たった三人の財団職員はキヴォトスで何をするのか? 作:Bar_00
万物と虚無の相貌と睨み合い、私は生きて帰ってきた。
設定が四つほど変更されたのでお知らせします。スクロールしてください。極めて重要です。
1.SCP財団における下位クリアランス保持の財団職員が認識する財団の理念が「キヴォトスの保護」であるように改変しました。上位クリアランス保持者のみ(少なくともレベル4。レベル3の梔子ユメは含まれない。)が「人類復興」を志していると考えてください。
2.倫理のオリエンテーションにおける会議記録2と3が[削除済み]にされました。並びに財団の新人職員が「人類復興」という目的が知らないという設定に沿うように梔子ユメのセリフ等が変更されました。
3.SCP-001-JP(改訂版)におけるSCP-001-JP-Rの描写が変更されました。具体的にはコアメモリが人間の「脳味噌」と同じ機能を持つという描写が追加されました。
4.サイト-8142'確保施設ファイルにおける高坂管理官の情報が[機密情報のため削除済み]にされました。
以上。あと、本家の記事とは違って報告書の版が最新ではないことに注意してください。つまり、SCP-001-JP(改訂版)が最新版ではないことがあるんですねぇ…
砂狼家、アパートの一室にて。
彼女が一口、また一口と食べ進めるたびに、シロコはその様子をじっと見つめていた。彼女の顔に浮かぶ満足そうな表情に、どこか心が温かくなるのを感じる。
「美味しいっす!!」
「そう、ならよかった」
シロコは、素直に満足している自分に気づいて、少し照れくさくなった。彼女は食いしん坊らしい。それがひとまず私が出した結論だ。
彼女は目覚めると同時にお腹を鳴らしたのだ。だから簡単な夜飯を作り、食べさせている。
自己紹介をほとんどしていないというのに。
野菜炒めを美味しそうに食べ、米を頬張る。冷凍していた米と冷凍インスタントご飯をレンジでチンして、それに後から野菜炒めを追加しただけの簡単な代物だが、十分に美味しかったようだ。
彼女の箸が満足感で遅くなり始め、そしてご飯粒の最後の一粒を口に含んだ時にシロコは言う。
「ん…そろそろ名前聞いてもいい?」
ロナが一瞬箸を止めると、顔にちらりと困惑の色が浮かぶ。しかし、彼女は箸を皿に置き、そしてにっこりと笑顔を見せて、胸を張った。
「そういえば、自己紹介してなかったっすね!」
口元についたご飯粒をぺろっと舐め取ると、ロナは勢いよく胸を張った。
「自分、
ロナは無邪気に笑いながら言った。その様子が、シロコにとってはどこか安心できるもので、一部残っていた警戒心をほぐした。
「そっか……」
気を抜けたように脱力する。なんというか、尋問する必要は無さそうだ。
「シロコさんは?」
「私?」
そういえば、自身の下の名前だけを教えて尋問しようとしたところで彼女の腹が鳴ったのだったか。それは兎も角、人間関係をはじめるために自己紹介をやり直すのも良いだろう。
「私は砂狼シロコ。これからよろしく」
「おお〜!砂狼!かっこいい苗字っすね!」
ロナは素直に感心したように目を輝かせた。そしてロナは右手を差し出す。シロコは困惑しながら右手を差し出す。
彼女らは握手する。ロナはブンブン両手で振りながらその出会いを喜んだ。
シロコはこれからどうしたものかと左手で頭をパリパリとかいた。
とりあえず、彼女の分の布団でも敷こうか。
日記を書こうと思う。ロナについて全てを記録しておくことは、多分これから役に立つと思うから。
銀行所属人員
ロナに関する情報まとめ
名前:
年齢: 分からないけど高校一年くらい?
所属: 分からない。だけど装備からしてどこからかの支援を受けていたのは確か。とりあえずアビドス所属。
住所: 私 砂狼シロコの家
一人称: 「自分」
性格: 凄く明るい。
状況: 名前以外は完全な記憶喪失。
特筆すべきこと: 卓越した戦闘技術。
戦闘技術: アサルトライフル、近接格闘等の訓練を受けていたような動作をする。
強さ: 多分かなりに強い。私だったらロナのいる銀行は襲わない。
武装: 近未来的な武器。詳細不明。明日アヤネに見せてみる。
装備: 深海用の潜水服をもっと大げさにしたような格好。体がすっぽりと覆われ、顔だけが丸いガラスの中に閉じ込められている。
完全に密閉されていて、分解も全くできなかった。ただロナは無意識に開錠パスワードを覚えているようで開くことができた。
画像検索でも分からない。ロゴがあるし、どこかの学園の特殊装備かもしれない。
ロゴ: 潜水服の右肩と左胸、背中にある。あとツナギにも。
左肩: 識別番号(?)
追記: 明日アビドス高校に連れて行ってみる。
「ん、妹分を連れてきた」
シロコは廃校対策委員会室のドアを勢いよく開け放ち、
「「「え、えぇ〜!!!」」」
「シロコ先輩、攫って来ちゃったんですか!?」「ちょっと先輩どう言うこと!?」
「シロコちゃ〜ん。誘拐はいけないって言いましたよね?」
ノノミが凄いオーラを出しながらシロコに近寄る。その形相はシロコが拾われた頃によく見せていた、例を挙げるなら廃品回収業者を襲って金品を獲得しようとした時に見せた顔だ。
シロコは少しのトラウマから一歩後ろに下がる。
「ん…誘拐じゃない」
「誘拐じゃないです…」
シロコは少し怯えるように、そして抱えられた子が未だゼーゼーと息を切らしたままに言う。
後輩たちはふむ?と首を傾げる。一体どう言うことなのだろうか?
しかしながらその答えがすぐさま出ることはなかった。シロコはその子を肩から下ろしたが、未だに息が切れている。持久走をやった時のようだ。シロコは自身のスポーツドリンクを渡す。
彼女たちは自転車で競争するような形で来ていたのだ。シロコは競争する気はなかったのだが、ロナが調子に乗ってスピードを出し始めたことで半ば競争のような形になってしまった。競争時間はおよそ40分。
最後の15分程度のデットヒートが彼女の肺を苦しめていた。ロナはなんとか受け取ったスポーツドリンクを口に流し込む。そしてようやく、それから立ち直る。
「記憶喪失の
いや、やっぱツレーわ。
極めて簡潔な自己紹介を終えたのち、ぐえーっ、といった様子で脱力し、彼女は床に寝転がった。
それを聞いた三人、もしくは四人は顔を見合わせる。
シロコは彼女がへばっているのを一瞥し、それから諸々の事情を話し始めた。
復帰した彼女は笑顔を浮かべる。
「天星ロナ、記憶喪失っす!!シロコ先輩の家で居候してます!!」
「私は
「一年の
「同じく一年の
「知ってると思うけど、二年の
「はい!!記憶が戻るまでお世話になります!!先輩方!!」
アヤネとセリカは「おやっ」と顔をし、先輩扱いしてもらったためにちょっと顔をほころばせる。警戒していたセリカも既に絆されつつあった。
「えぇと、実はまだ来ていない三年の
後輩二人は否定の意を示す。
「ホシノ先輩また遅刻かな?」
「多分?」
シロコはサプライズで驚かすために連絡しておかなかったことが災いしたかと思考する。まぁ仕方ない。
「おはよ〜皆んな〜」
ドアがまた開けられ、小鳥遊ホシノが入ってくる。帰ってくる挨拶を尻目に、ホシノは習慣じみた行動でショットガンを入り口のガンラックに置く。そして見知らぬ銃が置いてあることに気づく。そこは本来予備の銃を置くべき空きスペースだった。
ホシノはようやくその存在を知覚し、またその存在もホシノを知覚する。目と目が合う。
理解は
小鳥遊ホシノの眼は特別製だ。黒服曰く「ウィジャドの目」、「全てを見通す知恵」のシンボルである”ソレ”は「神秘」を一方的に見透かす。
神秘の動きを、性質を、バランスを、出力を、それに付随する異能を、テクストを。
それは他の生徒には無いものだ。それが彼女を「暁のホルス」たらしめた代物だ。
そのオッドアイが天星ロナとされる存在を捉える。誰だ?
ホシノはオッドアイの権能を使い、彼女という”アイデア”に参入する。それは頭から水中に沈むようなものだ。少し頭痛がする。
彼女は何者だろうか?
関連テクスト: 礎、宇宙、観測者。
探れたテクストはそんなものだ。神秘の性質を確認したところでホシノの体は浮き始める。
小鳥遊ホシノはアイデア空間から現実へ浮上する。
まぁちょっと不思議だが、悪い人間では無いだろうと結論づける。
「私ちょっと驚いちゃったよ…新入生候補?」
『おじさん』というアイデンティティをつい忘れて声が出る。それは…喜ばしいことだ。
「ん、まぁそんなとこ」「そんなとこっす!!」
「違いますよ先輩!?”記憶が戻るまで”って話ですよね!?」
「シロコちゃん、メッですよ〜⭐︎」
「…ん、残念」
数日後、天星ロナはもう既に馴染んでいた。
彼女はアビドスの制服を着ていて、ポテチを一緒に食べられるくらいには仲が良くなっていた。
その日、砂漠の、喉が渇くような風がアスファルトを舐めるように吹き抜ける。アビドス高校の正門前。埃っぽい空気の中、二人の旅人が立っていた。奥には一台の車が止まっている。
一人は獣人。軍用のジャケットにカーゴパンツ、肩からは見慣れない規格のライフルが吊られている。
一人は機械人。金属の顔は無機質なはずなのに、どこか飄々とした雰囲気を醸し出していた。
彼らは何者だろうか?カイザーの人間ではなさそうだが——————。
「やぁ、アビドス高校の皆さん。歓迎どうも」
獣人の男が親し気に手を上げた。
「うん、何の用かな?」
ホシノは舐められないために、ほんの少し圧を込めて返す。
この二人はどこか雰囲気が違う。
「残念だけど、ここには何もないよ。砂漠のど真ん中に何しに来たのさ」
機械人が肩を竦めた。
「実は私達はバックパッカーって奴でね。旅行で来たんだよ」
軽い調子。しかし、ホシノの警戒心は解けない。
「アビドスの砂漠化がストップし始めてから、アビドスの商店街は栄え始めた。テレビでも何回か放送してたかな。俺たちは美味いものを食べに来た。柴崎ラーメンが一番良かったかな。」
「だけど一つ困ったことがある」
芝居がかった格好で彼らは言う。
「"戦利品"が無くてだな」
「商店街の食い物はあらかた買わせてもらったが、
「つまりは…物々交換をしに来たってわけだ」
機械人がポケットから銀色の弾丸を取り出し、指の間で回す。
「俺たちは弾丸や、他の自治区から持って来た土産をくれてやれるよ」
「だからアンタらの持っているものを何かくれ。"等価交換"だ」
ホシノは仲間と視線を交わし、小さく息を吐いた。
「……ふーん、バックパッカーねぇ。商店街の人たちの方がいいモノくれると思うよ?」
バックパッカーたちは笑う。
「決めつけちゃあいけない。アビドスの大秘宝をくれるかもしれないだろ?もちろん期待はしてないが…俺たちはロマン派なんだ」
獣人がニヤリと笑う。
「そうなんだ…まぁ信用してあげる」
ホシノはイヤホンに声をかける。もう出てきても良いよ、と。
後輩たちはそれに従い、建物の背後から出てきて、もしくは窓から飛び降りてすらいる。天狗か。
「ホシノ先輩。とりあえず備品漁ってくるね」
「うん、よろしく」
「じゃあ俺たちも荷下ろしするかね」
ホシノの合図に応じ、旅人たちは車へと戻る。車体は砂漠の風に晒され、薄く砂が積もっていた。機械人がトランクを開けると、中にはいくつもの箱が詰められている。
獣人が箱の一つを開け、中身を取り出した。
「これが俺たちの品物さ」
それは綺麗に並べられた弾薬だった。ライフル弾、ハンドガン弾、ショットシェルまである。どれも状態は良好だ。さらに、その奥には、金属製の携帯カップや、小さな木彫りの置物、おそらく自治区限定品だろう見慣れないパッケージのお菓子、輪ゴムで丸められたアイドルのポスターが詰められていた。
「どうだい、状態がいい品だろう?」
「なるほどね、なかなかいいじゃん」
ホシノは腕を組みながら眺めた。
「弾は助かる。どうせ補充が必要だったし」
「それと、こういうのもあるぞ。どうする?」
機械人が木彫りの小さな人形を取り上げ、陽の光にかざした。シンプルな作りだが、どこか味のある表情をしている。
「この木彫り人形は『幸福をもたらす旅人』っていう言い伝えがあるんだ。まぁ、信じるかどうかはアンタら次第だけどね」
ホシノは鼻を鳴らす。
「はは、ロマンチックだね。でも、悪くないかな」
その間に、ノノミたちがアビドスの備品倉庫から物資を持ってくる。彼女たちが持ち寄ったのは、アビドスの校章がついた古いカップ、かつてのアビドス風紀委員の紋章、空の生徒手帳、そして少しの缶詰。
「こっちはこんな感じかな」
「おっ、これはなかなか味がありそうだ」
獣人は古びたカップを手に取る。カップの表面には、かつてのアビドスの校章が刻まれていた。
機械人は興味深げに生徒手帳の校則などを読んでいる。
「これは歴史を感じるな」
「大したものじゃないけどね。でも、まぁ、アビドスらしいっちゃらしいでしょ」
ホシノは微笑む。アビドスを思ってくれたことが嬉しいのだ。
「いやいや、こういうのがいいんだよ。俺たちの旅にはな」
獣人は満足げに頷き、機械人は手帳を慎重にポケットへしまう。取引は、静かに、しかし確かに成立した。
そしてしばらく彼らは昔話や冒険譚を語り、思い出を、情報を共有する。
話題が途絶え始めた時——。
「……あの」
柔らかな声が、風の音に混ざるように聞こえた。
旅人たちは振り向いた。そこに立っていたのは、天星ロナだった。
彼女は少し戸惑ったように、しかし強い意志を持った目で二人を見つめていた。オレンジの髪が砂漠の陽射しに揺れ、人見知りからかそっぽを向いている。
「……自分も、何かを渡したい…っす」
獣人と機械人は、わずかに驚いたような顔をした。
「へぇ……何か渡せるものが?」
「……えぇと、」
ロナは、リュックから小さなノートを取り出した。彼女はそれを捲り、一ページを彼らに見せる。それは、アビドスの風景を描いたスケッチだった。
学校から見える、広がる砂漠、そして青い空。その絵はどこか温かく、そしてどこか寂しげな雰囲気を持っていた。
「…アビドスの景色っす。素人なんですケド、上手く書けたかなって…」
ロナは自信作の数枚を彼らに見せる。アビドスにやってきてから彼女に初めてできた趣味だった。
獣人と機械人は、しばし沈黙した。
そして——。
「……いいねぇ。俺たちは写真を撮らない主義だからなぁ」
獣人が笑った。ロナは彼らに作品を渡す。
「まさか、こんな素敵な土産がもらえるとは思わなかったよ」
機械人も、スケッチを慎重に折りたたみ、ポケットへしまった。
「ありがとう。これは大切にするよ」
ロナは、安心したように小さく頷いた。
その時、彼女の胸の奥に、小さな灯がともるのを感じた。
「じゃ代わりに、俺たちはこの招き猫をあげようかな」
彼らはちょっと待ってろと告げ、車の後部座席からそれを引き出す。それは招き猫だ。
「借金で大変なんだって?これで運が向くといいな」
「俺たちの"お気に入り"なんだがこれをやるよ」
ホシノはその様子を見て、ふっと微笑んだ。
「じゃあ、これで取引成立ってことでいいかい?」
「もちろんさ。いい取引だった」
獣人と機械人は満足そうに頷き、車へと戻っていく。エンジン音が鳴り響き、車体が砂を巻き上げる。
車の窓が一つ開かれ、彼らは言う。
「また来るよ、アビドスの生徒さん」
「次はもっといい土産を持ってくるぜ」
そう言い残し、旅人たちは砂漠の向こうへと去っていった。
アビドスの生徒たちは次々と礼と「また来てね」などと言う。
ロナは、その後ろ姿をじっと見つめていた。
「……また来るって、言ってたね」
「言ってたっす」
ホシノはロナの頭を軽くポンと叩いた。
「ロナちゃんの絵が誰かの大事な思い出になって良かったね」
ロナは驚いたように目を瞬かせ、そして——————。
ほんの少しだけ、笑った。
バックパッカーたちは無言で口角を上げた。
「いやぁ…なかなかいい生徒たちだな」
「ああ、ほんとに」
車はしばらく走り続け、何もない一本道で停車した。バックパッカーたちは素早く車を降り、周囲を見渡した。すぐに自身のポケットや車体をまさぐり始める。盗聴器や監視機器が仕掛けられていないかを確認する動きだ。
その手つきは訓練された者ならではのものだった。
「問題は?」
「なし」
情報より生徒が
再び車に乗り込み、エンジンをかけて走り出す。車内に静寂が訪れる中、機械人が通信機器に手を伸ばした。
「聞こえるか、聞こえるか、マイクテス、マイクテス」
ザーッという雑音がしばらく続いた後、彼は無事に”司令部”と接続を確立する。
『暁は何を唄うか?』
財団内で使用される符丁コード。それは12時間ごとに変わる。少し間を置いて、バックパッカーたちは何とか思い出した。
「正常なる夜明けを」
「こちらエリア-0023オペレーター。要件をどうぞ」*1
「こちら機動部隊あ-11("捜査一課")、捜査中の
彼らの間には確かに情が芽生えていた。しかしそれはそれ、これはこれだ。仕事は仕事だ。彼らは財団職員である。
宇宙サイト-76
宇宙サイト-76("一点星")はSCP財団日本支部が195█年に初めて打ち上げに成功した財団人工衛星です。
宇宙サイト-76はパラテックや奇跡論的手法などさまざまな異常技術を用いての打ち上げが行われました。しかしながら使用者の安全のために、一般民衆から隠蔽するための強力な反ミーム展開装置を除いて宇宙サイト-76には異常技術が使用されていません。
これまでに様々な装置の搭載と機体の改善、延命処置が行われてきましたが、数年後には機能を失うと考えられており、機能喪失前に地球に落下させ、日本支部の記念館に安置される予定です。
19██年に搭載されたLona.aic*2が現在管理を任されており、宇宙空間での収容作戦に従事した財団職員のセーフハウスとなっていますが、安全上の理由から多くの時間は無人であり、できる限り使用を控えるようにされています。