たった三人の財団職員はキヴォトスで何をするのか? 作:Bar_00
アリウスはこの話ではでません。つまり繋げるためのクッション回です。
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インシデント・ゲマトリア
サイト管理官室の扉がノックされる音がした。
「入れ」
低く抑えられた朝野管理官の声が部屋の静寂を破った。その声には冷ややかな響きがあり、感情の温度が低いことを如実に物語っていた。
部屋は無駄のない造りだった。波長的に再現された太陽光が窓から差し込み、床に長い影を落としている。しかし、灰色の壁は光を吸い込むように沈黙し、その中で冷たく整然とした雰囲気が支配していた。デスクには二つの書類の山がそびえ立っている。その山々でさえ乱雑さを許さない規律が感じられる。整然と積み上げられたそれらは、この空間が秩序と効率のために設計されたことを主張していた。
朝野は手にしていた万年筆を静かにデスクの上に置き、そのまま扉の方向へと目を向けた。その動きには焦りも迷いもなく、冷徹な視線がその先を待ち構えているようだった。
扉がゆっくりと開き、黒いスーツを着た男が姿を現した。男の動作は機械じみており、音を立てない足取りと姿勢の正確さが目を引く。しかし、それ以上に異様だったのは男の顔だ。その顔は明らかに人間のものではなかった。黒光りする無機質な肌が、窓から差し込む光を鈍く反射している。ひび割れた左目からは微かな光が漏れ、その光はどこか冷たい印象を与える。動くはずのない口が、抑揚の少ない声を響かせた。
「要件は?」
朝野は冷たく問いかけた。その言葉には無駄がなく、短い沈黙が空間を引き締める。その視線は、鋭利な刃物のように男を貫き、隠された意図や異常性を見抜こうとするかのようだった。
目の前の存在が異常であることは疑いようもない。朝野の頭の中には、いくつもの仮説が浮かび、消えていく。“
男は静かに扉を閉じると、一歩、また一歩と室内に足を踏み入れた。その動きには、機械的な精密さと奇妙な不気味さが同居している。
「私が誰か、聞かないのですね」
男の声は、どこか皮肉めいている。それが彼自身の意図なのか、無機質な皮膚とのギャップがそう感じさせるのかはわからなかった。
「君自身にそこまでの興味はない。私が知りたいのは第一に“
朝野の言葉には冷ややかな決断が込められていた。まるで、自分の土俵でしか会話を進めないという揺るぎない姿勢を示しているかのようだ。デスクの端に手を添えると、椅子の背にもたれ、余裕のある態度を崩さなかった。その姿勢には、男に一切の隙を与えない意志が見え隠れしている。
男はその言葉に一瞬動きを止めたが、すぐに小さく頷き、さらに数歩進んでデスクの前で立ち止まった。その動作には、あまりにも正確すぎる不気味な美しさがあった。
「それが財団のスタイルですか。好ましいですね」
朝野は一瞬、壁に掛けられた時計と取り付けられている監視カメラに目をやった。彼の頭の中では、機動部隊がこの場に到着するまでの時間が正確に計算されている。それは
「長話が好みか?」彼は少し声を低めて続けた。「あと…五分といったところだ」
男は肩を軽くすくめて見せた。その仕草は、あまりにも人間らしいのにどこか作り物じみていた。
「それが私に与えられるプレゼン時間ですね」
朝野は答えず、視線を男の些細な動きや表情に向け続けた。その鋭い目は、まるで解剖するかのように男を観察している。
「話すのは
主導権を握りこむように朝野は言う。
「一体何が目的だ」
「――単刀直入に申し上げましょう」
男は一歩前に踏み出すと、朝野に真っ直ぐ向き直った。
「
その言葉を聞いた瞬間、朝野の眉がわずかに動いたが、すぐに元の無表情に戻る。ただ、微かに首を傾けた仕草がその興味を示唆している。
「組織の詳細は?」
「我々は“ゲマトリア”。キヴォトスの神秘の探求と研究を行う組織です」
「
「数人。ただし、既存の勢力とのコネクションがあります。
「それは脅しか?」
朝野はわずかに冷笑した。その笑みは、氷のように冷たいもので、目の前の男を全く意に介さない姿勢を明確に示していた。
「いいえ」
男は柔らかな笑みを浮かべた。その顔が生物的であれば、信じてしまうかもしれないほど自然だった。
「それで、君たちは何をしたい?」
「あなた方の技術が欲しい。
朝野の眉がわずかに動いた。「財団にも金はある。だが、君の提示する金額次第だろうな」
「█,████,████円ほどを想定しています。重要な一技術につき、ですが」
男の声には自信が満ちていた。その金額は確かに大きいが、それによって財団に降りかかるリスクと比べれば小さすぎる。朝野は慎重にその言葉の背後を探ろうとした。
その瞬間、廊下の向こうから足音が響いた。機動部隊あ-3(“立ち鳥”)の到着を告げる重い足音だ。
「ここまでだ」
朝野が低く静かな声で告げると、ドアが開き、装備を整えた隊員たちが突入してきた。
「もう少し話していたかったのですが、致し方ありませんね」
男は残念そうに手首の時計に手を伸ばそうとした瞬間――
――
その隙に男は床に押さえつけられた。
「何をするつもりだったと思う?」
朝野が冷たく問いかけると、男は顔を上げた。その目はどこか呆然としていた。
「…手を伸ばしたということは、
「そうだな。君はそれを
朝野の声には微塵も感情がこもっていなかった。ただ、冷徹に事実を告げるだけだった。
「君はここに留まる。我々が返答を考える時間と、君を調査する時間が必要だ。君がここから出る瞬間は
あ-3隊員から腕時計を奪われながらも、男は微かに笑みを浮かべた。
「なるほど。少し侮っていたようです」
朝野は立ち上がり、デスクに手を置いたまま男を見下ろしていたが、やがて再び椅子に座り直した。
「
あ-3隊員は小さく頷き、黒服にDクラスに対して使用する麻袋をかぶせた。
「乱暴な真似はするなよ」
あ-3隊員は黒服をつれて退出する。
そして、立ち上げていたパソコンを操作し、Lisa.aicにO5評議会の招集を命じた。Lisa曰く、高坂管理官の方は何もこなかったらしい。少しだけ安堵する。
「さて、どうするかな」
画面に召集の了承通知が表示されるのを確認すると、朝野は再び作業に戻った。部屋には、紙をめくる音だけが静かに響いていた。
日付: [混乱を避けるため編集済み]
場所: サイト-8142管理官室
記録者: O5-1(朝野管理官)
概要
2024年12月24日、サイト-8142の管理官室に異常存在(PoI-NG-01(”黒服”)に指定)が現れ、「ゲマトリア」(GoI-NG-01(”ゲマトリア”)に指定)を名乗る組織から財団への交渉を試みた。また、PoI-NG-01(”黒服”)は財団内で管理されていない未知の技術的要素を有するデバイスを保持していた。
交渉中、機動部隊あ-3(“立ち鳥”)が到着。対象は抵抗せず拘束された。
発生タイムライン
12:06: 対象が管理官室を訪問。中央セクション駅から管理官室までの監視カメラに対象は写っていない。この時点で異常が検知される。
12:08: 「ゲマトリア」と名乗る組織の存在を示唆し、財団の技術提供と資金の取引を要求。財団の機動部隊あ-3("立ち鳥")が出動。
12:12: 機動部隊あ-3が管理官室に突入。
12:13: 対象の時計の異常な技術を使用しようとするが、朝野管理官がその場の判断で行った記憶処理の影響により、対象は異常技術の使用方法を忘却する。そのため、機能の詳細は失われている模様。機動部隊あ-3が対象を拘束。
12:19:知的/自律高度脅威異常収容区画に移送完了。
拘束対象について
名前: 黒服(自称)
外見: 人間に似た外観。黒光りする非生体の皮膚、ひび割れた左目と口から微弱な光を発する。
装備: 時計型デバイス(現在、財団研究部門で解析中)。
行動: 終始非暴力的。目的は「技術交換を通じた協力関係の構築」。
付記
対象は朝野管理官が施した記憶処理の影響で時計型デバイスの機能を認識できなくなったと考えられる。引き続き、技術解析と「ゲマトリア」の背景調査を優先とする。尋問の詳細はPoI-NG-01(”黒服”)尋問ファイルを閲覧してください。
O5評議会会議録
会議名: GoI-NG(“ゲマトリア”)関連特別会議
概要:GoI-NG(“ゲマトリア”)とPoI-NG-01(”黒服”)について早急に会議を行う必要性が生じ、サイト-8142にて緊急会議を行った。今後の方針について。
出席者:
•O5-1: 朝野管理官
•O5-2: 高坂管理官
•O5-3: Lisa.aic
[会議開始]
O5-1: さて、今回のインシデントについてだ。PoI-NG-01(“黒服”)、そしてGoI-NG(“ゲマトリア”)について意見を聞こう。
O5-2: (資料を見つつ)報告を確認しました。対象は財団の技術に関心を示しているようですが、正直、PMCや軍事組織へのコネクションと資金規模が本当なら、非常に厄介な存在です。そして…
O5-1:あぁ、フロント企業でもなく、ここに現れるとはな。スリー、今のところのリスクを挙げてくれ。
O5-3: 推定される関連リスクを列挙します:
1. 不法侵入からくる財団の技術漏洩。
2. 他勢力への”財団”についての情報共有。
3. 軍事勢力の進行による財団の影響力低下。
ただし、組織規模が『数人』であり、軍事勢力や学園との結びつきが軽い同盟程度なら、即時的な脅威は限定的と考えられます。
O5-1: (頷きながら)確かに、現状では直接的な攻撃の兆候は見られない。ただ、興味深いのは、彼らが財団の存在を知った上で接触してきたことだ。それ自体が異常だと言える。
O5-2: 同感です。一番分かりやすいのは、ヘイローでしょう。財団職員の
O5-3: 研究部門の初期報告によれば、デバイスには空間跳躍系のパラテック*1要素が含まれている可能性があります。ただし、朝野管理官が施した
O5-1: すまない、逃げさせまいと瞬時の判断だったので大雑把に消してしまった。それにしても空間跳躍、か。凄まじいな。東幣*2レベルじゃないか?もしそうならば交渉の表向きの
O5-2:
O5-3:では、どう対応すべきでしょう?
O5-1: (一瞬間を置き、静かに)まず、時計型デバイスの解析を優先し、彼らの技術水準を見極める。それと同時に、「ゲマトリア」の背後関係を徹底的に洗い出す必要がある。
O5-3: 現段階では、防御的なスタンスを維持しつつ情報収集を進めるのが最適でしょう。対象の一時収容が完全である限り、現時点で財団の危機には直結しないと推定されます。対象の収容からの解放はいかがしますか?長く続けば外交問題に発展しかねませんが…。
O5-2: 致し方ないですかね。少なくとも時計型デバイスの調査が終わり、空間移動技術の限界が掴めない限り、再度の侵入を許すことになるでしょうから。
O5-1: 収容についてだが、くれぐれもVIP待遇に扱ってやってくれ。機動部隊あ-3を監視に割り当てることにしよう。部隊員には何も話さないように厳命してくれ。
O5-3: 承知しました。ただ、対象の言うことを踏まえると今後の交渉には慎重を期すべきです。
O5-1: ああ。ツーの言う通り、あの男が言っていた
O5-2: あ-7(“延命処置”)*3とオートマタ*4に███PMC本社の大規模な構造改修を行わせるとともに、監視所以外のあ-1には
O5-1: 少し
O5-3: まとめます。今後の方針ですが、
研究部門を時計型デバイスの調査に、そして時計型デバイス起動が可能になった際の実施調査を機動部隊アルファ-1(“レッド•ライト•ハンド”)を割り当てます。
そして情報収集として、あ-4(“情報屋”)*5とオメガ-2(“秘密の守り手”)*6、イプシロン-6 ("村長側近")*7にGoIとPoI両方の調査を行わせます。
最後に、あ-7(“延命処置”)とサイト-8142施設維持オートマタに本社の現在よりも性能の良い対空レーダーの複数設置と███PMC本社の大規模な構造改修を行わせるとともに、監視所以外のあ-1は待機場所をSCP-003-KV-1内部に変更します。
PoI-NG-01(“黒服”)の収容ですが、一時的なものとし、解放時期については時計型デバイスの調査が終了した以降の会議で話し合い、そこで技術提供について会議するものとします。
O5-1: …帰ってきたところ申し訳ないが、ツーにはデバイスの研究と、空間跳躍先調査のアルファ-1陣頭指揮をお願いしたい。転移先にゲマトリアの仲間がいた場合、外交的な話題になるだろうからな。指導的立ち位置の人間が必要だ。そのほかについては賛成する。
O5-2: アルファ-1の指揮については了解しました。サイト-00の書類を全部まとめても8142の量には敵いませんからね。その程度なら。私も先ほどのまとめに賛成します。
O5-1: (頷く)いや、その分外回りも多いだろうし、最近もUE-SM(“廃墟”)*8でのサイト建造で休みが取れなかったそうじゃないか。いつも感謝している。スリーもだ。君がいなきゃ財団は回らない。では、会議を終了する。
[会議終了]
備考: ゲマトリアに関する交渉については次回評議会で会議予定。