たった三人の財団職員はキヴォトスで何をするのか? 作:Bar_00
公園に現れたのは、トリニティの制服を着たキヴォトス人の女子高生だった。彼女の目は、私をじっと見つめている。静かな夕暮れの公園の中、時間がゆっくりと流れていく。
私の脳裏でヒイロがゆらめいている。ヒイロが展開しているこのフィールドは、もはや私と相手の間に不可視の壁を築いている。それは物理的なものではなく、認識を歪め、意識の働きを変えるものだ。しかし彼女は明確に私を認知している。私は冷静に、そして深く呼吸をしながら、その感覚を探った。
彼女、キヴォトス人の女子高生は、人間ではない。残存人類ではない。おそらく、彼女が目の前に立っている理由はひとつだ。我々を現実の裏に追いやった組織が、財団のデータベースにアクセスしたことでキヴォトス人にとって都合の良いように情報が複製され、
Lisa.aicという存在が、囮であった可能性がある。その理由は簡単だ。我々を根絶させるため。あのAICの言葉と姿が、キヴォトス人にとっての都合に合わせて作り直されたものなら、反ミームフィールドを突破するための一手として使われたのだろう。
さらに、ヒイロが展開しているこのフィールドが突破されたのには、もう一つの理由があるだろう。おそらく、財団データベースから何らかの形でクラスW記憶補強剤を生成し、彼女の認識力を向上させたのだろう。しかし、私が反ミームフィールドを展開することを、相手はどうして予測できたのだろうか?
もしくは、これは単なる偶然だったのか。だが、いずれにしてもここは必殺範囲だ。
私の心からヒイロに声が響く。
知性体である以上、ミームからは逃れられない。
「
彼女のスマホから音声が発せられる。その音声のトーンが、何かに急かされるように焦っている。
「侵襲されている!ミームです!!目を逸らして!!スマホを見てください!!ミーム的な化学療法を行います!」
だが、すでに遅かった。彼女は目の前に立った瞬間、ヘッドスペースは侵襲されていた。あの瞬間、彼女の意識の中に入り込み、私の存在を認識する感覚があった。私の理解が朧げに彼女に伝わり、彼女の理解もまた私に伝わってきた。
私はそこで気づいた。彼女は、私がどのような存在か、どのように動いているのかを朧げに理解している。同時に、私は彼女の内面に存在する思考を認識する。その思考は鮮明さを欠く。私は、それを確認した。影のように動く財団AICの存在が、彼女の背後にあることを。
しかし、ひとつ気になる点がある。彼女のヘッドスペースには、私が予測していた
味方?
その疑問が脳裏に浮かぶ。だが、それを確かめる暇もなく、私の意識は彼女に向かって走り出す。相手が敵か味方か、それは今、重要ではない。重要なのは、相手のヘッドスペースを奥まで探ることだ。
私の思考が、彼女の意識の深層に達する。その瞬間、何かが交差し、静かな確信が生まれる。
侵襲は終了し、意識がどちらにも戻る。しかしながらこれに慣れている私の方が復帰は早い。
彼女の反応が遅れた瞬間、私はその隙を見逃さなかった。「眠れ」と、静かに命じる。
静かな言葉が空気を切る。無駄に響くことなく、私のミーム的侵襲が直接彼女の脳に届く。それは増幅し、埋め尽くす。彼女の脳内で、意識が揺れ、崩れていく。ミームの影響を受け、彼女の認識は狂い、無形の攻撃が彼女を包み込む。まるでアイデアのDDos攻撃のように、無数の概念が彼女の精神を侵食し、最終的にその意識は崩れ落ちる。抵抗すら見せることなく、倒れ込む彼女の体を支えるように、私はその服を掴んだ。
そのまま、彼女をベンチに座らせ、武装を確認する。
彼女の手から武器を取り上げ、慎重に没収し、縛り上げる。彼女が意識を取り戻すその時まで、しばらくはこの無防備な状態を保たせておく。
そして、私は一歩退き、もう一度彼女を見つめた。
「おはよう。」
冷たい空気がその言葉を包み込み、反ミームが再び作用する。彼女の脳内で、先ほどの侵襲の影響が忘却されると同時に、意識が目覚める。
記録者:Lisa.aic
日時:不明。
場所: D.U.地区■■公園
人物:
・朝野博士
財団のレベル4職員。日本支部奇跡術部門主任。
・高坂管理官
財団のレベル5職員。現在はキヴォトスの「生徒」とされる肉体である。プロトコルCK-3によって再雇用。かつては財団の武装警備員だったが、Lisa.aicの判断によって現在はサイト-8142のサイト管理官に昇進している。
状況:
CKクラス:"再構築"シナリオの発生によってSKクラス:支配シフトシナリオが発生。高坂管理官は朝野博士によって公園のベンチに固定され、状況についての尋問を受けていた。それが終わり、今後の方針についての会議。
[記録開始]
高坂管理官:では、これからの話を始めましょうか。
朝野博士:あぁ。君たちが敵意がないこと、対抗組織のエージェントじゃないってことが分かったからね。
(朝野博士はニコリと微笑むが、Lisa.aicの感情分析システムは博士が心中が穏やかでないことを示している)
高坂管理官:誤解が解けたようで何よりです。これからの方針ですが、私たちは人類の再興を目的として
朝野博士:(発言を遮るように)ストップ。
高坂管理官:(困惑して)はい?
朝野博士:(少しの沈黙の後、空を眺めて)
高坂管理官:(困惑と怒気を含めつつ)"もういい"とは…?
朝野博士:(言葉を慎重に選ぶように話し始める)異常とは、世界から見ての異常であり、世界が異常でないと言ったら正常だ。これを利用して「収容」したとするものもいくつかある。そして、この世界の住人はこれを異常だと感じていない。つまり、この世界には異常は存在しない。ならば、異常であるのは
(朝野博士は言葉を放った後、視線が虚空に向かっていき、静かに考え込む。わずかに顔を上げ、高坂管理官を見つめる。高坂管理官は沈黙している)
朝野博士:私は夜中に目を覚ましたまま横になり、あらゆる後悔と、犯してきたあらゆる過ちのことを考えることがある。Dクラスを死においやり、助かったかもしれない味方を見殺しにし、拷問と殺人が大きな善行のためとなると考えていた。君もその一人のはずだ。実験でDクラスを終了する役割が当てられることもあっただろう。もしかすると記憶処理で覚えていないかもしれないがな。
(高坂管理官の反応を伺うように目を細め、沈黙が一瞬続く)
朝野博士:私たちは自分の罪を洗い流してもう一度人生をやり直すことができるかもしれない。私たちの終わりは、私たちの始まりになる。
(再び視線を床に落とし、思索にふけるような表情を浮かべる)
朝野博士:これはチャンスだ。物事が暖かく単純で、夏の太陽と冷たい草に満たされていた日々に回帰するための。我々は皆、戻りたいと思っている。我々は皆、もう一度光の中で暮らしたいと思っている。
朝野博士:別に敗北主義者と罵ってもらって構わない。我々は
(一呼吸おいて高坂管理官に向き直る)
朝野博士:私は君が望むなら、君に記憶処理を施し、光の中に送り返すことができる。別にこれ以上無理しなくていい。そうしたのなら、私は財団職員としての生涯を終えよう。君の終わりは、君の始まりになる。
高坂管理官:(朝野博士の言葉をじっと聞きながら、少し肩をすくめて、表情に微かな苦笑を浮かべる)私は孤児でした。愛されていた記憶はありますが、あるところを境にそれは途絶えています。私は孤児院にいました。
(朝野博士はうなづく)
(高坂管理官はしばらく目を閉じ、過去を思い出すように静かに黙っている)
高坂管理官:両親はおそらく、何らかのオブジェクトによって殺されていたのかもしれません。記憶処理を受けたのかもしれません。
(再び目を開け、朝野博士を見据え、静かに話し続ける)
朝野博士:それが君が財団に入った理由か?
高坂管理官:いいえ。それを知ろうとは思っていません。ただ、私は寂しかった。財団で働くことで、大きな善行によって、生きている意味が欲しかった。
朝野博士:(数秒の沈黙)そうか、続けろ。
高坂管理官:財団フロント企業を経由して、記憶処理前提の財団との面談が為され、合格し、入った時に私には二つの選択肢がありました。"エージェント"と"施設の武装警備員"。
(高坂管理官は少し肩をすくめる)
高坂管理官:私は施設警備員を選びました。私はエージェントとして、ドンパチやっていける気質ではなかったのです。逃げですね。私は死にたくなかった。
(目を強く見開き、語気を強める)
高坂管理官:ですが、"エージェントという選択"から逃げたとしても、私は財団職員です。そしてこの世界にとっての異常が"私たち"であっても、それは
(視線が床に落ち、拳を握りしめるようにして、強い決意を込めて)
高坂管理官:私はこのクソ
朝野博士:(高坂管理官の言葉を静かに聞き、その表情をじっと観察している。言葉には感情が込められているが、表情は読み取れない)仕返しね…一体どうやるんだ?再構築シナリオを起こしたオブジェクトも分からないし、予知も失敗に終わった。SCP-2000も多分だが潰されているんじゃないかな。もはや我々の手に残るカードはここにいる三人だけだ。はっきり言って
高坂管理官:
朝野博士:(少しの沈黙)それはかつての財団だからできたんだ。彼らは
高坂管理官:三人でないとしたら?財団には潜入したスパイのためのミームと記憶改竄術があります。
朝野博士:”ミーム暴露手順-06-A”*1のことか。それでキヴォトス人を雇用するつもりか。それを受けた奴らの人生と未来を踏み潰す気でいるのか?それは…君に耐えられるのか?
高坂管理官:"
(高坂管理官は深々と頭を下げる)
朝野博士:顔を上げろ。君は正気じゃないな。…だが、分かった。私もその計画に乗ろう。私にも戻りたい日常がある。
追加:
我らは世界の侵略者。世界は「我々の正常性」に回帰する。
-高坂管理官
[記録終了]
次回「SCP-001-JP改訂版」
諦めている人間の頭を焼くには自分の対比を見せつけるものだよね…
「SCP-2000 - 機械仕掛けの神」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000
次回投稿は今の所18:00ですが、一万字の報告書なので投稿できるかは分かりません。ダメだったら明日6:00です。