その日の朝、俺はサタンシティを探索していた。
近くの宝石店で強盗事件が発生した。
警官隊が、宝石店を包囲している。
店員が人質に捕らわれている。
強盗は店員のこめかみに拳銃の銃口を押し付けていた。
「逃走用の車を用意しろ! こいつがどうなってもいいのか!?」
平和だなあ……。
なんて、皮肉を言ってもなんの解決にもなっていない。
「おい、お前」
「だ、誰だ君は?」
あれだけ大暴れしたのに、ニュースはおろか、地球人には俺の名は広まっていなかった。
「手を貸してやろうか?」
「いや、一般人を巻き込むわけにはいかない」
俺は保安官バッチを見せた。
「保安官?」
「そうだ」
「この通り犯人は被害者を人質に取っています」
「あいつをどうすればいい?」
「被害者を救出して生け捕りにできればベストなんですが、最悪は犯人は射殺か」
「任せろ」
「え?」
俺は目にも留まらぬ速さで店員の体内に飛び込んだ。
ごめんよ、店員さん。
俺は意識を失ったふりをして、全身の力を抜いた。
「おい、マジかよ!?」
強盗犯が人質の店員の体を支えられなくなったところで、警官隊が突撃して被疑者を確保した。
「さっきの方はどこに行ったんだ?」
俺はどさくさに紛れて、店員の体から飛び出すと、宝石店の屋根の上に着地した。
「あ!」
俺はとんでもない失態をやらかしてしまった。
店員の体内に癖で卵を産み落として孵化させてしまったのだ。
店員は俺を見上げると、「ありがとうございます、ベビー様」と、お礼を言ってきた。
ま……いいか。
このまま地球人を支配下に置いて争いのない社会にするのも悪くはなさそうだ。
でもそんなことしたら、あいつが怒るだろうなあ。
「ん?」
パンの気が近づいてくる。
「ベビー様、見つけた」
「何の用だ?」
「何の用だ、じゃないでしょ? 今日はこの間のデートの穴埋めをしてくれる約束でしたよね?」
そういえばそんな約束をしていた。忘れてた。
「ちょっとパンちゃん?」
と、ブラが現れる。
「抜け駆けは赦さないわよ」
「抜け駆けってなんのこと?」
「ベビー様は私のご主人様なんだからね?」
「何言ってるのよ。私がピタルで最初にベビー様のしもべになったのよ」
人気者は辛いな。
「順位は関係ないでしょ」
「お前ら、俺のために喧嘩はやめろ」
二人は俺を見ると、申し訳なさそうに頭を下げた。
「「すみませんでした」」
やれやれ。こいつらはいつもこうなんだよなあ。
ここまで絆を育んでしまうと、超神水を飲ませるのも名残惜しい。
「ベビー様、あれはなんでしょうか?」
「え?」
ブラが指を刺した先に、円盤型の宇宙船が浮いていた。
見たこともない宇宙船だった。
「怖いです、ベビー様」
パンが俺にしがみ付く。
「普段の気の強いお前はどこに行った?」
俺は宇宙船を凝視する。
それほど大きいわけではないが、友好的なものとも思えなかった。
「偵察に行ってくる」
「ベビー様、おいてかないでください」
「私も行きます」
二人が追尾してくる。
「お前たちは危ないから戻ってなさい」
「ベビー様が心配です」
「戻れ! これは命令だ!」
「「は、はい!」」
パンとブラはその場で固まり、俺を見送った。
さて、どこかから入る場所は……。
俺は宇宙船の周囲を調べた。
ハッチが開き、女が出てきて倒れた。
俺は女の元に移動した。
「おい、大丈夫か? 何があった?」
「サイヤ人の宇宙船に襲われて……」
あいつらがそんなことをするとは思えない。あいつら以外にサイヤ人が残ってたのか?
「おいおい、余計なことは喋るなと言ったよなあ?」
「あら、頑丈そうな装甲で身を守ってる変な奴がいるわよ?」
と、そこに現れたのは、刺青を入れたケールとカリフラに似た二人組の女の子だった。
「ここが第七宇宙の地球か」
「彼らが来る前に掌握しときましょう?」
二人の気の中にもう二人の別の気がダブっている。憑依系の宇宙人か。
「お前たち、その体から出るんだ?」
「あれえ? バレちゃったよ、姉さん?」
姉さん?
こいつら、ひょっとしてカミンとオレンか?
俺は強力な一撃をケールの体に叩き付けた。
「うわあ!」
怯むケールの体から、オレンが飛び出してきた。
「だ、誰だかはわかりませんが、ありがとうございます!」
ケールが俺の背後に逃げるように回り込む。
「あーあ、僕の体奪われちゃったよ」
「お前の体じゃねえだろ。てか、お前ら第六宇宙のツフル人が作った人工生命体のカミンとオレンだな」
「へー。私たちのこと知ってるんだ?」
と、カリフラが訊ねる。
「誰かは存じ上げませんが、姐さんも救出してください」
俺はカリフラの体内にいるカミンを気合で誘き出した。
「助かったぜ」
カリフラが俺の背後に逃げ込む。
「その体は私たちのものよ。返しなさいよ」
「お前たち、この星に何の用だ?」
「うん? ある人に破壊するように頼まれたんだ」
「シャンパ様っていう破壊神様のことよ。とーっても強いのよ」
「ビルスの弟だったっけか」
「あれ、知ってるの?」
「ビルスは俺が叩き潰した」
「え、あのビルス様をやっつけちゃったの?」
「俺はビルスの後釜も検討している」
「破壊神になるためには我儘の極意が必要不可欠だよ。君に使えるとは思えないけどね」
「まだ習得してない」
「え、我儘の極意なしでビルス様を叩きのめしちゃったの?」
カミンとオレンが顔を見合わせる。
小声で相談し始めるが、丸聞こえだった。
「こいつの体奪っちゃおうよ」
「それ僕にやらせてよ」
「いいよ」
ほおう。
「お前ら程度に俺を乗っ取れるかなあ?」
オレンが光の粒子になって俺の体内に入り込みかけたが、気を爆発させて跳ね除けて見せた。
「うわ!」
「乗っ取りはこうやるんだよ」
俺はジェル状になると、オレンの体に浸透していく。
「ぐ!」
オレンが苦しそうな表情をする。
「オレン!」
「なるほど」
「何がなるほどなのよ!? オレンを返しなさい!」
俺がオレンの体から抜け出すと、オレンはカミンに襲い掛かった。
「何するのオレン!?」
「僕はベビー様の忠実なるしもべ。姉さんもベビー様に卵を植え付けてもらいなよ」
オレンがカミンに近付く。
「スマッシュブレイク!」
カミンが爆風で吹っ飛んだ。
頬に切り傷ができ、血が滲みだすカミン。
俺はジェル状になると、カミンの傷口にダイブした。
「う!」
苦痛に顔を歪めるカミン。
だが、時すでに遅し。俺はカミンの意識を奪い取った。
「オレン、君は卵は産めないのかい?」
「卵ですか? 僕はそんなことできません」
「そうか」
俺はカミンの体から抜け出した。
「カミン、オレン! お前たちの雇い主に伝えろ! 第七宇宙に手を出したら容赦なく叩き潰すとな!」
「かしこまりました!」
カミンとオレンが宇宙船で逃げ帰っていった。
「あ、ちょ!」
女性が閉まるハッチから落とされ、地面に向かって垂直に引っ張られていく。
俺は女性を抱きかかえ、ゆっくりと地面に着陸した。
カリフラとケールも降りてくる。
「君たちは……?」
「私たちは第六宇宙のサイヤ人だ」
「カリフラとケールだよね?」
「あんた私たちのこと知ってんのかよ」
アニメで見てました。
「いや、さっきの二人組の記憶を読んだんだ。
「記憶を読んだ?」
「ああ、俺は乗り移った相手の記憶が読めるんだ。だがあいつらは劣化版だ」
「えっと、ベビーさんでしたっけ? あなたは、その、正義の味方なんですか?」
「どうだかな」
「そうですか? でも私的にはいい人だと思います」
「そうか。とりあえず、立ち話もなんだから、家へ来い」
俺は二人をカプセルコーポレーションのブルマの家へ招待した。
「誰ですか、そのお二人は?」
「別の宇宙のサイヤ人だ」
「別の宇宙のサイヤ人?」
「シャンパのせいで連れてこられてしまったんだ」
「シャンパって?」
「ビルスの弟だよ」
「び、ビルスの弟!?」
そこへ、ウイスとビルスが現れた。
「来ると思ったよ、ビルス」
ビルスは眠そうな顔であくびをしながら言う。
「今、シャンパって聞こえた気がするが」
「気がするんじゃなくて聞こえたんだよ」
「シャンパがなんだって?」
「この地球を壊すよう、ツフル人に命令してやがった」
「何だと?」
ビルスが真剣な顔つきになる。
「それで? 使いの者はどうした?」
「洗脳してシャンパの元へ送り返してやったよ」
「君、なかなか粋なことをするじゃないか」
「お帰りなさい、ベビー様」
と、ブラが現れた。
「そのお二人は?」
「ああ、これはかくかくしかじかで」
俺は二人のことをブラに説明した。
「大変な目に遭ったんですね」
「それよりブラ、パンは?」
「パンちゃんならパオズ山に帰りました」
「そうか」
一方、そのころ。
パオズ山の家に帰ったパン。
「喉乾いたなあ」
冷蔵庫を開ける。
超神水と書かれた水の容器があった。
「超神水?」
パンは超神水で喉を潤した。
「うっ!」
突然の頭痛にパンは容器を落とす。
パリーン!
容器が割れ、床が水浸しになってしまった。
我に返ったパンが、辺りを見渡す。
「ここは……私んち?」
(私、今まで何してたのかしら?)
パンはピタルで遭ったことを思い出した。
(そうだ。私、ベビーに体を乗っ取られて、それから、なんかベビーにいいように使われる夢を見てたような……)
パンは正気に戻ってしまった。