短い
アルゴくん視点ではいろんな名前がありますが、傭兵になったあとからのゲーム中の表記は混乱を避けるため”アルゴノート”に統一して表記されます。
走者は”レベンディヒ”の名称すら知らないです。
アルゴくんの口調がようやく出せます。少しですけど!!
あと我の強いモブお姉さんの最後の出番です。
投稿ガバ当日追記:重複する文章の消し忘れを見つけたので修正。口調出るはずだったんですけど展開上いろいろ削除・追加してたら今までと変わらないセリフ量になって何もわからなくなりました。許してください!
”アルゴノート”
「あんた、名前がいるね」
キャプリニーの女が言った。
行儀悪くも椅子に逆向きに座った、”レベンディヒ”にオカリナを与えた女だ。
今は楽団内の合同練習の休憩時間だった。
管だの打だの、楽器の種類ごとに分かれて行っていた練習を全体でまとめて流れの確認をしようという練習だ。
団員たちがめいめいに会話や反省を重ねる中で、女はわざわざ椅子を持ってきて隅に座る”レベンディヒ”の練習を見守っていた。
絡めるように組んで背もたれに乗せていた腕をほどき、くせの少ない秋の稲穂の髪を無造作に結い上げると、女は思案するように天井を見上げた。
唐突なその言葉に微妙な顔をした”レベンディヒ”はオカリナを下ろし、楽譜を睨んでいた目を緩めて女に合わせた。
「…レベンディヒ、でもいいのでは?」
呟くような問いに、わかってないねえ!と呆れた顔が返る。
やれやれと言わんばかりに首を振り、女は幼子を諭すように柔らかく笑んだ。
「レベンディヒってのはリターニアのモンじゃないと意味を捉えられんだろ。もっとわかりやすい符号がいい。ただでさえあんたは主張がわかりにくい子なんだ。名は体を表すとも言うじゃないか」
無難にオカリナとか、
嬉々として、しかし真剣に新たな名前を考える女に、”レベンディヒ”は何も言えなくなってしまった。
”レベンディヒ”には会話の進め方がわからない。
昔はもっと、それこそ活発で、話すのも好きだったように思うのだが。
人から逃げて、人と戦う。それだけを自分の価値としてからしばらく経った今、新たな関係を構築するのには大きな苦労が伴った。
他人などどうでもいいし、報酬が絡まないなら誰かに尽くす理由もないとすら考えている。
護衛依頼のあとから教育を受けていることは…まあ、自分にとって大きな利ではあるし、相手の強い勧めと好意を受け取らずに離れるほどの冷たさはまだ持ち合わせていなかった。
それに――これは”レベンディヒ”自身の自覚が薄いが――自分のために何かを作ってもらうのは悪い気はしなかった。
「そうだね…あんたはかなり好奇心が強くて、そのためなら冒険もいとわない性格だからね。“アルゴノート”ってのはどうだい。ずうっと昔に夢のために大冒険した船乗りのことさ」
うん、うん、それがいいね!
深く頷いて満足そうな女に、”レベンディヒ”は困った顔をした。
船に乗ったのは一度きりだったので、船乗りを名乗るには経験が浅すぎるような気がしたのだ。
それを見た女が見透かしたように豪快に笑い飛ばした。
「比喩だよ、比喩!人生ってのは冒険なんだよ。大波荒波、全部かきわけて進むんだから体は船みたいなもんだろ!深く考えるもんじゃないよ、こういうのは」
休憩時間の終わりが迫り、女は椅子を持つと青年の背をベシンとはたいて自身のポジションへ戻っていった。
青年はその背を見送った後オカリナに目を落とす。
なめらかなそれはずっと握っていたにも関わらずひんやりとしている。
音合わせが始まった。楽団の練習が再開してしまったので、しばらくはオカリナの練習はできない。
アルゴノート、とつぶやいてみれば、案外口に馴染んだ気がした。
騎士と兵士
初夏になって、やることもなかったアルゴノートは傭兵になって初めての戦争に参加した。
カジミエーシュでの戦争だ。敵はウルサスだっただろうか。
興味がないせいで敵の形すらろくに見ていない。敵の情報を得ることは大きなアドバンテージを生むと知っているが、よほど面倒な種族でない限り殺せば死ぬのだ、
配属された隊は騎士と傭兵が半分ずつ混ざったものだった。
以前いた――民兵であったころの部隊に人数が近い。背筋がざわりと震えてかすかな不快感を示し、冷たいとも熱いとも言えない感覚が臓腑に渦巻いた。
隊長は優れた人物だった。
上に立つ者としての自覚があり、部下を使い捨てない。
作戦は隊員に漏れがない状態で説明し、重装兵であるアルゴノートとともに最も前方で戦っているのに隊員の褒めるべき点を探す余裕すらあった。
市民より高い位を
アルゴノートは隊長の前に立つと、自分がかつて憧れも抱いたおとぎ話の中の騎士を目の前にしているような感覚を味わう。
母の語る寝物語に出てきた騎士は民のために命をかけることを全くいとわず、高潔だった。
自分自身はその気質がないことを理解しているが、そういう人物の部下として戦うことには不満がなかった。
カジミエーシュ内ではまあまあ偉い立場の人物のようだが、カジミエーシュの情勢を知らないアルゴノートにはあまりよくわからなかった。
準貴族であるだけに 様と呼ばれることも多いようだ。
しかし隊長と呼べば嬉しそうな顔をするので、アルゴノートは貴族絡みの面倒を嫌って隊長と呼ぶことにしている。
アルゴノートの所属していた民兵は、呼称が『民兵』であって、内情は民間軍事会社のようなものだった。
”民兵”とは民間人が緊急招集を受けてできる軍団のことだ。
正規軍にカウントされることもされないこともあるという非常にあいまいな立場の人材群にあたる。
アルゴノートのいた民兵も元を正せば確かに民間人の寄り集まりだったはずなのだが、内紛やらなんやらで仕事を請け負ううちにただの傭兵団になったらしかった。
その方が儲かるのだ。国が取り締まるつもりがないというのも大きかった。
純粋な軍ではなかっただけに最低限の規律こそあれ軍規と言えるような厳しいものではなく、身内贔屓の横行や処罰の甘さがああいう腐敗を生んだのだろう。
それが今はどうだ。
上に立つ者がカジミエーシュ軍の規律を守り、部隊にもそれを通達して守らせ、違反した者にはしっかりとした処罰を与えている。
この部隊は混合部隊である。隊長の部下とアルゴノートのように雇われた傭兵が混ざり合っていて、特に傭兵側は一枚岩とはいかない。
アルゴノートのように指示に諾々と従う者もいれば、反発する者もいる。
先の戦闘ではうまく皆を守り切った自負があったが、死地に飛び出すのが好きそうな傭兵も含め綺麗に統率するというのは隊長の技量あってのことだ。
理想的ではないだろうか、あのころに比べれば。
アルゴノートは盾を磨き、一人考えた。
副隊長からの共有によれば、アルゴノートの属する隊は実力と統率が集団として評価され、新たな戦場へ配置されることになったらしい。
そこはより激しい戦闘が予想されるという。
アルゴノートにも隊員たちにもまだまだ余裕があるように見えた。
気を抜かなければ、より厳しい戦場に送られ、より高い報酬が狙えるだろう。そのあとには――
戦争が終わったあとにすることにまで思いを馳せようとしたアルゴノートだったが、これは慢心かと思い直して盾を置き、横たわって目をつぶった。
秩序がある団体で、偏見を許さず、実力だけを信じて正しい評価を受けながら戦える。
なんと恵まれたことか。
アルゴノートは知らずのうちに口元に笑みを浮かべ、ゆるりとした眠りに身をゆだねた。