アークナイツRTA『理不尽のエゴ』取得   作:忘れん棒

4 / 7
RTA風小説によくあるおまけ小説パート。
アルゴノートの口調、背景情報の補間などががっつり出ます。読み飛ばし可。

…のつもりでしたが思ったより難産なのでリターニア移動までの小話でお茶濁し。
ひねくりだしたので短いです。
アルゴノートの口調は今後のおまけパートで出ます。たぶん。今回はないです。

あと2~3話分くらいは捏造部分のパートが続くかも。早く原作キャラにたどり着きたいぜ。
我の強いモブが出ます。強いお姉さん、スキ…

追記:楽団加入あたりの文が気に入らなかったのでちょっと改稿しました。


長い夜の始まり.txt

グラスの中で氷が軽やかな音を立てて崩れる。

穏やかな昼下がり。一般に散歩日和と言うのだろう。

カフェのテラス席に座ったドラコの男は、うららかな日を浴びながらグラスのかいた汗がコースターに落ちるのを見ていた。

青年というには幼さが残る顔立ちは美麗というよりは夏が似合いそうな好青年で、つり目がちの青い瞳を隠すようなやや長めの黒髪は緩く波打っている。

母譲りの黒いツノには青緑のグラデーションがかかり、東方の文化に伝わると聞く高級な文鎮のようだった。

見た目もさることながらドラコという比較的珍しい種族にチラチラと往来の目が向くが、男はそれを全く気にしていないようだった。

 

 

 

男はヴィクトリアで生まれたドラコである。

名乗らない傭兵だ。好きに呼ばせるので猫のように多くの名がある。今までのように放浪するのであれば今後も増え続けるのだろう。

今男が世話になっているリターニアの楽団に所属する者たちには“レベンディヒ(活発な子)”と呼ばれている。

“レベンディヒ”はけして名前のように活発な性格ではない。むしろ、人と向き合うのは不得手な方だ。

しかし運は多少あった。

他の傭兵たちがそれぞれに集まって英気を養う中、“レベンディヒ”は一人楽器に近づいて音楽やそれを学ぶことに強い興味を示した。生来好奇心の強い方だったのだ。

それを気に入った楽団長が契約を持ち掛けたことが今の“レベンディヒ”を作ったといえる。

好奇心への好感に加えて、まだ若いドラコが――迫害を受けやすい種族の青年に帰る家がないことへの少しばかりの同情もあったのだろうか。

傭兵として生きる者たちにとって依頼主に見初めてもらうというのはある種の豪運なのだが、もとより他人に関心の薄い“レベンディヒ”にはまったく興味のないことだった。

 

“レベンディヒ”が今滞在しているのはリターニアである。

リターニアはアーツに重きを置く国。“レベンディヒ”の認識ではそうだ。

加えて、国民たちにとって音楽は身近にあるもの。

楽団員によれば、手にした楽器を演奏すると同時に攻撃性のかけらもないアーツを展開し、聴覚だけではなく視覚でも楽しませると言う。

戦いばかり経験した“レベンディヒ”には思いもよらない、目から鱗のような使い方だった。

興味本位で少しならってみたが、案外難しい。アーツが形になって間もない“レベンディヒ”が攻撃性を抑えたアーツを展開するにはまだ時間が必要そうだった。

 

ヴィクトリアとリターニアは本来地続きだ。つまり、入国だけなら陸路の方が早い。

しかし“レベンディヒ”がたどったのは西方から北を経由しての大回りな船旅だった。

ヴィクトリア西方の貿易都市で“レベンディヒ”を雇った楽団が海路にした最大の理由は、豪華客船と呼ばれる部類の船での演奏依頼があったためである。

実のところ、楽団が母国へ帰るだけなら陸路を選択する予定だったそうだ。ベテランが一人欠員したとはいえ手持ちの護衛のみで敢行しただろう。

楽団は高価な楽器を取り扱うため、積載する船をいくつかにわけてリスクを分散する。それが従来のスタンスだったらしいが、それぞれの船にじゅうぶんな護衛をつけるには人員に不安があったのだという。

そのため滞在期間を数日延ばして戦力となる者を探しており、延期後の出航予定日にたまたま楽団に声をかけた傭兵である“レベンディヒ”を含めた傭兵たちを雇ったというわけだった。

 

客船を狙った賊は二回ほどで、海の生物が襲ってくることがたびたびあった。

内陸生まれの“レベンディヒ”に航海歴はない。

しかし船酔いも潮風に不快感を持つこともなく、やや不安定な足元であってもどっしりと盾を構えられていた。

 

先に雇われていた護衛たちはあまり気さくな方ではなかった。

新入りを歓迎せず身内をよしとする、“レベンディヒ”の苦手とするタイプである。

あからさまな視線を受けて顔をしかめ、名乗りすらない挨拶を交わして部屋を出る。

他の新入りたちは背後で絡まれたようだが、“レベンディヒ”はさっさと割り当てられた部屋へ向かった。

多くない荷物を降ろして整理し、いつ何が起きてもいいよう盾を磨く。

光沢ばかり強く、ひっかき傷が無数にある、兵士をやめたときの支給品の盾。

戦いに身を置くものなら見るだけでよくないものとわかるだろう。状態もそうだが、これを標準装備とした備品の補充担当は見る目がないと言えるほど粗末な品質だ。

戦法上集団で戦闘にあたるためだろう、身長の七割ほどまである盾は自分以外をも収めることを前提としたサイズであり、持ち歩くには重すぎる。リターニアに着いたら買い替えるべきだろう。

報酬はリターニア到着して間もなくだと聞いているし、額も満足と言えた。少なくとも今のものより上等な盾が買えるはずだ。

 

護衛たちとは合わなくなって久しいが、顔合わせを終えた直後のことはよく覚えている。

豪華客船とあるだけあって、傭兵に使わせる部屋のベッドすら高級だ。

生家よりも柔らかいベッドに少しの感動を覚えつつ、“レベンディヒ”はベッドに横たわった。

狭い船室だ。個室がもらえているのは、傭兵としてはアタリの依頼なのだろうか。

これからのことを考えると少し憂鬱だった。

今まで戦いしか経験していないような“レベンディヒ”だが、生計を立てることはできるだろう。

この世界に荒事は多い。当然、人を雇う規模の争いごとも、今回のような護衛の依頼も生まれる。

とはいえ、傭兵業は力量と知名度がものを言う。大した実績もない今こうして割のいい依頼を受けられたのは幸運としか言いようがなかった。

不安はあった。家族はすべて死に、帰る家もなく、何をすべきかわからない。

このときの“レベンディヒ”はやや気が沈んでいたが、それでもなんとかなってしまったのだから、人生とは不思議なものだった。

 

 

所変わって楽団の敷地内。

後ろから声がかかり、驚いた拍子にオカリナからピロッと頓狂な音が出る。

“レベンディヒ”がうらめしそうに目を細めながら振り返ると、声の主であるキャプリニーの女はやや豪快に笑いながら軽い調子で謝罪を口にした。

うまくなったねと拍手するこの女は、“レベンディヒ”にオカリナを与え教えた張本人だ。

「つまらない顔をするヤツには音楽が足りない!」が口癖の女は船を降りてからは関わる機会がなくなったが、たまに現れては抜き打ちのように何か演奏してみせろと言った。

“レベンディヒ”が選択する曲は幼いころに母が口ずさんでいたものが多い。

楽譜の読み方も教わったものの、口伝に近い歌に楽譜はなかった。

必然的に記憶を掘り起こしながら吹くことになるのだが、彼女は“レベンディヒ”の吹くメロディを聞くと「こっちの方が正しいんじゃないか?」と手直しをすることがよくあった。

記憶を疑われているようで気に食わないと思ったこともある。“レベンディヒ”に残る家族の記憶を彼は大事にしていた。

しかし、彼女が手を入れたメロディは記憶だけが頼りのそれよりまとまっていて、確かにそちらの方が記憶に忠実なように思えてくるのだから不思議なものだ。女にそれを伝えれば「これが音楽理論さ!」と誇らしげにしたものである。

 

今日も“レベンディヒ”に演奏を要求し、彼女は目をつぶってオカリナの音色を聴いた。

一通り終わるとフィードバックをいくらかよこし、それから楽譜を書いたらどうだと“レベンディヒ”に問いかける。

楽譜、と反芻すれば、女はいくらかの紙をとりだしてきて“レベンディヒ”に見せた。

五本の線に黒い玉が踊っている。

この玉が音を表すと教えられ、手書きのそれをじっくりと読んでみると、少なくともこの楽団で演奏されるような曲とはまるで違うことがわかる。

女が「それは昔聞いた曲を書き起こしたもんだよ。あまりにきれいだったんでね」と苦笑した。

 

「音楽ってのはどこにいっても変わらないものさ。ご縁のきっかけになる、食い扶持にもなる。楽譜は完全に規格化された教科書みたいなもんだ。読み方さえわかってりゃ書けるし、どれだけ思い出のある曲だって完全に残せるのさ」

 

“レベンディヒ”はなるほどとうなずいた。

渡された楽譜の書き込みには読めない文字や知らない単語こそ多いが、記号は統一されている。

今の“レベンディヒ”では楽譜を読むスピードは遅い。

しかし、文章も楽譜も一度だけしか目を通してはならないという前提があれば、理解度は文字以上に高いものであると確信を持って言える。

女は続けて五線譜だけが書かれた紙を一枚“レベンディヒ”に渡した。

間違ってもいいから、次見に来るまでにこれに書いてみな、とのことだった。

“レベンディヒ”は立ち上がる女に頭を下げ、姿が消えるのを視線だけで見送ってから愛用のペンを取り出す。

楽譜の読み方とはすなわち楽譜の書き方だ。できないことはさせない彼女が肯定したのだ、今の“レベンディヒ”にも書けるだろう。

書き慣れないものをえがくペン先は何度も止まったが、“レベンディヒ”の顔にはほのかな笑みと未知への期待が浮かんでいる。

自分が持つものだけで知らないものに挑むこと。“レベンディヒ”はそれが何より好きだった。

 

 

 

ふわふわとした感覚。夢を見ていたようだ。

夢というには長く、居眠りというには深い眠りだった。

“レベンディヒ”は緩慢に体を起こしてグラスをあおる。

グラスに詰められていた氷はすっかり溶け、ぬるいアイスコーヒーはそこそこ薄まっていた。

使わなかった砂糖のバーの処遇を迷ってからポケットに収める。“レベンディヒ”はゆっくりと立ち上がってグラスを片付けた。

楽団の青い目の男は砂糖が好きだったはずだ。押し付ける相手を決め、“レベンディヒ”は空を一度見上げてから自身の寝床へと歩き出す。

小さな雲が浮かぶ空は抜けるように青かった。




“レベンディヒ”の呼称は次のおまけ以降ほぼ出ません。リターニアのとある楽団でのみの名前です
出さなくてもいいかなと思ってたんですが、アルゴノートの呼称が出てない段階でアルゴノート呼びするのもなと思い多少冗長になること覚悟で出しました
お姉さん(女、彼女)の名前はグレース・O(オスカー)・ムジーコヴァです

ついでに走者裏話
アルゴノートの走者はざっくりした流れとイベント対応表をまとめたチートシートを作って臨機応変に対応するタイプ。
そのためチャート作りが非常に甘いですが、イベントをまとめた年表は用意・暗記してるのでその手間分のせいで本走するまでにめちゃくちゃ時間がかかってます
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