけのキス。
その後、距離を取ったアリサは、突然の行動に唖然とする俺を、唇をなぞりながら若干、頬を染めて……
「待つだけなんて嫌……耕二が私に惚れていないならば、惚れさせるだけよ。
だから、保留なんて返事は認めない。耕二の心が決まった時に、私と付き合うか、私を振るか…」
そのどちらかを答えなさいと。そう言って、アリサは微笑むのだった…。